説明

透明複合シートの製造方法

【課題】 線膨張係数が小さく、耐熱性、透明性、表面平滑性に優れ、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少ない透明複合シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維布と熱硬化系の透明樹脂とから構成される透明複合シートの製造方法であって、繊維布に、熱硬化系の透明樹脂の含浸液に含浸させ、次いでロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行った後、乾燥および/または硬化することを特徴とする透明複合シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数が小さく、耐熱性、透明性、表面平滑性に優れ、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少ない透明複合シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶表示素子や有機EL表示素子用の表示素子基板(特にアクティブマトリックスタイプ)、カラーフィルター基板、太陽電池用基板等としては、ガラス板が広く用いられている。しかしながらガラス板は、割れ易い、曲げられない、比重が大きく、液晶セル基板の軽量化や薄型化に不向きなどの理由から、その代替としてプラスチック素材が検討されている。
表示素子用プラスチック基板に用いられる樹脂は例えば特許文献1には脂環式エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤、アルコール、硬化触媒からなる組成物、特許文献2には脂環式エポキシ樹脂、アルコールで部分エステル化した酸無水物系硬化剤、硬化触媒からなる樹脂組成物が、特許文献3には脂環式エポキシ樹脂、カルボン酸を有する酸無水物系硬化剤、硬化触媒からなる樹脂組成物が示されている。しかしながら、これら従来のガラス代替用プラスチック材料は、ガラス板に比べ線膨張係数が大きく、特に、アクティブマトリックス表示素子基板に用いるとその製造工程において反りやアルミ配線の断線などの問題が生じ、これら用途への使用は困難である。したがって、表示素子基板、特にアクティブマトリックス表示素子用基板に要求される、透明性や耐熱性等を満足しつつ線膨張係数の小さなプラスチック素材が求められている。
このような問題を解決するため、エポキシ樹脂とその屈折率に近いガラス繊維を用いて透明な複合体が得られることが提案されている(特許文献4、非特許文献1)。
従来、これらプラスチック基板(積層板)を得るためには通常ガラスクロスに樹脂を含浸し、半硬化状態としたプリプレグの1枚又は複数枚を重ね合わせて加熱成形して樹脂層のみの積層板とするか、あるいは、銅箔等の金属板とともに加熱成形することにより、金属層と樹脂層から成る積層板とした後にエッチング処理等により、金属板を剥離して用いることが一般的である(非特許文献2)。しかしながら、これら方法では表面平滑性が不充分、生産性が低い、板厚精度や反り等の品質のバラツキが大きいこともあり、アクティブマトリックス表示素子用基板として使用することは困難であり、我々は、品質バラツキが少なく、生産性が高い連続生産可能な透明複合体の製造方法を提案している。
しかしながらこれらの透明複合体を連続生産する場合、通常の含浸塗布方式ではガラスクロス等の破断繊維が毛羽立ったり、繊維がたるんでループ状になった部分が立ち上がったりして突起状欠陥となる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−337408号公報
【特許文献2】特開2001−59015号公報
【特許文献3】特開2001−59014号公報
【特許文献4】特開2004−51960号公報
【非特許文献1】複合材料シンポジウム講演要旨集,22,86(1997)
【非特許文献2】藤木政気、藤森秀信 偏著「多層プリント配線版キーワード100」工業調査会、1987年10月20日 5版発行 p.43−46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、線膨張係数が小さく、耐熱性、透明性、表面平滑性に優れ、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少ない透明複合シートの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した。その結果、繊維布に熱硬化系の透明樹脂を含浸させ、ロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行った後、乾燥および/または硬化する透明複合シートの製造方法により、線膨張係数が小さく、耐熱性、透明性、表面平滑性に優れ、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少ない透明複合シートが製造可能である事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、
(1)繊維布と熱硬化系の透明樹脂とから構成される透明複合シートの製造方法であって、繊維布に、熱硬化系の透明樹脂の含浸液を含浸させ、次いでロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行った後、乾燥および/または硬化することを特徴とする透明複合シートの製造方法、
(2)前記透明複合シートが長尺シートである(1)記載の透明複合シートの製造方法、
(3)前記繊維布がガラスクロスである(1)または(2)記載の透明複合シートの製造方法、
(4)前記繊維布ガラスペーパー(不織布)である(1)〜(3)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
(5)前記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とする(1)〜(4)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
(6)前記透明樹脂の含浸液の粘度が、200〜3000mPa・sである(1)〜(5)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
(7)前記ドクターブレードがプラスチック製である(1)〜(6)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
(8)更に、前記透明複合シートを連続的に巻き取る工程を有する(1)〜(7)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
(9)前記透明複合シートが表示素子用基板用である(1)〜(8)何れか一項記載の透明複合シートの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の透明複合シートの製造方法によれば、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少なく、線膨張係数、耐熱性、透明性、表面平滑性に優れた透明複合シートが得られ、透明板、光学レンズ、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル、導光板、光導波路基板等に好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、繊維布と熱硬化系の透明樹脂とから構成される透明複合シートの製造方法であって、繊維布に熱硬化系の透明樹脂を含浸させ、ロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行った後、乾燥および/または硬化することを特徴とする透明複合シートの製造方法である。
【0009】
本発明の透明樹脂の屈折率と繊維布の屈折率との差は、優れた透明性を維持するため0.01以下であることが好ましく、0.005以下がより好ましい。屈折率差が0.01より大きい場合には、得られるプラスチック基板の透明性が劣る傾向がある。
本発明において、繊維布としては、ガラスクロス、ガラスペーパー(不織布)等のガラス繊維基材が好ましいが、その他、合成繊維、鉱物繊維等からなる織布や不織布等が挙げることができる。本発明で用いる繊維布の屈折率は特に制限されないが、1.45〜1.56であることが好ましく、より好ましくは1.50〜1.54である。特にガラス繊維の屈折率が1.50〜1.54である場合は、ガラスのアッベ数に近い樹脂が選択でき好ましい。樹脂とガラスとのアッベ数が近いと広い波長領域において両者の屈折率が一致し、広い波長領域で高い光線透過率が得られる。繊維布の屈折率が1.56を超える場合では、同じ屈折率でアッベ数が45以上の樹脂を選択するのが困難であり、1.45未満では特殊な組成のガラス繊維となり、コスト的に不利である。特に、1.50〜1.54の範囲であれば、SガラスやNEガラスなどの一般的なガラス繊維が適用でき、かつ同じ屈折率でアッベ数が45以上の樹脂の選択も可能である。
【0010】
ガラスクロスやガラスペーパーに用いられるガラスの種類としては、Eガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、NEガラス、Tガラス、石英ガラスなどがあげられ、中でもアッベ数が45以上の樹脂と屈折率を一致させることができ、かつ入手が容易なSガラス、Tガラス、NEガラスが好ましい。またガラスクロスやガラスペーパーを用いる場合、フィラメントの織り方に限定はなく、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織りなどが適用でき、中でも平織りが好ましい。ガラスクロスの厚みは、通常、30〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは40〜150μmである。ガラスクロスやガラス不織布などのガラス繊維布は1枚だけでもよく、複数枚を重ねて用いてもよい。
【0011】
本発明に用いられる繊維布は、樹脂成分との濡れ性を改善する目的で各種のシランカップリング剤、ボランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等の表面処理剤で処理されても良く、これに限定されるものではない。
【0012】
本発明で用いられる透明樹脂は、繊維布と複合化して波長550nmの光線透過率が80%以上であれば特に限定されるものではない。透明樹脂組成物は、厚さ100μmのシートにした場合、波長550nmの光線透過率が80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上である。光線透過率が80%未満であると、光の利用効率が低下し光効率が重要な用途には好ましくない。これら透明性が良い硬化性樹脂としてアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂などがあげられるが、透明性、耐熱性、生産性の面から2つ以上の官能基を有するエポキシ樹脂が好ましい。さらに透明樹脂のガラス転移温度は、150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。液晶表示素子用基板等の表示素子用基板として使用する場合、ガラス転移温度が150℃未満ならば、表示素子用基板の製造工程でかかる熱処理に基板の変形が発生することがある。
【0013】
本発明に用いられる透明樹脂は、一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂を用いることにより、極めて優れた耐熱性と良好な透明性を両立することができる。具体的には、熱カチオン系硬化触媒で一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂を硬化した場合には、ガラス転移温度が200℃以上で透明な硬化物を得ることができる。特に一般式(1)でXが−C(CH3)2−である2,2−ビス(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)プロパンを用いた場合にはガラス転移温度が250℃以上、一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂を用いた場合にはガラス転移温度が300℃以上となり、特に好ましい。
【0014】
【化1】

(式中、Xは酸素原子、硫黄原子、−SO−、−SO2−、−CH2−、−CH(CH3)−、又は−(CH3)2−を表す。)
【0015】
【化2】

【0016】
本発明の用いられる透明樹脂は、繊維布との屈折率を合わせる目的で一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂と屈折率の異なる成分を併用することが好ましい。屈折率の異なる成分としては、併用することで繊維布と屈折率を合わせる事ができ、透明な複合体を得ることができる成分であれば特に制限されないが、エポキシ基を有する化合物やオキセタニル基を有する化合物が、一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂と共架橋するので好ましい。
【0017】
繊維布として、NEガラスクロスを用いる場合には、一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂よりも屈折率の低い樹脂を併用することが好ましい。一般式(1)で示される脂環式エポキシ樹脂または一般式(2)で示される水添ビフェニル型脂環式エポキシ樹脂よりも屈折率の低い成分としては、各種のエポキシ基を有する化合物やオキセタニル基を有する化合物を用いることができるが、耐熱性が優れていることからオキセタニル基を有するシルセスキオキサンが特に好ましい。オキセタニル基を有するシルセスキオキサンを併用することで、優れた耐熱性を維持したまま、繊維布と屈折率を合わせる事ができる。
【0018】
本発明で用いられる透明樹脂は、耐熱性が高い硬化物が得られることからカチオン系硬化触媒で硬化することが好ましい。カチオン系硬化触媒としては、加熱によりカチオン重合を開始させる物質を放出する開始剤や活性エネルギー線によってカチオン重合を開始させる物質を放出させる開始剤などがあげられるが、耐熱性が高い硬化物が得られることから加熱によりカチオン重合を開始する物質を放出する開始剤、すなわち熱カチオン系硬化触媒が特に好ましい。
【0019】
好ましい熱カチオン硬化触媒としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、アルミニウムキレートなどがある。具体的な例としては、芳香族スルホニウム塩としては三新化学工業製のSI−60L、SI−80L、SI−100L、旭電化工業製のSP−170やSP−150などがあり、アルミニウムキレートとしては、ダイセル化学工業製DAICAT EX−1などがあげられる。
【0020】
本発明の透明樹脂は、必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を損なわない範囲で、熱可塑性又は硬化性のオリゴマーやポリマーを併用してよい。この場合、吸水率の低減などのため、脂環式構造やカルド骨格を有するオリゴマーやポリマーを使用することが好ましい。これら熱可塑性または硬化性のオリゴマーやポリマーを併用する場合は、全体の屈折率がガラス繊維布の屈折率に合うように組成比を調整する必要がある。
【0021】
本発明の透明樹脂は、樹脂成分とともに無機充填材を併用しても良い。この無機充填材は透明複合基板の550nmでの光線透過率が80%未満に低下しない範囲であれば特に限定するものではないが、硬化後の樹脂及び繊維布との屈折率差が0.01以下で、平均粒径2μm以下が好ましく、さらに屈折率差が0.005以下で、平均粒径2μm以下がより好ましい。無機充填材は弾性率を高め、線膨張係数を低下させ、吸水性を低下させる効果がある。無機充填材としては、例えばタルク、アルミナ、ガラス、シリカ、マイカ等が挙げられる。これらの中でも屈折率差をより小さくするために、繊維布を同組成もしくは繊維布を粉砕した無機充填材が好ましい。また、平均粒径2μm以下の無機充填材を用いることが充填性を向上させる点で好ましい。平均粒径が2μmを超えるとプリプレグ作製時の繊維布への含浸性低下、樹脂組成物中の無機充填材が沈降する、表面平滑性が低下する等の現象が起こる事があり、望ましくない。また、平均粒径は粘度制御の点で0.2μm以上が好ましい。なお、本発明で平均粒径は株式会社堀場製作所粒度分布測定装置 LA920を用いて、レーザー回折/散乱法で測定を行った。
【0022】
無機充填材の配合量としては、硬化性樹脂等の樹脂成分100重量部に対して、10〜400重量部が好ましく、より好ましくは40〜300重量部である。10重量部より少ないと無機充填材を添加することによる低熱膨張化の効果が少なく、400重量部を超えると樹脂組成物中の無機充填材の割合が大きすぎて、樹脂ワニスのガラス基材への塗布、含浸などの操作が困難となる傾向がある。
【0023】
本発明の透明樹脂には、カップリング剤を添加することが好ましい。カップリング剤は樹脂と無機充填材の界面の濡れ性を向上させることにより、繊維布に対して樹脂および充填材を均一に定着させ、耐熱性や吸湿性を改良する効果が認められる。カップリング剤としては通常用いられるものなら何でも使用できるが、これらの中でもエポキシシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アミノシランカップリング剤及びシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種以上のカップリング剤を使用することが無機充填材界面との濡れ性が高く、耐熱性向上の点で好ましい。本発明でカップリング剤は、無機充填材に対して0.05重量%以上、3重量%以下が望ましい。これより少ないと充填材を十分に被覆できず、またこれより多いと機械特性等が低下するようになるためこの範囲で用いることが望ましい。
【0024】
本発明の透明樹脂中には、必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を損なわない範囲で、熱可塑性又は熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用してよい。これら熱可塑性または熱硬化性のオリゴマーやポリマーを併用する場合は、全体の屈折率が繊維布の屈折率に合うように組成比を調整する必要がある。また、本発明の透明樹脂中には、必要に応じて、透明性、耐溶剤性、耐熱性等の特性を損なわない範囲で、少量の酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラー等の充填剤等を含んでいても良い。
【0025】
本発明では、繊維布に透明樹脂を含浸させた後、ロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行い、更に乾燥および/または硬化を行い透明複合シートとする。ここで使用するロール及びドクターブレードとしては、特に制限はないが、ロールとしては金属ロールが好ましく、ドクターブレードとしては樹脂製が繊維布を傷めずに樹脂を効率よく掻き落す事が可能であり、毛羽を寝かせる効果が優れている点で好ましい。
【0026】
ロールとドクターブレードとの設置角度としては、10〜80°であることが毛羽を寝かせる効果が優れる点で好ましい。10°未満の場合には、樹脂を掻き落す効果が不足する場合がある。設置角度が、80°を超える場合には、繊維布を傷める場合がある。
また、ドクターブレードとドクターブレードとで挟み込む場合には、ドクターブレードを対向させて設置することが好ましく、設置角度としては20〜160°であることが毛羽を寝かせる効果が優れる点で好ましい。20°未満の場合には、樹脂を掻き落す効果が不足する場合がある。設置角度が、160°を超える場合には、繊維布を傷める場合がある。
【0027】
本発明で、繊維布に含浸させる透明樹脂の含浸液粘度としては、200〜3000mPa・sであることが、毛羽を寝かせた状態を保持する効果が優れている点で好ましい。含浸液粘度が、200mPa・s未満であると寝かせた毛羽が立ち上がる場合があり、3000mPa・sを超える場合には作業性が悪くなるとともに気泡の噛み込み、塗布表面の外観悪化が見られる。
【0028】
本発明の透明複合シートを、液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル等の光学シートとして用いる場合、基板の厚さは好ましくは50〜2000μmであり、より好ましくは50〜1000μmである。基板の厚さがこの範囲にあると平坦性に優れ、ガラス基板と比較して基板の軽量化を図ることができる。
【0029】
本発明の透明複合シートからなる光学シートは、30〜200℃における平均線膨張係数が40ppm以下であることが好ましく、より好ましくは30ppm以下、最も好ましくは20ppm以下である。例えば、この光学シートをアクティブマトリックス表示素子基板に用いた場合、この上限値を越えると、その製造工程において反りやアルミ配線の断線などの問題が生じる恐れがある。
本発明の透明複合シートからなる光学シートを表示基板用プラスチック基板として用いる場合、波長550nmにおける光線透過率80%以上が好ましく、さらに好ましくは85%以上であり、最も好ましくは88%以上である。波長550nmにおける光線透過率が80%未満では表示性能が劣る傾向にある。
【0030】
本発明の透明複合シートを表示素子用プラスチック基板とする場合、平滑牲を向上させるために両面に樹脂のコート層を設けても良い。かかる樹脂は優れた透明性、耐熱性、耐薬品性を有していることが好ましく、具体的には多官能アクリレートやエポキシ樹脂などが好ましい。コート層の厚みは0.1〜50μmが好ましく、0.5〜30μmがより好ましい。
【0031】
本発明の透明複合シートを表示素子用プラスチック基板とする場合は、必要に応じて水蒸気や酸素に対するガスバリア層や透明電極層を設けることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の内容を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
NEガラス系ガラスクロス(厚さ100μm、屈折率1.510、日東紡製)に2,2−ビス(3’,4’−エポキシシクロヘキシル)プロパン(ダイセル化学工業製、E−DOA)100重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製、SI−100L)1重量部の透明樹脂(含浸液の粘度:2010mPa・s、硬化後の樹脂の屈折率:1.512)を含浸し、65°の角度で設置した金属製のフリーロールと樹脂製ドクターブレード(エスターラム製、E600/50/ST)とにより挟み込み、乾燥炉で100℃5分、180℃5分加熱して厚さ100μmのロール状ガラスクロス/樹脂複合体を得た。このロール状ガラスクロス/樹脂複合体に、多官能脂環式エポキシ(ダイセル化学工業製EHPE3150)100重量部、メチル水添無水ナジック酸(新日本理化製リカシッドHNA−100)102重量部、テトラフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学工業製TPP−PB)2重量部をメチルイソブチルケトンで溶解した樹脂をコートし、厚さ110μmのロール状透明複合シートを得た。
【0034】
(実施例2)
Sガラス系ガラスクロス(厚さ100μm、屈折率1.528、ユニチカクロス製)に、オキシラン酸素濃度から求めた純度が87%のビシクロヘキシル−3,3’−ジオキシド(EP−1)94重量部、オキセタニル基を有するシルキセスキオキサン(東亞合成製、OX−SQ)4重量部、芳香族スルホニウム系熱カチオン触媒(三新化学製、SI−100L)1重量部を溶融混合した樹脂(含浸液の粘度:630mPa・s、硬化後の樹脂の屈折率:1.530)を含浸し、80°の角度で設置した一対の樹脂製ドクターブレード(エスターラム製、E600/50/ST)により挟み込み、乾燥炉で100℃5分、180℃5分加熱して厚さ100μmのロール状ガラスクロス/樹脂複合体を得た。このロール状ガラスクロス/樹脂複合体に、多官能脂環式エポキシ(ダイセル化学工業製EHPE3150)100重量部、メチル水添無水ナジック酸(新日本理化製リカシッドHNA−100)102重量部、テトラフェニルホスホニウムブロマイド(北興化学工業製TPP−PB)2重量部をメチルイソブチルケトンで溶解した樹脂をコートし、厚さ110μmのロール状透明複合シートを得た。
【0035】
(比較例1)
ロール状ガラスクロス/樹脂複合体を作製において、含浸後に金属製のフリーロールと樹脂製ドクターブレードとで挟み込みを行わず、含浸液の粘度調整のみで厚み調整を実施した事以外は実施例1と同様にしてロール状透明複合シートを得た。
【0036】
(比較例2)
ロール状ガラスクロス/樹脂複合体を作製において、含浸後に一対の樹脂製ドクターブレードでの挟み込みを行わず、含浸液の粘度調整のみで厚み調整を実施した事以外は実施例2と同様にしてロール状透明複合シートを得た。
【0037】
実施例、比較例の結果を表1、表2にそれぞれ示す。
a)平均線膨張係数
セイコー電子(株)製TMA/SS120C型熱応力歪測定装置を用いて、窒素雰囲気下、1分間に5℃の割合で温度を30℃から150℃まで上昇させた後、一旦0℃まで冷却し、再び1分間に5℃の割合で温度を上昇させて30℃〜200℃の時の値を測定して求めた。40ppm荷重を5gにし、引張モードで測定を行った。
b)耐熱性(Tg)
セイコー電子(株)製DMS―210型粘弾性測定装置で測定し、1Hzでのtanδの最大値をガラス転移温度(Tg)とした。
c)光線透過率
分光光度計U3200(島津製作所製)で550nmの光線透過率を測定した。
d)毛羽等の突起状欠陥
目視、及び顕微鏡観察により、10cm×10cmの範囲で透明複合シートの毛羽による突起状欠陥の観察を実施した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は低線膨張係数、透明性、光学特性、耐熱性や平滑性に優れ、毛羽立ち等による突起状欠陥が極めて少ない透明複合シートの製造方法である。特に液晶表示素子用プラスチック基板、カラーフィルター用基板、有機EL表示素子用プラスチック基板、太陽電池基板、タッチパネル等の透明複合シートの製造方法に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布と熱硬化系の透明樹脂とから構成される透明複合シートの製造方法であって、繊維布に、熱硬化系の透明樹脂の含浸液を含浸させ、次いでロールとドクターブレード、または、ドクターブレードとドクターブレードとにより挟み込みを行った後、乾燥および/または硬化することを特徴とする透明複合シートの製造方法。
【請求項2】
前記透明複合シートが長尺シートである請求項1記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項3】
前記繊維布がガラスクロスである請求項1または2記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項4】
前記繊維布ガラスペーパー(不織布)である請求項1〜3何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項5】
前記透明樹脂がエポキシ樹脂を主成分とするものである請求項1〜4何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項6】
前記透明樹脂の含浸液の粘度が、200〜3000mPa・sである請求項1〜5何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記ドクターブレードがプラスチック製である請求項1〜6何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項8】
更に、前記透明複合シートを連続的に巻き取る工程を有する請求項1〜7何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。
【請求項9】
前記透明複合シートが表示素子用基板用である請求項1〜8何れか一項記載の透明複合シートの製造方法。

【公開番号】特開2006−264196(P2006−264196A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87413(P2005−87413)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】