遮音材の固定構造
【課題】遮音材における加工工数が低減でき、遮音材の取付け工数が低減できる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】ダッシュボードロア20に沿わせた遮音材10は、左固定用穴11の回りをクリップ21で固定し、右固定用穴12の回りをクリップ21で固定することで左右辺が固定される。左右片をクリップで固定しただけでは中央が垂れるので、本発明では、遮音材10の幅方向略中央の下部に形成した段部13を巧みに利用し、段部13を車体部材で支えることで、中央の垂れを防止するようにした。
【効果】遮音材10に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。加えて、遮音材10の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【解決手段】ダッシュボードロア20に沿わせた遮音材10は、左固定用穴11の回りをクリップ21で固定し、右固定用穴12の回りをクリップ21で固定することで左右辺が固定される。左右片をクリップで固定しただけでは中央が垂れるので、本発明では、遮音材10の幅方向略中央の下部に形成した段部13を巧みに利用し、段部13を車体部材で支えることで、中央の垂れを防止するようにした。
【効果】遮音材10に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。加えて、遮音材10の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュボードロアに沿わせた遮音材の固定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッシュボードロアは、車室とエンジンルームとを仕切る部材の一つである。このようなダッシュボードロアには、エンジン音が車室へ侵入することを防止するために、遮音材が付設される。この遮音材の固定構造が各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平6−42442号公報(図2)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構造を説明する図であり、ダッシュボードロア101に、金属板をプレス曲げしてなるブラケット102が溶接で固定されている。このブラケット102は、ダッシュボードロア101に接触させるフランジ103、103と、これらのフランジ103、103から立ち上げた壁部104、104と、これらの壁部104、104の先端同士を繋ぐ天井部105と、壁部104、104の途中に切り起こし形成した押えフランジ106、106とからなる。
【0004】
一方、遮音材110には、天井部105に対応する大きさの矩形窓111が開けられ、この矩形窓111の四隅に切り込み112が入れられている。一対の切り込み112、112で挟まれる部分が可撓自在な可撓片113、113となる。
【0005】
図12は図11で説明した遮音材の取付け手順を説明する図であり、(a)において、実線で示す可撓片113、113を、矢印(1)、(1)のように曲げる。そして、想像線で示す可撓片113を、矢印(2)のように、フランジ103と押えフランジ106の間に挿入する。すると、(b)に示すように、ブラケット102を介して、ダッシュボードロア101に遮音材110を固定することができる。
【0006】
しかし、図11に示すように、遮音材110に矩形窓111を開け、且つ四隅に切り込み112を入れる必要があるため、取付け前の準備段階における加工工数が嵩む。
また、ダッシュボードロアの形状によっては、ブラケット102が取付けられない箇所があり、ブラケット102の取付け場所が制約される。
ブラケット102を取付けることができたとしても、図12(a)に示すように、可撓片113を曲げて、フランジ103、106の間に挿入する作業が必須であり、この作業が繁雑であるため、遮音材の取付け工数が嵩む。
【0007】
そこで、遮音材における加工工数が低減でき、遮音材の取付け工数が低減できる技術が必要になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、遮音材における加工工数が低減でき、遮音材の取付け工数が低減できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ダッシュボードロアに沿わせた遮音材を、前記ダッシュボードロアに固定する遮音材の固定構造であって、
前記遮音材は、車幅方向に延びた略矩形体であり、この略矩形体の左辺に左固定用穴を有し、右辺に右固定用穴を有すると共に、幅方向略中央の下部に前記ダッシュボードロアから離れる方向へ立ち上げた起立部とこの起立部の上端から前記ダッシュボードロアに平行に延ばした棚部とからなり車両前後に延びる段部を有し、
前記左右固定用穴を用いて前記ダッシュボードロアに固定し、前記棚部と起立部とで形成される角を車体部材に当てることで、遮音材が下方へずれることを防止するようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、車体部材は、ステアリングコラムを支えるために車幅方向に延ばしたステアイングハンガービームの中央とダッシュボードロアとの間に縦向きに渡されているステアリングハンガーブラケットであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、車体部材は、ステアリングハンガーブラケットに付設され遮音材の角を受ける受け面を備えている付属金具であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼ねていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明では、遮音材は、ダッシュボードロアに接する軟質材と、この軟質材を覆うと共に室内側に臨む硬質材とからなる二層構造体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、矩形形状の遮音材の左右辺をクリップなどを用いてダッシュボードロアに固定する。すると、遮音材の中央が垂れ下がり気味になる。そこで、遮音材の中央下部を、車体部材で受けさせるようにした。これで、遮音材の垂れを防止することができる。
遮音材に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。遮音材を車体部材に当てるだけであるから、遮音材の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、ステアリングハンガーブラケットで遮音材を受けさせるようにした。ステアリングハンガーブラケットは、車体構成要素の一つである。すなわち、既存の部品を兼用するため、車体部材の調達費用を削減若しくは低減させることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、ステアリングハンガーブラケットに付設した付属金具で遮音材を受けさせるようにした。付属金属は形状が自由に設定できる。ステアリングハンガーブラケットから付属金属を張り出すことで、付属金属の受け面の位置を任意に設定することができ、より好ましい位置で遮音材を支持させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼用させた。付属金属に遮音材の支持とフットパーキングワイヤの支持の2つの役割を持たせる。この結果、付属金属の付加価値が高まると共に部品点数の低減を図ることができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、遮音材は、軟質材と硬質材とからなる二層構造体とした。なお、軟質材は吸音性を有し、硬質材は遮音性を有する。硬質材は剛性に富み、このような硬質材を車体部品で受けさせれば、遮音材の垂れをより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る遮音材の正面図であり、遮音材10は横長の略矩形体であって、左辺に左固定用穴11を有し、右辺に右固定用穴12を有すると共に、幅方向略中央の下部に段部13を有する。この段部13は車両前後方向に上下に延びている。
【0020】
図2は図1の2−2線断面図であり、遮音材10は、吸音性に富む軟質材14と、この軟質材14の室内側の面を覆う硬質材15とからなる二層構造体である。硬質材15は吸音性に乏しいが、剛性に富む。すなわち、軟質材14は吸音性を有し、軟質材15は遮音性を有するため、二層構造体にした遮音材10は、吸音性能と遮音性能の2つの性能を発揮する。
【0021】
そして、段部13は、起立部16とこの起立部16の上端から、遮音材10の一般面に平行に延ばした棚部17とからなる。棚部17と起立部16の交点が角18となり、また、起立部16の起点、すなわち硬質材15の一般面と起立部16との交点も角19となる。便宜的には、角18は起立部16の上の角、角19は起立部16の下の角と呼ぶことができる。
【0022】
図3は遮音材がダッシュボードロアに取付けられた形態を示す図であり、ダッシュボードロア20に沿わせた遮音材10は、左固定用穴11の回りをクリップ21で固定し、右固定用穴12の回りをクリップ21で固定することで左右辺が固定される。クリップ21は、ピンの先に嵌めて固定する袋ナット状の部品や溝付きピンの溝に差し込んで固定する割ピン状の部品や鰐口クリップなどの周知の固定具であれば種類は問わない。
【0023】
左右片をクリップで固定しただけでは中央が垂れるので、本発明では、遮音材10の幅方向略中央の下部に形成した段部13を巧みに利用し、この段部13を車体部材で支えることで、中央の垂れを防止するようにした。
すなわち、遮音材10に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。加えて、遮音材10の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【0024】
図4は車室前部の斜視図であり、車室前部では、ステアイングハンガービーム23が車幅方向に渡されている。このステアイングハンガービーム23はステアリングコラム(図10、符号42)を支える部材であり、中央(車幅中央)に撓みやすい。そこで、縦向きにステアリングハンガーブラケット24を延ばし、ダッシュボードロア20に繋ぐことで、ステアイングハンガービーム23を補強する構造が採用される。
【0025】
ステアリングハンガーブラケット24が車幅中央に配置されるために、本発明では、この部材を「車体部材」に利用することにした。ステアリングハンガーブラケット24は、車体構成要素の一つである。すなわち、既存の部品を兼用するため、車体部材の調達費用を削減若しくは低減させることができる。
【0026】
図5はステアリングハンガーブラケットの下部の斜視図であり、柱状のステアリングハンガーブラケット24は、L形金具25を用いてダッシュボードロア20に固定されている。このL形金具25は、水平フランジ26と縦向きフランジ27とからなり、縦向きフランジ27は車体長手方向に延びている。このような縦向きフランジ27に、想像線で示す位置で付属金具30を溶接固定する。なお、L形金具25は、ステアリングハンガーブラケット24と一体形成することが可能であるため、ステアリングハンガーブラケット24に含めることにする。
【0027】
図6はステアリングハンガーブラケットの下部の右側面図であり、車両右側から見ると、付属金具30は、縦向きフランジ27の高さ方向途中に固定されている。そして、付属金具30はプレス成形品であって、縦向きフランジ27に当てる縦片31と、この縦片31から折曲げ形成した水平片32と、この水平片32に上向きに固定したボルト33と、水平片32の前部(車体前部に臨む部分)に折曲げ形成した受け面34とからなる。
【0028】
図7は図3の要部拡大図であり、L形金具25の縦向きフランジ27が車体前後方向に延びており、この縦向きフランジ27に取付けられた付属金具30も車体前後方向に延びており、この付属金具30の前部に形成された受け面34が車幅方向に延び、この受け面34が遮音材10の段部13に当たっている。
【0029】
図8は図7の8−8線断面図であり、ダッシュボードロア20の垂直面36から傾斜面37に掛けて当接された遮音材10は、受け面34で支承される。これで、遮音材10の垂れは防止される。
遮音材10が軟質材14と硬質材15とからなる二層構造体であって、軟質材は吸音性を有し、硬質材は遮音性を有する。室内側に配置される硬質材15が直接的に受け面34で支承される。硬質材15は剛性に富むため、遮音材10が座屈する心配がなく、確実に固定される。
【0030】
図9は図7の9−9線断面図であり、段部13を構成する起立部16と棚部17の一部とが、受け面34で支えられている。特に、段部13の角18と角19との形状により、剛性が増して、受け面34で支えられている。
【0031】
図10は完成車両の車室前部を見た図であり、ダッシュボードロア20側に設けた受け面34で、遮音材10の段部13を支承している。受け面34を有する付属金具30は、フットパーキングワイヤ38を支えるブラケットの役割を兼ねている。すなわち、フットパーキングワイヤ38に巻き付けたクランプ金具39を、ボルト33に合わせながら、水平片32に載せ、ボルト33にナット41を締め付けることで、フットパーキングワイヤ38を固定することができる。
【0032】
また、ステアリングコラム42に繋がるユニバーサルジョイント43を囲うジョイントカバー44は遮音材10を貫通しているが、受け面34で段部13を支えているため、遮音材10が垂れてジョイントカバー44に当たる心配はない。45はブレーキペダル、46はアクセルペダルである。
【0033】
なお、付属金具30の形状は自由に決めることができる。例えば、段部13が図の位置より右にあるときには、右へ張り出したような形状の付属金具を採用すればよい。また、段部13が図の位置より左にあるときには、縦向きフランジ27の図左の面に付属金属30を取付けることで対応できる。このように、付属金具30を採用すれば、遮音材10の好適位置を支承させることができ、設計の自由度が増す。
【0034】
また、ステアリングハンガーブラケットの下部を構成するL形金具25を車体部品又は付属金具30を支える部材としたが、ステアリングハンガーブラケットと段部13とが離れている場合は、別途、車体部品をダッシュボードロア20に設けてもよい。
【0035】
すなわち、請求項1〜4では、遮音材は、軟質材と硬質材とからなる二層構造体であることが望ましいが、硬質材のみの一層構造体であってもよい。
また、請求項1における車体部材は、ステアリングハンガーブラケットやステアリングハンガーブラケットに付設した付属金具であることが望ましいが、ステアリングハンガーブラケットとは異なる部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、乗用車のダッシュボードロアに沿わせた遮音材の固定技術に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る遮音材の正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】遮音材がダッシュボードロアに取付けられた形態を示す図である。
【図4】車室前部の斜視図である。
【図5】ステアリングハンガーブラケットの下部の斜視図である。
【図6】ステアリングハンガーブラケットの下部の右側面図である。
【図7】図3の要部拡大図である。
【図8】図7の8−8線断面図である。
【図9】図7の9−9線断面図である。
【図10】完成車両の車室前部を見た図である。
【図11】従来の技術の基本構造を説明する図である。
【図12】図11で説明した遮音材の取付け手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
10…遮音材、11…左固定用穴、12…右固定用穴、13…段部、14…軟質材、15…硬質材、16…起立部、17…棚部、18、19…角、20…ダッシュボードロア、21…クリップ、24…車体部材としてのステアリングハンガーブラケット、30…車体部材としての付属金具、34…付属金属に設けた受け面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュボードロアに沿わせた遮音材の固定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッシュボードロアは、車室とエンジンルームとを仕切る部材の一つである。このようなダッシュボードロアには、エンジン音が車室へ侵入することを防止するために、遮音材が付設される。この遮音材の固定構造が各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平6−42442号公報(図2)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図11は従来の技術の基本構造を説明する図であり、ダッシュボードロア101に、金属板をプレス曲げしてなるブラケット102が溶接で固定されている。このブラケット102は、ダッシュボードロア101に接触させるフランジ103、103と、これらのフランジ103、103から立ち上げた壁部104、104と、これらの壁部104、104の先端同士を繋ぐ天井部105と、壁部104、104の途中に切り起こし形成した押えフランジ106、106とからなる。
【0004】
一方、遮音材110には、天井部105に対応する大きさの矩形窓111が開けられ、この矩形窓111の四隅に切り込み112が入れられている。一対の切り込み112、112で挟まれる部分が可撓自在な可撓片113、113となる。
【0005】
図12は図11で説明した遮音材の取付け手順を説明する図であり、(a)において、実線で示す可撓片113、113を、矢印(1)、(1)のように曲げる。そして、想像線で示す可撓片113を、矢印(2)のように、フランジ103と押えフランジ106の間に挿入する。すると、(b)に示すように、ブラケット102を介して、ダッシュボードロア101に遮音材110を固定することができる。
【0006】
しかし、図11に示すように、遮音材110に矩形窓111を開け、且つ四隅に切り込み112を入れる必要があるため、取付け前の準備段階における加工工数が嵩む。
また、ダッシュボードロアの形状によっては、ブラケット102が取付けられない箇所があり、ブラケット102の取付け場所が制約される。
ブラケット102を取付けることができたとしても、図12(a)に示すように、可撓片113を曲げて、フランジ103、106の間に挿入する作業が必須であり、この作業が繁雑であるため、遮音材の取付け工数が嵩む。
【0007】
そこで、遮音材における加工工数が低減でき、遮音材の取付け工数が低減できる技術が必要になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、遮音材における加工工数が低減でき、遮音材の取付け工数が低減できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ダッシュボードロアに沿わせた遮音材を、前記ダッシュボードロアに固定する遮音材の固定構造であって、
前記遮音材は、車幅方向に延びた略矩形体であり、この略矩形体の左辺に左固定用穴を有し、右辺に右固定用穴を有すると共に、幅方向略中央の下部に前記ダッシュボードロアから離れる方向へ立ち上げた起立部とこの起立部の上端から前記ダッシュボードロアに平行に延ばした棚部とからなり車両前後に延びる段部を有し、
前記左右固定用穴を用いて前記ダッシュボードロアに固定し、前記棚部と起立部とで形成される角を車体部材に当てることで、遮音材が下方へずれることを防止するようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、車体部材は、ステアリングコラムを支えるために車幅方向に延ばしたステアイングハンガービームの中央とダッシュボードロアとの間に縦向きに渡されているステアリングハンガーブラケットであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、車体部材は、ステアリングハンガーブラケットに付設され遮音材の角を受ける受け面を備えている付属金具であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明では、付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼ねていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明では、遮音材は、ダッシュボードロアに接する軟質材と、この軟質材を覆うと共に室内側に臨む硬質材とからなる二層構造体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、矩形形状の遮音材の左右辺をクリップなどを用いてダッシュボードロアに固定する。すると、遮音材の中央が垂れ下がり気味になる。そこで、遮音材の中央下部を、車体部材で受けさせるようにした。これで、遮音材の垂れを防止することができる。
遮音材に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。遮音材を車体部材に当てるだけであるから、遮音材の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、ステアリングハンガーブラケットで遮音材を受けさせるようにした。ステアリングハンガーブラケットは、車体構成要素の一つである。すなわち、既存の部品を兼用するため、車体部材の調達費用を削減若しくは低減させることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、ステアリングハンガーブラケットに付設した付属金具で遮音材を受けさせるようにした。付属金属は形状が自由に設定できる。ステアリングハンガーブラケットから付属金属を張り出すことで、付属金属の受け面の位置を任意に設定することができ、より好ましい位置で遮音材を支持させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼用させた。付属金属に遮音材の支持とフットパーキングワイヤの支持の2つの役割を持たせる。この結果、付属金属の付加価値が高まると共に部品点数の低減を図ることができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、遮音材は、軟質材と硬質材とからなる二層構造体とした。なお、軟質材は吸音性を有し、硬質材は遮音性を有する。硬質材は剛性に富み、このような硬質材を車体部品で受けさせれば、遮音材の垂れをより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る遮音材の正面図であり、遮音材10は横長の略矩形体であって、左辺に左固定用穴11を有し、右辺に右固定用穴12を有すると共に、幅方向略中央の下部に段部13を有する。この段部13は車両前後方向に上下に延びている。
【0020】
図2は図1の2−2線断面図であり、遮音材10は、吸音性に富む軟質材14と、この軟質材14の室内側の面を覆う硬質材15とからなる二層構造体である。硬質材15は吸音性に乏しいが、剛性に富む。すなわち、軟質材14は吸音性を有し、軟質材15は遮音性を有するため、二層構造体にした遮音材10は、吸音性能と遮音性能の2つの性能を発揮する。
【0021】
そして、段部13は、起立部16とこの起立部16の上端から、遮音材10の一般面に平行に延ばした棚部17とからなる。棚部17と起立部16の交点が角18となり、また、起立部16の起点、すなわち硬質材15の一般面と起立部16との交点も角19となる。便宜的には、角18は起立部16の上の角、角19は起立部16の下の角と呼ぶことができる。
【0022】
図3は遮音材がダッシュボードロアに取付けられた形態を示す図であり、ダッシュボードロア20に沿わせた遮音材10は、左固定用穴11の回りをクリップ21で固定し、右固定用穴12の回りをクリップ21で固定することで左右辺が固定される。クリップ21は、ピンの先に嵌めて固定する袋ナット状の部品や溝付きピンの溝に差し込んで固定する割ピン状の部品や鰐口クリップなどの周知の固定具であれば種類は問わない。
【0023】
左右片をクリップで固定しただけでは中央が垂れるので、本発明では、遮音材10の幅方向略中央の下部に形成した段部13を巧みに利用し、この段部13を車体部材で支えることで、中央の垂れを防止するようにした。
すなわち、遮音材10に窓や切り込みを設ける必要ないので加工工数が発生しない。加えて、遮音材10の取付け作業は容易になり、取付け工数を低減することができる。
【0024】
図4は車室前部の斜視図であり、車室前部では、ステアイングハンガービーム23が車幅方向に渡されている。このステアイングハンガービーム23はステアリングコラム(図10、符号42)を支える部材であり、中央(車幅中央)に撓みやすい。そこで、縦向きにステアリングハンガーブラケット24を延ばし、ダッシュボードロア20に繋ぐことで、ステアイングハンガービーム23を補強する構造が採用される。
【0025】
ステアリングハンガーブラケット24が車幅中央に配置されるために、本発明では、この部材を「車体部材」に利用することにした。ステアリングハンガーブラケット24は、車体構成要素の一つである。すなわち、既存の部品を兼用するため、車体部材の調達費用を削減若しくは低減させることができる。
【0026】
図5はステアリングハンガーブラケットの下部の斜視図であり、柱状のステアリングハンガーブラケット24は、L形金具25を用いてダッシュボードロア20に固定されている。このL形金具25は、水平フランジ26と縦向きフランジ27とからなり、縦向きフランジ27は車体長手方向に延びている。このような縦向きフランジ27に、想像線で示す位置で付属金具30を溶接固定する。なお、L形金具25は、ステアリングハンガーブラケット24と一体形成することが可能であるため、ステアリングハンガーブラケット24に含めることにする。
【0027】
図6はステアリングハンガーブラケットの下部の右側面図であり、車両右側から見ると、付属金具30は、縦向きフランジ27の高さ方向途中に固定されている。そして、付属金具30はプレス成形品であって、縦向きフランジ27に当てる縦片31と、この縦片31から折曲げ形成した水平片32と、この水平片32に上向きに固定したボルト33と、水平片32の前部(車体前部に臨む部分)に折曲げ形成した受け面34とからなる。
【0028】
図7は図3の要部拡大図であり、L形金具25の縦向きフランジ27が車体前後方向に延びており、この縦向きフランジ27に取付けられた付属金具30も車体前後方向に延びており、この付属金具30の前部に形成された受け面34が車幅方向に延び、この受け面34が遮音材10の段部13に当たっている。
【0029】
図8は図7の8−8線断面図であり、ダッシュボードロア20の垂直面36から傾斜面37に掛けて当接された遮音材10は、受け面34で支承される。これで、遮音材10の垂れは防止される。
遮音材10が軟質材14と硬質材15とからなる二層構造体であって、軟質材は吸音性を有し、硬質材は遮音性を有する。室内側に配置される硬質材15が直接的に受け面34で支承される。硬質材15は剛性に富むため、遮音材10が座屈する心配がなく、確実に固定される。
【0030】
図9は図7の9−9線断面図であり、段部13を構成する起立部16と棚部17の一部とが、受け面34で支えられている。特に、段部13の角18と角19との形状により、剛性が増して、受け面34で支えられている。
【0031】
図10は完成車両の車室前部を見た図であり、ダッシュボードロア20側に設けた受け面34で、遮音材10の段部13を支承している。受け面34を有する付属金具30は、フットパーキングワイヤ38を支えるブラケットの役割を兼ねている。すなわち、フットパーキングワイヤ38に巻き付けたクランプ金具39を、ボルト33に合わせながら、水平片32に載せ、ボルト33にナット41を締め付けることで、フットパーキングワイヤ38を固定することができる。
【0032】
また、ステアリングコラム42に繋がるユニバーサルジョイント43を囲うジョイントカバー44は遮音材10を貫通しているが、受け面34で段部13を支えているため、遮音材10が垂れてジョイントカバー44に当たる心配はない。45はブレーキペダル、46はアクセルペダルである。
【0033】
なお、付属金具30の形状は自由に決めることができる。例えば、段部13が図の位置より右にあるときには、右へ張り出したような形状の付属金具を採用すればよい。また、段部13が図の位置より左にあるときには、縦向きフランジ27の図左の面に付属金属30を取付けることで対応できる。このように、付属金具30を採用すれば、遮音材10の好適位置を支承させることができ、設計の自由度が増す。
【0034】
また、ステアリングハンガーブラケットの下部を構成するL形金具25を車体部品又は付属金具30を支える部材としたが、ステアリングハンガーブラケットと段部13とが離れている場合は、別途、車体部品をダッシュボードロア20に設けてもよい。
【0035】
すなわち、請求項1〜4では、遮音材は、軟質材と硬質材とからなる二層構造体であることが望ましいが、硬質材のみの一層構造体であってもよい。
また、請求項1における車体部材は、ステアリングハンガーブラケットやステアリングハンガーブラケットに付設した付属金具であることが望ましいが、ステアリングハンガーブラケットとは異なる部材であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、乗用車のダッシュボードロアに沿わせた遮音材の固定技術に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る遮音材の正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】遮音材がダッシュボードロアに取付けられた形態を示す図である。
【図4】車室前部の斜視図である。
【図5】ステアリングハンガーブラケットの下部の斜視図である。
【図6】ステアリングハンガーブラケットの下部の右側面図である。
【図7】図3の要部拡大図である。
【図8】図7の8−8線断面図である。
【図9】図7の9−9線断面図である。
【図10】完成車両の車室前部を見た図である。
【図11】従来の技術の基本構造を説明する図である。
【図12】図11で説明した遮音材の取付け手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
10…遮音材、11…左固定用穴、12…右固定用穴、13…段部、14…軟質材、15…硬質材、16…起立部、17…棚部、18、19…角、20…ダッシュボードロア、21…クリップ、24…車体部材としてのステアリングハンガーブラケット、30…車体部材としての付属金具、34…付属金属に設けた受け面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュボードロアに沿わせた遮音材を、前記ダッシュボードロアに固定する遮音材の固定構造であって、
前記遮音材は、車幅方向に延びた略矩形体であり、この略矩形体の左辺に左固定用穴を有し、右辺に右固定用穴を有すると共に、幅方向略中央の下部に前記ダッシュボードロアから離れる方向へ立ち上げた起立部とこの起立部の上端から前記ダッシュボードロアに平行に延ばした棚部とからなり車両前後に延びる段部を有し、
前記左右固定用穴を用いて前記ダッシュボードロアに固定し、前記棚部と起立部とで形成される角を車体部材に当てることで、遮音材が下方へずれることを防止するようにしたことを特徴とする遮音材の固定構造。
【請求項2】
前記車体部材は、ステアリングコラムを支えるために車幅方向に延ばしたステアイングハンガービームの中央とダッシュボードロアとの間に縦向きに渡されているステアリングハンガーブラケットであることを特徴とする請求項1記載の遮音材の固定構造。
【請求項3】
前記車体部材は、ステアリングハンガーブラケットに付設され前記遮音材の角を受ける受け面を備えている付属金具であることを特徴とする請求項1記載の遮音材の固定構造。
【請求項4】
前記付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼ねていることを特徴とする請求項3記載の遮音材の固定構造。
【請求項5】
前記遮音材は、前記ダッシュボードロアに接する軟質材と、この軟質材を覆うと共に室内側に臨む硬質材とからなる二層構造体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の遮音材の固定構造。
【請求項1】
ダッシュボードロアに沿わせた遮音材を、前記ダッシュボードロアに固定する遮音材の固定構造であって、
前記遮音材は、車幅方向に延びた略矩形体であり、この略矩形体の左辺に左固定用穴を有し、右辺に右固定用穴を有すると共に、幅方向略中央の下部に前記ダッシュボードロアから離れる方向へ立ち上げた起立部とこの起立部の上端から前記ダッシュボードロアに平行に延ばした棚部とからなり車両前後に延びる段部を有し、
前記左右固定用穴を用いて前記ダッシュボードロアに固定し、前記棚部と起立部とで形成される角を車体部材に当てることで、遮音材が下方へずれることを防止するようにしたことを特徴とする遮音材の固定構造。
【請求項2】
前記車体部材は、ステアリングコラムを支えるために車幅方向に延ばしたステアイングハンガービームの中央とダッシュボードロアとの間に縦向きに渡されているステアリングハンガーブラケットであることを特徴とする請求項1記載の遮音材の固定構造。
【請求項3】
前記車体部材は、ステアリングハンガーブラケットに付設され前記遮音材の角を受ける受け面を備えている付属金具であることを特徴とする請求項1記載の遮音材の固定構造。
【請求項4】
前記付属金具は、フットパーキングワイヤを支えるワイヤブラケットを兼ねていることを特徴とする請求項3記載の遮音材の固定構造。
【請求項5】
前記遮音材は、前記ダッシュボードロアに接する軟質材と、この軟質材を覆うと共に室内側に臨む硬質材とからなる二層構造体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の遮音材の固定構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−12985(P2010−12985A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175630(P2008−175630)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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