説明

還元鉄粉の製造設備および製造方法

【課題】粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を効率よく仕上還元処理できる還元鉄粉の製造設備および製造方法を提供する。
【解決手段】粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を貯蔵し、供給するためのホッパと、前記粗製鉄粉に脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すための連続式移動床炉とを有する還元鉄粉の製造設備において、前記ホッパの供給口部より上部にあるホッパ内の位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプと底角が45°以上である二等辺三角形状の整流板とを設けたことを特徴とする還元鉄粉の製造設備;ここで、ホッパの供給口部とはホッパ下端にある供給口と同じ断面形状を有する部位のことをいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉に仕上還元処理を施すための還元鉄粉の製造設備および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ミルスケールを用いた粗還元鉄粉やアトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉には、その用途に応じて、図1に示すような還元鉄粉の製造設備を用いて、脱炭、脱酸、脱窒のような仕上還元処理が施される。すなわち、ホッパ8aからガイドダクト8bを介してホイール10で駆動された移動床(例えば、スチールベルト)9上に連続的に供給される粗製鉄粉7は、ラジアントチューブ11により所定の温度に加熱された連続式移動床炉30内を水平移動し、雰囲気中の水素や水蒸気と反応して、下記の反応式(1)〜(3)にしたがって脱炭、脱酸、脱窒の仕上還元処理を受ける。
C (in Fe) + H2O = CO + H2・・・(1)
FeO + H2 = Fe + H2O ・・・(2)
N (in Fe) + (3/2)H2 = NH3・・・(3)
このとき、脱炭は露点30〜60℃の水素ガス雰囲気中、温度600〜1100℃で、脱酸は露点40℃以下の水素ガス雰囲気中、温度700〜1100℃で、脱窒は露点40℃以下の水素ガス雰囲気中、温度450〜750℃で行われる。そのため、連続式移動床炉30内は炉長方向に沿って入口側から第一室2、第二室3、第三室4の3室に仕切り壁1によって区分され、例えば第一室2では脱炭、第二室3では脱酸、第三室4では脱窒の処理が施されるように、各室の雰囲気ガスや温度が制御される。
【0003】
また、雰囲気ガスは、連続式移動床炉30出口側の雰囲気ガス導入口5から炉内に導入され、連続式移動床炉30入口側の雰囲気ガス排出口6から炉外に排出され、雰囲気ガス排気管13を介して排気ダクト14へ送られる。また、ラジアントチューブ11内の燃焼排ガスも燃焼ガス排気管12を介して排気ダクト14へ送られる。
【0004】
こうした連続式移動床炉30において、効率よく仕上還元処理を行うためには、各室での温度管理が重要である。しかし、通常は、粗製鉄粉7が連続式移動床炉30内に入るときには室温で、粗製鉄粉7全体が所定の温度に到達するのは第一室2の出口付近となるため、移動床9の移動速度を速くしたり、移動床9上の粗製鉄粉7の堆積量を増加して生産性の向上を図ろうとすると、粗製鉄粉7全体を所定の温度まで加熱することが困難になり、仕上還元処理の効率化に対して大きな障壁となっていた。
【0005】
そこで、特許文献1や2には、図1に示すように、ホッパ8aの供給口部に間接加熱方式の熱交換器である予熱器15を設けて粗製鉄粉7を加熱する方法が提案されている。また、予熱器15は、図2にその一例を示すように、粗製鉄粉7の流れに直交するように排気ダクト14から出ている複数の熱交換パイプ16が挿入されたものであり、粗製鉄粉7は、燃焼排ガスが流れている熱交換用パイプ16の間を通り抜けるときに加熱される。ここで、ホッパ8aの供給口部17とは、図2に示すように、下端にある供給口18と同じ断面形状を有する部位のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-235401号公報
【特許文献2】特開昭63-153204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の予熱器を用いた加熱方法では、粗製鉄粉を100〜200℃程度にしか加熱できず、仕上還元処理の効率化を十分に図ることができない。
【0008】
本発明は、粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を効率よく仕上還元処理できる還元鉄粉の製造設備および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0010】
i) ホッパの供給口部において粗製鉄粉を加熱しても、高々200℃程度までしか加熱できない理由は、供給口部の構造上加熱時間を十分に確保できないためである。
【0011】
ii) ホッパの供給口部より上部にあるホッパ内の位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプと底角が45°以上である二等辺三角形状の整流板を設けて、粗製鉄粉を加熱すれば、200℃を超える温度に均一加熱でき、仕上還元処理の効率化を図ることができる。
【0012】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を貯蔵し、供給するためのホッパと、前記粗製鉄粉に脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すための連続式移動床炉とを有する還元鉄粉の製造設備において、前記ホッパの供給口部より上部にあるホッパ内の位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプと底角が45°以上である二等辺三角形状の整流板とを設けたことを特徴とする還元鉄粉の製造設備を提供する。ここで、ホッパの供給口部とはホッパ下端にある供給口と同じ断面形状を有する部位のことをいう。
【0013】
本発明である還元鉄粉の製造設備では、整流板が、熱媒体ガスが流通可能な整流板であったり、加熱用パイプを設けた位置に、不活性ガス吹き込み手段を設けることが好ましい。
【0014】
本発明は、また、上記の還元鉄粉の製造設備を用い、加熱用パイプに熱媒体ガスを流通させて粗製鉄粉を200℃超え300℃以下の温度範囲に加熱後、連続式移動床炉で脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すことを特徴とする還元鉄粉の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、上記の還元鉄粉の製造設備を用い、不活性ガス吹き込み手段から不活性ガスを吹き込みながら、加熱用パイプに熱媒体ガスを流通させて粗製鉄粉を200℃超え350℃以下の温度範囲に加熱後、連続式移動床炉で脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すことを特徴とする還元鉄粉の製造方法を提供する。
【0016】
これらの還元鉄粉の製造方法では、熱媒体ガスの熱源として、仕上還元処理時の排ガスを用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を効率よく仕上還元処理できるようになった。本発明の製造方法で製造された還元鉄粉は、焼結機械部品、焼結磁性部品、磁性鉄粉などに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の還元鉄粉の製造設備の一例を模式的に示す図である。
【図2】図1の予熱器15の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明の還元鉄粉の製造設備の特徴であるホッパの一例を模式的に示す図である。
【図4】ホッパ内における粗製鉄粉の流出挙動を模式的に示す図である。
【図5】ホッパから移動床に供給された直後における粗還元鉄粉の温度の経時変化を示す図である。
【図6】ホッパから移動床に供給された直後における粗還元鉄粉の粒径の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述したように、ホッパの供給口部において粗製鉄粉を加熱しても、供給口部の構造上加熱時間を十分に確保できないため、高々200℃程度までしか加熱できない。そのため、粗製鉄粉を200℃を超える温度に加熱するには、加熱時間を確保できるホッパの排出口部より上部にある位置で加熱する必要がある。しかし、ホッパの外部から加熱すると、ホッパ内の中心部と外壁近傍部にある粗製鉄粉を均一加熱することができず、そのために還元鉄粉の粒径のバラツキも大きくなりやすい。
【0020】
そこで、本発明では、ホッパの供給口部より上部にある位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプを設け、ホッパ内で粗製鉄粉を200℃を超える温度に均一加熱できるようにした。以下に、その詳細を説明する。
【0021】
図3に、本発明の還元鉄粉の製造設備の特徴であるホッパの一例を模式的に示す。ホッパ8aの供給口部17より上部にあるホッパ8a内の位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプ21を這わせ、この加熱用パイプ21に熱媒体ガスを流通させて粗製鉄粉7を加熱する必要がある。このとき、粗製鉄粉7の加熱温度は200℃超え300℃以下とする。これは、200℃以下では仕上還元処理の効率化が図れず、300℃を超えると酸化により加熱用パイプ21表面に粗製鉄粉7が付着・固化し、熱伝導を悪化させるとともに、粗製鉄粉7の円滑な流出を阻害するためである。しかし、加熱用パイプ21を設けた位置に、不活性ガス吹き込み手段23を設け、不活性ガスを吹き込みながら加熱すれば、350℃までは酸化による加熱用パイプ21表面における粗製鉄粉7の付着・固化は起こらず、仕上還元処理の効率化を促進できる。なお、加熱用パイプ21の配置の仕方は、ホッパ8aの大きさに依存するので、所望の温度に粗製鉄粉を均一加熱できるように適宜決定すればよい。また、本発明では、特許文献1や2にあるようにホッパ8aの供給口部17に予熱器15を設ける必要はないが、設けても本発明の効果が損なわれることはない。
【0022】
熱媒体ガスには、窒素ガス等の不活性ガスを用いることが好ましいが、その熱源には、図3に示すように、仕上還元処理で排出される燃焼排ガスや雰囲気ガスなどの排ガスを用いることができ、熱交換器20を設けて熱媒体ガスを加熱できる。
【0023】
また、図4に示すように、一般に、ホッパ8a内の粗製鉄粉7は(1)→(2)→(3)→(4)の位置にある粗製鉄粉7から順に移動床へ流出するので、粗製鉄粉7がホッパ内に装入された位置により粗製鉄粉7のホッパ内での滞留時間が変わり、粗製鉄粉7を均一加熱できない。そのため、粗製鉄粉7をホッパ8a内に装入された順序で流出させる、いわゆるピストン・フローを形成させる必要があるが、それには、図3に示すように、ホッパ8a内に整流板22を設けることが効果的である。本発明者等が粗製鉄粉の安息角を調査したところ、30〜40°であることがわかったので、底角が45°以上である二等辺三角形状の整流板22を設ければ、整流板22上における粗製鉄粉7の滞留を防止でき、粗製鉄粉7を均一加熱できることになる。なお、整流板22の数やその配置は、ホッパ8aの大きさに依存するので、粗製鉄粉7のピストン・フローを形成できるように適宜決定すればよい。また、整流板22自体を、熱媒体ガスが流通可能な構造とすれば、粗製鉄粉7を所望の温度に短時間で加熱でき、仕上還元処理の効率化を図る上で好ましい。それには、図3に示すように、整流板22を中空構造とし、加熱用パイプ21に付随するように設けることが簡便である。
【実施例】
【0024】
炭素量が0.5質量%、酸素量が0.8質量%で、粒径が100μmの粗還元鉄粉を、図3に示す本発明の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパと図2に示す従来の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパを用いて、加熱しながら連続式移動床炉の移動床に堆積高さが40mmとなるように供給し、連続式移動床炉内で導入量150m3/hrの露点35℃の水素ガス雰囲気中、温度950℃で脱炭および脱酸の仕上還元処理を行った。
【0025】
そして、ホッパから移動床に供給された直後における粗還元鉄粉の温度と粒径の経時変化と、仕上還元処理後の炭素および酸素の含有量を調査した。
【0026】
ホッパから移動床に供給された直後における粗還元鉄粉の温度と粒径の経時変化を、図5、6に示す。本発明の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパを用いた場合(実施例)には、粗還元鉄粉の温度が250〜280℃、粒径が92〜98μmで、従来の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパを用いた場合(比較例)の粗還元鉄粉の温度120〜200℃、粒径83〜105μmに比べ、温度や粒径の経時変化が小さく、より高温に均一加熱されており、粒径も均一であることがわかる。
【0027】
そのため、処理後の炭素量は0.01質量%以下、酸素量が0.3質量%以下で、両者の場合で変わりはなかったが、処理量は、本発明の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパを用いた場合は8.1ton/hrで、従来の還元鉄粉の製造設備に設けたホッパを用いた場合の7.7ton/hrに比べ、増加しており、仕上還元処理の効率化が図られていることがわかる。
【符号の説明】
【0028】
1 仕切り壁
2 第一室
3 第二室
4 第三室
5 雰囲気ガス導入口
6 雰囲気ガス排出口
7 粗製鉄粉
8a ホッパ
8b ガイドダクト
9 移動床(スチールベルト)
10 ホイール
11 ラジアントチューブ
12 燃焼ガス排気管
13 雰囲気ガス排気管
14 排気ダクト
15 予熱器
16 熱交換パイプ
17 供給口部
18 供給口
20 熱交換器
21 加熱用パイプ
22 整流板
23 不活性ガス吹き込み手段
30 連続式移動床炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗還元鉄粉、アトマイズ鉄粉などの粗製鉄粉を貯蔵し、供給するためのホッパと、前記粗製鉄粉に脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すための連続式移動床炉とを有する還元鉄粉の製造設備において、前記ホッパの供給口部より上部にあるホッパ内の位置に、熱媒体ガスが流通可能な加熱用パイプと底角が45°以上である二等辺三角形状の整流板とを設けたことを特徴とする還元鉄粉の製造設備;ここで、ホッパの供給口部とはホッパ下端にある供給口と同じ断面形状を有する部位のことをいう。
【請求項2】
整流板が、熱媒体ガスが流通可能な整流板であることを特徴とする請求項1に記載の還元鉄粉の製造設備。
【請求項3】
加熱用パイプを設けた位置に、不活性ガス吹き込み手段を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の還元鉄粉の製造設備。
【請求項4】
請求項1または2に記載の還元鉄粉の製造設備を用い、加熱用パイプに熱媒体ガスを流通させて粗製鉄粉を200℃超え300℃以下の温度範囲に加熱後、連続式移動床炉で脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すことを特徴とする還元鉄粉の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の還元鉄粉の製造設備を用い、不活性ガス吹き込み手段から不活性ガスを吹き込みながら、加熱用パイプに熱媒体ガスを流通させて粗製鉄粉を200℃超え350℃以下の温度範囲に加熱後、連続式移動床炉で脱炭、脱酸、脱窒のうちの少なくとも一つの仕上還元処理を施すことを特徴とする還元鉄粉の製造方法。
【請求項6】
熱媒体ガスの熱源として、仕上還元処理時の排ガスを用いることを特徴とする請求項4または5に記載の還元鉄粉の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−79423(P2013−79423A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219727(P2011−219727)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】