説明

避難システム

【課題】災害発生時に一刻も早く建物内部から外部に避難させることができる避難システムを提供する
【解決手段】エレベータ12が設置され、そのエレベータ12が停止する特定の階が初期避難階11aと設定され、少なくともこの初期避難階11aと他の階との間にエスカレータ13が設置された建物11の避難システムであって、災害発生に伴って災害信号を出力する災害検出手段15と、前記災害信号が入力されると前記エスカレータ13の運転方向を初期避難階11aへ向わせるエスカレータ制御装置16と、災害信号が入力されると前記エレベータ12を初期避難階11aと予め設定した避難階11bとの間でシャトル運転させるエレベータ制御装置とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ及びエスカレータが設置された建物での災害時における避難システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビルまたはデパートあるいはその他の建物内にエレベータとエスカレータの両者が設置されている場合が多い。このような建物において、地震、火災、その他の災害が発生したとき、エレベータはエレベータの災害管制運転が行われ、エスカレータはエスカレータの災害管制運転が行われている。このため、例えば地震が生じたとき、地震の発生地点、発生した地震の震度の大きさなどによっては、エレベータは停止、エスカレータは運転中というケース、また、その逆の場合も生じる。このような場合、運転しているエレベータまたはエスカレータに利用者が集中することにより我先に避難しようとしてパニック状態となることが考えられる。
【0003】
そこで、災害が発生したとき、エレベータとエスカレータを連動して災害管制運転させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この連動運転は、以下に説明するようなものであった。すなわち、エレベータとエスカレータのそれぞれが通常運転しているときに、例えば、火災が発生したとする。この火災により火災報知器が動作し、エレベータの火災管制装置に火災発生信号が送信されてエレベータの火災管制装置が動作する。このため、それぞれのエレベータは最寄りの階床までかごを運転し、停止する。これにより利用者はエレベータかごから出て避難する。また、エレベータの火災管制装置が動作することにより、これに連動してエスカレータの火災管制装置も動作する。そして、エスカレータの火災管制運転が実行され、エスカレータは停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-220993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した内容は、災害発生時にエレベータとエスカレータとを連動して災害管制運転させるので、利用者をパニックから防ぐという点では有効であるが、避難を迅速に行うという面からは改良の余地がある。すなわち、災害が発生した場合、特に火災などの場合は、一刻も早く建物の外部に避難することが重要である。しかし、高層階の場合、階段だけで外部に避難することは多くの時間を要することになり、必ずしも得策ではない。その点で、上述のエレベータやエスカレータを停止させるだけの災害管制運転は充分でない。
【0006】
本発明の目的は、災害発生時に一刻も早く建物内部から外部に避難できる避難システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による避難システムは、エレベータが設置され、そのエレベータが停止可能な特定の階が初期避難階と設定され、少なくともこの初期避難階と他の階との間にエスカレータが設置された建物の避難システムであって、災害発生に伴って災害信号を出力する災害検出手段と、前記災害信号が入力可能に構成され、この災害信号が入力されると前記エスカレータの運転方向を前記初期避難階へ向わせるエスカレータ制御装置と、前記災害信号が入力可能に構成され、この災害信号が入力されると前記エレベータを前記初期避難階と予め設定した避難階との間でシャトル運転させるエレベータ制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明では、前記災害検出手段は災害発生場所を特定する機能を有し、前記エスカレータ制御装置は、特定された災害発生場所が前記エスカレータによる移動先またはその近くである場合は、そのエスカレータの運転を停止、又は反転させる機能を有する。
【0009】
また、本発明では、前記災害検出手段は災害発生場所及び災害規模を検出する機能を有すると共に、この検出された災害発生場所及び災害規模に対応して予め設定された区域に対し、避難情報を出力する機能を有する。
【0010】
また、本発明では、前記エスカレータ制御装置は、前記災害信号に基づく避難運転時の運転速度を、定常時の運転速度とは異なる速度に設定可能に構成してもよい。
【0011】
また、本発明では、前記エスカレータ制御装置は、前記エスカレータの踏み段上、又はその周囲における人の存在を検知する人感センサーからの検知信号が、予め設定した時間以上入力されなくなるまでエスカレータの運転を継続させる。
【0012】
さらに、本発明では、前記エスカレータ制御装置は、前記災害信号に伴う避難運転時、前記エスカレータ、又はその周囲に設けられた表示装置またはアナウン装置に対して、災害運転中であることを表示またはアナウンスさせる機能を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エスカレータにより初期避難階に移動させ、初期避難階から避難階へはエレベータのシャトル運転により移動させるようにしたので、建物内から外部へ迅速かつ安全に避難することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用される建物を模式的に表す正面図である。
【図2】図1で示した建物の初期避難階部分と他の階との関係をエレベータホールの部分を取り出して模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の避難システムの一実施の形態を説明する機能ブロック図である。
【図4】同上一実施の形態の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による避難システムの一実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1及び図2は、この実施の形態による避難システムが適用される多階層の建物11を模式的に示している。この建物11には エレベータ12が設置されている。図の例では、3台のエレベータ12a,12b,12cが設置されているが、もちろん3台以上でも、以下でもよい。この実施の形態では、建物11の、エレベータ12の乗りかごが停止可能な特定の階を初期避難階11aとして設定している。この初期避難階11aは、建物11が高層建物の場合、図1に示すように複数設定する。例えば10階毎に11a−1,11a−2,11a−3と設定する。この建物11の、少なくとも各初期避難階11aとその上下の他の階との間にはエスカレータ13が設置されているものとする。もちろん、他の階床間にエスカレータが設置されていてもよい。なお、図2では、図の錯綜化を防ぐため、エスカレータ13は、初期避難階11aとその下階との間に設けたもののみを透視状に示し、他は省略している。
【0017】
図3は、この避難システムの制御部分を機能ブロック図で示している。図3において、災害検出手段15は、災害発生に伴って災害信号を出力するものである。災害としては火災、テロ、地震などがあり、災害検出手段15としては、火災の場合は火災報知機や煙感知器などが用いられる。テロの場合は、建物の各階あるいは各区画に設置された非常通報装置が含まれる。地震の場合は、通常使用されている地震感知器を用いればよい。また、この災害検出手段15は、その設置位置などから、建物内における災害発生場所(危険個所でもある)を特定可能な位置信号を出力する機能を有している。
【0018】
エスカレータ制御装置16及びエレベータ制御装置17は、災害検出手段15と接続しており、この災害発生手段15が生じる災害信号及びその位置信号が入力可能に構成されている。また、このエスカレータ制御装置16及びエレベータ制御装置17は、それらの制御情報を相互に授受するためのエレベータ/エスカレータ通信手段18を持っている。
【0019】
エスカレータ制御装置16は、通常時はエスカレータ13を、予め設定された方向に運転する。しかし、災害が発生して、災害検出手段15からの災害信号が入力されると、エスカレータ13の運転方向を初期避難階11aへ向わせるべく制御する。例えば、初期避難階11aの上階との間に設置されたエスカレータ13の通常時における運転方向が上昇方向であれば、これを下降方向に変更する。また、このエスカレータ制御装置16は、災害検出手段15からの位置信号によって特定された災害発生場所が、エスカレータ13による移動先(エスカレータ降口)或いはその近く(予め設定した範囲内)である場合は、そのエスカレータ13の運転を停止、又は反転させる機能を有する。これらの場合、エスカレータの急激な停止や方向変更は利用者の転倒を招くので、ゆっくりと停止し、方向を変更する場合は、変更方向に徐々に加速するように運転制御する。
【0020】
エレベータ制御装置17は、通常時はエレベータ12を乗り場呼びやかご呼びに従って目的階に向かって運転制御する。しかし、災害が発生して、災害検出手段15からの災害信号が入力されると、エレベータ12を、予め設定された初期避難階11aと外部に避難するための避難階11b(例えば、外部に通じている1階部分など)との間でシャトル運転(避難運転)させる。図1では、3台のエレベータ12のうち、エレベータ12aに対しては、初期避難階として11a−1及び11a−3が設定され、エレベータ12bに対しては初期避難階として11a−2が設定され、エレベータ12cに対しては初期避難階として11a−3が設定されている。各エレベータ12a,12b,12cは、これら設定された初期避難階11a−1、11a−2及び11a−3と避難階11bとの間でシャトル運転される。なお、エレベータは12aについては、2つの初期避難階11a−1及び11a−3が設定されているので、初期避難階11a−1からの避難運転に当たっては、途中、もう一つの初期避難階11a−3に立ち寄ったのち避難階11bに到達するように、シャトル運転する。
【0021】
表示装置19及びアナウンス装置20は、エスカレータ13の本体やその周辺、あるいは建物内の所定位置などに設けられ、エスカレータ制御装置16からの指令、或いは建物11全体の図示しない管制設備からの指令より、所定の案内表示やアナウンスを行う。人感センサー21は、エスカレータ13のステップ上、又はその周囲における人の存在を検知するもので、その検知信号はエスカレータ制御装置16に入力される。この人感センサー21としては、赤外線センサー、荷重検知器、モータ負荷検出機などを用いればよい。エスカレータ制御装置16は、人感センサー21からの検知信号が、予め設定した時間以上入力されなくなるまでエスカレータの運転を継続させる機能を有する。
【0022】
次に、この実施の形態の動作を図4のフローチャートを用いて説明する。建物11に対する災害が発生し、災害検出手段15がこれを検出すると、災害信号と共に災害発生場所に関する情報(位置信号)を出力する(ステップ401)。エスカレータ制御手段16は、この災害信号及び災害発生場所に関する情報を入力すると、エスカレータ13の運転方向が初期避難階11aに向かうように制御する(ステップ402)。すなわち、エスカレータ13を通常運転から避難運転に切り換え、必要に応じて運転方向を反転させる。また同時に、表示装置19やアナウンス装置20を動作させて、災害発生に伴いエスカレータ13が避難運転に切り換わり初期避難階11aに向かっていること、初期避難階11aに到着したならばエレベータ12により避難階11bへ避難すること、などを案内表示し、アナウンスする。
【0023】
このエスカレータ13が避難運転に切り換わったとの情報は、通信手段18によってエレベータ制御装置17に送信される。エレベータ制御装置17には災害検出手段15からの災害信号も入力されているので、エレベータ制御装置17は、予め設定された初期避難階11aと避難階11bとの間でのシャトル運転を行う(ステップ403)。このとき、エレベータ制御装置17は、対応するエスカレータ13の人感センサー21の信号を受けて、エレベータ12の乗りかごを予め対応する初期避難階11a移動させておく。エレベータ12がシャトル運転を行っている情報は、同じく通信手段18によりエスカレータ制御装置16に伝えられているので、エスカレータ制御装置16は、エレベータ12がシャトル運転中であることを把握する。
【0024】
エスカレータ制御装置16は、災害検出手段15から災害信号と共に、災害発生場所の情報を得ているので、災害検出手段15により特定された災害発生場所が、エスカレータ13による移動先(エスカレータ降口)か、あるいはその近くかを判断する。その結果、災害発生場所がエスカレータ13の降口に近く、この降口付近が危険な場合(ステップ404:N)は、エスカレータ13の運転を停止させるか、或いはその運転方向を反転させる(ステップ405)。
【0025】
これに対し、災害発生場所がエスカレータ13の降口より遠く、この降口付近に危険がない場合(ステップ404:Y)は、エスカレータ13の運転を継続する(ステップ406)。このエスカレータ13の運転は、エスカレータ13の本体またはその周囲に設けられた人感センサー21からの検知信号が、予め設定した時間以上入力されなくなるまで継続される。言い換えると、エスカレータ13の利用者がある間は継続する(ステップ407:N)。これに対し、エスカレータ13の利用者が一定時間以上無い場合は(ステップ407:Y))、避難完了したものとしてエレベータ12及びエスカレータ13の運転を停止する(ステップ408)。
【0026】
このように、災害発生時、エスカレータ13の運転方向を、予め設定した初期避難階11aに向けて制御するため、先ず、初期避難階11aへの避難を効率よく迅速に行うことができる。すなわち、災害時における建物11内での人の流れを一定方向にコントロールするので、混乱を生じることなく迅速な避難が可能となる。また、災害発生場所がエスカレータ13の降口付近で危険な場合は、エスカレータ13を停止または反転させるため、安全性を確保することができる。また、初期避難階11aに移動した人は、避難階11bとの間でシャトル運転されるエレベータにより、安全な避難階11bに移動させるので、この部分でも人の流れが一定方向となるため、建物外部などの安全な場所への避難を効率的かつ迅速に行うことができる。
【0027】
なお、災害検出手段15に、前述した災害発生場所検知機能と共に、その災害規模を検出する機能を持たせ、この検出された災害発生場所及び災害規模に対応して予め避難経路として設定した区域に対して、案内表示やアナウンスなどにより避難情報を出力するようにしてもよい。
【0028】
また、エスカレータ制御装置16は、災害信号に基づく避難運転時、その運転速度を、状況に応じて、定常時の運転速度より早くあるいは遅くできるようにしてもよい。このようにすれば、避難者がパニックを起こさないように、避難速度を調整することができる。
【符号の説明】
【0029】
11…建物
11a…初期避難階
11b…避難階
12…エレベータ
13…エスカレータ
15…災害検出手段
16…エスカレータ制御装置
17…エレベータ制御装置
19…表示装置
20…アナウンス装置
21…人感センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータが設置され、そのエレベータが停止可能な特定の階が初期避難階と設定され、少なくともこの初期避難階と他の階との間にエスカレータが設置された建物の避難システムであって、
災害発生に伴って災害信号を出力する災害検出手段と、
前記災害信号が入力可能に構成され、この災害信号が入力されると前記エスカレータの運転方向を前記初期避難階へ向わせるエスカレータ制御装置と、
前記災害信号が入力可能に構成され、この災害信号が入力されると前記エレベータを前記初期避難階と予め設定した避難階との間でシャトル運転させるエレベータ制御装置と、
を備えたことを特徴とする避難システム。
【請求項2】
前記災害検出手段は災害発生場所を特定する機能を有し、
前記エスカレータ制御装置は、特定された災害発生場所が前記エスカレータによる移動先またはその近くである場合は、そのエスカレータの運転を停止、又は反転させる機能を有することを特徴とする請求項1に記載の避難システム。
【請求項3】
前記災害検出手段は災害発生場所及び災害規模を検出する機能を有すると共に、この検出された災害発生場所及び災害規模に対応して予め設定された区域に対し、避難情報を出力する機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の避難システム。
【請求項4】
前記エスカレータ制御装置は、前記災害信号に基づく避難運転時の運転速度を、定常時の運転速度とは異なる速度に設定可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の避難システム。
【請求項5】
前記エスカレータ制御装置は、前記エスカレータの踏み段上、又はその周囲における人の存在を検知する人感センサーからの検知信号が、予め設定した時間以上入力されなくなるまでエスカレータの運転を継続させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の避難システム。
【請求項6】
前記エスカレータ制御装置は、前記災害信号に伴う避難運転時、前記エスカレータ、又はその周囲に設けられた表示装置またはアナウン装置に対して、災害運転中であることを表示またはアナウンスさせる機能を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の避難システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190048(P2011−190048A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57546(P2010−57546)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】