説明

運転支援装置

【課題】 本発明は、事故の発生を簡素な構造で抑制することができる運転支援装置を提供する。
【解決手段】 運転者支援装置10は、運転者20の目21の映像を撮影する赤外線カメラ30と、判定装置40と、情報表示装置50とを備えている。判定装置40は、赤外線カメラ30の撮影映像から運転者20のまばたきと視線移動とを検出する表情検出部41と、まばたきと視線移動とから覚醒度と認知度と情報呈示閾値Lとパニック発生度数Pとを検出する運転者状態検出部42と、情報呈示閾値Lとパニック発生度数Pの積算値Peとを比較して運転者20が異常状態になる可能性が高い状態を判定するパニック予兆判定部43とを備えている。情報表示装置50は、運転者20が異常状態になる可能性が高い状態であると判定されると注意をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のパニック行動などの危険の発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の事故の発生の原因としては、乗員が、当該乗員の意図しない操作を行うこと、例えば、後進するべくアクセルを踏み込んだ場合にギヤが前進に設定されていることがある。このような場合であっても事故の発生を抑制するために、運転者の意図に反する運転操作が行われた際に、車両の動作を制御する安全装置を備えることが提案されている。
【0003】
この種の安全装置は、カメラ装置によって撮影した運転者の撮影映像を解析することによって、各時点での運転者の意図を検出する。また、ギヤの位置を検出するギヤ検知部を備えており、ギヤの位置から車両が前進するのか後進するのかを検出する。
【0004】
安全装置は、運転者の意図が前進の場合においてギヤの位置が後進にある場合には、運転者による操作が当該運転者の意図とは異なると判断して、アクセル操作を無効にする。同様に、運転者の意図が後進の場合においてギヤの位置が前進にある場合には、アクセル操作を無効する(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、自動車の事故の発生原因として、乗員がパニック状態になることによって車両の制御が不安定になることがある。このような場合であっても事故の発生を抑制するために、運転者のパニック状態を判定すると、車両が安全に走行していないとして危険を回避するように車両を制御する走行制御装置が提案されている。
【0006】
この種の走行制御装置では、運転者の腕の動き方やペダルの踏み込み方などの運転者の動作量、および、運転者の発する声の大きさによって、運転者がパニック状態であるか否かを判定する(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
また、集中状態、居眠り状態、眠気葛藤状態などの運転者の状態を検出するとともに、当該運転者の状態に合わせて警報を発するなどの運転支援を行い、事故の発生を抑制する技術が提案されている。
【0008】
この種の技術では、運転者の状態を検出する技術として、複数のセンサを用いて運転者状態閾値を検出し、当該運転者状態閾値に基づいて運転者状態を検出する。運転者状態閾値を検出するために、運転者の覚醒度を反映した運転者情報と、運転者の注意集中度を反映した運転者情報と、運転者の運転能力を反映した運転者情報との内の少なくともとも2つの情報と、車両の運転状態や外部環境状態を示す車両・運転環境情報とを必要とする。
【0009】
これら情報を得るために複数のセンサや機器を用いる。例えば運転者の覚醒度が反映された運転者情報を得るためにカメラによって撮影された運転者の顔の映像から運転者が一定時間以上眼を閉じている時間の割合を示す閉眼時間割合を算出する。また、運転者の注意集中度が反映された情報を得るために、撮影された画像から頭部加速度を頭部動揺量として検出する加速度検出器と、シート尻下部の上下加速度を検出する加速度センサを用いる。このように、カメラや複数のセンサを用いる(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−14752号公報
【特許文献2】特開2007−269310号公報
【特許文献3】特開2007−265377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、実際に、運転者の意図と異なる操作が行われたことを検出する技術である。また、特許文献2は、実際に運転者がパニック状態になったことを検出する技術である。
【0012】
このように、特許文献1,2は、生じた事象(特許文献1の場合は、運転者の意図と異なる操作。特許文献2の場合は、パニック状態の発生)に対して対処をする技術であって、当該事象によって事故が発生することが考えられる。
【0013】
また、運転者の状態を検出し、当該状態に応じて運転支援を行う特許文献3の技術では、運転者の状態を示す各種情報を検出するために、複数のセンサなどを必要とする。つまり、運転者状態判定装置の構造が複雑になり、コストが高くなる傾向にある。コストが高くなると、当該装置の普及が阻害される傾向にある。
【0014】
本発明は、事故の発生を簡素な構造で抑制することができる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願の請求項1に記載の発明の運転支援装置は、運転者のまばたきに基づいて運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、運転者の視線の動きに基づいて、当該運転者の運転に対する集中の度合いを示す認知度を検出する認知度検出手段と、運転者が意図しない操作を行った状態と運転者がパニックになった状態とのうち少なくともいずれか一方の状態である異常状態になる可能性が高い状態を判定する閾値を検出する閾値検出手段と、前記覚醒度検出手段によって検出された運転者の覚醒度および前記認知度検出手段によって検出された運転者の認知度に基づいて、運転者の運転状態を示す運転者状態判定値を検出する運転者状態判定値検出手段と、前記運転者状態判定値を前記閾値と比較し、運転者が前記異常状態になる可能性が高い状態であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に基づいて、運転者に注意する注意手段とを備える。
【0016】
本願の請求項2に記載の発明の運転支援装置は、請求項1に記載の運転支援装置において、前記認知度と前記覚醒度との組み合わせから求められるパニック発生度数をPとし、車両の過去の走行のうち、所定距離以上走行した回数をnとし、kを1からnまでの変数とした場合、前記車両の過去の走行のうち、前記所定距離以上走行した走行のうちk番目の走行での前記パニック発生度数Pの積算値をPkとし、前記車両の過去の走行のうち、前記所定距離以上走行した走行のうちk番面の走行での走行時間をTkとし、現在の走行の走行時間をTaとし、前記閾値をLとすると、
【数1】

【0017】
となり、
前記運転者状態判定値を、現在の走行での前記パニック発生度数の積算値であるIとすると、前記判定手段は、前記運転者状態判定値Iが前記閾値Lより大きくとなると、前記運転者が前記異常状態になる可能性が高い状態であると判定する。
【0018】
本願の請求項3に記載の発明の運転支援装置は、運転者のまばたきに基づいて運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、運転者の視線の動きに基づいて、当該運転者の運転に対する集中の度合いを示す認知度を検出する認知度検出手段と、前記覚醒度検出手段によって検出された運転者の覚醒度および前認知度検出手段によって検出された運転者の認知度に基づいて、運転者の運転状態を示す運転者状態判定値を検出する運転者状態判定値検出手段と、現在の走行の前記運転者状態判定値を表示する表示装置とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、認知度を用いることによって、運転者がパニック状態になる前の状態または意図しない操作を行う前の状態のうち少なくともいずれか一方の状態を検出することができる。このため、事故の発生を抑制することができる。
【0020】
また、覚醒度は、運転者のまばたきに基づいて検出され、認知度は運転者の視線の動きに基づいて検出される。このため、覚醒度と認知度とは、運転者の目の動き(まばたき、視線の動き)を検出すればよい。例えば、カメラによって運転者の目を撮影すればよい。このため、運転支援装置の構造を簡素にすることができる。
【0021】
このように、本発明は、事故の発生を簡素な構造で抑制することができる運転支援装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る運転支援装置を示す概略図。
【図2】覚醒度が低い状態の一例である状態と、覚醒度が高い状態の一例である状態との、各々でのまばたきの時間の頻度分布を示すグラフ。
【図3】運転初期期間に検出されたまばたきの分布を示すグラフ。
【図4】判定時間から得られる覚醒度と、顔の表情から得られる覚醒度との相関のシミュレーション結果を示すグラフ。
【図5】覚醒度の第1〜5のレベルの状態を示す表。
【図6】運転者の認知度が通常状態の場合での、所定期間の運転者のx軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図7】運転者の認知度が通常状態の場合での、所定期間の運転者のy軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図8】運転者の認知度が小さくなった状態での所定期間内の運転者のy軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図9】運転者の認知度が小さくなった状態での所定期間内の運転者のx軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図10】運転者の認知度が小さくなった状態での運転者のx軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図11】運転者の認知度が小さくなった状態での運転者のy軸方向の視線の動きを示すリターンマップ。
【図12】覚醒度と認知度とに基づいて運転者のパニック発生度数が求めるマップ。
【図13】図1に示された運転支援装置の運転初期期間の動作を示すフローチャート。
【図14】図1に示された運転支援装置の運転初期期間経過以降での動作を示すフローチャート。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る運転支援装置を示す概略図。
【図16】図15に示された運転支援装置の、運転初期期間以降の動作を示すフローチャート。
【図17】図15に示された運転支援装置が検出した、現在の走行でのパニック発生度数の積算値を示す棒グラフ。
【図18】図15に示された運転支援装置が検出した、現在の走行でのパニック発生度数の積算値を示す時系列グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の実施形態に係る運転支援装置を、図1〜14を用いて説明する。図1は、運転者支援装置10を示す概略図である。運転者支援装置10は、一例として、エンジンによって走行可能となる自動車に搭載されている。自動車1は、本発明で言う車両の一例である。なお、これに限定されず、例えば電気自動車などに搭載されてもよい。
【0024】
図1に示すように、運転者支援装置10は、運転者20の目21を撮影する赤外線カメラ30と、判定装置40と、情報表示装置50と、警報装置60と、香りを放出可能な放香装置70とを備えている。なお、図1は、自動車内において運転席に着座する運転者20の近傍を概略的に示している。
【0025】
赤外線カメラ30は、赤外線を運転者20の目21に照射し、目21で反射された赤外線を撮影する。判定装置40は、表情検出部41と、運転者状態検出部42と、パニック予兆判定部43とを備えている。
【0026】
表情検出部41は、赤外線カメラ30によって撮影された運転者20の目21の画像から、運転者20のまばたきを検出する。具体的には、表情検出部41は、赤外線カメラ30によって撮影された運転者20の目21の映像の経時的変化からまぶたの開閉を検出することでまばたきを検出する。
【0027】
本発明では、一回のまばたきにかかる時間を、まばたき閉じ時間とする。なお、図1中の範囲F1内に示すように、まぶた22が閉じ始めてから、まぶた22が閉じ、再びまぶた22が開くまでを一回のまばたきとする。まぶた22が開くとは、通常位置まで開く状態であって、開動作が停止するまでである。表情検出部41は、上記のように検出される各まばたき閉じ時間を検出し、保存している。
【0028】
また、表情検出部41は、運転者20の視線の動きを検出する。具体的には、赤外線カメラ30によって撮影された運転者20の黒目23の位置の動きの軌跡を検出し、保存する。
【0029】
運転者状態検出部42は、運転者20の覚醒度と、運転者20の認知度と、運転者20の状態を示す運転者状態判定値Iとを検出する。
【0030】
まず、覚醒度について説明する。本発明で言う覚醒度とは、運転者20の覚醒の度合いを示す。覚醒度が低い状態は、運転者が眠い状態を示す。覚醒度が高い状態は、運転者がしっかり覚醒している状態を示す。覚醒度は、まばたきに基づいて検出される。
【0031】
人間のまばたき閉じ時間は個人差があるが、一般に覚醒度が低下すると(低い状態では)長くなる傾向にある。図2は、覚醒度が高い状態の一例である状態B1と、覚醒度が低い状態の一例である状態B2との、各々でのまばたき閉じ時間の頻度分布α,βを概略的に示している。図2中の横軸は、時間を示しており、図中右側に進むにつれて時間が長くなることを示す。図2中の縦軸は、頻度を示しており、図中上側に進むにつれて頻度が高くなることを示す
図2に示すように、状態B1の分布αでは、短いまばたき閉じ時間の頻度が高くなる。状態B2の分布βでは、時間の長いまばたき閉じ時間の頻度が高くなる。このように、覚醒度が低下するにしたがって、分布αから分布βに変化する傾向にある。つまり、覚醒度の低下にともなって、頻度の高いまばたき閉じ時間が、図中aからbに変化し、時間が長くなる。この際、一般的には頻度分布の形状も変化する。なお、まばたき閉じ時間の頻度分布の形状や、覚醒度の変化に伴う頻度分布の形状変化には個人差がある。
【0032】
本実施形態では、長いまばたきを判定する判定時間をTs(閾値)とし、この判定時間Tsよりも長いまばたき閉じ時間を有するまばたきを、長いまばたきと判定する。そして、本実施形態では、運転を予め設定される所定時間ごとに区切り、当該所定時間ごとに所定時間内に検出される全まばたき回数N1に対する上記長いまばたきの回数N2の割合R(R=N2/N1)に基づいて、運転者の覚醒度を第1〜5のレベルに分類する。
【0033】
長いまばたきについて説明する。運転者20の覚醒度は、通常では運転初期期間には充分高いと考えられる。運転初期期間では、運転者20の運転に対する緊張感や運転を開始するという意識が強く作用するので、運転者20の覚醒度が充分に高い状態となる。しかし、運転時間が長くなるにつれて、運転に対する慣れや運転に対する疲労によって、覚醒度が低下すると考えられる。このため、運転開始時から所定時間が経過するまでの運転初期期間内での運転者20のまばたきの傾向を調べれば、運転者20に固有の標準的な情報を得ることができる。
【0034】
ここで、運転開始と、走行とについて定義する。運転開始は、運転者がイグニッションキーをスタート位置まで回すなどしてエンジンが駆動を開始した時点である。また、エンジンが駆動を開始した時点を走行開始時とする。運転者がイグニッションキーをオフ位置まで回してエンジンが駆動を停止すると、走行が終了したとする。運転初期期間とは、運転開始時から所定期間である。
【0035】
電気自動車の場合は、運転開始時および走行開始時は、モータがオンとなった時点、つまり回転可能となった時点(アクセルを踏むとモータが回転する状態)である。走行の終了は、モータがオフとなった時点(アクセルを踏んでもモータが回転しない状態)である。走行は、モータがオンからオフとなるまでの期間であwる。
【0036】
図3は、運転者20の運転開始時から運転初期期間に検出されたまばたきの分布を示している。図3に示すように、覚醒度が高い状態(運転初期期間)でのまばたき閉じ時間の頻度のピーク(Tm)を含む主要な頻度の分布領域、つまり、標準的なまばたき閉じ時間の範囲は、時間の短い領域に位置する。
【0037】
したがって、上記標準的なまばたき閉じ時間の範囲に基づいて、運転者20の覚醒度の低下に伴う時間の長いまばたきを判定するための判定時間Tsを設定すれば、運転者20に固有の長いまばたきを検出することができる。
【0038】
本実施形態では、高覚醒度におけるまばたき閉じ時間の頻度分布から、その最頻値Tmに対してX%となる位置で頻度分布をスライスしたときの時間範囲を、運転者20に固有な標準的なまばたき閉じ時間の範囲、つまり標準的なまばたき閉じ時間の分布領域の時間幅Aとして求めている。さらに、時間幅Aの中心値を標準的なまばたき閉じ時間Tcとする。長いまばたきを判定する判定時間Tsは、標準的なまばたき閉じ時間Tcよりも時間幅AのY%長い時間とする。このため、Ts=Tc+A×Y/100となる。スライス率X%と、時間のスライド率Y%については、後で詳細に説明する。
【0039】
つぎに、覚醒度の第1〜5のレベルについて説明する。第1〜5のレベルは、レベルが上がるにつれて覚醒度が高くなる。言い換えると、レベルが下がるにつれて覚醒度が下がり、つまり、運転者20が有する眠気が大きくなることを示す。
【0040】
図5は、第1〜5のレベルの状態を示す表である。図5に示すように、第5のレベルは、完全に起きており、眠気が全くない状態である。第4のレベルは、やや眠気を有している状態である。第3のレベルは、明らかに眠いのがわかる状態である。第2のレベルは、周期的に居眠りをしている状態である。第1のレベルは、ほぼ居眠りをしている状態である。
【0041】
つぎに、所定時間内での全まばたき回数N1に対する長いまばたき回数N2の割合Rと覚醒度のレベルとの関係について説明する。本実施形態では、一例として、割合Rが0≦R<15%場合は、第5のレベルとする。割合Rが、15%≦R<30%の場合は、第4のレベルとする。割合Rが30%≦R<45%の場合は、第3のレベルとする。割合Rが、45%≦R<60%の場合は、第4のレベルとする。割合Rが、60%≦Rの場合は、第1のレベルとする。
【0042】
つぎに、スライス率X%と、スライド率Y%について説明する。スライス率X%とスライド率Y%とは、上記されたまばたき閉じ時間によって分類される覚醒度と、顔の表情に基づいて分類される覚醒度とを比較する実験から求めた。
【0043】
まず、カメラで運転者(実際の自動車の運転者ではなく、本実験のための運転者である)の顔の表情を撮影し、この表情を分析して、運転者の顔の表情から覚醒度のレベル(第1〜5のレベルのいずれか)を推定する。これは、図5に示すように、顔の表情から集中していると判定されると第5のレベルとであると判定される。顔の表情から時々あくびが出る状態であると判定されると、第4のレベルと判定される。顔の表情から頻繁にあくびが出ると状態判定されると、第3のレベルと判定される。顔の表情からと時々目が閉じる状態であると判定されると、第2のレベルと判定される。顔の表情から目が閉じている状態と判定されると、第1のレベルと判定される。
【0044】
図4は、スライス率(X%)と時間のスライド率(Y%)とを変えながら判定時間Tsを設定したときの、判定時間Tsよりも長いと判定されるまばたきの比率(R)から得られる運転者の覚醒度と、上記の顔の表情から推定された覚醒度との相関についてシミュレーションしたものである。このシミュレーション結果から、スライス率40%、スライド比70%としたとき、その相関が最も大きくなる。このため、本実施形態では、X=40とし、Y=70とする。
【0045】
赤外線カメラ30と、表情検出部41と、運転者状態検出部42とは、本発明で言う、覚醒度検出手段の一例を構成している。なお、覚醒度検出手段として、運転者の目を撮影する手段(装置)は、赤外線カメラに限定されるものではない。要するに、運転者の目21を撮影できればよい。
【0046】
また、上記に説明される覚醒度の求め方、また、覚醒度のレベルの分類は一例である。覚醒度の求め方は、まばたきに基づいて他の方法が用いられてもよい。また、覚醒度のレベルの分類も、第1〜5のレベルの5段階ではなく、例えば第1〜10のレベルの10段階に分けられてもよい。
【0047】
ついで、認知度について説明する。認知度は、運転者20の運転への集中の度合いを示す。運転者状態検出部42は、表情検出部41が検出した運転者20の視線の動き(軌跡)に基づいて、認知度を判定する。
【0048】
具体的には、運転者が運転中によく見る場所である、例えば速度計、ルームミラー、ドアミラーなどの視認対象を運転者が見ている状態での運転者の視線の動きを分析する。運転者の視線の動きは、リターンマップで表される。
【0049】
図6,7は、運転者の認知度が通常状態の場合での、所定期間の運転者の視線の動きを示すリターンマップである。通常状態とは、運転初期期間などの、認知度が十分に高い状態である。
【0050】
図7は、所定期間内の運転者の視線の位置のうち、運転者の上下方向であるy軸方向に沿う視線の位置がプロットされている。このため、図7は、所定期間内の運転者のy軸方向に沿う視線の動きを表す。図6は、所定期間内の運転者の視線の位置のうち、運転者の上下方向を横切る左右方向であるx軸方向に沿う視線の位置がプロットされている。このため、図6は、所定期間内の運転者のx軸方向に沿う視線の動きを示している。
【0051】
図6,7において横軸は、時間t(変数)での視線の位置を示しており、縦軸は、時間t+0.1秒での視線の位置を示している。グラフ中の中心位置である(0,0)の位置は、運転者の両目の中心位置である。運転者の右側を正とし、左側を負としている。横軸、縦軸の単位は、メートル(m)である。
【0052】
図6,7のようなリターンマップは、運転者がよく見る例えば速度計、ルームミラー、ドアミラー(視認対象)ごとに、単位時間毎に形成される。言い換えると、各視認対象に設定されるリターンマップ上に、運転者の視線の位置を示す点がプロットされる。この視線の位置を示す点の集合によって、運転者の視線の動きが表される。なお、図6,7は、例えばルームミラーに設定されるリターンマップを示している。
【0053】
速度計、ルームミラー、ドアミラーなどの運転者がよく見る視認対象の各々で形成されるリターンマップは、略同じものになる。運転者が速度計、ルームミラー、ドアミラーを見ている状態は、例えば、運手者の視線の向きから判断される。
【0054】
なお、本実施形態では、リターンマップが形成される視認対象として、速度計、ルームミラー、ドアミラーを一例として用いた。視認対象としては、他のものが用いられてもよい。要するに、運転者がよく見る場所でリターンマップが形成されればよい。
【0055】
認知度が低くなると、運転者の視線の動く範囲が小さくなる傾向と、視線の動きのばらつきが大きくなり規則的なパターンではなくなる傾向とがあらわれる。
【0056】
図8,9は、運転者の認知度が小さくなったある状態での所定期間内の運転者の視線の動きを示すリターンマップである。図8,9は、例えば、ルームミラーに設定されるリターンマップを示している。なお、他の視認対象である速度計や、ドアミラーに設定されるリターンマップにおいても、同様のリターンマップが形成される。
【0057】
図8は、y軸方向に沿う視線の動きを示しており、横軸と縦軸とは、図7と同じである。図9は、x軸方向に沿う視線の動きを示しており、横軸と縦軸とは、図6と同じである。図8,9は、認知度が小さくなったことによって、図6,7に示される通常状態に対して、運転者の視線の動きのばらつきが大きくなり規則的なパターンではなくなったことを示している。
【0058】
図10,11は、運転者の認知度が小さくなったある状態での運転者の視線の動きを示すリターンマップである。図10,11は、例えばルームミラーに設定されるリターンマップを示している。なお、図10,11は、図8,9が示す状態とは、異なる時点での運転者の視線の動きを示している。図10は、x軸方向に沿う視線の動きを示しており、横軸と縦軸とは、図6と同じである。図11は、y軸方向に沿う視線の動きを示しており、横軸と縦軸とは、図7と同じである。図10,11は、認知度が小さくなったことによって、図6,7に示される通常状態に対して、運転者の視線の動く範囲が小さくなったことを示している。
【0059】
本実施形態では、認知度は、高レベル、中レベル、低レベルの3つのレベルに分けられる。高レベル状態は、運転に対する集中度が充分高い状態である。低レベル状態は、運転に対する集中度が低い状態である。中レベル状態は、運転に対する集中度が、高状態と低状態との中間である状態である。
【0060】
本実施形態では、認知度は、運転の初期期間で得られる運転者の視線の動きを示すリターンマップから得られるカオス性指標値との比較によって、高レベル状態、中レベル状態、低レベル状態に分類される。具体的には、運転中の各所定期間で得られるリターンマップを解析することによって得られるカオス性指標値を、運転初期期間(運転開始から所定の期間)に得られるリターンマップを解析することによって得られるカオス性指標値と比較する。
【0061】
運転初期期間で得られるカオス性指標値に対する変化量が小さい場合は、認知度が高レベル状態である。これは、運転初期期間では、運転に対する集中度を示す認知度が充分に高いため、変化量が小さいということは、充分に認知度が高い状態であることを示すためである。運転初期期間で得られるカオス性指標値に対する変化量が中程度である場合は、認知度が中レベル状態であるとする。運転初期期間で得られるカオス性指標値に対する変化量が大きい場合は、認知度が低レベル状態であるとする。
【0062】
運転初期期間で得られるカオス性指標値に対する変化量の、大、中、小を区切る閾値は、任意に設定される。本実施形態では、予め設定される閾値に基づいて、変化量を、大、中、小に分類している。そして、変化量の大、中、小に基づいて、運転者の認知度を、高レベル状態、中レベル状態、低レベル状態に分類する。
【0063】
つぎに、運転者20の状態を示す運転者状態判定値Iを説明する。運転者状態判定値Iとは、運転者が異常状態になる可能性が高い状態であるか否かを判定する際に用いられる。異常状態とは、運転者が意図しない操作を行った状態と、運転者がパニックになった状態とのうち、少なくともいずれか一方の状態である。このため、異常状態になる可能性が高い状態とは、運転者が意図しない操作を行う可能性が高い状態と、運転者がパニックになる可能性が高い状態とのうち少なくともいずれか一方の状態である。
【0064】
運転者状態判定値Iは、上記された覚醒度と認知度とによって求められるパニック発生度数Pの積算値Peである(I=Pe)。より具体的には、運転者が運転を開始してから(自動車が走行を開始してから)得られる覚醒度と認知度とに基づいて、図12で示されるマップから、運転者のパニック発生度数が求められる。
【0065】
図12に示すように、パニック発生度数は、覚醒度と認知度との組み合わせによって求められる。パニック発生度数について、具体的に説明する。
【0066】
覚醒度が第1のレベルである場合では、認知度が高レベル、中レベル、低レベルのいずれの場合であっても、パニック発生度数は、0(零)となる。これは、覚醒度が第1のレベルでは覚醒度が極端に低い状態であるので、パニック状態になることや意図しない操作をしないということが発生しないためである。
【0067】
覚醒度が第2〜4のレベルである状態では、認知度が低レベルであるとパニック発生度数を3とし、認知度が中レベルであるとパニック発生度数を2とし、認知度が高レベルであるとパニック発生度数を1とする。これは、覚醒度が充分に高くない状態(本実施形態では、第2〜4のレベルの状態)では、認知度によって、パニックが発生する可能性や意図しない操作をする可能性が変化するためである。
【0068】
覚醒度が第の5レベルである場合では、認知度が低レベルであるとパニック発生度数を2とし、認知度が中レベルであるとパニック発生度数1とし、認知度が高レベルであるとパニック発生度数を0(零)とする。これは、認知度が高レベルの状態は認知度が充分に高い状態であり、それゆえ、パニックが発生する可能性が小さく、または、意図しない操作をする可能性が小さいためである。
【0069】
また、運転者状態検出部42は、運転者の過去の走行の情報を記憶している。運転者の情報とは、過去の走行のうち走行距離が所定距離以上のものの各々の走行時間Tkと、過去の走行のうち走行距離が所定距離以上のものの各々のパニック発生度数Pの積算値Pkと、過去の走行の各々の判定時間Tsである。なお、運転者状態検出部42は、撮影された運転者20の目の形状、大きさなどから運転者を個人ごとに分類し、当該個人別に上記情報を保存している。ここで用いた所定距離について説明する。走行距離が充分に確保されていないと、カオス性指標値を得ることが難しくなり、それゆえ認知度を判定することができなくなる。また、走行距離が充分に確保されていないと、長いまばたきを判定する判定時間Tsを決定することも難しくなる。このため、走行距離が十分に確保されていないとパニック発生度数を算出することができなくなる。所定距離は、パニック発生度数を算出するのに必要な距離である。言い換えると、カオス性指標値を得るとともに認知度を検出することができ、かつ、長いまばたきを判定する判定時間Tsを算出することができるのに必要な距離である。この所定距離は、予め実験などによって得ることができる。
【0070】
つまり、複数の運転者が、運転者支援装置10が搭載された1つの自動車を共有する場合では、運転者状態検出部42は、撮影された目の情報から運転者を特定し、運転者の走行に係る上記情報を運転者別に保存する。
【0071】
また、運転者状態検出部42は、情報呈示閾値Lを求めるとともに、上記のように得られる運転者状態判定値Iと情報呈示閾値Lとを比較し、運転者状態判定値Iが情報呈示閾値Lよりも大きくなると、異常状態になる可能性が高いと判定する。
【0072】
情報呈示閾値Lを具体的に説明する。まず、運転者状態検出部42に保存されている運転者ごとの情報の内、現在自動車を運転している運転者(現在赤外線カメラ41で撮影されている運転者)の情報を用いる。なお、運転者20は、現在自動車1を運転している運転者を示す。
【0073】
具体的には、現在自動車1を運転している運転者20の過去の走行のうち、走行距離が予め設定される所定距離以上のものの数(走行数)をnとする。現在自動車1を運転している運転者20の過去の走行のうち、走行距離が予め設定される所定距離以上の各走行の各々の走行時間をTkとする。現在自動車を運転している運転者の過去の走行のうち、走行距離が予め設定される所定距離以上の各走行の各々のパニック発生度数Pの積算値をPkとする。なお、kは、1からnまでの変数である。kは、n個ある走行距離が予め設定される所定距離以上の走行のうちの各々の番号を示す。
【0074】
つまり、k=1のときは、n個ある走行距離が予め設定される所定距離以上の走行のうちのある1つの走行を示し、走行時間T1は、当該1つの走行での走行時間を示す。k=2のとき、つまり、走行時間T2は、走行距離が予め設定される所定距離以上のもののうち2つ目の走行での走行時間を示す。パニック発生度数Pの積算値Pkについても同様である。k=1のとき、つまり、積算値P1は、走行距離が予め設定される所定距離以上のもののうち、ある1つの走行でのパニック発生度数Pの積算値を示す。k=2のとき、つまり、積算値P2は、走行距離が予め設定される所定距離以上のもののうち、2つの目の走行でのパニック発生度数Pの積算値を示す。このように、TkとPkとは、n個ある走行のうちk番目の走行時間とパニック判定度数Pの積算値を示す。
【0075】
現在自動車1を運転している運転者20の過去の走行のうち走行距離が予め設定される所定距離以上の各走行でのパニック発生度数Pの積算値Pkの合計を、当該各走行の走行時間Tkの合計値で割って得られる単位時間値の平均値Aは、
【数2】

【0076】
となる。
【0077】
現在の走行での走行時間をTaとすると、情報呈示閾値Lは、平均値Aに現在の走行の走行時間Taをかけた値である。情報呈示閾値Lは、
【数3】

【0078】
となる。
【0079】
パニック予兆判定部43は、情報呈示閾値Lと運転者状態判定値I(現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Pe)とを比較し、情報呈示閾値Lが、現在の走行での運転者状態判定値Iよりも大きくなると(I>L)、運転者20が異常状態になる可能性が高い状態であると判定する。運転者状態検出部42は、本発明で言う運転者状態検出手段の一例である。パニック予兆判定部43は、本発明で言う判定手段の一例である。
【0080】
また、パニック予兆判定部43は、覚醒度が第1のレベルであるか否かを判定する。パニック予兆判定部43は、覚醒度が第1のレベルである場合には、運転者20が眠気を有しているので、運転者20の覚醒度を向上するべく、警報装置60を制御し、警報を発する。また、運転者20の覚醒度を向上するべく、放香装置70を制御して覚醒度を向上する効果を有する香りを放出する。
【0081】
なお、ここで用いる警報装置60と放香装置70とオーディオ装置とは、運転者20の覚醒度を向上するために用いられる手段の一例であるので、他の装置や方法が用いられてもよい。例えば、放香装置70が用いられずに警報装置60とオーディ装置だけであってもよい。要するに、運転者20の覚醒度を向上する効果を有する装置や方法が用いられればよい。
【0082】
情報表示装置50は、運転者20が確認しやすい位置に設けられている。情報表示装置50は、例えばモニターなどである。情報表示装置50は、パニック予兆判定部43によって制御される。パニック予兆判定部43が、運転者20が異常状態になる可能性が高い状態であると判定すると、情報表示装置50は、パニック予兆判定部43の制御によって、意図しない操作が行われる可能性が高い状態であること、パニックになる可能性が高い状態であることを表示する。表示方法としては、例えば、文字や絵などであってもよい。または、色であってもよい。情報表示装置50は、本発明で言う注意手段の一例である。なお、注意手段の他の例としては、例えば、音で運転者に注意を呼びかける構造であってもよい。
【0083】
つぎに、運転者支援装置10の動作を説明する。まず、運転者20が乗車してイグニッションキーをスタートまで回す。すると、エンジンが駆動されて、自動車が走行可能な状態になるとともに運転者支援装置10が動作を開始する。
【0084】
運転者支援装置10は、動作が開始されると(自動車の走行が開始すると)、まず、運転者20の長いまばたきを検出するための判定時間Tsを検出する。図13は、運転初期期間の運転者支援装置10の動作を示すフローチャートであって、運転者の長いまばたきを判定する判定時間Tsを算出する動作を示す。ここで言う運転初期期間とは、自動車の走行可開始から後述される所定時間が経過するまでの期間である。
【0085】
図13に示すように、運転者支援装置10は、動作が開始されると、ステップST1にて赤外線カメラ30によって運転者20の目21を所定時間撮影する。本実施形態では、この所定時間の一例として5分とする。表情検出部41は、赤外線カメラ30によって撮影された運転者20の目21の映像から、運転者20のまばたきの回数および各まばたきの時間(まばたき閉じ時間)を検出する。また、運転者20の視線の動き(軌跡)を検出する。運転者20の目21を所定時間(五分間)撮影すると、ついで、ステップST2に進む。
【0086】
ステップST2では、撮影された映像から、運転者20の個人認証を行う。運転者20は、過去自動車を走行しており、運転者状態検出部42は、運転者20の過去の走行の情報を記憶している。
【0087】
運転者の情報は、一例として、運転者20の走行距離が予め設定された所定距離以上のものの数nと、運転者20の判定時間Tsと、運転者20の過去の走行のうち走行距離が所定距離以上の各走行の走行時間Tkや、過去の走行のうち所定距離以上走行した各走行のパニック発生度数Pの積算値Pkである。ここで用いた所定距離は、互いに同じ距離であってよく、任意に決定できる。
【0088】
ステップST2で運転者20の個人認証が行われると、運転者状態検出部42は、本ステップST2で認証された運転者20の過去の走行に係る情報をみる。
【0089】
ついで、ステップST3に進む。ステップST3では、運転者状態検出部42は、ステップST1で検出したまばたきに基づいて、図3に示すグラフを作成する。ついで、運転者状態検出部42は、運転者20の判定時間Tsを算出する。
【0090】
また、運転者状態検出部42は、運転者20の過去の走行の際に算出された判定時間Tsの平均値と、今回ステップST3で算出された判定時間Tsとを比較する。比較の結果、過去の走行で算出された判定時間Tsの平均値に対して、今回算出された判定時間Tsが大きく離れている場合は、今回ステップST3で算出された判定時間Tsは用いられず、過去の走行の判定時間Tsの平均値が用いられる。そして、今回ステップST3で算出された判定時間Tsは、運転者20の情報として記憶されない。
【0091】
また、ステップST3では、運転者状態検出部42は、ステップST1で撮影された運転者20の目21の映像から、速度計、ルームミラー、ドアミラーなどの運転者20がよく見る視認対象での視線の動きを表す図6,7に示されるようなリターンマップを作成し、当該リターンマップから運転者20のカオス性指標値を検出する。
【0092】
運転初期期間は、運転者20は、充分に覚醒しており、かつ、認知度が充分高い状態である。このため、ステップST3で検出される運転者20のカオス性指標値は、運転者20の認知度を算出する際の基準値として用いられる。
【0093】
運転者20の判定時間Tsが算出され、かつ、運転初期期間でのカオス性指標値が算出されると、ついで、図14に示される動作が開始される。図14は、運転初期期間経過以降での運転者支援装置10の動作を示すフローチャートである。図14を用いて運転初期期間以降の運転者支援装置10の動作を説明する。
【0094】
まず、運転初期期間が経過した直後(例えば、自動車の走行開始10分後など)について説明する。この状態を、第1の運転状態O1とする。第1の運転状態O1は、運転開始から間もないので、運転者20に眠気がなく、かつ、認知度も充分高い状態である。このため、異常状態になる可能性が低い状態である
図14に示すように、ステップST21では、赤外線カメラ30によって、運転者20の目21を所定時間撮影する。表情検出部41は、撮影された運転者20の目21の映像から、運転者20のまばたきの回数と各まばたきの時間とを検出する。なお、ここで言う所定時間は、運転初期期間のステップST1での運転者の画像取得の際の所定時間と同じであってよく、本実施形態では、一例として5分とする。なお、運転初期期間のステップST1での運転者の画像取得の際の所定時間と異なってもよい。所定時間の運転者20の目21の映像が取得されると、ついで、ステップST22に進む。
【0095】
ステップST22では、運転者20の覚醒度を検出する。まず、運転者状態検出部42は、運転初期期間に検出された判定時間Tsを用いて、長いまばたきを検出する。ついで、ステップST21での所定時間内の全まばたきの回数N1に対するステップST21の所定時間内の長いまばたきの回数N2の割合Rを検出する。割合Rが検出されると、当該割合Rに基づいて、運転者20の覚醒度のレベルを判定する。第1の運転状態O1では、運転者20は眠気を有しておらず、それゆえ、覚醒度は、第5のレベルであるとする。覚醒度が検出されると、ついで、ステップST23に進む。
【0096】
ステップST23では、パニック予兆判定部43は、ステップST22で検出された覚醒度が第1のレベルであるか否かを判定する。第1の運転状態O1では、覚醒度は、第5のレベルであるので、ついで、ステップST24に進む。
【0097】
ステップST24では、運転者状態検出部42は、運転者20の認知度を検出する。具体的には、ステップST21で検出された運転者20の目21の映像から、図6,7に示されるようなリターンマップを作成し、ステップST21で検出された運転者20の目21の視線の動きから現時点の運転者20のカオス性指標値を算出する。運転者20がよく見る視認対象ごとに形成されるリターンマップのいずれかが用いられればよい。
【0098】
ついで、ここで得られたカオス性指標値と、運転初期期間のステップST4で算出された運転初期の運転者20のカオス性指標値とを比較する。第1の運転状態O1では、運転者20の認知度は充分に高い状態であるので、運転初期期間でのカオス性指標値に対する変化量が小さい。このため、運転者20の認知度は、高レベル状態であると判定される。運転者20の認知度が算出されると、ついでステップST25に進む。
【0099】
ステップST25では、運転者状態検出部42は、図12に示されるマップを用いて、ステップST22,ST23で算出された覚醒度と認知度とに基づいて、運転者20のパニック発生度数Pを算出する。
【0100】
第1の運転状態O1では、覚醒度が第5のレベルであり、認知度が高状態である。このため、パニック発生度数Pkは、0(零)となる。パニック発生度数Pが算出されると、ついで、ステップST26に進む。
【0101】
ステップST26では、運転者状態検出部42は、運転者状態判定値Iである現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peを算出する。現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peとは、走行が開示されてから現時点までに算出されたパニック発生度数Pの積算値である。現在の走行でのパニック発生度数の積算値が算出されると、ついで、ステップST27に進む。
【0102】
ステップST27では、運転者状態検出部42は、情報呈示閾値Lを算出する。具体的には、情報呈示閾値Lは、上記したように、運転者20の過去の走行のうち予め設定される所定距離以上走行した各走行のパニック発生度数の積算値の合計値を、予め設定される所定距離以上走行した各走行の各々の走行時間の合計値でわって得られる、過去の積算値の単位時間当たりの平均値Aに、現在の走行の走行時間Taをかけた値である。
【0103】
このため、運転者状態検出部42は、現在の走行での走行時間Taを算出し、運転者20の過去の走行でのパニック発生度数の積算値の単位時間当たりの平均値Aを算出し、これら走行時間Taと平均値Aとから、情報呈示閾値Lを算出する。情報呈示閾値Lが算出されると、ついで、ステップST28に進む。
【0104】
ステップST28では、パニック予兆判定部43は、ステップST27で算出された運転者の情報呈示閾値Lと、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peとを比較する。第1の状態では、運転者20が充分に覚醒しており、かつ、運転者20の認知度も十分に高い状態である。このため、第1の運転状態O1では、パニック発生度数Pの積算値Peは、大きな値とはならず、それゆえ、情報呈示閾値L以下となる(L≦Pe、つまりL≦I)。
【0105】
ついで、ステップST21に戻る。そして、再びステップST21から動作が開始される。第1の運転状態O1のように運転者20が充分に覚醒しており(例えば、覚醒度が第5のレベル)、かつ、運転者20の認知度が充分に高い状態(例えば、認知度が高状態)
では、上記と同様に、ステップST21〜ST28の動作が繰り返される。
【0106】
なお、ステップST21に戻ると、前回のステップST21で所定時間内に検出されたまばたきの全回数N1と長いまばたきの回数N2とは消去され、新たに所定時間内に検出されたまばたきの全回数N1と長いまばたきの回数N2とが保存される。そして、以降の動作(ステップ)では、新たに検出されたまばたきの全回数N1と長いまばたきの回数N2とが用いられる。そして、再びステップST21に戻ると、同様にN1,N2がリセットされる。
【0107】
つぎに、第1の運転状態O1を経て、運転状態が長時間となり、それゆえ、運転者20が眠気を有している状態での運転者支援装置10の動作を説明する。この状態を第2の運転状態O2とする。
【0108】
ステップST21の動作は、第1の運転状態O1と同じである。ステップST22では、判定時間Tsを用いて、ステップST21で検出された運転者20のまばたきのうちの長いまばたきを検出するとともに、ステップST21で検出された全まばたき回数N1に対するステップST21で検出された長いまばたきの回数N2の割合Rを検出する。第2の運転状態O2では、運転者20が眠気を有しており、それゆえ、覚醒度は、第1のレベルとする。ついで、ステップST23に進む。
【0109】
ステップST23では、運転者20の覚醒度が第1のレベルであると判定され、ついで、ステップST29に進む。
【0110】
ステップST29では、覚醒度を向上するための刺激が運転者20に供給される。覚醒度を向上するための刺激としては、視覚、聴覚、触覚、嗅覚に対する刺激がある。本実施形態では、一例として、警報装置60から警報が発せられる。また、放香装置70から覚醒度を向上する効果を有する香りが発せられる。また、オーディオ装置から覚醒度を向上する効果を有する音楽が流れる。覚醒度向上のための刺激が運転者20に供給されると、ついで、ステップST24に進む。
【0111】
なお、ここで一例として用いた第2の運転状態O2では、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peは、情報呈示閾値L以下としている。
【0112】
つぎに、運転時間が長くなり、運転者20の覚醒度が低下し、かつ、運転者20の認知度が低下した状態での運転者支援装置10の動作を説明する。この状態を第3の運転状態O3とする。第3の運転状態O3では、運転に対する集中度である認知度が低下している状態である。このため、運転者20は、パニックになる可能性が高い状態または意図しない操作を行う可能性が高い状態のうち少なくともいずれか一方の状態、つまり、異常状態になる可能性が高い状態意である。
【0113】
ステップST28では、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peと情報呈示閾値Lとが比較される。第3の運転状態O3では、覚醒度が低下し、かつ、認知度が低下しており、それゆえ、現在の走行のパニック発生度数Pの積算値Peは、情報呈示閾値Lより大きくなる(Pe>L、つまりI>L)。ついで、ステップST30に進む。
【0114】
ステップST30では、パニック予兆判定部43は、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peが情報呈示閾値Lより大きいことから、運転者20が異常状態になる可能性が高い状態であると判定する。ついで、情報表示装置50が、意図しない操作が行われる可能性が高い状態またはパニック状態になる可能性が高い状態であることを表示する。
【0115】
情報表示装置50が情報を呈示すると、再びステップST21から動作か開始される。なお、情報表示装置50は、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peが、情報呈示閾値L以下とならない状態では、情報を呈示し続ける。
【0116】
このように、運転者支援装置10によれば、覚醒度と認知度とを用いてパニック発生度数を検出する。認知度は、運転者の運転に対する集中度を示す。運転者20が意図しない操作をする状態およびパニック状態は、運転者20の運転に対する集中度が低下している状態で発生する傾向にある。このため、認知度を用いることによって、運転者20が異常状態になる可能性が高い状態を判定することができる。
【0117】
この結果、運転者20が意図しない操作が行われる前、または、運転者20がパニック状態になる前に、運転者20にその予兆を知られるせることができるので、事故の発生を抑制することができる。
【0118】
また、覚醒度を運転者20のまばたきに基づいて検出し、認知度を運転者20の視線の動きに基づいて検出する。このように、覚醒度と認知度とは、運転者20の目21の状態を検出するだけでよい。本実施形態では、運転者20の目21の状態を検出する手段の一例として、赤外線カメラ30が用いられる。このように、運転者支援装置10の構造を簡素にすることができるので、運転者支援装置10のコストが高くなることを抑制することができる。
【0119】
このように、運転者支援装置10は、事故の発生を簡素な構造で抑制することができる。
【0120】
つぎに、本発明の第2の実施形態に係る運転者支援装置を、図15〜18を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の機能を有する構成は、第1の実施形態と同一の符号を付して説明省略する。本実施形態では、運転者支援装置10では、情報呈示閾値Lが用いられず、現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peを情報表示装置50が表示する。このため、本実施形態では、第1の実施形態に対して、情報呈示閾値Lに係る動作が行われない点が異なる。他の点は第1の実施形態と同様であってよい。上記異なる点について、具体的に説明する。
【0121】
図15は、本実施形態の運転者支援装置10を示す概略図である。本実施形態では、上記したように情報呈示閾値Lを用いない。このため、運転者支援装置10は、パニック予兆判定部43を備えていない。また、運転者状態検出部42は、情報呈示閾値Lを算出しない。警報装置60と放香装置70と情報表示装置50の動作は、運転者状態検出部42によって制御される。
【0122】
本実施の運転者支援装置10の運転初期期間の動作では、図13に示されるステップST3において、情報呈示閾値Lが算出されない。運転初期期間の動作は、上記点を除いて、第1の実施形態と同様であってよい。
【0123】
図16は、本実施形態の運転者支援装置10において、運転初期期間以降の動作を示すフローチャートである。図15に示されるステップにおいて、第1の実施形態の図14で説明されたステップと同様の動作内容のステップは、図14に示されるステップと同じ符号を付して説明を省略する。図15に示すように、本実施形態の運転者支援装置10では、ステップST27,ST28,ST30に代えて、ステップST31で示される動作を備えている。
【0124】
ステップST26についで、ステップST31に進む。ステップST31では、情報表示装置50は、運転者状態検出部42の制御によって、ステップST26で算出された現在の走行でのパニック発生度数Pの積算値Peを示す。本実施形態では、情報表示装置50は、本発明で言う表示装置の一例である。
【0125】
パニック発生度数の積算値Peの表示方法の一例として、グラフが用いられる。図17は、現在の走行でのパニック発生度数の積算値Peを示す棒グラフである。図18は、表示方法の他の例である。図18は、現在の走行でのパニック発生度数の積算値Peを示す時系列グラフである。
【0126】
本実施形態では、運転者20は、現在の走行でのパニック発生度数の積算値Peを見ることができるので、運転者20の現在の状態を把握することができる。例えば、パニック発生度数の積算値Peが高くなれば、異常状態になる可能性が高くなっていることを把握することができる。
【0127】
このため、本実施形態であっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0128】
なお、本実施形態では、運転者支援装置10は、パニック予兆判定部43を備えていない。しかしながら、例えば、第1の実施形態で用いられた、パニック予兆判定部43を備える運転者支援装置10が、第2の実施形態で説明されたように、パニック発生度数の積算値Peを表示するようにしてもよい。または、第1の実施形態で説明された運転者支援装置10が、第1の実施形態で説明された情報呈示閾値Lとの比較を行う動作と、第2の実施形態で説明されたパニック発生度数の積算値Peを表示する動作とを切換えて行えるようにしてもよい。
【0129】
この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0130】
10…運転支援装置、20…運転者、30…赤外線カメラ(覚醒度検出手段、認知度検出手段)、41…表情検出部(覚醒度検出手段、認知度検出手段)、42…運転者状態検出部(覚醒度検出手段、認知度検出手段、運転者状態判定値検出手段)、43…パニック予兆判定部(判定手段)、50…情報表示装置(注意手段、表示装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のまばたきに基づいて運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、
運転者の視線の動きに基づいて、当該運転者の運転に対する集中の度合いを示す認知度を検出する認知度検出手段と、
運転者が意図しない操作を行った状態と運転者がパニックになった状態とのうち少なくともいずれか一方の状態である異常状態になる可能性が高い状態を判定する閾値を検出する閾値検出手段と、
前記覚醒度検出手段によって検出された運転者の覚醒度および前記認知度検出手段によって検出された運転者の認知度に基づいて、運転者の運転状態を示す運転者状態判定値を検出する運転者状態判定値検出手段と、
前記運転者状態判定値を前記閾値と比較し、運転者が前記異常状態になる可能性が高い状態であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、運転者に注意する注意手段と
を具備することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記認知度と前記覚醒度との組み合わせから求められるパニック発生度数をPとし、
車両の過去の走行のうち、所定距離以上走行した回数をnとし、
kを1からnまでの変数とした場合、前記車両の過去の走行のうち、前記所定距離以上走行した走行のうちk番目の走行での前記パニック発生度数Pの積算値をPkとし、
前記車両の過去の走行のうち、前記所定距離以上走行した走行のうちk番面の走行での走行時間をTkとし、
現在の走行の走行時間をTaとし、
前記閾値をLとすると、
【数4】

となり、
前記運転者状態判定値を、現在の走行での前記パニック発生度数の積算値であるIとすると、
前記判定手段は、前記運転者状態判定値Iが前記閾値Lより大きくとなると、前記運転者が前記異常状態になる可能性が高い状態であると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
運転者のまばたきに基づいて運転者の覚醒度を検出する覚醒度検出手段と、
運転者の視線の動きに基づいて、当該運転者の運転に対する集中の度合いを示す認知度を検出する認知度検出手段と、
前記覚醒度検出手段によって検出された運転者の覚醒度および前認知度検出手段によって検出された運転者の認知度に基づいて、運転者の運転状態を示す運転者状態判定値を検出する運転者状態判定値検出手段と、
現在の走行の前記運転者状態判定値を表示する表示装置と
を具備することを特徴とする運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−62465(P2011−62465A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218045(P2009−218045)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】