説明

選択ガス透過性フィルムおよびその製造方法

【課題】極性分子ガス透過性、無極性分子ガスバリア性を有する選択ガス透過性フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルム10に、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層20を設けたガスバリア性フィルムを伸長させてなる。水蒸気透過度を維持したまま酸素透過度が向上した、選択ガス透過性フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択ガス透過性フィルムに関し、より詳細には、水蒸気などの極性分子からなるガスに対してバリア性を有し、酸素、二酸化炭素などの無極性分子からなるガスに対する透過性を有する選択ガス透過性フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲食品、化成品、雑貨品、その他を充填包装する包装用材料としては、内容物の変質、変色、その他を防止するために、酸素ガス、水蒸気等の透過を遮断、阻止する、種々の形態からなるバリア性積層材が開発され、提案されている。
【0003】
一方、食品や非食品の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制しそれらの機能や性質を保持するために、酸素、水蒸気、二酸化炭素その他の内容物の保存に影響を与える気体を選択的に制御しうる特性を有することが求められている。例えば、コーヒー豆の保存用包装材として二酸化炭素透過性が要求され、また、使い捨てカイロなどでは、充填材の吸湿劣化を抑えるため水蒸気を透過させず、かつ発生ガスである水素を拡散させうる特性が要求される。
【0004】
このような選択ガス透過性フィルムとして、プラスチック材料に厚さ5〜300nmの無機酸化物からなる蒸着薄膜と水溶性高分子を含むコーティング剤からなるガスバリア性被膜層とヒートシール層とからなる積層体であって、極性分子のガス透過性を保持したまま無極性分子のガス透過性を制御する選択ガス透過性包装材料がある(特許文献1)。蒸着薄膜層に微細なクラックを形成することで、極性分子からなるガス透過性を保持したまま無極性分子からなるガス透過性を制御しうる、という。クラックを発生する方法として、ゲルボフレックス装置を用いた捻りと圧縮を組み合わせた方法を開示し、応力の度合いに応じて無機酸化物からなる蒸着薄膜層にサブミクロオーダーの微細なクラックを形成することができるとする。実施例では、ゲルボフレックステスターのフレックス回数を変化させて応力を調整している。
【特許文献1】特開2002−225918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載の選択ガス透過性フィルムは、プラスチック材料に厚さ5〜300nmの無機酸化物からなる蒸着薄膜と水溶性高分子を含むコーティング剤からなるガスバリア性被膜層とヒートシール層とからなる積層体にクラックを発生させてガス選択性を制御するため、クラック発生前のフィルムのガスバリア性がガス透過制御の限度となる。したがって、特許文献1以外のガスバリア性フィルムについても、ガス透過を選択的に向上させた選択ガス透過性フィルムの開発が望まれる。
【0006】
また、上記特許文献1では、シーラントを貼り合わせた後にゲルボフレックスにより、選択透過性を持たせているため、特に包装材の外観が劣化する場合がある。また、包装仕様によってはピンホールなどが発生する場合がある。したがって、外観に優れる選択ガス透過性フィルムや包装材の開発が望まれる。
【0007】
また、選択ガス透過性フィルムは、用途に応じて大量に使用される消費材であり、生産効率高く製造できることが好ましい。上記特許文献1記載の方法では、ゲルボフレックステスターのフレックス回数を変化させて応力を調整するため、連続的な制御が困難となる場合がある。
【0008】
したがって、本発明は、包装材の外観に優れる選択ガス透過性フィルムを提供することを目的とする。
また、本発明は、生産効率に優れる選択ガス透過性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明等は、所定の蒸着層を有するガスバリア性フィルムのガス選択性について詳細に検討した結果、ガスバリア性フィルムを所定範囲で伸長させると水蒸気透過度と酸素透過度とがそれぞれ増加すること、その増加の程度は特に酸素透過度で著しく、このため水蒸気と酸素とのガス透過性の比を調整できること、このようなフィルムは水蒸気透過度を維持したまま酸素を拡散できるものであり選択的ガス透過性包装材として特定の内容物の包装材として使用できること、更に、ガスバリア性フィルムの伸長方法として、ダンサーロールと延伸ロールとを使用することで連続的に選択ガス透過性フィルムを製造しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムを伸長させてなることを特徴とする、選択ガス透過性フィルムを提供するものである。
【0011】
また、上記選択ガス透過性フィルムにヒートシール層が積層されることを特徴とする、選択ガス透過性包装材を提供するものである。
また、上記包装材に、カイロ充填材を収納したカイロを提供するものである。
【0012】
更に、基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムをダンサーロールに供給し、
次いで、延伸ロールにてフィルム流れ方向に延伸することを特徴とする、選択ガス透過性フィルムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のガスバリア性フィルムを使用し、所定範囲に伸長することでガス選択性を向上させることができ、製造が容易である。
本発明によれば、特に水蒸気などの極性分子の透過性を維持したまま酸素などの無極性分子の透過性を向上させることができるため、カイロなどの用途に好適に使用することができる。
【0014】
本発明の選択ガス透過性フィルムの製造方法によれば、従来のガスバリア性フィルムを使用し、所定範囲に伸長することで連続的に選択ガス透過性フィルムを製造することができ、生産効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第一は、基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムを伸長させてなることを特徴とする、選択ガス透過性フィルムである。前記ガスバリア性フィルムは、基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムであってもよい。伸長の程度は、前記蒸着膜が化学気相蒸着法によって形成された場合には2〜7%の伸長で、一方、前記蒸着膜が物理気相蒸着法によって形成された場合には2〜4%の伸長が好適である。以下、本発明の選択ガス透過性フィルムを詳細に説明する。
【0016】
(1)選択ガス透過性フィルムの構成
本発明の選択ガス透過性フィルムは、基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムを伸長させてなる。本発明の選択ガス透過性フィルムの好適な態様の一例を図1に示す。本発明の選択ガス透過性フィルムは、図1に示すように、基材フィルム(10)に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層(20)を形成し、これを伸長したものである。前記蒸着膜層(20)には、図2に示すように所定のガスバリア性塗布膜(30)が塗布されていてもよい。ガスバリア性塗布膜の積層によって、よりガスバリア性を向上することができる。
【0017】
本発明の選択ガス透過性フィルムは、前記ガスバリア性フィルムにヒートシール層(40)を積層し、選択ガス透過性包装材とすることができる。ガスバリア性塗布膜(30)に更にヒートシール層(40)が積層された態様を図3に示す。
【0018】
本発明の選択ガス透過性フィルムは、ガスバリア性フィルムを2〜7%の長さで伸長することでガス選択性を改良することができる。上記ガスバリア性フィルムは、後記する実施例に示すように、フィルムを伸長することで水蒸気透過度並びに酸素透過度が増加する。しかしながら、上記ガスバリア性フィルムでは、特に酸素透過度の増加が著しいため、ある伸長度の場合には、例えば水蒸気透過度は延伸前の5倍に、酸素透過度は20倍に増加し、この結果、特に酸素透過度が増加された選択ガス透過性フィルムはとなる。すなわち、ガスバリア性フィルムを「任意の伸び量だけ伸長させる」ことで、任意の選択透過性を得ることができるのである。このような伸長度は、使用する基材フィルムや蒸着膜の種類、蒸着膜の形成方法に適宜選択することができる。このため、上記伸長度の範囲で延伸し、あらかじめ水蒸気透過度と酸素透過度とを比較することで、求める選択的ガス透過性に対応する延伸率を選択することができる。
【0019】
例えば、有機酸化珪素の蒸着膜の場合には、ガスバリア性フィルムを2〜7%伸長させることで水蒸気透過度を低く維持したまま、酸素透過度のみを向上させることができる。一方、酸化アルミニウムの場合には、ガスバリア性フィルムを2〜4%伸長させることで、水蒸気透過度を低く維持したまま、酸素透過度のみを向上させることができる。
【0020】
また、水蒸気は極性分子であるが、酸素は無極性分子である。本発明の選択ガス透過性フィルムは、極性分子のガスバリア性を有するが、酸素、二酸化炭素、水素などの無極性分子を拡散する。このため、防湿性を確保しつつ、酸素、二酸化炭素、水素などの拡散が求められる内容物の包装材として好適に使用することができる。
【0021】
(2) ガスバリア性フィルム
本発明で使用するガスバリア性フィルムは、基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けたものである。前記ガスバリア性フィルムは、基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムであってもよい。
【0022】
(i)基材フィルム
ガスバリア性フィルムを構成する基材フィルムとしては、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜やガスバリア性塗布膜を設けるに足る機械的、物理的、化学的強度を有し、特に前記蒸着膜を形成する条件に耐え、前記蒸着膜の特性を損なうことなく良好に保持し得る樹脂フィルムを使用することが好ましい。
【0023】
ガスバリア性フィルムを構成する基材フィルムとしては、ポリアミドフィルム、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂からなるフィルムを使用することができる。特に、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムが好ましい。
【0024】
上記樹脂は、上記樹脂の1種または2種以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の製膜化法を用いて単層で製膜化したもの、または2種以上の樹脂を使用して共押し出しなどで多層製膜したもの、または2種以上の樹脂を混合使用して製膜し、テンター方式やチューブラー方式等で1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種の樹脂フィルムを使用することができる。
【0025】
本発明において、基材フィルムの膜厚としては、6〜100μm位、より好ましくは、9〜50μm位が好ましい。
(ii)表面処理
本発明において、上記の基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成するが、予め基材フィルムに表面処理をおこなってもよい。これによって前記蒸着膜やガスバリア性塗布膜との密着性を向上させることができる。このような表面処理としては、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理などがある。
【0026】
(iii)有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜
本発明で使用するガスバリア性フィルムにおける蒸着膜としては、例えば、化学気相成長法、物理気相成長法またはこれらを複合して、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜である。
【0027】
化学気相成長法としては、例えば、プラズマ化学気相成長法、低温プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等がある。具体的には、基材フィルムの一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化珪素等の蒸着膜を形成することができる。
【0028】
上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができる。高活性の安定したプラズマが得られる点で、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが好ましい。
【0029】
上記の低温プラズマ化学気相成長法による蒸着膜の形成法の一例を低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である図4を用いて説明する。
本発明では、プラズマ化学気相成長装置221の真空チャンバー222内に配置された巻き出しロール223から基材フィルム201を繰り出し、更に、該基材フィルム201を、補助ロール224を介して所定の速度で冷却・電極ドラム225周面上に搬送する。一方、ガス供給装置226、227および、原料揮発供給装置228等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスその他等を供給して蒸着用混合ガス組成物を調製し、これを原料供給ノズル229を通して真空チャンバー222内に導入する。該蒸着用混合ガス組成物を上記冷却・電極ドラム225周面上に搬送された基材フィルム201の上に供給し、グロー放電プラズマ230によってプラズマを発生させ照射し、蒸着膜を製膜化する。次いで、上記で蒸着膜を形成した基材フィルム201を補助ロール233を介して巻き取りロール234に巻き取れば、プラズマ化学気相成長法による有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。なお、冷却・電極ドラム225は、真空チャンバー222の外に配置されている電源231から所定の電力が印加され、冷却・電極ドラム225の近傍には、マグネット232を配置してプラズマの発生が促進されている。このように冷却・電極ドラムに電源から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成される。このグロー放電プラズマは、混合ガスなかの1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態で基材フィルムを一定速度で搬送させると、グロー放電プラブマによって、冷却・電極ドラム周面上の基材フィルムの上に、有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。なお、図4中、符号235は真空ポンプを表す。
【0030】
本発明では、真空チャンバー内を真空ポンプにより減圧し、真空度1×10-1〜1×10-8Torr位、好ましくは、真空度1×10-3〜1×10-7Torr位に調整することが好ましい。
【0031】
原料揮発供給装置は、原料である有機珪素化合物を揮発させ、ガス供給装置から供給される酸素ガス、不活性ガス等と混合させ、この混合ガスを原料供給ノズルを介して真空チャンバー内に導入させる。この際、混合ガス中の有機珪素化合物の含有量は、1〜40%、酸素ガスの含有量は10〜70%、不活性ガスの含有量は10〜60%の範囲とすることが好ましく、例えば、有機珪素化合物:酸素ガス:不活性ガスの混合比を1:6:5〜1:17:14程度とすることができる。なお、上記有機珪素化合物、不活性ガス、酸素ガスなどを供給する際の真空チャンバー内の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは真空度1×10-1〜1×10-2Torrであることが好ましく、また、基材フィルムの搬送速度は、10〜300m/分、好ましくは50〜150m/分である。このようにして得られる有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜の形成は、基材フィルムの上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながらSiOXの形で薄膜状に形成されるので、当該形成される蒸着膜は、緻密で隙間の少ない、可撓性に富む連続層となり、従って、蒸着膜のバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜と比較してはるかに高く、薄い膜厚で十分なバリア性を得ることができる。また、SiOXプラズマにより基材フィルムの表面が清浄化され、基材フィルムの表面に、極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される蒸着膜と基材フィルムとの密接着性が高いものとなる。更に、蒸着膜の形成時の真空度は、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは、1×10-1〜1×10-2Torrであって、従来の真空蒸着法により酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する時の真空度、1×10-4〜1×10-5Torrに比較して低真空度であるから、基材フィルムの原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度が安定しやすく製膜プロセスも安定化する。
【0032】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される蒸着膜は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等とが化学反応し、その反応生成物が、基材フィルムの一方の面に密接着し、緻密な、柔軟性等に富む薄膜を形成するものであり、通常、一般式SiOX(ただし、Xは、0〜2の数を表す)で表される酸化珪素を主体とする連続状の薄膜である。上記酸化珪素の蒸着膜としては、透明性、バリア性等の点から、一般式SiOX(ただし、Xは、1.3〜1.9の数を表す。)で表される酸化珪素の蒸着膜を主体とする薄膜であることが好ましい。なお、Xの値は、蒸着モノマーガスと酸素ガスのモル比、プラズマのエネルギー等により変化するが、一般的に、Xの値が小さくなればガス透過度は小さくなるが、膜自身が黄色性を帯び、透明性が悪くなる。
【0033】
本発明において、上記酸化珪素の蒸着膜は、酸化珪素を主体とし、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または2種類以上の元素からなる化合物の少なくとも1種類を化学結合等により含有する蒸着膜からなることを特徴とするものである。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、更に、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合があるものである。例えば、CH3部位を持つハイドロカーボン、SiH3シリル、SiH2シリレン等のハイドロシリカ、SiH2OHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。本発明では、上記蒸着膜として、有機珪酸化合物を含有する蒸着膜であることが好ましい。なお、上記以外でも、蒸着過程の条件等を変化させることにより、蒸着膜中に含有される化合物の種類、量等を変化させることができる。この際、上記の化合物が蒸着膜中に含有する含有量としては、0.1〜50%、好ましくは5〜20%である。含有率が0.1%未満であると、蒸着膜の耐衝撃性、延展性、柔軟性等が不十分となり、曲げなどにより、擦り傷等が発生し易く、高いバリア性を安定して維持することが困難になる場合があり、一方、50%を越えるとバリア性が低下する場合がある。
【0034】
本発明において、上記の蒸着膜は、例えばX線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy、SIMS)等の表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングする等して分析し、蒸着膜の元素分析を行うことで、上記の物性を確認することができる。
【0035】
本発明において、上記蒸着膜の膜厚は、5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは10〜100nmである。上記範囲で、ガス透過の選択性に優れるからである。なお、膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。また、蒸着膜の膜厚を変更する手段としては、蒸着膜の体積速度を大きくする方法、すなわち、モノマーガスと酸素ガス量を多くする方法や蒸着する速度を遅くする方法等によって行うことができる。
【0036】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、その他等を使用することができる。これらの中でも、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、または、ヘキサメチルジシロキサンを原料として使用することが、その取り扱い性、形成された連続膜の特性等から、特に好ましい。なお、上記において、不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
【0037】
一方、本発明では、物理気相成長法によっても有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。このような物理気相成長法として、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)などにより有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を形成することができる。
【0038】
具体的には、有機珪素化合物、金属または金属の酸化物を原料とし、これを加熱して蒸気化し、これを基材フィルムの一方の上に蒸着する真空蒸着法、または、原料として金属または金属の酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて基材フィルムの一方の上に蒸着する酸化反応蒸着法、更に酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて蒸着膜を形成することができる。なお、蒸着材料の加熱方式としては、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、エレクトロンビーム加熱方式(EB)等にて行うことができる。物理気相成長法による蒸着膜を形成する方法について、巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図を示す図5を参照して説明する。
【0039】
まず、巻き取り式真空蒸着装置241の真空チャンバー242の中で、巻き出しロール243から繰り出す基材フィルム201は、ガイドロール244、245を介して、冷却したコーティングドラム246に案内される。上記の冷却したコーティングドラム246上に案内された基材フィルム201の上に、るつぼ247で熱せられた蒸着源248、例えば、金属アルミニウム、あるいは、酸化アルミニウム等を蒸発させ、更に、必要ならば、酸素ガス吹出口249より酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスク250、250を介して、例えば、酸化アルミニウム等を蒸着してなる蒸着膜を成膜化し、次いで、上記において、例えば、前記蒸着膜を形成した基材フィルム201を、ガイドロール251、252を介して送り出し、巻き取りロール253に巻き取ると物理気相成長法による蒸着膜を形成することができる。なお、上記巻き取り式真空蒸着装置を用いて、まず第1層の蒸着膜を形成し、次いで、その上に蒸着膜を更に形成し、または、上記巻き取り式真空蒸着装置を2連に連接し、連続的に蒸着膜を形成して、2層以上の多層膜からなる前記蒸着膜を形成してもよい。
【0040】
金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜としては、基本的には、金属の酸化物を蒸着した薄膜であればよく、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。好ましくは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物の蒸着膜を挙げることができる。よって、上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物と称することができ、その表記は、例えば、SiOX、AlOX、MgOX等のようにMOX(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、Xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲がことなる。)で表される。
【0041】
また、上記のXの値の範囲としては、ケイ素(Si)は0を超え2以下、アルミニウム(Al)は0を超え1.5以下、マグネシウム(Mg)は0を超え1以下、カルシウム(Ca)は0を超え1以下、カリウム(K)は0を超え0.5以下、スズ(Sn)は0を超え2以下、ナトリウム(Na)は0を超え0.5以下、ホウ素(B)は0を超え1、5以下、チタン(Ti)は0を超え2以下、鉛(Pb)は0を超え1以下、ジルコニウム(Zr)は0を超え2以下、イットリウム(Y)は0を超え1.5以下の範囲である。上記においてX=0の場合は完全な金属であり、Xの範囲の上限は、完全に酸化した値である。一般的に、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)以外は、使用される例に乏しい。このため、本発明において、Mとしてケイ素やアルミニウムが好ましく、その際これらのXの値は、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲である。なお、前記蒸着膜の膜厚は、使用する金属や金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50〜2000Å、好ましくは、100〜1000Åの範囲内で任意に選択することができる。また、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜は、使用する金属または金属の酸化物としては、1種または2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した蒸着膜を構成することもできる。
【0042】
更に、本発明では、例えば物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の前記蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできる。
上記の異種の蒸着膜の2層以上からなる複合膜としては、まず、基材フィルムの上に、化学気相成長法により、緻密で柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を設け、次いで、該蒸着膜の上に、物理気相成長法による金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる蒸着膜を構成することが好ましいものである。上記とは逆くに、基材フィルムの上に、先に、物理気相成長法により、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、次に、化学気相成長法により、緻密で、柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る有機珪素化合物を蒸着してなる蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる蒸着膜を構成することもできる。
【0043】
(iv)ガスバリア性塗布膜
本発明の選択ガス透過性フィルムは、前記ガスバリア性フィルムの蒸着膜層に更に所定のガスバリア性塗布膜を積層することが好ましい。ガスバリア性塗布膜の積層によって、選択透過性に幅を持たせることができる。
【0044】
本発明で使用するガスバリア性塗布膜としては、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合してなるガスバリア性組成物からなる塗布膜であり、該組成物を上記基材フィルム上の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を設け、20℃〜180℃、かつ上記の基材フィルムの融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理して形成することができる。
【0045】
また、前記ガスバリア性組成物を上記基材フィルム上の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を2層以上重層し、20℃〜180℃、かつ、上記基材フィルムの融点以下の温度で10秒〜10分間加熱処理し、ガスバリア性塗布膜を2層以上重層した複合ポリマー層を形成してもよい。
【0046】
上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物、アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができ、また、上記アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されるものに限定されず、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよく、更に、加水分解の縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2〜6量体のものを使用してもよい。
【0047】
上記一般式R1nM(OR2m中、R1としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
【0048】
上記一般式R1nM(OR2m中、R2としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、その他等を挙げることができる。なお、同一分子中に複数の(OR2)が存在する場合には、(OR2)は同一であっても、異なってもよい。
【0049】
上記一般式R1nM(OR2m中、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができる。
本発明においてケイ素であることが好ましい。この場合、本発明で好ましく使用できるアルコキシドとしては、上記一般式R1nM(OR2mにおいてn=0の場合には、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他等が用いられる。このようなアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等を例示することができる。
【0050】
また、nが1以上の場合には、一般式RbnSi(ORc)4-m(ただし、式中、mは、1、2、3の整数を表し、Rb、Rcは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他を表わす。)で表されるアルキルアルコキシシランを使用することができる。このようなアルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252、その他等を使用することができる。本発明では、上記のアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、本発明において、上記のアルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的には、例えば、ポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン、その他等を使用することができる。
【0052】
本発明では、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがZrであるジルコニウムアルコキシドも好適に使用することができる。例えば、テトラメトキシジルコニウムZr(OCH34、テトラエトキシジルコニウムZr(OC254、テトラiプロポキシジルコニウムZr(iso−OC374、テトラnブトキシジルコニウムZr(OC494、その他等を例示することができる。
【0053】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがTiであるチタニウムアルコキシドを好適に使用することができ、例えば、テトラメトキシチタニウムTi(OCH34、テトラエトキシチタニウムTi(OC254、テトライソプロポキシチタニウムTi(iso−OC374、テトラnブトキシチタニウムTi(OC494、その他等を例示することができる。
【0054】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがAlであるアルミニウムアルコキシドを使用することができ、例えば、テトラメトキシアルミニウムAl(OCH34、テトラエトキシアルミニウムAl(OC254、テトライソプロポキシアルミニウムAl(is0−OC374、テトラnブトキシアルミニウムAl(OC494、その他等を使用することができる。
【0055】
本発明では、上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。例えばアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性積層フィルムの靭性、耐熱性等を向上させることができ、また、延伸時のフィルムの耐レトルト性などの低下が回避される。この際、ジルコニウムアルコキシドの使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して10質量部以下の範囲である。10質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜が、ゲル化し易くなり、また、その膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際にガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる傾向にあることから好ましくないものである。
【0056】
また、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性塗布膜の熱伝導率が低くなり、耐熱性が著しく向上する。この際、チタニウムアルコキシドの使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して5質量部以下の範囲である。5質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際に、ガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる場合がある。
【0057】
本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、ポリビニルアルコール系樹脂、またはエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用することができる。本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することにより、ガスバリア性、耐水性、耐候性、その他等の物性を著しく向上させることができる。
【0058】
ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合、それぞれの配合割合としては、質量比で、ポリビニルアルコ一ル系樹脂:エチレン・ビニルアルコール共重合体=10:0.05〜10:6位であることが好ましい。
【0059】
また、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記のアルコキシドの合計量100質量部に対して5〜500質量部の範囲であり、好ましくは20〜200質量部の配合割合である。500質量部を越えると、ガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、得られるバリア性フィルムの耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、5質量部を下回るとガスバリア性が低下する場合がある。
【0060】
前記ポリビニルアルコ一ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体において、ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよく、特に限定されるものではない。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRSポリマーである「RS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、同社製の「クラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を例示することができる。
【0061】
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数十モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないかまたは酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、ガスバリア性の観点から好ましいケン化度は、80モル%以上、より好ましくは、90モル%以上、さらに好ましくは、95モル%以上であるものを使用することが好ましい。なお、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常、0〜50モル%、好ましくは、20〜45モル%であるものことが好ましい。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、株式会社クラレ製、「エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)」、日本合成化学工業株式会社製、「ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)」等を例示することができる。
【0062】
本発明で使用するガスバリア性組成物は、前記一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、上記のようなポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合して得たガスバリア性組成物である。上記ガスバリア性組成物を調製するに際し、シランカップリング剤等を添加してもよい。
【0063】
本発明で好適に使用できるシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを広く使用することができる。例えば、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、それには、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。このようなシランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。なお、シランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である。20質量部以上を使用すると、形成されるガスバリア性塗布膜の剛性と脆性とが大きくなり、また、ガスバリア性塗布膜の絶縁性および加工性が低下する場合がある。
【0064】
また、ゾルゲル法触媒とは、主として、重縮合触媒として使用される触媒であり、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三アミンなどの塩基性物質が用いられる。例えば、N、N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、その他等を使用することができる。本発明においては、特に、N、N−ジメチルベンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、および、シランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部である。
【0065】
また、上記ガスバリア性組成物において用いられる「酸」としては、上記ゾルゲル法において、主として、アルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸な等の有機酸、その他等を使用することができる。上記酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モルを使用することが好ましい。
【0066】
更に、上記のガスバリア性組成物においては、上記のアルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは、0.8から2モルの割合の水をもちいることができる。水の量が2モルを越えると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、更に、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなり、そのような多孔性のポリマーは、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性を改善することができなくなる。また、上記の水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる場合がある。
【0067】
更に、上記のガスバリア性組成物において用いられる有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、その他等を用いることができる。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記アルコキシドやシランカップリング剤などを含む塗工液中で溶解した状態で取り扱われることが好ましく、上記有機溶媒の中から適宜選択することができる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合には、n−ブタノールを使用することが好ましい。なお、溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することもでき、例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名「ソアノール」などを好適に使用することができる。上記の有機溶媒の使用量は、通常、上記アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、酸およびゾルゲル法触媒の合計量100質量に対して30〜500質量部である。
【0068】
本発明において、ガスバリア性積層フィルムは、以下の方法で製造することができる。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾルゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合し、ガスバリア性組成物を調製する。混合により、ガスバリア性組成物(塗工液)は、重縮合反応が開始および進行する。
【0069】
次いで、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に、常法により、上記のガスバリア性組成物を塗布し、および乾燥する。この乾燥工程によって、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤およびポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体等の重縮合が更に進行し、塗布膜が形成される。第一の塗布膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗布膜を形成してもよい。
【0070】
次いで、上記ガスバリア性組成物を塗布した基材フィルムを20℃〜180℃、かつ基材フィルムの融点以下の温度、好ましくは、50℃〜160℃の範囲の温度で、10秒〜10分間加熱処理する。これによって、前記蒸着膜の上に、上記ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を1層ないし2層以上形成したバリア性フィルムを製造することができる。
【0071】
なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体単独、またはポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体との両者を用いて得られたバリア性フィルムは、熱水処理後のガスバリア性に優れる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂のみを使用してバリア性フィルムを製造した場合には、予め、ポリビニルアルコール系樹脂を使用したガスバリア性組成物を塗工して第1の塗布膜を形成し、次いで、その塗布膜の上に、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物を塗工して第2の塗布膜を形成し、それらの複合層を形成すると、熱水処理後のガスバリア性が向上したバリア性フィルムを製造することができる。
【0072】
更に、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、または、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、これらを複数積層しても、バリア性フィルムのガスバリア性の向上に有効な手段となる。
【0073】
本発明で使用するガスバリア性積層フィルムの製造法について、アルコキシドとしてアルコキシシランを使用し、より詳細に説明する。
ガスバリア性組成物として配合されたアルコキシシランや金属アルコキシドは、添加された水によって加水分解される。加水分解の際には、酸が加水分解の触媒として作用する。次いで、ゾルゲル法触媒の働きによって、加水分解によって生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。このとき、酸触媒により同時にシランカップリング剤も加水分解されて、アルコキシ基が水酸基となる。
【0074】
また、塩基触媒の働きによりエポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。また、加水分解されたシランカップリング剤と加水分解されたアルコキシドとの重縮合反応も進行する。反応系にはポリビニルアルコール系樹脂、または、エチレン・ビニルアルコール共重合体、または、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体が存在するため、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が有する水酸基との反応も生じる。なお、生成する重縮合物は、例えば、Si−O−Si、Si−O−Zr、Si−O−Ti、その他等の結合からなる無機質部分と、シランカップリング剤に起因する有機部分とを含有する複合ポリマーである。
【0075】
上記反応において、例えば、下記の式(III)に示される部分構造式を有し、更に、シランカップリング剤に起因する部分を有する直鎖状のポリマーがまず生成する。
【0076】
【化1】

このポリマーは、OR基(エトキシ基などのアルコキシ基)が、直鎖状のポリマーから分岐した形で有する。このOR基は、存在する酸が触媒となって加水分解されてOH基となり、ゾルゲル法触媒(塩基触媒)の働きにより、まず、OH基が、脱プロトン化し、次いで、重縮合が進行する。すなわち、このOH基が、下記の式(I)に示されるポリビニルアルコール系樹脂、または、下記の式(II)に示されるエチレン・ビニルアルコール共重合体と重縮合反応し、Si−O−Si結合を有する、例えば、下記の式(IV)に示される複合ポリマー、あるいは、下記の式(V)及び(VI)に示される共重合した複合ポリマーを生じると考えられる。
【0077】
【化2】

【0078】
【化3】

【0079】
【化4】

【0080】
【化5】

【0081】
【化6】

上記の反応は常温で進行し、ガスバリア性組成物は、調製中に粘度が増加する。このガスバリア性組成物を、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に塗布し、加熱して溶媒および重縮合反応により生成したアルコールを除去すると重縮合反応が完結し、基材フィルム上の前記蒸着膜の上に透明な塗布膜が形成される。なお、上記の塗布膜を複数層積層する場合には、層間の塗布膜中の複合ポリマー同士も縮合し、層と層との間が強固に結合する。
【0082】
更に、シランカップリング剤の有機反応性基や、加水分解によって生じた水酸基が、基材フィルム、または、基材フィルム上の有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜の表面の水酸基等と結合するため、基材フィルム、または前記蒸着膜表面と、塗布膜との接着性も良好なものとなる。このように、本発明においては、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜とガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成するため、蒸着膜とガスバリア性塗布膜との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得る。
【0083】
なお、本発明では、添加される水の量をアルコキシド類1モルに対して0.8〜2モル、好ましくは1.0〜1.7モルに調節した場合には、上記直鎖状のポリマーが形成される。このような直鎖状ポリマーは結晶性を有し、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造をとる。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く分子鎖剛性も高いため、特にガスバリア性(O2、N2、H2O、CO2、その他等の透過を遮断、阻止する)に優れる。更に、この水酸基によって接着性樹脂層と化学的に結合し、強固な積層構造を形成することができる。
【0084】
上記の本発明のガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗布手段により、1回あるいは複数回の塗布で、乾燥膜厚が、0.01〜30μm、好ましくは、0.1〜10μm位の塗布膜を形成することができ、更に、通常の環境下、50〜300℃、好ましくは、70〜200℃の温度で、0.005〜60分間、好ましくは、0.01〜10分間、加熱・乾操することにより、縮合が行われ、本発明のガスバリア性塗布膜を形成することができる。
【0085】
(3)ヒートシール層
本発明の選択ガス透過性フィルムは、ヒートシール層を積層して選択ガス透過性包装材とすることができる。したがって、上記ガスバリア性フィルムを伸長させ、選択ガス透過性を付与した後に、ヒートシール層が積層される。このため、包装材の外観を損なうことがない。
【0086】
本発明の選択ガス透過性包装材で使用するヒートシール層としては、熱によって溶融し相互に融着し得る各種のヒートシール性を有するポリオレフィン系樹脂、その他等を使用することができる。具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、これらの金属架橋物、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、その他等の樹脂を使用することができる。
【0087】
本発明において、ヒートシール層の厚さとしては、5〜200μm位、好ましくは、10〜100μm位が望ましい。
ヒートシール層は、ドライラミで積層しても、溶融押出しコートによって積層してもよい。
【0088】
(4)選択ガス透過性フィルムの製造方法
本発明の選択ガス透過性フィルムは、例えば、基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムを延伸ロールでフィルム流れ方向に延伸する。延伸の程度は、予め所定の延伸率で延伸したガスバリア性フィルムの酸素透過度と水蒸気透過度とを評価し、求める酸素透過度と水蒸気透過度とを達成しうる延伸率を選択すればよい。
【0089】
ガスバリア性フィルムを構成する基材フィルムの延伸の有無や延伸方向を問わず、フィルム流れ方向に延伸することで、ライン方向にフィルムが延伸するため、生産効率を向上することができる。なお、本発明の選択ガス透過性フィルムは、ガスバリア性フィルムが所定範囲で延伸することで異なるガスについて異なるガス透過性に変化することを見出したものであり、この趣旨より、延伸方向はフィルム流れ方向に限定されるものではない。
【0090】
延伸の条件は、ガスバリア性フィルムを構成する基材フィルムや蒸着層の種類や厚さなどに応じて適宜選択することができる。一般には、フィルムの移送速度を、0.1〜50mm/分、より好ましくは1〜10mm/分とする。また、ガスバリア性フィルムは、温度10〜50℃の雰囲気下で延伸することが好ましい。
【0091】
なお、延伸ロールによる延伸はバッチ的に行われるため、予め延伸ロールの前段に、ダンサーロールを配設しておくことが好ましい。ダンサーロールの介在によって、繰り出し・巻き取り速度を一定にしたままガスバリア性フィルムを伸長させることができ、連続的な生産が可能となる。なお、図6に、フィルム製造を説明する図を示し、フィルム流れ方向を矢印で示す。
【0092】
(5)選択ガス透過性包装材
本発明の選択ガス透過性フィルムは、公知の技術により印刷層を形成することができる。また、ヒートシール層を積層し、選択ガス透過性包装材とすることができる。
【0093】
例えば、上記選択ガス透過性包装材を使用し、そのヒートシール層の面を対向して重ね合わせ、しかる後、その周辺端部をヒートシールしてシール部を形成して製造することができる。その製袋方法としては、上記のような本発明に係る選択ガス透過性包装材を、折り曲げるかあるいは重ね合わせて、その内層の面を対向させ、更にその周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型、その他等のヒートシール形態によりヒートシールして、包装容器とすることができる。その他、例えば、自立性包装用袋(スタンディングパウチ)等も可能である。
【0094】
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0095】
本発明では、上記袋体の開口部から、カイロ充填材を収納することで、いわゆる使い捨てカイロなどとすることができる。本発明の選択ガス透過性包装材は、防湿性を確保しつつ酸素に対するガスバリア性が高いため、カイロ充填剤の長期保存を可能にする。
【実施例】
【0096】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(実施例1)
(1)厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ放電処理面に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した。
【0097】
(蒸着条件)
酸素ガス導入後の蒸着チヤンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチヤンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:25kW
フィルムの搬送速度:240m/分
蒸着面:コロナ放電処理面
前記酸化アルミニウムの蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化アルミニウムの蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
【0098】
(2)表1に示す組成に従って、組成a.正珪酸エチル(多摩科学社製)、イソプロピルアルコール、0.5規定塩酸水溶液、イオン交換水、シランカップリング剤(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)からなる加水分解液に、予め調製した組成b.のポリビニルアルコール(RS−110:株式会社クラレ製、ケン化度=99%、重合度=1,000)の水溶液を加えて攪拌し、無色透明のガスバリア性塗工液を得た。
【0099】
このガスバリア性塗工液を上記(1)で形成したプラズマ処理面にグラビアロールコート法によりコーティングし、次いで、150℃で60秒間、加熱処理して、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成して、ガスバリア性積層フィルムを製造した。
【0100】
【表1】

(3)得られたガスバリア性積層フィルムを、図6で示した巻き取り式フィルム伸長装置で、2m/分の一定速度でフィルムを伸長させ、2.5%の伸度まで伸長させ、選択透過性フィルムを製造した。
【0101】
(4)選択ガス透過度の評価
得られた選択透過性フィルムの酸素透過度と水蒸気透過度とを測定した。また、選択透過性の有無を評価した。結果を表2、表3に示す。表2において、水蒸気透過度に対する酸素透過度の比が5倍以上のものを選択透過性ありとした。
【0102】
(i) 酸素透過率
温度23℃、湿度90%RHの条件で、酸素透過度測定装置(モダンコントロール社製、OXTRAN−200)を使用して測定した。
【0103】
(ii) 水蒸気透過度
温度40℃、湿度90%RHの条件で、水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製、PARMATRAN−W3/31)を使用して測定した。
【0104】
(実施例2)
フィルムの伸長度を3.0%にした以外は、実施例1と同様の方法で、本発明の選択透過性フィルムを製造した。また、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表2、表3に示す。
【0105】
(実施例3)
(1)厚さ12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムを使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、以下に示す条件で、上記の2軸延伸ポリエステルフィルムのコロナ放電処理面に、厚さ200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。
【0106】
(蒸着条件)
反応ガス混合比:へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.2:5.0:2.5(単位:Slm)
到達圧力;5.0×10-5mbar
製膜圧力;7.0×10-2mbar
ライン速度;150m/min
パワー;35kW
前記酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kW、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-2mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。
【0107】
(2)ガスバリア性組成物コーティング後の加熱処理を200℃で行ったこと以外は、実施例1の(2)と同様に操作し、ガスバリア性積層フィルムを製造した。
(3)このガスバリア性積層フィルムについて、フィルムの伸長度を6.0%にした以外は実施例1と同様に操作し、本発明の選択透過性フィルムを製造した。また、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表2、表3に示す。
【0108】
(比較例1)
フィルムの伸長を行わなかった以外は、実施例1と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表2、表3に示す。
【0109】
(比較例2)
フィルムの伸長度を7.5%にした以外は、実施例1と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表2、表3に示す。
【0110】
【表2】

(比較例3)
フィルムの伸長度を1.0%にした以外は、実施例1と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表3、図7に示す。
【0111】
(比較例4)
フィルムの伸長度を2.0%にした以外は、実施例1と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表3、図7に示す。
【0112】
(比較例5)
フィルムの伸長度を2.5%にした以外は、実施例1と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例1と同様にガス透過度を測定した。結果を表3、図7に示す。
【0113】
(比較例6)
フィルムの伸長度を表3に示すように、0%、1.0%、2.0%、3.0%、3.5%にした以外は、実施例3と同様に操作した。得られたフィルムを比較選択透過性フィルムについて、実施例3と同様にガス透過度を測定した。結果を表3、図8に示す。
【0114】
【表3】

(結果)
(1) 表3に示すように、蒸着膜の形成が、化学気相蒸着法であるか物理気相蒸着法であるかに係わらず、延伸によって酸素透過度が増加することが判明した。表3のPVDについて、酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図7で明らかなように、伸長度が3.0%から3.5%に変化すると、特に酸素透過度の増加が著しいため、水蒸気透過度との差が大きく変化する。したがって、この場合には、3.5%の延伸によって、水蒸気透過度を維持したまま、酸素透過度が大きく増加した選択ガス透過性フィルムを調製することができることが判明した。
【0115】
(2) 同様に、表3のCVDについて、酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図8で明らかなように、伸長度が3.5%から6.0%に変化すると、特に酸素透過度の増加が著しいため、水蒸気透過度との差が大きく変化する。特に、CVDによる場合には、0%延伸、すなわち延伸前では酸素透過度が0.003、水蒸気透過度が0.174であり、酸素透過度が水蒸気透過度よりも低い。このような場合でも、6.0%の延伸によって、水蒸気透過度を0.13と維持したまま酸素透過度を7.94に増加させることができる。このフィルムの場合には、6.0%の延伸によって、酸素透過度が延伸前の2650倍に増加されている。
【0116】
(3) 表3に示すように、蒸着膜の形成が、化学気相蒸着法と物理気相蒸着法とでは同じ伸長度でもガス透過性の増加の程度が異なる。例えば、PVD蒸着膜を伸長度3.0%で延伸した場合には、酸素透過度0.953、水蒸気透過度0.101であり酸素透過度に対する水蒸気透過度の比が約9.4であるのに対し、CVD蒸着膜を伸長度3.0%で延伸した場合には、酸素透過度0.070、水蒸気透過度0.182であり、酸素透過度に対する水蒸気透過度の比は、約0.38である。蒸着層の種類に応じて、伸長度を選択することで、目的とする選択ガス透過性を確保しうることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0117】
酸素を拡散し、水蒸気バリア性を有する選択ガス透過性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】図1は、基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けた、本発明の選択ガス透過性フィルムの層構造を説明する図である。
【図2】図2は、更に、蒸着膜にガスバリア性塗布膜が形成された、本発明の選択ガス透過性フィルムの層構造を説明する図である。
【図3】ガスバリア性塗布膜にヒートシール層が形成された、本発明の選択ガス透過性フィルムの層構造を説明する図である。
【図4】低温プラズマ化学蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【図5】巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【図6】本発明の選択ガス透過性フィルムの製造工程、特に延伸部並びにダンサーロール部の仕組みを説明する図である。
【図7】図7は、表3のPVDの酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図である。
【図8】図8は、表3のCVDの酸素透過度と水蒸気透過度とをグラフにした図である。
【符号の説明】
【0119】
10・・・基材フィルムヒートシール層、
20・・・蒸着層、
30・・・ガスバリア性塗布膜、
40・・・ヒートシール層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムに、有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる厚さ5〜50nmの蒸着膜層を設けたガスバリア性フィルムを伸長させてなることを特徴とする、選択ガス透過性フィルム。
【請求項2】
前記ガスバリア性フィルムは、基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムであることを特徴とする、請求項1記載の選択ガス透過性フィルム。
【請求項3】
前記基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリアミドフィルムである、請求項1または2記載の選択ガス透過性フィルム。
【請求項4】
前記蒸着膜が、化学気相蒸着法によって有機酸化珪素を供給してなる蒸着膜であり、ガスバリア性フィルムを2〜7%伸長させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の選択ガス透過性フィルム。
【請求項5】
前記蒸着膜が、物理気相蒸着法によって酸化アルミニウムを供給してなる蒸着膜であり、ガスバリア性フィルムを2〜4%伸長させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の選択ガス透過性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の選択ガス透過性フィルムにヒートシール層が積層されることを特徴とする、選択ガス透過性包装材。
【請求項7】
請求項6記載の選択ガス透過性フィルムからなる包装材に、カイロ充填材を収納したカイロ。
【請求項8】
基材フィルム面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を供給してなる蒸着膜を設け、前記蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムをダンサーロールに供給し、
次いで、延伸ロールにてフィルム流れ方向に延伸することを特徴とする、選択ガス透過性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−82867(P2010−82867A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252405(P2008−252405)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】