透明高分子材のレーザ溶接
透明高分子材層を、初めに、フェムト秒、ピコ秒またはナノ秒のファイバパルスレーザを用いて透明高分子材に高コントラストのマークを形成し、次いで高コントラストマークの領域に局所溶接部を形成することにより、レーザ溶着接合するための方法が開示される。そのような溶接部は複数の透明高分子材層に形成することができる。溶接部を作製するためのシステム及びこの方法にしたがって溶着接合されたパーツも開示される。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条e項の下に、2010年2月16日に出願された米国仮特許出願第61/305013号の優先権の恩典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は全般的には、パルスレーザエネルギーを用いて高分子材料の表面または表面下にマークを作製し、一段階または二段階で、マークの位置に溶接部を形成することにより高分子材を溶着接合させるためのシステム及び方法に関する。さらに詳しくは、本発明は透明高分子材にレーザ溶接部を設けるためのシステム及び方法に関する。本方法によって作製された溶着材料も提供される。
【背景技術】
【0003】
プラスチック及び高分子材の溶接には広汎な方法が用いられる。プロセスには、摩擦溶接(振動溶接及び回転溶接)、超音波溶接、マイクロ波溶接、高周波溶接、ホットプレート溶接及びレーザ溶接がある。特定の用途に最も適する方法は、用いられるプラスチックの特性に、また用途及びそれにともなう要件にも、強く依存する。
【0004】
プラスチック及び高分子材のレーザ溶接は、エレクトロニクス、自動車及び生命科学への応用を含む、様々な工業分野に用いられている。透過レーザ溶接はプラスチック溶接に対して普及しているレーザ溶接技法である。しかし、この技法は相異なる透過特性を有する2つのパーツの溶接に限定される。例えば、コンポーネントの一方はレーザビーム波長に対して透明であり得るが、他方のコンポーネントはレーザビームのエネルギーを吸収する。レーザビームは上側の(透明な)コンポーネントを通過し、第2の(吸収性の)コンポーネントの表面に当たると、光は吸収されて熱に変換される。この熱が熱伝導によって透明コンポーネント内に伝えられ、両コンポーネントの材料を溶融させて溶着接合する。両パーツが同じ透過特性を有している場合、この技法を適用するためには、2つのコンポーネントの間に吸収添加剤を挿入する必要がある。吸収添加剤は一般に、それぞれの場合に用いられるレーザビーム放射波長において強い吸収を有する。レーザビームがそのような添加剤に当たると、添加剤が加熱され、熱伝導によって材料を可塑化して確実に溶着された接合を形成する。添加剤の使用は溶接のコスト及びシステムの複雑性を高めるだけでなく、多くの用途には許容され得ない汚染の可能性も生じさせる。例えば、生命科学に用いられるプラスチックには有害であり得る汚染物が含まれていてはならない。さらに、既存の溶接技法では、必要な吸収層が第1の溶接界面から先へのレーザビームの到達を妨げるから、複数のプラスチック層を溶接することができない。複数の材料層の溶接及び透過特性が同じ2つ(ないしさらに多くの)パーツの溶接を可能にするレーザ溶接方法の開発が望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態において、本発明は2つ(ないしさらに多くの)透明高分子材の層を溶着接合させるためのシステム及び方法を提供する。実施形態において、透明高分子材間に溶接部を形成するための、
それぞれが上面及び下面を有する、溶着接合されるべき少なくとも2つの高分子材を提供する工程であって、一方の高分子材の上面は他方の高分子材の下面に隣接し、透明高分子材は透過ウインドウを有するものである工程、
透明材料が互いに隣接している、一方の高分子材の上面または他方の高分子材の下面にある溶接スポットにレーザビームを集束させるように構成及び配置された光学系を提供する工程、
少なくとも2つの高分子材の透過ウインドウ内の波長においてパルスレーザビームを発生する少なくとも1つのパルスレーザを提供する工程、
溶接スポットにパルスレーザビームを集束させて、その結果、パルスレーザからの、溶接スポットに集束された、レーザビームに応答して溶接スポットが暗色に変わる工程、
暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程、及び
少なくとも2つの透明高分子材の間に溶接域を形成する工程、
を含む方法が提供される。
【0006】
実施形態において、方法は、少なくとも2つの透明高分子材の間に別の溶接スポットを別の溶接スポットにパルスレーザビームを再集束させることによって設ける工程を含む。実施形態において、方法は少なくとも3つの高分子材を提供する工程を含む。実施形態において、方法は溶着接合されるべき少なくとも3つの透明高分子材を提供する工程を含む。別の実施形態において、方法は、少なくとも3つの透明高分子材層によって与えられる界面において別の溶接スポットパルスレーザビームを再集束させることにより、少なくとも2つの透明高分子材の間に別の溶接スポットを設ける工程を含む。
【0007】
実施形態において、透明高分子材は、同じかまたは部分的に一致する透過ウインドウを有する、同じ透明高分子材または異なる透明高分子材を含む。実施形態において、透明高分子材は相異ならせることができ、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材のいずれか2つ以上のブレンドとすることができる。実施形態において、透明高分子材は同じとすることができ、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材のいずれか2つ以上のブレンドとすることができる。
【0008】
別の実施形態において、溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる工程は、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程と同じパルスレーザを用いて実施される。あるいは、実施形態において、溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる工程は、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程とは異なるレーザを用いて実施される。実施形態において、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させるために用いられるレーザは連続波レーザである。
【0009】
実施形態において、パルスレーザはファイバレーザである。実施形態において、少なくとも1つのパルスレーザはYbドープファイバレーザを含む。実施形態において、少なくとも1つのパルスレーザは1ns未満のパルス幅においてレーザエネルギーを与える。
【0010】
実施形態において、方法は、溶接域を形成するため、溶着接合されるべき少なくとも2つの透明高分子材に対してレーザビームを移動させる工程を含む。あるいは、実施形態において、方法は、溶接域を形成するため、溶着接合されるべき少なくとも2つの透明高分子材をレーザビームに対して移動させる工程を含む。
【0011】
実施形態において、パルスレーザは、50kHzと100MHzの間のレーザパルス繰返し数及び、1ns未満または500ps未満あるいは0.1psと500psの間の、レーザパルス幅を与える。実施形態において、透明高分子材はマークまたは溶接部の形成を容易にするための、顔料、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤のような添加剤を含有していない。
【0012】
本発明は添付図面とともに読まれたときに以下の詳細な説明から最善に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は溶接部を形成するために高分子材加工物に光学系によって集束されるパルスレーザビームを示す略図である。
【図2】図2は図1の破線1で示される図1の領域の拡大図である。
【図3】図3は、溶接部を形成するため、溶接部を形成するレーザビームが複数の透明高分子材層を通過することができる、本発明の一実施形態を示す。
【図4】図4は第2のスポットのレーザを再集束させることによって別の透明高分子材層の間に第2の溶接スポットに第2の溶接部を形成できることを示す。
【図5】図5は、一段階プロセスで透明高分子材間に溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図6】図6は、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができ、マークの全てが、まとめて同時に、または一度に1つずつ、溶接ビームによって照射され得る、本発明の別の実施形態を示す。
【図7A】図7Aは、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図7B】図7Bは、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図8】図8は、複数層パーツの層に溶接部を形成するために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図9】図9は、1mm厚のポリスチレン(ダウ685D)試料で測定した、いくつかの透過ウインドウを含む、ポリスチレンについての透過スペクトルを示すグラフである。
【図10】図10は本発明にしたがってポリスチレンプレートに溶接されたポリスチレンディスクの写真である。
【図11A】図11Aは(図5〜8に説明される2段階方法の実施形態を用いて溶着接合された)パーツの写真である。
【図11B】図11Bは(図5〜8に説明される2段階方法の実施形態を用いて溶着接合された)パーツの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は全般的に、2つの(ないしさらに多くの)透明高分子材パーツを溶着接合するためのシステムに関する。例えば、本発明の実施形態は、同じ透過特性を有する2つの(ないしさらに多くの)プラスチックまたは高分子材のパーツを溶着接合するための方法を提供する。これらの2つ以上のプラスチックまたは高分子材のパーツはレーザの波長に対して透明とすることができる。2つ以上のプラスチックまたは高分子材のパーツは同様の材料とすることができる。すなわち、2つ以上のパーツは同じ高分子材で作製することができる。さらに詳しくは、本発明の実施形態は、高分子材の溶接スポットにレーザエネルギーを供給するため、フェムト秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザまたはナノ秒パルスレーザ、及び光学系を用いて、2つの高分子材の間の界面またはその近傍(溶接スポット)において(レーザビームの波長に対して透明な)透明高分子材に高コントラストのマークを形成するためのシステムに関する。材料にマークが形成されると、すなわち炭化がおこると、このマークは連続するかまたは以降のレーザ照射に対して線形吸収体としてはたらく。高コントラストマーク、すなわち炭化領域に集束される、継続するかまたは以降のレーザ照射が高コントラストマークの場所に熱を発生させる。この熱が熱伝導によってプラスチックパーツ間の界面を通過して、2つのパーツの間に接合すなわち溶接部を生じさせる。
【0015】
実施形態において、パルスレーザビームは、マークが形成されているから今ではパルスレーザビームの波長に対して吸収性である、マーク形成領域に改めて印加するかまたは継続して印加して局所熱を発生させることができ、この熱が高分子材の局所溶融をおこさせて溶接部を形成する。別の実施形態において、マーク領域にレーザビームを印加し、マーク領域に局所熱を発生させ、継目または接合または溶接部を形成するために、第2のレーザを用いることができる。
【0016】
この詳細な説明において、限定ではなく説明の目的のため、特定の詳細を開示する実施形態例が本発明の完全な理解を提供するために述べられる。しかし、本明細書に開示されるそのような特定の詳細に関わらない別の実施形態において本発明が実施され得ることが当業者には明らかであろう。他の場合に、周知のデバイス及び方法の詳細な説明は、本発明の説明を曖昧にしないため、省略されることがある。
【0017】
実施形態において、第1の炭化工程及び第2の加熱工程は同じフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザによって提供される。実施形態において、第1のマーク形成工程及び第2の加熱工程は、同じレーザにより、初めにマークを形成するため、次いでマーク領域すなわち炭化領域を加熱して溶接部を形成するために、迅速に継続して、レーザエネルギーを印加することによって行うことができる。
【0018】
別の実施形態において、第2の加熱工程は第2のレーザによって提供される。第2のレーザは連続波レーザまたはパルスレーザとすることができる。第2のレーザは炭化領域に向けられるレーザビームを供給し、線形吸収により局所加熱をおこさせる。実施形態において、マーク形成工程及び加熱工程は、迅速に継続しては行われない、別々の作製工程で行うことができる。すなわち、第1の作製工程は溶接したい高分子材の領域に暗色マークを設ける工程を含むことができる。これらのパーツは次いで、直ちに溶接工程に進むか、またはマーク形成工程と溶接工程の間に時間遅延を入れることができる。例えば、実施形態において、マークが付けられたパーツは後の溶接工程のために保管することができる。以降の作製工程は溶接したいマーク領域にレーザエネルギーを供給するために第2のレーザを用いることができる。実施形態において、溶接部は、第1のフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザが所望の溶接部位に集束されて、溶接部を形成するに十分な局所領域における材料の加熱を生じさせるレーザエネルギーを吸収する局所炭化領域を形成するときに、つくられる。別の実施形態において、溶接部は、例えば連続波(CW)とすることができる、第2のレーザが、第1のフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザをもちいてマークが形成されている領域に集束されてマーク領域を加熱し、よって溶接部を形成するときに、つくられる。2つのビームの波長は、同じとすることも、異ならせることもできるが、溶接されるべき2つのパーツの透過ウインドウ内にある。初めに、集束場所がパルスレーザビームを用いることにより、非線形吸収によって局所的に炭化される。集束場所は溶接されるべき2つのパーツの接合場所の近くである。次いで、炭化材料が連続波(CW)レーザビームの吸収体としてはたらき、線形吸収により局所過熱を生じさせる。この熱が次いで熱伝導により接合場所内に伝えられて2つのパーツの間に確実な接合を形成する。蒸気の方法のいずれも、2つ以上の層の溶接に適する。
【0019】
さらに、実施形態において、本発明のマーク形成方法及び溶接方法は、高分子材が、造影材料層、着色材料層、造影層、顔料、発泡剤、金属材、反射材、またはその他のレーザエネルギー吸収材料、あるいは高分子材の透過ウインドウ内で線形吸収材である添加剤を含んでいない態様を提供する。実施形態において、本発明の方法の実施形態にしたがってマークが形成される高分子材は、暗色マークを形成するために印加レーザエネルギーを吸収する添加剤を有していない。それどころか、暗色マークは、高分子材内の表面下暗色マークの形成を容易にするための高分子材内のレーザエネルギーを吸収する添加剤を用いずに、パルスレーザエネルギーの印加によって形成される。別の実施形態において、本方法で作製される物品も提供される。
【0020】
別の実施形態において、複数の透明高分子材層間に溶接部を設けるための方法が提供される。例えば、高分子材層はマーク形成レーザによって供給される光の波長に対して透明であるから、このレーザビームは材料に影響を与えずに透明層を通過する。1本ないし複数本のレーザビームを溶接されるべき物体内のある位置に集束させると、マークを形成することができ、続いて溶接部を形成することができる。レーザは次いで、第2のマーク及び第2の溶接部を形成するため、溶接されるべき物体内の異なるスポットに再集束させることができる。レーザは、技術上周知の、レンズ、ミラー、回折光学系及び偏光光学系を備えることができる光学系によって、再集束させることができる。
【0021】
例えば、透明高分子材層を所望の構造に積み重ね、溶接されるべき第1の層にマーク形成レーザを集束させ、次いで溶接されるべき第2の層にマーク形成レーザを集束させ、次いで溶接されるべき第3の層にマーク形成レーザを集束させ、以下同様にマーク形成レーザを集束させることで本発明の実施形態にしたがうレーザ溶接部を形成することによって、積層製品を形成することができる。例えば、多層アセンブリをレーザ溶着接合しなければならない場合、本発明の実施形態にしたがい、溶接されるべき最下層にレーザを集束させてマークを形成することができ、次いでマーク領域をさらに集束レーザエネルギーにさらして局所熱を生じさせて、溶接部を形成することができる。次いで、溶接されるべき最下層から1つ上の層にレーザを再集束させてマークを形成することができ、次いでマーク領域をさらに集束レーザエネルギーにさらして第2の局所加熱領域を形成して、第2の溶接部を形成することができる。この手順を複数回反復することができる。材料は、顔料または吸収材料層を含まず、マークが形成されるまではレーザビームの波長に対して透明であるから、レーザは障害なしに、また不要な加熱領域、マークまたは溶接部を形成せずに、複数の層部分を通して下方の層に集束させることができる。言い換えれば、レーザビームは、溶接されるべきスポットまたは領域にレーザビームが集束されるまで、他の領域を損傷させずに、あるいは不要なマークまたは溶接部を形成せずに、透明高分子材層を通って進むことができる。このようにすれば、複層透明高分子材製品を、高分子材または高分子材表面に、顔料、着色料、染料、発泡剤または添加剤、膨張剤、または造影材層を用いずに、製品を通して1本ないし複数本のレーザビームを再集束させることによって、作製することができる。
【0022】
高分子材または高分子材表面に、顔料、着色料、染料、発泡剤または添加剤、膨張剤、または造影材層のようなレーザエネルギー吸収材を添加せずに、透明高分子材にレーザマーク形成及びレーザ溶接を行い得ることは、コスト及びプロセスの観点から、また安全の面からも、有利である。添加剤を用いずに、また高分子材の表面に損傷を与えずに、透明高分子材を含む、高分子材にレーザマーク形成及びレーザ溶接を行い得ることは、コスト、プロセス及び製品機能の観点から、有利である。さらに、本発明の実施形態により、添加剤、吸収材またはマスクを用いずに複数のパーツ層のレーザ溶接が可能になる。レーザ溶接では高分子材パーツを接合させるための技術上既知の他の方法(例えば超音波溶接)よりも屑及び汚染の発生が少ない。さらに、本発明の実施形態を用いれば、廃棄物または副生物が生じない。実施形態は、高繰返し数パルスによりファイバパルスレーザを高速溶接に用いることができるから、工業環境での使用に適する。本発明の実施形態を用いれば、非常に微細な溶接部を達成することができ、あるいはより厚い溶接部を達成することができる。
【0023】
透明材料を含む、同じ材料でつくられたパーツにマークを形成して溶着接合することが有用であり、望ましい。顔料または吸収材層を含んでいない透明高分子材層にマークを形成して溶着接合することが有用であり、望ましい。高分子材にマークを形成する方法は、例えば、2009年7月28日に出願された、名称を「高分子材に表面下マークを設けるための方法(Method for Providing Sub-Surface Marks in Polymeric Materials)」とする、米国特許出願第12/5100360号の明細書に開示されている。この明細書の全体は上記開示が相反しない程度まで本明細書に含まれる。
【0024】
本発明の実施形態において、「透明ポリマー」または「透明高分子材」は、レーザ波長に対して十分な透明度を有し、染料、顔料、造影材、発泡剤、膨張剤、金属材または反射材、あるいはこれらの添加剤を含有する材料層のような、レーザエネルギーを吸収する添加剤を含んでいない、ポリマーまたは高分子材を意味する。実施形態において、透明高分子材はレーザエネルギーを吸収する添加剤を含有していないいずれかの高分子材または高分子材のブレンドである。別の実施形態において、透明高分子材は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、環状オレフィンコポリマー、または2つ以上のポリマーのコポリマーまたはブレンドである。実施形態において、透明材料は同様の材料である。例えば、2つの同じ高分子材層を本発明の実施形態にしたがって溶着接合することができる。別の実施形態において、2つの層は、部分的に一致する透過ウインドウを有する、相異なる材料である。すなわち、2つ以上の材料が透過ウインドウの少なくともいくらかの領域を共通に有する。一般に用いられるレーザ溶接応用において、溶着接合されるべき高分子材は、2つの材料の間にレーザ溶接部を設けるため、2つの材料は通常、相異なる透過ウインドウを有する必要があるから、同様の材料にならないことが多い。2つの材料が同様の材料でなければ、レーザは、そのレーザエネルギーに対して透明である最上層の材料を通過して、そのレーザエネルギーに対して透明ではない第2の材料層に到達する、レーザビームを供給する。レーザエネルギーがレーザエネルギーを吸収する材料に接触すると、局所熱が発生し、溶接部が形成され得る。これらの一般に用いられるレーザ溶接技法とは対照的に、本発明の実施形態では同様の透明高分子材のレーザ溶接が可能になる。実施形態においては、本発明の方法にしたがってマークが形成される、透明高分子材にマークを形成するために用いられているレーザエネルギーの波長に対する高分子材の透明度に影響を与えるであろう添加剤を含有していない、透明高分子材が提供される。実施形態において、透明高分子材にはレーザエネルギーを吸収する添加剤が含まれていない。別の実施形態において、高分子材は相異なる材料とすることができる。しかし、相異なる材料は、レーザの相異なる高分子材層の通過を可能にするため、部分的に一致する透過ウインドウを有するべきである。
【0025】
本発明の実施形態において、顔料、着色剤、染料、発泡剤または発泡添加剤、膨張剤、または造影材層のようなレーザエネルギーを吸収する添加剤を必要とせずに、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、環状オレフィンコポリマー、またはその他のポリマー、または2つ以上のポリマーのコポリマーまたはブレンド、あるいは同様の材料のような透明高分子材を、初めに透明高分子材にまたはその上に暗色マークを形成し、次いで、局所加熱を生じさせて局所溶接を行わせるレーザビームにマーク付材料をさらすことによって、溶着接合するための方法が提供される。本発明は、高エネルギー密度を有し、高分子材と非線形に相互作用して暗色マークを形成する、すなわち炭化を生じさせる、持続時間がフェムト秒、ピコ秒またはナノ秒と短い、レーザパルスを利用する。所望の溶接部が形成されるべき位置にこれらの短持続時間レーザパルスを集束させるかまたは交差させることにより、暗色マークが形成され得る。同じかまたは異なるレーザによる、以降のレーザビームへの暴露において、暗色マークは、レーザエネルギーを吸収し、マークの場所にレーザ溶接部を生じさせる局所熱を発生させるために用いることができる、コントラストを提供する。
【0026】
高コントラストマークまたは暗色マークは、本開示の目的のため、人間の眼で見ることができ、及び/または機械で読み取ることができ、周囲の材料より暗い色になっている、マークを意味する。例えば、高コントラストマークまたは暗色マークは、透明高分子材内で、黒色、茶色、紫色、青色、緑色の、あるいはその他の高コントラストの暗色または色付きの、マークに見えるであろう。
【0027】
本発明の実施形態は、溶着接合されるべき層に暗色マークを形成するために一連の、持続時間がフェムト秒、ピコ秒またはナノ秒と短い、レーザパルスを集束させ、続いて暗色マークの場所に局所熱を生じさせてレーザ溶接部を形成するレーザエネルギーにマーク付領域をさらすことによって形成される、一連の溶接部を積み重ねられた材料層に有する積層透明高分子材製品も提供する。
【0028】
実施形態において、単レーザ源を用いて高分子材材料体に高コントラストまたは暗色のマークをつくり込むことができる。レーザパルスの波長は高分子材の透過ウインドウ内にあるべきである。レーザパルスの波長が高分子材の透過ウインドウ内にあるから、個々のレーザパルスは、レーザエネルギーが集束されるかまたは別のレーザビームと交差して、高分子材と非線形に相互作用し、高分子材を炭化させて、高コントラストまたは暗色のマークを残すに十分なエネルギーを供給するまでは、材料を影響に与えずに高分子材を通過することができる。別の実施形態において、適切なエネルギーを有する複数のレーザパルスが高分子材内の単一のスポットに集束され、レーザパルスが集束スポットに同時に到達するようにタイミングがとられると、集束スポットにおいて暗色スポットが形成され得る。理論にはこだわらずに、1つより多くのレーザ源からの、単一のスポットに集束されるこれらのレーザエネルギーは複合して高分子材を破壊することができる。複合したこれらのレーザパルスは材料内に非線形吸収を生じさせ、高分子材に変化をおこさせる。高分子材は燃えるかまたは焦げ、これは炭化とも呼ばれる。高分子材は局所加熱された高分子材内部に捕らえられる煤を生じて、暗色の領域またはスポットを形成することができる。本発明の実施形態において、これらの暗色の領域またはスポットは溶接スポットである。高分子材またはレーザが相互に移動させると、より大きな暗色マーク及び溶接部を形成することができる。これらが溶接領域または溶接域である。例えば、システムの集束スポットに暗色スポットを形成し、次いで溶着接合されるべき高分子材をレーザに対して移動させることで接合または継目を設けることができる。線または領域の形態とすることができ、あるいは用途に必要ないずれかの形状とすることができる、別のスポットが形成される。これらの整形スポットは、暗化領域の場所において吸収されて局所熱を生じさせ、高分子材を一緒に溶融させる、別のレーザエネルギーにさらされると、溶接領域または溶接域を形成する、暗化領域を形成する。本発明の実施形態において、高分子材自体に顔料は含まれていない。実施形態において、高分子材に着色剤は含まれていない。実施形態において高分子材に染料は含まれていない。実施形態において、高分子材に発泡剤は含まれていない。実施形態において、高分子材に膨張剤は含まれていない。実施形態において、高分子材は、顔料、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤のいずれか1つ以上を含有する層を含んでいない。
【0029】
実施形態において、短く、高エネルギーのレーザパルスの複合は、高分子材が局所的に炭化され、この結果レーザ照射領域の永続的な黒化をおこす、光化学反応を高分子材内で誘起する。黒化領域はレーザ集束寸法の0.1〜100倍程度であり、この寸法は様々な用途について調整することができる。高分子材または加工物を1つまたは複数のレーザの集束点に対して移動させることによって、あるいは1つ(または複数)のレーザの集束点を加工物に対して移動させることによって、線、曲線、二次元の幾何学的形状、三次元の幾何学的形状またはその他いずれかの所望の形状または構造を含む、形状を加工物に与えることができる。
【0030】
高分子材のレーザマーク形成は、例えばCO2レーザまたはYAGレーザを用いて実証されている。これらのレーザでは、フェムト秒またはピコ秒のパルス幅を得ることができない。これらのレーザではナノ秒のパルス幅は得ることができる。これらのプロセスでは一般に、有用なマークを得るに十分な色変化を達成するため、発泡剤(または膨張剤)、吸収剤、着色剤、顔料または染料等のような添加剤が必要である。例えば、黒鉛、カーボンブラック、銅含有化合物、酸化モリブデン、TiO2含有化合物、プルシアンブルー、擬板チタン石(シュードブルッカイト)被覆雲母または白雲母を、高分子材またはプラスチックのバルクバッチに添加することができ、あるいは1つまたは複数の層として大きな製品に組み込むことができる。レーザエネルギーにさらす際には、例えばNd:YAGレーザでエネルギーが発生されるが、レーザは、用いられる顔料の高吸収波長領域にあって、顔料が炭化してマークを形成することができる、波長を有するいずれのタイプのレーザとすることもできる(米国特許第5928780号及び5977514号の明細書、及び米国特許出願公開第2006/0030631号明細書、及び特開平05-337659号公報を見よ)。
【0031】
フェムト秒レーザは、無変色で高分子材をアブレートするため(ピー・モレノ(P. Moreno)等,「炭素強化高分子材のフェムト秒レーザアブレーション(Femtosecond laser ablation of carbon reinforced polymers)」,Applied Surface Science,2006年,第252巻.p.4110〜4119)、及びポリスチレンから炭素微細構体を作製するため(ジェイ・アシュコム(J. Ashcom)等,「ポリスチレンのフェムト秒レーザ誘起炭化(Femtosecond laser-induced carbonization of polystyrene)」,Conference on Lasers and Electro-Optics(CLEO会議),2001年、p.231)に用いられている。さらに、高分子材にマークをつくり込むレーザマーク形成装置が開示されている(米国特許公開第2007/0086822号明細書)。しかし、これらのマークは非常に明るく、マークの視認性を高めるためにコア材料または色付材料の層が必要であった。
【0032】
実施形態において、本発明は、透明高分子材に高コントラスト(黒色)の表面下マークを、材料の表面に損傷を生じさせずに、形成するために、フェムト秒、ピコ秒またはナノ秒のレーザパルスを高繰返し数(50kHz〜30MHz)で用いるための方法を提供する。高分子材はレーザ波長に対して透明である。実施形態において、これらの方法は着色剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は顔料を必要としない。実施形態において、これらの方法は染料を必要としない。実施形態において、これらの方法は発泡剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は膨張剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は、造影材料の層または、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤を含有する材料の層を必要としない。
【0033】
50kHz〜30MHzのフェムト秒、ピコ秒及びナノ秒のパルスを発生させるには、ファイバパルスレーザが非常に適している。低コスト、高安定性及び小型であり、保守をそれほど要しないという、ファイバレーザの利点のため、本発明の実施形態へのこれらのレーザの使用は本質的に低コストであり、工業環境における使用に適している。さらに、高繰返し数パルスが用いられるから、これらの方法は高速のマーク形成及び溶接を提供することができる。
【0034】
図1は、1本のパルスレーザビーム、本発明のレーザ溶接システム100の一実施形態を示す。図1に示されるシステムは、
パルスレーザ110,
コントローラ115,
図1に示されるように、レンズ121,ミラー122及び第3のレンズ123を含む、光学系120,及び
第2の加工物131に溶接されるべき第1の加工物130,
の4つのコンポーネントを含む。加工物130及び131は透明高分子材である(本開示の目的のため、語句「加工物」は透明高分子材であり、2つの語句は互換で用いられ得る)。それぞれの加工物は上面(132及び133)及び下面(134及び135)を有する。レーザ110がコリメートされたパルスレーザビーム111を発生する。パルスレーザビームは、レンズ121,ミラー121及び別のレンズ123を有することができる光学制御系によって、ビームが調節され、集束される。図1に示されるように、パルスレーザビーム111は、レーザ110によって発生され、パルスレーザビーム径がレンズ121によって調節され、次いでレーザビームの方向がミラー122によって制御され、溶接スポット140にレーザビームを送るために別のレンズ123によって集束される。コントローラ115は(図1の破線で示されるように)レーザ110及び光学系120を制御することができる。溶接スポット140はマーク140と表すこともできる。コリメートされたパルスレーザビーム111がスポット140またはその近傍に向けられるかまたは集束されると。加熱域すなわち溶接域141において局所加熱がおこる。本開示において「〜(に)またはその近傍(に)」は、レーザの集束点が極めて精確な一点であっても、高分子材における集束レーザエネルギーの効果はレーザの集束点の周囲に拡がり得ることを意味する。さらに、一点に集束されたレーザエネルギーの存在は、そのポイントを高分子材内で移動及び変化させ得る。すなわち、コリメートされたパルスレーザビームが高分子材の上面の一点に集束されると、高分子材は変化する。例えば、高分子材は、溶融し、炭化し、暗化することができる。高分子材の表面にあったスポットが、レーザエネルギーにさらした後には、高分子材の表面にないことがあり得る。そのスポットは高分子材表面近くにあり得る。同様に、パルスレーザビームにさらされることでマークが形成された領域にレーザエネルギーが向けられると、高分子材は溶融し、変化するであろう。マーク領域は溶接域を形成するであろう。この溶接された領域はレーザの集束点に精確に形成されることはなく、あるいは暗化マークの精確な場所に形成されることはないであろう。高分子材はレーザエネルギーの印加に応答して変化するから、語句「〜(に)またはその近傍(に)」は本開示においてスポットまたは溶接部を一層正確に表すために用いられる。さらに、本発明の一実施形態において、レーザ溶接を実施するためには、レーザビームの集束点が高分子材料の表面または近傍にあることしか必要ではない。例えば、高分子材の表面下に暗色マークを形成するレーザ集束点は、高分子材の表面に集束点があったとした場合と全く同様に、溶接部を形成するための吸収点として役立つように有効に機能することができる。
【0035】
暗化領域へのさらなるレーザエネルギーの印加は、暗化領域またはその近傍に適用することができる。暗化領域または暗色スポット、すなわち溶接スポットはレーザエネルギーを吸収して局所加熱を生じさせるから、この加熱レーザエネルギーの集束点は、一実施形態において、暗色マークの形成に必要なだけ精確に制御される必要がある。したがって、暗色マークまたは溶接スポットの場所に熱を生じさせるために高分子材加工物に印加されるレーザエネルギーを暗色マーク「またはその近傍に」供給することができ、このことは当業者には当然であろう。溶接スポット140は、例えば、下側の加工物の上表面または上側の加工物の下表面またはその近傍とすることができる。実施形態において、スポットは、2つの加工物の間の接合または溶接が望ましい場所に加熱域または溶接域141が生じるように、溶接し合わされるべき表面またはその近傍にある。別の実施形態において、暗色マークが高分子材内に形成されている、個別の高分子材パーツまたは高分子材層の間に溶接部を設けるための方法が提供される。すなわち、実施形態において、第1の高分子材パーツまたは高分子材層内、あるいは隣の高分子材パーツまたは高分子材層に接してはいないが、局所加熱がおこると所望の場所に溶接部が形成される、所望の溶接場所の十分近くの、第2の高分子材パーツまたは高分子材層内のある位置に暗色マークを形成することができる。これは、高分子材の適切な局所溶融及び溶接部の形成に適するエネルギー強度を到達させるように溶接スポットにおけるビームの径及び形状を調整することによって達成することができる。実施形態において、レーザビーム111は、2つの透明高分子材層130と131の界面またはその近傍に暗色マーク140を形成するために、スポット140に集束される複数のレーザによって供給される複数本のレーザビームとすることができる。これらの複数本のビームはパルスレーザによって発生させることができ、統制されたパルスエネルギーを供給することができる。すなわち、パルスが同時に集束点に送られるように、レーザエネルギーのパルスのタイミングを合わせることができる。実施形態において、レーザビームは単一のレーザまたは多くの相異なるレーザによって発生させることができる。レーザの波長は同じであってもなくても差し支えない。しかし、全てのレーザの波長が加工物の材料の透過ウインドウ内にあるべきである。
【0036】
実施形態において、本発明の方法は、溶着接合されるべき加工物の表面またはその近傍の特定のスポット140に単一のパルスレーザからパルスレーザエネルギーを供給するために光学系120を用いる工程を含む。そのような、レンズ、ミラー、回折光学素子、偏光素子及びコントローラを備えることができる、光学系120はレーザ技術上周知である。光学系は図2〜7にダイクロイックミラー125及び(適用できる場合の)レンズ123で表されている。しかし、光学系120が別の素子を有し得ることを当業者であれば認めるであろう。
【0037】
本発明の実施形態において、レーザ110は以下の仕様を有することができる。レーザパルスの波長はマークが形成されるべき材料の透過ウインドウ内にあるべきである。出力パルスのパルス幅は、フェムト秒、ピコ秒またはナノ秒の範囲とすることができる。例えば、レーザの出力パルスのパルス幅はレーザの物理によってしか制限されず、0.3ピコ秒と100ナノ秒の間とすることができる。すなわち、出力パルスのパルス幅は、1ナノ秒より短く、500ピコ秒より短く、100ピコ秒より短く、50ピコ秒より短く、20ピコ秒より短く、10ピコより短く、5ピコ秒より短く、または1ピコ秒より短くすることができ、あるいはいずれか適する範囲とすることができる。
【0038】
実施形態において、パルスレーザは繰返し数を有するであろう。繰返し数は毎秒のパルス数である。レーザの出力パルスの繰返し数は、例えば、1kHz〜100MHz,20kHz〜100kHz,または100kHz〜10MHzの範囲にあるいずれかの値である。実施形態において、レーザパルスの繰返し数は50kHz〜500MHzの範囲内のいずれの値にもすることができる。そのようなレーザパルスの発生にはファイバパルスレーザが適している。パルス繰返し数が高くなるほど、毎秒のマーク数を益々多くすることが可能になり、これにより、高分子材間溶接毎秒を益々多くすることが可能になり得る。パルス繰返し数が高くなるほど、益々高速のマーク形成及び溶接が可能になり得る。高繰返し数パルスの使用は、パルスエネルギーを高めずにマーク形成体積(または面積)を大きくするから有利であり得る。例えば、パルス繰返し数が十分に高ければ、連続する複数のパルスが同じ集束領域内の材料と相互作用することができる。理論にこだわらずに、第1のパルスが集束スポットにおいて永続的構造変化または炭化を生じさせ、この結果、以降のパルスに対し、そのスポットにおいて線形吸収がおこるのであろう。この効果は周囲領域に対しする光強度閾を低めることができ、よって一層大きなマーク形成領域を達成することができる。繰返し数が熱限界以下である限り、(溶接工程ではなく)マーク形成工程において、パルスエネルギーを一定に保ったままで、パルス繰返し数を高くするほど、マーク形成速度が高まる。
【0039】
実施形態において、パルス持続時間に依存してレーザの出力パルスのエネルギーを選ぶことができる。例えば、レーザの出力パルスのエネルギーは、システムの必要に応じて、10nJから100mJの間、または10nJから10mJの間で選ばれる。例えば、パルス持続時間を短くすると、高分子材に高コントラストマークを形成するに必要なエネルギーを減じることができる。パルス持続時間を長くすると、高分子材に高コントラストマークを形成するに必要なエネルギーを高めることができる。上述した3つのパラメータは全て、特定のビーム径または集束条件に対して特定の透明高分子材に表面下暗色マークを形成するに適切な繰返し数及び十分なエネルギーと組み合わせられた、適切なパルス幅を有するレーザパルスを生成するために、変更することができる。
【0040】
パルスレーザは、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザまたはその他を含む、上記仕様を満たすいずれかの種類のレーザとすることができる。そのような種類のパルスの発生にはファイバパルスレーザが十分に適している。ファイバパルスレーザは、低コスト及び小型であり、保守を要しない。例えば、Ti:サファイア、YAG、Ndドープファイバパルスレーザ、Erドープファイバパルスレーザ及びCO2レーザを用いることができる。ファイバパルスレーザは50kHz〜50MHzの、フェムト秒パルス、ピコ秒パルス及びナノ秒パルスの発生に適している。例えば、(米国ミシガン州アナーバー(Ann Arbor)のIMRA Americaから入手できる)IMRA μJewel及び(米国ミシガン州プリムス(Plymouth)のRofin-Sinarから入手できる)Corelase(登録商標)X-lase(登録商標)ファイバレーザを用いることができる。(米国カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View)のNewportから入手できる)SpectraPhysics Spitfireをフェムト秒の発生に用いることができる。一実施形態において、レーザは、同時係属の米国特許出願公開第2008/0025348号明細書に開示されているような、高エネルギー超短パルスファイバレーザとすることができ、あるいは同時係属の米国特許出願第11/823680号明細書に説明されているような、低繰返し数リング共振器受動モードロックファイバレーザとすることができる(これらの明細書は本明細書に参照として含まれる)。ファイバレーザは一般に、低コスト、高安定性、高信頼性であり、小型で保守要件が緩やかであって、これらのレーザを工業環境での使用に適するレーザとする。
【0041】
再び図1に戻れば、本発明の実施形態において、例えば、単レンズ素子または複レンズ素子の光学系120を備えることができる、光学系120を、接合すなわち溶着接合されるべき2つの加工物の間の界面において、加工物の表面またはその近傍の集束点またはスポット140にパルスレーザビーム111を集束させるために用いることができる。本開示の目的のため、「界面」は別の表面に溶接されるべき表面またはその近傍の場所を意味する。例えば、加工物130と131の間の界面は、(図1に示されるように)下側の加工物131の上表面の直下に、または上側の加工物130の下表面の直上(図示せず)にあり得る。レーザビームが所望の溶接部の場所またはその近傍に集束され、その場所に暗色マークが形成される限り、その場所に、すなわちその界面に、溶接部を形成することができる。光学系120は、非線形吸収に適する光強度が到達するように、集束点140におけるビーム径及び形状を調整することもできる。さらに、加工物130及び131に対してレーザビーム111を移動させるか、またはレーザビーム111に対して加工物130及び131を移動させることによって、溶接継目を達成することができる。さらに、溶接界面において密着させておくため、クランプ具(図示せず)が必要になり得る。クランプ具は、接合させるパーツのいずれも固定しておくため及び、材料の最終的な接合または溶接部を得るための内在的な接合圧力を生じる、接合領域内の熱膨張に抗する圧力を与えるために用いることもできる。クランプ具が溶接されるべき領域を覆う場合には、レーザに対して透明な材料でクランプを作製するべきである。
【0042】
マークが形成されるべき材料130は、レーザ上に対して透明なプラスチックまたは高分子材とすることができる。図2は、図1に破線1で示される、図1の領域の拡大図である。図2は(レンズ123で表される)結像光学系によって一スポットに集束されるレーザビーム111を示す。図2に示される実施形態において、スポット140は第2の加工物131の表面の直下にある。しかし、別の実施形態において、スポットは上側の加工物130の下表面134またはその近傍におくことができる。すなわち、スポットは加工物130と131の間の界面におくことができる。スポット140に集束パルスレーザエネルギーを与えると、透明高分子材の一領域が加熱されて、高温域または溶接域141が形成される。実施形態において、高温域または溶接域143も形成する炭化領域140を形成するために、単一のパルスレーザが用いられる。図1及び図2に示されるように、高温域または溶接域143は上側の加工物130及び下側の加工物131のいずれにも生じる。実施形態において、高温域または溶接域143の一回の導入で、上側の加工物130と下側の加工物131の間に溶接部または接合を形成することができる。この実施形態において、プロセスは一段階レーザ溶接プロセスである。
【0043】
レーザパルスの繰返し数が十分に高い場合、同じ集束域体積において複数のパルスが材料と相互作用することができる。初めの数パルスが集束域体積の中心に永続的な構造変化または炭化を生じさせ、その場所において以降のパルスの線形吸収をもたらす、暗色マークを形成する。この線形吸収がレーザパルスの熱効率を大きく高める。したがって、レーザパルスの繰返し数を適切に制御することによって溶接効率を最適化することができる。
【0044】
図3は、溶接部を形成しているレーザビームが溶接部を形成するために複数の透明高分子材層を通過することができる、本発明の一実施形態を示す。例えば、実施形態において、パルスレーザビームは、溶接部が形成される集束点またはスポット140に到達する前に、レーザビームに対して透明である高分子材の層を通過することができる。図3は、それぞれが上面と下面(それぞれ、151と152,132と134,及び133と135)を有する、複数の加工物層150,130及び131を示す。図3は、加工物層130と131の間に、図1及び2に示される実施形態にしたがって、溶接部143が形成された後のパーツを示す。全ての材料層の高分子材はパルスレーザビームの波長に対して透明であるから、材料自体に、または所望の溶接部の領域に、レーザ不透材料は必要ではない。したがって、レーザエネルギーの投入時に、収束域またはスポットの外側に溶接部が形成されることはない。このようにすれば、レーザをさらに上方の層に再集束させて新しい溶接部を順次する材料層に形成することによって、レーザ不透材料またはレーザエネルギー吸収材料層を用いずに、材料層を溶着接合することができる。
【0045】
図4は、第2のスポットにレーザを再集束させることによって別の透明高分子材との間の第2の溶接スポットに第2の溶接部を形成できることを示す。実施形態において、マーク未形成層はレーザビームに対して透明であり、レーザビームが材料に影響を与えずに材料を通過することを可能にするから、多層製品に複数の溶接部を形成することができる。図4に示されるように、溶接スポット143において層130と131の交点に溶接部が形成され、スポット143における溶接部の形成後、第2の溶接スポット144にレーザ111が再集束される。実施形態において、溶接スポットは溶接線とすることができ、溶接線または接合線は、加工物に対してレーザを移動させるか、またはレーザビームに対して加工物を移動させることで形成することができる。レーザパルスはパーツのバルク材料の内部の任意の場所に集束させることができるから、本方法は複数の層の溶接に適している。複数の層を溶接する場合、層を溶接する順序は、最下層(レーザビームの出力側)から始めて最上層(レーザビームの入力側)に向かうべきである。例えば、図4及び8は3層の溶接構成の略図を示す。原理的に、溶接されるべき層の数は限定されない。唯一の要件は、最下層を除けば、全ての層の材料がレーザパルスに対して透明であることである。
【0046】
別の実施形態において、初めに様々な深さに、上で論じたように、暗色マーク140を形成し、次いで、例えば図6に示されるように、全てのマークに溶接ビーム111を供給することによって、複層アセンブリを作製することができる。マークの全てを溶接ビームで(図6に示されるように)まとめて同時に、あるいは一度に一つずつ、照射することができる。実施形態において、溶接ビームは、複数の暗色マークが別の暗色マークの場所における溶接を妨げ得る影をつくらないようにして、またはそのような角度で、送ることができる。図6に示されるように、溶接ビーム111は、暗色マーク140に向けられた溶接ビームによってつくられる影180が別の暗色マークへの溶接ビームの送配を妨げないような角度で供給される。
【0047】
図5は、2つのレーザが用いられる、本発明の実施形態を示す。第1のレーザビーム111は、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザ、連続波レーザまたはパルスレーザを含む、いずれか適するタイプのレーザによって発生される。実施形態において、第1のレーザは第1の波長(λ1)を有するパルスレーザである。第2のレーザビーム112はいずれのタイプのレーザによっても発生され得る。実施形態において、第2のレーザは、溶接されるべきプラスチック/高分子材パーツの材料の透過ウインドウ内であるが、炭化されているかまたはマークが形成されている高分子材料には吸収され得る、波長(λ2)を有する連続波レーザまたはパルスレーザである。2つのレーザの波長(λ1及びλ2)は同じでも異なっていても差し支えない。第2のレーザがパルスレーザであれば、レーザパルスのパルス幅は0.5ピコ秒より広いいずれかの値とすることができる。実施形態において、レーザパルスの繰返し数は1kHzより大きいいずれかの値とすることができる。実施形態において、第2のレーザの(平均)パワー出力は0.1Wより大きい。2つのレーザビームを結合させるため、波長λ1においては透過率が高く、波長λ2においては反射率が高い、ダイクロイックミラー125を用いることができる。溶接場所またはその近傍に2つのビームを集束させるために(レンズ123で表される)結像光学系を用いることができるが両ビームを材料の同じ集束域体積または同じ深さに集束させる必要はない。
【0048】
図5に示される実施形態において、第1のレーザビーム111は、溶接されるべき2つの加工物130と131の界面近くのスポット140またはその近傍に集束される。パルスレーザで発生させることができる第1のレーザビームの波長(λ1)は2つのパーツの材料の透過ウインドウ内にあり、2つのパーツのバルク材料内部の集束場所にレーザパルスのエネルギーを送ることができる。パルスエネルギー及びパルス持続時間を適切に制御することによって、レーザ強度は、集束域体積内でだけ、(二光子吸収または多光子吸収のような、非線形効果による)非線形吸収閾または材料の破壊閾をこえることができる。次いで、炭化された場所が波長がλ2の第2のレーザのビームで照射される。レーザの波長(λ2)は2つのパーツの材料を透過でき、炭化材料では吸収され得るから、材料が炭化されている場所でだけ吸収がおこる。すなわち、炭化された場所は線形吸収によって第2のレーザのビームで局所的に加熱され得る。この熱は次いで熱伝導によって接合界面に伝えられて、2つのパーツ130と131の間の確実な接合または溶接部143になる、小可塑化域体積を生じさせる。実施形態において、2本のレーザビームは、接合されるべきパーツに同時に送ることができる。図5に示されるように、本方法は1段階で溶接部を設けることができる。
【0049】
別の実施形態において、図7A及び7Bに示されるように、本方法は2段階プロセスで溶接部を設けることができる。図7Aにおいて、パルスレーザによって発生させることができ、波長λ1を有する、第1のレーザビームが2つの透明高分子材パーツ130と131の界面またはその近傍のスポット140に集束されて、図1及び2で上述したように、暗色マーク、すなわち炭化領域を形成する。図7Bは、加工物130及び131にかけてスイープして溶接部を形成するようにレーザビーム112を整形できることを示す。例えば、以降の工程において、波長λ2を有するレーザビームを発生する、第2のレーザ115(図示せず)を、図7Aにしたがってマークが形成されている、加工物130及び131にかけて(矢印で示されるように)通過させて、溶接部または接合143を形成することができる。レーザビームを適切に整形することにより、溶接継目を一括して照射することができる。これは2段階法である。
【0050】
図8は、2つのレーザを複層パーツの層に溶接部を設けるために用いることができる、本発明の実施形態を示す。図8に示されるように、波長λ1を有するパルスレーザビームとすることができる第1のレーザビーム111及び波長λ2を有する連続波レーザビームとすることができる第2のレーザビーム112を、初めに、多層高分子材製品の下部層の間の界面に集束させることができる。例えば、図8に示されるように、2レーザアセンブリを透明高分子材の2つの下部層130と131の間の界面に集束させて、これらの2つの材料層の間に暗色マーク及び溶接部を形成することができる。次いで、(ダイクロイックミラー125及びレンズ123で表される)光学系によって、上側の場所、例えば多層アセンブリの層130と層150の間の界面またはその近傍に、2つのレーザビームを再集束させることができる。レーザを再集束させると、多層アセンブリの上側の場所に新しい暗色マーク及び溶接部を形成することができる。このようにすれば、透明高分子材の多層アセンブリに複数の溶接部を設けることができる。
【0051】
図9は、ポリスチレンについて、1mm厚ポリスチレン(ダウ985D)試料で測定した、いくつかの透過ウインドウを含む、透過スペクトルを示すグラフである。本開示の目的のため、透過ウインドウは、有用な透過率で材料を通過することができる光の波長範囲を意味する。例えば、透過ウインドウは、透過率がほぼ60%をこえるか、透過率が70%をこえるか、透過率が80%をこえるか、または透過率が90%をこえる、波長範囲である。実施形態において、この波長範囲内のビームを発生するレーザを、透明材料にマークを形成するために用いることができる。測定値は、広帯域光源からの2500nm〜200nmの透過率について、パーキン-エルマー950スペクトルフォトメータを60mm径積分球とともに用い、以下のパラメータ、
スペクトル帯域幅(PMT):2.0nm,
PbSサーボ,利得:5,
信号平均時間:0.5秒,
スキャン速度:180nm/分,
検出器変更:850nm,
アパーチャ;無,
を用いてとった。試料のIR透過率については、Nicolet Nexa 670FTIRを用い、以下のパラメータ、
スキャン:64,
分解能:8cm−1,
絞り:30%,
利得:1,
アパーチャ:6mm×19mm,
を用いて測定した。図9に示されるように、ポリスチレンについての(透過率がほぼ60%をこえる)透過ウインドウは約340nmと約2100nmの間である。ポリスチレン材の(透過率がほぼ85%をこえる)透過ウインドウは約390nmと約1610nmの間である。
【0052】
実施形態において、マークが形成されるべき材料は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステルまたは環状オレフィンコポリマーであるが、いかなる透明高分子材も用いることができる。さらに、材料はマークが形成されるべきポリマーの上または下に材料層を有することができる。この態様は、マークの上の材料層もレーザによって供給されているエネルギーの波長に対して透明である限り、本発明のマーク形成方法に影響を与えないであろう。
【0053】
以下に、上で論じた製品及び方法の様々な実施形態を説明する、非限定的実施例が提示される。
【実施例】
【0054】
実施例1:1レーザ溶接
図1に示されるように、単一のファイバパルスレーザを用いてポリスチレン加工物にマークを設けた。直径が5.5cmで、厚さが1.1mmのポリスチレン(ダウ685D)ディスクを用いた。厚さがやはり1.1mmの同じダウ685ポリスチレンでポリスチレンプレートを作製した。3軸平行移動ステージ上にプレートを置き、ディスクをプレートの上面に載せた。2つのパーツを密着させておくため、金属の錘をディスクの上面に、ただし溶接されるべき領域の外側に、載せた。図9に示されるように、ポリスチレン(ダウ685D)の透過ウインドウは390nm〜1610nmである。
【0055】
ファイバパルスレーザシステムは、発明者が本発明と同じであり、同じくコーニング社に譲渡されている、同時係属出願の、2009年7月28日に出願された、名称を「高分子材に表面下マークを設けるための方法(Method for Providing Sub-Surface Marks in Polymeric Materials)」とする、米国特許出願第12/5100360号の明細書に説明されている。
【0056】
(図2〜8に示されるように)レーザビーム111を供給するため、Ybドープファイバパルスレーザを用いた。出力パルスの中心波長は、ポリスチレン材の透過ウインドウ内にある、(図9に矢印で示される)1043nmであった。ファイバパルスレーザは、シード発振器、自己相似増幅器、パルスピッカー及びチャープパルス増幅器(CPA)の、4つのパーツからなる。シードレーザは、3dBスペクトルバンド幅が0.5nmであり、パルス幅(半値全幅;以下の本文の全てにおいて同じ定義が用いられる)が5.5ピコ秒の、18.8MHzパルスを発生する、受動モードロックYbドープファイバレーザとした。自己相似増幅器は、低Ybドープ光ファイバを用いる双方向ポンプファイバ増幅器とした。この増幅器は入力光パルスのスペクトルを自己相似増幅によって拡張するために用いた。このプロセスにおいて、パルスは線形チャーピングされた。この増幅器の後でパルススペクトルは約10nmに拡張されていた。次いで、ファイバピグテイル付音響変調器であるパルスピッカーにパルスを送り込んだ。最後に、ファイバパルスストレッチャ、2段Ybドープ増幅器及び一対のグリズムで形成されたパルス圧縮器を備える、CPAシステムによってパルスを増幅した。このファイバパルスレーザシステムは、様々な、パルス幅、パルス繰返し数及びエネルギーをもつ光パルスを発生することができた。光パルスの繰返し数は、パルスピッカーを用いて、73.6kHzから18.8MHzまで離散的に変えることができた。パルス幅は、圧縮器を調整することで、〜700フェムト秒から〜35ピコ秒まで連続的に調整することができた。エネルギーは20μJまで調整することができた。焦点距離が80mmのレンズをもつガルバノスキャンニングシステムにより、プレート131の上面(ディスク130との接触面)の下にパルスレーザビームを集束させて、スキャンした。図10は、ファイバパルスレーザを用いて溶接した2つのポリスチレン試料の写真を示す。レーザビームはプレート131の上面の直下に集束させた。レーザパルスのパルス幅、平均パワー及び繰返し数はそれぞれ、2.0ピコ秒、0.3W及び295kHzとした。集束点におけるビーム径は約20μmとした。図10に示されるように、溶接継目はレーザビームをスキャンすることで形成した文字列「Corning」である。文字列Corningの黒色は、ポリスチレンが炭化されていることを示す。溶接にはレーザビームの4パスを用いた。第3及び第4のパスではレーザビームをx軸及びy軸のいずれの方向にも0.1mmシフトさせた(z軸は溶接面に垂直である)。それぞれのパスのスキャン速度は1mm/秒とした。このプロセスは文字列の場所で2つの試料を接合(溶接)するに適していた。
【0057】
実施例2:2レーザ溶接
図11A及び11Bは、図5〜8で説明した2レーザ法の一実施形態を用いて溶接し合わせたパーツ(130及び131)の写真である。この場合も、実験に用いた試料は1枚のポリスチレンディスク130及び1枚のポリスチレンプレート131とした。(波長λ1=1043nmの)第1のパルスレーザビームは、上記実施例1に説明したレーザと同じファイバパルスレーザで発生させた。(波長λ2=980nmの)第2のパルスレーザビームは、連続波ダイオードレーザで発生させた。初めに、焦点距離が80mmのレンズをもつガルバノスキャンニングシステムを用い、ファイバパルスレーザを用いて、プレート131の上面の下(上面から〜0.2mm下)に、黒色の文字列「CORNING」及び「20um PES」のマークを作製した。ファイバレーザのパラメータは実施例1に用いたパラメータと同じとした。マーク形成には複パスマーク形成法を用いた。それぞれのマーク形成は10パスのレーザスキャンからなり、第1のパスは低速スキャン(40mm/秒)とし、以降のパス(第2〜第10のパス)は高速スキャン(150mm/秒)とした。2つのパスの間でレーザビームをx軸及びy軸のいずれの方向にも0.1mmシフトさせた(z軸は溶接面に垂直である)。次いで、プレートとディスクをクランプし合わせ、黒色文字「NI」の領域をコリメータされたダイオードレーザ出力ビームで照射した。コリメートビーム径は〜5mmとした。ダイオードレーザの出力パワーは20.6Wであった。約20秒後、照射した文字「NI」の周囲に一体接合が形成された。
【0058】
図11Bは溶接されたパーツの写真を示す。図11Bは、倍率5Xで撮った、文字「I」の上部の拡大像を示す。黒線がファイバパルスレーザでマーク形成された文字「I」(140)であり、黒線の周囲の領域(143)が溶接スポットである。
【0059】
本発明を上記のように説明したが、本発明が本開示の恩恵を有する当業者によって様々な態様で変形され得ることは明らかであろう。そのような変形は本発明の精神及び範囲からの新発展として見なされず、当業者に明白であろうような改変は、添付される特許請求項及びそれらの適法な等価形態の範囲内に含まれることになるとされる。
【符号の説明】
【0060】
100 レーザ溶接システム
110 パルスレーザ
111 パルスレーザビーム
120 光学系
121,123 レンズ
122 ミラー
130,131,150 加工物(パーツ)
132,133.151 加工物上面
134,135,152 加工物下面
140 溶接スポット(マーク)
141,143 溶接部(溶接域)
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条e項の下に、2010年2月16日に出願された米国仮特許出願第61/305013号の優先権の恩典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は全般的には、パルスレーザエネルギーを用いて高分子材料の表面または表面下にマークを作製し、一段階または二段階で、マークの位置に溶接部を形成することにより高分子材を溶着接合させるためのシステム及び方法に関する。さらに詳しくは、本発明は透明高分子材にレーザ溶接部を設けるためのシステム及び方法に関する。本方法によって作製された溶着材料も提供される。
【背景技術】
【0003】
プラスチック及び高分子材の溶接には広汎な方法が用いられる。プロセスには、摩擦溶接(振動溶接及び回転溶接)、超音波溶接、マイクロ波溶接、高周波溶接、ホットプレート溶接及びレーザ溶接がある。特定の用途に最も適する方法は、用いられるプラスチックの特性に、また用途及びそれにともなう要件にも、強く依存する。
【0004】
プラスチック及び高分子材のレーザ溶接は、エレクトロニクス、自動車及び生命科学への応用を含む、様々な工業分野に用いられている。透過レーザ溶接はプラスチック溶接に対して普及しているレーザ溶接技法である。しかし、この技法は相異なる透過特性を有する2つのパーツの溶接に限定される。例えば、コンポーネントの一方はレーザビーム波長に対して透明であり得るが、他方のコンポーネントはレーザビームのエネルギーを吸収する。レーザビームは上側の(透明な)コンポーネントを通過し、第2の(吸収性の)コンポーネントの表面に当たると、光は吸収されて熱に変換される。この熱が熱伝導によって透明コンポーネント内に伝えられ、両コンポーネントの材料を溶融させて溶着接合する。両パーツが同じ透過特性を有している場合、この技法を適用するためには、2つのコンポーネントの間に吸収添加剤を挿入する必要がある。吸収添加剤は一般に、それぞれの場合に用いられるレーザビーム放射波長において強い吸収を有する。レーザビームがそのような添加剤に当たると、添加剤が加熱され、熱伝導によって材料を可塑化して確実に溶着された接合を形成する。添加剤の使用は溶接のコスト及びシステムの複雑性を高めるだけでなく、多くの用途には許容され得ない汚染の可能性も生じさせる。例えば、生命科学に用いられるプラスチックには有害であり得る汚染物が含まれていてはならない。さらに、既存の溶接技法では、必要な吸収層が第1の溶接界面から先へのレーザビームの到達を妨げるから、複数のプラスチック層を溶接することができない。複数の材料層の溶接及び透過特性が同じ2つ(ないしさらに多くの)パーツの溶接を可能にするレーザ溶接方法の開発が望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態において、本発明は2つ(ないしさらに多くの)透明高分子材の層を溶着接合させるためのシステム及び方法を提供する。実施形態において、透明高分子材間に溶接部を形成するための、
それぞれが上面及び下面を有する、溶着接合されるべき少なくとも2つの高分子材を提供する工程であって、一方の高分子材の上面は他方の高分子材の下面に隣接し、透明高分子材は透過ウインドウを有するものである工程、
透明材料が互いに隣接している、一方の高分子材の上面または他方の高分子材の下面にある溶接スポットにレーザビームを集束させるように構成及び配置された光学系を提供する工程、
少なくとも2つの高分子材の透過ウインドウ内の波長においてパルスレーザビームを発生する少なくとも1つのパルスレーザを提供する工程、
溶接スポットにパルスレーザビームを集束させて、その結果、パルスレーザからの、溶接スポットに集束された、レーザビームに応答して溶接スポットが暗色に変わる工程、
暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程、及び
少なくとも2つの透明高分子材の間に溶接域を形成する工程、
を含む方法が提供される。
【0006】
実施形態において、方法は、少なくとも2つの透明高分子材の間に別の溶接スポットを別の溶接スポットにパルスレーザビームを再集束させることによって設ける工程を含む。実施形態において、方法は少なくとも3つの高分子材を提供する工程を含む。実施形態において、方法は溶着接合されるべき少なくとも3つの透明高分子材を提供する工程を含む。別の実施形態において、方法は、少なくとも3つの透明高分子材層によって与えられる界面において別の溶接スポットパルスレーザビームを再集束させることにより、少なくとも2つの透明高分子材の間に別の溶接スポットを設ける工程を含む。
【0007】
実施形態において、透明高分子材は、同じかまたは部分的に一致する透過ウインドウを有する、同じ透明高分子材または異なる透明高分子材を含む。実施形態において、透明高分子材は相異ならせることができ、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材のいずれか2つ以上のブレンドとすることができる。実施形態において、透明高分子材は同じとすることができ、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材のいずれか2つ以上のブレンドとすることができる。
【0008】
別の実施形態において、溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる工程は、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程と同じパルスレーザを用いて実施される。あるいは、実施形態において、溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる工程は、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程とは異なるレーザを用いて実施される。実施形態において、溶接域を形成するために、暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させるために用いられるレーザは連続波レーザである。
【0009】
実施形態において、パルスレーザはファイバレーザである。実施形態において、少なくとも1つのパルスレーザはYbドープファイバレーザを含む。実施形態において、少なくとも1つのパルスレーザは1ns未満のパルス幅においてレーザエネルギーを与える。
【0010】
実施形態において、方法は、溶接域を形成するため、溶着接合されるべき少なくとも2つの透明高分子材に対してレーザビームを移動させる工程を含む。あるいは、実施形態において、方法は、溶接域を形成するため、溶着接合されるべき少なくとも2つの透明高分子材をレーザビームに対して移動させる工程を含む。
【0011】
実施形態において、パルスレーザは、50kHzと100MHzの間のレーザパルス繰返し数及び、1ns未満または500ps未満あるいは0.1psと500psの間の、レーザパルス幅を与える。実施形態において、透明高分子材はマークまたは溶接部の形成を容易にするための、顔料、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤のような添加剤を含有していない。
【0012】
本発明は添付図面とともに読まれたときに以下の詳細な説明から最善に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は溶接部を形成するために高分子材加工物に光学系によって集束されるパルスレーザビームを示す略図である。
【図2】図2は図1の破線1で示される図1の領域の拡大図である。
【図3】図3は、溶接部を形成するため、溶接部を形成するレーザビームが複数の透明高分子材層を通過することができる、本発明の一実施形態を示す。
【図4】図4は第2のスポットのレーザを再集束させることによって別の透明高分子材層の間に第2の溶接スポットに第2の溶接部を形成できることを示す。
【図5】図5は、一段階プロセスで透明高分子材間に溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図6】図6は、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができ、マークの全てが、まとめて同時に、または一度に1つずつ、溶接ビームによって照射され得る、本発明の別の実施形態を示す。
【図7A】図7Aは、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図7B】図7Bは、二段階プロセスで溶接部を設けるために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図8】図8は、複数層パーツの層に溶接部を形成するために2つのレーザを用いることができる、本発明の実施形態を示す。
【図9】図9は、1mm厚のポリスチレン(ダウ685D)試料で測定した、いくつかの透過ウインドウを含む、ポリスチレンについての透過スペクトルを示すグラフである。
【図10】図10は本発明にしたがってポリスチレンプレートに溶接されたポリスチレンディスクの写真である。
【図11A】図11Aは(図5〜8に説明される2段階方法の実施形態を用いて溶着接合された)パーツの写真である。
【図11B】図11Bは(図5〜8に説明される2段階方法の実施形態を用いて溶着接合された)パーツの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は全般的に、2つの(ないしさらに多くの)透明高分子材パーツを溶着接合するためのシステムに関する。例えば、本発明の実施形態は、同じ透過特性を有する2つの(ないしさらに多くの)プラスチックまたは高分子材のパーツを溶着接合するための方法を提供する。これらの2つ以上のプラスチックまたは高分子材のパーツはレーザの波長に対して透明とすることができる。2つ以上のプラスチックまたは高分子材のパーツは同様の材料とすることができる。すなわち、2つ以上のパーツは同じ高分子材で作製することができる。さらに詳しくは、本発明の実施形態は、高分子材の溶接スポットにレーザエネルギーを供給するため、フェムト秒パルスレーザ、ピコ秒パルスレーザまたはナノ秒パルスレーザ、及び光学系を用いて、2つの高分子材の間の界面またはその近傍(溶接スポット)において(レーザビームの波長に対して透明な)透明高分子材に高コントラストのマークを形成するためのシステムに関する。材料にマークが形成されると、すなわち炭化がおこると、このマークは連続するかまたは以降のレーザ照射に対して線形吸収体としてはたらく。高コントラストマーク、すなわち炭化領域に集束される、継続するかまたは以降のレーザ照射が高コントラストマークの場所に熱を発生させる。この熱が熱伝導によってプラスチックパーツ間の界面を通過して、2つのパーツの間に接合すなわち溶接部を生じさせる。
【0015】
実施形態において、パルスレーザビームは、マークが形成されているから今ではパルスレーザビームの波長に対して吸収性である、マーク形成領域に改めて印加するかまたは継続して印加して局所熱を発生させることができ、この熱が高分子材の局所溶融をおこさせて溶接部を形成する。別の実施形態において、マーク領域にレーザビームを印加し、マーク領域に局所熱を発生させ、継目または接合または溶接部を形成するために、第2のレーザを用いることができる。
【0016】
この詳細な説明において、限定ではなく説明の目的のため、特定の詳細を開示する実施形態例が本発明の完全な理解を提供するために述べられる。しかし、本明細書に開示されるそのような特定の詳細に関わらない別の実施形態において本発明が実施され得ることが当業者には明らかであろう。他の場合に、周知のデバイス及び方法の詳細な説明は、本発明の説明を曖昧にしないため、省略されることがある。
【0017】
実施形態において、第1の炭化工程及び第2の加熱工程は同じフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザによって提供される。実施形態において、第1のマーク形成工程及び第2の加熱工程は、同じレーザにより、初めにマークを形成するため、次いでマーク領域すなわち炭化領域を加熱して溶接部を形成するために、迅速に継続して、レーザエネルギーを印加することによって行うことができる。
【0018】
別の実施形態において、第2の加熱工程は第2のレーザによって提供される。第2のレーザは連続波レーザまたはパルスレーザとすることができる。第2のレーザは炭化領域に向けられるレーザビームを供給し、線形吸収により局所加熱をおこさせる。実施形態において、マーク形成工程及び加熱工程は、迅速に継続しては行われない、別々の作製工程で行うことができる。すなわち、第1の作製工程は溶接したい高分子材の領域に暗色マークを設ける工程を含むことができる。これらのパーツは次いで、直ちに溶接工程に進むか、またはマーク形成工程と溶接工程の間に時間遅延を入れることができる。例えば、実施形態において、マークが付けられたパーツは後の溶接工程のために保管することができる。以降の作製工程は溶接したいマーク領域にレーザエネルギーを供給するために第2のレーザを用いることができる。実施形態において、溶接部は、第1のフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザが所望の溶接部位に集束されて、溶接部を形成するに十分な局所領域における材料の加熱を生じさせるレーザエネルギーを吸収する局所炭化領域を形成するときに、つくられる。別の実施形態において、溶接部は、例えば連続波(CW)とすることができる、第2のレーザが、第1のフェムト秒レーザ、ピコ秒レーザまたはナノ秒レーザをもちいてマークが形成されている領域に集束されてマーク領域を加熱し、よって溶接部を形成するときに、つくられる。2つのビームの波長は、同じとすることも、異ならせることもできるが、溶接されるべき2つのパーツの透過ウインドウ内にある。初めに、集束場所がパルスレーザビームを用いることにより、非線形吸収によって局所的に炭化される。集束場所は溶接されるべき2つのパーツの接合場所の近くである。次いで、炭化材料が連続波(CW)レーザビームの吸収体としてはたらき、線形吸収により局所過熱を生じさせる。この熱が次いで熱伝導により接合場所内に伝えられて2つのパーツの間に確実な接合を形成する。蒸気の方法のいずれも、2つ以上の層の溶接に適する。
【0019】
さらに、実施形態において、本発明のマーク形成方法及び溶接方法は、高分子材が、造影材料層、着色材料層、造影層、顔料、発泡剤、金属材、反射材、またはその他のレーザエネルギー吸収材料、あるいは高分子材の透過ウインドウ内で線形吸収材である添加剤を含んでいない態様を提供する。実施形態において、本発明の方法の実施形態にしたがってマークが形成される高分子材は、暗色マークを形成するために印加レーザエネルギーを吸収する添加剤を有していない。それどころか、暗色マークは、高分子材内の表面下暗色マークの形成を容易にするための高分子材内のレーザエネルギーを吸収する添加剤を用いずに、パルスレーザエネルギーの印加によって形成される。別の実施形態において、本方法で作製される物品も提供される。
【0020】
別の実施形態において、複数の透明高分子材層間に溶接部を設けるための方法が提供される。例えば、高分子材層はマーク形成レーザによって供給される光の波長に対して透明であるから、このレーザビームは材料に影響を与えずに透明層を通過する。1本ないし複数本のレーザビームを溶接されるべき物体内のある位置に集束させると、マークを形成することができ、続いて溶接部を形成することができる。レーザは次いで、第2のマーク及び第2の溶接部を形成するため、溶接されるべき物体内の異なるスポットに再集束させることができる。レーザは、技術上周知の、レンズ、ミラー、回折光学系及び偏光光学系を備えることができる光学系によって、再集束させることができる。
【0021】
例えば、透明高分子材層を所望の構造に積み重ね、溶接されるべき第1の層にマーク形成レーザを集束させ、次いで溶接されるべき第2の層にマーク形成レーザを集束させ、次いで溶接されるべき第3の層にマーク形成レーザを集束させ、以下同様にマーク形成レーザを集束させることで本発明の実施形態にしたがうレーザ溶接部を形成することによって、積層製品を形成することができる。例えば、多層アセンブリをレーザ溶着接合しなければならない場合、本発明の実施形態にしたがい、溶接されるべき最下層にレーザを集束させてマークを形成することができ、次いでマーク領域をさらに集束レーザエネルギーにさらして局所熱を生じさせて、溶接部を形成することができる。次いで、溶接されるべき最下層から1つ上の層にレーザを再集束させてマークを形成することができ、次いでマーク領域をさらに集束レーザエネルギーにさらして第2の局所加熱領域を形成して、第2の溶接部を形成することができる。この手順を複数回反復することができる。材料は、顔料または吸収材料層を含まず、マークが形成されるまではレーザビームの波長に対して透明であるから、レーザは障害なしに、また不要な加熱領域、マークまたは溶接部を形成せずに、複数の層部分を通して下方の層に集束させることができる。言い換えれば、レーザビームは、溶接されるべきスポットまたは領域にレーザビームが集束されるまで、他の領域を損傷させずに、あるいは不要なマークまたは溶接部を形成せずに、透明高分子材層を通って進むことができる。このようにすれば、複層透明高分子材製品を、高分子材または高分子材表面に、顔料、着色料、染料、発泡剤または添加剤、膨張剤、または造影材層を用いずに、製品を通して1本ないし複数本のレーザビームを再集束させることによって、作製することができる。
【0022】
高分子材または高分子材表面に、顔料、着色料、染料、発泡剤または添加剤、膨張剤、または造影材層のようなレーザエネルギー吸収材を添加せずに、透明高分子材にレーザマーク形成及びレーザ溶接を行い得ることは、コスト及びプロセスの観点から、また安全の面からも、有利である。添加剤を用いずに、また高分子材の表面に損傷を与えずに、透明高分子材を含む、高分子材にレーザマーク形成及びレーザ溶接を行い得ることは、コスト、プロセス及び製品機能の観点から、有利である。さらに、本発明の実施形態により、添加剤、吸収材またはマスクを用いずに複数のパーツ層のレーザ溶接が可能になる。レーザ溶接では高分子材パーツを接合させるための技術上既知の他の方法(例えば超音波溶接)よりも屑及び汚染の発生が少ない。さらに、本発明の実施形態を用いれば、廃棄物または副生物が生じない。実施形態は、高繰返し数パルスによりファイバパルスレーザを高速溶接に用いることができるから、工業環境での使用に適する。本発明の実施形態を用いれば、非常に微細な溶接部を達成することができ、あるいはより厚い溶接部を達成することができる。
【0023】
透明材料を含む、同じ材料でつくられたパーツにマークを形成して溶着接合することが有用であり、望ましい。顔料または吸収材層を含んでいない透明高分子材層にマークを形成して溶着接合することが有用であり、望ましい。高分子材にマークを形成する方法は、例えば、2009年7月28日に出願された、名称を「高分子材に表面下マークを設けるための方法(Method for Providing Sub-Surface Marks in Polymeric Materials)」とする、米国特許出願第12/5100360号の明細書に開示されている。この明細書の全体は上記開示が相反しない程度まで本明細書に含まれる。
【0024】
本発明の実施形態において、「透明ポリマー」または「透明高分子材」は、レーザ波長に対して十分な透明度を有し、染料、顔料、造影材、発泡剤、膨張剤、金属材または反射材、あるいはこれらの添加剤を含有する材料層のような、レーザエネルギーを吸収する添加剤を含んでいない、ポリマーまたは高分子材を意味する。実施形態において、透明高分子材はレーザエネルギーを吸収する添加剤を含有していないいずれかの高分子材または高分子材のブレンドである。別の実施形態において、透明高分子材は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、環状オレフィンコポリマー、または2つ以上のポリマーのコポリマーまたはブレンドである。実施形態において、透明材料は同様の材料である。例えば、2つの同じ高分子材層を本発明の実施形態にしたがって溶着接合することができる。別の実施形態において、2つの層は、部分的に一致する透過ウインドウを有する、相異なる材料である。すなわち、2つ以上の材料が透過ウインドウの少なくともいくらかの領域を共通に有する。一般に用いられるレーザ溶接応用において、溶着接合されるべき高分子材は、2つの材料の間にレーザ溶接部を設けるため、2つの材料は通常、相異なる透過ウインドウを有する必要があるから、同様の材料にならないことが多い。2つの材料が同様の材料でなければ、レーザは、そのレーザエネルギーに対して透明である最上層の材料を通過して、そのレーザエネルギーに対して透明ではない第2の材料層に到達する、レーザビームを供給する。レーザエネルギーがレーザエネルギーを吸収する材料に接触すると、局所熱が発生し、溶接部が形成され得る。これらの一般に用いられるレーザ溶接技法とは対照的に、本発明の実施形態では同様の透明高分子材のレーザ溶接が可能になる。実施形態においては、本発明の方法にしたがってマークが形成される、透明高分子材にマークを形成するために用いられているレーザエネルギーの波長に対する高分子材の透明度に影響を与えるであろう添加剤を含有していない、透明高分子材が提供される。実施形態において、透明高分子材にはレーザエネルギーを吸収する添加剤が含まれていない。別の実施形態において、高分子材は相異なる材料とすることができる。しかし、相異なる材料は、レーザの相異なる高分子材層の通過を可能にするため、部分的に一致する透過ウインドウを有するべきである。
【0025】
本発明の実施形態において、顔料、着色剤、染料、発泡剤または発泡添加剤、膨張剤、または造影材層のようなレーザエネルギーを吸収する添加剤を必要とせずに、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、環状オレフィンコポリマー、またはその他のポリマー、または2つ以上のポリマーのコポリマーまたはブレンド、あるいは同様の材料のような透明高分子材を、初めに透明高分子材にまたはその上に暗色マークを形成し、次いで、局所加熱を生じさせて局所溶接を行わせるレーザビームにマーク付材料をさらすことによって、溶着接合するための方法が提供される。本発明は、高エネルギー密度を有し、高分子材と非線形に相互作用して暗色マークを形成する、すなわち炭化を生じさせる、持続時間がフェムト秒、ピコ秒またはナノ秒と短い、レーザパルスを利用する。所望の溶接部が形成されるべき位置にこれらの短持続時間レーザパルスを集束させるかまたは交差させることにより、暗色マークが形成され得る。同じかまたは異なるレーザによる、以降のレーザビームへの暴露において、暗色マークは、レーザエネルギーを吸収し、マークの場所にレーザ溶接部を生じさせる局所熱を発生させるために用いることができる、コントラストを提供する。
【0026】
高コントラストマークまたは暗色マークは、本開示の目的のため、人間の眼で見ることができ、及び/または機械で読み取ることができ、周囲の材料より暗い色になっている、マークを意味する。例えば、高コントラストマークまたは暗色マークは、透明高分子材内で、黒色、茶色、紫色、青色、緑色の、あるいはその他の高コントラストの暗色または色付きの、マークに見えるであろう。
【0027】
本発明の実施形態は、溶着接合されるべき層に暗色マークを形成するために一連の、持続時間がフェムト秒、ピコ秒またはナノ秒と短い、レーザパルスを集束させ、続いて暗色マークの場所に局所熱を生じさせてレーザ溶接部を形成するレーザエネルギーにマーク付領域をさらすことによって形成される、一連の溶接部を積み重ねられた材料層に有する積層透明高分子材製品も提供する。
【0028】
実施形態において、単レーザ源を用いて高分子材材料体に高コントラストまたは暗色のマークをつくり込むことができる。レーザパルスの波長は高分子材の透過ウインドウ内にあるべきである。レーザパルスの波長が高分子材の透過ウインドウ内にあるから、個々のレーザパルスは、レーザエネルギーが集束されるかまたは別のレーザビームと交差して、高分子材と非線形に相互作用し、高分子材を炭化させて、高コントラストまたは暗色のマークを残すに十分なエネルギーを供給するまでは、材料を影響に与えずに高分子材を通過することができる。別の実施形態において、適切なエネルギーを有する複数のレーザパルスが高分子材内の単一のスポットに集束され、レーザパルスが集束スポットに同時に到達するようにタイミングがとられると、集束スポットにおいて暗色スポットが形成され得る。理論にはこだわらずに、1つより多くのレーザ源からの、単一のスポットに集束されるこれらのレーザエネルギーは複合して高分子材を破壊することができる。複合したこれらのレーザパルスは材料内に非線形吸収を生じさせ、高分子材に変化をおこさせる。高分子材は燃えるかまたは焦げ、これは炭化とも呼ばれる。高分子材は局所加熱された高分子材内部に捕らえられる煤を生じて、暗色の領域またはスポットを形成することができる。本発明の実施形態において、これらの暗色の領域またはスポットは溶接スポットである。高分子材またはレーザが相互に移動させると、より大きな暗色マーク及び溶接部を形成することができる。これらが溶接領域または溶接域である。例えば、システムの集束スポットに暗色スポットを形成し、次いで溶着接合されるべき高分子材をレーザに対して移動させることで接合または継目を設けることができる。線または領域の形態とすることができ、あるいは用途に必要ないずれかの形状とすることができる、別のスポットが形成される。これらの整形スポットは、暗化領域の場所において吸収されて局所熱を生じさせ、高分子材を一緒に溶融させる、別のレーザエネルギーにさらされると、溶接領域または溶接域を形成する、暗化領域を形成する。本発明の実施形態において、高分子材自体に顔料は含まれていない。実施形態において、高分子材に着色剤は含まれていない。実施形態において高分子材に染料は含まれていない。実施形態において、高分子材に発泡剤は含まれていない。実施形態において、高分子材に膨張剤は含まれていない。実施形態において、高分子材は、顔料、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤のいずれか1つ以上を含有する層を含んでいない。
【0029】
実施形態において、短く、高エネルギーのレーザパルスの複合は、高分子材が局所的に炭化され、この結果レーザ照射領域の永続的な黒化をおこす、光化学反応を高分子材内で誘起する。黒化領域はレーザ集束寸法の0.1〜100倍程度であり、この寸法は様々な用途について調整することができる。高分子材または加工物を1つまたは複数のレーザの集束点に対して移動させることによって、あるいは1つ(または複数)のレーザの集束点を加工物に対して移動させることによって、線、曲線、二次元の幾何学的形状、三次元の幾何学的形状またはその他いずれかの所望の形状または構造を含む、形状を加工物に与えることができる。
【0030】
高分子材のレーザマーク形成は、例えばCO2レーザまたはYAGレーザを用いて実証されている。これらのレーザでは、フェムト秒またはピコ秒のパルス幅を得ることができない。これらのレーザではナノ秒のパルス幅は得ることができる。これらのプロセスでは一般に、有用なマークを得るに十分な色変化を達成するため、発泡剤(または膨張剤)、吸収剤、着色剤、顔料または染料等のような添加剤が必要である。例えば、黒鉛、カーボンブラック、銅含有化合物、酸化モリブデン、TiO2含有化合物、プルシアンブルー、擬板チタン石(シュードブルッカイト)被覆雲母または白雲母を、高分子材またはプラスチックのバルクバッチに添加することができ、あるいは1つまたは複数の層として大きな製品に組み込むことができる。レーザエネルギーにさらす際には、例えばNd:YAGレーザでエネルギーが発生されるが、レーザは、用いられる顔料の高吸収波長領域にあって、顔料が炭化してマークを形成することができる、波長を有するいずれのタイプのレーザとすることもできる(米国特許第5928780号及び5977514号の明細書、及び米国特許出願公開第2006/0030631号明細書、及び特開平05-337659号公報を見よ)。
【0031】
フェムト秒レーザは、無変色で高分子材をアブレートするため(ピー・モレノ(P. Moreno)等,「炭素強化高分子材のフェムト秒レーザアブレーション(Femtosecond laser ablation of carbon reinforced polymers)」,Applied Surface Science,2006年,第252巻.p.4110〜4119)、及びポリスチレンから炭素微細構体を作製するため(ジェイ・アシュコム(J. Ashcom)等,「ポリスチレンのフェムト秒レーザ誘起炭化(Femtosecond laser-induced carbonization of polystyrene)」,Conference on Lasers and Electro-Optics(CLEO会議),2001年、p.231)に用いられている。さらに、高分子材にマークをつくり込むレーザマーク形成装置が開示されている(米国特許公開第2007/0086822号明細書)。しかし、これらのマークは非常に明るく、マークの視認性を高めるためにコア材料または色付材料の層が必要であった。
【0032】
実施形態において、本発明は、透明高分子材に高コントラスト(黒色)の表面下マークを、材料の表面に損傷を生じさせずに、形成するために、フェムト秒、ピコ秒またはナノ秒のレーザパルスを高繰返し数(50kHz〜30MHz)で用いるための方法を提供する。高分子材はレーザ波長に対して透明である。実施形態において、これらの方法は着色剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は顔料を必要としない。実施形態において、これらの方法は染料を必要としない。実施形態において、これらの方法は発泡剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は膨張剤を必要としない。実施形態において、これらの方法は、造影材料の層または、着色剤、染料、発泡剤または膨張剤を含有する材料の層を必要としない。
【0033】
50kHz〜30MHzのフェムト秒、ピコ秒及びナノ秒のパルスを発生させるには、ファイバパルスレーザが非常に適している。低コスト、高安定性及び小型であり、保守をそれほど要しないという、ファイバレーザの利点のため、本発明の実施形態へのこれらのレーザの使用は本質的に低コストであり、工業環境における使用に適している。さらに、高繰返し数パルスが用いられるから、これらの方法は高速のマーク形成及び溶接を提供することができる。
【0034】
図1は、1本のパルスレーザビーム、本発明のレーザ溶接システム100の一実施形態を示す。図1に示されるシステムは、
パルスレーザ110,
コントローラ115,
図1に示されるように、レンズ121,ミラー122及び第3のレンズ123を含む、光学系120,及び
第2の加工物131に溶接されるべき第1の加工物130,
の4つのコンポーネントを含む。加工物130及び131は透明高分子材である(本開示の目的のため、語句「加工物」は透明高分子材であり、2つの語句は互換で用いられ得る)。それぞれの加工物は上面(132及び133)及び下面(134及び135)を有する。レーザ110がコリメートされたパルスレーザビーム111を発生する。パルスレーザビームは、レンズ121,ミラー121及び別のレンズ123を有することができる光学制御系によって、ビームが調節され、集束される。図1に示されるように、パルスレーザビーム111は、レーザ110によって発生され、パルスレーザビーム径がレンズ121によって調節され、次いでレーザビームの方向がミラー122によって制御され、溶接スポット140にレーザビームを送るために別のレンズ123によって集束される。コントローラ115は(図1の破線で示されるように)レーザ110及び光学系120を制御することができる。溶接スポット140はマーク140と表すこともできる。コリメートされたパルスレーザビーム111がスポット140またはその近傍に向けられるかまたは集束されると。加熱域すなわち溶接域141において局所加熱がおこる。本開示において「〜(に)またはその近傍(に)」は、レーザの集束点が極めて精確な一点であっても、高分子材における集束レーザエネルギーの効果はレーザの集束点の周囲に拡がり得ることを意味する。さらに、一点に集束されたレーザエネルギーの存在は、そのポイントを高分子材内で移動及び変化させ得る。すなわち、コリメートされたパルスレーザビームが高分子材の上面の一点に集束されると、高分子材は変化する。例えば、高分子材は、溶融し、炭化し、暗化することができる。高分子材の表面にあったスポットが、レーザエネルギーにさらした後には、高分子材の表面にないことがあり得る。そのスポットは高分子材表面近くにあり得る。同様に、パルスレーザビームにさらされることでマークが形成された領域にレーザエネルギーが向けられると、高分子材は溶融し、変化するであろう。マーク領域は溶接域を形成するであろう。この溶接された領域はレーザの集束点に精確に形成されることはなく、あるいは暗化マークの精確な場所に形成されることはないであろう。高分子材はレーザエネルギーの印加に応答して変化するから、語句「〜(に)またはその近傍(に)」は本開示においてスポットまたは溶接部を一層正確に表すために用いられる。さらに、本発明の一実施形態において、レーザ溶接を実施するためには、レーザビームの集束点が高分子材料の表面または近傍にあることしか必要ではない。例えば、高分子材の表面下に暗色マークを形成するレーザ集束点は、高分子材の表面に集束点があったとした場合と全く同様に、溶接部を形成するための吸収点として役立つように有効に機能することができる。
【0035】
暗化領域へのさらなるレーザエネルギーの印加は、暗化領域またはその近傍に適用することができる。暗化領域または暗色スポット、すなわち溶接スポットはレーザエネルギーを吸収して局所加熱を生じさせるから、この加熱レーザエネルギーの集束点は、一実施形態において、暗色マークの形成に必要なだけ精確に制御される必要がある。したがって、暗色マークまたは溶接スポットの場所に熱を生じさせるために高分子材加工物に印加されるレーザエネルギーを暗色マーク「またはその近傍に」供給することができ、このことは当業者には当然であろう。溶接スポット140は、例えば、下側の加工物の上表面または上側の加工物の下表面またはその近傍とすることができる。実施形態において、スポットは、2つの加工物の間の接合または溶接が望ましい場所に加熱域または溶接域141が生じるように、溶接し合わされるべき表面またはその近傍にある。別の実施形態において、暗色マークが高分子材内に形成されている、個別の高分子材パーツまたは高分子材層の間に溶接部を設けるための方法が提供される。すなわち、実施形態において、第1の高分子材パーツまたは高分子材層内、あるいは隣の高分子材パーツまたは高分子材層に接してはいないが、局所加熱がおこると所望の場所に溶接部が形成される、所望の溶接場所の十分近くの、第2の高分子材パーツまたは高分子材層内のある位置に暗色マークを形成することができる。これは、高分子材の適切な局所溶融及び溶接部の形成に適するエネルギー強度を到達させるように溶接スポットにおけるビームの径及び形状を調整することによって達成することができる。実施形態において、レーザビーム111は、2つの透明高分子材層130と131の界面またはその近傍に暗色マーク140を形成するために、スポット140に集束される複数のレーザによって供給される複数本のレーザビームとすることができる。これらの複数本のビームはパルスレーザによって発生させることができ、統制されたパルスエネルギーを供給することができる。すなわち、パルスが同時に集束点に送られるように、レーザエネルギーのパルスのタイミングを合わせることができる。実施形態において、レーザビームは単一のレーザまたは多くの相異なるレーザによって発生させることができる。レーザの波長は同じであってもなくても差し支えない。しかし、全てのレーザの波長が加工物の材料の透過ウインドウ内にあるべきである。
【0036】
実施形態において、本発明の方法は、溶着接合されるべき加工物の表面またはその近傍の特定のスポット140に単一のパルスレーザからパルスレーザエネルギーを供給するために光学系120を用いる工程を含む。そのような、レンズ、ミラー、回折光学素子、偏光素子及びコントローラを備えることができる、光学系120はレーザ技術上周知である。光学系は図2〜7にダイクロイックミラー125及び(適用できる場合の)レンズ123で表されている。しかし、光学系120が別の素子を有し得ることを当業者であれば認めるであろう。
【0037】
本発明の実施形態において、レーザ110は以下の仕様を有することができる。レーザパルスの波長はマークが形成されるべき材料の透過ウインドウ内にあるべきである。出力パルスのパルス幅は、フェムト秒、ピコ秒またはナノ秒の範囲とすることができる。例えば、レーザの出力パルスのパルス幅はレーザの物理によってしか制限されず、0.3ピコ秒と100ナノ秒の間とすることができる。すなわち、出力パルスのパルス幅は、1ナノ秒より短く、500ピコ秒より短く、100ピコ秒より短く、50ピコ秒より短く、20ピコ秒より短く、10ピコより短く、5ピコ秒より短く、または1ピコ秒より短くすることができ、あるいはいずれか適する範囲とすることができる。
【0038】
実施形態において、パルスレーザは繰返し数を有するであろう。繰返し数は毎秒のパルス数である。レーザの出力パルスの繰返し数は、例えば、1kHz〜100MHz,20kHz〜100kHz,または100kHz〜10MHzの範囲にあるいずれかの値である。実施形態において、レーザパルスの繰返し数は50kHz〜500MHzの範囲内のいずれの値にもすることができる。そのようなレーザパルスの発生にはファイバパルスレーザが適している。パルス繰返し数が高くなるほど、毎秒のマーク数を益々多くすることが可能になり、これにより、高分子材間溶接毎秒を益々多くすることが可能になり得る。パルス繰返し数が高くなるほど、益々高速のマーク形成及び溶接が可能になり得る。高繰返し数パルスの使用は、パルスエネルギーを高めずにマーク形成体積(または面積)を大きくするから有利であり得る。例えば、パルス繰返し数が十分に高ければ、連続する複数のパルスが同じ集束領域内の材料と相互作用することができる。理論にこだわらずに、第1のパルスが集束スポットにおいて永続的構造変化または炭化を生じさせ、この結果、以降のパルスに対し、そのスポットにおいて線形吸収がおこるのであろう。この効果は周囲領域に対しする光強度閾を低めることができ、よって一層大きなマーク形成領域を達成することができる。繰返し数が熱限界以下である限り、(溶接工程ではなく)マーク形成工程において、パルスエネルギーを一定に保ったままで、パルス繰返し数を高くするほど、マーク形成速度が高まる。
【0039】
実施形態において、パルス持続時間に依存してレーザの出力パルスのエネルギーを選ぶことができる。例えば、レーザの出力パルスのエネルギーは、システムの必要に応じて、10nJから100mJの間、または10nJから10mJの間で選ばれる。例えば、パルス持続時間を短くすると、高分子材に高コントラストマークを形成するに必要なエネルギーを減じることができる。パルス持続時間を長くすると、高分子材に高コントラストマークを形成するに必要なエネルギーを高めることができる。上述した3つのパラメータは全て、特定のビーム径または集束条件に対して特定の透明高分子材に表面下暗色マークを形成するに適切な繰返し数及び十分なエネルギーと組み合わせられた、適切なパルス幅を有するレーザパルスを生成するために、変更することができる。
【0040】
パルスレーザは、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザまたはその他を含む、上記仕様を満たすいずれかの種類のレーザとすることができる。そのような種類のパルスの発生にはファイバパルスレーザが十分に適している。ファイバパルスレーザは、低コスト及び小型であり、保守を要しない。例えば、Ti:サファイア、YAG、Ndドープファイバパルスレーザ、Erドープファイバパルスレーザ及びCO2レーザを用いることができる。ファイバパルスレーザは50kHz〜50MHzの、フェムト秒パルス、ピコ秒パルス及びナノ秒パルスの発生に適している。例えば、(米国ミシガン州アナーバー(Ann Arbor)のIMRA Americaから入手できる)IMRA μJewel及び(米国ミシガン州プリムス(Plymouth)のRofin-Sinarから入手できる)Corelase(登録商標)X-lase(登録商標)ファイバレーザを用いることができる。(米国カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View)のNewportから入手できる)SpectraPhysics Spitfireをフェムト秒の発生に用いることができる。一実施形態において、レーザは、同時係属の米国特許出願公開第2008/0025348号明細書に開示されているような、高エネルギー超短パルスファイバレーザとすることができ、あるいは同時係属の米国特許出願第11/823680号明細書に説明されているような、低繰返し数リング共振器受動モードロックファイバレーザとすることができる(これらの明細書は本明細書に参照として含まれる)。ファイバレーザは一般に、低コスト、高安定性、高信頼性であり、小型で保守要件が緩やかであって、これらのレーザを工業環境での使用に適するレーザとする。
【0041】
再び図1に戻れば、本発明の実施形態において、例えば、単レンズ素子または複レンズ素子の光学系120を備えることができる、光学系120を、接合すなわち溶着接合されるべき2つの加工物の間の界面において、加工物の表面またはその近傍の集束点またはスポット140にパルスレーザビーム111を集束させるために用いることができる。本開示の目的のため、「界面」は別の表面に溶接されるべき表面またはその近傍の場所を意味する。例えば、加工物130と131の間の界面は、(図1に示されるように)下側の加工物131の上表面の直下に、または上側の加工物130の下表面の直上(図示せず)にあり得る。レーザビームが所望の溶接部の場所またはその近傍に集束され、その場所に暗色マークが形成される限り、その場所に、すなわちその界面に、溶接部を形成することができる。光学系120は、非線形吸収に適する光強度が到達するように、集束点140におけるビーム径及び形状を調整することもできる。さらに、加工物130及び131に対してレーザビーム111を移動させるか、またはレーザビーム111に対して加工物130及び131を移動させることによって、溶接継目を達成することができる。さらに、溶接界面において密着させておくため、クランプ具(図示せず)が必要になり得る。クランプ具は、接合させるパーツのいずれも固定しておくため及び、材料の最終的な接合または溶接部を得るための内在的な接合圧力を生じる、接合領域内の熱膨張に抗する圧力を与えるために用いることもできる。クランプ具が溶接されるべき領域を覆う場合には、レーザに対して透明な材料でクランプを作製するべきである。
【0042】
マークが形成されるべき材料130は、レーザ上に対して透明なプラスチックまたは高分子材とすることができる。図2は、図1に破線1で示される、図1の領域の拡大図である。図2は(レンズ123で表される)結像光学系によって一スポットに集束されるレーザビーム111を示す。図2に示される実施形態において、スポット140は第2の加工物131の表面の直下にある。しかし、別の実施形態において、スポットは上側の加工物130の下表面134またはその近傍におくことができる。すなわち、スポットは加工物130と131の間の界面におくことができる。スポット140に集束パルスレーザエネルギーを与えると、透明高分子材の一領域が加熱されて、高温域または溶接域141が形成される。実施形態において、高温域または溶接域143も形成する炭化領域140を形成するために、単一のパルスレーザが用いられる。図1及び図2に示されるように、高温域または溶接域143は上側の加工物130及び下側の加工物131のいずれにも生じる。実施形態において、高温域または溶接域143の一回の導入で、上側の加工物130と下側の加工物131の間に溶接部または接合を形成することができる。この実施形態において、プロセスは一段階レーザ溶接プロセスである。
【0043】
レーザパルスの繰返し数が十分に高い場合、同じ集束域体積において複数のパルスが材料と相互作用することができる。初めの数パルスが集束域体積の中心に永続的な構造変化または炭化を生じさせ、その場所において以降のパルスの線形吸収をもたらす、暗色マークを形成する。この線形吸収がレーザパルスの熱効率を大きく高める。したがって、レーザパルスの繰返し数を適切に制御することによって溶接効率を最適化することができる。
【0044】
図3は、溶接部を形成しているレーザビームが溶接部を形成するために複数の透明高分子材層を通過することができる、本発明の一実施形態を示す。例えば、実施形態において、パルスレーザビームは、溶接部が形成される集束点またはスポット140に到達する前に、レーザビームに対して透明である高分子材の層を通過することができる。図3は、それぞれが上面と下面(それぞれ、151と152,132と134,及び133と135)を有する、複数の加工物層150,130及び131を示す。図3は、加工物層130と131の間に、図1及び2に示される実施形態にしたがって、溶接部143が形成された後のパーツを示す。全ての材料層の高分子材はパルスレーザビームの波長に対して透明であるから、材料自体に、または所望の溶接部の領域に、レーザ不透材料は必要ではない。したがって、レーザエネルギーの投入時に、収束域またはスポットの外側に溶接部が形成されることはない。このようにすれば、レーザをさらに上方の層に再集束させて新しい溶接部を順次する材料層に形成することによって、レーザ不透材料またはレーザエネルギー吸収材料層を用いずに、材料層を溶着接合することができる。
【0045】
図4は、第2のスポットにレーザを再集束させることによって別の透明高分子材との間の第2の溶接スポットに第2の溶接部を形成できることを示す。実施形態において、マーク未形成層はレーザビームに対して透明であり、レーザビームが材料に影響を与えずに材料を通過することを可能にするから、多層製品に複数の溶接部を形成することができる。図4に示されるように、溶接スポット143において層130と131の交点に溶接部が形成され、スポット143における溶接部の形成後、第2の溶接スポット144にレーザ111が再集束される。実施形態において、溶接スポットは溶接線とすることができ、溶接線または接合線は、加工物に対してレーザを移動させるか、またはレーザビームに対して加工物を移動させることで形成することができる。レーザパルスはパーツのバルク材料の内部の任意の場所に集束させることができるから、本方法は複数の層の溶接に適している。複数の層を溶接する場合、層を溶接する順序は、最下層(レーザビームの出力側)から始めて最上層(レーザビームの入力側)に向かうべきである。例えば、図4及び8は3層の溶接構成の略図を示す。原理的に、溶接されるべき層の数は限定されない。唯一の要件は、最下層を除けば、全ての層の材料がレーザパルスに対して透明であることである。
【0046】
別の実施形態において、初めに様々な深さに、上で論じたように、暗色マーク140を形成し、次いで、例えば図6に示されるように、全てのマークに溶接ビーム111を供給することによって、複層アセンブリを作製することができる。マークの全てを溶接ビームで(図6に示されるように)まとめて同時に、あるいは一度に一つずつ、照射することができる。実施形態において、溶接ビームは、複数の暗色マークが別の暗色マークの場所における溶接を妨げ得る影をつくらないようにして、またはそのような角度で、送ることができる。図6に示されるように、溶接ビーム111は、暗色マーク140に向けられた溶接ビームによってつくられる影180が別の暗色マークへの溶接ビームの送配を妨げないような角度で供給される。
【0047】
図5は、2つのレーザが用いられる、本発明の実施形態を示す。第1のレーザビーム111は、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザ、連続波レーザまたはパルスレーザを含む、いずれか適するタイプのレーザによって発生される。実施形態において、第1のレーザは第1の波長(λ1)を有するパルスレーザである。第2のレーザビーム112はいずれのタイプのレーザによっても発生され得る。実施形態において、第2のレーザは、溶接されるべきプラスチック/高分子材パーツの材料の透過ウインドウ内であるが、炭化されているかまたはマークが形成されている高分子材料には吸収され得る、波長(λ2)を有する連続波レーザまたはパルスレーザである。2つのレーザの波長(λ1及びλ2)は同じでも異なっていても差し支えない。第2のレーザがパルスレーザであれば、レーザパルスのパルス幅は0.5ピコ秒より広いいずれかの値とすることができる。実施形態において、レーザパルスの繰返し数は1kHzより大きいいずれかの値とすることができる。実施形態において、第2のレーザの(平均)パワー出力は0.1Wより大きい。2つのレーザビームを結合させるため、波長λ1においては透過率が高く、波長λ2においては反射率が高い、ダイクロイックミラー125を用いることができる。溶接場所またはその近傍に2つのビームを集束させるために(レンズ123で表される)結像光学系を用いることができるが両ビームを材料の同じ集束域体積または同じ深さに集束させる必要はない。
【0048】
図5に示される実施形態において、第1のレーザビーム111は、溶接されるべき2つの加工物130と131の界面近くのスポット140またはその近傍に集束される。パルスレーザで発生させることができる第1のレーザビームの波長(λ1)は2つのパーツの材料の透過ウインドウ内にあり、2つのパーツのバルク材料内部の集束場所にレーザパルスのエネルギーを送ることができる。パルスエネルギー及びパルス持続時間を適切に制御することによって、レーザ強度は、集束域体積内でだけ、(二光子吸収または多光子吸収のような、非線形効果による)非線形吸収閾または材料の破壊閾をこえることができる。次いで、炭化された場所が波長がλ2の第2のレーザのビームで照射される。レーザの波長(λ2)は2つのパーツの材料を透過でき、炭化材料では吸収され得るから、材料が炭化されている場所でだけ吸収がおこる。すなわち、炭化された場所は線形吸収によって第2のレーザのビームで局所的に加熱され得る。この熱は次いで熱伝導によって接合界面に伝えられて、2つのパーツ130と131の間の確実な接合または溶接部143になる、小可塑化域体積を生じさせる。実施形態において、2本のレーザビームは、接合されるべきパーツに同時に送ることができる。図5に示されるように、本方法は1段階で溶接部を設けることができる。
【0049】
別の実施形態において、図7A及び7Bに示されるように、本方法は2段階プロセスで溶接部を設けることができる。図7Aにおいて、パルスレーザによって発生させることができ、波長λ1を有する、第1のレーザビームが2つの透明高分子材パーツ130と131の界面またはその近傍のスポット140に集束されて、図1及び2で上述したように、暗色マーク、すなわち炭化領域を形成する。図7Bは、加工物130及び131にかけてスイープして溶接部を形成するようにレーザビーム112を整形できることを示す。例えば、以降の工程において、波長λ2を有するレーザビームを発生する、第2のレーザ115(図示せず)を、図7Aにしたがってマークが形成されている、加工物130及び131にかけて(矢印で示されるように)通過させて、溶接部または接合143を形成することができる。レーザビームを適切に整形することにより、溶接継目を一括して照射することができる。これは2段階法である。
【0050】
図8は、2つのレーザを複層パーツの層に溶接部を設けるために用いることができる、本発明の実施形態を示す。図8に示されるように、波長λ1を有するパルスレーザビームとすることができる第1のレーザビーム111及び波長λ2を有する連続波レーザビームとすることができる第2のレーザビーム112を、初めに、多層高分子材製品の下部層の間の界面に集束させることができる。例えば、図8に示されるように、2レーザアセンブリを透明高分子材の2つの下部層130と131の間の界面に集束させて、これらの2つの材料層の間に暗色マーク及び溶接部を形成することができる。次いで、(ダイクロイックミラー125及びレンズ123で表される)光学系によって、上側の場所、例えば多層アセンブリの層130と層150の間の界面またはその近傍に、2つのレーザビームを再集束させることができる。レーザを再集束させると、多層アセンブリの上側の場所に新しい暗色マーク及び溶接部を形成することができる。このようにすれば、透明高分子材の多層アセンブリに複数の溶接部を設けることができる。
【0051】
図9は、ポリスチレンについて、1mm厚ポリスチレン(ダウ985D)試料で測定した、いくつかの透過ウインドウを含む、透過スペクトルを示すグラフである。本開示の目的のため、透過ウインドウは、有用な透過率で材料を通過することができる光の波長範囲を意味する。例えば、透過ウインドウは、透過率がほぼ60%をこえるか、透過率が70%をこえるか、透過率が80%をこえるか、または透過率が90%をこえる、波長範囲である。実施形態において、この波長範囲内のビームを発生するレーザを、透明材料にマークを形成するために用いることができる。測定値は、広帯域光源からの2500nm〜200nmの透過率について、パーキン-エルマー950スペクトルフォトメータを60mm径積分球とともに用い、以下のパラメータ、
スペクトル帯域幅(PMT):2.0nm,
PbSサーボ,利得:5,
信号平均時間:0.5秒,
スキャン速度:180nm/分,
検出器変更:850nm,
アパーチャ;無,
を用いてとった。試料のIR透過率については、Nicolet Nexa 670FTIRを用い、以下のパラメータ、
スキャン:64,
分解能:8cm−1,
絞り:30%,
利得:1,
アパーチャ:6mm×19mm,
を用いて測定した。図9に示されるように、ポリスチレンについての(透過率がほぼ60%をこえる)透過ウインドウは約340nmと約2100nmの間である。ポリスチレン材の(透過率がほぼ85%をこえる)透過ウインドウは約390nmと約1610nmの間である。
【0052】
実施形態において、マークが形成されるべき材料は、例えば、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステルまたは環状オレフィンコポリマーであるが、いかなる透明高分子材も用いることができる。さらに、材料はマークが形成されるべきポリマーの上または下に材料層を有することができる。この態様は、マークの上の材料層もレーザによって供給されているエネルギーの波長に対して透明である限り、本発明のマーク形成方法に影響を与えないであろう。
【0053】
以下に、上で論じた製品及び方法の様々な実施形態を説明する、非限定的実施例が提示される。
【実施例】
【0054】
実施例1:1レーザ溶接
図1に示されるように、単一のファイバパルスレーザを用いてポリスチレン加工物にマークを設けた。直径が5.5cmで、厚さが1.1mmのポリスチレン(ダウ685D)ディスクを用いた。厚さがやはり1.1mmの同じダウ685ポリスチレンでポリスチレンプレートを作製した。3軸平行移動ステージ上にプレートを置き、ディスクをプレートの上面に載せた。2つのパーツを密着させておくため、金属の錘をディスクの上面に、ただし溶接されるべき領域の外側に、載せた。図9に示されるように、ポリスチレン(ダウ685D)の透過ウインドウは390nm〜1610nmである。
【0055】
ファイバパルスレーザシステムは、発明者が本発明と同じであり、同じくコーニング社に譲渡されている、同時係属出願の、2009年7月28日に出願された、名称を「高分子材に表面下マークを設けるための方法(Method for Providing Sub-Surface Marks in Polymeric Materials)」とする、米国特許出願第12/5100360号の明細書に説明されている。
【0056】
(図2〜8に示されるように)レーザビーム111を供給するため、Ybドープファイバパルスレーザを用いた。出力パルスの中心波長は、ポリスチレン材の透過ウインドウ内にある、(図9に矢印で示される)1043nmであった。ファイバパルスレーザは、シード発振器、自己相似増幅器、パルスピッカー及びチャープパルス増幅器(CPA)の、4つのパーツからなる。シードレーザは、3dBスペクトルバンド幅が0.5nmであり、パルス幅(半値全幅;以下の本文の全てにおいて同じ定義が用いられる)が5.5ピコ秒の、18.8MHzパルスを発生する、受動モードロックYbドープファイバレーザとした。自己相似増幅器は、低Ybドープ光ファイバを用いる双方向ポンプファイバ増幅器とした。この増幅器は入力光パルスのスペクトルを自己相似増幅によって拡張するために用いた。このプロセスにおいて、パルスは線形チャーピングされた。この増幅器の後でパルススペクトルは約10nmに拡張されていた。次いで、ファイバピグテイル付音響変調器であるパルスピッカーにパルスを送り込んだ。最後に、ファイバパルスストレッチャ、2段Ybドープ増幅器及び一対のグリズムで形成されたパルス圧縮器を備える、CPAシステムによってパルスを増幅した。このファイバパルスレーザシステムは、様々な、パルス幅、パルス繰返し数及びエネルギーをもつ光パルスを発生することができた。光パルスの繰返し数は、パルスピッカーを用いて、73.6kHzから18.8MHzまで離散的に変えることができた。パルス幅は、圧縮器を調整することで、〜700フェムト秒から〜35ピコ秒まで連続的に調整することができた。エネルギーは20μJまで調整することができた。焦点距離が80mmのレンズをもつガルバノスキャンニングシステムにより、プレート131の上面(ディスク130との接触面)の下にパルスレーザビームを集束させて、スキャンした。図10は、ファイバパルスレーザを用いて溶接した2つのポリスチレン試料の写真を示す。レーザビームはプレート131の上面の直下に集束させた。レーザパルスのパルス幅、平均パワー及び繰返し数はそれぞれ、2.0ピコ秒、0.3W及び295kHzとした。集束点におけるビーム径は約20μmとした。図10に示されるように、溶接継目はレーザビームをスキャンすることで形成した文字列「Corning」である。文字列Corningの黒色は、ポリスチレンが炭化されていることを示す。溶接にはレーザビームの4パスを用いた。第3及び第4のパスではレーザビームをx軸及びy軸のいずれの方向にも0.1mmシフトさせた(z軸は溶接面に垂直である)。それぞれのパスのスキャン速度は1mm/秒とした。このプロセスは文字列の場所で2つの試料を接合(溶接)するに適していた。
【0057】
実施例2:2レーザ溶接
図11A及び11Bは、図5〜8で説明した2レーザ法の一実施形態を用いて溶接し合わせたパーツ(130及び131)の写真である。この場合も、実験に用いた試料は1枚のポリスチレンディスク130及び1枚のポリスチレンプレート131とした。(波長λ1=1043nmの)第1のパルスレーザビームは、上記実施例1に説明したレーザと同じファイバパルスレーザで発生させた。(波長λ2=980nmの)第2のパルスレーザビームは、連続波ダイオードレーザで発生させた。初めに、焦点距離が80mmのレンズをもつガルバノスキャンニングシステムを用い、ファイバパルスレーザを用いて、プレート131の上面の下(上面から〜0.2mm下)に、黒色の文字列「CORNING」及び「20um PES」のマークを作製した。ファイバレーザのパラメータは実施例1に用いたパラメータと同じとした。マーク形成には複パスマーク形成法を用いた。それぞれのマーク形成は10パスのレーザスキャンからなり、第1のパスは低速スキャン(40mm/秒)とし、以降のパス(第2〜第10のパス)は高速スキャン(150mm/秒)とした。2つのパスの間でレーザビームをx軸及びy軸のいずれの方向にも0.1mmシフトさせた(z軸は溶接面に垂直である)。次いで、プレートとディスクをクランプし合わせ、黒色文字「NI」の領域をコリメータされたダイオードレーザ出力ビームで照射した。コリメートビーム径は〜5mmとした。ダイオードレーザの出力パワーは20.6Wであった。約20秒後、照射した文字「NI」の周囲に一体接合が形成された。
【0058】
図11Bは溶接されたパーツの写真を示す。図11Bは、倍率5Xで撮った、文字「I」の上部の拡大像を示す。黒線がファイバパルスレーザでマーク形成された文字「I」(140)であり、黒線の周囲の領域(143)が溶接スポットである。
【0059】
本発明を上記のように説明したが、本発明が本開示の恩恵を有する当業者によって様々な態様で変形され得ることは明らかであろう。そのような変形は本発明の精神及び範囲からの新発展として見なされず、当業者に明白であろうような改変は、添付される特許請求項及びそれらの適法な等価形態の範囲内に含まれることになるとされる。
【符号の説明】
【0060】
100 レーザ溶接システム
110 パルスレーザ
111 パルスレーザビーム
120 光学系
121,123 レンズ
122 ミラー
130,131,150 加工物(パーツ)
132,133.151 加工物上面
134,135,152 加工物下面
140 溶接スポット(マーク)
141,143 溶接部(溶接域)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明高分子材間に溶接部を作製するための方法において、
溶着接合されるべき、それぞれが上面(132,133)及び下面(134,135)を有する、少なくとも2つの透明高分子材(130,131)を提供する工程であって、一方の透明高分子材の前記上表面は他方の透明高分子材の前記下表面に隣接し、前記透明高分子材は透過ウインドウを有するものである工程、
前記透明高分子材が相互に隣接する、一方の透明高分子材の前記上面またはその近傍あるいは他方の透明高分子材の前記下面またはその近傍において、溶接スポット(140)にレーザビーム(111)を集束させるように構成及び配置された光学系(120)を提供する工程、
前記少なくとも2つの透明高分子材の前記透過ウインドウ内の波長においてパルスレーザビーム(111)を発生する少なくとも1つのパルスレーザ(110)を提供する工程、
前記溶接スポットに前記パルスレーザビームを集束させ、その結果、前記パルスレーザにより前記溶接スポット(140)に集束された前記レーザビームに応答して、前記溶接スポット(140)が暗色に変わる工程、
前記暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程、及び
前記少なくとも2つの透明高分子材の間に溶接域(141)を形成する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる前記工程が、溶接域(141)を形成するために前記暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる前記工程とは異なるレーザを用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの透明高分子材が、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材の内のいずれか2つ以上のブレンドを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザの内の少なくとも1つがYbドープファイバパルスレーザを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶接高分子器材において、請求項1から4のいずれかに記載の方法によって作製されていることを特徴とする溶接高分子器材。
【請求項1】
透明高分子材間に溶接部を作製するための方法において、
溶着接合されるべき、それぞれが上面(132,133)及び下面(134,135)を有する、少なくとも2つの透明高分子材(130,131)を提供する工程であって、一方の透明高分子材の前記上表面は他方の透明高分子材の前記下表面に隣接し、前記透明高分子材は透過ウインドウを有するものである工程、
前記透明高分子材が相互に隣接する、一方の透明高分子材の前記上面またはその近傍あるいは他方の透明高分子材の前記下面またはその近傍において、溶接スポット(140)にレーザビーム(111)を集束させるように構成及び配置された光学系(120)を提供する工程、
前記少なくとも2つの透明高分子材の前記透過ウインドウ内の波長においてパルスレーザビーム(111)を発生する少なくとも1つのパルスレーザ(110)を提供する工程、
前記溶接スポットに前記パルスレーザビームを集束させ、その結果、前記パルスレーザにより前記溶接スポット(140)に集束された前記レーザビームに応答して、前記溶接スポット(140)が暗色に変わる工程、
前記暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる工程、及び
前記少なくとも2つの透明高分子材の間に溶接域(141)を形成する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶接スポットにパルスレーザビームを集束させる前記工程が、溶接域(141)を形成するために前記暗色溶接スポットまたはその近傍にレーザビームを集束させる前記工程とは異なるレーザを用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの透明高分子材が、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタル酸エステル、ポリフェニレンオキシド、またはこれらの高分子材の内のいずれか2つ以上のブレンドを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザの内の少なくとも1つがYbドープファイバパルスレーザを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
溶接高分子器材において、請求項1から4のいずれかに記載の方法によって作製されていることを特徴とする溶接高分子器材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【公表番号】特表2013−519551(P2013−519551A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553928(P2012−553928)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/023676
【国際公開番号】WO2011/102972
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/US2011/023676
【国際公開番号】WO2011/102972
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】
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