説明

配線パターンが形成されたプラスチック成形体の製造方法および配線パターンが形成されたプラスチック成形体

【課題】プラスチック成形体に対して、プラスチック成形体に密着し且つプラスチック成形体との接触面が平滑な配線パターンを形成する製造方法およびプラスチック成形体を得る。
【解決手段】本発明の製造方法は、表面部2に金属元素含有微粒子3を分散させたプラスチック成形体1を用意することと(図1(A))、プラスチック成形体1についての配線パターン4の輪郭の領域に対してレーザ光10などの電磁波を照射して、電磁波が照射された表面部2または表面部2に分散した金属元素含有微粒子3を選択的に除去することと(図1(B))、除去処理後のプラスチック成形体1を、アルコールを含む無電解めっき液に常圧下で浸漬して、配線パターン4の形状に無電解めっき膜を形成することとを含む(図1(C))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線パターンが形成されたプラスチック成形体の製造方法および配線パターンが形成されたプラスチック成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
MID(Molded Interconnect Device)、すなわちプラスチック成形体に配線パターンを形成した成形回路部品の作製において、導体である配線パターンはスパッタリングや無電解めっきなどの方法により形成される。
【0003】
現在知られている成形回路部品の製造方法としては、特許文献1のように、松下電工(株)の回路形成技術であるMIPTEC(Microscopic Integrated Processing Technology)が知られている。この第一公知の製造方法は、まず、成形品を目的の形状に形成した後、成形品の表面を活性化し、さらに銅をスパッタして、成形品の全面に銅の下地膜を形成する。次いで、銅の下地膜にレーザ光を照射して配線パターンの輪郭部分となる銅の下地膜を除去し、銅の下地膜を導電部(必要な配線パターンとなる部分)と非導電部とに分ける。その後、導電部のみに電解銅めっきを行って、配線パターンとなる部分の銅の膜厚を非回路部での銅の膜厚よりも厚くし、さらにソフトエッチングをかける。これにより、成形品の表面に、配線パターンの部分の銅膜を残すことができる。また、特許文献1では、この銅の下地膜の上に、電気Niめっき膜、電気Auめっき膜を重ねたものを配線パターンとして形成している。
【0004】
この他にも、プラスチック成形体に配線パターンを形成する公知の製造方法としては、BASF(バーディシェ・アニリン・ウント・ソーダ・ファブリク社)が採用している射出成形回路部品の製造方法がある。この第二公知の製造方法では、まず、樹脂材料(PA6)に銅と芳香族系の添加剤とを配合して分子結合させたメタロオーガニック材料を使用して成形品を射出成形する。次いで、成形品に対して所望の配線パターンの形状で赤外線レーザ光を照射する。このレーザ光と化合物とが反応することにより、レーザ光が照射された部位の銅が分離される。また、分離した銅は、レーザ光が照射された部位の表面に堆積して、導体を構成する。
【0005】
【特許文献1】特許第3153682号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1(第一公知)の製造方法では、銅をスパッタすることでプラスチック成形体に下地膜としての金属膜を形成しているので、金属膜の密着力が基本的に低い。そのため、特許文献1の製造方法では、無電解めっき膜の密着性を上げるためにプラスチック成形体の表面を粗化して活性化している。しかしながら、この活性化処理を実施することにより、プラスチック成形体の表面が荒れ、しかも、その荒れた表面の上に下地膜を形成することになるので、配線パターンの表面(プラスチック成形体との接触面)が荒れてしまう。また、配線パターンの表面が荒れると、配線パターンの表面を伝搬する性質を有する高周波信号が減衰し易くなる。
【0007】
また、第二公知の製造方法では、プラスチック成形体から銅を分離する際にプラスチック成形体の表面が荒れてしまい、しかも、その荒れた表面の上に分離した銅が堆積することにより、配線パターンが形成される。したがって、堆積した銅による配線パターンの表面(プラスチック成形体との接触面)も荒れて、配線パターンの表面を伝搬する性質を有する高周波信号が減衰し易くなる。
【0008】
そのため、たとえば車両ヘッドランプユニットなどの大型のプラスチック成形体に対して配線パターンを形成し、この配線パターンを用いてたとえば車両側のコントローラICとヘッドランプ制御ICとを接続し、さらにこれらの制御IC間でデジタルの制御信号を授受させた場合、デジタルの制御信号の高周波成分が減衰して、適切な波形で制御信号を授受できなくなる。
【0009】
本発明の目的は、プラスチック成形体に対して、プラスチック成形体に密着し且つプラスチック成形体との接触面が平滑な配線パターンを形成する製造方法およびプラスチック成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、配線パターンが形成されたプラスチック成形体の製造方法であって、プラスチック成形体として、その表面部に金属元素含有微粒子を分散させたプラスチック成形体を用意することと、プラスチック成形体についての配線パターンの輪郭の領域に対してレーザなどの電磁波を照射して、電磁波が照射された表面部または表面部に分散した金属元素含有微粒子を選択的に除去することと、除去処理後のプラスチック成形体を、アルコールを含む無電解めっき液に常圧下で浸漬して、配線パターンの形状に無電解めっき膜を形成することとを含む製造方法が提供される。
【0011】
第一の態様では、プラスチック成形体の表面部に金属元素含有微粒子を分散させ、この表面部または金属元素含有微粒子を配線パターンの輪郭形状に選択的に除去し、さらに、配線パターンの形状に無電解めっき膜を成長させる。したがって、プラスチック成形体に配線パターンを形成できる。たとえばヘッドランプユニットなどのように高温度環境で使用するために高耐熱樹脂で形成されたプラスチック成形体に配線パターンを形成できる。なお、配線パターンは、無電解めっき膜を下地膜として利用して、下地膜の上に金属層を形成したものであってもよい。
【0012】
また、第一の態様では、金属元素含有微粒子が配線パターンの形状に分散したプラスチック成形体を、常圧下でアルコールを含む無電解めっき液に浸漬することにより、プラスチック成形体に無電解めっき膜を形成している。常圧下の無電解めっき液にアルコールを混ぜるとめっき膜の成長が遅れる(進まなくなる)ので、一般的には常圧下の無電解めっき液にアルコールを混ぜることはしないが、この第一の態様では敢えてアルコールを混ぜている。アルコールを混ぜることにより、プラスチック成形体の表面でのめっき膜の成長が遅れて(進まなくなって)、無電解めっき液をプラスチック成形体の内部へ深く浸透させることができる。その結果、プラスチック成形体内の金属元素含有微粒子から無電解めっき膜を成長させることができ、無電解めっき膜をプラスチック成形体に密着させることができる。また、常圧下で無電解めっきを実施するので、無電解めっきのウェットプロセスのコストメリットを生かして、安価に無電解めっき膜を形成できる。
【0013】
さらに、第一の態様では、プラスチック成形体についての配線パターン(無電解めっき膜)が形成される部位にはレーザ光などが照射されない。また、プラスチック成形体に対する配線パターン(無電解めっき膜)の密着性を得るために、無電解めっき液に浸漬する前にプラスチック成形体の表面を粗化する必要が無い。したがって、無電解めっき液に浸漬する時点での、プラスチック成形体についての配線パターン(無電解めっき膜)が形成される表面は、成形時の滑らかさを保持している。その結果、配線パターン(無電解めっき膜)とプラスチック成形体との接触面が平滑になり、且つ、配線パターンの表面を伝搬する性質を有する高周波信号が減衰し難くなる。また、たとえば車両ヘッドランプユニットなどの大型のプラスチック成形体に対して配線パターンを形成した場合に、その配線パターンを用いてデジタルの制御信号などをその高周波成分を大きく減衰させることなく伝搬できる。
【0014】
なお、上述した一連の工程に加えて、さらに、アルコールを含む無電解めっき液にプラスチック成形体を浸漬する前に、除去処理後のプラスチック成形体を、還元剤を含む水溶液に浸漬させてもよい。これにより金属元素含有微粒子が触媒として活性化し、且つ、プラスチック成形体の表面が膨潤して無電解めっき液がプラスチック成形体の内部へ浸透し易くなる。
【0015】
本発明に用いることのできる還元剤の種類は任意であるが、たとえばジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、次亜燐酸ナトリウム等の還元剤を用いることができる。こうした固体の還元剤の場合、水やアルコール等の溶媒に溶解させた溶液を調合し、プラスチック成形体を該溶液に浸漬させることで、還元剤をプラスチック成形体に浸透させることができる。
【0016】
また、プラスチック成形体への浸透性を高めるため、還元剤を含む水溶液に超音波を印加したり、還元剤を含む水溶液を加温したり、還元剤の種類によって還元剤を含む水溶液のpHを調整してもよい。例えば、水素化ホウ素ナトリウムの場合、還元剤を含む水溶液をアルカリ性に調整することが望ましい。また、次亜燐酸ナトリウムの場合、溶液を中性から酸性に調整することが望ましい。また、水溶液を用いた場合において水溶液の表面張力を低減してプラスチック成形体への浸透力を高めるために、エタノールなどの表面張力が低い溶媒を水溶液に混合したり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの添加剤を水溶液に溶解させてもよい。
【0017】
また、還元剤を含む水溶液では、還元作用のあるヒドロキシル基を有するアルコールやポリアルキルグリコール、フェノール等を用いることができる。特にアルコールエタノールは表面張力が低く樹脂内部に浸透しやすいので好適である。アルコールの種類は任意であるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール等を用いることができる。エチレングリコールやポリエチレングリコール等、高分子量のポリアルキルグリコールを用いることにより樹脂内部から還元剤が抜けて効果が消失するのを抑制することができる。これら還元剤は2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0018】
ところで、第一の態様において、表面部に金属元素含有微粒子を分散させたプラスチック成形体は如何なる方法で用意してもよいが、たとえば、プラスチック成形体をアルコールまたは還元剤に浸透し、さらに、アルコールまたは還元剤に浸透したプラスチック成形体に対して、金属錯体を含む高圧二酸化炭素を接触させることで用意してもよい。この場合、プラスチック成形体の表面部には、金属錯体または金属錯体の変性物などが金属元素含有微粒子として分散する。なお、アルコールまたは還元剤に浸透したプラスチック成形体に対して、金属錯体を含む高圧二酸化炭素を接触させることは、たとえば高圧容器にプラスチック成形体を収容した後、この高圧容器内へ金属錯体を含む高圧二酸化炭素を導入すればよい。
【0019】
この他にもたとえば、プラスチック成形体を射出成形するための可塑化シリンダ内の溶融樹脂に、金属錯体を含む高圧二酸化炭素を溶解させ、さらに、溶解後の溶融樹脂を金型へ射出してプラスチック成形体を成形することで、表面部に金属元素含有微粒子を分散させたプラスチック成形体は如何なる方法で用意してもよい。この場合、プラスチック成形体の表面部には、金属錯体または金属錯体の変性物などが金属元素含有微粒子として分散する。また、プラスチック成形体の射出成形と同時にプラスチック成形体に金属元素含有微粒子を分散させることができるので、生産性が向上する。
【0020】
なお、金属錯体の変性物には、たとえば金属錯体の酸化物、金属錯体が変性した金属分子などがある。たとえば、表面部に金属錯体などが分散したプラスチック成形体に対して熱還元処理を実施したり、または、成形樹脂に金属錯体の還元剤を混ぜた成形樹脂を用いてプラスチック成形体を成形した後、プラスチック成形体に金属錯体を浸透させたりすることで、プラスチック成形体に金属分子を分散させることができる。
【0021】
また、本発明に用いることのできるプラスチックの種類は成形可能な材料であれば任意である。樹脂材料は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とに大別されるが、熱可塑性樹脂の場合、非晶質または結晶性を問わず、その種類は任意である。具体的には、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリルなどのポリビニル、ポリエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフタルアミド、ポリエチルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリ4フッ化エチレン等のフッ素系高分子等の樹脂材料およびそれらの複合樹脂材料を用い得る。
【0022】
また、熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、BMC、ポリウレタン、シリコーン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂材料に、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有させてもよい。
【0023】
特に、本発明においては、200℃以上の耐熱性を有する樹脂が望ましい。例えば、BMC、ポリフェニレンサルファイド、ガラス繊維強化ポリアミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチルエーテルケトン等がある。このような樹脂でプラスチック成形品を形成することで、自動車用ヘッドライトリフレクターの他、フォグランプリフレクター、プロジェクター光源用リフレクター等、高い耐熱性が要求されるミラーやリフレクター用途に適用することができる。
【0024】
そして、金属元素含有微粒子として金属錯体を含む場合、金属錯体は加熱により表面部から除去できるので、金属元素含有微粒子を選択的に除去するためには、たとえば高出力のレーザ光によりプラスチック成形体の表面部を溶融させて表面部を選択的に除去しても、あるいは、レーザ光によりプラスチック成形体の表面部を加熱することで、表面部に分散した金属錯体を選択的に昇華させて除去してもよい。これに対して、金属元素含有微粒子として金属分子を含む場合、金属元素含有微粒子を選択的に除去するためには、高出力のレーザ光によりプラスチック成形体の表面部を溶融させて表面部を選択的に除去すればよい。
【0025】
なお、表面部から金属錯体などの金属元素含有微粒子を除去する場合、その表面部に含まれるすべての金属錯体を除去する必要はなく、表面部中の金属錯体の濃度が所定の濃度以下になる程度に除去すればよい。なぜなら、表面部中の金属錯体の濃度が所定の濃度以下になると、その表面部において無電解めっき膜が成長し難くなるからである。ただし、表面部中の金属錯体の濃度を確実に所定の濃度(めっき反応が生じる濃度)以下にし得ないと、無電解めっき膜が成長してしまうので、たとえば互いに離れて形成される予定の2つの無電解めっき膜が短絡してしまう可能性がある。これに対して、表面部自体を選択的に除去した場合には、金属錯体を確実に無くすことができるので、このような短絡が確実に発生しないようにできる。なお、表面部を除去するとは、金属元素含有微粒子とともにプラスチック成形体の成形樹脂を同時に除去することを意味する。
【0026】
また、プラスチック成形体の表面部を選択的に除去する場合であっても、あるいは、表面部に分散した金属錯体を選択的に除去する場合であっても、その除去する範囲には、少なくともプラスチック成形体についての配線パターンの輪郭の領域が含まれていればよい。すなわち、プラスチック成形体についての配線パターンの輪郭の領域のみへレーザ光を照射して除去しても、プラスチック成形体についての配線パターン以外のすべての領域(配線パターンと相補的な領域)へレーザ光を照射して除去してもよい。
【0027】
また、レーザ光の替わりに、紫外線、X線などの電磁波を用いてもよい。ただし、レーザ光がより望ましい。また、レーザ光であれば、COレーザ光でも、あるいはYAGレーザ光でもよい。ただし、成形体の表面に微細なパターンを形成するためには、YAGパルスレーザーが最適である。
【0028】
本発明の第二の態様によれば、配線パターンが形成されたプラスチック成形体であって、配線パターンを構成し、プラスチック成形体の表面に形成された下地膜と、下地膜が重なったプラスチック成形体の表面部分であって、金属元素含有微粒子、下地膜の材料およびプラスチック成形体の材料とが混在した層とを含み、この混在した層の厚さが50〜1000nmであるプラスチック成形体が提供される。
【0029】
上述した第一の態様の製造方法では、プラスチック成形体に配線パターンを形成できる。この配線パターンが形成されたプラスチック成形体では、表面部に浸透させた金属元素含有微粒子が無電解めっきの触媒核として機能するので、プラスチック成形体の内部から無電解めっき膜が成長する。その結果、下地膜が重なったプラスチック成形体の表面部分には、金属元素含有微粒子、下地膜の材料およびプラスチック成形体の材料とが混在した層が形成される。そして、アルコールを含有する無電解めっき液に常圧下でプラスチック成形体を浸漬した場合には、この混在層を50〜1000nmの厚さとすることができ、しかも、この厚さの混在層によりプラスチック成形体の表面に対する無電解めっき膜の高い密着性が得られる。また、この方法でプラスチック成形体に無電解めっき膜を形成することで、プラスチック成形体の表面を粗化する必要が無くなり、無電解めっき膜の表面(プラスチック成形体との接触面)の平滑性が得られ、配線パターンを伝搬する信号の高周波成分を減衰し難くできる。なお、プラスチック成形体の表面を粗化して無電解めっき膜の密着性を得るためには、プラスチック成形体の表面を数μm以上のオーダで荒す必要があり、その場合の無電解めっき膜の表面粗さ(プラスチック成形体との接触面の粗さ)も数μm以上のオーダになる。
【0030】
なお、金属元素含有微粒子は、Ni、Co、Fe、Cu、Ag、Au、Rh、Pd、Ptからなる群から選択された1種類の金属錯体であればよい。また、配線パターンを形成するためにプラスチック成形体の表面部を除去した場合には、プラスチック成形体についての配線パターンの輪郭部分は、配線パターンが形成された部分より窪むことになる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明では、プラスチック成形体に密着し且つプラスチック成形体との接触面が平滑な配線パターンを形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の配線パターンが形成されたプラスチック成形体の製造方法および配線パターンが形成されたプラスチック成形体の実施例を、図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明の好適な具体例であり、本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0033】
実施例1では、図1に示すように、車両ヘッドランプユニットなどのプラスチック成形体1を射出成形して、その表面にバッチ処理により金属錯体触媒粒子3を浸透させて、表面部2に金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1を用意した後(図1(A))、成形体1の表面にレーザ光10を照射して表面部2を選択的に除去し(図1(B))、さらにアルコールを含有した常圧の無電解めっき液に浸漬して、配線パターン4が形成された成形体1を製造した(図1(C))。なお、図1(A)〜(C)は、各工程における成形体1の部分断面図である。
【0034】
[成形体への金属錯体触媒粒子の浸透方法]
本実施例では、まず、一板的な射出成形装置を用いて成形体1を形成した。一板的な射出成形装置は、特に図示をしないが、成形体1の成形樹脂を可塑化溶融する可塑化シリンダや、溶融した成形樹脂を成形する金型などを有する。この実施例では、成形体1の成形樹脂として、Solvay Advanced Polymers,L.L.C.社製のポリフタルアミド(PPA)である「Amodel AS−1566」を用いた。そして、可塑化シリンダで成形樹脂を可塑化溶融した後、その可塑化溶融した成形樹脂を金型へ射出した。金型は、たとえば車両ヘッドランプユニットなどの所望の成形体1の外形形状を形成するためのキャビティを有し、成形樹脂はこのキャビティに充填される。したがって、金型へ射出された成形樹脂は、所望の成形体1の外形形状に固化する。これにより、たとえば車両ヘッドランプユニットなどの所望の形状の成形体1を得た。成形体1は十分に洗浄した後、乾燥した。
【0035】
次に、成形体1の内部に還元剤を浸透させた。具体的には、水と次亜燐酸とを体積比19:1で混合して70℃に調温した溶液を作成し、この溶液に成形体1を2時間浸漬した。この浸透処理により、成形体1内に浸透した金属錯体粒子が成形体1内で還元されるようになる。
【0036】
次に、図2に示すバッチ処理装置を用いて、還元剤を浸透させた成形体1に、金属錯体粒子を浸透させた。まず、所定の温度(たとえば50℃)に温調した高圧容器29の中に、PPAの成形体1を収容した。次いで、液化二酸化炭素ボンベ21からシリンジポンプ22へ液化二酸化炭素を供給し、シリンジポンプ22において液化二酸化炭素を15MPaに昇圧し、高圧二酸化炭素を生成した。次いで、手動ニードルバルブ25を開いて溶解槽26の中に高圧二酸化炭素を導入した。溶解槽26には、金属錯体触媒粒子3が収容されており、高圧二酸化炭素に金属錯体触媒粒子3が溶解する。ここで、金属錯体触媒粒子3には、高圧二酸化炭素に可溶であるパラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート(Pd(hfa))(Aldrich製)を用いた。
【0037】
次いで、手動ニードルバルブ27を開き、金属錯体触媒粒子3が溶解した高圧二酸化炭素を高圧容器29へ導入し、高圧容器29内が15MPaまで昇圧したら、手動ニードルバルブ27を閉じた。高圧容器29の内部を図示外のスタラーなどで攪拌しながら、1時間静置した。これにより、高圧容器29から取り出されたPPAの成形体1の表面部2には、図1(A)に示すように、金属錯体触媒粒子3が浸透し且つ還元剤により還元されて定着した。
【0038】
[非配線パターンの部分へのレーザー描画方法]
次いで、図1(B)に示すように、金属錯体触媒粒子3を浸透且つ定着させたPPAの成形体1に対して、レーザ光10を照射した。また、レーザ光10は、成形体1の表面に所望の配線パターン4を形成できるように、成形体1についての配線パターン4の輪郭部分に対して照射した。これにより、レーザ光10が照射された表面部2、すなわち配線パターン4の輪郭部分における表面部2が部分的に除去された。これにより、レーザ光10が照射された部分は、照射されていない部分より窪むことになる。なお、このレーザー描画には、株式会社キーエンス製のMDV−9900を用いた。
【0039】
[配線パターンのめっき方法]
次いで、配線パターン4の輪郭部分における表面部2を部分的に除去した成形体1に対して常圧下のめっき処理を実施して、成形体1に配線パターン4を形成した。具体的には、まず、ニコロンDK1、ニコロンDKM(共に奥野製薬工業(株)製)、エタノールおよび水を体積比1:2:7:10で混合した無電解めっき液を調整し、常圧且つ70℃の環境下でその無電解めっき液に成形体1を浸漬した。これにより、成形体1の非レーザ描画部分に、つまり配線パターン4を形成する部分に、Ni−Pめっき膜(下地膜)が5μmの厚さで形成された。
【0040】
次に、ニコロンDK1、ニコロンDKM(共に奥野製薬工業(株)製)および水を体積比1:2:17で混合した無電解めっき液を調整し、80℃且つ常圧の環境下でその無電解めっき液に、下地膜が形成された成形体1を浸漬した。これにより、下地膜としてのNi−Pめっき膜の上に、更にNi−Pめっき膜が35μmの厚さで形成された。
【0041】
次に、ムデンノーブルAu(奥野製薬工業(株)製)を用いて、2層のNi−Pめっき膜が形成された成形体1を浸漬した。これにより、2層目のNi−Pめっき膜の上に、Auめっき膜が100nmの厚さで形成された。以上の一連の常圧環境下でのめっき処理により、成形体1に対して、図1(C)の断面形状および図3の外形形状を有する配線パターン4を形成した。
【0042】
以上のように、本実施例では、図1(C)に示すように、配線パターン4が形成されたプラスチック成形体1を製造できた。また、レーザ光10の照射により成形体1の表面部2を除去しているので、配線パターン4において隣り合う別々の配線は完全に分離絶縁されており、それらの配線間で短絡等の問題が生じなかった。
【0043】
また、本実施例では、プラスチック成形体1に配線パターン4の下地膜を形成するために、プラスチック成形体1に金属錯体触媒粒子3を浸透させるとともに、無電解めっき液にアルコールを含有させて、常圧下で無電解めっき処理を実施している。これにより、無電解めっき膜を成形体1の内部から成長させることができ、成形体1に対して強く密着しためっき膜を形成できた。
【0044】
実際に、配線パターン4と同じ工程により成形体1の全面にめっき膜を形成したものについて密着強度を測定したところ、0.9N/mmという値が得られ、密着強度が十分である事が確認された。また、高温多湿環境試験(85℃、80%RH)やヒートッショック試験(−40℃と+150℃との間で温度を10回切り替えた試験)などの耐候試験を行ったところ、めっき膜の剥がれや膨れ等も無かった。なお、測定に使用した成形体1において、金属材料と樹脂材料とが混在する混在層5は、図4に示すように約100nmの厚さであった。
【実施例2】
【0045】
実施例2では、図5に示すように、射出成形した成形体1の表面にバッチ処理により金属錯体触媒粒子3を浸透させて、表面部2に金属元素含有微粒子を分散させた成形体1を用意した後(図5(A))、成形体1の表面にレーザ光10を照射して表面部2を選択的に除去し(図5(B))、金属錯体触媒粒子3を還元し(図5(C))、さらにアルコールを含有した常圧の無電解めっき液に浸漬して、配線パターン4が形成された成形体1を製造した(図5(D))。なお、図5(A)〜(D)は、各工程における成形体1の部分断面図である。
【0046】
[成形体への金属錯体触媒粒子の浸透方法]
本実施例では、実施例1と同様に、まず、一般的な射出成形装置を用いて成形体1を形成した。また、実施例1と同様に、成形樹脂として、Solvay Advanced Polymers,L.L.C.のポリフタルアミド(PPA)であるAmodel AS−1566を用いた。所望の形状に形成した成形体1は十分に洗浄した後、乾燥した。また、実施例1と同様に、成形体1の内部に還元剤を浸透させた後、成形体1に金属錯体触媒粒子3を浸透させた。これにより、PPAの成形体1の表面部2には、図5(A)に示すように、金属錯体触媒粒子3が浸透して定着した。
【0047】
[非配線パターンの部分へのレーザー描画方法]
次に、図5(B)に示すように、実施例1と同様に、金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1にレーザ光10を照射して、配線パターン4の輪郭部分における表面部2を部分的に除去した。これにより、レーザ光10が照射された表面部2が部分的に除去された。
【0048】
[配線パターンの部分の金属錯体触媒粒子の還元処理]
次に、図5(C)に示すように、配線パターン4の部分の金属錯体触媒粒子3を還元液で還元する。具体的には、水と次亜燐酸を体積比で9:1で混合して且つ70℃に温調した溶液に、レーザ描画後の成形体1を1時間浸漬し、還元処理を行った。また、還元処理を行った後、成形体1を洗浄した。この還元処理により、成形体1の表層の触媒が活性化され、且つ、無電解めっき液が浸透し易くなる。そして、この還元処理を、アルコールを含有した無電解めっきのめっき前処理として実施することで、めっき膜の密着強度がより向上する。これは、還元処理により、成形体1が膨潤し、成形体1の内部に還元剤を含む水分子が残存するためであると考えられる。また、表面の還元剤を水洗等により除去することにより、成形体1の表面よりも内部での還元反応(めっき反応)がより生じ易くなるためであると考えられる。そして、レーザ光10が照射されなかった表面部2において金属錯体触媒粒子3が還元されて定着した。
【0049】
[配線パターンのめっき方法]
次いで、実施例1と同様に、配線パターン4の輪郭部分における表面部2を部分的に除去した成形体1に対して常圧下のめっき処理を実施して、成形体1に配線パターン4を形成した。これにより、成形体1に対して、図5(D)の断面形状を有する配線パターン4を形成した。
【0050】
以上のように、本実施例では、配線パターン4が形成された成形体1を製造できた。また、成形体1の表面部2を除去したので、配線パターン4において隣り合う別々の配線の間で短絡等の問題が生じなかった。また、無電解めっき膜が成形体1の内部から成長するので、成形体1に対して強く密着した。
【0051】
実際に、配線パターン4と同じ工程で成形体1の全面にめっき膜を形成したものについて密着強度を測定したところ、1.8N/mmという値が得られ、密着強度が十分である事が確認された。また、高温多湿環境試験(85℃、80%RH)やヒートッショック試験(−40℃と+150℃との間で温度を10回切り替えた試験)などの耐候試験を行ったところ、めっき膜の剥がれや膨れ等も無かった。なお、測定に使用した成形体1において、金属材料と樹脂材料との混在層5は、図6に示すように約500nmであった。
【実施例3】
【0052】
実施例3では、実施例2と同様に、表面部2に金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1を用意した後(図5(A))、成形体1の表面にレーザ光10を照射して表面部2を選択的に除去し(図5(B))、金属元素含有微粒子を還元し(図5(C))、さらにアルコールを含有した常圧の無電解めっき液に浸漬して、配線パターン4が形成された成形体1を製造した(図5(D))。ただし、表面部2に金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1を用意するにあたり、図7に示す射出成形装置を用いた。
【0053】
[金属錯体触媒粒子が浸透した成形体の製造方法]
図7の射出成形装置は、金型43や可塑化シリンダ44などを有する成形機部41と、金属錯体触媒粒子3が溶解した高圧二酸化炭素を可塑化シリンダ44へ供給する高圧二酸化炭素供給装置部42とを含む。また、高圧二酸化炭素供給装置部42は、2本の二酸化炭素ボンベ45,45’、2台の公知のシリンジポンプ46,46’、金属錯体触媒粒子3が仕込まれた溶解槽47、成形機部41と連動し自動で開閉する4台のエアーオペレートバルブ48,49,50,51などを有する。
【0054】
そして、本実施例では、成形体1を成形するための成形樹脂として実施例1、2と同様に、Solvay Advanced Polymers,L.L.C.のポリフタルアミド(PPA)であるAmodel AS−1566を用いた。また、溶解槽26には、金属錯体触媒粒子3として、高圧二酸化炭素に可溶である、パラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート(Pd(hfa))(Aldrich製)と、助剤であるフッソ化合物Perfluorotripentylamine(分子式:C1836 (シンクエスト・ラボラトリー製、分子量821.1、沸点:220℃)とを過飽和状態となる量で仕込んだ。したがって、溶解槽47から送出される高圧二酸化炭素には、金属錯体触媒粒子3および助剤が飽和濃度で溶解する。また、液体であるフッソ化合物は、液体担持体である図示外のウェットサポート(ISCO社製)に分散させて、高圧二酸化炭素の流動によって溶解槽47から流出しないようにした。
【0055】
成形機部41への高圧二酸化炭素の供給は、吸引側エアーオペレートバルブ48,49が閉鎖され、供給側エアーオペレートバルブ50,51が開放された状態にて行われる。成形機部41からの可塑化計量中における任意のトリガー信号を得ると、2台のシリンジポンプ46,46’は、任意の遅延時間の後に、独立した制御により一定流量にて一定時間駆動する。それにより、溶解槽47において仕込まれた材料が飽和された状態にある高圧二酸化炭素は、シリンジポンプ46の駆動により送りだされ、材料を含まない高圧二酸化炭素はシリンジポンプ46’の駆動により送り出される。この2種類の高圧二酸化炭素は混合されて、混合した流体では、金属錯体微粒子および助剤は未飽和になるように希釈される。
【0056】
金属錯体微粒子および助剤が未飽和に溶解した混合流体は、背圧弁および圧力計を経て、インジェクタバルブ52から可塑化シリンダ44へ導入される。可塑化シリンダ44内には可塑化溶融された成形樹脂が存在しており、混合流体は成形樹脂に導入されて混練される。この際、高圧二酸化炭素供給装置部42と成形機部41間の圧力変動は圧力計53でモニターでき、二酸化炭素が安定に供給される場合にはインジェクタバルブ52の開閉時の圧力変化も安定する。
【0057】
可塑化シリンダ44内で溶融樹脂と金属錯体触媒粒子3および助剤とを均一に混合した後、可塑化シリンダ44から金型43へ溶融樹脂を射出する。溶融樹脂は金型43において成形される。これにより、図5(A)に示すように、表面部2に金属錯体触媒粒子3が偏析した成形体1を得た。
【0058】
なお、金属錯体触媒粒子3は成形体1の表面部2に存在すればよいため、図7の射出成形装置の替わりに、サンドイッチ射出成形装置を用いてもよい。すなわち、金属錯体触媒粒子3を溶解した成形樹脂を金型へ射出した後、金属錯体触媒粒子3を溶解しない成形樹脂を金型へ射出することでも、表面部(スキン層)2に金属錯体触媒粒子3が偏析した成形体1を得られる。この場合、表面部(スキン層)2よりも内側であるコア層には金属錯体触媒粒子3が分散しなくなる。その分、金属錯体触媒粒子3の使用量を減らすことができる。
【0059】
[非配線パターンの部分へのレーザー描画方法]
次に、図5(B)に示すように、実施例1、2と同様に、金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1にレーザ光10を照射して、配線パターン4の輪郭部分における表面部2を部分的に除去した。これにより、レーザ光10が照射された表面部2が部分的に除去された。
【0060】
[配線パターンの部分の金属錯体触媒粒子の還元処理]
次に、図5(C)に示すように、実施例2と同様に、配線パターン4上の金属錯体触媒粒子3を還元液で還元した。これにより、レーザ光10が照射されなかった表面部2では、金属錯体触媒粒子3が還元されて定着する。
【0061】
[配線パターン4のめっき方法]
次いで、実施例1、2と同様に、配線パターン4の輪郭部分における表面部2を部分的に除去した成形体1に対して常圧下のめっき処理を実施して、成形体1に配線パターン4を形成した。これにより、成形体1に対して、図5(D)の断面形状を有する配線パターン4を形成した。
【0062】
以上のように、本実施例では、配線パターン4が形成された成形体1を製造できた。また、成形体1の表面部2を除去したので、配線パターン4において隣り合う別々の配線の間で短絡等の問題が生じなかった。また、無電解めっき膜は、成形体1の内部から成長して、成形体1に対して高い密着性を確保できた。
【0063】
実際に、配線パターン4と同じ工程で成形体1の全面にめっき膜を形成したものについて密着強度を測定したところ、2.4N/mmという値が得られ、密着強度が十分である事が確認された。また、高温多湿環境試験(85℃、80%RH)やヒートッショック試験(−40℃と+150℃との間で温度を10回切り替えた試験)などの耐候試験を行ったところ、めっき膜の剥がれや膨れ等も無かった。なお、測定に使用した成形体1において、金属材料と樹脂材料との混在層5は、図6の実施例2の成形体1と同様に約500nmであった。
【実施例4】
【0064】
実施例4では、図8に示すように、射出成形した成形体1の表面にバッチ処理により金属錯体触媒粒子3を浸透させて、表面部2に金属錯体触媒粒子3を分散させた成形体1を用意した後(図8(A))、成形体1の表面にレーザ光10を照射して金属錯体触媒粒子3を選択的に除去し(図8(B))、さらにアルコールを含有した常圧の無電解めっき液に浸漬して、配線パターン4が形成された成形体1を製造した(図8(C))。なお、図8(A)〜(C)は、各工程における成形体1の部分断面図である。
【0065】
[成形体への金属錯体触媒粒子の浸透方法]
本実施例では、実施例1と同様に、まず、一般的な射出成形装置を用いて成形体1を形成した。また、実施例1と同様に、成形樹脂として、Solvay Advanced Polymers,L.L.C.のポリフタルアミド(PPA)であるAmodel AS−1566を用いた。所望の形状に形成した成形体1は十分に洗浄した後、乾燥した。
【0066】
次いで、実施例1と同様に、成形体1に金属錯体触媒粒子3を浸透させた。これにより、成形体1の表面部2には、図8(A)に示すように、金属錯体触媒粒子3が浸透した。金属錯体触媒粒子3には、高圧二酸化炭素に可溶であるパラジウム(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナート(Pd(hfa))(Aldrich製)を用いた。
【0067】
このように本実施例においては、成形体1に金属錯体触媒粒子3を浸透させる前に、成形体1を還元液に浸漬しない(還元処理を行わない)。また、高圧二酸化炭素を用いて成形体1に金属錯体触媒粒子3を導入する際には、金属錯体触媒粒子3の熱分解温度(70℃以上)よりも低い温度で行った。そのため、成形体1の表面部2に浸透した金属錯体触媒粒子3の多くは、熱還元も化学還元もされずに、有機化合物の状態で存在する。
【0068】
[非配線パターンの部分へのレーザー描画方法]
次に、図8(B)に示すように、金属錯体触媒粒子3を分散させたPPAの成形体1にレーザ光10を照射して、配線パターン4の輪郭部分から金属錯体触媒粒子3を部分的に除去した。この際、成形体1の表面部(樹脂)2を削らない程度のエネルギーになるようにレーザー装置の設定を調整することで、金属錯体触媒粒子3のみを昇華させた。これにより、レーザ光10が照射された表面部2から、金属錯体触媒粒子3が部分的に除去された。
【0069】
本実施例の金属錯体は150℃以上で昇華する。そのため、低エネルギーのレーザを照射して、表面部2を150℃以上且つ成形樹脂の溶解温度より低い温度に加熱することで、表面部2自体を除去することなく、表面部2内に浸透していた金属錯体触媒粒子3のみを昇華させて除去できる。このように金属錯体触媒粒子3を除去することで、レーザが照射された表面部2における金属錯体の濃度を低下できる。
【0070】
[配線パターンの部分の金属錯体触媒粒子の還元処理]
次に、配線パターン4上の金属錯体触媒粒子3を還元液で還元した。具体的には、水と次亜燐酸を体積比で9:1で混合し且つ70℃に温調した溶液に、レーザ照射後の成形体1を1時間浸漬した。この還元処理により、成形体1の表層の触媒が活性化される。そして、この還元処理を、アルコールを含有した無電解めっきのめっき前処理として実施することで、めっき膜の密着強度がより向上する。
【0071】
[配線パターンのめっき方法]
次いで、配線パターン4の輪郭部分における金属錯体触媒粒子3を部分的に除去した成形体1に対して、実施例1と同様の常圧下のめっき処理を実施して、成形体1に配線パターン4を形成した。これにより、成形体1に対して、図8(C)の断面形状を有する配線パターン4を形成した。
【0072】
なお、表面部2の非配線パターンの部分に微量の金属錯体触媒粒子3が残存していても、金属錯体触媒粒子3の濃度が低い場合には無電解めっき時の反応性が低くなる。そのため、レーザ光が照射された配線パターン4の輪郭部分には、無電解めっき膜は形成されない。
【0073】
以上のように、本実施例では、配線パターン4が形成された成形体1を製造できた。また、表面部2から金属錯体触媒粒子3を除去したので、配線パターン4において隣り合う別々の配線の間で短絡等の問題が生じなかった。また、無電解めっき膜は、成形体1の内部から成長して成形体1に対して強く密着した。
【0074】
実際に、配線パターン4と同じ工程で成形体1の全面にめっき膜を形成したものについて密着強度を測定したところ、1.2N/mmという値が得られ、密着強度が十分である事が確認された。また、高温多湿環境試験(85℃、80%RH)やヒートッショック試験(−40℃と+150℃との間で温度を10回切り替えた試験)などの耐候試験を行ったところ、めっき膜の剥がれや膨れ等も無かった。なお、測定に使用した成形体1において、金属材料と樹脂材料との混在層5は、図6の実施例2の成形体1と同様に約500nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の配線パターンが形成された成形体の製造方法では、成形体に密着し且つ成形体との接触面が平滑な配線パターンを形成できる。また、本発明では、配線パターンが形成された成形体が得られる。したがって、本発明は、耐熱性および耐久性が要求される自動車のヘッドランプユニットやそのリフレクターを成形する場合、基板付のカメラモジュールなどの基板付のパッケージ製品を成形する場合、樹脂成形品の表面に電気回路を形成するMIDや電磁シールド成形体を成形する場合などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1(A)〜(C)は、実施例1での成形体の製造工程の説明図である。
【図2】図2は、実施例1において使用されて、成形体に金属錯体粒子を浸透させるバッチ処理装置の概略構成図である。
【図3】図3は、実施例1において成形体に形成した配線パターンの拡大図である。
【図4】図4は、実施例1での成形体および配線パターンの部分拡大断面図である。
【図5】図5(A)〜(D)は、実施例2での成形体の製造工程の説明図である。
【図6】図6は、実施例2での成形体および配線パターンの部分拡大断面図である。
【図7】図7は、実施例3において使用されて、金属錯体粒子を浸透させた成形体を成形する射出成形装置の概略構成図である。
【図8】図8(A)〜(C)は、実施例4での成形体の製造工程の説明図である。
【符号の説明】
【0077】
1 プラスチック成形体
2 表面部
3 金属錯体触媒粒子(金属元素含有微粒子)
4 配線パターン
5 混在層
10 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線パターンが形成されたプラスチック成形体の製造方法であって、
上記プラスチック成形体として、その表面部に金属元素含有微粒子を分散させたプラスチック成形体を用意することと、
上記プラスチック成形体についての上記配線パターンの輪郭の領域に対してレーザ光などの電磁波を照射して、上記電磁波が照射された上記表面部または上記表面部に分散した上記金属元素含有微粒子を選択的に除去することと、
上記除去処理後の上記プラスチック成形体を、アルコールを含む無電解めっき液に常圧下で浸漬して、上記プラスチック成形体内の上記金属元素含有微粒子から成長した無電解めっき膜を形成することとを含む製造方法。
【請求項2】
さらに、上記アルコールを含む無電解めっき液に上記プラスチック成形体を浸漬する前に、上記除去処理後の上記プラスチック成形体を、還元剤を含む水溶液に浸漬させることを含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記表面部に上記金属元素含有微粒子を分散させた上記プラスチック成形体を用意することは、上記表面部において上記金属元素含有微粒子として金属分子を含んだ上記プラスチック成形体を用意することを含み、且つ、
上記電磁波が照射された上記表面部または上記表面部に分散した上記金属元素含有微粒子を選択的に除去することは、上記電磁波により上記表面部の樹脂を溶融させて上記表面部を選択的に除去することを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
上記表面部に上記金属元素含有微粒子を分散させた上記プラスチック成形体を用意することは、上記表面部において上記金属元素含有微粒子として金属錯体を含んだ上記プラスチック成形体を用意することを含み、且つ、
上記電磁波が照射された上記表面部または上記表面部に分散した上記金属元素含有微粒子を選択的に除去することは、上記レーザ光により上記表面部を加熱して上記表面部に分散した上記金属錯体を選択的に昇華させて除去することを含む請求項1または2記載の製造方法。
【請求項5】
上記表面部に上記金属元素含有微粒子を分散させた上記プラスチック成形体を用意することは、
上記プラスチック成形体をアルコールなどの還元剤に浸透することと、
上記還元剤に浸透した後の上記プラスチック成形体に対して、金属錯体を含む高圧二酸化炭素を接触させることとを含み、
上記金属錯体または上記金属錯体の変性物などが上記金属元素含有微粒子として上記表面部に分散した上記プラスチック成形体を用意する請求項1から4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項6】
上記表面部に上記金属元素含有微粒子を分散させた上記プラスチック成形体を用意することは、
上記プラスチック成形体を射出成形するための可塑化シリンダ内の溶融樹脂に、金属錯体を含む高圧二酸化炭素を溶解させることと、
上記溶解後の上記溶融樹脂を金型へ射出して上記プラスチック成形体を成形することとを含み、
上記金属錯体または上記金属錯体の変性物などが上記金属元素含有微粒子として上記表面部に分散した上記プラスチック成形体を用意する請求項1から4のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、上記無電解めっき膜を下地膜として利用して、上記下地膜の上に金属層を形成することで上記配線パターンを形成することを含む請求項1から6のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項8】
配線パターンが形成されたプラスチック成形体であって、
上記配線パターンを構成し、上記プラスチック成形体の表面に形成された下地膜と、
上記下地膜が重なった上記プラスチック成形体の表面部分であって、金属元素含有微粒子、下地膜の材料および上記プラスチック成形体の材料とが混在した層とを含み、
上記混在した層の厚さが50〜1000nmであるプラスチック成形体。
【請求項9】
上記金属元素含有微粒子は、Ni、Co、Fe、Cu、Ag、Au、Rh、PdおよびPtからなる群から選択された1種類の金属錯体である請求項8記載のプラスチック成形体。
【請求項10】
上記プラスチック成形体についての上記配線パターンの輪郭部分は、上記配線パターンが形成された部分より窪んでいる請求項8または9記載のプラスチック成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−80495(P2010−80495A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244100(P2008−244100)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】