説明

還元性ガス又はアルコールを検出するためのFET型センサー、製造方法及び運転方法

本願発明は、特に還元性ガスの検出のためのセンサー、並びにその製造方法及びその運転方法を記載する。FET型ガスセンサーは、少なくとも1つの電界効果型トランジスターと、少なくとも1つのガス感応性層と、基準層とからなり、前記の両方の層の材料がガスと接触する際に生じる仕事関数の変化を、電界効果構造の制御のために使用し、金属酸化物からなる前記ガス感応性層は測定ガスが到達しうる表面に酸化触媒を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元性ガス又はアルコールを検出するためのFET型センサー、製造方法及び運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)は、例えば無臭の毒性の及び爆発性のガスであり、このガスは炭化水素又はその化合物の不完全燃焼の際に生じる。COが生成される量は、この場合に燃焼時の酸素不足の程度に依存し、かつ数体積パーセントの範囲に達することがある。従って、大規模にCO用の警報装置が必要とされ、この警報装置は所定のMAK値(最大作業場濃度)を上回る場合にアラームが作動する。この値は例えばMAK=30vpmである。典型的な適用は、COが不完全燃焼により生じることがある建築物内の空気の監視にあり、例えば地下駐車場、多層駐車場、道路用トンネル、燃焼装置を備えた住宅又は工場周辺である。
【0003】
COは一般に火災の際にも生じるため、高濃度の検出は火災警報としても利用することができる。さらに極めて重要な適用は、自動車の空気品質センサーであり、前記空気品質センサーは、外気の品質を測定し、かつ前記空気品質が前方を走行する車両によって著しく損なわれている場合に、車室の通風を循環に切り替える。この場合、導入ガスによる内燃機関の排気ガスは数ppmの範囲内のCOが検知される。
【0004】
多くの適用のために、CO濃度の限界値だけを検出する、低コストであるが、極めて信頼性の高いセンサーが要求される。同時に、長寿命であり、最小限のメンテナンス費用でかつ僅かな電力消費量であるのが好ましい。この電力消費量は、数ヶ月のバッテリー駆動もしくは補助エネルギーなしでのデータバス導線との直接接続が可能な程度に低いのが好ましい。
安全性のために極めて重要でかつCO測定が広く採用されているために、既に今日では多数の異なる測定システムが使用されている。最も高い要求のためには、高価なNDIR(非分散型赤外線式)装置が使用される。CO感応性の電気化学的セルはより安価である。しかしながら、この価格は多くの適用にとってなお高く、このような構造のセンサーシステムは高いメンテナンス費用が必要とされる、それというのも個々のセンサーの寿命が短いためである。金属酸化物センサー、特にSnO系もしくはGa系の金属酸化物センサーは低価格帯にあり、このガス反応はその導電性の変化によって読み出される。しかしながらこのセンサーは比較的高温で運転される。SnOセンサーは、例えば>300℃で運転され、Gaセンサーは>600℃で運転される。従って、この運転温度を達成するために高い電力消費が必要となってしまう。さらに、このセンサーは、バッテリー駆動が必要なため又は一般に補助エネルギーなしでデータバスとの直接的な接続は適していないため、多くの適用にとって、例えば火災防止のために適していない。
【0005】
この理由から、COセンサーは、その使用が法的義務によって規定されていて、従って必要な経費(高いセンサーコスト、センサーに必要な運転エネルギーの供給)を行わなければならない箇所にだけ使用されているにすぎない。法的に規定された使用の他に、COセンサーは、これが例えば機器及び装置の調節のために不可欠な場合、及び他のコストがかからずに運転エネルギーが提供される場合、例えば自動車又は小規模な燃焼装置において使用されるだけである。前記条件が満たされない限り、例えば安全性の理由から望ましいとしてもCOセンサーの使用は行われない。
【0006】
ガスと相互作用する際の材料の電子的な仕事関数の変化を感応性測定原理として利用するガスセンサーは原理的に、低温でかつ僅かなエネルギー消費量で運転するのに適している。この場合、ガス感応性材料の仕事関数の変化を電界効果型トランジスター(ガスFET)中に入力結合し、それにより前記仕事関数の変化をトランジスターのソースとドレインとの間の電流変化として測定する方法が利用される。典型的な構造は、DE 42 39 319から公知である。関連する構造技術は、DE 19956744に記載されている。
【0007】
気相中のエタノールの測定は、例えば呼気中のアルコール蒸気の濃度から血液中の相応する濃度の推測するために利用される。まさにこの場合に、例えばバッテリー又は蓄電池駆動で間に合う小さなポータブル機器が重要である。
【0008】
【特許文献1】DE 42 39 319
【特許文献2】DE 19956744
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の根底をなす課題は、できる限り運転エネルギーを消費しない、特に還元性ガスについて又はガス状のアルコールについて検出するためのセンサーを提供すること、並びにその運転方法及びその製造方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この解決策は、請求項1、10、12もしくは14又は16のそれぞれの特徴部の組合せにより達成された。
【0011】
有利な実施形態は、それぞれの引用形式請求項に記載されている。
【0012】
本発明によって多数の利点が生じる。最も重要なのは:
− 僅かなエネルギー消費を伴う運転、バッテリー駆動を用いた運転又はデータバスラインへの直接接続を用いた運転、
− センサーアレイの実現を容易にする僅かな形状寸法、
− センサーチップの電子回路に一体的な組み込みができる、
− 半導体製造の成熟した低コストの方法の使用。
【0013】
次の2つのトランジスタータイプ:
− SGFET(サスペンデッドゲート電界効果型トランジスター)、
− CCFET(容量制御する電界効果型トランジスター)
が特に重要である。この両方はそのハイブリッド構造を特徴としている、つまりガス感応性ゲートと、本来のトランジスターが別個に製造され、適切な技術によって相互に接続されている。それにより、トランジスター中に多くの材料を導入することができるが、その製造条件はシリコン技術の製造条件とは適合しない。このことは特に、厚膜技術又は薄膜技術で被着させることができる金属酸化物に該当する。
【0014】
還元性のガス、例えばCO又はH、アルコール又は炭化水素に対して調整されているセンサーに関する本発明は、FET型構造において感応性層を使用し、前記感応性層は金属酸化物からなり、並びに測定ガスが到達しうるその表面に存在する酸化触媒を有する。最も頻繁に、前記触媒の微細な分散体が使用される。
【0015】
この種のシステムは、本発明の場合に還元性のガスにさらされる際に、湿った空気でかつ室温から150℃の間の典型的な運転温度で、その電子の仕事関数が急激でかつ可逆的な変化を示す。さらに下記する実施例は図1に示されている。前記の電子の仕事関数のこの変化は、上記の適用の関連するガス濃度範囲に対して約10から100mVにあり、従ってハイブリッド構造のFETガスセンサーを用いて読み取るために十分な大きさである。
【0016】
この層の機能性は、前記金属酸化物上で検出すべき分子の荷電性の吸着に基づいている。被着された前記触媒材料は、主に、この反応を前記の温度でも既に進行させるために利用される。
【0017】
次に、模式的な図を用いて実施例を記載するが、本発明はこれらの図に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
CO及び他の還元性ガスの検出のため特に適切な金属酸化物として、酸化物、例えばSnO、Ga又はCoOが有効であると判明した。これらの酸化物は、多様な周囲環境条件において極めて高い安定性を有する。有利に、前記された材料の1つの成分を有する異なる金属酸化物の混合形も使用することができる。
【0019】
この材料は層として作成され、その際、陰極スパッタリング、スクリーン印刷法、並びにCVD法を用いることができる。典型的な層厚はこの場合1から3μmである。多孔性の、例えば連続気孔の金属酸化物の層を作成する場合が特に有利である。
【0020】
触媒、例えば有利に白金金属又は銀からなる酸化活性触媒を被着させることにより低温での金属酸化物の反応性が促進される。有利な金属は、Pt又はPd、Rh又はこれらの金属の混合物である。前記の金属は、この場合に有利に、小さな粒子、「触媒分散体」、「触媒クラスター」の形で、1から30nmの一般的な寸法で存在するのが好ましい。従って、これは、触媒作用のある金属が高い頻度で三相境界(金属−金属酸化物−ガス)によって金属酸化物のガス反応性に影響を及ぼす、つまりガス反応性を高めることができる。
【0021】
触媒クラスターは有利に含浸法によって被着され、この含浸法の場合に貴金属の塩が金属酸化物の表面を濡らす溶剤中に溶かされていて、かつ前記溶液を前記の製造された金属酸化物の表面に塗布される。乾燥後に前記の塩を化学的に分解し、金属触媒クラスターを生成させる。これとは別に、PVD法(例えば陰極スパッタリング)を用いて、触媒の極めて薄い(<30nm)全面にわたる層を被着させることができる。その後に引き続き600から1000℃の範囲内での熱処理工程で、全面にわたる層を破壊し、この場合でも必要な大きさの触媒クラスターが作り出される。
【0022】
エネルギー必要量が低い、低コストのCOセンサーは、今までにこの相応するセンサーの不足が原因で利用されていなかった適用に使用される。
【0023】
FETセンサー機能に基づくか又はFETセンサー機能と組み合わせて、極めて低い運転温度及び運転エネルギーを有する還元性ガス用のセンサーに使用することができる感応性層が初めて提供される。
【0024】
ケルビン法による測定が実施され、SnO導電性センサーもしくはGa導電性センサーの運転温度を明らかに下回る温度でCO検出を再現するセンサーシグナルの安定性が確認された。前記測定は、この場合、PtもしくはPd付活の厚膜もしくは薄膜での仕事関数の測定により行われる。
【0025】
センサーの製造/感応性層の製造
実施例1:
基材は、背面コンタクトとしてのスパッタリングされた白金上で2μmの厚さでスパッタリングされたGa薄層である。触媒による付活はPt分散体を用いて行い、前記Pt分散体は水溶性の白金錯体の湿式化学的溶液の熱分解(600℃)により製造される。約220℃から120℃の間の温度で湿った合成空気中でCO(1体積%)、H(1体積%)及びCH(100vpm)を適用した場合の仕事関数が測定される。この結果は図2に示されている。前記測定の温度範囲は、Ga導電性センサ(T>600℃)の運転温度を明らかに下回り、かつ僅かな加熱出力でCO検出が可能であることを示す。
【0026】
実施例2:
600℃で焼き付けられた連続気孔のSnO厚膜をベースとするケルビン試料を製造した。この触媒による付活はPd錯体の水溶液で行い、これを100℃から250℃の温度で熱分解してPdにした。
【0027】
このケルビン測定は、室温から約110℃で、湿った合成空気中で実施した。図1は、CO 2から30vpmのCO濃度での室温でのケルビンシグナルを示す。この測定は、前記感応性層を用いて低温でCOを高い感度で検出できることを示した。
【0028】
他の還元性ガスの例としての同じ感応性層のエタノールに関する感度は図3に示されている。図3は、多様な温度でのPd付活化SnO層のエタノールに関する反応を示す。
【0029】
ガス感応性層の付活化及び再付活化
このガス感応性層は、数週間の連続運転で室温で標的ガスに対する高い選択性を失う傾向がある。この傾向は、応答時間の増大によるのと同様に、シグナル強度の低下によって現れる。規則的な間隔(例えば4から5日ごと)で前記層の「再付活化」を行うことにより対処することができる。前記層のこの「再付活化」は、湿った周囲空気中で前記層を180から250℃の間の温度に数分から最大1hの時間加熱することによって行う。他の必要性、例えば標的ガス等の存在は、満たされる必要はない。
【0030】
湿った空気でのガス感応性電界効果型トランジスターを用いたエタノールを検出するシステムは、典型的な値、例えば室温から100℃の運転温度、並びに電子の仕事関数の急激でかつ可逆的変化を示す。このシグナルレベルは、測定を実施することができる程度に十分の大きい。この酸化スズが均質な層厚である場合に均一な空隙が存在し、一定のシグナルレベルが生じる。
【0031】
酸化スズ及び酸化ガリウムは、特にエタノールの検出のために適している。これらの酸化物は、多様な周囲環境条件において極めて高い安定性を有する。前記材料の少なくとも1つの成分が含まれている混合物を使用することもできる。
【0032】
例えば陰極スパッタリング、スクリーン印刷法又はCVD法による層の作成は、15から20μmの層厚を作成することが好ましい。金属酸化物からなる多孔性の、特に連続気孔の層が有利である。前記触媒クラスターは、分散体の被着、引き続く前記層の適度の熱処理によって製造される。これとは別に、薄層のためにはスパッタリング技術を使用することができ、その際、熱処理は同様に必要である。触媒材料としてPt又はPdが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】室温で、湿った空気で、COにさらした場合の、触媒としてPdを有するSnO系の感応性層の仕事関数変化を示す。
【図2】微細に分配された白金からなる触媒が設けられているGa薄層のケルビン測定を示し、その際、センサー温度は2.5Vの加熱電圧で約120℃から4Vの加熱電圧で約220℃である。
【図3】多様な温度でのPd付活化SnO層のエタノールに関する反応を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電界効果型トランジスターと、少なくとも1つのガス感応性層と、基準層とからなり、前記の両方の層の材料がガスと接触する際に生じる仕事関数の変化を、電界効果構造の制御のために使用するFET型ガスセンサーであって、金属酸化物からなる前記ガス感応性層は測定ガスが到達しうる表面に酸化触媒を有する、FET型ガスセンサー。
【請求項2】
前記触媒は、少なくとも1種の触媒材料の微細な粒子を有する分散体から製造されている、請求項1に記載のガスセンサー。
【請求項3】
前記ガス感応性層の金属酸化物が、SnO、Ga又はCoO又は前記酸化物からなる混合物からなる、請求項1又は2に記載のガスセンサー。
【請求項4】
前記ガス感応性層の金属酸化物が、1から5μmの層厚を有する、請求項1から3までのいずれか一項に記載のガスセンサー。
【請求項5】
ガス感応性層の金属酸化物層が連続気孔を示す多孔性である、請求項1から4までのいずれか一項に記載のガスセンサー。
【請求項6】
前記酸化触媒が、銀又は白金金属、例えばPt、Pd、Rh又はこれらの混合物からなる、請求項1から5までのいずれか一項に記載のガスセンサー。
【請求項7】
前記金属が、1から30nmの寸法を有するナノ粒子であることを特徴とする、請求項6記載のガスセンサー。
【請求項8】
前記金属が触媒分散体又は触媒クラスターとして存在する、請求項6又は7記載のガスセンサー。
【請求項9】
分散体又はクラスターはパラジウム又は白金からなる懸濁液から製造されている、請求項8記載のガスセンサー。
【請求項10】
− 2μmの層厚を有するスパッタリングされたGa薄層を、背面コンタクトとしてのスパッタされた白金上に作成し、
− 触媒活性領域の作成を、Pt分散体の被着によって行い、前記Pt分散体を可溶性の白金錯体の溶液の例えば600℃での熱分解によって製造する、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの製造方法。
【請求項11】
− 多孔性のSnO厚膜をベースとするガス感応性層を製造し、これを600℃で焼き付け、
− 触媒活性領域の作成を、Pd錯体の溶液の塗布によって行い、このPd錯体を100℃から250℃の温度で熱分解させることによりPdにする、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの製造方法。
【請求項12】
感応性層の運転温度が室温から150℃である、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの運転方法。
【請求項13】
1日から1ヶ月のセンサー運転時間の所定の間隔で、センサー構造体を高い選択性を維持するために180から250℃の高めた温度で加熱する、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの運転方法。
【請求項14】
還元性ガスの検出のための、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの使用。
【請求項15】
ガス、例えば水素、一酸化炭素、メタンを検出するための、請求項13記載のガスセンサーの使用。
【請求項16】
ガス状のアルコールの検出のための、請求項1から9までのいずれか一項に記載のガスセンサーの使用。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2007−533986(P2007−533986A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508844(P2007−508844)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004275
【国際公開番号】WO2005/103665
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(305061287)マイクロナス ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】