配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法
【課題】リアルタイム・高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。
【解決手段】配管が発する音を録音し録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、記憶手段と、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合にパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、を有する配管亀裂診断装置。
【解決手段】配管が発する音を録音し録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、記憶手段と、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合にパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、を有する配管亀裂診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管中の亀裂の有無、大きさ及び亀裂から漏洩するガスの圧力を高精度で診断可能な配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を扱うプラントや装置等においては、その内部に設けた配管を通して流体を移動させている。このようなプラントや装置等では、配管に亀裂が発生すると生産性や装置性能が著しく低下することとなる。特に、大量の流体を連続的に移動させるプラントや装置等では、亀裂の発生及びその大きさなど亀裂の特性の発見が遅れると、大損害につながる場合がある。
【0003】
そこで、従来から、配管の亀裂を検知する方法として、ガス検知器を用いる方法と、オペレーターが巡回して直接、配管を検査する方法の2種類が行われている。しかしながら、ガス検知器を用いる方法では、風によってガスの流れが変わってしまったり、ガスが一定量たまるまで検知できない等の問題があった。また、オペレーターが巡回して直接、検査する方法では、検査に多大な時間と費用がかかると共に、配管の亀裂を発見するには熟練したオペレーターが必要となるという問題があった。このような背景から、誰にでも簡易に配管の亀裂の発生及びその特性を診断できる装置及び方法の開発が望まれていた。
【0004】
そこで、従来から、配管の亀裂等を含むプラントや装置内の異常状態を診断する方法が提案されている。特許文献1(特開平5−312634号公報)には、音響データから異常状態を診断する方法が開示されている。すなわち、この方法では、測定された音響データから特徴を抽出し、特徴点で分割された折れ線ベクトルに変換して過去の異常事例を折れ線ベクトルとして記憶しておく。そして、現在と過去の異常事例の折れ線ベクトルの双方を照合し、照合結果と診断知識とを用いて異常を確定する。
【0005】
特許文献2(特開平10−274558号公報)には、回転機器の異常状態を診断する方法が開示されている。すなわち、この方法ではまず、回転機器の回転時に発生する振動ないし音のような波形データを検出(S1)し、この波形データのスペクトルの時間変化を求める(S2)。次に、スペクトルの時間変化からピークを生じる周波数を周波数特徴量として求めるとともに、各周波数特徴量ごとにピークを生じる時間間隔を時間特徴量として求める(S3)。この後、回転機器の異常時における周波数特徴量−時間特徴量の組を異常原因別に基準データとしてあらかじめ登録しておき、回転機器の回転時の波形データから求めた周波数特徴量−時間特徴量の組を基準データに照合する(S4)。この照合結果から異常の有無および異常の種類を特定する(S5)。
【0006】
特許文献3(特開平7−182035号公報)には、回転機械における回転体の異常現象を診断する方法が開示されている。この方法ではまず、回転機械における回転体の異常現象により発生する音響信号を受けて分析し音響データに処理し、これに基づいて所定の音響による診断を行い、この音響の診断結果を出力する。また、回転体異常現象により発生する振動により発生する振動信号を受け、これを分析し振動データに処理し、これに基づいて所定の監視処理を行って監視処理データを作成する。そして、この監視処理データに基づいて、音響の診断結果を確認する確認診断を行う。
【0007】
特許文献4(特開2002−323371号公報)には、機器からの音や振動を観測して異常の有無を診断する方法が開示されている。この方法では、機器が発する音又は振動の音響信号を入力し、入力した信号を時系列データとして保存し、更に時系列データのパワースペクトル密度を算出、保存すると共に、予め既知の運転状態において算出された解析結果を保存する。そして、パワースペクトル密度と事例データとの類似度により機器の異常を診断し、診断結果を出力する。この時、パワースペクトル密度の値そのものではなく、主成分のパターンに変換し、その特徴に着目して診断している。
【特許文献1】特開平5−312634号公報
【特許文献2】特開平10−274558号公報
【特許文献3】特開平7−182035号公報
【特許文献4】特開2002−323371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されているような、従来の音響信号に基づく異常状態等の診断方法では、その診断精度がいまだ不十分な場合があった。また、これらに代表される従来の異常状態の診断方法では、異常状態の発生を判断することはできても、その異常状態の特性を診断することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することが可能な配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態は、
配管が発する音を録音し、録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、
パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、
パワースペクトル及びモデルを記憶することが可能な記憶手段と、
パワースペクトルのデータを前記モデルに入力することにより得られた出力から、前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、
前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、パワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、
を有する配管亀裂診断装置に関する。
【0011】
本発明の他の実施形態は、
(1)測定手段により、亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音して、録音した音の第1のパワースペクトルを得るステップと、
(2)第1のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(3)モデル作成手段により、前記記憶手段から第1のパワースペクトルのデータを読み込み、第1のパワースペクトルのデータに対してニューラルネットワークを用いることによって配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するステップと、
(4)前記モデルを記憶手段に記憶させるステップと、
(5)測定手段により、配管が発する音を録音して、録音した音の第2のパワースペクトルを得るステップと、
(6)第2のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(7)亀裂診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するステップと、
(8)前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、圧力診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータにK近傍法を用いることによって前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有する配管の亀裂診断方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
配管の内部に測定器を挿入したり装置を停止することなく、配管が発する音を録音することにより、リアルタイム・高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
配管亀裂診断装置は、測定手段、モデル作成手段、記憶手段、亀裂診断手段、圧力診断手段を備える。図1は本発明の配管亀裂診断装置の装置構成の一例、図2は本発明の配管の亀裂診断方法の一例を模式的に表したものである。なお、図1中の矢印はデータ処理の方向を表している。
【0014】
以下、図1〜3を用いて、配管の亀裂診断方法の一例を説明する。
まず、測定手段2により、装置1の亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音し、この録音した音を第1のパワースペクトルに変換する。ここで、測定手段2により録音する「音」とは、図3(a)に示すように、時間を横軸、振幅を縦軸とした音のスペクトルを表わす。この図3(a)のスペクトルは、各周波数の音の重ね合わせにより構成されている。そこで、「パワースペクトル」とは、図3(b)に示すように、横軸を音の周波数、縦軸をパワー(音圧)とし、各周波数の強さを示したスペクトルを表わす。
【0015】
このようにして得た第1のパワースペクトルは、記憶手段3内に記憶される。次に、モデル作成手段4では、記憶手段3内に記憶させた第1のパワースペクトルのデータを読み込み、この第1のパワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成する。
【0016】
ここで、「パワースペクトルのデータ」とは、パワースペクトルの特定の特徴量を表わす2種類以上のデータのことを表わす。典型的には、パワースペクトルのデータとしてパワースペクトルの特定の周波数におけるパワーを用いることができるが、これに限定されるわけではない。例えば、パワースペクトルのデータとして、パワースペクトルの一部を構成するデータや、これらのデータに四則演算をしたり、これらのデータを特定の関数に入力したものなどを用いることができる。亀裂診断手段と圧力診断手段で用いるパワースペクトルのデータ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)は、全て同一であっても異なっていても良い。典型的には、亀裂診断手段と圧力診断手段で用いるパワースペクトルのデータは全て同一ではなく、一部、重複するか、又は全て異なる。そして、このようにモデル作成手段4により作成されたモデルは、記憶手段3に記憶される。
【0017】
次に、測定手段2では、上記モデルの作成に使用した以外の、配管の亀裂の有無及び大きさ、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断したい音を録音し、録音した音の第2のパワースペクトルを得た後、記憶手段3に第2のパワースペクトルを記憶させる。
【0018】
この後、亀裂診断手段5により、記憶手段3に記憶させた第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込む。次に、亀裂診断手段5を用いて、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する。
【0019】
次に、圧力診断手段6では、亀裂診断手段5により配管に亀裂があると診断された場合に、記憶手段2から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることによって配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。
【0020】
本発明の配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法では、上記のように、配管の内部に測定器を挿入したり装置を停止することなく、配管が発する音を録音することができる。これにより、リアルタイム・高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
以下、配管亀裂診断装置を構成し、かつ配管の亀裂診断方法で使用する各手段について詳細に説明する。
【0021】
(装置)
配管の亀裂について診断を行う対象となる装置としては、プラントの全体や一部、特定の材料・物質の製造装置や処理装置、単一の装置や複数の装置が集合して構成されるプラント等を挙げることができるが、特にこれらの装置に限定されるわけではない。
【0022】
また、この装置としては、石油精製プラントであることが好ましい。この石油精製プラント内の亀裂の診断を行う対象となる配管としては、例えば、蒸留塔、脱硫装置、接触分解装置、異性化装置、加熱装置、熱交換器、冷却装置、分離装置等において流体の輸送に使用する配管を挙げることができる。この流体としては、液体であっても気体であっても良い。石油精製プラントは装置が連続的に稼働しており、操業を止めることは困難である。また、配管に亀裂が発生すると大事故となったり、修理に多大なコストと時間がかかる。そこで、本発明の配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法を、石油精製プラントに適用することにより、効果的かつ簡易に高精度で配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【0023】
(測定手段)
測定手段としては、所定時間、所定のレベルで音を図3(a)に例示するようなスペクトルとして録音可能なものであれば特に限定されるわけではない。また、この測定手段は、録音した音のスペクトルから音のパワースペクトルを得ることができるようになっている。
【0024】
測定手段としては、典型的には、集音マイク、振動計などを用いることができる。また、録音条件の設定、校正、パワースペクトルへの変換及びデータ解析のために、これらの測定機器を専用のプログラムをインストールしたコンピュータに接続したものを測定手段とすることもできる。更に、録音対象となる配管の特性及び亀裂による音の特性によって、録音を行う時間、レベルを適宜、調整することができる。
【0025】
(モデル作成手段)
モデル作成手段では、記憶手段から読み込んだ第1のパワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成する。以下に、このモデルを作成するアルゴリズムを詳細に説明する。
【0026】
ニューラルネットワークによるモデルの作成には、バック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。このバック・プロパゲーション法では、予め亀裂の有無及び大きさが既知の教師データ(第1のパワースペクトルのデータ及び出力値)を用いて最急降下法により、配管の亀裂の有無および亀裂の大きさを診断することが可能なモデルを作成する。
【0027】
この最急降下法による演算処理は、図4及び5及び以下に示すように行う。まず、第1のパワースペクトルのデータから教師データの入力値を得ると共に、この教師データを正規化した値xi(1)(0≦i≦n1;0≦xi(1)≦1)を得る。
【0028】
第1のパワースペクトルのデータから教師データの入力値を得る方法としては、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーの値を使用する方法、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーに対して四則演算した値を得る方法、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーの値を所定の関数に入力する方法などを挙げることができる。
【0029】
また、教師データの入力値の正規化の方法としては、教師データの入力値の最大値により各入力値を割る方法、教師データの入力値の最大値に所定の値を足した値で各入力値を割る方法などを挙げることができる。
【0030】
図4及び5に示すように、このようにして得た教師データxi(1)を入力層とする(S2)。そして、このxi(1)(0≦i≦n1)と、予め初期値を与えた重み関数wji(1)(S1)とから下記式(1)のようにsj(1)を計算する。なお、最初にすべての重み関数を同じ値に設定して学習を開始すると,すべての重み関数が同じように変化して非対象な重み関数の解が得られないため、重み関数wji(1)の初期値はランダムに互いに異なる値にしておく。
【0031】
【数1】
【0032】
次に、このように定義したsj(1)を下記式(2)のようにシグモイド関数に代入することにより、xj(2)を計算する。このxj(2)を隠れ層とする。このようにsj(1)をシグモイド関数に代入することにより、0≦xj(2)≦1とすることができる。
【0033】
【数2】
【0034】
次に、このxj(2)(0≦j≦n2)と、予め初期値を与えた重み関数wkj(2)(S1)とから下記式(3)のようにsk(2)を計算する。なお、上記と同様の理由から、重み関数wkj(2)の初期値はランダムに互いに異なる値にしておく。
【0035】
【数3】
【0036】
次に、このように計算したsk(2)を、下記式のようにシグモイド関数に代入することにより、出力値ykを得る(S3)。
【0037】
【数4】
【0038】
なお、図4では、模式的に出力値ykが1つの場合を示しているが、実際のアルゴリズムでは、配管の亀裂の発生を表わす出力、配管に亀裂が発生していない場合を表わす出力、の少なくとも2つの出力値ykが必要となる。この出力値ykが出力層となる。sk(2)をシグモイド関数に代入することにより、0≦yk≦1とすることができる。
【0039】
このようにして計算したykに対して、教師データの出力値yk’との誤差を計算する。なお、yk及びyk’の数は、診断したい亀裂の大きさの種類に応じて変化させることができる。
【0040】
例えば、直径R1、R2(R1<R2)の大きさの亀裂を診断したい場合には、教師データの出力値を、以下のように決めることができる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0、y2’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1、y2’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1
同様にして、直径R1、R2・・・Rn(R1<R2・・・<Rn)の大きさの亀裂を診断したい場合には、教師データの出力値を、以下のように決めることができる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0・・・yn’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1・・・yn’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):y0’=0、y1’=0・・・ym’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rnの亀裂有り:y0’=0、y1’=0・・・yn’=1。
【0041】
すなわち、診断したい配管の亀裂の大きさの種類がA種類の場合、A+1個の出力値yk及び教師データyk’とする必要がある。また、亀裂の直径の大きさ及びこれに対応する教師データyk’の出力値としては、任意の値を用いることができる。すなわち、教師データの出力値yk’は上記の値とすることが必須なわけではなく、0≦yk≦1を満たす何れの値とすることもできる。ただし、このように任意の値を用いる場合であっても、所定の大きさの亀裂に対しては、一義的に教師データの入力値と出力値が決定されるようにする必要がある。また、教師データでは、出力値に対応した入力値を用い、教師データの入力値と出力値が1対1の関係で対応するようにする必要がある。
【0042】
そして、上記のようにして最初に得られた出力値ykと、教師データの出力値yk’との誤差を、下記式(5)のように計算する(S4)。
【0043】
【数5】
【0044】
次に、上記誤差Eが小さくなるように、バック・プロパゲーション法を用いて、出力層側から入力層側に向かって逆方向に順次、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する。以下に、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新するアルゴリズム(学習過程)を示す。
【0045】
まず、誤差Eを重み関数wji(1)及びwkj(2)で偏微分する。そして、Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)を以下のように計算する(S5)。
【0046】
【数6】
【0047】
なお、上記式(6)、(7)中において、η(0<η≦1)は学習係数であり速さに関係する定数である。このηは、予め所定の定数(0<η≦1)に設定しておく。また、Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)中の(1)は1回目の重み関数の更新量であることを表す。以下、Δwji(1)(n)及びΔwkj(2)(n)としたとき、重み関数wji(1)及びwkj(2)のn回目の更新量であることを表す。
【0048】
次に、式(6)、(7)の更新量Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)を用いて下記式(8)及び(9)に示すように、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する(S6)。
【0049】
【数7】
【0050】
なお、上記式(8)及び(9)中のwji(1)(1)及びwkj(2)(1)は最初にランダムに与えた重み関数であることを表し、wji(1)(2)及びwkj(2)(2)は1回、更新した後の重み関数であることを表す。以下、wji(1)(n)及びwkj(2)(n)としたとき、(n−1)回、更新した後の重み関数であることを表す。
【0051】
次に、このようにして求めた重み関数wji(1)(2)及びwkj(2)(2)を用いて、入力層側から出力層側に向かって順方向に再び上記式(1)〜(5)の計算を行うことにより、出力値ykを得る(S2、S3)。
【0052】
この後、下記式(10)、(11)に示すように、出力層側から入力層側に向かって逆方向に計算を行ない、重み関数の更新量Δwji(1)(2)及びΔwkj(2)(2)を求める(S4,S5)。
【0053】
【数8】
【0054】
なお、上式中のα(0<α≦1)は安定化係数であり、収束時の振動を抑えるために乗じる定数である。次に、この更新量Δwji(1)(2)及びΔwkj(2)(2)を用いて、重み関数を下記式(12)及び(13)のように更新する(S6)。
【0055】
【数9】
【0056】
以下、入力層側から出力層側への上記式(1)〜(5)の計算、及び出力層側から入力層側への上記式(14)〜(17)の計算を繰り返し、順次、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する。
【0057】
【数10】
【0058】
そして、所定の条件を満たした時点で重み関数の更新を終了する(S7、S8)。そして、これまで計算した重み関数wji(1)及びwkj(2)のうち、最も誤差の少ない重み関数wji(1)及びwkj(2)を用いたモデルを採用する。なお、重み関数wji(1)及びwkj(2)の更新を終了する条件としては、重み関数の更新回数が所定回数となったこと、誤差が所定量以下となったこと等の条件とすることができる。
【0059】
なお、上記説明では、入力層、隠れ層、出力層の3層からなるニューラルネットワークを用いてモデルを作成する場合を説明したが、ニューラルネットワークを構成する層の数は3層以上であれば特に限定されるわけではない。例えば、ニューラルネットワークは3層から構成されていても、4層以上から構成されていても良い。
【0060】
(記憶手段)
記憶手段は、測定手段により測定された音のパワースペクトル及びモデル作成手段により作成されたモデルを記憶することが可能なものである。なお、記憶手段は、これら以外にも測定手段により録音した音のスペクトル、装置の状態、測定手段による録音条件、日付や、後述する座標返還行列などを記憶できるように構成されていても良い。また、記憶手段はオペレーターが必要とするデータのみを記憶し、不要なデータは削除できるようになっていても良い。
【0061】
この記憶手段は、各種処理を実行させるためのコンピュータプログラム等が事前に格納されたハードウェアであれば良く、例えば、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)、記憶装置に交換自在に装着されるCD(Compact Dics)−ROMやFD(Flexible Disc−cartridge)及びこれらの組み合わせ等で実施することが可能である。
【0062】
(亀裂診断手段)
亀裂診断手段は、記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力することにより得られた出力から、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するものである。この際、予めモデルの出力値が所定の範囲の値を取る場合に配管の亀裂あり、亀裂なしを診断し、亀裂ありと診断した場合には所定の範囲の値を取る場合に亀裂の大きさを診断できるように設定することができる。
【0063】
例えば、一例として、直径R1、R2・・・Rn(R1<R2・・・<Rn)の大きさの亀裂を診断したい場合に、教師データの出力値を下記のように設定した場合を挙げる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0・・・yn’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1・・・yn’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):y0’=0、y1’=0・・・ym’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rnの亀裂有り:y0’=0、y1’=0・・・yn’=1。
【0064】
この場合、出力値ykが以下の範囲の値を取る場合に、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断できるように構成することができる。
亀裂無し:a≦y0≦1、0≦y1≦b、・・・0≦yn≦b
直径R1の亀裂有り:0≦y0≦b、a≦y1≦1、・・・0≦yn≦b
直径R2の亀裂有り:0≦y0≦b、0≦y1≦b、a≦y2≦1・・・0≦yn≦b
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):0≦y0≦b、0≦y1≦b、・・・、a≦ym≦1、・・・、0≦yn≦b
・・・
直径Rnの亀裂有り:0≦y0≦b、0≦y1≦b、・・・、a≦yn≦1
なお、上記a、bは0<a、b<1(ただし、a≧b)を満たす数であれば特に限定されないが、診断の精度を向上させるため、aは1に近い数であり、bは0に近い数とすることが好ましい。典型的には、a=0.8、b=0.2とすることができる。
【0065】
(圧力診断手段)
圧力診断手段は、亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込む。そして、第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。以下に、K近傍法を用いた診断方法のアルゴリズムを示す。
【0066】
まず、配管が亀裂を有し、かつ漏洩するガスの圧力が判明している既知のパワースペクトルから所定の複数の周波数におけるパワーを、テンプレートデータとしてサンプリングする。なお、この所定の周波数は特に限定されるわけではないが、少なくとも2種類以上の周波数におけるパワーをサンプリングする必要がある。次に、サンプリングした各周波数におけるパワーを各軸とするグラフ内に上記テンプレートデータをプロットする。
【0067】
次に、漏洩するガスの圧力を診断したい音のパワースペクトルについて、上記テンプレートデータと同じ所定の周波数におけるパワーを取り出し、上記グラフ内にこのデータをプロットする。そして、K近傍法により、グラフ内において、漏洩するガスの圧力を診断したいデータの近傍にあるテンプレートデータの間で多数決をとり、最も多い個数のテンプレートデータが属する圧力を、漏洩するガスの圧力と診断する。
【0068】
以下に、具体例を用いてK近傍法を説明する。図6は、サンプリングする周波数が2種類(この周波数をA kHz、B kHzとする)、K=3の場合の、K近傍法による漏洩するガスの圧力の診断方法を説明したものである。図6(a)に示すように、予め漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータ(●を圧力a MPaのデータ、○を圧力b MPaのデータとする)をグラフ上にプロットする。なお、図6(a)では、パワースペクトルにおいて、サンプリングする周波数がA kHz、B kHzの2種類であるため2次元のグラフとなる。
【0069】
次に、漏洩するガスの圧力を診断したいデータを図6(a)のグラフにプロットする。図6(b)は、このプロット後のグラフを表わしたものである(このデータを、図6(b)中に◇で表す)。K=3であるため、図6(b)中において、◇のデータに最も近い距離から3番目に近い距離にあるテンプレートデータまでの3点を選択する(この3点を、図6(b)中の、◇から点線矢印で示されたテンプレートデータとして示す)。そして、この3点のテンプレートデータで多数決をとる。そうすると、この3点のうち、2点が●(圧力a MPaのデータ)、1点が○(圧力b MPaのデータ)であるため、多数決により◇のデータは、●のテンプレートデータが示すガスの圧力であるa MPaと診断される。
【0070】
なお、K近傍法で診断を行う際にデータを抽出する周波数の種類は上記のように2種類に限定されるわけではなく、3種類以上であっても良い。例えば、A種類の周波数でサンプリングした場合、このデータをプロットしたグラフは、A次元の空間からなるグラフとなる。
【0071】
また、多数決に使用するテンプレートデータの数は、K=3に限定されない。例えば、K=N(N≧4)とすると、プロットしたデータからの最短距離が最短の点、2番目に短い点、3番目に短い点、・・・N番目に短い点を取り出し、これらのテンプレートデータの間で多数決を取ることとなる。そして、漏洩するガスの圧力は、多数決により、最も多い個数のテンプレートデータが属する圧力であると診断することができる。
【0072】
なお、上記説明では多数決を取る際に各テンプレートデータを1票としたが、テンプレートデータごとに票の重み付けをしても良い。例えば、漏洩するガスの圧力を診断したいデータから距離が最短の点、2番目に短い点、・・・N番目に短い点を取り出す。そして、距離が最短の点を1票ではなく重み付けをした票(例えば、N票)とする。また、同様に、2番目に短い点に対して重み付けをしてN−1票、3番目に短い点を重み付けをしてN−2票、・・・、N番目に短い点を1票とする。そして、これらの重み付けをしたN個の点について多数決を行ない、最も多くの票が属する圧力を、漏洩するガスの圧力と診断することができる。なお、重み付けの方法は上記方法に限定されるわけではなく、その他の方法を用いることもできるが、漏洩するガスの圧力を診断したいデータに近い距離にあるテンプレートデータほど多くの票を有するように重み付けをすることが好ましい。
【0073】
(表示手段)
配管亀裂診断装置は、配管に亀裂があると診断した場合に警告を表示すると共に、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示する表示手段を有することが好ましい。この表示手段としては、ブラウン管型又は液晶型のディスプレイを挙げることができ、例えば、下記ハードウェア等に電気的に接続されることによって、警告や診断結果を表示できるようになっている。
【0074】
(各手段の構成)
上記の各手段は個々の独立した存在である必要はなく、複数の手段が1個の部材として形成されていること、ある手段が他の手段の一部であること、ある手段の一部と他の手段の一部とが重複していること等が可能である。
【0075】
また、上記の各手段はその機能を実現するように形成されていれば良く、例えば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたものや、コンピュータプログラムにより各手段に実現された所定の機能及びこれらの組み合わせ等として実現することができる。
【0076】
例えば、モデル作成手段、亀裂診断手段、及び圧力診断手段は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるハードウェアとすることができる。具体的には、CPU(Central Processing Unit)を主体として、これに、ROM、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット等の各種デバイスが接続されたハードウェア(例えば、コンピュータ)などで良い。
【0077】
また、配管亀裂診断装置は、複数の測定手段を備え、各測定手段で録音した音のパワースペクトルのデータに対して独立に処理を行えるようになっていても良い。すなわち、この場合、各測定手段で得られた音のパワースペクトルのデータに対して、それぞれ配管の亀裂の有無、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するように構成されていても良い。
以下に、本発明の変形例について、実施形態を用いて詳細に説明する。
【0078】
1.第1実施形態
第1実施形態は、遺伝的アルゴリズムにより第2のパワースペクトルのデータの最適な座標変換行列を決定し、座標変換行列により座標変換した後の第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するものである。以下に、この遺伝的アルゴリズムについて、図7〜11を用いて詳細に説明する。
【0079】
まず、サンプリングした周波数の種類をx1、x2・・・xnのn個とすると、図7に示すように、このn個を座標変換してy1、y2・・・ynとするためには、n×n次の座標変換行列(正方行列;成分数n2)が必要となる。
【0080】
そこで、遺伝的アルゴリズムにより、このn×n次の座標変換行列を構成するn2個の成分について最適化を行う。まず、このようなn×n次の座標変換行列をA個(Aは2以上の自然数)、発生させる。なお、この座標変換行列の成分は最初、ランダムに発生させることができる(図11のS2)。
【0081】
次に、最初に発生させた1つの座標変換行列のn2個の成分から1つの個体を構成する。このため、A個の座標変換行列を発生させた場合には、図7に示すように、A個の個体が発生することとなる。そして、このA個の個体の間で世代交代を行なわせ、新しい個体を発生させていく(図11のS3)。なお、この世代交代を行なわせる方法としては以下に示すような様々な方法を使用することができる。
【0082】
(a)交配(交叉)
交配方法としては、1点交配、多点交配、1成分交配、多成分交配などを行うことができる。すなわち、1点交配では、図8(a)(図8では一例として、成分数が9個の個体を示す)に示すように、A個の個体の中から任意の1組(2つ)の個体を選択する。そして、図8(b)に示すように、これら1組(2つ)の個体中の所定の1点で各個体の成分を2分割し、各個体の2分割された一方の成分の群どうしを交換するものである。
【0083】
多点交配とは、図9(a)(図9では一例として、成分数が9個の個体を示す)に示すように、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について所定の複数点で分割し、各個体の所定の点と点の間で分割された成分どうしを互い違いに交換するものである。
【0084】
1成分交配とは、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について、所定の1点のみを交換するものである。また、多成分交配とは、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について、所定の複数点を交換するものである。
【0085】
なお、考え得る全ての個体の組について交配(交叉)を行っても、予め定めた数の個体の組についてランダムに交配(交叉)を行っても良い。
【0086】
(b)突然変異
突然変異とは、図10(a)に示すように、A個の個体の中から選択した任意の個体について、所定の確率でその個体の任意の成分を変化させることである(図10(b))。突然変異による個体成分の変化の方法としては、以下の方法を用いることができる。
・摂動:個体成分をランダムに選択した値だけ変更する。
・逆位:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分の順序を逆転する。
・スクランブル:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分の順序をランダムに並べ替える。
・転座:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分を、他の位置のものと入れ替える。
なお、考え得る全ての個体について突然変異を行っても、予め定めた数の個体についてランダムに突然変異を行っても良い。
【0087】
また、世代交代を行なわせる際には、上記の交配(交叉)のみを行っても、突然変異のみを行っても良い。また、複数の交配(交叉)の処理、複数の突然変異の処理を行っても良い。更に、交配(交叉)と突然変異を組み合わせても良い。このように世代交代を行なわせることにより新しい世代を順次、発生させる。そして、世代交代により得られた新しい世代の成分から構成される座標変換行列を得る(図11のS4)。
【0088】
次に、この座標変換行列を用いて、予め漏洩するガスの圧力が既知のデータに対して、座標変換を行う(図11のS5)。この後、座標変換後のデータに対して、上記(圧力診断手段)に記載のK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断する(図11のS6)。次に、この圧力を診断後のデータに対して、下記式に従って識別率を計算する(図11のS7)。
(識別率)=(診断したガスの圧力が、既知のガスの圧力と一致したデータ数)/(全データ数)。
【0089】
そして、世代交代後の個体の中から所定の数の個体を選択し、残りの個体を除外する。この際、個体の選択は、様々な基準に基づいて行うことができる。例えば、ルーレット選択、ランキング選択、トーナメント選択、エリート選択、期待値選択など公知の選択方法を用いることができる。また、識別率が所定値以上となる個体を選択したり、識別率が最も高い個体から順に所定数の個体を選択することもできる。
【0090】
このようにして選択した個体について、順次、図11のS3〜S8のアルゴリズムを行なわせて世代交代を行う。そして、世代交代を行うごとに新しい世代の個体を発生させ、上記と同様にして所定の数の個体を順次、選択していく。
【0091】
そして、所定の終了条件を満たした時点で世代交代をやめ、その時点で残っている個体の中で最も識別率が良好な個体か、又はそれまでに最も優れた識別率を示した個体を最終的に選択し、この個体の成分を用いて座標変換行列を作成する。ここで、世代交代をやめる所定の条件とは、例えば、所定の世代交代の回数、生成した個体のうち最も高い識別率が所定の値以上となる、世代交代により新しく生成した個体の平均識別率が所定の値以上となる、等とすることができるが、これらの終了条件に限定されるわけではない。そして、最終的に決定された座標変換行列を、記憶手段に記憶させる。
【0092】
次に、記憶手段から、座標変換行列及び漏洩するガスの圧力を診断したい第2のパワースペクトルのデータを読み込む。この後、座標変換行列により第2のパワースペクトルのデータを座標変換する。次に、座標返還後の第2のパワースペクトルのデータに対して、上記(圧力診断手段)に記載のように、K近傍法を用いることにより、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。
【0093】
本実施形態では、最適化した座標変換行列によって第2のパワースペクトルのデータを座標返還したものに対してK近傍法を用いているため、K近傍法の識別率を向上させることができる。このため、より高精度で亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【0094】
2.第2実施形態
第2実施形態は、測定手段が、録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、パワースペクトルを得るものである。このデータ処理のアルゴリズムを以下に示す。
【0095】
録音した音のスペクトルを構成する周波数の数を、下記式(18)で表わされるように2の倍数であるN個とする。
【0096】
【数11】
【0097】
次に、このN個のデータを、偶数番目のサンプルと奇数番目のサンプルに分割すると共に、e(n)((19)式)、h(n)((20)式)を定義する。
【0098】
【数12】
【0099】
偶数番目のサンプル
【0100】
【数13】
【0101】
奇数番目のサンプル
ここで、g(n)の離散フーリエ変換Gkは下記式で表わされる。
【0102】
【数14】
【0103】
ただし、上式において係数1/Nは省略している。上式(21)中のe(n)、h(n)の離散フーリエ変換Ek、Hkは下記式で表わされる。
【0104】
【数15】
【0105】
ここで、上記式(21)中の回転子Wと、上記式(22)、(23)中の回転子W’との関係は、下記式で表わされる。
【0106】
【数16】
【0107】
従って、上記式(22)、(23)中の離散フーリエ変換Ek、Hkに、式(24)を代入すると、下記式(25)、(26)となる。
【0108】
【数17】
【0109】
従って、上記式(21)に式(25)、(26)を代入すると、下記式(27)となる。
【0110】
【数18】
【0111】
このようにGkを、計算したEk、Hkにより求めることにより、Gkを計算するための計算量を減らすことができる。具体的には、式(21)によりGkを求める場合、N2の掛け算と足し算が必要であった。これに対して、式(27)によりGkを求める場合、N+N2/2の掛け算と足し算で済むこととなる。また、N/2が2で割れる場合には、Ek、Hkの計算量を、Gkと同様にして減らすことができる。また、音のスペクトルから、音のパワースペクトルを得ることができる。
【0112】
3.第3実施形態
第3実施形態は、モデル作成手段により、ニューラルネットワークを用いてモデルを作成する際に、しきい値を使用するものである。以下に、しきい値を用いたモデルの作成方法を示す。以下、その詳細なアルゴリズムを説明する。
【0113】
この方法では、上記式(1)〜(4)のアルゴリズムにおいて、式(2)及び(4)に、下記式(28)及び(29)のようにしきい値を代入する。そして、重み関数について上記第1実施形態に記載のアルゴリズムにより更新すると共に、しきい値の更新を行う。
【0114】
【数19】
【0115】
このようにして出力したykに対して、教師データyk’との誤差を計算する。以下、h(1)、h(2)についても、上記式(5)〜(17)と同様のアルゴリズムを実施すると、下記式(30)、(31)のΔh(1)(1)及びΔh(2)(1)が得られる。
【0116】
【数20】
【0117】
なお、上記式(30)、(31)中において、η(0<η≦1)は学習係数であり速さに関係する定数である。このηは、予め所定の定数(0<η≦1)に設定しておく。また、Δh(1)(1)及びΔh(2)(1)中の(1)は1回目のしきい値の更新量であることを表す。以下、Δh(1)(n)及びΔh(2)(n)としたとき、しきい値h(1)(1)及びh(2)(1)のn回目の更新量であることを表す。
【0118】
次に、式(30)、(31)の更新量Δh(1)(1)及びΔh(2)(1)を用いて下記式(32)及び(33)に示すように、しきい値h(1)及びh(2)を更新する。
【0119】
【数21】
【0120】
なお、上記式(32)及び(33)中のh(1)(1)及びh(2)(1)は最初にランダムに与えたしきい値であることを表す。以下、h(1)(n)及びh(2)(n)としたとき、しきい値h(1)及びh(2))を(n−1)回、更新した後のしきい値であることを表す。
【0121】
次に、このようにして求めたしきい値h(1)(2)及びh(2)(2)を用いて、入力層側から出力層側に向かって順方向に上記式(1)、(28)、(3)、(29)及び(5)の計算を行うことにより、出力値ykを得る。
【0122】
この後、下記式(34)、(35)に示すように、出力層側から入力層側に向かって逆方向に計算を行ない、しきい値の更新量Δh(1)(2)及びΔh(2)(2)を求める。
【0123】
【数22】
【0124】
なお、上式中のα(0<α≦1)は安定化係数であり、収束時の振動を抑えるために乗じる定数である。次に、この更新量Δh(1)(2)及びΔh(2)(2)を用いて、しきい値を下記式(36)及び(37)のように更新する。
【0125】
【数23】
【0126】
以下、上記式(1)、(28)、(3)、(29)、(5)の計算を行うことにより出力値ykを得る過程、出力層側から入力層側に向かって逆方向に下記式(38)〜(41)の計算を行う過程を繰り返し、順次、しきい値h(1)及びh(2)を更新する。
【0127】
【数24】
【0128】
そして、所定の条件を満たした時点で重み関数及びしきい値の更新を終了する。そして、これまで計算した重み関数wji(1)及びwkj(2)並びにしきい値h(1)及びh(2)のうち、最も誤差の少ない重み関数wji(1)及びwkj(2)並びにしきい値h(1)及びh(2)を用いたモデルを採用する。
【実施例】
【0129】
(実施例1)
(1)音データの取得
プラント内の配管に類似させた擬似漏洩装置を作成し、この擬似漏洩装置の配管に空気ボンベを接続させた。次に、この擬似漏洩装置の配管に所定の大きさの開口を有するフランジを取り付け、空気ボンベから配管内に空気を流した。そして、このフランジの開口を配管の亀裂とみなし、この開口から空気を漏洩させた。図12(a)にこの擬似漏洩装置に取り付けたフランジ、図12(b)に空気ボンベ及びフランジと擬似漏洩装置の接続状態を表わす図を示す。また、この擬似漏洩装置の仕様を下記表1、擬似漏洩装置の各部の寸法を図13に示す。なお、図13中の数字の単位は「mm」である。
【0130】
【表1】
【0131】
本実施例では、下記表2に示すように、このフランジとして中央の穴径がφ0.3mmとφ2.0mmの2種類を用意し、各フランジについて空気ボンベのバルブ開度を調節することにより、フランジ開口から漏洩するガスの圧力を1.3MPa、3.0MPa、5.0MPaの3種類に変化させた。そして、合計6種類のリーク音を、各種類ごとに30回、発生させた。
【0132】
【表2】
【0133】
このように発生させたリーク音を、フランジから10cmの距離に設置したディジタル・オーディオ・オープンデッキ(サンプリング周波数48kHz)で録音した。なお、この際、暗騒音が大きいとリーク音が暗騒音に隠れてしまい、リーク音の正確な録音を行えなくなるため、リーク音の録音は暗騒音の小さな環境で行った。具体的には、本実施例では、室内残響を低減させるため、残響室内にくさび形吸音材を配置した残響室でリーク音の録音を行なった。
【0134】
このようにして得られたリーク音のスペクトルの一例を図14(a)〜(f)に示す。なお、図14(a)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力1.3MPaのリーク音のスペクトル、図14(b)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力3.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(c)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力5.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(d)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力1.3MPaのリーク音のスペクトル、図14(e)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力3.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(f)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力5.0MPaのリーク音のスペクトルを表わす。図14(a)〜(f)に示すように、フランジの開口径を大きくするほど、また、漏洩するガスの圧力を大きくするほどリーク音の振幅が大きくなっていることが分かる。以下では、表3に示すように、これらのリーク音の中でリーク音の振幅が適度な5種類のリーク音を解析に用いた。
【0135】
【表3】
【0136】
(2)リーク音のスペクトルの校正
次に、ディジタル・オーディオ・オープンデッキを用いて、校正信号を元に得られたリーク音のスペクトルのレンジを変えることにより校正を行ない、正しい音レベルに変換した。具体的には、フランジの開口径がφ2.0mm、漏洩するガスの圧力が3.0MPaの場合に録音したリーク音のスペクトルの一例は図15(a)に示すものとなっており、このレンジは100dBである。これに対して、校正信号は図15(b)に示されるように114dBの正弦波であり、そのレンジは120dBとなっている。そこで、図15(a)のリーク音のスペクトルを、図15(b)の校正信号を用いて120−100=20dBだけ小さい波形とする。この校正後の波形を図15(c)に示す。
【0137】
(3)録音
図16に示すように、上記のようにして録音したリーク音を地下トンネルの配管上に設置したスピーカーから各種類ごとに30回、再生させた。また、再生時間は50秒間とした。そして、この再生したリーク音を、地下トンネルの配管からのリーク音とみなし、2種類のマイク1及びマイク2により録音した。また、これとは別に配管に亀裂のない暗騒音として、スピーカーから音を再生しない状態でマイク1及び2により録音を行った。そして、このようにして得られたリーク音をコンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。これらのリーク音のスペクトルの一例を図17に示す。
【0138】
(4)FFT(高速フーリエ変換)処理による、リーク音のスペクトルのパワースペクトルへの変換
上記のようにして録音したリーク音は、異なる周波数の波がいくつも合成されている。このため、このリーク音に対してFFT処理を行うことにより、各周波数の波がどのくらいの割合で合成されているかを示すパワースペクトルに変換した。具体的には、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、FFT処理を行わせた。なお、この際のFFT処理のアルゴリズムとしては、上記式(18)〜(27)の処理方法を用いた。
【0139】
また、サンプル数を210=1024とした。不連続な要素を極力排除するため,ハニング窓処理を行った後で対数パワースペクトルを算出した。この際、サンプル数が1024であるため、計512点の周波数成分のパワースペクトルが得られた。また、サンプリング周波数が48kHzであるため、ナイキスト周波数の24kHzまで解析できた。従って、24000=512=47Hzの分解能があるといえる。図18及び19に、各マイクで録音した音のFFT処理後のパワースペクトルの一例を示す。
【0140】
図18及び19に示すように、FFT処理を行うことで、音のスペクトルからパワースペクトルが得られ、どの周波数の音がどの程度の割合で含まれているか、を知ることができる。図18及び19において、パワースペクトルのパワーは−120dBから−40dBの間に分布していた。また、このようにして得られた第1のパワースペクトルをコンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。
【0141】
(5)モデル作成手段による、ニューラルネットワークを用いたモデルの作成
まず、上記(4)でハードディスク内に記憶させた第1のパワースペクトルを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成した。
【0142】
具体的には、パワースペクトルの−40dBのパワーを「1」、−120dBのパワーを「0」として、上記(4)で得られたパワースペクトルを0から1の間に正規化した。このように正規化したパワースペクトルのうち、周波数1〜22kHzまで1kHzごとの各周波数におけるパワー22点をデータとして抽出した。また、各周波数におけるパワーの加重平均値もデータとした(1点)。この正規化の方法を、一例として図20に示す。そして、このようにして得られた23点のデータを、ニューラルネットワークの入力層に入力した。
【0143】
このニューラルネットワークは、上記入力層に加えて隠れ層、出力層を有する3層構造とした。隠れ層のユニットとしては、予め予備試験として、5個、10個、15個の3パターンで学習を行い、最も学習結果のよかった10個を採用した。
【0144】
更に、ニューラルネットワークの出力は,地下トンネルで収録する暗騒音(配管に亀裂がない場合に相当)、穴径φ0.3mm(配管にφ0.3mmの亀裂がある場合に相当)、穴径φ2.0mm(配管にφ2.0mmの亀裂がある場合に相当)の3種類とした。具体的には、教師データの出力値yk’を以下のように設定した。
地下トンネルで収録する暗騒音:y0’=1、y1’=0、y2’=0
穴径φ0.3mm:y0’=0、y1’=1、y2’=0
穴径φ2.0mm:y0’=0、y1’=0、y2’=1。
【0145】
なお、このニューラルネットワークでは、入力層の出力値は、入力層に与えた入力値がそのまま出力され、隠れ層と出力層の出力値はシグモイド関数により計算した。よって、本実施例のニューラルネットの入力ユニットは23個,隠れユニットは10個、出力ユニットは3個となる。
【0146】
このニューラルネットワークにおいて、最急降下法を用いたバック・プロパゲーション法を使用して、上記「第1実施形態」及び「第3実施形態」の式(1)〜(17)及び(28)〜(41)の計算を行ない、重み関数及びしきい値の最適化を行なった。なお、この際、上式中の学習パラメータである学習定数ηと安定化係数αはそれぞれη=0.1、α=0.1として学習を行った。また、1組のデータについて5000回の学習を行なわせ、最終的に30組のデータについて同様に学習を行なわせた。そして、そのうち最も学習誤差の小さかった重み関数及びしきい値を採用した。このようにして、配管の亀裂の有無及び大きさを診断するモデルを作成し、コンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。
【0147】
(6)モデルによる亀裂の有無及び大きさの診断
まず、マイク1で録音した音のパワースペクトルについて、上記モデルを用いて亀裂の大きさの診断を行なった。具体的には、まず、上記(1)〜(5)と同様にして、暗騒音と、フランジの穴径が既知のφ0.3mm(ガス漏洩圧:1.3MPa、3.0MPa、5.0MPa)とφ2.0mm(ガス漏洩圧:1.3MPa、3.0MPa)の6種類の評価用データ(各種類ごとに30組のデータ;第2のパワースペクトルのデータに相当する)を準備し、コンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。
【0148】
次に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、ハードディスクから上記(5)で得られたモデル及び評価用データを読み込むと共に、該モデルに評価用データを入力して出力値を得た。
【0149】
ここで、各評価用データを入力したモデルの出力値y0、y1、y2が、それぞれ以下の条件を満たすときに、亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、とした。
亀裂無し:0.8≦y0≦1,0≦y1≦0.2、0≦y2≦0.2
φ0.3mmの亀裂有り:0≦y0≦0.2、0.8≦y1≦1、0≦y2≦0.2
φ2.0mmの亀裂有り:0≦y0≦0.2、0≦y1≦0.2、0.8≦y2≦1。
【0150】
そして、下記式に示すように、モデルの出力値から診断された結果が、既知の亀裂の状態(亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、の何れか)と一致するか否かにより、上記モデルによる亀裂の大きさの識別率を算出した。
(識別率)=(診断した結果が既知の亀裂の状態と一致したデータの数)/(総データ数)×100。
【0151】
図21に、各評価データを入力したときのモデルの出力値を表わす。図21において、横軸の評価データが1から30までが暗騒音、31から60までが穴径φ0.3mmでガス圧1.3MPaの出力結果、61から90までが穴径φ0.3mmでガス圧3.0MPaの出力結果、91から120までが穴径φ0.3mmでガス圧5.0MPaの出力結果、121から150までが穴径φ2.0mmでガス圧1.3MPaの出力結果、151から180までが穴径φ2.0mmでガス圧3.0MPaの出力結果を表わす。
【0152】
図21より、何れのデータも3つの出力値のうち、教師用データでは1となる1つの出力値が0.8〜1.0の範囲内、教師用データでは0となる残りの2つの出力値が0〜0.2の範囲内に入っていることが分かる。また、上記30点の評価用データの出力値の平均値を図22に示す。図21及び22に示すように、本実施例のモデルでは、全ての評価用データについて、正確に亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、を判断することができ、その識別率は100%であることが分かる。
【0153】
なお、上記(1)〜(5)と同様にしてマイク2で測定した評価用データについても、上記と同様に識別率の評価を行ったところ、その識別率は100%であった。
【0154】
(7)遺伝的アルゴリズムを使用した座標返還行列の作成、及びK近傍法によるガス漏洩圧の診断
(7−1)穴径φ0.3mmのリーク音
上記(1)〜(4)により、マイク1で録音・校正・FFT処理を行なった穴径φ0.3mmのパワースペクトルについて、漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータを25点、用意して、コンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。そして、ハードディスク内からテンプレートデータを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、各パワースペクトルのテンプレートデータについて、5kHzのパワーをX、9kHzのパワーをYとしてデータを抽出して2次元分布図を作成した。
【0155】
次に、コンピュータを用いて、ハードディスク内から漏洩するガスの圧力が既知の評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)30点を読み込むと共に、2次元分布図にプロットした(図26(a))。そして、K近傍法(K=3;2次元分布図において、診断したい点から最短距離〜3番目に短い距離にある3点について、各点を1票とする多数決により漏洩するガスの圧力を診断)により、漏洩するガスの圧力が既知の評価用データ30点について圧力を診断し、下記式に従って、識別率を算出した。
(識別率)=(漏洩するガスの圧力が既知の圧力と一致したデータの数)/30×100
この結果、識別率は92%であった。
【0156】
次に、図23に示すように、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、遺伝的アルゴリズムにより2次元分布図の座標変換行列を作成した。
この座標変換行列は、以下のようにして作成した。まず、図24に示すように、座標返還行列として定義した20種類の行列を発生させた。この際、座標返還行列の各成分としては、0.1〜10.0まで0.1刻みで表わされる数値の中からランダムに数値を与えた。そして、各座標返還行列の成分を要素とする個体を発生させた(S1、S2)。次に、図24に示すように、各個体を用いて交配(交叉)、突然変異を発生させ、世代交代を行なわせた(S3、S4)。
【0157】
ここで、交配(交叉)とは、図24(a)に示すように、20個の個体の中から選択した1組(2個)の個体間で、2分割したうちの一方の成分どうしを交換することである。この交配(交叉)は、20個の個体集団からあらかじめ設定した交叉確率に従ってランダムにM組の個体を選択し、新たにM×2個の個体を生成させた。この結果、交叉によって合計20+2M個の個体が生成することとなる。
【0158】
また、突然変位とは、図25(b)に示すように、任意の個体の任意の成分について、所定量だけその数値を加減することである。この任意の成分について加減する量は、0.1〜10.0までの0.1刻みで表わされる数値とし、ランダムに発生させた。また、突然変異を発生させる個体、及び該個体中の要素は、ランダムに決定した。
【0159】
上記のようにして1回の世代交代を行なわせるごとに交配(交叉)と突然変異を行なわせて合計20+2M個の個体を発生させ、これらの個体成分を要素とする座標変換行列を発生させた。次に、この座標変換行列を用いて、上記の漏洩するガスの圧力が既知の30点の評価用データに対して座標返還を行なわせた。そして、座標返還後のデータについてK近傍法により、各個体の識別率を計算し(S5)、最も識別率の高かったものから順に20番目まで適応度が高かった個体を選択した(S6)。
【0160】
そして、上記S3〜S6の処理を、世代交代の回数が5000回となるまで繰り返し、これまでに得られた個体のうちで最も識別率が高かった個体の成分を要素とする座標返還行列を最終的に選択し、ハードディスク内に記憶させた。
【0161】
次に、ハードディスク内からこのようにして決定した座標返還行列及び評価用データを読み込み、評価用データに対して座標返還の演算処理を行った。このようにして得られた座標変換後のテンプレートデータ及び評価用データの2次元分布を図26(b)に示す。図26(b)から、評価用データ30点についてK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は95%であった。
【0162】
次に、上記と同様の方法により、テンプレートデータ及び評価用データのパワースペクトルにおいて、5kHz,9kHz,14kHzの3つの周波数におけるパワーの値をデータとして抽出し、3次元分布図としてプロットした。この場合の3次元分布図を図27(a)に示す。なお、図27(a)では、5kHzの特徴点をX、9kHzの特徴点をY、14kHzの特徴点をZとしている。この3次元分布図27(a)において、K近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94.7%であった。
【0163】
次に、上記と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いて、テンプレートデータ及び評価用データの座標返還を行なった。座標返還後のデータの3次元分布を図27(b)に示す。図27(b)の3次元分布図においてK近傍法により、漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は100%であった。
マイク1の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0164】
上記と同様の方法により、マイク2で録音・校正・FFT処理を行なった、漏洩するガスの圧力が既知の穴径φ0.3mmの評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)について、5kHz、9kHzにおけるパワーの二次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、5kHz、9kHz、14kHzにおけるパワーの三次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、を行なった。
マイク2の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0165】
(7−2)穴径φ2.0mmのリーク音
上記(1)〜(4)により、マイク1で録音・校正・FFT処理を行なった穴径φ2.0mmのパワースペクトルについて、漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータを25点、用意して、コンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。そして、ハードディスク内からテンプレートデータを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、各パワースペクトルのテンプレートデータについて、5kHzのパワーをX、9kHzのパワーをYとしてデータを抽出して2次元分布図を作成した。
【0166】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、K近傍法(K=3)により、漏洩するガスの圧力が既知の30点の評価用データについて、圧力を診断した。この2次元分布図を図28(a)に示す。この結果、識別率は84%であった。
【0167】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いてテンプレートデータ及び評価用データの座標返還を行なった。座標返還後のデータの2次元分布を図28(b)に示す。図28(b)の2次元分布図において、評価用データについてK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94%であった。
【0168】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、テンプレートデータ及び評価用データのパワースペクトルにおいて、周波数5kHz,9kHz,14kHzの3つの周波数のパワーをデータとして抽出して、漏洩するガスの圧力を診断した。この3次元分布を図29(a)に示す。図29(a)では5kHzのパワーをX,9kHzのパワーをY,14kHzのパワーをZとしている。この3次元分布図29(a)において、K近傍法により、評価用データについて漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94%であった。
【0169】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いて座標返還を行なった。座標返還後の3次元分布を図29(b)に示す。図29(b)の3次元分布図において、K近傍法により、評価用データについて漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は100%であった。
マイク1の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0170】
上記(7−1)と同様の方法により、マイク2で録音・校正・FFT処理を行なった、漏洩するガスの圧力が既知の穴径φ2.0mmの評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)について、5kHz、9kHzにおけるパワーの二次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、5kHz、9kHz、14kHzにおけるパワーの三次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、を行なった。
マイク2の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0171】
(8)評価
上記のように、ニューラルネットワークを用いて作成したモデルを用いることによって、亀裂の大きさを高精度で診断できることが分かる。また、図30に示すように、K近傍法を用いることにより漏洩するガスの圧力を高精度で診断できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
装置、プラント中のガス配管の診断に使用することができる。典型的には、石油精製プラントのガス配管の診断に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の配管亀裂診断装置の一例の各手段の間の関係を示す概念図である。
【図2】本発明の配管の亀裂診断方法の一例を示す図である。
【図3】音のスペクトルとパワースペクトルを説明する図である。
【図4】本発明のニューラルネットワークの一例を説明する図である。
【図5】本発明のモデル作成手段によるモデル作成のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明で使用するK近傍法の一例を説明する図である。
【図7】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図8】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図9】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図10】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図11】本発明の遺伝的アルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図12】実施例で使用した擬似漏洩装置を表わす図である。
【図13】実施例で使用した擬似漏洩装置を表わす図である。
【図14】実施例で録音したリーク音のスペクトルを表わす図である。
【図15】実施例で録音したリーク音の校正後のスペクトルを表わす図である。
【図16】実施例で録音に用いたマイクの配置を表わす図である。
【図17】再生した配管のリーク音を録音した音のスペクトルを表わす図である。
【図18】実施例でFFT処理後のパワースペクトルを表わす図である。
【図19】実施例でFFT処理後のパワースペクトルを表わす図である。
【図20】実施例のパワースペクトルの正規化の方法を表わす図である。
【図21】実施例のモデルによる配管の亀裂の有無及び大きさの診断結果を表わす図である。
【図22】実施例のモデルによる配管の亀裂の有無及び大きさの診断結果を表わす図である。
【図23】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図24】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを説明する図である。
【図25】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを説明する図である。
【図26】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図27】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図28】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図29】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図30】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【符号の説明】
【0174】
1 装置
2 測定手段
3 記憶手段
4 モデル作成手段
5 亀裂診断手段
6 圧力診断手段
7 ガスボンベ
8 フランジ
9 ガス注入口
10 疑似漏洩装置
11 圧力計
12 スピーカー
13 配管
14 マイク1
15 マイク2
16 地下トンネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管中の亀裂の有無、大きさ及び亀裂から漏洩するガスの圧力を高精度で診断可能な配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体を扱うプラントや装置等においては、その内部に設けた配管を通して流体を移動させている。このようなプラントや装置等では、配管に亀裂が発生すると生産性や装置性能が著しく低下することとなる。特に、大量の流体を連続的に移動させるプラントや装置等では、亀裂の発生及びその大きさなど亀裂の特性の発見が遅れると、大損害につながる場合がある。
【0003】
そこで、従来から、配管の亀裂を検知する方法として、ガス検知器を用いる方法と、オペレーターが巡回して直接、配管を検査する方法の2種類が行われている。しかしながら、ガス検知器を用いる方法では、風によってガスの流れが変わってしまったり、ガスが一定量たまるまで検知できない等の問題があった。また、オペレーターが巡回して直接、検査する方法では、検査に多大な時間と費用がかかると共に、配管の亀裂を発見するには熟練したオペレーターが必要となるという問題があった。このような背景から、誰にでも簡易に配管の亀裂の発生及びその特性を診断できる装置及び方法の開発が望まれていた。
【0004】
そこで、従来から、配管の亀裂等を含むプラントや装置内の異常状態を診断する方法が提案されている。特許文献1(特開平5−312634号公報)には、音響データから異常状態を診断する方法が開示されている。すなわち、この方法では、測定された音響データから特徴を抽出し、特徴点で分割された折れ線ベクトルに変換して過去の異常事例を折れ線ベクトルとして記憶しておく。そして、現在と過去の異常事例の折れ線ベクトルの双方を照合し、照合結果と診断知識とを用いて異常を確定する。
【0005】
特許文献2(特開平10−274558号公報)には、回転機器の異常状態を診断する方法が開示されている。すなわち、この方法ではまず、回転機器の回転時に発生する振動ないし音のような波形データを検出(S1)し、この波形データのスペクトルの時間変化を求める(S2)。次に、スペクトルの時間変化からピークを生じる周波数を周波数特徴量として求めるとともに、各周波数特徴量ごとにピークを生じる時間間隔を時間特徴量として求める(S3)。この後、回転機器の異常時における周波数特徴量−時間特徴量の組を異常原因別に基準データとしてあらかじめ登録しておき、回転機器の回転時の波形データから求めた周波数特徴量−時間特徴量の組を基準データに照合する(S4)。この照合結果から異常の有無および異常の種類を特定する(S5)。
【0006】
特許文献3(特開平7−182035号公報)には、回転機械における回転体の異常現象を診断する方法が開示されている。この方法ではまず、回転機械における回転体の異常現象により発生する音響信号を受けて分析し音響データに処理し、これに基づいて所定の音響による診断を行い、この音響の診断結果を出力する。また、回転体異常現象により発生する振動により発生する振動信号を受け、これを分析し振動データに処理し、これに基づいて所定の監視処理を行って監視処理データを作成する。そして、この監視処理データに基づいて、音響の診断結果を確認する確認診断を行う。
【0007】
特許文献4(特開2002−323371号公報)には、機器からの音や振動を観測して異常の有無を診断する方法が開示されている。この方法では、機器が発する音又は振動の音響信号を入力し、入力した信号を時系列データとして保存し、更に時系列データのパワースペクトル密度を算出、保存すると共に、予め既知の運転状態において算出された解析結果を保存する。そして、パワースペクトル密度と事例データとの類似度により機器の異常を診断し、診断結果を出力する。この時、パワースペクトル密度の値そのものではなく、主成分のパターンに変換し、その特徴に着目して診断している。
【特許文献1】特開平5−312634号公報
【特許文献2】特開平10−274558号公報
【特許文献3】特開平7−182035号公報
【特許文献4】特開2002−323371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されているような、従来の音響信号に基づく異常状態等の診断方法では、その診断精度がいまだ不十分な場合があった。また、これらに代表される従来の異常状態の診断方法では、異常状態の発生を判断することはできても、その異常状態の特性を診断することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することが可能な配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態は、
配管が発する音を録音し、録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、
パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、
パワースペクトル及びモデルを記憶することが可能な記憶手段と、
パワースペクトルのデータを前記モデルに入力することにより得られた出力から、前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、
前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、パワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、
を有する配管亀裂診断装置に関する。
【0011】
本発明の他の実施形態は、
(1)測定手段により、亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音して、録音した音の第1のパワースペクトルを得るステップと、
(2)第1のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(3)モデル作成手段により、前記記憶手段から第1のパワースペクトルのデータを読み込み、第1のパワースペクトルのデータに対してニューラルネットワークを用いることによって配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するステップと、
(4)前記モデルを記憶手段に記憶させるステップと、
(5)測定手段により、配管が発する音を録音して、録音した音の第2のパワースペクトルを得るステップと、
(6)第2のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(7)亀裂診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するステップと、
(8)前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、圧力診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータにK近傍法を用いることによって前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有する配管の亀裂診断方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
配管の内部に測定器を挿入したり装置を停止することなく、配管が発する音を録音することにより、リアルタイム・高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
配管亀裂診断装置は、測定手段、モデル作成手段、記憶手段、亀裂診断手段、圧力診断手段を備える。図1は本発明の配管亀裂診断装置の装置構成の一例、図2は本発明の配管の亀裂診断方法の一例を模式的に表したものである。なお、図1中の矢印はデータ処理の方向を表している。
【0014】
以下、図1〜3を用いて、配管の亀裂診断方法の一例を説明する。
まず、測定手段2により、装置1の亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音し、この録音した音を第1のパワースペクトルに変換する。ここで、測定手段2により録音する「音」とは、図3(a)に示すように、時間を横軸、振幅を縦軸とした音のスペクトルを表わす。この図3(a)のスペクトルは、各周波数の音の重ね合わせにより構成されている。そこで、「パワースペクトル」とは、図3(b)に示すように、横軸を音の周波数、縦軸をパワー(音圧)とし、各周波数の強さを示したスペクトルを表わす。
【0015】
このようにして得た第1のパワースペクトルは、記憶手段3内に記憶される。次に、モデル作成手段4では、記憶手段3内に記憶させた第1のパワースペクトルのデータを読み込み、この第1のパワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成する。
【0016】
ここで、「パワースペクトルのデータ」とは、パワースペクトルの特定の特徴量を表わす2種類以上のデータのことを表わす。典型的には、パワースペクトルのデータとしてパワースペクトルの特定の周波数におけるパワーを用いることができるが、これに限定されるわけではない。例えば、パワースペクトルのデータとして、パワースペクトルの一部を構成するデータや、これらのデータに四則演算をしたり、これらのデータを特定の関数に入力したものなどを用いることができる。亀裂診断手段と圧力診断手段で用いるパワースペクトルのデータ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)は、全て同一であっても異なっていても良い。典型的には、亀裂診断手段と圧力診断手段で用いるパワースペクトルのデータは全て同一ではなく、一部、重複するか、又は全て異なる。そして、このようにモデル作成手段4により作成されたモデルは、記憶手段3に記憶される。
【0017】
次に、測定手段2では、上記モデルの作成に使用した以外の、配管の亀裂の有無及び大きさ、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断したい音を録音し、録音した音の第2のパワースペクトルを得た後、記憶手段3に第2のパワースペクトルを記憶させる。
【0018】
この後、亀裂診断手段5により、記憶手段3に記憶させた第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込む。次に、亀裂診断手段5を用いて、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する。
【0019】
次に、圧力診断手段6では、亀裂診断手段5により配管に亀裂があると診断された場合に、記憶手段2から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることによって配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。
【0020】
本発明の配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法では、上記のように、配管の内部に測定器を挿入したり装置を停止することなく、配管が発する音を録音することができる。これにより、リアルタイム・高精度で簡易に配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
以下、配管亀裂診断装置を構成し、かつ配管の亀裂診断方法で使用する各手段について詳細に説明する。
【0021】
(装置)
配管の亀裂について診断を行う対象となる装置としては、プラントの全体や一部、特定の材料・物質の製造装置や処理装置、単一の装置や複数の装置が集合して構成されるプラント等を挙げることができるが、特にこれらの装置に限定されるわけではない。
【0022】
また、この装置としては、石油精製プラントであることが好ましい。この石油精製プラント内の亀裂の診断を行う対象となる配管としては、例えば、蒸留塔、脱硫装置、接触分解装置、異性化装置、加熱装置、熱交換器、冷却装置、分離装置等において流体の輸送に使用する配管を挙げることができる。この流体としては、液体であっても気体であっても良い。石油精製プラントは装置が連続的に稼働しており、操業を止めることは困難である。また、配管に亀裂が発生すると大事故となったり、修理に多大なコストと時間がかかる。そこで、本発明の配管亀裂診断装置及び配管の亀裂診断方法を、石油精製プラントに適用することにより、効果的かつ簡易に高精度で配管の亀裂の有無・大きさ、及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【0023】
(測定手段)
測定手段としては、所定時間、所定のレベルで音を図3(a)に例示するようなスペクトルとして録音可能なものであれば特に限定されるわけではない。また、この測定手段は、録音した音のスペクトルから音のパワースペクトルを得ることができるようになっている。
【0024】
測定手段としては、典型的には、集音マイク、振動計などを用いることができる。また、録音条件の設定、校正、パワースペクトルへの変換及びデータ解析のために、これらの測定機器を専用のプログラムをインストールしたコンピュータに接続したものを測定手段とすることもできる。更に、録音対象となる配管の特性及び亀裂による音の特性によって、録音を行う時間、レベルを適宜、調整することができる。
【0025】
(モデル作成手段)
モデル作成手段では、記憶手段から読み込んだ第1のパワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成する。以下に、このモデルを作成するアルゴリズムを詳細に説明する。
【0026】
ニューラルネットワークによるモデルの作成には、バック・プロパゲーション法(Back Propagation Method)を用いる。このバック・プロパゲーション法では、予め亀裂の有無及び大きさが既知の教師データ(第1のパワースペクトルのデータ及び出力値)を用いて最急降下法により、配管の亀裂の有無および亀裂の大きさを診断することが可能なモデルを作成する。
【0027】
この最急降下法による演算処理は、図4及び5及び以下に示すように行う。まず、第1のパワースペクトルのデータから教師データの入力値を得ると共に、この教師データを正規化した値xi(1)(0≦i≦n1;0≦xi(1)≦1)を得る。
【0028】
第1のパワースペクトルのデータから教師データの入力値を得る方法としては、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーの値を使用する方法、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーに対して四則演算した値を得る方法、パワースペクトルの所定の周波数におけるパワーの値を所定の関数に入力する方法などを挙げることができる。
【0029】
また、教師データの入力値の正規化の方法としては、教師データの入力値の最大値により各入力値を割る方法、教師データの入力値の最大値に所定の値を足した値で各入力値を割る方法などを挙げることができる。
【0030】
図4及び5に示すように、このようにして得た教師データxi(1)を入力層とする(S2)。そして、このxi(1)(0≦i≦n1)と、予め初期値を与えた重み関数wji(1)(S1)とから下記式(1)のようにsj(1)を計算する。なお、最初にすべての重み関数を同じ値に設定して学習を開始すると,すべての重み関数が同じように変化して非対象な重み関数の解が得られないため、重み関数wji(1)の初期値はランダムに互いに異なる値にしておく。
【0031】
【数1】
【0032】
次に、このように定義したsj(1)を下記式(2)のようにシグモイド関数に代入することにより、xj(2)を計算する。このxj(2)を隠れ層とする。このようにsj(1)をシグモイド関数に代入することにより、0≦xj(2)≦1とすることができる。
【0033】
【数2】
【0034】
次に、このxj(2)(0≦j≦n2)と、予め初期値を与えた重み関数wkj(2)(S1)とから下記式(3)のようにsk(2)を計算する。なお、上記と同様の理由から、重み関数wkj(2)の初期値はランダムに互いに異なる値にしておく。
【0035】
【数3】
【0036】
次に、このように計算したsk(2)を、下記式のようにシグモイド関数に代入することにより、出力値ykを得る(S3)。
【0037】
【数4】
【0038】
なお、図4では、模式的に出力値ykが1つの場合を示しているが、実際のアルゴリズムでは、配管の亀裂の発生を表わす出力、配管に亀裂が発生していない場合を表わす出力、の少なくとも2つの出力値ykが必要となる。この出力値ykが出力層となる。sk(2)をシグモイド関数に代入することにより、0≦yk≦1とすることができる。
【0039】
このようにして計算したykに対して、教師データの出力値yk’との誤差を計算する。なお、yk及びyk’の数は、診断したい亀裂の大きさの種類に応じて変化させることができる。
【0040】
例えば、直径R1、R2(R1<R2)の大きさの亀裂を診断したい場合には、教師データの出力値を、以下のように決めることができる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0、y2’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1、y2’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1
同様にして、直径R1、R2・・・Rn(R1<R2・・・<Rn)の大きさの亀裂を診断したい場合には、教師データの出力値を、以下のように決めることができる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0・・・yn’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1・・・yn’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):y0’=0、y1’=0・・・ym’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rnの亀裂有り:y0’=0、y1’=0・・・yn’=1。
【0041】
すなわち、診断したい配管の亀裂の大きさの種類がA種類の場合、A+1個の出力値yk及び教師データyk’とする必要がある。また、亀裂の直径の大きさ及びこれに対応する教師データyk’の出力値としては、任意の値を用いることができる。すなわち、教師データの出力値yk’は上記の値とすることが必須なわけではなく、0≦yk≦1を満たす何れの値とすることもできる。ただし、このように任意の値を用いる場合であっても、所定の大きさの亀裂に対しては、一義的に教師データの入力値と出力値が決定されるようにする必要がある。また、教師データでは、出力値に対応した入力値を用い、教師データの入力値と出力値が1対1の関係で対応するようにする必要がある。
【0042】
そして、上記のようにして最初に得られた出力値ykと、教師データの出力値yk’との誤差を、下記式(5)のように計算する(S4)。
【0043】
【数5】
【0044】
次に、上記誤差Eが小さくなるように、バック・プロパゲーション法を用いて、出力層側から入力層側に向かって逆方向に順次、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する。以下に、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新するアルゴリズム(学習過程)を示す。
【0045】
まず、誤差Eを重み関数wji(1)及びwkj(2)で偏微分する。そして、Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)を以下のように計算する(S5)。
【0046】
【数6】
【0047】
なお、上記式(6)、(7)中において、η(0<η≦1)は学習係数であり速さに関係する定数である。このηは、予め所定の定数(0<η≦1)に設定しておく。また、Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)中の(1)は1回目の重み関数の更新量であることを表す。以下、Δwji(1)(n)及びΔwkj(2)(n)としたとき、重み関数wji(1)及びwkj(2)のn回目の更新量であることを表す。
【0048】
次に、式(6)、(7)の更新量Δwji(1)(1)及びΔwkj(2)(1)を用いて下記式(8)及び(9)に示すように、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する(S6)。
【0049】
【数7】
【0050】
なお、上記式(8)及び(9)中のwji(1)(1)及びwkj(2)(1)は最初にランダムに与えた重み関数であることを表し、wji(1)(2)及びwkj(2)(2)は1回、更新した後の重み関数であることを表す。以下、wji(1)(n)及びwkj(2)(n)としたとき、(n−1)回、更新した後の重み関数であることを表す。
【0051】
次に、このようにして求めた重み関数wji(1)(2)及びwkj(2)(2)を用いて、入力層側から出力層側に向かって順方向に再び上記式(1)〜(5)の計算を行うことにより、出力値ykを得る(S2、S3)。
【0052】
この後、下記式(10)、(11)に示すように、出力層側から入力層側に向かって逆方向に計算を行ない、重み関数の更新量Δwji(1)(2)及びΔwkj(2)(2)を求める(S4,S5)。
【0053】
【数8】
【0054】
なお、上式中のα(0<α≦1)は安定化係数であり、収束時の振動を抑えるために乗じる定数である。次に、この更新量Δwji(1)(2)及びΔwkj(2)(2)を用いて、重み関数を下記式(12)及び(13)のように更新する(S6)。
【0055】
【数9】
【0056】
以下、入力層側から出力層側への上記式(1)〜(5)の計算、及び出力層側から入力層側への上記式(14)〜(17)の計算を繰り返し、順次、重み関数wji(1)及びwkj(2)を更新する。
【0057】
【数10】
【0058】
そして、所定の条件を満たした時点で重み関数の更新を終了する(S7、S8)。そして、これまで計算した重み関数wji(1)及びwkj(2)のうち、最も誤差の少ない重み関数wji(1)及びwkj(2)を用いたモデルを採用する。なお、重み関数wji(1)及びwkj(2)の更新を終了する条件としては、重み関数の更新回数が所定回数となったこと、誤差が所定量以下となったこと等の条件とすることができる。
【0059】
なお、上記説明では、入力層、隠れ層、出力層の3層からなるニューラルネットワークを用いてモデルを作成する場合を説明したが、ニューラルネットワークを構成する層の数は3層以上であれば特に限定されるわけではない。例えば、ニューラルネットワークは3層から構成されていても、4層以上から構成されていても良い。
【0060】
(記憶手段)
記憶手段は、測定手段により測定された音のパワースペクトル及びモデル作成手段により作成されたモデルを記憶することが可能なものである。なお、記憶手段は、これら以外にも測定手段により録音した音のスペクトル、装置の状態、測定手段による録音条件、日付や、後述する座標返還行列などを記憶できるように構成されていても良い。また、記憶手段はオペレーターが必要とするデータのみを記憶し、不要なデータは削除できるようになっていても良い。
【0061】
この記憶手段は、各種処理を実行させるためのコンピュータプログラム等が事前に格納されたハードウェアであれば良く、例えば、ROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disc Drive)、記憶装置に交換自在に装着されるCD(Compact Dics)−ROMやFD(Flexible Disc−cartridge)及びこれらの組み合わせ等で実施することが可能である。
【0062】
(亀裂診断手段)
亀裂診断手段は、記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力することにより得られた出力から、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するものである。この際、予めモデルの出力値が所定の範囲の値を取る場合に配管の亀裂あり、亀裂なしを診断し、亀裂ありと診断した場合には所定の範囲の値を取る場合に亀裂の大きさを診断できるように設定することができる。
【0063】
例えば、一例として、直径R1、R2・・・Rn(R1<R2・・・<Rn)の大きさの亀裂を診断したい場合に、教師データの出力値を下記のように設定した場合を挙げる。
亀裂無し:y0’=1、y1’=0・・・yn’=0
直径R1の亀裂有り:y0’=0、y1’=1・・・yn’=0
直径R2の亀裂有り:y0’=0、y1’=0、y2’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):y0’=0、y1’=0・・・ym’=1・・・yn’=0
・・・
直径Rnの亀裂有り:y0’=0、y1’=0・・・yn’=1。
【0064】
この場合、出力値ykが以下の範囲の値を取る場合に、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断できるように構成することができる。
亀裂無し:a≦y0≦1、0≦y1≦b、・・・0≦yn≦b
直径R1の亀裂有り:0≦y0≦b、a≦y1≦1、・・・0≦yn≦b
直径R2の亀裂有り:0≦y0≦b、0≦y1≦b、a≦y2≦1・・・0≦yn≦b
・・・
直径Rmの亀裂有り(m<n):0≦y0≦b、0≦y1≦b、・・・、a≦ym≦1、・・・、0≦yn≦b
・・・
直径Rnの亀裂有り:0≦y0≦b、0≦y1≦b、・・・、a≦yn≦1
なお、上記a、bは0<a、b<1(ただし、a≧b)を満たす数であれば特に限定されないが、診断の精度を向上させるため、aは1に近い数であり、bは0に近い数とすることが好ましい。典型的には、a=0.8、b=0.2とすることができる。
【0065】
(圧力診断手段)
圧力診断手段は、亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込む。そして、第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。以下に、K近傍法を用いた診断方法のアルゴリズムを示す。
【0066】
まず、配管が亀裂を有し、かつ漏洩するガスの圧力が判明している既知のパワースペクトルから所定の複数の周波数におけるパワーを、テンプレートデータとしてサンプリングする。なお、この所定の周波数は特に限定されるわけではないが、少なくとも2種類以上の周波数におけるパワーをサンプリングする必要がある。次に、サンプリングした各周波数におけるパワーを各軸とするグラフ内に上記テンプレートデータをプロットする。
【0067】
次に、漏洩するガスの圧力を診断したい音のパワースペクトルについて、上記テンプレートデータと同じ所定の周波数におけるパワーを取り出し、上記グラフ内にこのデータをプロットする。そして、K近傍法により、グラフ内において、漏洩するガスの圧力を診断したいデータの近傍にあるテンプレートデータの間で多数決をとり、最も多い個数のテンプレートデータが属する圧力を、漏洩するガスの圧力と診断する。
【0068】
以下に、具体例を用いてK近傍法を説明する。図6は、サンプリングする周波数が2種類(この周波数をA kHz、B kHzとする)、K=3の場合の、K近傍法による漏洩するガスの圧力の診断方法を説明したものである。図6(a)に示すように、予め漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータ(●を圧力a MPaのデータ、○を圧力b MPaのデータとする)をグラフ上にプロットする。なお、図6(a)では、パワースペクトルにおいて、サンプリングする周波数がA kHz、B kHzの2種類であるため2次元のグラフとなる。
【0069】
次に、漏洩するガスの圧力を診断したいデータを図6(a)のグラフにプロットする。図6(b)は、このプロット後のグラフを表わしたものである(このデータを、図6(b)中に◇で表す)。K=3であるため、図6(b)中において、◇のデータに最も近い距離から3番目に近い距離にあるテンプレートデータまでの3点を選択する(この3点を、図6(b)中の、◇から点線矢印で示されたテンプレートデータとして示す)。そして、この3点のテンプレートデータで多数決をとる。そうすると、この3点のうち、2点が●(圧力a MPaのデータ)、1点が○(圧力b MPaのデータ)であるため、多数決により◇のデータは、●のテンプレートデータが示すガスの圧力であるa MPaと診断される。
【0070】
なお、K近傍法で診断を行う際にデータを抽出する周波数の種類は上記のように2種類に限定されるわけではなく、3種類以上であっても良い。例えば、A種類の周波数でサンプリングした場合、このデータをプロットしたグラフは、A次元の空間からなるグラフとなる。
【0071】
また、多数決に使用するテンプレートデータの数は、K=3に限定されない。例えば、K=N(N≧4)とすると、プロットしたデータからの最短距離が最短の点、2番目に短い点、3番目に短い点、・・・N番目に短い点を取り出し、これらのテンプレートデータの間で多数決を取ることとなる。そして、漏洩するガスの圧力は、多数決により、最も多い個数のテンプレートデータが属する圧力であると診断することができる。
【0072】
なお、上記説明では多数決を取る際に各テンプレートデータを1票としたが、テンプレートデータごとに票の重み付けをしても良い。例えば、漏洩するガスの圧力を診断したいデータから距離が最短の点、2番目に短い点、・・・N番目に短い点を取り出す。そして、距離が最短の点を1票ではなく重み付けをした票(例えば、N票)とする。また、同様に、2番目に短い点に対して重み付けをしてN−1票、3番目に短い点を重み付けをしてN−2票、・・・、N番目に短い点を1票とする。そして、これらの重み付けをしたN個の点について多数決を行ない、最も多くの票が属する圧力を、漏洩するガスの圧力と診断することができる。なお、重み付けの方法は上記方法に限定されるわけではなく、その他の方法を用いることもできるが、漏洩するガスの圧力を診断したいデータに近い距離にあるテンプレートデータほど多くの票を有するように重み付けをすることが好ましい。
【0073】
(表示手段)
配管亀裂診断装置は、配管に亀裂があると診断した場合に警告を表示すると共に、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示する表示手段を有することが好ましい。この表示手段としては、ブラウン管型又は液晶型のディスプレイを挙げることができ、例えば、下記ハードウェア等に電気的に接続されることによって、警告や診断結果を表示できるようになっている。
【0074】
(各手段の構成)
上記の各手段は個々の独立した存在である必要はなく、複数の手段が1個の部材として形成されていること、ある手段が他の手段の一部であること、ある手段の一部と他の手段の一部とが重複していること等が可能である。
【0075】
また、上記の各手段はその機能を実現するように形成されていれば良く、例えば、所定の機能を発揮する専用のハードウェア、所定の機能がコンピュータプログラムにより付与されたものや、コンピュータプログラムにより各手段に実現された所定の機能及びこれらの組み合わせ等として実現することができる。
【0076】
例えば、モデル作成手段、亀裂診断手段、及び圧力診断手段は、コンピュータプログラムを読み取って対応する処理動作を実行できるハードウェアとすることができる。具体的には、CPU(Central Processing Unit)を主体として、これに、ROM、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)ユニット等の各種デバイスが接続されたハードウェア(例えば、コンピュータ)などで良い。
【0077】
また、配管亀裂診断装置は、複数の測定手段を備え、各測定手段で録音した音のパワースペクトルのデータに対して独立に処理を行えるようになっていても良い。すなわち、この場合、各測定手段で得られた音のパワースペクトルのデータに対して、それぞれ配管の亀裂の有無、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するように構成されていても良い。
以下に、本発明の変形例について、実施形態を用いて詳細に説明する。
【0078】
1.第1実施形態
第1実施形態は、遺伝的アルゴリズムにより第2のパワースペクトルのデータの最適な座標変換行列を決定し、座標変換行列により座標変換した後の第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するものである。以下に、この遺伝的アルゴリズムについて、図7〜11を用いて詳細に説明する。
【0079】
まず、サンプリングした周波数の種類をx1、x2・・・xnのn個とすると、図7に示すように、このn個を座標変換してy1、y2・・・ynとするためには、n×n次の座標変換行列(正方行列;成分数n2)が必要となる。
【0080】
そこで、遺伝的アルゴリズムにより、このn×n次の座標変換行列を構成するn2個の成分について最適化を行う。まず、このようなn×n次の座標変換行列をA個(Aは2以上の自然数)、発生させる。なお、この座標変換行列の成分は最初、ランダムに発生させることができる(図11のS2)。
【0081】
次に、最初に発生させた1つの座標変換行列のn2個の成分から1つの個体を構成する。このため、A個の座標変換行列を発生させた場合には、図7に示すように、A個の個体が発生することとなる。そして、このA個の個体の間で世代交代を行なわせ、新しい個体を発生させていく(図11のS3)。なお、この世代交代を行なわせる方法としては以下に示すような様々な方法を使用することができる。
【0082】
(a)交配(交叉)
交配方法としては、1点交配、多点交配、1成分交配、多成分交配などを行うことができる。すなわち、1点交配では、図8(a)(図8では一例として、成分数が9個の個体を示す)に示すように、A個の個体の中から任意の1組(2つ)の個体を選択する。そして、図8(b)に示すように、これら1組(2つ)の個体中の所定の1点で各個体の成分を2分割し、各個体の2分割された一方の成分の群どうしを交換するものである。
【0083】
多点交配とは、図9(a)(図9では一例として、成分数が9個の個体を示す)に示すように、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について所定の複数点で分割し、各個体の所定の点と点の間で分割された成分どうしを互い違いに交換するものである。
【0084】
1成分交配とは、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について、所定の1点のみを交換するものである。また、多成分交配とは、A個の個体の中から選択した任意の1組(2つ)の個体について、所定の複数点を交換するものである。
【0085】
なお、考え得る全ての個体の組について交配(交叉)を行っても、予め定めた数の個体の組についてランダムに交配(交叉)を行っても良い。
【0086】
(b)突然変異
突然変異とは、図10(a)に示すように、A個の個体の中から選択した任意の個体について、所定の確率でその個体の任意の成分を変化させることである(図10(b))。突然変異による個体成分の変化の方法としては、以下の方法を用いることができる。
・摂動:個体成分をランダムに選択した値だけ変更する。
・逆位:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分の順序を逆転する。
・スクランブル:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分の順序をランダムに並べ替える。
・転座:個体内のランダムに選ばれた2点で挟まれた成分を、他の位置のものと入れ替える。
なお、考え得る全ての個体について突然変異を行っても、予め定めた数の個体についてランダムに突然変異を行っても良い。
【0087】
また、世代交代を行なわせる際には、上記の交配(交叉)のみを行っても、突然変異のみを行っても良い。また、複数の交配(交叉)の処理、複数の突然変異の処理を行っても良い。更に、交配(交叉)と突然変異を組み合わせても良い。このように世代交代を行なわせることにより新しい世代を順次、発生させる。そして、世代交代により得られた新しい世代の成分から構成される座標変換行列を得る(図11のS4)。
【0088】
次に、この座標変換行列を用いて、予め漏洩するガスの圧力が既知のデータに対して、座標変換を行う(図11のS5)。この後、座標変換後のデータに対して、上記(圧力診断手段)に記載のK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断する(図11のS6)。次に、この圧力を診断後のデータに対して、下記式に従って識別率を計算する(図11のS7)。
(識別率)=(診断したガスの圧力が、既知のガスの圧力と一致したデータ数)/(全データ数)。
【0089】
そして、世代交代後の個体の中から所定の数の個体を選択し、残りの個体を除外する。この際、個体の選択は、様々な基準に基づいて行うことができる。例えば、ルーレット選択、ランキング選択、トーナメント選択、エリート選択、期待値選択など公知の選択方法を用いることができる。また、識別率が所定値以上となる個体を選択したり、識別率が最も高い個体から順に所定数の個体を選択することもできる。
【0090】
このようにして選択した個体について、順次、図11のS3〜S8のアルゴリズムを行なわせて世代交代を行う。そして、世代交代を行うごとに新しい世代の個体を発生させ、上記と同様にして所定の数の個体を順次、選択していく。
【0091】
そして、所定の終了条件を満たした時点で世代交代をやめ、その時点で残っている個体の中で最も識別率が良好な個体か、又はそれまでに最も優れた識別率を示した個体を最終的に選択し、この個体の成分を用いて座標変換行列を作成する。ここで、世代交代をやめる所定の条件とは、例えば、所定の世代交代の回数、生成した個体のうち最も高い識別率が所定の値以上となる、世代交代により新しく生成した個体の平均識別率が所定の値以上となる、等とすることができるが、これらの終了条件に限定されるわけではない。そして、最終的に決定された座標変換行列を、記憶手段に記憶させる。
【0092】
次に、記憶手段から、座標変換行列及び漏洩するガスの圧力を診断したい第2のパワースペクトルのデータを読み込む。この後、座標変換行列により第2のパワースペクトルのデータを座標変換する。次に、座標返還後の第2のパワースペクトルのデータに対して、上記(圧力診断手段)に記載のように、K近傍法を用いることにより、配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する。
【0093】
本実施形態では、最適化した座標変換行列によって第2のパワースペクトルのデータを座標返還したものに対してK近傍法を用いているため、K近傍法の識別率を向上させることができる。このため、より高精度で亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することができる。
【0094】
2.第2実施形態
第2実施形態は、測定手段が、録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、パワースペクトルを得るものである。このデータ処理のアルゴリズムを以下に示す。
【0095】
録音した音のスペクトルを構成する周波数の数を、下記式(18)で表わされるように2の倍数であるN個とする。
【0096】
【数11】
【0097】
次に、このN個のデータを、偶数番目のサンプルと奇数番目のサンプルに分割すると共に、e(n)((19)式)、h(n)((20)式)を定義する。
【0098】
【数12】
【0099】
偶数番目のサンプル
【0100】
【数13】
【0101】
奇数番目のサンプル
ここで、g(n)の離散フーリエ変換Gkは下記式で表わされる。
【0102】
【数14】
【0103】
ただし、上式において係数1/Nは省略している。上式(21)中のe(n)、h(n)の離散フーリエ変換Ek、Hkは下記式で表わされる。
【0104】
【数15】
【0105】
ここで、上記式(21)中の回転子Wと、上記式(22)、(23)中の回転子W’との関係は、下記式で表わされる。
【0106】
【数16】
【0107】
従って、上記式(22)、(23)中の離散フーリエ変換Ek、Hkに、式(24)を代入すると、下記式(25)、(26)となる。
【0108】
【数17】
【0109】
従って、上記式(21)に式(25)、(26)を代入すると、下記式(27)となる。
【0110】
【数18】
【0111】
このようにGkを、計算したEk、Hkにより求めることにより、Gkを計算するための計算量を減らすことができる。具体的には、式(21)によりGkを求める場合、N2の掛け算と足し算が必要であった。これに対して、式(27)によりGkを求める場合、N+N2/2の掛け算と足し算で済むこととなる。また、N/2が2で割れる場合には、Ek、Hkの計算量を、Gkと同様にして減らすことができる。また、音のスペクトルから、音のパワースペクトルを得ることができる。
【0112】
3.第3実施形態
第3実施形態は、モデル作成手段により、ニューラルネットワークを用いてモデルを作成する際に、しきい値を使用するものである。以下に、しきい値を用いたモデルの作成方法を示す。以下、その詳細なアルゴリズムを説明する。
【0113】
この方法では、上記式(1)〜(4)のアルゴリズムにおいて、式(2)及び(4)に、下記式(28)及び(29)のようにしきい値を代入する。そして、重み関数について上記第1実施形態に記載のアルゴリズムにより更新すると共に、しきい値の更新を行う。
【0114】
【数19】
【0115】
このようにして出力したykに対して、教師データyk’との誤差を計算する。以下、h(1)、h(2)についても、上記式(5)〜(17)と同様のアルゴリズムを実施すると、下記式(30)、(31)のΔh(1)(1)及びΔh(2)(1)が得られる。
【0116】
【数20】
【0117】
なお、上記式(30)、(31)中において、η(0<η≦1)は学習係数であり速さに関係する定数である。このηは、予め所定の定数(0<η≦1)に設定しておく。また、Δh(1)(1)及びΔh(2)(1)中の(1)は1回目のしきい値の更新量であることを表す。以下、Δh(1)(n)及びΔh(2)(n)としたとき、しきい値h(1)(1)及びh(2)(1)のn回目の更新量であることを表す。
【0118】
次に、式(30)、(31)の更新量Δh(1)(1)及びΔh(2)(1)を用いて下記式(32)及び(33)に示すように、しきい値h(1)及びh(2)を更新する。
【0119】
【数21】
【0120】
なお、上記式(32)及び(33)中のh(1)(1)及びh(2)(1)は最初にランダムに与えたしきい値であることを表す。以下、h(1)(n)及びh(2)(n)としたとき、しきい値h(1)及びh(2))を(n−1)回、更新した後のしきい値であることを表す。
【0121】
次に、このようにして求めたしきい値h(1)(2)及びh(2)(2)を用いて、入力層側から出力層側に向かって順方向に上記式(1)、(28)、(3)、(29)及び(5)の計算を行うことにより、出力値ykを得る。
【0122】
この後、下記式(34)、(35)に示すように、出力層側から入力層側に向かって逆方向に計算を行ない、しきい値の更新量Δh(1)(2)及びΔh(2)(2)を求める。
【0123】
【数22】
【0124】
なお、上式中のα(0<α≦1)は安定化係数であり、収束時の振動を抑えるために乗じる定数である。次に、この更新量Δh(1)(2)及びΔh(2)(2)を用いて、しきい値を下記式(36)及び(37)のように更新する。
【0125】
【数23】
【0126】
以下、上記式(1)、(28)、(3)、(29)、(5)の計算を行うことにより出力値ykを得る過程、出力層側から入力層側に向かって逆方向に下記式(38)〜(41)の計算を行う過程を繰り返し、順次、しきい値h(1)及びh(2)を更新する。
【0127】
【数24】
【0128】
そして、所定の条件を満たした時点で重み関数及びしきい値の更新を終了する。そして、これまで計算した重み関数wji(1)及びwkj(2)並びにしきい値h(1)及びh(2)のうち、最も誤差の少ない重み関数wji(1)及びwkj(2)並びにしきい値h(1)及びh(2)を用いたモデルを採用する。
【実施例】
【0129】
(実施例1)
(1)音データの取得
プラント内の配管に類似させた擬似漏洩装置を作成し、この擬似漏洩装置の配管に空気ボンベを接続させた。次に、この擬似漏洩装置の配管に所定の大きさの開口を有するフランジを取り付け、空気ボンベから配管内に空気を流した。そして、このフランジの開口を配管の亀裂とみなし、この開口から空気を漏洩させた。図12(a)にこの擬似漏洩装置に取り付けたフランジ、図12(b)に空気ボンベ及びフランジと擬似漏洩装置の接続状態を表わす図を示す。また、この擬似漏洩装置の仕様を下記表1、擬似漏洩装置の各部の寸法を図13に示す。なお、図13中の数字の単位は「mm」である。
【0130】
【表1】
【0131】
本実施例では、下記表2に示すように、このフランジとして中央の穴径がφ0.3mmとφ2.0mmの2種類を用意し、各フランジについて空気ボンベのバルブ開度を調節することにより、フランジ開口から漏洩するガスの圧力を1.3MPa、3.0MPa、5.0MPaの3種類に変化させた。そして、合計6種類のリーク音を、各種類ごとに30回、発生させた。
【0132】
【表2】
【0133】
このように発生させたリーク音を、フランジから10cmの距離に設置したディジタル・オーディオ・オープンデッキ(サンプリング周波数48kHz)で録音した。なお、この際、暗騒音が大きいとリーク音が暗騒音に隠れてしまい、リーク音の正確な録音を行えなくなるため、リーク音の録音は暗騒音の小さな環境で行った。具体的には、本実施例では、室内残響を低減させるため、残響室内にくさび形吸音材を配置した残響室でリーク音の録音を行なった。
【0134】
このようにして得られたリーク音のスペクトルの一例を図14(a)〜(f)に示す。なお、図14(a)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力1.3MPaのリーク音のスペクトル、図14(b)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力3.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(c)はフランジの穴径φ0.3mm、ガス圧力5.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(d)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力1.3MPaのリーク音のスペクトル、図14(e)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力3.0MPaのリーク音のスペクトル、図14(f)はフランジの穴径φ2.0mm、ガス圧力5.0MPaのリーク音のスペクトルを表わす。図14(a)〜(f)に示すように、フランジの開口径を大きくするほど、また、漏洩するガスの圧力を大きくするほどリーク音の振幅が大きくなっていることが分かる。以下では、表3に示すように、これらのリーク音の中でリーク音の振幅が適度な5種類のリーク音を解析に用いた。
【0135】
【表3】
【0136】
(2)リーク音のスペクトルの校正
次に、ディジタル・オーディオ・オープンデッキを用いて、校正信号を元に得られたリーク音のスペクトルのレンジを変えることにより校正を行ない、正しい音レベルに変換した。具体的には、フランジの開口径がφ2.0mm、漏洩するガスの圧力が3.0MPaの場合に録音したリーク音のスペクトルの一例は図15(a)に示すものとなっており、このレンジは100dBである。これに対して、校正信号は図15(b)に示されるように114dBの正弦波であり、そのレンジは120dBとなっている。そこで、図15(a)のリーク音のスペクトルを、図15(b)の校正信号を用いて120−100=20dBだけ小さい波形とする。この校正後の波形を図15(c)に示す。
【0137】
(3)録音
図16に示すように、上記のようにして録音したリーク音を地下トンネルの配管上に設置したスピーカーから各種類ごとに30回、再生させた。また、再生時間は50秒間とした。そして、この再生したリーク音を、地下トンネルの配管からのリーク音とみなし、2種類のマイク1及びマイク2により録音した。また、これとは別に配管に亀裂のない暗騒音として、スピーカーから音を再生しない状態でマイク1及び2により録音を行った。そして、このようにして得られたリーク音をコンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。これらのリーク音のスペクトルの一例を図17に示す。
【0138】
(4)FFT(高速フーリエ変換)処理による、リーク音のスペクトルのパワースペクトルへの変換
上記のようにして録音したリーク音は、異なる周波数の波がいくつも合成されている。このため、このリーク音に対してFFT処理を行うことにより、各周波数の波がどのくらいの割合で合成されているかを示すパワースペクトルに変換した。具体的には、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、FFT処理を行わせた。なお、この際のFFT処理のアルゴリズムとしては、上記式(18)〜(27)の処理方法を用いた。
【0139】
また、サンプル数を210=1024とした。不連続な要素を極力排除するため,ハニング窓処理を行った後で対数パワースペクトルを算出した。この際、サンプル数が1024であるため、計512点の周波数成分のパワースペクトルが得られた。また、サンプリング周波数が48kHzであるため、ナイキスト周波数の24kHzまで解析できた。従って、24000=512=47Hzの分解能があるといえる。図18及び19に、各マイクで録音した音のFFT処理後のパワースペクトルの一例を示す。
【0140】
図18及び19に示すように、FFT処理を行うことで、音のスペクトルからパワースペクトルが得られ、どの周波数の音がどの程度の割合で含まれているか、を知ることができる。図18及び19において、パワースペクトルのパワーは−120dBから−40dBの間に分布していた。また、このようにして得られた第1のパワースペクトルをコンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。
【0141】
(5)モデル作成手段による、ニューラルネットワークを用いたモデルの作成
まず、上記(4)でハードディスク内に記憶させた第1のパワースペクトルを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成した。
【0142】
具体的には、パワースペクトルの−40dBのパワーを「1」、−120dBのパワーを「0」として、上記(4)で得られたパワースペクトルを0から1の間に正規化した。このように正規化したパワースペクトルのうち、周波数1〜22kHzまで1kHzごとの各周波数におけるパワー22点をデータとして抽出した。また、各周波数におけるパワーの加重平均値もデータとした(1点)。この正規化の方法を、一例として図20に示す。そして、このようにして得られた23点のデータを、ニューラルネットワークの入力層に入力した。
【0143】
このニューラルネットワークは、上記入力層に加えて隠れ層、出力層を有する3層構造とした。隠れ層のユニットとしては、予め予備試験として、5個、10個、15個の3パターンで学習を行い、最も学習結果のよかった10個を採用した。
【0144】
更に、ニューラルネットワークの出力は,地下トンネルで収録する暗騒音(配管に亀裂がない場合に相当)、穴径φ0.3mm(配管にφ0.3mmの亀裂がある場合に相当)、穴径φ2.0mm(配管にφ2.0mmの亀裂がある場合に相当)の3種類とした。具体的には、教師データの出力値yk’を以下のように設定した。
地下トンネルで収録する暗騒音:y0’=1、y1’=0、y2’=0
穴径φ0.3mm:y0’=0、y1’=1、y2’=0
穴径φ2.0mm:y0’=0、y1’=0、y2’=1。
【0145】
なお、このニューラルネットワークでは、入力層の出力値は、入力層に与えた入力値がそのまま出力され、隠れ層と出力層の出力値はシグモイド関数により計算した。よって、本実施例のニューラルネットの入力ユニットは23個,隠れユニットは10個、出力ユニットは3個となる。
【0146】
このニューラルネットワークにおいて、最急降下法を用いたバック・プロパゲーション法を使用して、上記「第1実施形態」及び「第3実施形態」の式(1)〜(17)及び(28)〜(41)の計算を行ない、重み関数及びしきい値の最適化を行なった。なお、この際、上式中の学習パラメータである学習定数ηと安定化係数αはそれぞれη=0.1、α=0.1として学習を行った。また、1組のデータについて5000回の学習を行なわせ、最終的に30組のデータについて同様に学習を行なわせた。そして、そのうち最も学習誤差の小さかった重み関数及びしきい値を採用した。このようにして、配管の亀裂の有無及び大きさを診断するモデルを作成し、コンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。
【0147】
(6)モデルによる亀裂の有無及び大きさの診断
まず、マイク1で録音した音のパワースペクトルについて、上記モデルを用いて亀裂の大きさの診断を行なった。具体的には、まず、上記(1)〜(5)と同様にして、暗騒音と、フランジの穴径が既知のφ0.3mm(ガス漏洩圧:1.3MPa、3.0MPa、5.0MPa)とφ2.0mm(ガス漏洩圧:1.3MPa、3.0MPa)の6種類の評価用データ(各種類ごとに30組のデータ;第2のパワースペクトルのデータに相当する)を準備し、コンピュータ内蔵のハードディスクに記憶させた。
【0148】
次に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、ハードディスクから上記(5)で得られたモデル及び評価用データを読み込むと共に、該モデルに評価用データを入力して出力値を得た。
【0149】
ここで、各評価用データを入力したモデルの出力値y0、y1、y2が、それぞれ以下の条件を満たすときに、亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、とした。
亀裂無し:0.8≦y0≦1,0≦y1≦0.2、0≦y2≦0.2
φ0.3mmの亀裂有り:0≦y0≦0.2、0.8≦y1≦1、0≦y2≦0.2
φ2.0mmの亀裂有り:0≦y0≦0.2、0≦y1≦0.2、0.8≦y2≦1。
【0150】
そして、下記式に示すように、モデルの出力値から診断された結果が、既知の亀裂の状態(亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、の何れか)と一致するか否かにより、上記モデルによる亀裂の大きさの識別率を算出した。
(識別率)=(診断した結果が既知の亀裂の状態と一致したデータの数)/(総データ数)×100。
【0151】
図21に、各評価データを入力したときのモデルの出力値を表わす。図21において、横軸の評価データが1から30までが暗騒音、31から60までが穴径φ0.3mmでガス圧1.3MPaの出力結果、61から90までが穴径φ0.3mmでガス圧3.0MPaの出力結果、91から120までが穴径φ0.3mmでガス圧5.0MPaの出力結果、121から150までが穴径φ2.0mmでガス圧1.3MPaの出力結果、151から180までが穴径φ2.0mmでガス圧3.0MPaの出力結果を表わす。
【0152】
図21より、何れのデータも3つの出力値のうち、教師用データでは1となる1つの出力値が0.8〜1.0の範囲内、教師用データでは0となる残りの2つの出力値が0〜0.2の範囲内に入っていることが分かる。また、上記30点の評価用データの出力値の平均値を図22に示す。図21及び22に示すように、本実施例のモデルでは、全ての評価用データについて、正確に亀裂なし、φ0.3mmの亀裂あり、φ2.0mmの亀裂あり、を判断することができ、その識別率は100%であることが分かる。
【0153】
なお、上記(1)〜(5)と同様にしてマイク2で測定した評価用データについても、上記と同様に識別率の評価を行ったところ、その識別率は100%であった。
【0154】
(7)遺伝的アルゴリズムを使用した座標返還行列の作成、及びK近傍法によるガス漏洩圧の診断
(7−1)穴径φ0.3mmのリーク音
上記(1)〜(4)により、マイク1で録音・校正・FFT処理を行なった穴径φ0.3mmのパワースペクトルについて、漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータを25点、用意して、コンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。そして、ハードディスク内からテンプレートデータを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、各パワースペクトルのテンプレートデータについて、5kHzのパワーをX、9kHzのパワーをYとしてデータを抽出して2次元分布図を作成した。
【0155】
次に、コンピュータを用いて、ハードディスク内から漏洩するガスの圧力が既知の評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)30点を読み込むと共に、2次元分布図にプロットした(図26(a))。そして、K近傍法(K=3;2次元分布図において、診断したい点から最短距離〜3番目に短い距離にある3点について、各点を1票とする多数決により漏洩するガスの圧力を診断)により、漏洩するガスの圧力が既知の評価用データ30点について圧力を診断し、下記式に従って、識別率を算出した。
(識別率)=(漏洩するガスの圧力が既知の圧力と一致したデータの数)/30×100
この結果、識別率は92%であった。
【0156】
次に、図23に示すように、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、遺伝的アルゴリズムにより2次元分布図の座標変換行列を作成した。
この座標変換行列は、以下のようにして作成した。まず、図24に示すように、座標返還行列として定義した20種類の行列を発生させた。この際、座標返還行列の各成分としては、0.1〜10.0まで0.1刻みで表わされる数値の中からランダムに数値を与えた。そして、各座標返還行列の成分を要素とする個体を発生させた(S1、S2)。次に、図24に示すように、各個体を用いて交配(交叉)、突然変異を発生させ、世代交代を行なわせた(S3、S4)。
【0157】
ここで、交配(交叉)とは、図24(a)に示すように、20個の個体の中から選択した1組(2個)の個体間で、2分割したうちの一方の成分どうしを交換することである。この交配(交叉)は、20個の個体集団からあらかじめ設定した交叉確率に従ってランダムにM組の個体を選択し、新たにM×2個の個体を生成させた。この結果、交叉によって合計20+2M個の個体が生成することとなる。
【0158】
また、突然変位とは、図25(b)に示すように、任意の個体の任意の成分について、所定量だけその数値を加減することである。この任意の成分について加減する量は、0.1〜10.0までの0.1刻みで表わされる数値とし、ランダムに発生させた。また、突然変異を発生させる個体、及び該個体中の要素は、ランダムに決定した。
【0159】
上記のようにして1回の世代交代を行なわせるごとに交配(交叉)と突然変異を行なわせて合計20+2M個の個体を発生させ、これらの個体成分を要素とする座標変換行列を発生させた。次に、この座標変換行列を用いて、上記の漏洩するガスの圧力が既知の30点の評価用データに対して座標返還を行なわせた。そして、座標返還後のデータについてK近傍法により、各個体の識別率を計算し(S5)、最も識別率の高かったものから順に20番目まで適応度が高かった個体を選択した(S6)。
【0160】
そして、上記S3〜S6の処理を、世代交代の回数が5000回となるまで繰り返し、これまでに得られた個体のうちで最も識別率が高かった個体の成分を要素とする座標返還行列を最終的に選択し、ハードディスク内に記憶させた。
【0161】
次に、ハードディスク内からこのようにして決定した座標返還行列及び評価用データを読み込み、評価用データに対して座標返還の演算処理を行った。このようにして得られた座標変換後のテンプレートデータ及び評価用データの2次元分布を図26(b)に示す。図26(b)から、評価用データ30点についてK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は95%であった。
【0162】
次に、上記と同様の方法により、テンプレートデータ及び評価用データのパワースペクトルにおいて、5kHz,9kHz,14kHzの3つの周波数におけるパワーの値をデータとして抽出し、3次元分布図としてプロットした。この場合の3次元分布図を図27(a)に示す。なお、図27(a)では、5kHzの特徴点をX、9kHzの特徴点をY、14kHzの特徴点をZとしている。この3次元分布図27(a)において、K近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94.7%であった。
【0163】
次に、上記と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いて、テンプレートデータ及び評価用データの座標返還を行なった。座標返還後のデータの3次元分布を図27(b)に示す。図27(b)の3次元分布図においてK近傍法により、漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は100%であった。
マイク1の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0164】
上記と同様の方法により、マイク2で録音・校正・FFT処理を行なった、漏洩するガスの圧力が既知の穴径φ0.3mmの評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)について、5kHz、9kHzにおけるパワーの二次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、5kHz、9kHz、14kHzにおけるパワーの三次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、を行なった。
マイク2の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0165】
(7−2)穴径φ2.0mmのリーク音
上記(1)〜(4)により、マイク1で録音・校正・FFT処理を行なった穴径φ2.0mmのパワースペクトルについて、漏洩するガスの圧力が既知のテンプレートデータを25点、用意して、コンピュータ内蔵のハードディスク内に記憶させた。そして、ハードディスク内からテンプレートデータを読み込むと共に、専用のプログラムをインストールしたコンピュータを用いて、各パワースペクトルのテンプレートデータについて、5kHzのパワーをX、9kHzのパワーをYとしてデータを抽出して2次元分布図を作成した。
【0166】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、K近傍法(K=3)により、漏洩するガスの圧力が既知の30点の評価用データについて、圧力を診断した。この2次元分布図を図28(a)に示す。この結果、識別率は84%であった。
【0167】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いてテンプレートデータ及び評価用データの座標返還を行なった。座標返還後のデータの2次元分布を図28(b)に示す。図28(b)の2次元分布図において、評価用データについてK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94%であった。
【0168】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、テンプレートデータ及び評価用データのパワースペクトルにおいて、周波数5kHz,9kHz,14kHzの3つの周波数のパワーをデータとして抽出して、漏洩するガスの圧力を診断した。この3次元分布を図29(a)に示す。図29(a)では5kHzのパワーをX,9kHzのパワーをY,14kHzのパワーをZとしている。この3次元分布図29(a)において、K近傍法により、評価用データについて漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は94%であった。
【0169】
次に、上記(7−1)と同様の方法により、遺伝的アルゴリズムにより座標変換行列を得た後、この座標変換行列を用いて座標返還を行なった。座標返還後の3次元分布を図29(b)に示す。図29(b)の3次元分布図において、K近傍法により、評価用データについて漏洩するガスの圧力を診断したところ、その識別率は100%であった。
マイク1の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0170】
上記(7−1)と同様の方法により、マイク2で録音・校正・FFT処理を行なった、漏洩するガスの圧力が既知の穴径φ2.0mmの評価用データ(第2のパワースペクトルのデータに相当する)について、5kHz、9kHzにおけるパワーの二次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、5kHz、9kHz、14kHzにおけるパワーの三次元分布図を用いた漏洩するガス圧力の診断(K近傍法を使用した場合、K近傍法と遺伝的アルゴリズムによる座標変換を併用した場合、の2種類)、を行なった。
マイク2の上記4つの場合における識別率を図30に示す。
【0171】
(8)評価
上記のように、ニューラルネットワークを用いて作成したモデルを用いることによって、亀裂の大きさを高精度で診断できることが分かる。また、図30に示すように、K近傍法を用いることにより漏洩するガスの圧力を高精度で診断できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
装置、プラント中のガス配管の診断に使用することができる。典型的には、石油精製プラントのガス配管の診断に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の配管亀裂診断装置の一例の各手段の間の関係を示す概念図である。
【図2】本発明の配管の亀裂診断方法の一例を示す図である。
【図3】音のスペクトルとパワースペクトルを説明する図である。
【図4】本発明のニューラルネットワークの一例を説明する図である。
【図5】本発明のモデル作成手段によるモデル作成のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明で使用するK近傍法の一例を説明する図である。
【図7】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図8】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図9】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図10】本発明で使用する遺伝的アルゴリズムの一例を説明する図である。
【図11】本発明の遺伝的アルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図12】実施例で使用した擬似漏洩装置を表わす図である。
【図13】実施例で使用した擬似漏洩装置を表わす図である。
【図14】実施例で録音したリーク音のスペクトルを表わす図である。
【図15】実施例で録音したリーク音の校正後のスペクトルを表わす図である。
【図16】実施例で録音に用いたマイクの配置を表わす図である。
【図17】再生した配管のリーク音を録音した音のスペクトルを表わす図である。
【図18】実施例でFFT処理後のパワースペクトルを表わす図である。
【図19】実施例でFFT処理後のパワースペクトルを表わす図である。
【図20】実施例のパワースペクトルの正規化の方法を表わす図である。
【図21】実施例のモデルによる配管の亀裂の有無及び大きさの診断結果を表わす図である。
【図22】実施例のモデルによる配管の亀裂の有無及び大きさの診断結果を表わす図である。
【図23】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図24】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを説明する図である。
【図25】実施例で行なった遺伝的アルゴリズムを説明する図である。
【図26】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図27】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図28】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図29】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【図30】実施例でK近傍法により漏洩するガスの圧力を診断した結果を表わす図である。
【符号の説明】
【0174】
1 装置
2 測定手段
3 記憶手段
4 モデル作成手段
5 亀裂診断手段
6 圧力診断手段
7 ガスボンベ
8 フランジ
9 ガス注入口
10 疑似漏洩装置
11 圧力計
12 スピーカー
13 配管
14 マイク1
15 マイク2
16 地下トンネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管が発する音を録音し、録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、
パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、
パワースペクトル及びモデルを記憶することが可能な記憶手段と、
パワースペクトルのデータを前記モデルに入力することにより得られた出力から、前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、
前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、パワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、
を有する配管亀裂診断装置。
【請求項2】
前記圧力診断手段は、
遺伝的アルゴリズムにより、パワースペクトルのデータの座標変換行列を決定し、
前記座標変換行列により座標変換した後のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することを特徴とする請求項1に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項3】
前記測定手段は、
録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、前記パワースペクトルを得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項4】
前記配管が、石油精製プラントの配管であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項5】
更に、
前記配管に亀裂があると診断された場合に警告を表示すると共に、前記配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項6】
複数の前記測定手段を備え、
各測定手段で録音した音のパワースペクトルのデータに対して、それぞれ配管の亀裂の有無、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するように構成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項7】
(1)測定手段により、亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音して、録音した音の第1のパワースペクトルを得るステップと、
(2)第1のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(3)モデル作成手段により、前記記憶手段から第1のパワースペクトルのデータを読み込み、第1のパワースペクトルのデータに対してニューラルネットワークを用いることによって配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するステップと、
(4)前記モデルを記憶手段に記憶させるステップと、
(5)測定手段により、配管が発する音を録音して、録音した音の第2のパワースペクトルを得るステップと、
(6)第2のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(7)亀裂診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するステップと、
(8)前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、圧力診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータにK近傍法を用いることによって前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有する配管の亀裂診断方法。
【請求項8】
前記ステップ(8)は、圧力診断手段によって、
遺伝的アルゴリズムにより、第2のパワースペクトルのデータの座標変換行列を決定するステップと、
前記座標変換行列を記憶手段に記憶させるステップと、
前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及び座標返還行列を読み込むステップと、
前記座標変換行列により第2のパワースペクトルのデータを座標変換するステップと、
座標返還後の第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有することを特徴とする請求項7に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項9】
前記ステップ(1)及び(5)では、
録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、パワースペクトルを得ることを特徴とする請求項7又は8に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項10】
前記配管が、石油精製プラントの配管であることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項11】
更に、
前記配管に亀裂があると診断された場合に、表示手段により、警告を表示すると共に前記配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示するステップを有することを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項1】
配管が発する音を録音し、録音した音のパワースペクトルを得る測定手段と、
パワースペクトルのデータを用いてニューラルネットワークにより前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するモデル作成手段と、
パワースペクトル及びモデルを記憶することが可能な記憶手段と、
パワースペクトルのデータを前記モデルに入力することにより得られた出力から、前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断する亀裂診断手段と、
前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、パワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断する圧力診断手段と、
を有する配管亀裂診断装置。
【請求項2】
前記圧力診断手段は、
遺伝的アルゴリズムにより、パワースペクトルのデータの座標変換行列を決定し、
前記座標変換行列により座標変換した後のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断することを特徴とする請求項1に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項3】
前記測定手段は、
録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、前記パワースペクトルを得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項4】
前記配管が、石油精製プラントの配管であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項5】
更に、
前記配管に亀裂があると診断された場合に警告を表示すると共に、前記配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示する表示手段を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項6】
複数の前記測定手段を備え、
各測定手段で録音した音のパワースペクトルのデータに対して、それぞれ配管の亀裂の有無、配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するように構成されたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の配管亀裂診断装置。
【請求項7】
(1)測定手段により、亀裂の有無及び亀裂の大きさが既知の配管が発する音を録音して、録音した音の第1のパワースペクトルを得るステップと、
(2)第1のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(3)モデル作成手段により、前記記憶手段から第1のパワースペクトルのデータを読み込み、第1のパワースペクトルのデータに対してニューラルネットワークを用いることによって配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するモデルを作成するステップと、
(4)前記モデルを記憶手段に記憶させるステップと、
(5)測定手段により、配管が発する音を録音して、録音した音の第2のパワースペクトルを得るステップと、
(6)第2のパワースペクトルを記憶手段に記憶させるステップと、
(7)亀裂診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及びモデルを読み込み、第2のパワースペクトルのデータをモデルに入力して得られた出力から前記配管の亀裂の有無及び亀裂の大きさを診断するステップと、
(8)前記亀裂診断手段により配管に亀裂があると診断された場合に、圧力診断手段により、前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータを読み込み、第2のパワースペクトルのデータにK近傍法を用いることによって前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有する配管の亀裂診断方法。
【請求項8】
前記ステップ(8)は、圧力診断手段によって、
遺伝的アルゴリズムにより、第2のパワースペクトルのデータの座標変換行列を決定するステップと、
前記座標変換行列を記憶手段に記憶させるステップと、
前記記憶手段から第2のパワースペクトルのデータ及び座標返還行列を読み込むステップと、
前記座標変換行列により第2のパワースペクトルのデータを座標変換するステップと、
座標返還後の第2のパワースペクトルのデータに対してK近傍法を用いることにより、前記配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を診断するステップと、
を有することを特徴とする請求項7に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項9】
前記ステップ(1)及び(5)では、
録音した音に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)を行うことにより、パワースペクトルを得ることを特徴とする請求項7又は8に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項10】
前記配管が、石油精製プラントの配管であることを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の配管の亀裂診断方法。
【請求項11】
更に、
前記配管に亀裂があると診断された場合に、表示手段により、警告を表示すると共に前記配管の亀裂の大きさ及び配管の亀裂から漏洩するガスの圧力を表示するステップを有することを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の配管の亀裂診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
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【図6】
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【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
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【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2010−25715(P2010−25715A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186705(P2008−186705)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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