説明

遠心圧縮機及び遠心圧縮機の運転方法

【課題】腐食成分が含まれた流体が供給された場合に、インペラにおける腐食や応力腐食割れの発生を確実に防止することが可能な遠心圧縮機を提供する。
【解決手段】遠心圧縮機1は、インペラを回転させることで、供給された流体Gを圧縮して排出するもので、供給された流体Gのインペラを形成するインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出する検出手段4と、検出手段4によって検出された特性値が、インペラ材料によって決定され、予め設定されている条件を満たすか否かを判定する判定手段5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラを回転させることで、供給された流体を圧縮して排出する遠心圧縮機及び遠心圧縮機の運転方法に関し、特に、流体中にインペラの腐食を促進させる成分が含まれるような使用環境で使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、遠心圧縮機は、例えば、ガスタービンにおけるタービンへのガスの供給や、油田において原油を取り出すのにガスを注入するためなどに使用される。ここで、駆動時においてインペラには大きな負荷が作用するため、インペラを形成する材質としては、高強度の金属材料が選択される。一方、油井環境など使用される遠心圧縮機では、供給される流体であるプロセスガス中に、金属材料の腐食を促進させる成分、例えば、硫化水素、二酸化炭素あるいは塩素などが多く含まれている。このため、駆動時において、大きな負荷が掛かるインペラでは、このような腐食成分により腐食が生じ、また、応力腐食割れが発生して破断に至るおそれがあるため、インペラを形成する金属材料としては耐食性を有するSUS32J4Lに類似する材料などの採用が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Francois Millet 他、SUPERDUPLEX STAINLESS STEEL USE IN MANUFACTURING HIGHLY SOUR GAS CENTRIFUGAL COMPRESSORS、「THE AMERICAN SOCIETY OF MECHANICAL ENGINEERS」、アメリカ合衆国、1996年、96−GT−272
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の非特許文献1に記載されたような材料を用いたとしても、流体中に含まれる腐食成分の割合が高くなれば、腐食や応力腐食割れは発生してしまうおそれがあり、高濃度の腐食成分を含む流体が供給された時の対策が求められていた。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、腐食成分が含まれた流体が供給された場合に、インペラにおける腐食や応力腐食割れの発生を確実に防止することが可能な遠心圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の遠心圧縮機は、インペラを回転させることで、供給された流体を圧縮して排出する遠心圧縮機であって、供給された前記流体の前記インペラを形成するインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出する検出手段と、該検出手段によって検出された前記特性値が、前記インペラ材料によって決定され、予め設定されている条件を満たすか否かを判定する判定手段とを備えることを特徴としている。
【0006】
また、本発明の遠心圧縮機の運転方法は、インペラを回転させることで、供給された流体を圧縮して排出する遠心圧縮機の運転方法であって、供給された前記流体の前記インペラを形成するインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出し、検出された該特性値が、前記インペラ材料によって決定され、予め設定されている条件を満たすか否かを判定し、該判定の結果に基づいて前記遠心圧縮機の駆動を制御することを特徴としている。
【0007】
この構成及び方法によれば、検出手段によって供給された流体のインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出し、判定手段によってこの特性値が、インペラ材料によって決定されて予め設定されている条件、すなわち、腐食が促進されてしまうような当該特性値に係る条件を満たしているか判定することができる。このため、判定に基づいて現在供給された流体により腐食や応力腐食割れが発生するおそれがある時を判断することができ、発生するおそれがある時には、装置の停止等適切な対応をとることができる。
【0008】
また、上記の遠心圧縮機において、前記検出手段は、前記特性値を複数検出し、前記判定手段は、複数の前記特性値が予め設定された関係を満たすか否かを判定することがより好ましい。
【0009】
また、上記の遠心圧縮機の運転方法において、前記流体の前記特性値を複数検出し、複数の該特性値が前記条件として予め設定された関係を満たすか否かを判定することがより好ましい。
【0010】
この構成及び方法によれば、検出手段によって特性値を複数検出して、判定手段では、複数の特性値が予め設定された関係を満たすか否かを判定することで、複数の特性値が複合的に作用して腐食や応力腐食割れを発生させてしまう影響を正確に考慮して判定することができる。
【0011】
また、上記の遠心圧縮機において、前記検出手段は、前記特性値として、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出することがより好ましい。
【0012】
また、上記の遠心圧縮機の運転方法において、前記流体の前記特性値として、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出することがより好ましい。
【0013】
この構成及び方法によれば、特性値として塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出し、判定手段はこれらに基づいて判定することで、これらの特性値の腐食や応力腐食割れに対する影響を特に考慮して判定することができる。
【0014】
また、上記の遠心圧縮機において、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧のいずれか一つを第一の特性値とし、他の二つをそれぞれ第二の特性値及び第三の特性値として、前記第一の特性値による区分毎に、前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係が記憶された記憶手段を備え、前記判定手段は、前記検出手段で検出された前記第一の特性値に基づいて、前記記憶手段から対応する区分となる前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を参照して、前記検出手段で検出された前記第二の特性値と前記第三の特性値とが参照した関係を満たすか否かを判定することがより好ましい。
【0015】
また、上記の遠心圧縮機の運転方法において、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧のいずれか一つを第一の特性値とし、他の二つをそれぞれ第二の特性値及び第三の特性値として、前記第一の特性値による区分毎に、前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を記録しておき、検出された前記第一の特性値に基づいて、記録された中から対応する区分となる前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を参照して、検出された前記第二の特性値と前記第三の特性値とが参照した関係を満たすか否かを判定することがより好ましい。
【0016】
この構成及び方法によれば、判定手段は、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧の内の第一の特性値に基づいて、記憶手段から第一の特性値の対応する区分における第二の特性値と第三との特性値との関係を参照して、残りの二つの第二の特性値と第三の特性値とが当該関係を満たすか否か判定することで、三つの特性値の複合的な影響を考慮して判定することができる。
【0017】
また、上記の遠心圧縮機において、前記判定手段による判定結果に基づいて、前記インペラを回転させる駆動部を制御する制御手段を備えることがより好ましい。
【0018】
また、上記の遠心圧縮機の運転方法において、前記判定の結果が予め設定された条件を満たすとの判定の場合は、前記インペラを回転させる駆動部の駆動を継続させ、予め設定された条件を満たさないとの判定の場合は、前記駆動部を停止させることがより好ましい。
【0019】
この構成及び方法によれば、判定手段による判定結果に基づいて制御手段の制御により、現在供給された流体により腐食や応力腐食割れが発生するおそれが無い時は、駆動部を駆動させて流体を好適に圧縮することができる。また、現在供給された流体により腐食や応力腐食割れが発生するおそれがある時は、駆動部を停止させて、流体によってインペラに腐食や応力腐食割れが発生してしまうのを確実に防止することができる。
【0020】
また、上記の遠心圧縮機において、前記流体の有する前記特性値を調整可能な調整手段と、前記判定手段による判定結果に基づいて、前記調整手段を制御する制御手段とを備えることがより好ましい。
【0021】
また、上記の遠心圧縮機の運転方法において、前記判定の結果が予め設定された条件を満たさないとの判定の場合は、前記流体の特性値が前記条件を満たすように調整を行うことがより好ましい。
【0022】
この構成及び方法によれば、判定手段による判定結果に基づいて制御手段の制御により、現在供給された流体により腐食や応力腐食割れが発生するおそれがある時は、調整手段を駆動させる。これにより、特性値が判定手段における条件を満たすように調整することができるので、流体によってインペラに腐食や応力腐食割れが発生してしまうのを確実に防止ししつつ連続的に運転を行うことができる。
【0023】
また、上記の遠心圧縮機において、前記インペラが二相ステンレス鋼で形成されていることがより好ましい。
【0024】
この構成によれば、インペラが二相ステンレス鋼で形成されていることで、流体圧縮時に作用する負荷に対応して必要な強度を確保することができるとともに、流体に含まれる腐食成分に対する耐食性を付与することができる。そして、判定手段により当該二相ステンレス鋼に基づいて決定された条件に基づいて判定を行うことで、流体に含まれる腐食成分によるインペラの腐食や応力腐食割れをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の遠心圧縮機では、検出手段と判定手段とを備えることにより、腐食成分を含む流体が供給された場合でもインペラにおける腐食や応力腐食割れの発生を確実に防止することができる。
本発明の遠心圧縮機の運転方法では、流体の特性値を検出し、これに基づいて判定し遠心圧縮機を制御することで、腐食成分を含む流体が供給された場合でもインペラにおける腐食や応力腐食割れの発生を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1から図5に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態の遠心圧縮機1は、流体であるプロセスガスGを圧縮する圧縮機本体2と、圧縮機本体2を駆動させる駆動部3と、プロセスガスGの特性値を検出する検出手段であるプロセスガス分析装置4と、プロセスガス分析装置4での検出結果に基づいてプロセスガスGの状態の判定を行う判定手段5と、判定手段5が参照するデータが記憶されている記憶手段6と、駆動部3を制御する制御手段7とを備える。駆動部3は、電動モータや、タービンなど、用途により様々なものが選択可能である。図2に示すように、圧縮機本体2は、外郭をなすケーシング10と、ケーシング10に回転可能に支持されて駆動部3により回転するロータ11と、ケーシング10内部でロータ11に同軸に取り付けられた複数のインペラ12とを備える。
【0027】
インペラ12は、略円盤状の本体部12aに複数の羽根12bが放射状に立設され、該羽根12bの先端にシュラウド12cが取り付けられて構成されている。そして、本体部12aと、シュラウド12cと、隣り合う羽根12b同士とにより形成される流路12dによって、圧縮する対象となる流体であるプロセスガスGを、径方向内側で軸方向に流入させ、径方向外側に向かって排出することが可能となっている。ここで、インペラ12を形成するインペラ材料としては、プロセスガスGを圧縮する際に大きな負荷が作用するため、高強度の金属材料が選択される。また、プロセスガスGとして後述するようにインペラ材料を腐食させる腐食成分が含まれているような使用環境化で使用する場合には、二相ステンレス鋼や析出硬化Ni基合金など耐食性の高い材料であることが好ましく、特に二相ステンレス鋼が強度及び耐食性の両方を考慮した上で好ましい。なお、二相ステンレス鋼としては、例えばSUS329J4Lなどが、析出硬化Ni基合金としては、例えばInconel718(登録商標)などがある。
【0028】
ケーシング10には、両側にそれぞれジャーナル軸受10a及びスラスト軸受10bが設けられており、ロータ11の回転軸11aは、これらジャーナル軸受10a及びスラスト軸受10bに回転可能に支持されている。また、ケーシング10は、ロータ11及びインペラ12の周囲に各インペラ12との間に連続した複数の作動室10cを形成するとともに、両側には作動室10cと連通するようにしてプロセスガスGが流入する吸込口10dと、流出する吐出口10eとが設けられている。
【0029】
図1に示すように、本実施形態では、プロセスガス分析装置4は、吸込口10dから流入したプロセスガスGの一部を採取して、採取したプロセスガスGの分析を行うもので、プロセスガスGのインペラ材料の腐食に関係する特性値として、塩素濃度、PH値X及び硫化水素分圧を検出し、判定手段5に出力することが可能となっている。
【0030】
記憶手段6には、判定手段5によって判定を行うための条件として、特性値である塩素濃度、PH値X及び硫化水素分圧の相関関係が記憶されている。そして、判定手段5は、記憶手段6を参照して検出された塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が当該関係を満たすか否かにより、プロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生するおそれがあるか否か判定する。また、制御手段7は、判定手段5の判定結果により塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が当該関係を満たす場合には、駆動部3を駆動させるとともに、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が当該関係を満たさない場合には、駆動部3を停止させる制御を行う。
【0031】
ここで、記憶手段6に記憶され、判定手段5によって参照されて判定を行う条件となる塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧の関係について詳細に説明する。<表1>は、インペラ材料として選択される二相ステンレス鋼SUS329J4Lについて、低ひずみ速度引張試験を、腐食環境で行った時の実験結果である。腐食環境としては、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を<表1>のようにそれぞれ変化させて、各環境下において試験を行った。<表1>に示すように、塩素濃度が高くなると、応力腐食割れによって脆性破壊に至るPH値が高くなり、また、硫化水素分圧が低くなることが分かった。この関係は、PH値または硫化水素を基準としても同様の傾向を示す。すなわち、PH値を基準としてPH値が低くなると、応力腐食割れによって脆性破壊に至る塩素濃度及び硫化水素分圧が低くなり、また、硫化水素分圧を基準として硫化水素分圧が高くなると、応力腐食割れによって脆性破壊に至る塩素濃度が低くなり、また、PH値が高くなる。
【0032】
【表1】

【0033】
以上の結果から、インペラ材料に発生する腐食や応力腐食割れは、プロセスガスGの腐食に関する複数の特性値が当該インペラ材料に基づいて決定される所定の相関関係を満たしているか否かによって判断可能であることがわかる。すなわち、塩素濃度をZ(%)、PH値をX、硫化水素分圧をY(atm)とし、所定の相関関係を[F(X、Y、Z)=P](P:定数)とすれば、[F(X、Y、Z)<P]の関係を満たしているか判定することにより、供給されるプロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生するか否かを判定することができる。
【0034】
より具体的には、塩素濃度Z(%)、PH値X及び硫化水素分圧Y(atm)をそれぞれ変化させて様々の条件で低ひずみ速度引張試験を行い、破断に至る値をプロットする。そして、プロットされた結果から三者の相関関係を求める。図3は、三者の相関関係を平面式[a・X+b・Y+c・Z=P](a、b、c:定数)で近似したものであり、この場合には、満たすべき関係は、[a・X+b・Y+c・Z<P]となる。なお、図3において、PH値を示すX軸は、+側にいくに従って小さな値を示すようになっている。
【0035】
また、使用する相関関係としては、三つの特性値を一つの式で関係づけるものではなく、ある一つの特性値を第一の特性値とし、他の二つを第二の特性値及び第三の特性値とし、第一の特性値の区分毎に、第二の特性値と第三の特性値との関係を設定するものとしても良い。具体的には、例えば、図3及び図4に示すように、塩素濃度Z(%)を第一の特性値とし、Z1(%)、Z2(%)、Z3(%)、Z4(%)(但し、Z1≦Z2≦Z3≦Z4)とそれぞれ変化させて、各濃度において、破断に至る第二の特性値及び第三の特性値となるPH値Xと硫化水素分圧Y(atm)をプロットする。そして、図4に示すように、各濃度において、プロットされた結果から二者の相関関係を求め、例えば直線R1、R2、R3、R4のように直線近似して求める。
【0036】
そして、検出された塩素濃度ZがZ1(%)未満である場合には濃度Z1(%)における直線R1[s1・X+t1・Y=u1](s1、t1、u1:定数)を選択し、[s1・X+t1・Y<u1]を満たすか否か判定する。同様に、Z1(%)以上Z2(%)未満である場合には濃度Z2(%)における直線R2[s2・X+t2・Y=u2](s2、t2、u2:定数)を選択し、また、Z2(%)以上Z3(%)未満である場合には濃度Z3(%)における直線R3[s3・X+t3・Y=u3](s3、t3、u3:定数)を選択し、また、Z3(%)以上Z4(%)未満である場合には濃度Z4(%)における直線R4[s4・X+t4・Y=u4](s4、t4、u4:定数)を選択して、それぞれ対応する直線に基づく関係を満たすか否かを判定しても良い。なお、塩素濃度ZがZ4(%)以上の場合には、PH値X及び硫化水素分圧Y(atm)に係らず関係を満たさないと判定される。このように第一の特性値の区分毎に区分の最大値で得られた第二の特性値と第三の特性値との関係で判定することで、安全側で判定することができる。
【0037】
さらに、上記第二の特性値及び第三の特性値の相関関係を図5に示す関係Q1〜Q4のように、簡略化するものとしても良い。すなわち、図5では、直線R1に対応する関係Q1を、当該直線R1上の任意の点(X1、Y2)を基準とし、[X<X1]と[Y<Y2]との論理積としている。他の直線R2〜R4と対応する関係Q2〜Q4についても同様である。このようにすることで、PH値Xと硫化水素分圧Yとをそれぞれ独立して評価して両者が関係を満たすか否かを判定することができ、安全側においてより容易に判定を行うことができる。
【0038】
次に、この実施形態の遠心圧縮機1の作用並びに遠心圧縮機1の運転方法の詳細について説明する。なお、記憶手段6に記憶されている塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧の相関関係については図5に示すものが記憶されているものとして説明する。図1及び図2に示すように、制御手段7により駆動部3が駆動すると、ロータ11及びインペラ12は回転し、吸込口10dから供給されたプロセスガスGは、作動室10c内において、各インペラ12の流路12dを通過しながら圧縮され、吐出口10eから排出することとなる。ここで、吸込口10dから供給されたプロセスガスGの一部は、上記のとおりプロセスガス分析装置4に抽出されて塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が検出され、当該検出結果は判定手段5に出力される。判定手段5では、入力された塩素濃度がいずれの区分(Z<Z1、Z1≦Z<Z2、Z2≦Z<Z3、Z3≦Z<Z4、Z4≦Z)に属するかを判断し、対応する区分におけるPH値と硫化水素分圧との関係Q1〜Q4のいずれかを参照する。ここでは、検出された塩素濃度Za(%)が、[Z1≦Za<Z2]であったとする。このため、判定手段5は、対応する関係Q2[X≦X2、かつ、Y≦Y2]を参照し、検出されたPH値Xa及び硫化水素分圧Ya(atm)が関係Q2を満たすか否かを判定する。すなわち、Xa≦X2、かつ、Ya≦Y2であった場合には、関係Q2を満たし、プロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生しないと判定する。また、Xa>X2、または、Ya>Y2であった場合には、関係Q2を満たさず、プロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生するおそれがあると判定する。
【0039】
そして、制御手段7は、判定手段5によって、プロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生しないと判定された場合には、駆動部3の駆動を継続してプロセスガスGの圧縮を引き続き行わせる。一方、制御手段7は、判定手段5によって、プロセスガスGによりインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生するおそれがあると判定された場合には、駆動部3の駆動を停止させる。
【0040】
以上のように、本実施形態の遠心圧縮機1では、プロセスガス分析装置4によってプロセスガスGの特性値を検出し、判定手段5によってこの特性値が予め設定されている条件を満たしているか判定し、当該判定に基づいて制御手段7により駆動部3を制御するものとし、現在供給された流体により腐食や応力腐食割れが発生するおそれがある時は駆動部3を停止させることで、プロセスガスGによってインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生してしまうのを確実に防止することができる。特に、本実施形態では、特性値を複数検出し、これらに基づいて判定手段5によって判定を行っているので、複数の特性値が複合的に作用して腐食や応力腐食割れを発生させてしまう影響を正確に考慮して判定することができる。さらに、複数の特性値として、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出し、判定手段5はこれらに基づいて判定することで、これらの特性値の腐食や応力腐食割れに対する影響を特に考慮して判定することができる。
【0041】
また、本実施形態では、インペラ材料として二相ステンレス鋼を使用していることで、プロセスガスGの圧縮時に作用する負荷に対応して必要な強度を確保することができるとともに、プロセスガスGに含まれる腐食成分に対する耐食性を好適に付与することができる。そして、判定手段5により当該二相ステンレス鋼に基づいて決定された条件に基づいて判定を行うことで、プロセスガスGに含まれる腐食成分によるインペラ12の腐食や応力腐食割れをより確実に防止することができる。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施形態を示したものである。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0043】
図6に示すように、この実施形態の遠心圧縮機20は、プロセスガスGの特性値を調整する調整手段21として、プロセスガスGに窒素ガスを供給するガス供給手段22と、インペラ12を洗浄する洗浄手段23とを備える。ガス供給手段22は、窒素ガスが貯留され、配管により吸込口10dに接続されているガス貯留部22aと、該配管に設けられて制御手段7によって駆動して開閉可能なバルブ22bとを有する。そして、制御手段7による制御のもとバルブ22bを駆動させることにより、所望の量の窒素ガスを吸込口10dから供給されるプロセスガスGに混合させることが可能となっている。また、洗浄手段23は、洗浄液が貯留される洗浄液貯留部23aと、制御手段7によって駆動して洗浄液貯留部23aの洗浄液をインペラ12に向かって圧送する洗浄液供給部23bとを有する。洗浄液としては、水や、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液が選択される。そして、制御手段7による制御のもと洗浄液供給部23bを駆動させることにより、所望の量の洗浄液をインペラ12に吐出させ、洗浄することが可能となっている。
【0044】
次に、この実施形態の遠心圧縮機20の作用並びに遠心圧縮機20の運転方法の詳細について説明する。図6に示すように、制御手段7によって駆動部3を駆動させることで、プロセスガスGを圧縮させつつ、吸込口10dから供給されたプロセスガスGの一部がプロセスガス分析装置4に抽出されて塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が検出され、当該検出結果が判定手段5に出力される。そして、判定手段5によって、検出された塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧が予め設定された関係を満たしていないと判定され、現在供給されたプロセスガスGにより腐食や応力腐食割れが発生するおそれがある場合には、制御手段7は、当該判定結果に基づいてガス供給手段22及び洗浄手段23を駆動させる。そして、ガス供給手段22を駆動させてプロセスガスGに窒素ガスを供給することで、硫化水素分圧を低下させることができる。また、洗浄手段23によって洗浄液として水を供給すれば、塩素濃度を低下させることができる。また、洗浄手段23によって洗浄液としてアルカリ水溶液を供給すれば、塩素濃度を低下させるとともに、さらにプロセスガスGのPH値を上げることができる。このため、ガス供給手段22及び洗浄手段23により、プロセスガスGの特性値である塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を予め設定された関係を満たすように調整することができ、プロセスガスGよってインペラ12に腐食や応力腐食割れが発生してしまうのを確実に防止ししつつ連続的に運転を行うことができる。
【0045】
なお、上記では、ガス供給手段22と洗浄手段23の両方を駆動させるものとしたが、これに限るものではなく、いずれか一方のみを駆動させるものとしても良い。例えば、ガス供給手段22のみを駆動して塩素濃度のみを低下させるようにしても、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧は、図3から図5の例に示すように、一つの特性値を調整することにより、他の特性値の閾値を変化させて、調整しなくても、予め設定された条件を満たすようにすることができる。しかしながら、ガス供給手段22及び洗浄手段23の両方を駆動させて、あるいは、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧の検出結果に基づいてガス供給手段22及び洗浄手段23のいずれか一方、または両方を選択するようにすることで、より効率良くプロセスガスGの特性値の調整を行うことができる。
【0046】
また、上記本実施形態では、プロセスガス分析装置は、吸込口10dで供給されるプロセスガスGの一部を抽出し、特性値である塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出するものとしたが、これに限るものではない。図7は、この実施形態の変形例を示している。図7に示すように、この変形例の遠心圧縮機25では、プロセスガス分析装置4は、作動室10c(図2参照)内のプロセスガスGを抽出している。このようにすることで、インペラ12が接している環境におけるプロセスガスGの特性値を直接検出し、また、判定手段5によって判定することができるため、プロセスガスGによるインペラ12の腐食及び応力腐食割れに対する影響をより正確に評価することができ、信頼性を向上させることができる。特に、最も腐食環境の厳しい、最上流側のインペラ12A(図2参照)近傍に流れるプロセスガスGを抽出することで、より信頼性を向上することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0048】
なお、上記各実施形態では、プロセスガスGの特性値として塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出するものとしたが、これに限るものではない。インペラ材料の腐食に関係するものであれば良く、例えば、二酸化炭素分圧などを選択しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態の遠心圧縮機の概要を示したブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の遠心圧縮機の圧縮機本体の詳細を示した断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の遠心圧縮機において、記憶手段に記憶された複数の特性値の関係の第1の例を示したグラフである。
【図4】本発明の第1実施形態の遠心圧縮機において、記憶手段に記憶された複数の特性値の関係の第2の例を示したグラフである。
【図5】本発明の第1実施形態の遠心圧縮機において、記憶手段に記憶された複数の特性値の関係の第3の例を示したグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態の遠心圧縮機の概要を示したブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施形態の変形例の遠心圧縮機の概要を示したブロック図である。
【符号の説明】
【0050】
1、 20、25 遠心圧縮機
3 駆動部
4 プロセスガス分析装置(検出手段)
5 判定手段
6 記憶手段
7 制御手段
12 インペラ
21 調整手段
22 ガス供給手段
23 洗浄手段
G プロセスガス(流体)
X PH値(特性値)
Y 硫化水素分圧(特性値)
Z 塩素濃度(特性値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラを回転させることで、供給された流体を圧縮して排出する遠心圧縮機であって、
供給された前記流体の前記インペラを形成するインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出する検出手段と、
該検出手段によって検出された前記特性値が、前記インペラ材料によって決定され、予め設定されている条件を満たすか否かを判定する判定手段とを備えることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の遠心圧縮機において、
前記検出手段は、前記特性値を複数検出し、
前記判定手段は、複数の前記特性値が予め設定された関係を満たすか否かを判定することを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の遠心圧縮機において、
前記検出手段は、前記特性値として、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出することを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の遠心圧縮機において、
塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧のいずれか一つを第一の特性値とし、他の二つをそれぞれ第二の特性値及び第三の特性値として、前記第一の特性値による区分毎に、前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係が記憶された記憶手段を備え、
前記判定手段は、前記検出手段で検出された前記第一の特性値に基づいて、前記記憶手段から対応する区分となる前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を参照して、前記検出手段で検出された前記第二の特性値と前記第三の特性値とが参照した関係を満たすか否かを判定することを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の遠心圧縮機において、
前記判定手段による判定結果に基づいて、前記インペラを回転させる駆動部を制御する制御手段を備えることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の遠心圧縮機において、
前記流体の有する前記特性値を調整可能な調整手段と、
前記判定手段による判定結果に基づいて、前記調整手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の遠心圧縮機において、
前記インペラが二相ステンレス鋼で形成されていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項8】
インペラを回転させることで、供給された流体を圧縮して排出する遠心圧縮機の運転方法であって、
供給された前記流体の前記インペラを形成するインペラ材料の腐食に関係する特性値を検出し、
検出された該特性値が、前記インペラ材料によって決定され、予め設定されている条件を満たすか否かを判定し、
該判定の結果に基づいて前記遠心圧縮機の駆動を制御することを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。
【請求項9】
請求項8に記載の遠心圧縮機の運転方法において、
前記流体の前記特性値を複数検出し、複数の該特性値が前記条件として予め設定された関係を満たすか否かを判定することを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。
【請求項10】
請求項9に記載の遠心圧縮機の運転方法において、
前記流体の前記特性値として、塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧を検出することを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。
【請求項11】
請求項10に記載の遠心圧縮機の運転方法において、
塩素濃度、PH値及び硫化水素分圧のいずれか一つを第一の特性値とし、他の二つをそれぞれ第二の特性値及び第三の特性値として、前記第一の特性値による区分毎に、前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を記録しておき、
検出された前記第一の特性値に基づいて、記録された中から対応する区分となる前記第二の特性値と前記第三の特性値との関係を参照して、検出された前記第二の特性値と前記第三の特性値とが参照した関係を満たすか否かを判定することを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の遠心圧縮機の運転方法において、
前記判定の結果が予め設定された条件を満たすとの判定の場合は、前記インペラを回転させる駆動部の駆動を継続させ、予め設定された条件を満たさないとの判定の場合は、前記駆動部を停止させることを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。
【請求項13】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の遠心圧縮機の運転方法において、
前記判定の結果が予め設定された条件を満たさないとの判定の場合は、前記流体の特性値が前記条件を満たすように調整を行うことを特徴とする遠心圧縮機の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−116873(P2010−116873A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291405(P2008−291405)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】