説明

還元型CoQ10−CD包接体の製造方法

【課題】還元型CoQ10−シクロデキストリン(CD)包接体の製造方法および当該方法によって得られる還元型CoQ10−CD包接体を提供する。
【解決手段】CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合した後、10〜100℃、湿度0〜100%の雰囲気下で保存することによる還元型CoQ10−CD包接体の製造方法であり、抗酸化剤がビタミンC(VC)、VC誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオンなどから選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は還元型コエンザイムQ10(以下、還元型CoQ10とする)−シクロデキストリン(以下、CDとする)包接体の製造方法に関する。更に詳しくは、コエンザイムQ10(以下、CoQ10とする)−CD包接体と抗酸化剤とを混合することによる還元型CoQ10−CD包接体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CoQ10は、ミトコンドリア内の電子伝達系に関与する重要な補酵素であり、体内においては酸化型から還元型に変換されることで、強力な抗酸化作用を有することが知られている。
還元型CoQ10は、この強力な抗酸化作用に加えて、酸化型CoQ10と比較して体内での吸収性が高いことから、医薬品、医薬部外品、機能性食品や化粧品等の有効成分として注目が集まっている。しかし、還元型CoQ10は酸化型CoQ10に比べて安定性が極めて低く、高価であるため、容易に利用できないという問題があった。
【0003】
近年、還元型CoQ10を安定的に保つ方法として、γCDと還元型CoQ10とを水に溶解した後、ホモジナイザーで攪拌して混合し、還元型CoQ10をγCDに包接させる方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、この方法でγCDに包接している還元型CoQ10は、合成、発酵、天然物からの抽出等によって得られたCoQ10から、クロマトグラフィー等によって還元型CoQ10区分を分離し、濃縮して得たものであるため、やはり高価なものである。
そのため、還元型CoQ10を安価で容易に利用できるような方法の提供が望まれている。
【特許文献1】国際公開第02005/041945号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は還元型CoQ10−CD包接体の製造方法の提供を課題とする。更に当該方法によって得られる還元型CoQ10−CD包接体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合することにより、高い生成比率で還元型CoQ10−CD包接体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は次の(1)〜(8)に記載の還元型CoQ10−CD包接体の製造方法等に関する。
(1)CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合することによる還元型CoQ10−CD包接体の製造方法。
(2)CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合した後、10〜100℃、湿度0〜100%の雰囲気下で保存することによる還元型CoQ10−CD包接体の製造方法。
(3)CoQ10−CD包接体に含まれるCoQ10と抗酸化剤との混合比率(モル比)が1:1〜1:500である上記(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)CoQ10−CD包接体がCoQ10−アルファシクロデキストリン(以下、αCDとする)包接体、CoQ10−ベータシクロデキストリン(以下、βCDとする)包接体またはCoQ10−ガンマシクロデキストリン(以下、γCDとする)包接体の一種以上である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)CoQ10−CD包接体がCoQ10−γCD包接体である上記(4)に記載の製造方法。
(6)抗酸化剤がビタミンC(以下、VCとする)、VC誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、リボフラビンおよびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)から選択される一種以上である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造法。
(7)抗酸化剤がVCである上記(6)に記載の製造法。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法によって製造された還元型CoQ10−CD包接体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の還元型CoQ10−CD包接体の製造方法によって、還元型CoQ10を安定した状態、かつ高い比率で含有する還元型CoQ10−CD包接体を製造することができる。本発明で得られた還元型CoQ10−CD包接体は、従来の方法で製造された還元型CoQ10と同等の活性を有することから、医薬品、医薬部外品、機能性食品または化粧品等の有効成分として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の「CoQ10−CD包接体」とは、酸化型CoQ10がCDに包接されているもののことをいう。
また、本発明の「還元型CoQ10−CD包接体」とは、還元型CoQ10のみ、または包接体に含まれる全CoQ10に対して20%以上の還元型CoQ10と酸化型CoQ10とを含むCoQ10がCDに包接されているもののことをいう。
【0009】
本発明の「製造方法」には、CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合することにより、「CoQ10−CD包接体」に含まれるCoQ10が、高い生成比率で還元型CoQ10となり、「還元型CoQ10−CD包接体」が製造できる方法であれば、いずれの製造方法も含まれる。CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合する方法としては、CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを乳鉢等に入れ、粉末の状態で混ぜ合わせる方法や、CoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを水等の溶媒に加え、攪拌する方法等が挙げられる。
【0010】
本発明の「製造方法」は、さらにCoQ10−CD包接体と抗酸化剤とを混合した後、一定温度および湿度の雰囲気下で保存することによる還元型CoQ10−CD包接体の製造方法であることが好ましい。
この保存においては温度が10〜100℃で、湿度が0〜100%の雰囲気下であれば可能であるが、温度は10〜70℃であることが好ましく、特に60℃、75%の雰囲気下であることがさらに好ましい。また、保存する時間は、「還元型CoQ10−CD包接体」が生成される時間であればいずれでもよい。
【0011】
本発明の「製造方法」において、CoQ10−CD包接体に含まれるCoQ10と抗酸化剤との混合比率は、「還元型CoQ10−CD包接体」が高い比率で生成し得る混合比率であれ、いずれの混合比率であってもよい。例えば、CoQ10−CD包接体に含まれるCoQ10に対して抗酸化剤が1:1〜1:500(モル比)等の混合比率が挙げられる。好ましくは1:2〜1:50(モル比)が挙げられる。
【0012】
本発明の「製造方法」に用いるCoQ10−CD包接体は、CoQ10−αCD包接体、CoQ10−βCD包接体またはCoQ10−γCD包接体の1つ以上であることが好ましく、これらを組み合わせても用いることもできる。
これらのCoQ10−CD包接体は、例えば酸化型CoQ10とγCDが1:2.5(モル比)の割合で含まれる「コエンザイムQ10W」(シクロケム)等の市販されているものを用いることもできる。また、CoQ10とCDを混合し、噴霧乾燥、凍結乾燥法、飽和水溶液法、混錬法、混合粉砕法等の一般的な包接体の製造方法(参考文献参照)を用いて、独自に製造したものを用いることもできる。
参考文献:特開2006−249050号公報
【0013】
本発明の「製造方法」に用いる抗酸化剤は、還元型CoQ10−CD包接体が製造できる抗酸化剤であればいかなる化合物でも使用できる。例えば、ビタミンC、ビタミンC誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、リボフラビンおよびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)等が挙げられる。また、これらの抗酸化剤を組合せて用いても良い。これらの抗酸化剤のうち、特にVCを用いることが好ましく、例えばL(+)−アスコルビン酸(和光純薬工業)を用いることが出来るが、食品用として市販されているVCを用いることが好ましい。
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
<還元型CoQ10の製造>
1.試料
1)CoQ10−γCD包接体:コエンザイムQ10W(シクロケム社)
2)抗酸化剤:L(+)−アスコルビン酸(和光純薬工業社)
【0015】
2.還元型CoQ10−CD包接体の製造方法
上記1.1)のCoQ10−γCD包接体に含まれるCoQ10と上記1.2)の抗酸化剤とのモル比が1:5、1:10、1:25、1:50となるように乳鉢に入れ、それぞれ混合した。その後、60℃、湿度75%の雰囲気下で0、7、14、60日間保存することで還元型CoQ10−CD包接体の製造を行い、CoQ10−CD包接体に含まれていたCoQ10から還元型CoQ10が生成したことをHPLC分析で確認した。また、還元型CoQ10−CD包接体の生成比率を下記の式によって求めた。
[HPLC分析条件]
カラム:Luna 5u C18(2) 100A (4.6mm I.D.×150mm)、移動相(Mobile Phase):100%DMF、流速(Flow rate):0.8mL/min、温度:40℃、検出:UV280nm、注入量:10μL
【0016】
[式]
還元型CoQ10の生成比率=
還元型CoQ10濃度/(酸化型CoQ10濃度+還元型CoQ10濃度)×100
【0017】
[比較例]
比較としてCoQ10−γCD包接体の代わりにCoQ10を用いて、上記と同様の方法で還元型CoQ10の製造を試みた。また、抗酸化剤を全く混合しないで、CoQ10またはCoQ10−γCD包接体のみを上記と同じ雰囲気下で同じ時間保存を行い、還元型CoQ10または還元型CoQ10−γCD包接体の製造を試みた。
【0018】
<結果>
図1に示したように、CoQ10−γCD包接体と抗酸化剤を混合した本発明の製造方法によって、CoQ10−γCD包接体に含まれるCoQ10から還元型CoQ10が生成することにより、還元型CoQ10−γCD包接体が得られることが確認できた。
また、図2に示したように、CoQ10−γCD包接体を抗酸化剤と混合した製造方法において、保存日数の経過に伴い、高い生成比率で還元型CoQ10−γCD包接体が得られる傾向があることが示された。また、抗酸化剤とのモル比が高いものほど、高い生成比率で還元型CoQ10−γCD包接体が得られる傾向があることも示された。
これに対し、CoQ10を抗酸化剤と混合したものでは、還元型CoQ10の生成比率が低かった。また、抗酸化剤を全く混合しないで、CoQ10−γCD包接体のみを保存した場合においては、還元型CoQ10−γCD包接体の生成比率が低かった。
従って、この結果より、本発明の還元型CoQ10−γCD包接体の製造方法により、高い生成比率の還元型CoQ10−γCD包接体が得られることが確認できた。
【0019】
本発明の還元型CoQ10−γCD包接体の製造方法により製造された還元型CoQ10−γCD包接体について、DPPHラジカル消去活性を調べたところ、CoQ10(1モル)に対し、2モル以上のDPPHラジカルを消去することが確認された。従って、本発明の製造方法によって製造される還元型CoQ10−γCD包接体に含まれる還元型CoQ10は、従来の方法によって製造されている還元型CoQ10と同様に高い活性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の還元型CoQ10−CD包接体の製造方法によって得られる還元型CoQ10−CD包接体は、安定性が高く、還元型CoQ10−CD包接体に含まれる還元型CoQ10は従来の方法で製造された還元型CoQ10と同等の活性を有することから、医薬品、医薬部外品、機能性食品または化粧品等の有効成分として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の製造方法によって還元型CoQ10−CD包接体が得られたことを示した図である(実施例)。
【図2】CoQ10またはCoQ10−CD包接体における還元型CoQ10の生成比率を示した図である(実施例)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体と抗酸化剤とを混合することによる還元型コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体の製造方法。
【請求項2】
コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体と抗酸化剤とを混合した後、10〜100℃、湿度0〜100%の雰囲気下で保存することによる還元型コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体の製造方法。
【請求項3】
コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体に含まれるCoQ10と抗酸化剤との混合比率(モル比)が1:1〜1:500である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体がコエンザイムQ10(CoQ10)−アルファシクロデキストリン(αCD)包接体、コエンザイムQ10(CoQ10)−ベータシクロデキストリン(βCD)包接体またはコエンザイムQ10(CoQ10)−ガンマシクロデキストリン(γCD)包接体の一種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体がコエンザイムQ10(CoQ10)−ガンマシクロデキストリン(γCD)包接体である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
抗酸化剤がビタミンC(VC)、ビタミンC(VC)誘導体、グルタチオン、還元型グルタチオン、チオ硫酸ナトリウム、L−システイン、リボフラビンおよびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)から選択される一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
抗酸化剤がビタミンC(VC)である請求項6に記載の製造法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造された還元型コエンザイムQ10(CoQ10)−シクロデキストリン(CD)包接体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−126492(P2010−126492A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303445(P2008−303445)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(503065302)株式会社シクロケム (22)
【Fターム(参考)】