説明

過剰圧力開放弁及びそれを有する過剰圧力開放ユニット

【課題】比較的低い過剰圧力でも確実に作動してその圧力を安全かつ確実に外界へ開放でき、小型で簡易な構成であって、作動圧力の再現性に優れ同品質のものを大量生産でき、ディスポーザブルである安価な過剰圧力開放弁、及びそれを有する過剰圧力解放ユニットを提供する。
【解決手段】過剰圧力開放弁1は、ゴム弾性板11の裏面側20にかかる過剰圧力を、前記ゴム弾性板11の表裏何れかの面側10・20に設けられた脆弱部12の破裂によってその表面側10の外界へ開放する過剰圧力開放弁であって、前記脆弱部12が、前記何れかの面側10・20から前記ゴム弾性板11の内部へ向く尖端を有する窪み13、又は前記何れかの面側から前記ゴム弾性板11の内部へ傾斜して切れ込まれたスリットであるというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉された燃料電池、二次電池の電解槽、反応容器、貯蔵容器のような閉鎖系容器、又は配管から、それらの内部の過剰圧力を安全に外界へ開放するゴム弾性を有する開放弁、及びそれを有する過剰圧力開放ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、ニッケルカドミウム電池・ニッケル水素電池・リチウムイオン電池・鉛蓄電池のような二次電池は、携帯電話、ラップトップパーソナルコンピュータ等のポータブル電子機器・家電製品や、自動車の電源として、用いられる。
【0003】
これらの電池の内部圧力が過剰となったときにその圧力を自動的に外界へ開放する安全弁が、電池容器に取り付けられている。
【0004】
安全弁として、例えば、特許文献1に、弁体を弁座に着座させて流路を閉じる手段と、リリーフ管路への接続部とを有し、リリーフ管路の内部圧力がばね手段による閉弁力を超えたとき、弁体を弁座から離座させるリリーフ弁が、開示されている。一般に金属ばねやそれに付属するOリングとゴム製弁とが密着して次第に固着し易いため、設計した所望の圧力値で開放できず作動圧がばらついたり変動したりしてしまい、所望通りに金属ばねで過剰内部圧力を開放できない恐れがある。
【0005】
特許文献2に、所定パターンの孔を有する金属板にフィルムポリマーを介して熱溶着により金属箔が接合している電池用安全弁材料が、開示されている。特許文献3に、一端が開口する積層フィルム製の袋体の内部に電池の構成材料を収納し、電極リードを内部から外部に延長して開口部が封止される形式の電池ケースにおいて、電極リードが通る袋体の開口部が、内側の仕切りシール部と外側のシール部とで封止され、電池の構成材料が収納される主室と電極リードが通る従属室とが設けられ、従属室の電極リードに、内圧上昇により接続が切り離されるシャットダウン機構が設けられた安全弁付き電池ケースが、開示されている。また特許文献4に、極板群を収納したフィルム周囲の接合部の一部に、極板群が収納された空間と連通した湾状空間部を設け、該湾状空間部において一方のフィルム外面から他方のフィルム外面まで貫通する小孔又はスリットを形成した安全弁部を有密閉形二次電池が、開示されている。フィルムを溶着したりシールしたりフィルムに小孔等を設けたりした弁は、煩雑なうえ、安全弁作動圧が溶着程度に依存するため再現性や均質性を維持し難く、さらに作動圧力未満の圧力で次第に劣化し易い。
【0006】
【特許文献1】特開2006−275156号公報
【特許文献2】特開2001−23597号公報
【特許文献3】特開2000−67846号公報
【特許文献4】特開平5−47363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、比較的低い過剰圧力でも確実に作動して、設計された圧力値通りに、過剰圧力を、ばらつくことなく、安全かつ確実に外界へ開放でき、小型で簡易な構成であって、作動圧力の再現性に優れ同品質のものを大量生産でき、ディスポーザブルである安価な過剰圧力開放弁、及びそれを有する過剰圧力解放ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の過剰圧力開放弁は、ゴム弾性板の裏面側にかかる過剰圧力を、前記ゴム弾性板の表裏何れかの面側に設けられた脆弱部の破裂によってその表面側の外界へ開放する過剰圧力開放弁であって、前記脆弱部が、前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ向く尖端を有する窪み、又は前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ傾斜して切れ込まれたスリットであることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の過剰圧力開放弁は、請求項1に記載されたもので、前記脆弱部を、前記ゴム弾性板の中央に有していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の過剰圧力開放弁は、請求項2に記載されたもので、前記脆弱部が、前記表裏面に沿う横断面を一文字状、U字状、V字状、S字状、十文字状、星印状、又は放射状とする前記窪み若しくは前記スリットであり、又は円錐状若しくは角錐状の前記窪みであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の過剰圧力開放弁は、請求項2に記載されたもので、前記脆弱部が、溝からなる前記窪みで形成されており、前記溝が、前記表裏面に直交する縦断面をU字状、V字状、コ字状、又は五角形状とすることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の過剰圧力開放弁は、請求項1に記載されたもので、前記ゴム弾性板が、シリコーンゴム製であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の過剰圧力開放ユニットは、ゴム弾性板の裏面側にかかる過剰圧力を、前記ゴム弾性板の表裏何れかの面側に設けられた脆弱部の破裂によってその表面側の外界へ開放する過剰圧力開放弁が、閉鎖系の容器、配管、及び/又はそれに連結される外部コネクタ内に、設けられており、前記脆弱部が、前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ向く尖端を有する窪み、又は前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ傾斜して切れ込まれたスリットであることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の過剰圧力開放ユニットは、請求項6に記載されたもので、前記過剰圧力開放弁が、その表面側でキャップにより覆われていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の過剰圧力開放ユニットは、請求項7に記載されたもので、前記キャップが、前記過剰圧力による前記破裂に応じて外れるように、捻じ込まれ、若しくは前記破裂に応じてまくれるように、押し込まれており、又は前記過剰圧力による前記破裂に応じた音波若しくは信号の発生器に接続されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の過剰圧力開放ユニットは、請求項6に記載されたもので、前記容器、配管又は外部コネクタへ着脱する連結具が付されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の過剰圧力開放弁は、燃料電池等の閉鎖系容器や配管に簡易に装入して用いられるもので、小型で簡易な構造を有するものに、好ましく用いられる。この過剰圧力開放弁は、10kPa程度の比較的低い圧力から2000kPa程度の圧力までの広範な過剰内部圧力、特に高圧ガス法で規制されている1000kPa以内の所期の過剰内部圧力で、設計された圧力値通りに、経時変化せずに、また、ばらつくことなく、正確かつ確実に作動し、その圧力を安全かつ確実に外界へ開放できる高性能のものである。過剰圧力開放弁は、均一なものを大量に低コストで製造でき、生産性が高い。しかも過剰圧力を開放すべき槽や容器や配管に合わせて自在に設計できる。また、開放すべき過剰圧力に応じた任意の圧力で作動させることができる。
【0018】
この過剰圧力開放弁は、燃料電池、二次電池の電解槽、反応容器のように、冬期・夏期を通して−30〜100℃程度、特に室温付近又はそれより幾分高い温度で、正確に再現性良く、所期の過剰圧力を開放することができるものである。
【0019】
本発明の過剰圧力開放ユニットは、過剰圧力を開放すべき閉鎖系の容器、配管、それに連結される外部コネクタに過剰圧力開放弁を装着した簡易な構成であるが、小型であっても圧力を安全かつ確実に外界へ開放できる。また、この過剰圧力開放弁を有するユニットは、一旦、過剰圧力を開放したときに、明瞭に交換すべきことを表示でき、しかも迅速に交換可能なディスポーザブルにすることができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0020】
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明の過剰圧力開放弁1は、実施例に対応する図1を参照して説明すると、シリコーンゴム製の円板状のゴム弾性板11の裏面側20に、そこへかかる過剰圧力を破裂によって表面側10の外界へ開放する脆弱部12を形成する窪み13が設けられたものである。窪み13は、ゴム弾性板11の裏面側20から内部へ向いて窪んだ略十文字状の窪み13からなり、その交点に近い程、溝15が深くなっていることにより、その交点が尖端となり、その交点と表面側10とでなす脆弱部12の厚さTが薄くなって、脆弱部12を形成しており、その十文字状の窪み13を構成する各溝15は、傾斜面14を有することによりその溝幅Wの内側ほど深く窪んでいるものである。
【0022】
この過剰圧力開放弁1は、例えば図2に示すように、密閉容器40である燃料電池電解槽の上壁30に嵌めこまれて、過剰圧力開放ユニット2として、使用される。図1及び図2に示すように、燃料電池を使用している途中で、水素燃料の過剰供給や過熱により電解槽30の内圧が上昇し、所定の内圧を超えた過剰圧力となると、その内部過剰圧力によって、ゴム弾性板11の裏面側20の窪み13へ応力がかかり、窪み13の各溝15が押し広げられて、応力が十文字状の溝15の交点、特に傾斜面の交点である尖端に集中する結果、内部過剰圧力に耐えきれなくなって、脆弱部12が破裂し、内部過剰圧力をその破裂孔16から外界へ開放する。
【0023】
不可逆的に破裂した過剰圧力開放弁1は、速やかに新たなものに交換される。又は過剰圧力開放弁1を有する過剰圧力開放ユニット2ごと、速やかに新たなものに交換される。
【0024】
なお、この過剰圧力開放弁1で開放する過剰圧力の閾値は、ゴム弾性板11の全厚さTや外径D、シリコーンゴムのようなゴム材質、円板状のような形状、それの圧縮率、ゴム弾性板11の窪み13の形状や大きさ例えば、溝15の溝幅Wや溝全長Lや窪み13内の中央にある尖端での窪み深さT、使用温度を、適宜選択することによって、10〜2000kPa、特に1000kPa以下の任意の過剰圧力に調整することができる。
【0025】
過剰圧力開放弁1の窪み13として、ゴム弾性板11の裏面側20に十文字状の溝15を有する例を示したが、窪み13は、ゴム弾性板11の表裏面側10・20の何れに設けられていてもよく、両面側10・20に設けられていてもよい。窪み13の形状は、脆弱部12を形成するものであれば特に限定されない。
【0026】
例えば窪み13は、図3(a)のように、ゴム弾性板11の裏面側20から平面中央の方へ向いて深く窪んでいくようにフラットな底部を持つ溝15が略十文字に中央最深部で尖端を形成して突き当り、略十文字状の窪みを形成している。その交点に近い程、溝15が深くなっていることにより、その交点が尖端となり、その交点と表面側10とで成す脆弱部厚さTが他の部分より薄くなって、脆弱部12を形成している。
【0027】
また、窪み13は、同図(b)のように、ゴム弾性板11の表面側10に十文字状の窪み13を有し、縦断面が五角形状を有する各溝15を有し、その交点に近い程、溝15が深くなっていることにより、その交点が尖端となり、その交点と裏面側20とで成す脆弱部厚さTが薄くなって、脆弱部12を形成していてもよい。その十文字状の窪み13の各溝15は縦断面の五角形状の2辺によってV字状となって溝幅の内側ほど深く窪んだ傾斜面14を有していると、尖端を鋭くすることができ作動圧が微調整された脆弱部とすることができる。
【0028】
また窪み13は、同図(c)のように、ゴム弾性板11の裏面側20から向けて窪んでおり、傾斜面14を有する溝15からなる一文字状の窪み13であってもよい。また、溝15は、前記表裏面に直交しその溝の長手方向にも直交する縦断面をU字状、V字状、コ字状、又はホームベース様の五角形状とする溝であってもよい。同図(d)のように錐状例えば円錐状や角錐状であってもよい。何れも、窪み13の尖端と表面側10とで成す脆弱部厚さTが薄くなって、脆弱部12が形成されている。
【0029】
また、同図(e)のように、窪み13に代えて、ゴム弾性板11の裏面側20から内部へ向き、十文字状に切れ込まれたスリット17が、その交点で尖端となり、その交点と表面側10とで成す脆弱部厚さTが薄くなって、脆弱部12を形成していてもよい。平面上に現われるスリットは、一文字状、U字状、V字状、S字状、星印状、又は5方向以上へ延びるアスタリスク字状のような放射状であってもよい。
【0030】
ゴム弾性板11の厚さTは、実用的には、0.3〜20mmである。特に燃料電池のような電池等の容器40に用いられる場合は、ゴム弾性板11の硬さと外径の大きさとにもよるが、特に小型化の観点から0.5〜2mmであると一層好ましく、0.5〜1mmであるとなお一層好ましい。0.3mmよりも薄いと、温度依存性が顕著となりロット間での過剰圧力開放の作動圧力のばらつきを生じてしまったり、作動圧力以下の比較的強い圧力に曝されたときに脆弱部に亀裂が生じて過剰圧力開放の作動圧力の再現性が無くなってしまったりする。20mmよりも厚いと、高圧の過剰圧力の開放を可能とする反面、窪み13やスリット17が大きくなってしまうため作動圧力のばらつきを生じてしまう。
【0031】
脆弱部12の厚さは、0.05〜1.0mm、好ましくは、0.08〜0.5mm、更に好ましくは0.1〜0.4mmである。本発明における脆弱部の形成は±0.02mm以下で厚さをコントロールすることができるので、過剰圧力開放弁ごとの開放作動圧にバラツキがなく従来より精度よくしかも正確に作製することができる。
【0032】
ゴム弾性板11の外径Dは、実用的には、2〜40mmである。特に燃料電池のような電池等の容器40に用いられる場合は、ゴム弾性板11の硬さと厚さとにもよるが、2〜20mmであることが好ましく、2〜10mmであると一層好ましく、2〜6mmであるとさらに一層好ましい。外径が大きすぎると、特に小型の電池等の容器に用いるのに、生産コストがかかるだけでなく、却って小型化に逆行することになってしまう。
【0033】
ゴム弾性板11の材質は、シリコーンゴムの他、ゴム弾性を有する天然又は合成高分子物質やエラストマーで、具体的には、合成ゴム例えばブチルゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)であってもよく、天然ゴムであってもよい。
【0034】
中でも耐熱性に優れ高温で軟化し難く、耐寒性に優れ低温で硬化し難いシリコーンゴムが好ましい。このようなシリコーンゴムは、具体的には、ジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルビニルシリコーンゴム(PVMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)が挙げられる。シリコーンゴムは、広範囲での温度域で安定であり、しかも過剰圧力開放すべき容器や配管等の温度域でヤング率やバネ定数の変化が小さいため、他のゴムよりも好ましい。シリコーンゴムは、一次加硫で架橋させ、加熱しつつ二次加硫させて低分子シロキサン類を揮発させたものであると、なお一層好ましい。
【0035】
シリコーンゴムは、金型転写性に優れているので、微細な窪み13に対応する複雑な形状の金型からでも、正確に転写されて成型される。また、シリコーンゴムは、刃で自在に切り込みを入れられるので、微細で複雑なスリット17を、正確かつ簡易に成形できる。
【0036】
ゴム弾性板11の形状は、真円の円板状であってもよく、過剰圧力を開放すべき槽や容器の形状に合わせ小型化するため楕円の円板状、多角例えば四角の角板状、正四角の四隅を欠く角板状であってもよい。中でも製造し易く均一な品質を保持でき過剰圧力を一層確実かつ正確に開放できる真円の円板状であることが好ましい。
【0037】
窪み13の各溝15やスリット17の全長Lは、実用的にはゴム弾性板11の外径Dに対し5〜80%の比であることが好ましく、20〜80%の比であると一層好ましい。その比が5%未満であると、窪み13やスリット17がピンホールに近づくため、ロット間での作動圧力のばらつきを生じてしまう。一方、その比が80%を越えると、外縁近傍の接着部分乃至押さえしろ部分が、狭くなり過ぎて、ロット間での過剰圧力開放の作動圧力のばらつきを生じたり、窪み13やスリット17の端が裂け易くなって、作動圧力未満の過剰圧力で容易くゴム弾性板11の端まで破断してしまったりする。
【0038】
窪み13の傾斜面の勾配は、最も深く窪んでいる窪み13内の中央にある尖端での窪み深さTと、ゴム弾性板11円周寄りの端部での窪み深さTとで、決まる。尖端での窪み深さTと、端部での窪み深さTとそこでの最小窪み深さTとは、夫々、0.2〜19.7mm、0.1〜19mm、0.1〜18mmであることが好ましく、TとTとの差が0.3mm、TとTとの差が0.1mmであるとなお一層好ましい。
【0039】
窪み13の各溝15の溝幅Wは、10mm以下であることが好ましく、0.5mmであるとなお一層好ましい。
【0040】
窪み13の大きさについて示したが、スリット17の大きさや傾斜については、溝を有しないこと以外は窪み13やその溝15と同様である。
【0041】
過剰圧力開放弁1や過剰圧力開放ユニット2を、携帯電話やラップトップパーソナルコンピュータ等に用いられる電池、例えば燃料電池用の水素ガスやメタノール、水等のエネルギー貯蔵容器40等に用いる場合には、ゴム弾性板11が、厚さを0.3〜1mm、外径を2〜6mm、JIS K6253によるデュロメータA硬さをA20〜A80とし、窪み13やスリット17の全長を該外径の20〜80%とすることが、特に好ましい。
【0042】
この過剰圧力開放弁1は、アノードとカソードとを内在させた燃料電池;ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、鉛蓄電池のような二次電池で例示される電池に取り付けられる。この過剰圧力開放弁1は、密閉された反応容器40例えばマイクロリアクター、その配管に取り付けられてもよい。
【0043】
過剰圧力開放弁1をユニット2として用いる場合の取り付けは図2のように、電解槽のような容器40の容器壁30に、過剰圧力開放弁1を嵌め込んだり、接着したりするものであってもよい。
【0044】
また、別な過剰圧力開放ユニット2の例は、図4や図5に示すように、ゴム弾性板11の裏面側20に設けられた脆弱部12の破裂によってその表面側10の外界へ開放する過剰圧力開放弁1が組み込まれたものであってもよい。過剰圧力開放弁1は、閉鎖系の容器40の容器壁30例えば燃料電池電解槽、配管、それに連結される外部コネクタの通気経路32の途中に、その通気経路32を遮って設けられている。過剰圧力開放弁1は、通気経路32を有する中空のナット33と同じく中空のボルト34との間に挟まれて両者33・34の螺合により締め付けられている。ボルト34の通気経路32の端には、樹脂製キャップ36例えばシリコーンゴム製キャップが捻じ込まれている。透明なフード35が、ボルト34全体を覆いつつ、ボルト34の側面に接着剤などで結合されている。フード35には、通気孔37が開けられている。ナット33は、雄螺子である連結具31に繋がっておりそれを介して容器壁30の雌螺子へ螺合している。それによって、過剰圧力開放ユニット2は、容器壁30に、着脱可能に固定されている。
【0045】
図4の過剰圧力開放ユニット2は、以下のように動作する。過剰圧力開放弁1が、作動圧力により動作すると、脆弱部12が破裂する。それと同時にキャップ36が外れ、圧力が通気穴37から、外界へ開放される。キャップ36が外れたことは、透明なフード35を通して、目視することができる。キャップ36が外れていたら、過剰圧力開放弁1が動作したことを表示している。破裂した脆弱部12は復元しないので、速やかに、過剰圧力開放ユニット2ごと取り替える。
【0046】
また、別な過剰圧力開放ユニット2の一例は、図5に示すように、フードキャップ38の上端の開放口先端39がフードキャップ38内部へ押し込まれていてもよい。
【0047】
図5の過剰圧力開放ユニット2は、以下のように動作する。過剰圧力開放弁1が、作動圧力により動作すると、脆弱部12が破裂する。それと同時にフードキャップ38内部へ向いていた開放口先端39がまくれ上がり、圧力が開放口先端39から、外界へ開放される。開放口先端39がまくれ上がっていたら、過剰圧力開放弁1が動作したことを表示している。破裂した脆弱部12は復元しないので、速やかに、過剰圧力開放ユニット2ごと取り替える。
【0048】
脆弱部12の破裂や、外れたキャップ36や、めくれたフードキャップ38をトリガーにして、破裂を知らせる音波発生器、例えば笛、又は破裂を知らせる信号発生器、例えば無線通信機器が、過剰圧力開放ユニット2に接続されていてもよい。フード35の通気孔37に、通気によって音を出す笛が付されていてもよい。
【0049】
さらに別な過剰圧力開放ユニット2の一例は、図6(b)に示すように、配管46に連結される外部コネクタ41が容器壁30に螺合して取り付けられ、過剰圧力開放弁1が外部コネクタ41内に嵌め込まれ熱接着性フィルムや接着剤を介して接着され固定されているというものである。配管46の先端が過剰圧力開放弁1に隙間無く接触し、配管46の外周が外部コネクタ41の内部の環状パッキン42と隙間無く接触し、又は圧接し、容器40の圧力を遮断している。配管46は、外部コネクタ41内に設けられた可撓性の爪43で係止されて抜け落ち不能に固定されている。過剰圧力開放弁1には熱接着性フィルムや接着剤がなくてもよく、また、過剰圧力開放弁1の両面または片面に接触部の安定化及びガス漏れ防止のためスペーサー(不図示)を設けてもよい。配管46は、金属製、プラスチック製、ゴム製であってもよい。配管46内に、フィルタ44が設けられていてもよい。
【0050】
図6の過剰圧力開放ユニット2は、以下のようにして使用される。使用前の状態を示す図6(a)のように、押子45を外部コネクタ41へ押し込むと、爪43が曲げられて、配管46が押子45内部を経て外部コネクタ41へ貫入される。さらに環状パッキン42内部を経て、配管46の先端が過剰圧力開放弁1に当接する。押子45を引き上げると、同図(b)のように爪43がその可撓性により復元して配管46に食込み、配管46を抜け落ち不能に固定する。この過剰圧力開放ユニット2により、容器40内が密閉される。また、過剰圧力開放弁1と環状パッキン42とは連結した一体化した形でもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を適用する過剰圧力開放弁1及びそれを有する過剰圧力開放ユニット2を試作した実施例と、本発明を適用外の過剰圧力開放弁及びそのユニットを試作した比較例とを、以下に示す。
【0052】
(デュロメータA硬さの相違するシリコーンゴムの調製例)
原料として、シリコーンゴム100質量部に、過酸化物加硫剤を配合し、二本ロールで混合分散させて、シリコーンゴムコンパウンドを作製し、二本ロールを用いて厚さ4mmにシーティングした。金型を用いて、170℃で6分間、プレス加硫した後、200℃で1時間、二次加硫することにより、JIS K6253によるデュロメータA硬さが、A30、A35、A40、A50、A55、A60及びA70の7種類の各シリコーンゴムを調製した。それの原料の各配合比は、表1に記載のとおりである。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例1)
前記のようにして調製したデュロメータA硬さがA35のシリコーンゴムを金型に流し込み、図1に示す過剰圧力開放弁1を作製した。過剰圧力開放弁1は、外径Dが4mmで全厚さTが1mmのゴム弾性板11であり、その窪み13で形成された脆弱部12の厚さTが0.3mmであり、窪み13内の中央にある尖端での窪み深さTと端部での窪み深さTとの差が0.3mmであり、窪み13を形成している溝15の溝幅Wが0.5mm、溝全長Lが2.0mmであるものである。
【0055】
これを、図6のように、内径2.5mmで外径4.0mmのポリウレタン製配管46を接着剤で過剰圧力開放弁1の表面側10に接着し、外部コネクタ41に嵌着する過剰圧力開放ユニット2を、作製した。
【0056】
(実施例2)
実施例1の過剰圧力開放弁1のデュロメータA硬さがA35のシリコーンゴムに代えて前記のようにして調製したデュロメータA硬さがA55のシリコーンゴムを用いたことと、その窪み13で形成された脆弱部の厚さTが0.3mmに代えて0.1mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、過剰圧力開放弁1及び過剰圧力開放ユニット2を、作製した。
【0057】
(耐熱性試験)
実施例1で作製した過剰圧力開放ユニット2を、−30℃、0℃、25℃、60℃、65℃、85℃の各恒温槽に入れ、圧力測定器にそのユニット2の配管46を接続した。恒温槽に入れてから30分経過後に、配管46から窒素ガス又は水素ガスを2kPa/秒の速度で昇圧しながら流し込み、過剰圧力開放弁1が、脆弱部12の破裂により動作したときの作動圧力、即ちリリーフ圧を測定した。夫々の温度で5検体ずつ測定を行った。その結果を平均したデータを、表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかな通り、過剰圧力開放ユニット2によれば、−30℃〜100℃、特に、燃料電池、二次電池の電解槽、反応容器で汎用される温度域である0〜85℃程度、所期の過剰圧力を開放することができるものである。また、窒素ガスや水素ガスなどガスの種類に依らず、常に略一定の過剰圧力を開放することができる。
【0060】
(再現性試験)
実施例1で作製した過剰圧力開放ユニット2の配管46に接続し、水中に浸け、2kPa/秒で昇圧を開始し、過剰圧力開放ユニット2から泡が遺漏しているか否かを目視し、初期遺漏の有無を確認した。次いで過剰圧力開放ユニット2を常圧に戻してから、25℃の恒温槽に入れ、圧力測定器に配管46を接続した。恒温槽に入れてから30分経過後に、配管46から窒素ガスを2kPa/秒の昇圧速度で昇圧しながら流し込み、過剰圧力開放弁1が、脆弱部12の破裂により動作したときの作動圧力を測定した。17検体の過剰圧力開放ユニット2について繰り返して測定を行った。その結果を、表3に示す。
【0061】
また、実施例2で作製した18検体の過剰圧力開放ユニット2についても、同様に測定を行った。その結果を、表4に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
表3及び表4から明らかな通り、過剰圧力開放ユニット2によれば、設計された圧力値通りに、ロット内で異常にばらつくことなく、略一定の過剰圧力を、正確かつ確実に開放することができる。この過剰圧力開放ユニット2は、デュロメータA硬さや脆弱部の厚さを適宜変更して設計することができ、異常を生じず、設計された圧力値通りに、略一定の過剰圧力を、再現性良く確実に開放することができる。
【0065】
(実施例3)
実施例1で作製した過剰圧力開放ユニット2とは、過剰圧力開放弁1の向きを上下逆にしたこと以外は、実施例1と同様にして、過剰圧力開放ユニット2を作製した。
【0066】
(方向性の性能試験)
実施例3で作製した過剰圧力開放ユニット2の1検体を用いて、再現性試験と同様にして、測定した。その結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表3及び表5から明らかな通り、過剰圧力開放弁1は、裏面側20の窪み13側から圧力をかけた場合よりも、窪み13の無い表面側10から圧力をかけた場合の方が、約1.5倍も作動圧力が高かった。従って、過剰圧力開放弁1は、方向性があり、それによっても開放すべき所望の過剰圧力を調整できる。
【0069】
(実施例4)
前記のようにして調製したデュロメータA硬さがA30、A40、A50、A60、及びA70のシリコーンゴムを、夫々金型に流し込み、図1に示す過剰圧力開放弁1を作製した。過剰圧力開放弁1は、外径Dが4mmで全厚さTが1.0mm又は1.5mmのゴム弾性板11であり、その窪み13で形成された脆弱部の厚さTが0.1mm、0.2mm又は0.3mmであり、窪み13内の中央にある尖端での窪み深さTと端部での窪み深さTとの差が0.3mmであり、窪み13を形成している溝15の溝幅Wが0.5mm、溝全長Lが2.0mmであるものである。デュロメータA硬さと全厚さTと脆弱部の厚さTとが、表6に示す値である30種類の過剰圧力開放弁1を用い、実施例1と同様に、図6のような過剰圧力開放ユニット2を、作製した。
【0070】
(材質・形状毎の性能試験)
実施例4で作製した過剰圧力開放ユニット2の各2検体を用いて、再現性試験と同様にして、測定した。その結果をまとめて表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
1000kPaにまで昇圧したとことで測定を中止したが、測定できたデータを基に、脆弱部厚さT/開放弁厚さT毎のデュロメータA硬さと作動圧力の相関関係を、図7に示す。
【0073】
表6及び図7から明らかな通り、過剰圧力開放弁1を形成するシリコーンゴムのデュロメータA硬さA30からA70へと硬くなるに連れ、作動圧力が増大した。また、開放弁厚さTが同じであれば、脆弱部厚さTが厚いほど、作動圧力が増大した。一方、脆弱部厚さTが同じであれば、開放弁厚さTが厚くなっても、作動圧力は略同等であった。
【0074】
(実施例5)
実施例1と同様にして得た過剰圧力開放ユニット2を、1箇月間、80℃で保管した後、前記と同様にして、耐熱性試験、再現性試験を行ったところ、保管前に行った実施例1と同等の結果が得られた。
【0075】
(比較例1)
実施例1の過剰圧力開放ユニット2中の過剰圧力開放弁1を、円柱状の窪みを有しそれによってその窪みに尖端を有しない過剰圧力開放弁にかえたこと以外は、実施例1同様にして、本発明を適用外の過剰圧力開放ユニットを得た。前記と同様にして、耐熱性試験、再現性試験を行ったところ、ロット間に、実施例1の場合よりも遥かにばらつくことが認められた。また、過剰圧力開放ユニットの過剰圧力開放弁が、捲れ上がってしまったロットが散見された。
【0076】
(比較例2)
実施例1の過剰圧力開放ユニット2中の過剰圧力開放弁1を、半球状の窪みを有しそれによってその窪みに尖端を有しない過剰圧力開放弁にかえたこと以外は、実施例1同様にして、本発明を適用外の過剰圧力開放ユニットを得た。前記と同様にして、耐熱性試験、再現性試験を行ったところ、ロット間に、実施例1の場合よりも遥かにばらつくことが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の過剰圧力開放弁は、小さくても、低圧力から高圧力までの過剰な圧力を安全に開放できるので、燃料電池や二次電池等の電池の過剰圧力や過剰生成または供給された水素燃料等を開放する安全弁や逆止弁として、用いられる。また、ビールや炭酸飲料のような発泡飲料用の容器、過酸化水素のようなガス発生性試薬の保存容器、エアー配管やガス配管から、過剰なガスを開放する安全弁として、用いられる。特に、小型の携帯電話、ラップトップパーソナルコンピュータ、携帯ラジオ、携帯テレビ、携帯ライトに用いられる電池の安全弁や逆止弁として有用であり、その中でも小型の携帯電話やラップトップパーソナルコンピュータに組み込まれる水素を燃料とする燃料電池の過剰圧力開放弁として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明を適用する過剰圧力開放弁の実施の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明を適用する過剰圧力開放弁を用いた過剰圧力開放ユニットの実施の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明を適用する過剰圧力開放弁の別な実施例を示す斜視図である。
【図4】本発明を適用する過剰圧力開放弁を用いた過剰圧力開放ユニットの別な実施の一例を示す断面図である。
【図5】本発明を適用する過剰圧力開放弁を用いた過剰圧力開放ユニットの別な実施の一例を示す断面図である。
【図6】本発明を適用する過剰圧力開放弁を用いた過剰圧力開放ユニットの別な実施の一例を示す断面図である。
【図7】本発明を適用する過剰圧力開放弁を用いた過剰圧力開放ユニットにつき、過剰圧力開放弁の脆弱部厚さ及びその全厚さ毎のデュロメータA硬さと作動圧力との相関関係を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1は過剰圧力開放弁、2は過剰圧力開放ユニット、10は表面側、11はゴム弾性板、12は脆弱部、13は窪み、14は傾斜面、15は溝、16は破裂孔、17はスリット、20は裏面側、30は容器壁、31は連結具、32は通気経路、33はナット、34はボルト、35はフード、36はキャップ、37は通気孔、38はフードキャップ、39は開放口先端、40は容器、41は外部コネクタ、42は環状パッキン、43は爪、44はフィルタ、45は押子、46は配管、Dは外径、Lは全長、Wは幅、Tは全厚さ、Tは尖端での窪み深さ、Tは脆弱部の厚さ、Tは端部での窪み深さ、Tは端部での最小窪み深さである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム弾性板の裏面側にかかる過剰圧力を、前記ゴム弾性板の表裏何れかの面側に設けられた脆弱部の破裂によってその表面側の外界へ開放する過剰圧力開放弁であって、前記脆弱部が、前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ向く尖端を有する窪み、又は前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ傾斜して切れ込まれたスリットであることを特徴とする過剰圧力開放弁。
【請求項2】
前記脆弱部を、前記ゴム弾性板の中央に有していることを特徴とする請求項1に記載の過剰圧力開放弁。
【請求項3】
前記脆弱部が、前記表裏面に沿う横断面を一文字状、U字状、V字状、S字状、十文字状、星印状、又は放射状とする前記窪み若しくは前記スリットであり、又は円錐状若しくは角錐状の前記窪みであることを特徴とする請求項2に記載の過剰圧力開放弁。
【請求項4】
前記脆弱部が、溝からなる前記窪みで形成されており、前記溝が、前記表裏面に直交する縦断面をU字状、V字状、コ字状、又は五角形状とすることを特徴とする請求項2に記載の過剰圧力開放弁。
【請求項5】
前記ゴム弾性板が、シリコーンゴム製であることを特徴とする請求項1に記載の過剰圧力開放弁。
【請求項6】
ゴム弾性板の裏面側にかかる過剰圧力を、前記ゴム弾性板の表裏何れかの面側に設けられた脆弱部の破裂によってその表面側の外界へ開放する過剰圧力開放弁が、閉鎖系の容器、配管、及び/又はそれに連結される外部コネクタ内に、設けられており、前記脆弱部が、前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ向く尖端を有する窪み、又は前記何れかの面側から前記ゴム弾性板の内部へ傾斜して切れ込まれたスリットであることを特徴とする過剰圧力開放ユニット。
【請求項7】
前記過剰圧力開放弁が、その表面側でキャップにより覆われていることを特徴とする請求項6に記載の過剰圧力解放ユニット。
【請求項8】
前記キャップが、前記過剰圧力による前記破裂に応じて外れるように、捻じ込まれ、若しくは前記破裂に応じてまくれるように、押し込まれており、又は前記過剰圧力による前記破裂に応じた音波若しくは信号の発生器に接続されていることを特徴とする請求項7に記載の過剰圧力解放ユニット。
【請求項9】
前記容器、配管又は外部コネクタへ着脱する連結具が付されていることを特徴とする請求項6に記載の過剰圧力解放ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144769(P2010−144769A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320504(P2008−320504)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】