説明

遊星歯車装置

【課題】遊星歯車装置における遊星歯車を支持する軸受において、その外輪の冷却効果を高めることである。
【解決手段】遊星歯車装置において、遊星歯車14の本体部と一体化された外輪24に冷却油を通過させる冷却穴29が軸方向に設けられ、装置外部に冷却穴29に対応した冷却油ノズル19が設置され、その冷却油ノズル19から噴射された冷却油が冷却穴29を通過する間に、遊星歯車14を支持するころ軸受21の外輪24を冷却させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遊星歯車装置に関し、特に遊星歯車を支持する軸受の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車装置において、遊星歯車を支持する転がり軸受は、その外輪が歯車本体と一体化された一体タイプと、外輪と歯車本体が別体に形成され、歯車本体の内径面に外輪が緊密に嵌合された別体タイプがある(特許文献1)。そのいずれのタイプにおいても、遊星歯車は負荷を受けながら自転しつつ公転するため、これと噛み合う太陽歯車及び内歯歯車との摩擦により発熱する。その熱が転がり軸受の外輪部分に伝導されるため、外輪部分と内輪部分の温度差が顕著になり、軸受の予圧が変化する等軸受の諸特性に悪影響を及ぼす。その温度差を小さくする対策として外輪部分を軸受の潤滑油によって冷却する方法が考えられる。
【0003】
遊星歯車を支持する転がり軸受に対する給油構造として、支持軸に設けた給油通路から軸受の内輪に設けたノズル穴を通して軸受内部に給油する構造が知られている(特許文献1)。また、遊星歯車から軸方向に離れた外部に給油ノズルを設置し、その給油ノズルを軸受幅面に向けるとともに、その給油ノズルから供給される潤滑油が軸受の径方向外部へ逸脱することを防止し軸受内部に向かわせるように、軸受外輪の端面にオイルスクープリングを装着した給油構造も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−317885号公報
【特許文献2】特開平11−101333号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遊星歯車を支持する転がり軸受の内輪はその支持軸に固定されているため、公転のみを行い、自転をすることがないので遊星歯車の公転中心から見た内輪の向きは常に一定である。このため、特許文献1に開示された給油構造の場合は、軸受内部に供給された潤滑油は公転による遠心力を受け、公転中心から遠い部分に片寄る傾向がある。その結果、給油はもっぱら公転中心から遠い部分の給油穴から行われ、近い部分の給油穴からは十分に給油することができず、その部分に対向した外輪部分の潤滑及び冷却作用は不十分となる問題がある。
【0006】
また、特許文献2に開示された給油構造の場合は、潤滑性能の向上には効果的であるが、潤滑油の接触は軌道面に限られるため、軸受外輪の温度上昇を積極的に抑制する冷却効果は小さい。
【0007】
そこで、この発明は、遊星歯車を支持する転がり軸受の外輪の冷却効果を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明は、太陽歯車、その周りに同芯状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車の間に介在され両方の歯車と噛み合った遊星歯車、前記遊星歯車の支持軸に連結されたキャリヤとからなり、前記太陽歯車の支持軸と前記キャリヤの支持軸のいずれか一方を入力軸、他方を出力軸とし、前記遊星歯車の本体部の内径面と支持軸の間に転がり軸受が介在された遊星歯車装置において、前記遊星歯車の本体部に冷却油を通過させる冷却穴が軸方向に複数個所設けられ、装置外部に前記冷却穴に対応した冷却油ノズルが設けられた構成としたものである。
【0009】
前記遊星歯車装置の作動中において、冷却油ノズルから噴射される冷却油が冷却穴に流入し、遊星歯車の本体部を軸方向に他端部まで移動して排出される。その移動途中において冷却油が本体部の熱を奪い冷却する。
【0010】
遊星歯車の本体部と転がり軸受の外輪とが一体化されている場合は、本体部を冷却することは、即ち外輪を冷却することになる。本体部と転がり軸受の外輪とが別体である場合は、本体部を通じて外輪が冷却される。前記冷却穴の流入端部に冷却油のガイド部材を設けたり、冷却穴に外向きの勾配をつけたりすることにより、冷却油の通過量を増加させ、冷却効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、この発明によれば、遊星歯車の本体部に設けられた冷却穴に外部に設置された冷却ノズルからの冷却油を供給することにより、前記本体部と一体又はその本体部に嵌合された遊星歯車の転がり軸受の外輪を冷却し、内輪との温度差を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態1の遊星歯車減速装置の一部省略断面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3は、同上の変形例の一部断面図である。
【図4】図4(a)は、実施形態2の一部省略断面図、図4(b)は、図4(a)のX2−X2線の断面図、図4(c)は変形例の一部省略断面図である。
【図5】図5(a)は、実施形態3の一部省略断面図、図5(b)は、図5(a)のX3−X3線の断面図である。
【図6】図6(a)、図6(b)は、それぞれ他の実施形態の一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
[実施形態1]
図1及び図2に遊星歯車装置の一例として遊星歯車減速装置を示す。この減速装置は、入力軸11が太陽歯車12の支持軸となっている。その太陽歯車12と、太陽歯車12の周りに固定された内歯歯車13との間にこれらの歯車12、13と噛み合った遊星歯車14が複数個所に介在される。各遊星歯車14の支持軸15の一端部に径方向のキャリヤ16が一体化され、そのキャリヤ16の他端が出力軸17(図2参照)と一体化されている。出力軸17がキャリヤ16の支持軸となっている。出力軸17は、入力軸11と同軸状態に設けられる。
【0015】
前記遊星歯車14は、その支持軸15の周りに介在された自動調心型のころ軸受21により自転しつつ太陽歯車12の周りを公転し、前記キャリヤ16を介して出力軸17をその公転速度で減速回転させる。この場合の減速比は、Zs/(Zs+Zr)となる。ただし、Zsは太陽歯車12の歯数、Zrは内歯歯車13の歯数である。前記の入力と出力を入れ替えると、遊星歯車増速装置として使用することができる。
【0016】
前記の支持軸15の一方の端面に入力軸11側に開放された給油溜り18が設けられ、その給油溜り18の開放面に対向した給油ノズル19が装置外部に設置される。
【0017】
前記の自動調心型のころ軸受21は、内輪22に二列の軌道溝23a、23bが設けられ、これらに対向して外輪24に球面の軌道面25が設けられる。外輪24の軌道面25の中心が軸受中心に一致させることにより自動調心機能を付与している。各軌道溝23a、23bと軌道面25の間に二列のたる形のころ26が保持器27によって保持された状態で介在される。
【0018】
前記の外輪24は、遊星歯車14の本体部と一体化された一体タイプであり、その外輪24の外径面に遊星歯車14の歯部14aが形成される。図3に示したように、遊星歯車14の本体部14bと外輪24を別体に形成し、その外輪24を本体部14bの内径面に嵌合一体化する場合(別体タイプ)もある。
【0019】
前記の一体タイプ及び別体タイプのいずれの場合にも、外輪24の両端面間に軸方向に貫通した冷却穴29が周方向の複数個所に所定の間隔をおいて設けられる。冷却穴29の前記給油溜り18の開放側の端部が冷却油の流入端部31、他方の端部が流出端部32となっている。
【0020】
流入端部31に比べ流出端部32の方が相対的に径方向外側に設けられ、冷却穴29は流入端部31側から流出端部32に至るに従い径方向外側へ傾斜する勾配が付与されている。また、前記冷却穴29の中間部において、径方向外向きに分岐し歯部14aの歯底に通じる分岐穴33が設けられる。
【0021】
前記流入端部31の外径側の外輪24の端面に沿って、一定長さの円弧状のガイド部材34が取り付けられる。ガイド部材34は断面L形をなし、その脚部39の屈曲された外縁部39aが外輪24の端面に外周縁に沿って固定される。ガイド部材34は、装置外部において流入端部31に向けて設けられた冷却油ノズル35から噴射される冷却油を流入端部31に集める作用を行う。また、冷却穴29が外向きに傾斜していることにより、内部に流入した冷却油に遊星歯車14の回転に伴う遠心力が作用し、流出端部32側へ円滑に排出させることができる。前記の冷却油としては、潤滑油を用いることができる。
【0022】
なお、前記の給油溜り18の周壁には、周方向に複数の連通穴36が設けられ、その連通穴36と合致する給油穴37が内輪22に設けられる。
【0023】
実施形態1の遊星歯車装置は以上のようなものであり、次にその作用について説明する。
【0024】
入力軸11に一定回転速度のトルクが入力されると、入力軸11と一体の太陽歯車12が回転し、その太陽歯車12と内歯歯車13と噛み合った遊星歯車14が自転しつつ公転し、その支持軸15と一体のキャリヤ16及びキャリヤ16と一体の出力軸17が前記の公転速度で減速回転する。このようにして入力トルクを出力側へ伝達する間に、遊星歯車14の歯部14aは、太陽歯車12と内歯歯車13との噛み合い部分の摩擦によって発熱する。その熱は外輪24と一体化された本体部に伝導される。
【0025】
一方、給油ノズル19から噴射された潤滑油は、給油溜り18から、連通穴36及び給油穴37を経て、遠心力によってころ軸受21の内部に供給される。また冷却油ノズル35から噴射される冷却油は、ガイド部材34によって受け止められ冷却穴29に導かれる。冷却油は、遠心力の作用を受けて流入端部31から流出端部32まで移動し、その移動途中において、外輪24の熱を奪ってこれを冷却する。
【0026】
また、冷却穴29から分岐穴33を経て歯部14aの歯底に供給された冷却油は歯部14aを直接冷却する。
[実施形態2]
【0027】
次に、実施形態2について図4に基づいて説明する。
図4(a)(b)の場合は、ガイド部材34に沿った外輪24の端面に油溜めの容積を増やすための溝状凹部38を設けている。ガイド部材34の脚部39は、凹部38の外周側の内面に挿入固定される。凹部38の底面に冷却穴29の流入端部31が開放される。この凹部38を設けることにより、冷却油の滞留量が増加し、冷却穴29を通過する冷却油の増加を図り、冷却効果を向上させることができる。
【0028】
図4(c)は、ガイド部材34に沿った外輪24の端面に、前記の凹部38に代えて切欠き部40を設け、その切欠き部40に冷却穴29の流入端部31を開放している。ガイド部材34の脚部39は屈曲され、その外縁部39aが外輪24の対面に固定される。この場合も、切欠き部40によって前記と同様に冷却油の滞留量を増加させることができる。
[実施形態3]
【0029】
図5(a)(b)に示した実施形態3は、遊星歯車14を軸方向に挟んでその両側に冷却油ノズル35、35aを設置する場合である。この場合は、周方向に所定の間隔で設けられた前記の冷却穴29の相互間に、傾斜方向が反対の冷却穴29aを所要数設けたものである。冷却穴29aの流入端部31a、流出端部32aの位置も前記の場合と反対になっており、その流入端部31aに沿ってガイド部材34aが設けられる。ガイド部材34aに沿って凹部38aが設けられる。また、冷却穴29aの途中に分岐穴33aも同様に設けられる。
【0030】
この構成によると、一定の傾斜角の冷却穴29だけでは冷却できない部分を、逆傾斜角をもった冷却穴29aによって冷却できるので、外輪24の冷却範囲を広げることができる。
[その他の実施形態]
【0031】
図6(a)に示したように、ガイド部材34、凹部38等を省略した構成をとることもできる。この場合は、流入端部31に直接流入した潤滑油が流出端部32から排出される。さらに図6(b)に示したように、冷却穴29の勾配を無くした構成もとることができる。この場合は、流入端部31に直接流入した潤滑油が、流入時のエネルギーだけで流出端部32に達して排出される。
【符号の説明】
【0032】
11 入力軸
12 太陽歯車
13 内歯歯車
14 遊星歯車
14a 歯部
14b 本体部
15 支持軸
16 キャリヤ
17 出力軸
18 給油溜り
19 給油ノズル
21 ころ軸受
22 内輪
23a、23b 軌道溝
24 外輪
25 軌道面
26 ころ
27 保持器
29、29a 冷却穴
31、31a 流入端部
32、32a 流出端部
33、33a 分岐穴
34、34a ガイド部材
35、35a 冷却油ノズル
36 連通穴
37 給油穴
38、38a 凹部
39 脚部
39a 外縁部
40 切欠き部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽歯車、その周りに同芯状態に固定された内歯歯車、前記太陽歯車と内歯歯車の間に介在され両方の歯車と噛み合った遊星歯車、前記遊星歯車の支持軸に連結されたキャリヤとからなり、前記太陽歯車の支持軸と前記キャリヤの支持軸のいずれか一方を入力軸、他方を出力軸とし、前記遊星歯車の本体部の内径面と支持軸の間に転がり軸受が介在された遊星歯車装置において、前記遊星歯車の本体部に冷却油を通過させる冷却穴が軸方向に複数個所設けられ、装置外部に前記冷却穴に対応した冷却油ノズルが設けられたことを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項2】
前記遊星歯車の本体部と転がり軸受の外輪とが一体化されたことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項3】
前記遊星歯車の本体部と転がり軸受の外輪とが別体であることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項4】
前記冷却穴の流入端部に冷却油のガイド部材を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の遊星歯車装置。
【請求項5】
前記ガイド部材に沿った部分において、前記冷却穴の流入端部を含む範囲に油溜め凹部が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の遊星歯車装置。
【請求項6】
前記冷却穴が、流入端部から流出端部に至るに従い外径側へ傾斜する勾配を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の遊星歯車装置。
【請求項7】
前記冷却穴の途中に遊星歯車の歯底に連通した分岐穴が設けられたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の遊星歯車装置。
【請求項8】
前記冷却穴の流入端部が遊星歯車の一方の端面に配置された冷却穴と、他方の端面に配置された冷却穴とが混在して、その両側の流入端部に対応して冷却油ノズルが遊星歯車の両側に設けられたことを特徴とする請求項1から7に記載の遊星歯車装置。
【請求項9】
前記冷却油として潤滑油を使用したことを特徴とする請求項1から8に記載の遊星歯車装置。
【請求項10】
前記遊星歯車の支持軸の端面に軸方向に開放された給油溜りが設けられ、その給油溜りの周壁に内輪の給油穴に通じた連通穴が設けられ、装置外部に設けた給油ノズルを前記給油溜りに臨ませたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の遊星歯車装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−202449(P2012−202449A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65794(P2011−65794)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】