説明

遮熱コーティング用溶射粉、遮熱コーティング、タービン部材及びガスタービン、並びに遮熱コーティング用溶射粉の製造方法

【課題】高温結晶安定性に優れ、高靭性を有する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【解決手段】遮熱コーティング用溶射粉は、組成式(1):SmYbZr(1−x−y)((4−x−y)/2)(ただし、0≦x≦0.05、0.06≦y≦0.11)、または、組成式(2):SmZr(1−x−y)((4−x−y)/2)(ただし、0≦x≦0.05、0.04≦y≦0.09)で表され、原料混合後、電気溶融工程とスプレードライ等による造粒工程を経ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れる遮熱コーティング用溶射粉、遮熱コーティング、タービン部材及びガスタービン、並びに遮熱コーティング用溶射粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一つとして、火力発電の熱効率を高めることが検討されている。発電用ガスタービンの発電効率を向上させるためには、ガス入口温度を上昇させることが有効であり、その温度は1500℃程度とされる場合もある。そして、このように発電装置の高温化を実現するためには、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などを耐熱部材で構成する必要がある。しかし、タービン翼の材料は耐熱金属であるが、それでもこのような高温には耐えられないために、この耐熱金属の基材上に金属結合層を介して溶射等の製膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層を積層した遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を形成して、耐熱金属基材を高温から保護することが行われている。セラミックス層としてはZrO系の材料、特にYで部分安定化又は完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が、セラミックス材料の中では比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有しているためによく用いられている。
【0003】
しかしながら、ガスタービンの種類によっては、タービンの入口温度が1500℃を超える温度に上昇することが考えられている。また、近年環境対策の関係から、より熱効率の高いガスタービンの開発が進められており、タービンの入口温度が1700℃にも達すると考えられ、タービン翼の表面温度は1300℃もの高温になることが予想される。
【0004】
上記YSZからなるセラミックス層を備えた遮熱コーティング材料によりガスタービンの動翼や静翼などを被覆した場合、1500℃を超える過酷な運転条件の下ではガスタービンの運転中に上記セラミックス層の一部が剥離し、耐熱性が損なわれるおそれがあった。また、YSZは1200℃を超える温度で脱安定化現象を生じ、耐久性が大幅に低減してしまう。
【0005】
上記YSZからなるセラミックス層の剥離の問題を解決するため、特許文献1には、超合金の金属基材とセラミック層との間に、中間層を形成して耐久性を向上させる遮熱コーティング部材が開示されている。また、特許文献2には、安定化剤としてErが添加されたZrOからなる遮熱コーティング材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3503997号公報(請求項1、段落[0015])
【特許文献2】特許第4031631号公報(請求項1、段落[0006]、[0007])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温結晶安定性に優れ、高靭性を有する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、安定化剤と基剤とが混合された原料が電気溶融された後、スプレードライ造粒されてなる遮熱コーティング用溶射粉を提供する。
【0009】
安定化剤と基剤とが混合された原料は、含有される元素の組成が同じであっても、原料の合成方法によって、各成分の均一性が異なる。上記のように、原料を電気溶融させた後にスプレードライ造粒した溶射粉は、安定化剤の分散性が良くなるため、組成を変えずに、より高い靭性を有する溶射膜を形成できる遮熱コーティング用溶射粉となる。
【0010】
上記発明において、遮熱コーティング用溶射粉は、組成式(1):SmYbZr(1−x−y)((4−x−y)/2)(ただし、0≦x≦0.05、0.06≦y≦0.11)で表される化合物を主として含むことが好ましい。
【0011】
ガスタービンの翼などに施されたZrOを含む遮熱コーティングの結晶構造は、温度変化によって相転移する。この相転移は体積変化を伴うため、遮熱コーティングは昇降温を繰り返すことによって、材料の強度が低下する要因となる。特に、結晶構造が正方晶から単斜晶へ相転移する際に体積は大きく変化する。結晶構造が正方晶である場合、変形によるエネルギーを吸収しやすいため、亀裂が進展し難い。すなわち、高靭性の遮熱コーティングを得るためには、熱(振動)などによって単斜晶が生成しにくい組成の材料を用いる必要がある。
【0012】
上記ZrOの安定化剤としてYbO1.5を含有させることによって、高温で長時間加熱したときの単斜晶の生成量を低減させることができる。YbO1.5の含有量が少ないと単斜晶の生成量が多くなる。そのため、組成式(1)において、yの範囲は0.06以上0.11以下とする。
また、ZrOに、更にSmを所定量含有させることによって、安定化ジルコニアの破壊靭性を向上させることができる。Smの含有量が多すぎると、逆に安定化ジルコニアの破壊靭性を低下させてしまうため、組成式(1)において、xの範囲は0以上0.05以下とする。
上記のようにすることで、温度変化による相転移の発生を抑制し、高い靭性を有する溶射膜を形成できる遮熱コーティング用溶射粉となる。
【0013】
上記発明において、遮熱コーティング用溶射粉は、組成式(2):SmZr(1−x−y)((4−x−y)/2)(ただし、0≦x≦0.05、0.04≦y≦0.09)で表される化合物を主として含んでいても良い。組成式(1)のYbの替わりにYを用いた場合であっても、xとyを上記範囲とすることにより、組成式(1)と同様の効果が得られる。
【0014】
本発明は、耐熱基材上に、耐高温腐食合金材を含む金属結合層と、上記遮熱コーティング用溶射粉から製膜されたセラミックス層とが順に形成された遮熱コーティングを提供する。
上記遮熱コーティングのセラミックス層は、高温結晶安定性に優れ、高い靭性を有する。
【0015】
本発明は、上記遮熱コーティングを備えるタービン部材、及び、該タービン部材を備えたガスタービンを提供する。係る構成のタービン部材は、優れた熱サイクル耐久性を有する。そのため、例えば1700℃級のガスタービンの信頼性を向上させることができる。
【0016】
本発明は、安定化剤と基剤とが混合された原料を電気溶融する工程と、前記電気溶融された原料から溶射粉をスプレードライ造粒する工程とを備える溶射粉の製造方法を提供する。
【0017】
原料を電気溶融することによって、基剤中で安定化剤がよく混合された状態とすることができる。このような溶射粉を用いると、より高い破壊靭性を有する溶射膜を形成することができる。
【0018】
上記方法で組成式(1)または組成式(2)の化合物を混合することで、溶射粉中の安定化剤の均一性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高温結晶安定性に優れ、高靭性を有する遮熱コーティングを形成可能な溶射粉を得ることができる。本発明の遮熱コーティングを例えば1700℃級ガスタービンに適用することにより、タービンの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る遮熱コーティング用溶射粉を適用したタービン部材の断面の模式図である。
【図2】第1実施形態における焼結体中のYbO1.5濃度と破壊靭性値との関係を示すグラフである。
【図3】ガスタービンの運転時間と遮熱コーティングの表層での単斜晶生成量との関係を示すグラフである。
【図4】YbO1.5を含むZrOの結晶構造の状態図である。
【図5】溶射粉中の安定化剤の濃度分布を示す図である。
【図6】第2実施形態における焼結体中のYO1.5濃度と破壊靭性値との関係を示すグラフである。
【図7】YO1.5を含むZrOの結晶構造の状態図である。
【図8】溶射粉中の安定化剤の濃度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態に係る遮熱コーティング用溶射粉を適用したタービン部材の断面の模式図である。タービン動翼などの耐熱合金基材11上に、遮熱コーティングとして金属結合層12及びセラミックス層13が順に形成される。
【0022】
耐熱合金基材11は、例えば、商標名:IN−738LC(化学組成:Ni−16Cr−8.5Co−1.75Mo−2.6W−1.75Ta−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al(質量%))といった合金基材とされる。
【0023】
金属結合層12は、MCrAlY合金(Mは、Ni,Co,Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組合せを示す)などとされる。
【0024】
本実施形態のセラミックス層13は、
組成式(1):SmYbZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用溶射粉から形成される。
組成式(1)において、x及びyは、0≦x≦0.05、0.06≦y≦0.11とされ、所望の性能に応じて適宜設定される。より破壊靭性値の高い遮熱コーティングとしたい場合は、0.00644≦x≦0.03644、0.07≦y≦0.1の範囲内で、xとyを組み合わせると良い。より結晶安定性の高い遮熱コーティングとしたい場合は、x=0、0.105≦y≦0.11の範囲内で、xとyを組み合わせると良い。
【0025】
組成式(1)の遮熱コーティング用溶射粉は、以下の工程によりスプレードライ造粒される。
(電気溶融工程)
安定化剤としてYbO1.5粉末もしくはSmO1.5粉末+YbO1.5粉末、基剤としてZrO粉末を用いる。所定の割合で安定化剤及び基剤を秤量し、固相混合または軽く攪拌後、例えば、黒鉛電極を使用したアーク溶融炉によって電気溶融させてインゴットを合成する。原料を2500℃以上に加熱溶融させるため、電圧や電流などの条件は、適宜設定される。合成されたインゴットを粉砕・粉末化して直径1μm程度の原料粉末とする。
【0026】
(スプレードライ造粒工程)
次に、原料粉末を所定量秤量し、ボールミルなどにより水等と混合してスラリーを調整する。このとき、粒子径は元の大きさ(直径約1μm)まで調整する。得られたスラリーは、適宜バインダが添加され、水分量が調整された後、スプレードライ法などによって造粒される。スプレードライ造粒された原料は、固溶化処理が施された後、分級されて溶射粉となる。
上記のように電気溶融工程を経て調整された原料は、固相混合しただけのものよりも良く混合されるため、安定化剤の濃度分布のバラつきが小さくなる。
【0027】
本実施形態のセラミックス層13は、上記でスプレードライ造粒した溶射粉を用いて、大気圧プラズマ溶射などによって製膜される。
【0028】
以下、組成式(1)におけるxとyの数値範囲の設定根拠を説明する。
原料としてZrO粉末、YbO1.5粉末、及びSmO1.5粉末を用い、上記実施形態に従って原料粉末を調整し、表1に示す組成の焼結体を作製した。溶融炉は、溶融面積:500mm内径×200mm高さ(約39L)、排出量:20L/バッチ、内壁がZrOからなる耐熱材で覆われたものを使用した。スラリー調整時の原料と水との重量比は、1:1とした。造粒にはスプレードライヤを用い、スラリーを直径約60μmの液滴となるようスプレーし、200℃の乾燥空気中で徐々に乾燥させた。乾燥させた粉末を1450℃で10時間焼成した後、ふるいにかけて粒径150μmより大きな粒子を除去した。平均粒径は、約50μmであった。
【0029】
上記でスプレードライ造粒した溶射粉を1〜5μmに粉砕し、ペレット状にプレス成形後、1600℃に加熱して焼結体を作製した。
【0030】
各組成の焼結体の破壊靭性値を、JIS R 1607に基づいて測定した。また、焼結体を1300℃、1000時間で加熱処理した前後の単斜晶生成量を粉末X線回析により定量した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1によれば、焼結体中の単斜晶生成量は、YbO1.5濃度の上昇にともない減少した。
図2に、各組成の焼結体の破壊靭性値を示す。同図において、横軸はYbO1.5濃度、縦軸は破壊靭性値である。図2によれば、焼結体の破壊靭性値は、一旦YbO1.5濃度の上昇にともない増加し、YbO1.5濃度が9mol%を超えると低下する傾向を示した。これは、SmO1.5を含有させた効果であると考えられる。SmO1.5濃度が0.644mol%〜3.644mol%であるとき、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上となった。このとき、単斜晶の生成量は13%以下と低い値だった。従来のセラミックス層に用いられている、原料を電気溶融せずにスプレードライ造粒した8重量%Y−ZrOの破壊靭性値は4.6MPa・m1/2程度であることから、それ以上の破壊靭性値であることが好ましい。すなわち、高靭性の遮熱コーティングとするには、SmO1.5濃度は0mol%以上5mol%以下が好ましく、0.644mol%以上3.644mol%以下が更に好ましい。また、YbO1.5濃度は、6mol%以上11mol%以下、好ましくは7mol%以上10mol%以下とすることが好ましい。なお、YbO1.5及びSmO1.5は、それぞれが上記範囲内の濃度であれば、表1に示していない組み合わせであっても、同様の効果が得られる。
【0033】
表1によれば、SmO1.5濃度及びYbO1.5濃度が上記範囲内であるとき、単斜晶生成量はいずれも16%以下であった。単斜晶の生成量は、昇降温時に単斜晶〜正方晶変態による体積変化が生じるため16%以下とすることが好ましい。
【0034】
次に、実機における遮熱コーティングの表層での単斜晶生成量をLarson−Miller Parameter (LMP)により算出した。図3に、ガスタービンの運転時間と遮熱コーティングの表層での単斜晶生成量との関係を示す。同図において横軸はガスタービンの運転時間、縦軸は単斜晶生成量である。焼結体を1300℃、1000時間で加熱処理したときの単斜晶生成量は、実機を1220℃で1600時間(約2年間)運転した遮熱コーティングにおける単斜晶生成量に相当する(実線)。
【0035】
遮熱コーティングの寿命を約3年程度まで延ばそうとした場合、2400時間(約3年間)での単斜晶生成量を16%とすれば良い(点線)。図3によれば、2400時間での単斜晶生成量を16%とすると、1600時間での単斜晶生成量、すなわち、焼結体を1300℃、1000時間で加熱処理したときの単斜晶生成量は7%以下となった。
従って、SmO1.5濃度を0mol%以上5mol%以下、YbO1.5濃度を6mol%以上11mol%以下、好ましくはSmO1.5濃度を0mol%、YbO1.5濃度を10.644mol%以上11mol%以下とすることで高温結晶安定性の高い遮熱コーティングとすることができる。
なお、YbO1.5及びSmO1.5は、それぞれが上記範囲内の濃度であれば、表1に示していない組み合わせであっても、同様の効果が得られる。
【0036】
次に、溶射粉における安定化剤の濃度分布について説明する。
図4に、YbO1.5を含むZrOの結晶構造の状態図を示す。同図において、横軸はZrOとYbO1.5との組成比、縦軸は温度である。同図において、“tet”は正方晶、“mon”は単斜晶である。図4によれば、YbO1.5を含むZrOの結晶構造は、安定化剤が少なく且つ低温である場合に単斜晶、安定化剤の量を増やすと正方晶になりやすいことが分かる。また、1200℃では、相境界がZrOに対するYbO1.5の含有量が3mol%程度であるところに存在し、結晶構造は正方晶から単斜晶へと相転移する。
【0037】
組成式(1):Yb0.10644Zr0.893561.94678、すなわち重量比でYb−16wt%−ZrO−84wt%の溶射粉を上記実施形態に従ってスプレードライ造粒した。また、比較例として、同組成の溶射粉を電気溶融させずにスプレードライ造粒した。各溶射粉はEDS元素分析によりスポット測定した。
図5に、溶射粉中の安定化剤の濃度分布図を示す。同図において、横軸は安定化剤(YbO1.5)のモル%、縦軸はX線強度である。図5によれば、原料を電気溶融させることで、Ybのピークは比較例よりもシャープな形状となった。上記結果から、電気溶融したことによって、安定化剤がより均一に、分散されて存在していることが明らかとなった。
図4及び図5の点線Aは、含有されるYb量の対応する位置を示している。溶射粉中のYbの平均濃度が3mol%を超える場合、図4の状態図では1200℃で正方晶相となる。一方、図5の比較例によれば、Ybの濃度分布のバラつきが大きいと、単斜晶相も含まれることがわかる。言い換えると安定化剤の濃度分布のバラつきが小さいほど、短時間で単斜晶相(m相)が生成しにくくなる。
【0038】
〔第2実施形態〕
本実施形態おけるガスタービン部材は、溶射粉の組成が異なること以外は、第1実施形態と同様の構成とする。
【0039】
本実施形態のセラミックス層13は、
組成式(2):SmZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
で表される化合物を主として含む遮熱コーティング用溶射粉から形成される。
組成式(2)において、x及びyは、0≦x≦0.05、0.04≦y≦0.09とされ、所望の性能に応じて適宜設定される。より破壊靭性値の高い遮熱コーティングとしたい場合は、0.012588≦x≦0.022588、0.06≦y≦0.07の範囲内で、xとyを組み合わせると良い。より結晶安定性の高い遮熱コーティングとしたい場合は、x=0、y=0.082588≦y≦0.09の範囲内で、xとyを組み合わせると良い。
【0040】
組成式(2)の遮熱コーティング用溶射粉は、第1実施形態と同様の工程によりスプレードライ造粒された後、セラミックス層13として製膜される。
【0041】
以下、組成式(2)におけるxとyの数値範囲の設定根拠を説明する。
原料としてZrO粉末、YO1.5粉末、及びSmO1.5粉末を用い、上記実施形態に従って原料粉末を調整し、表2に示す組成の焼結体を第1実施形態と同様の条件で作製した。第1実施形態と同様に、各組成の焼結体の破壊靭性値及び単斜晶生成量を測定した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2によれば、焼結体中の単斜晶生成量は、YO1.5濃度の上昇にともない減少した。
図6に、各組成の焼結体の破壊靭性値を示す。同図において、横軸はYO1.5濃度、縦軸は破壊靭性値である。図6によれば、焼結体の破壊靭性値は、一旦YO1.5濃度の上昇にともない増加し、YO1.5濃度が6mol%を超えると低下する傾向を示した。これは、SmO1.5を含有させた効果であると考えられる。SmO1.5濃度が1.2588mol%〜2.2588mol%であるとき、破壊靭性値が5MPa・m1/2以上となった。このとき、単斜晶の生成量は13%以下と低い値だった。従来の8重量%Y−ZrOの破壊靭性値を参考にすると、高靭性の遮熱コーティングとするには、SmO1.5濃度は0mol%以上5mol%以下が好ましく、1.2588mol%以上2.2588mol%以下が更に好ましい。また、YO1.5濃度は、4mol%以上9mol%以下が好ましく6mol%以上7mol%以下とすることが更に好ましい。
なお、YO1.5及びSmO1.5は、それぞれが上記範囲内の濃度であれば、表2に示していない組み合わせであっても、同様の効果が得られる。
【0044】
表2によれば、SmO1.5濃度及びYbO1.5濃度が上記範囲内であるとき、単斜晶生成量はいずれも16%以下であった。従って、第1実施形態と同様に、1600時間での単斜晶生成量、すなわち、焼結体を1300℃、1000時間で加熱処理したときの単斜晶生成量を7%以下とすることで、遮熱コーティングの寿命を3年程度とすることができる。
すなわち、SmO1.5濃度を0mol%以上5mol%以下、YO1.5濃度を4mol%以上9mol%以下、好ましくはSmO1.5濃度を0mol%、YO1.5濃度を8.2588mol%以上9mol%以下とすることで高温結晶安定性の高い遮熱コーティングとすることができる。
なお、YO1.5及びSmO1.5は、それぞれが上記範囲内の濃度であれば、表2に示していない組み合わせであっても、同様の効果が得られる。
【0045】
次に、溶射粉における安定化剤の濃度分布について説明する。
図7に、YO1.5を含むZrOの結晶構造の状態図を示す。同図において、横軸はZrOとYO1.5との組成比、縦軸は温度である。図7によれば、YO1.5を含むZrOの結晶構造は、安定化剤が少なく且つ低温である場合に単斜晶、安定化剤の量を増やすと正方晶になりやすいことが分かる。また、1200℃では、相境界がZrOに対するYO1.5の含有量が5mol%程度であるところに存在し、結晶構造は正方晶から単斜晶へと相転移する。
【0046】
組成式(2):Y0.082588Zr0.9174121.95871、すなわち重量比でY−7.6wt%−ZrO−92.4wt%の溶射粉を上記実施形態に従ってスプレードライ造粒した。また、比較例として、同組成の溶射粉を電気溶融させずにスプレードライ造粒した。各溶射粉はEDS元素分析によりスポット測定した。
図8に、溶射粉中の安定化剤の濃度分布図を示す。同図において、横軸は安定化剤(YO1.5)のモル%、縦軸はX線強度である。同図において、“T”または“t”は正方晶、“M”または“m”は単斜晶である。図7及び図8の点線Bは、Yb量の対応する位置を示している。図8によれば、原料を電気溶融させることで、Yのピークはよりシャープな形状となった。上記結果から、安定化剤がより均一に、分散されて存在していることが明らかとなった。従って、剥離しにくい高靭性な溶射膜を形成させることができる。
【0047】
〔第3実施形態〕
第1実施形態や第2実施形態などの部分安定化ジルコニア系に加え、Sm−Yb−Zr系酸化物、La−Ce系酸化物などの化合物系(例えばSmYbZrやLaCe)、Y−Ta−Zr系酸化物、Sm−Yb−Ta−Zr系酸化物、Sm−Yb−Nd−Ta−Zr酸化物などの希土類元素−Ta−Zr酸化物系(例えばY0.14Ta0.14Zr0.72、Sm0.050Yb0.09Ta0.14Zr0.72、Sm0.032Yb0.123Nd0.025Ta0.14Zr0.68)等の化合物を用いても、より剥離しにくい高靭性な溶射膜を形成させることができる。
【符号の説明】
【0048】
11 耐熱合金基材
12 金属結合層
13 セラミックス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤と基剤とが混合された原料が電気溶融された後、スプレードライ造粒されてなる遮熱コーティング用溶射粉。
【請求項2】
組成式(1):SmYbZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
(ただし、0≦x≦0.05、0.06≦y≦0.11)
で表される化合物を主として含む請求項1に記載の遮熱コーティング用溶射粉。
【請求項3】
組成式(2):SmZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
(ただし、0≦x≦0.05、0.04≦y≦0.09)
で表される化合物を主として含む請求項1に記載の遮熱コーティング用溶射粉。
【請求項4】
耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に形成された請求項1乃至請求項3に記載の遮熱コーティング用溶射粉からなるセラミックス層と、を備えることを特徴とする遮熱コーティング。
【請求項5】
請求項4に記載の遮熱コーティングを備えることを特徴とするタービン部材。
【請求項6】
請求項5に記載のタービン部材を備えることを特徴とするガスタービン。
【請求項7】
安定化剤と基剤とが混合された原料を電気溶融する工程と、
前記電気溶融された原料から溶射粉をスプレードライ造粒する工程と、
を備える遮熱コーティング用溶射粉の製造方法。
【請求項8】
前記安定化剤及び基剤を
組成式(1):SmYbZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
(ただし、0≦x≦0.05、0.06≦y≦0.11)
で表される化合物となるように所定の割合で混合する請求項7に記載の遮熱コーティング用溶射粉の製造方法。
【請求項9】
前記安定化剤及び基剤を
組成式(2):SmZr(1−x−y)((4−x−y)/2)
(ただし、0≦x≦0.05、0.04≦y≦0.09)
で表される化合物となるように所定の割合で混合する請求項7に記載の遮熱コーティング用溶射粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−214054(P2011−214054A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82503(P2010−82503)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】