説明

配線基板及び配線基板の製造方法

【課題】バンプの先端部を尖鋭な形状にして電気的接続の信頼性を高めることができ、さらに、配線部の高密度配置、配置自由度の向上、及び、バンプと周囲との間の短絡防止を容易に実現することのできる配線基板を提供すること。
【解決手段】配線基板50は、基材51に形成されたベース部56の表面に突出部57が設けられたバンプ構造を有する。これによれば、配線基板50を接続対象の装置に押圧して接合する際に、バンプ先端に大きな荷重を集中して作用させることができるため、電気的接続の信頼性が向上する。また、押圧荷重を低く抑えつつ確実な接合を実現できる。さらに、ベース部56の表面が、突出部57が形成された一部領域を除いて絶縁膜54で覆われているため、配線部52の高密度配置及び配置自由度の向上、さらには、バンプと周囲との短絡防止を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板及び配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、センサやアクチュエータ等の様々な装置と電気的に接続される配線基板として、絶縁性材料からなる基材に形成された複数の配線部と、これら複数の配線部にそれぞれ接続されるとともに基材から突出した、複数の導電性の電気接続部(以下、バンプともいう)を備えたものが広く知られている。このような配線基板は、通常、複数のバンプが設けられた面が前記装置と対向した状態で装置に向けて押圧され、前記装置に設けられた複数の接点に複数のバンプがそれぞれ接触することで、前記装置と電気的に接続される。
【0003】
ここで、配線部材と装置との電気的接続の信頼性を向上させるには、配線基板を接続対象の装置に押しつけたときに、接点に接触するバンプの先端に大きな荷重が集中的に作用するように、バンプの先端部はできるだけ尖鋭な形状に形成されることが好ましい。特許文献1には、液滴噴射装置のノズルから噴射される液滴に電界を作用させつつ液滴を基材に着弾させ、基材上において尖鋭な形状となるように液滴を堆積させることで、尖鋭なバンプ(電気接続体)を基材に形成する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−299988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、配線部の高密度配置や配置自由度を高めるという観点からは、配線部を引き回す面積を広く確保するために、1本の配線部に対応する1つのバンプの大きさ(面積)をできるだけ小さくすることが好ましい。また、隣接する他のバンプ等、周囲との間の短絡を極力防止する目的からも、バンプをできるだけ小さく形成することが望ましい。
【0006】
しかしながら、各バンプの大きさ(面積)を小さくするには限度がある。特に、前記特許文献1のように、液滴噴射装置から噴射した液滴を基材に着弾させて、基材上にバンプを形成する場合には、着弾時に液滴が基材上においてある程度濡れ広がることは避けられないため、バンプの面積を小さくすることは難しい。
【0007】
本発明の目的は、バンプの先端部を尖鋭な形状にして電気的接続の信頼性を高めることができ、さらに、配線部の高密度配置、配置自由度の向上、及び、周囲との間の短絡防止を容易に実現することのできる、配線基板及び配線基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の配線基板は、基材と、前記基材に設けられた導電性材料からなる配線部と、前記基材の一表面に形成されるとともに、前記配線部と電気的に接続された導電性のベース部と、前記ベース部の表面をその一部領域を除いて覆うように設けられた絶縁膜と、前記ベース部の表面の、前記絶縁膜により覆われていない前記一部領域に設けられ、前記絶縁膜から突出する導電性の突出部とを有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の配線基板は、基材の一表面に形成された導電性のベース部の表面に、このベース部からさらに突出する突出部が設けられたバンプ構造を有する。そのため、この配線基板を接続対象の装置に押圧したときに、バンプ(突出部)先端に大きな荷重を集中して作用させることができるため、電気的接続の信頼性が向上する。言い換えれば、基板全体の押圧荷重を低く抑えつつも確実な接合を実現できる。
【0010】
さらに、ベース部の表面が、突出部が形成された一部領域を除いて絶縁膜で覆われているため、基材表面のベース部が配置されていない領域だけでなく、ベース部表面の絶縁膜で覆われた領域にも配線部を引き回すことができるため、配線部の高密度配置が可能になり、また、配置自由度も向上する。また、ベース部が絶縁膜で覆われることにより、隣接する他のバンプ等、周囲に存在する他の部材との間の短絡も極力防止できる。
【0011】
第2の発明の配線基板は、前記第1の発明において、前記突出部の表面の曲率は、前記ベース部の表面の曲率よりも大きいことを特徴とするものである。
【0012】
このように、突出部の曲率をベース部よりも大きくする(曲率半径を小さくする)ことで、突出部が尖鋭な形状となり、突出部の先端により大きな荷重を集中させることができる。
【0013】
第3の発明の配線基板は、前記第1又は第2の発明において、前記配線部は、前記ベース部と同じく前記基材の一表面に設けられ、前記絶縁膜は、前記配線部をも覆うように前記基材の一表面に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
このように、ベース部を覆う絶縁膜を、ベース部と同一の面上に設けられた配線部の被覆材と兼用することで、配線基板の構造が簡単になり、製造も容易になる。
【0015】
第4の発明の配線基板は、前記第1〜第3の何れかの発明において、前記突出部の硬度は、前記ベース部よりも高いことを特徴とするものである。
【0016】
突出部の硬度がベース部よりも高いと、接合時の荷重によって突出部がつぶれにくく、接合中に尖鋭な形状を保って先端部に高い荷重が集中する状態を維持できるため、電気的接続の信頼性が向上し、また、低い押圧荷重での接合も可能となる。また、ベース部の硬度が突出部よりも低いと、突出部の高さにばらつきがある場合に、ベース部の方が変形することにより高さばらつきを吸収できる。
【0017】
第5の発明の配線基板は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記絶縁膜が形成されない前記ベース部表面の前記一部領域は、前記ベース部の中央部からずれた位置にあり、前記一部領域に設けられる前記突出部は、前記ベース部の中央部からずれて位置していることを特徴とするものである。
【0018】
このように、突出部がベース部の中央部からずれた位置に設けられることで、1つのベース部に対して突出部を複数設けることが可能である。また、突出部の位置をベース部の中央部からずらすことで、突出部がベース部の中央部に設けられる場合と比べて、隣接するベース部間で、突出部の離間距離を大きくとることも可能となる。
【0019】
第6の発明の配線基板は、前記第5の発明において、1つの前記ベース部に、複数の前記突出部が設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
このように、1つのベース部に複数の突出部が設けられている場合には、1つのベース部を、複数の突出部を介して、接続対象の装置と複数箇所で接続することができるため、電気的接続の信頼性が一層高まる。また、1つのベース部と、対象装置の複数の接点とを、複数の突出部を介してそれぞれ接続することもでき、例えば、1つのベース部から複数の接点に対して同一の信号を同時に出力すること等が可能になる。
【0021】
第7の発明の配線基板は、前記第5の発明において、1つの前記ベース部に対して、1つの前記突出部が、前記ベース部の中央部からずれた領域に設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
1つのベース部に1つの突出部が設けられる場合に、突出部の位置をベース部からずらすことで、隣接するベース部間で、突出部の離間距離を大きくすることができる。これにより、突出部間の、配線部を通すことのできる領域が広くなるため、配線部の配置自由度が高まり、また、配線部の高密度配置が可能となる。また、突出部の離間距離を大きくすることで、ベース部とは違って絶縁膜に覆われていない、突出部の間での短絡を極力防止できる。
【0023】
第8の発明の配線基板の製造方法は、導電性材料からなる配線部が形成される基材の一表面に、前記配線部と電気的に接続される導電性のベース部を形成するベース部形成工程と、前記ベース部の表面に、このベース部よりも表面撥液性の高い絶縁膜を、前記ベース部の表面の一部領域を除いて覆うように形成する絶縁膜形成工程と、前記ベース部の表面の、前記絶縁膜により覆われていない前記一部領域に、液滴噴射装置から導電性材料の液滴を噴射して着弾させることにより、前記絶縁膜よりも突出した突出部を形成する突出部形成工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0024】
ベース部の表面に、液滴噴射装置により液滴を着弾させることにより、突出部をベース部表面の一部領域に精度よく形成することが可能である。ここで、ベース部の表面に、一部領域を除いて絶縁膜を形成してから、その一部領域に液滴を着弾させたときに、液滴は、撥液性の高い絶縁膜の上に乗り上げることができないため、一部領域外に濡れ広がらず、前記一部領域において絶縁膜から突出した突出部が形成される。この方法によれば、ベース部とこのベース部から突出する突出部とを有する、尖鋭なバンプ構造を容易に形成することができる。
【0025】
第9の発明の配線基板の製造方法は、前記第8の発明において、前記絶縁膜形成工程において、前記ベース部の表面全域を覆うように前記絶縁膜を形成した後に、前記一部領域を覆う前記絶縁膜を除去することを特徴とするものである。
【0026】
この方法によれば、一部領域を除いてベース部を覆う絶縁膜を、比較的容易に形成することができる。
【0027】
第10の発明の配線基板の製造方法は、前記第8又は第9の発明において、前記絶縁膜形成工程において、前記一部領域が前記ベース部の中央部からずれた位置となるように、前記絶縁膜を形成することを特徴とするものである。
【0028】
この方法によれば、絶縁膜が形成されていない一部領域に液滴を着弾させることによって形成される突出部の位置を、ベース部の中央部からずらすことができる。このように、突出部がベース部の中央部からずれていると場合には、1つのベース部に対して突出部を複数設けることが可能である。また、突出部をベース部の中央部からずらすことで、突出部がベース部の頂部に設けられる場合と比べて、隣接するベース部間で、突出部の離間距離を大きくとることが可能となる。
【0029】
第11の発明の配線基板の製造方法は、前記第10の発明において、前記ベース部形成工程において、前記ベース部を、その中央部において最も突出した形状に形成し、前記絶縁膜形成工程において、前記絶縁膜の、前記一部領域に対して前記中央部側に位置する領域の撥液性を、前記一部領域に対して前記中央部と反対側に位置する領域の撥液性よりも、高くすることを特徴とするものである。
【0030】
ベース部がその中央部において最も突出した形状に形成された上で、ベース部表面の、絶縁膜が形成されていない一部領域がベース部の中央部(頂部)からずれている場合には、前記一部領域の表面は基材の表面に対して傾斜する。そのため、この傾斜した一部領域の表面に液滴を着弾させて突出部を形成した場合、ベース部の表面形状等にもよるが、突出部はベース部の突出方向から傾いた方向に突出するため、突出部の先端位置がベース部の頂点よりも低くなってしまうことも考えられる。
【0031】
そこで、本発明においては、絶縁膜の、前記一部領域に対してベース部の中央部(頂部)側に位置する領域の撥液性を、前記一部領域に対して中央部と反対側の領域よりも高くすることで、一部領域に着弾した液滴の濡れ角がベース部の中央部側において大きくなり、その結果、突出部が、ベース部の中央部側において立った(ベース部表面に対する角度が大きい)形状となる。これにより、ベース部の中央部からずれた位置に突出部を設ける場合であっても、この突出部をベース部の中央部よりも高く突出させることが容易になる。
【0032】
第12の発明の配線基板の製造方法は、前記第8〜第11の何れかの発明において、前記ベース部形成工程において、前記基材の一表面に、液滴噴射装置から導電性材料の液滴を噴射して着弾させることにより、前記ベース部を形成することを特徴とするものである。
【0033】
このように、基材の表面に、液滴噴射装置から導電性の液滴を着弾させることにより、ベース部を精度よく形成することができる。また、ベース部と突出部をそれぞれ形成する導電性材料が同じ材料である場合には、1つの液滴噴射装置により、ベース部と突出部の形成を行うことが可能となる。
【0034】
第13の発明の配線基板の製造方法は、前記第8〜第12の何れかの発明において、前記ベース部の周囲領域に、液滴噴射装置から樹脂製接着剤の液滴を噴射して着弾させることにより、前記周囲領域に接着剤層を形成する接着剤層形成工程をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0035】
配線基板を接続対象の装置と接続する場合に、半田のように突出部を形成する導電性材料そのものを溶融させて、突出部と装置側の接点との電気的導通と機械的接合の両方を行う方法の他に、突出部は接点と当接させて電気的導通をとるだけとし、その当接状態を維持するために、突出部の周囲において、樹脂製接着剤を用いて配線基板と装置とを機械的に接合する方法も採用できる。この方法を採用する場合には、接続前に、ベース部の周囲領域に接着剤層を形成する必要があるが、本発明では、ベース部の周囲に接着剤の液滴を液滴噴射装置により着弾させることで、ベース部の周囲領域に、接着剤層を精度よく形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の配線基板は、基材の一表面に形成された導電性のベース部の表面に突出部が設けられたバンプ構造を有する。そのため、この配線基板を接続対象の装置に押圧して接合する際に、バンプ(突出部)先端に大きな荷重を集中して作用させることができるため、電気的接続の信頼性が向上する。また、基板全体の押圧荷重を低く抑えつつ確実な接合を実現できる。さらに、ベース部の表面が、突出部が形成された一部領域を除いて絶縁膜で覆われているため、基材表面のベース部が配置されていない領域だけでなく、ベース部表面の絶縁膜で覆われた領域にも配線部を引き回すことができるため、配線部の高密度配置が可能になり、また、配置自由度も向上する。また、隣接する他のバンプ等、周囲に存在する他の部材との間の短絡も極力防止できる。
【0037】
また、本発明の配線基板の製造方法によれば、ベース部の表面に、液滴噴射装置により液滴を着弾させることにより、突出部をベース部表面の一部領域に精度よく形成することが可能である。また、ベース部の表面に一部領域を除いて絶縁膜を形成してから、ベース部に液滴を着弾させたときに、液滴は、撥液性の高い絶縁膜の上に乗り上げることができないため、前記一部領域に絶縁膜から突出した突出部が形成される。このように、ベース部とこのベース部から突出する突出部とを有する、尖鋭なバンプ構造を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、インクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドの液滴噴射用圧電アクチュエータに接続されるフレキシブルプリント配線基板に、本発明を適用した例である。
【0039】
まず、インクジェットプリンタ100について説明する。図1はインクジェットプリンタの概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の左右方向に移動可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に設けられ、記録用紙Pに対してインクを噴射するシリアル型のインクジェットヘッド1と、記録用紙Pを図1の前方へ搬送する搬送ローラ3を備えている。
【0040】
インクジェットヘッド1は、キャリッジ2と一体的に図1の左右方向へ移動しつつ、図示しないインクカートリッジから供給されたインクを、その下面に配置されたノズル20(図2〜図5参照)から記録用紙Pに対してインクを噴射する。また、搬送ローラ3は、記録用紙Pを図1の前方へ搬送する。そして、インクジェットプリンタ100は、インクジェットヘッド1のノズル20から記録用紙Pへインクを噴射させながら、搬送ローラ3により記録用紙Pを前方へ搬送させることで、記録用紙Pに所望の画像や文字等を記録するように構成されている。
【0041】
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図2は、インクジェットヘッドの一部平面図、図3は、図2のIII-III線断面図である。
【0042】
図2、図3に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20及び圧力室14を含むインク流路が形成された流路ユニット4と、圧力室14内のインクに圧力を付与することにより、流路ユニット4のノズル20からインクを噴射させる圧電アクチュエータ5とを備えている。圧電アクチュエータ5の上面には、プリンタ100の制御基板に接続された給電用のフレキシブルプリント配線基板(FPC)50が接合されている。尚、図2においては、図面の簡単のため、FPCは仮想線で示されている。
【0043】
まず、流路ユニット4について説明する。図3に示すように、流路ユニット4はキャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及びノズルプレート13を備えており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されている。
【0044】
4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、平面に沿って配列された複数の圧力室14が形成されている。各圧力室14は、平面視で走査方向(図2の左右方向)に長い、略楕円形状に形成されている。複数の圧力室14は、紙送り方向(図2の上下方向)に沿って千鳥状に配列されている。尚、千鳥状に配列された2列の圧力室列21により、1色のインクに対応する1組の圧力室群22が構成されており、さらに、複数色のインク(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色)にそれぞれ対応した複数組の圧力室群22が、走査方向に並べられている。尚、図2は、インクジェットヘッド1の上面の一部領域のみを示す一部上面図であり、それゆえ、図2では、1組の圧力室群22に属する2列の圧力室列21と、これに隣接する別組の圧力室群22に属する1列の圧力室列21の、計3列の圧力室列21のみが示されている。
【0045】
キャビティプレート10に形成された複数の圧力室14の下部はベースプレート11により覆われ、これら複数の圧力室14は流路ユニット4の上面においてそれぞれ開口している。さらに、後述する圧電アクチュエータ5が流路ユニット4の上面に接合されることによって、複数の圧力室14の上部が、圧電アクチュエータ5に覆われた構造となっている。また、図2に示すように、キャビティプレート10には、1組の圧力室群22毎にインク供給口18が形成されており、各インク供給口18は、インクジェットヘッド1の上方(図2の紙面手前側)に配置されるとともに図示しないインクカートリッジに接続されたインクタンク(図示省略)と接続される。
【0046】
図2、図3に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、平面視で、圧力室14の連通孔15側の部分と重なるように、紙送り方向に延びる複数のマニホールド17が形成されている。1組の圧力室群22(2列の圧力室列21)に対応する2つのマニホールド17は、キャビティプレート10に形成された1つのインク供給口18に連通しており、インクタンクからインク供給口18を介してマニホールド17へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド17と反対側の端部と重なる位置には、複数の連通孔16にそれぞれ連なる複数の連通孔19が形成されている。
【0047】
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19に重なる位置には、複数のノズル20がそれぞれ形成されている。図2に示すように、ノズル20は、対応する圧力室14の、マニホールド17と反対側の端部とそれぞれ重なるように配置されている。これにより、複数のノズル20は、複数の圧力室14とそれぞれ対応して千鳥状に配列されている。
【0048】
そして、図3に示すように、マニホールド17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット4内には、マニホールド17から圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路が複数形成されている。
【0049】
次に、圧電アクチュエータ5について説明する。図2、図3に示すように、圧電アクチュエータ5は、複数の圧力室14を覆うように流路ユニット4の上面に接合された金属製の振動板30と、この振動板30の上面(圧力室14と反対側の面)に配置された圧電層31と、圧電層の上面に配置された複数の個別電極32とを備えている。
【0050】
振動板30は、平面視で略矩形状の金属板であり、例えば、ステンレス鋼等の鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に、複数の圧力室14を覆うように接合されている。また、この導電性を有する振動板30の上面は、複数の個別電極32との間で圧電層31を挟み、この圧電層31に厚み方向の電界を生じさせる共通電極を兼ねており、この共通電極としての振動板30は常にグランド電位に保持されている。
【0051】
振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする、圧電材料からなる圧電層31が形成されている。この圧電層31は、複数の圧力室14を覆うように連続的に形成されている。
【0052】
圧電層31の上面には、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有する複数の個別電極32が、複数の圧力室14の中央部と対向する領域にそれぞれ形成されている。この個別電極32は金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる。
【0053】
さらに、複数の個別電極32の連通孔15側の端部からは、個別電極32と同じく導電性材料からなる複数の端子部35が、圧力室14の周縁を越えて外側の領域まで引き出されている。これら複数の端子部35には、可撓性を有するフレキシブルプリント配線基板(FPC)50のバンプ53が接合される。FPC50の具体的な構造については後ほど説明する。各個別電極32は、端子部35、及び、FPC50に形成された配線部52を介して、FPC50上に実装されたドライバIC(図示省略)と電気的に接続されている。
【0054】
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ5の作用について説明する。FPC50に実装されたドライバICから、ある個別電極32に対して駆動信号が印加されて、圧電層31上側の個別電極32と、グランド電位に保持されている圧電層31下側の共通電極としての振動板30の電位が互いに異なる状態となったときには、個別電極32と振動板30の間に挟まれた、駆動領域の圧電層31に厚み方向の電界が生じる。そして、圧電層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層31はその分極方向である厚み方向に伸びて水平方向に収縮し、この圧電層31の収縮変形に伴って、振動板30の圧力室14と対向する領域が圧力室14側に変位して、振動板30が圧力室14側に凸となるように変形する。このとき、圧力室14の容積が減少することからその内部のインクに圧力が付与され、圧力室14に連通するノズル20からインクの液滴が噴射される。
【0055】
次に、圧電アクチュエータ5に駆動信号を供給するFPC50について詳細に説明する。図4は、FPC50の上面図であり、図5は、図3に示されるFPC50の一部拡大断面図である。図2〜図5に示すように、FPC50は、基材51と、この基材51の下面(図3において圧電アクチュエータ5と対向する面)に設けられた複数の配線部52と、複数の配線部52の先端部にそれぞれ設けられ導電性を有する複数のバンプ53と、基材51の下面において複数の配線部52を覆うように設けられた絶縁膜54とを有する。
【0056】
基材51は、ポリイミド等の絶縁性樹脂材料からなり、可撓性を有するものである。図4、図5に示すように、この基材51の、圧電アクチュエータ5と対向する下面には、銅などの導電性材料からなる複数の配線部52が形成されている。また、これら複数の配線部52の先端部には、銀や白金などの導電性材料からなる複数のバンプ53がそれぞれ設けられている。そして、図4に示すように、複数の配線部52は、基材51の下面において、複数のバンプ53の間をぬうように引き回されている。また、これら複数の配線部52は、フッ素系樹脂等の絶縁材料からなる絶縁膜54によって覆われている。尚、図5に2点鎖線で示すように、FPC50を圧電アクチュエータ5と接合する際に、複数のバンプ53の周囲をそれぞれ取り囲むように、エポキシ樹脂等の熱硬化性接着剤からなる接着剤層55が設けられる。
【0057】
そして、このFPC50は、圧電アクチュエータ5の上面に対向した状態で、ヒーター等により加熱された状態で圧電アクチュエータ5に押圧される。これにより、複数のバンプ53が圧電アクチュエータ5上面の複数の端子部35にそれぞれ電気的に接続された状態で、接着剤層55が硬化することにより、FPC50と圧電アクチュエータ5が機械的に接合される。
【0058】
次に、バンプ53の構造についてさらに詳細に説明する。図5に示すように、バンプ53は、基材51の下面に形成されるとともに、対応する配線部52の先端部に電気的に接続された導電性を有するベース部56と、ベース部56の表面に設けられた導電性の突出部57とを備えている。
【0059】
ベース部56は、銀、金、白金、ニッケル、錫や、これらの合金等の導電性材料により形成されている。このベース部56はある程度の表面積を有するものであれば、その形状は特に限定されるものではないが、本実施形態では中央部において最も突出した半球状に形成されている。ここで、このベース部56の表面は、その中央部(頂部)を含む一部領域56aを除き、前述したフッ素系樹脂等からなり、配線部52を保護する絶縁膜54によって覆われている。即ち、絶縁膜54は、複数のベース部56の一部領域56aを除いて、基材51の下面全域に形成されている。
【0060】
突出部57は、ベース部56と同じく、銀や白金などの導電性材料により形成されている。また、この突出部57は、ベース部56の表面のうち、前記絶縁膜54によって覆われていない、中央部(頂部)を含む一部領域56aにおいて、絶縁膜54から突出するように設けられている。また、突出部57の先端部の曲率は、半球状のベース部56の曲率よりも大きく(曲率半径が小さく)、突出部57において尖鋭なバンプ形状となっている。
【0061】
そのため、FPC50を圧電アクチュエータ5に押圧して接合する際に、バンプ53が半球状のベース部56のみからなる場合と比べて、バンプ53(突出部57)先端に大きな荷重を集中して作用させることができるため、バンプ53と圧電アクチュエータ5の端子部35との間の電気的接続の信頼性が向上する。別の言い方をすれば、FPC50全体の押圧荷重を低く抑えつつも、確実な接合を実現できる。また、突出部57の先端部の曲率がベース部56の曲率よりも大きくなっていることで、突出部57が尖鋭な形状となり、突出部57の先端により大きな荷重を集中させることができる。
【0062】
さらに、ベース部56の表面が、突出部57が形成された一部領域56aを除いて絶縁膜54で覆われているため、基材51の表面のバンプ53が配置されていない領域だけでなく、バンプ53の表面の一部、即ち、ベース部56の表面の絶縁膜54で覆われた領域にも配線部52を引き回すことが可能となる。つまり、図4において、2つのバンプ53の間で配線部52を通すことができる領域として、ベース部56の絶縁膜54で覆われた領域56bが加わることから、配線部52の高密度配置が可能になり、また、配置自由度も向上する。また、ベース部56の表面が絶縁膜54によって覆われることで、あるバンプ53とこれに隣接する他のバンプ53、あるいは、その周囲に存在する他のヘッド構成部材等との間の短絡を極力防止できる。
【0063】
尚、本実施形態では、図5に示すように、バンプ53の周囲には樹脂材料からなる接着剤層55が存在するために、バンプ53と他部材との間の短絡はある程度防止されることが期待されるが、接着剤層55はあくまでもFPC50と圧電アクチュエータ5の機械的接合のために設けられるものであって、バンプ53の被覆を目的とするものではないため、接着剤層55がバンプ53を完全に覆うように配置されるとは限らない。つまり、接着剤層55による短絡防止はそれほど期待できるものではなく、それゆえ、バンプ53の中で大きな部分を占めるベース部56が絶縁膜54に覆われていることは、短絡防止の観点から大きな意義がある。
【0064】
また、複数の配線部52と複数のバンプ53のベース部56とが基材51の同じ面(下面)に設けられ、絶縁膜54が、ベース部56の表面(一部領域56aを除く)と配線部52の両方を一度に覆うように構成されている。このように、ベース部56の表面を覆う絶縁膜54が、このベース部56と同一の面上に設けられた配線部52の被覆材にも兼用されていることから、ベース部56と配線部52をそれぞれ覆う膜を別々に構成した場合と比較して、FPC50の構造が簡単になり、製造も容易になる。
【0065】
次に、前述したバンプ53構造を有するFPC50を製造する方法について、図6、図7を参照して説明する。
【0066】
まず、図6(a)に示すように、ポリイミド等の合成樹脂材料からなる基材51の一表面(図中上面)に、銅などの導電性材料からなる複数の配線部52を、スクリーン印刷やスパッタ法などにより形成する。
【0067】
次に、複数の配線部52が形成された基材51の上面に、これら複数の配線部52と電気的に接続される導電性の複数のベース部56を形成する(ベース部形成工程)。このベース部56の形成は、スクリーン印刷等の方法でも可能であるが、本実施形態では、図6(b)に示すように、配線部52の先端部の位置に、液滴噴射装置200のノズル200aから導電性材料の液滴60を噴射して着弾させ、着弾した液滴60を硬化させることによりベース部56を形成する。尚、液滴60は、基材51に着弾したときにその表面張力の作用によって半球状に形状を変化させるため、図6(c)に示すように、液滴の硬化後に得られるベース部56も半球状となる。このように、基材51の上面に、液滴噴射装置200から導電性の液滴60を着弾させる方法を採用すると、他の方法と比較して、ベース部56を精度よく形成することができる。
【0068】
導電性材料の液滴60としては、例えば、ナノ銀粒子を溶剤中に分散させて得られた、ナノ銀粒子ペースト等の金属ナノペースト(金属ナノインク)を使用できる。尚、このような金属ナノインクの液滴を用いる場合には、液滴噴射装置200からの液滴60を着弾させた後、基材51を所定温度(例えば、150℃)以上に加熱して、着弾した液滴60を硬化させる工程が必要である。あるいは、液状樹脂に金属粒子を配合したもの(例えば、合成ゴム系樹脂に金粒子等の導電性粒子を拡散させた、異方性導電ペースト(ACP)等)を採用してもよい。さらに、液滴60として溶融した金属を用いることもできる。この場合には、液滴60が基材51に着弾した後、自然に冷却固化することにより、ベース部56が形成されることになる。尚、液滴噴射装置200の構成は特に限定されるものではなく、ベース部56のサイズに応じた液滴径(液滴体積)を有する液滴60を噴射することが可能であれば、どのような構成の装置を使用してもよい。
【0069】
次に、配線部52及びベース部56が形成された基材51の上面に絶縁膜54を形成する(絶縁膜形成工程)。本実施形態においては、まず、図6(d)に示すように、基材51の上面に、半球状の複数のベース部56の表面全域と複数の配線部52を覆うように、CVDやスピンコート等の方法を用いて絶縁膜54を形成する。ここで、絶縁膜54としては、その表面撥液性が、導電性材料からなるベース部56よりも高くなるような材料を選択する。例えば、フッ素系樹脂を好適に使用できる。
【0070】
その後、図6(e)に示すように、ベース部56の頂部を含む一部領域56aにおいて、レーザー加工等により、絶縁膜54を部分的に除去する。これにより、ベース部56の中央部(頂部)において、ベース部56の表面が露出した状態となる。
【0071】
このように、一度、ベース部56の表面全域に絶縁膜54を形成してから、ベース部56の表面の一部領域56aの絶縁膜54を除去するという工程を経ることで、一部領域56aを除いてベース部56を覆う絶縁膜54を、比較的容易に形成することができる。但し、絶縁膜54の形成方法は、上記方法に限られるわけではなく、CVD等にマスクを併用することで、基材51の上面の、前記一部領域56aを除いた領域に、絶縁膜54を1工程で形成することも可能である。
【0072】
次に、図7(a),(b)に示すように、ベース部56の表面の、絶縁膜54により覆われていない一部領域56aに、液滴噴射装置201のノズル201aから導電性材料の液滴61を噴射して着弾させることにより、ベース部56を覆う絶縁膜54から突出した突出部57を形成する(突出部形成工程)。
【0073】
絶縁膜54が形成されていないベース部56の表面の一部領域56aは、その周囲の絶縁膜54が形成された領域よりも撥液性が低くなっている。そのため、図7(b)に示すように、前記一部領域56aに液滴61が着弾したときには、液滴61は、周囲の絶縁膜54上へ濡れ広がることができず、代わりに、上方へ鋭く突出した尖鋭な形状に変化する。従って、周囲に濡れ広がることのできない液滴61によって形成される突出部57の曲率は、周囲に濡れ広がることのできる液滴60によって形成される前記ベース部56(図6(b),(c)参照)よりも小さくなる。
【0074】
このように、ベース部56の表面の一部領域56aに、液滴噴射装置201により液滴61を着弾させることにより、突出部57をベース部56の表面の一部領域56aに精度よく形成することが可能である。また、ベース部56の表面に、一部領域56aを除いて表面撥液性の高い絶縁膜54を形成した上で、絶縁膜54が形成されていない一部領域56aに液滴を着弾させるだけで、ベース部56から突出した突出部57を有する、尖鋭なバンプ53を容易に形成することができる。
【0075】
突出部57を形成する際に用いる導電性材料の液滴61としては、前記ベース部56と同じく、例えば、ナノ銀粒子を溶剤中に分散させて得られた、ナノ銀粒子ペースト等の金属ナノペースト(金属ナノインク)を使用できる。また、金属ナノインクの液滴を用いる場合には、液滴噴射装置201からの液滴61をベース部56の表面の一部領域56aに着弾させた後、基材51を所定温度以上に加熱して、着弾した液滴61を硬化させる工程が必要である。また、前記ベース部56と同様、液状樹脂に金属粒子を配合したものや、溶融した金属を用いることもできる。また、この突出部57を形成するための液滴噴射装置201の構成も特に限定されるものではなく、突出部57のサイズに応じた液滴径(液滴体積)を有する液滴61を噴射することが可能であれば、どのような構成の装置を使用してもよい。
【0076】
尚、本実施形態では、共に導電性材料からなるベース部56と突出部57とを、液滴噴射装置200,201からそれぞれ噴射された液滴60,61を着弾させることによって形成しているが、ベース部56と突出部57をそれぞれ形成する導電性材料が同じ材料である場合には、共通の液滴噴射装置から液滴を噴射させて、ベース部56と突出部57の形成を行うことが可能となる。
【0077】
最後に、基材51の上面の、ベース部56の周囲領域に、熱硬化性樹脂からなる接着剤層55を形成する(接着剤層形成工程)。この接着剤層55は、塗布などの方法でも形成することは十分可能であるが、本実施形態では、図7(c)に示すように、液滴噴射装置202のノズル202aから樹脂製接着剤の液滴62を噴射して着弾させることにより、ベース部56の周囲領域に接着剤層55を形成する。このように、ベース部56の周囲領域に接着剤の液滴62を液滴噴射装置202により着弾させることで、ベース部56の周囲の狭い領域に、接着剤層55を精度よく形成することが可能となる。
【0078】
尚、先にも少し述べたが、本実施形態では、ベース部56の表面が一部領域56aを除いて絶縁膜54によって覆われているため、この絶縁膜54で覆われたベース部56の表面に、別のベース部56に接続された配線部52など、様々な配線部を形成することが可能である。但し、この場合には、ベース部56上に絶縁膜54を介して形成された配線部52を、改めて絶縁材料で被覆することが好ましい。あるいは、ベース部56の周囲領域に設けられる、樹脂材料からなる絶縁性の接着剤層55によって、上述したベース部56上に形成される配線部52を被覆することも可能である。
【0079】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0080】
1]図5に示される前記実施形態のバンプ53は銀や白金等で形成されており、FPC50を圧電アクチュエータ5へ向けて押圧する際のヒーター等による加熱によって溶融するものではなく、バンプ53の突出部57と圧電アクチュエータ5の端子部35とは互いに接触するだけである。その上で、FPC50をヒーターで加熱してバンプ53の周囲に配された接着剤層55を加熱して硬化させることで、FPC50と圧電アクチュエータ5とを接着剤層55によって機械的に接合して、突出部57と端子部35の電気的接続状態を維持するようになっている。
【0081】
しかし、本願発明の適用は、上記のようなバンプに限られるものではなく、半田のように、FPC50の接合時の加熱によって溶融する導電性材料からなるバンプであってもよい。即ち、FPC50をヒーターで加熱しながら押圧することで、押圧されたFPC50のバンプ53の突出部57が圧電アクチュエータ5の端子部35と接触したときに、半田からなるバンプ53が溶融して、このバンプ53が、FPC50と圧電アクチュエータ5の電気的接続だけでなく、両者の機械的接合を行うものであってもよい。この場合でも、バンプ53が、ベース部56とこのベース部56から突出した突出部57とを有する尖鋭な形状となっているため、突出部57の先端に荷重が集中して作用することになり、バンプ53と端子部35とを確実に接続できる。尚、この場合には、前記実施形態のように、ベース部56の周囲に接着剤層55を形成する工程は不要である。また、半田からなる液滴は基材51に着弾した後に自然硬化するため、硬化させる工程も必要ない。
【0082】
また、ベース部56の表面の、突出部57が形成された一部領域56a以外の領域は、撥液性の高い絶縁膜54によって覆われている。そのため、バンプ53の突出部57が溶融したときに、溶融した導電性材料が、この突出部57の周囲の絶縁膜54の上には移動しにくいため、バンプ53が広範囲に濡れ広がってしまうのを防止できる。
【0083】
2]前記実施形態のバンプ53においては、絶縁膜54がベース部56の中央部を含む一部領域56aを除いて形成され、この一部領域56aの表面において突出部57が突出しているが、図8に示すように、絶縁膜54が形成されない一部領域56aがベース部56の中央部からずれた位置にあり、突出部57がベース部56の中央部からずれて位置したものであってもよい。このように、突出部57がベース部56の中央部からずれた位置に設けられる場合には、以下の1)、2)のような利点がある。
【0084】
1)突出部57をベース部56の中央部からずらすということは、言い換えれば、突出部57の位置を、ベース部56の表面上で自由に選択することができるということである。そのため、例えば、隣接するバンプ53間で、突出部57の離隔距離が大きくすることが可能となる。
【0085】
以下にその一例を挙げる。図9〜図11に示すように、図9中右側2列の圧力室列21に対応する、FPC50Aの2列のバンプ53Aの列において、一方の列に属するバンプ53Aの突出部57の位置が、他方の列に属するバンプ53Aから離れる方向に、ベース部56の中央部に対してずれている。即ち、左列のバンプ53Aにおいては突出部57がベース部56の中央部よりも左側にずれており、また、右列のバンプ53Aにおいては突出部57が右側にずれている。
【0086】
これにより、隣接するバンプ53間で、突出部57の離間距離L(図11参照)が大きくなっている。また、ベース部56の表面は、突出部57が形成されている一部領域56a以外は、絶縁膜54で覆われている。そのため、図11に示すように、これら2つのバンプ53Aの突出部57の間に、より多くの配線部52を通すことが可能となり、配線部52の配置自由度が高まる。また、突出部57の離間距離を大きくすることで、ベース部56とは違って絶縁膜54に覆われていない、突出部57の間での短絡を極力防止できる。
【0087】
2)突出部57をベース部56の中央部からずらすことで、図12に示すように、1つのベース部56に2以上の複数の突出部57を設けることが可能となる。
【0088】
そのため、図12(a)に示すように、バンプ53Bを、その複数の突出部57のそれぞれにおいて、圧電アクチュエータ5の1つの端子部35と接続することができる。一般に、2つの部材を電気的に接続する際に、その接続箇所が多いと、一部の電気的接続が不良となっても部材間の導通状態は維持されるため、接続箇所を多くするほど電気的接続の信頼性が高まると言える。従って、1つのバンプ53Bと1つの端子部35とが複数の突出部57を介して接続されることにより、電気的接続の信頼性を向上させることができる。
【0089】
あるいは、図12(b)に示すように、圧電アクチュエータ5の複数(2つ)の端子部35とそれぞれ接続することができる。これら2つの端子部35は、1つの電極(個別電極32)から共通に引き出されたものであってもよいが、別々の電極からそれぞれ引き出されたものであってもよい。1つの電極から共通に引き出された2つの端子部35とバンプ53Bの2つの突出部57とがそれぞれ接続される場合には、前述した図12(a)の形態と同様に、1つの電極とバンプ53Bとの電気的接続の信頼性が高まるという点で有利である。一方、異なる2つの電極からそれぞれ引き出された2つの端子部35と、1つのバンプ53Bの2つの突出部57が接続される場合には、1つのバンプ53B(これに接続されたFPCの配線部52)から、2つの電極に対して同一の駆動信号を同時に出力することが可能となる。
【0090】
以上の、突出部57がベース部56の中央部からずれたバンプ53A(53B)は、基本的には、前記実施形態と同様の方法で基材51上に形成することが可能である。
【0091】
まず、図13(a)に示すように、液滴噴射装置から導電性の液滴を噴射して着弾させる等の方法により、基材51の一表面にベース部56を形成する。次に、図13(b)に示すように、スピンコート等の方法により、ベース部56の表面全域を覆うように絶縁膜54を形成してから、ベース部56の中央部からずれた一部領域56aの絶縁膜54をレーザー加工等により除去する。そして、図13(c)に示すように、ベース部56の表面の、絶縁膜54が形成されていない一部領域56aに、液滴噴射装置から導電性の液滴を噴射して着弾させることにより、絶縁膜54から突出する突出部57を形成する。
【0092】
但し、図13のように、ベース部56が、その中央部において最も突出した形状を有する場合には、以下の点に留意する必要がある。ベース部56の表面に着弾した液滴は、その表面張力の作用により、一般には、ベース部56の表面と直交する方向に盛り上がった形状となる。ここで、ベース部56の中央部からずれた一部領域56aにおいては、その表面は基材51の面方向に対して傾斜しているため、その一部領域56aの表面に液滴を着弾させて突出部57を形成したときに、通常は、突出部57はベース部56の突出方向に対してやや傾いた方向に突出することになる。そのため、場合によっては、突出部57の先端位置がベース部56の頂点よりも低くなってしまうことも考えられる。
【0093】
そこで、例えば、図13(c)、図14に示すように、絶縁膜54の、一部領域56aに対してベース部56の中央部(頂部)側に位置する領域54aの撥液性を、一部領域56aに対して中央部と反対側の領域54bよりも高くする。具体的には、例えば、領域54bにレーザーを照射することにより絶縁膜54の表面粗さを変化させることで、中央部側の領域54aよりも撥液性を低下させることができる。あるいは、レーザー照射により領域54bの絶縁膜54に多数の孔をあける、あるいは、絶縁膜54の一部領域56aとの縁部をジグザグ形状に加工するなどして、撥液性が高い絶縁膜54が存在する部分と絶縁膜54が存在しない部分とを共存させるようにして、この領域54bの撥液性を低下させることもできる。
【0094】
このように、一部領域56aを挟む2つの領域54a,54b間で絶縁膜54の撥液性に差を生じさせることで、一部領域56aに着弾した液滴の濡れ角がベース部56の中央部側において大きくなり、その結果、突出部57が、ベース部56の中央部側において立った(ベース部56表面に対する角度が大きい)形状となる。そのため、ベース部56の中央部からずれた位置に突出部57を設ける場合であっても、この突出部57をベース部56の中央部よりも高く突出させることが容易になる。
【0095】
3]バンプ53を構成するベース部56と突出部57は、同じ導電性材料で形成する必要は必ずしもなく、異なる材料でそれぞれ形成してもよい。この場合には、突出部57を、ベース部56よりも硬度の高い(硬い)材料で形成することが好ましい。突出部57の硬度がベース部56よりも高いと、接合時の荷重によって突出部57がつぶれにくく、接合中に尖鋭な形状を保って先端部に高い荷重が集中する状態を維持できるため、電気的接続の信頼性が向上し、また、低い押圧荷重での接合も可能となる。また、ベース部56の硬度が突出部57よりも低いと、複数のバンプ53間で突出部57の高さにばらつきがある場合に、ベース部56の方が変形することにより高さばらつきを吸収できる。尚、表1に、ベース部56及び突出部57として使用可能な導電性材料の例示する。
【0096】
【表1】

【0097】
4]前記実施形態では、基材51の一表面に、バンプ53のベース部56とこのベース部56に接続された配線部52が共に形成された上で、ベース部56を覆う絶縁膜54と、基材51の表面の配線部52を覆う絶縁膜54とが、1種類の絶縁膜54で兼用されていたが、本発明はそのような形態には限定されない。例えば、配線部52は、ベース部56と、基材51の同じ面に形成されている必要はなく、配線部52がベース部56とは反対側の面に形成され、基材51に形成されたスルーホール等を介して配線部52がベース部56と電気的に接続されてもよい。あるいは、基材51が2枚以上のシート状部材が積層された構造を有し、配線部52が基材51の内部(複数のシート状部材の間)に形成されてもよい。これらの形態では、ベース部56と配線部52が同一平面上にないため、バンプ53の形成面に設けられる絶縁膜54は、ベース部56のみを覆う構成となる。さらに、この場合には、絶縁膜54は基材51の一表面のほぼ全域に形成されて複数のベース部56を一度に覆うものである必要は必ずしもなく、複数のベース部56を個別に覆うように、基材51の一表面に離散的に設けられてもよい。
【0098】
5]前記実施形態では、FPC50側に、ベース部56及び突出部57を有するバンプ53が形成されていたが、このFPC50と接合される圧電アクチュエータ5の圧電層31の表面に、同様の構成を有するバンプ53が個別電極32に接続された状態で配置され、圧電アクチュエータ5側のバンプ53がFPC50側の接点と電気的に接続されてもよい。この場合には、圧電アクチュエータ5が本願発明の配線基板に相当し、また、バンプ53が形成される圧電層31が本願発明の基材、圧電層31上面に設けられてバンプ53と接続される個別電極32が本願発明の配線部に相当する。
【0099】
以上、本発明の実施形態として、インクジェットプリンタのインクジェットヘッド、及び、それに接続されるFPCを例に挙げて説明したが、本発明を適用可能な対象はこれに限られない。例えば、圧電アクチュエータ以外の各種アクチュエータに駆動信号を出力する配線基板、あるいは、各種センサの端子部に接続されて、このセンサからの出力信号を制御装置等に送信する配線基板などにも適用可能である。さらには、対象となる配線基板は可撓性を有する基板に限られるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの一部平面図である。
【図3】図2のIII-III線断面図である。
【図4】FPCの一部上面図である。
【図5】図3に示されるFPCの一部拡大図である。
【図6】FPCの製造工程(前半部分)を示す図であり、(a)は配線部形成、(b)はベース部形成、(c)はベース部形成完了、(d)は絶縁膜形成、(e)は絶縁膜の一部除去、をそれぞれ示す。
【図7】FPCの製造工程(後半部分)を示す図であり、(a)は突出部形成、(b)は突出部形成完了、(c)は接着剤層形成をそれぞれ示す。
【図8】変更形態に係るFPCの一部拡大断面図である。
【図9】変更形態のインクジェットヘッドの一部平面図である。
【図10】図9のX-X線断面図である。
【図11】FPCの一部平面図である。
【図12】別の変更形態に係るFPCの一部拡大断面図であり、(a)は2つの突出部が共通の端子部に接続される場合、(b)は2つの突出部が異なる端子部に接続される場合をそれぞれ示す。
【図13】変更形態のFPCの製造工程を示す図であり、(a)はベース部形成、(b)は絶縁膜形成、(c)は突出部形成、をそれぞれ示す。
【図14】図13(c)を上方から見た図である。
【符号の説明】
【0101】
50 フレキシブル配線基板
51 基材
52 配線部
53,53A,53B バンプ
54 絶縁膜
55 接着剤層
56 ベース部
56a 一部領域
57 突出部
60,61,62 液滴噴射装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に設けられた導電性材料からなる配線部と、
前記基材の一表面に形成されるとともに、前記配線部と電気的に接続された導電性のベース部と、
前記ベース部の表面をその一部領域を除いて覆うように設けられた絶縁膜と、
前記ベース部の表面の、前記絶縁膜により覆われていない前記一部領域に設けられ、前記絶縁膜から突出する導電性の突出部と、
を有することを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記突出部の表面の曲率は、前記ベース部の表面の曲率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記配線部は、前記ベース部と同じく前記基材の一表面に設けられ、
前記絶縁膜は、前記配線部をも覆うように前記基材の一表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記突出部の硬度は、前記ベース部よりも高いことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の配線基板。
【請求項5】
前記絶縁膜が形成されない前記ベース部表面の前記一部領域は、前記ベース部の中央部からずれた位置にあり、
前記一部領域に設けられる前記突出部は、前記ベース部の中央部からずれて位置していることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の配線基板。
【請求項6】
1つの前記ベース部に、複数の前記突出部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の配線基板。
【請求項7】
1つの前記ベース部に対して、1つの前記突出部が、前記ベース部の中央部からずれた領域に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の配線基板。
【請求項8】
導電性材料からなる配線部が形成される基材の一表面に、前記配線部と電気的に接続される導電性のベース部を形成するベース部形成工程と、
前記ベース部の表面に、このベース部よりも表面撥液性の高い絶縁膜を、前記ベース部の表面の一部領域を除いて覆うように形成する絶縁膜形成工程と、
前記ベース部の表面の、前記絶縁膜により覆われていない前記一部領域に、液滴噴射装置から導電性材料の液滴を噴射して着弾させることにより、前記絶縁膜よりも突出した突出部を形成する突出部形成工程と、
を備えていることを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜形成工程において、前記ベース部の表面全域を覆うように前記絶縁膜を形成した後に、前記一部領域を覆う前記絶縁膜を除去することを特徴とする請求項8に記載の配線基板の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁膜形成工程において、前記一部領域が前記ベース部の中央部からずれた位置となるように、前記絶縁膜を形成することを特徴とする請求項8又は9に記載の配線基板の製造方法。
【請求項11】
前記ベース部形成工程において、前記ベース部を、その中央部において最も突出した形状に形成し、
前記絶縁膜形成工程において、前記絶縁膜の、前記一部領域に対して前記中央部側に位置する領域の撥液性を、前記一部領域に対して前記中央部と反対側に位置する領域の撥液性よりも、高くすることを特徴とする請求項10に記載の配線基板の製造方法。
【請求項12】
前記ベース部形成工程において、前記基材の一表面に、液滴噴射装置から導電性材料の液滴を噴射して着弾させることにより、前記ベース部を形成することを特徴とする請求項8〜11の何れかに記載の配線基板の製造方法。
【請求項13】
前記ベース部の周囲領域に、液滴噴射装置から樹脂製接着剤の液滴を噴射して着弾させることにより、前記周囲領域に接着剤層を形成する接着剤層形成工程をさらに備えていることを特徴とする請求項8〜12の何れかに記載の配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−80638(P2010−80638A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246464(P2008−246464)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】