説明

遊星歯車減速機の潤滑装置

【課題】油浴潤滑を採用した遊星歯車減速機において、遊星歯車を支持する軸受の潤滑油に金属摩耗粉等の異物が混入しても軸受内部に浸入することを防止し、その長寿命化を図ることである。
【解決手段】遊星歯車14を支持する遊星ピン15の軸心に油穴26とこれと直交した分岐穴27を設け、油浴潤滑によって油穴26及び分岐穴27を経て軸受に給油するようにした潤滑装置において、油穴26の入口31から分岐穴27の出口32に至るまでの給油経路の途中に所定メッシュサイズのフィルター33を組み込んだ構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建設機械等に用いられる遊星歯車減速機の潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械の走行・旋回用の減速機として、一般に遊星歯車減速機(以下、単に「減速機」という場合がある。)が用いられ、その遊星歯車と遊星ピンとの間に介在される転がり軸受として通常はニードル軸受が使用され、そのニードル軸受を始めとする減速機の潤滑方式としては油浴潤滑が採用されることが多い。
【0003】
油浴潤滑においては、油面が概ね減速機中心付近に設定され、減速機が駆動されると、キャリヤによって連結された複数の遊星歯車が自転しつつ公転して、
油槽中の潤滑油(以下、単に「油」という。)に出入りし、油に浸かったときに遊星ピンに設けられた油穴から油が流入し、遊星歯車の軸受に供給される(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示された遊星歯車減速機の潤滑装置においては、遊星ピンの油穴の開放端に、油面から出た場合に内部の油の流出を防止するための蓋部材や一方向弁を設ける構成が開示されている。油中においては、蓋部材や一方向弁等は開放状態にあり、油が自然に流入するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−169237号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、減速機の運転中には各歯車(太陽歯車、遊星歯車及び内歯歯車)の噛み合い面等において金属の摩耗粉が発生し、これらが油中に混入することが避けられない。このため、摩耗粉を含んだ油が遊星ピンの油穴から遊星歯車内に浸入し、その軸受の転動体が摩耗粉を噛み込みながら転がることにより、圧痕を発生させ、軸受を短寿命化させる恐れがある。
【0007】
そこで、この発明は、歯車の摩耗粉等の異物が油中に混入しても、軸受寿命に影響を及ぼすような大きな異物が遊星歯車の内部に浸入することを防止することにより、軸受の長寿命化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明に係る遊星歯車減速機の潤滑装置は、遊星歯車とこれを支持する遊星ピンの間に転がり軸受が介在され、前記遊星ピンの軸心に少なくとも一端が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が前記遊星ピンの外径面に開放された分岐穴が設けられ、油浴潤滑によって前記油穴及び分岐穴を経て前記転がり軸受に給油するようにした遊星歯車減速機の潤滑装置において、前記油穴の入口から分岐穴の出口に至るまでの給油経路の途中に所定メッシュサイズのフィルターを組み込んだ構成としたものである。
【0009】
フィルターの組み込み位置としては、油穴の開放端部、分岐穴の両方の開放端部、油穴と分岐穴の交差部がある。
【発明の効果】
【0010】
前記のように、遊星ピンに設けられる油穴とこれに交差した分岐穴によって形成される給油経路の途中にフィルターを設けたことにより、遊星歯車の軸受に金属摩耗粉等の異物が供給されることが防止でき、軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施形態1の遊星歯車減速機の一部断面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の拡大断面図である。
【図3】図3は、図1の他の例のX1−X1線の拡大断面図である。
【図4】図4は、図1の他の例のX1−X1線の拡大断面図である。
【図5】図5は、P/C(P:動等価荷重、C:基本定格荷重)と寿命修正係数(aN)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明を実施するための形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0013】
図1から図4に示した実施形態1は、遊星歯車減速機の潤滑装置に関するものである。この場合の遊星歯車減速機は、入力軸11、その入力軸11と同軸状態に取り付けられた太陽歯車12、太陽歯車12の外径側において減速機のケーシング(図示省略)に同心状態に固定された内歯歯車13、太陽歯車12と内歯歯車13との間に介在され周方向の等配位置(図示の場合は4個所)に配置された複数個の遊星歯車14、各遊星歯車14の回転を支持する遊星ピン15、すべての遊星ピン15を回転自在な状態に連結した環状のキャリヤ16、キャリヤ16と同心状態に一体に設けられた出力軸17とにより構成される。
【0014】
図2に示したように、遊星歯車14と遊星ピン15の間にニードル軸受18が介在される。遊星ピン15は遊星歯車14の両側に突き出しており、その一方の突き出し部19が、遊星歯車14との間にサイドワッシャ20を介して前記のキャリヤ16に設けたピン穴21に嵌入固定される。また、他方の突き出し部22も遊星歯車14との間にサイドワッシャ23を介して抜け止め部材24のピン穴25に嵌入固定される。抜け止め部材24は、個別の部材であってもよいが、キャリヤ16と同様の環状の部材であってもよいし、キャリヤ16と一体になってもよい。
【0015】
前記の遊星ピン15の軸心に油穴26が貫通状態に設けられ、その油穴26の中間部分において分岐穴27が交差部30において直交するように設けられる。分岐穴27の両端部は遊星ピン15を径方向に貫通し、ニードル軸受18の転走面となっている遊星ピン15の外径面に開放されている。
【0016】
油がニードル軸受18に対しする給油経路は、油穴26の両端部を入口31とし、交差部30を経て、分岐穴27の両端部を出口32とするものである。その経路の途中にフィルター33が組み込まれる。図2の場合は、油穴26の両端部、即ち入口33の部分にフィルター33が組み込まれる。
なお、油穴26はその一端部が閉鎖されている場合もあり、その場合は閉塞端にフィルター33は不要である。
【0017】
その他、フィルター33は分岐穴27の両端部、即ち出口32の部分に組み込まれる場合(図3参照)、油穴26と分岐穴27の交差部30(図4参照)に組み込まれる場合がある。交差部30に組み込まれる場合のフィルター33は、交差部30の形状に従い、油穴26及び分岐穴27に部分的に差し込まれる突起34、35を設けることにより十字形に形成したものが用いられる。十字形のフィルター33は、油穴26及び分岐穴27のいずれの方向に対しても抜け止め効果がある。
【0018】
前記フィルター33のメッシュサイズは、0.03mm以上、0.1mm未満のものが望ましい。0.030mm以上とするのは、0.03mm未満の微細な異物は軸受寿命に対する影響を無視することができる一方、油の流れを阻害しないようにするためである。0.1mm未満とするのは、0.1mm以上の大きい異物を噛み込むと軸受寿命が格段に低下するからである。
【表1】

【0019】
フィルターのメッシュサイズと潤滑油の汚染状況の関係について、表1に示すものが知られている。これによると、メッシュサイズが30μm(0.03mm)未満の場合の汚染状況は「清浄」「極めて清浄」となっている。また、メッシュサイズが100μm(0.1mm)を超えると「強度汚染」「重度汚染」となっている。
【0020】
また、転がり軸受の寿命についての修正された計算式に含まれる寿命修正係数(aN)は、図5に示したように、「清浄」「極めて清浄」の場合は十分に大きい数値であり、長寿命となるのに対し、「強度汚染」「重度汚染」の場合は1未満となり、軸受寿命が短くなる傾向があることが分かる。
【0021】
実施形態1に係る遊星歯車減速機の潤滑装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0022】
この場合の減速機の潤滑方式は油浴潤滑が採用され、減速機を概ねその中心付近まで(図1の油面L参照)浸す。減速機が駆動されると、遊星歯車14は自転しつつ公転して油内に出入りする。油中にあるとき油穴26に流入した油は、分岐穴27を経てニードル軸受18側に供給される。給油経路の途中において油がフィルター33を通過する際に、油に混入している摩耗粉その他の異物が捕捉される。これにより、ニードル軸受18へ供給される油は浄化されるので軸受の長寿命化を図ることができる。
【符号の説明】
【0023】
11 入力軸
12 太陽歯車
13 内歯歯車
14 遊星歯車
15 遊星ピン
16 キャリヤ
17 出力軸
18 ニードル軸受
19 突き出し部
20 サイドワッシャ
21 ピン穴
22 突き出し部
23 サイドワッシャ
24 抜け止め部材
25 ピン穴
26 油穴
27 分岐穴
28 ガイド穴
29 弁体
30 交差部
31 入口
32 出口
33 フィルター
34、35 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車とこれを支持する遊星ピンの間に転がり軸受が介在され、前記遊星ピンの軸心に少なくとも一端部が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が前記遊星ピンの外径面に開放された分岐穴が設けられ、油浴潤滑によって前記油穴及び分岐穴を経て前記転がり軸受に給油するようにした遊星歯車減速機の潤滑装置において、前記油穴の入口から分岐穴の出口に至るまでの給油経路の途中に所定メッシュサイズのフィルターを組み込んだことを特徴とする遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項2】
前記遊星ピンが前記遊星歯車の両側に一定長さ突き出し、その一方の突き出し部にキャリヤ、他方の突き出し部に抜け止め部材がそれぞれ嵌合固定されたことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項3】
前記転がり軸受が、ニードル軸受であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項4】
前記フィルターの組み込み位置が、前記油穴の開放端部であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項5】
前記フィルターの組み込み位置が、前記分岐穴の両方の開放端部であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項6】
前記フィルターの組み込み位置が、前記油穴と分岐穴の交差部であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項7】
前記交差部に組み込まれるフィルターの形状が、交差部の形状に従って十字形に形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項8】
前記フィルターのメッシュサイズが、0.03mm以上、0.1mm未満であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の遊星歯車減速機の潤滑装置。
【請求項9】
転がり軸受を介して遊星歯車を支持する遊星歯車減速機の遊星ピンにおいて、前記遊星ピンの軸心に少なくとも一端部が開放された油穴及び前記油穴と直交し両端部が外径面に開放された分岐穴が設けられ、前記油穴の入口から分岐穴の出口に至るまでの潤滑油の経路の途中に所定メッシュサイズのフィルターを組み込んだことを特徴とする遊星歯車減速機の遊星ピン。
【請求項10】
入力軸、その入力軸と同軸状態に取り付けられた太陽歯車、前記太陽歯車の外径側に同心状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車との間に介在された複数個の遊星歯車、前記各遊星歯車の回転を支持する遊星ピン、前記各遊星ピンを回転自在な状態に連結したキャリヤ、前記キャリヤと同心状態に設けられた出力軸からなる遊星歯車減速機において、前記遊星歯車の軸受の潤滑装置として、請求項1から8のいずれかに記載の潤滑装置を用いたことを特徴とする遊星歯車減速機。
【請求項11】
入力軸、その入力軸と同軸状態に取り付けられた太陽歯車、前記太陽歯車の外径側に同心状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車との間に介在された複数個の遊星歯車、前記各遊星歯車の回転を支持する遊星ピン、前記各遊星ピンを回転自在な状態に連結したキャリヤ、前記キャリヤと同心状態に設けられた出力軸からなる遊星歯車減速機において、前記遊星ピンとして請求項9に記載の遊星ピンを用いたことを特徴とする遊星歯車減速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72545(P2013−72545A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214503(P2011−214503)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】