説明

配線形成用多層フィルムおよびこれを用いた多層配線基板の製造方法

【課題】 多層配線基板に線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができ、ポジ型感光性樹脂膜の剥離容易性と接着性とを両立させた配線形成用多層フィルムおよびこれを用いた多層配線基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 基材となる樹脂フィルム1上に、少なくとも表面にシリコーンまたはフッ素を含む粘着性樹脂膜2が形成され、該粘着性樹脂膜2の上に非粘着性樹脂膜3が形成され、該非粘着性樹脂膜3の上にポジ型感光性樹脂膜が形成されたことを特徴とする配線形成用多層フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機や半導体素子収納用パッケージなどに適した多層配線基板の配線を形成するための配線形成用多層フィルムおよびこれを用いた多層配線基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体素子を搭載する半導体素子収納用パッケージや、各種電子部品が搭載される混成集積回路装置等に適用される配線基板においては、小型化、高性能化のために配線を高密度に形成する必要があるため、配線の微細化が求められている。また、配線を流れる信号についても高速化が求められている。
このような要求を満足するために、例えば線幅30μm以下の微細な配線を形成する配線基板の製造方法として、感光性樹脂膜(フォトレジスト)を用いた方法が知られている。具体的には、樹脂フィルムからなる基材表面に感光性樹脂膜を形成した後、配線パターンを有するガラスマスクを通してi線(波長365nm)を照射して露光し、不要な部分をアルカリ水溶液等で現像することで感光性樹脂膜を貫通する溝を形成する。次に、この溝に導体ペーストをブレード等で充填し乾燥させた後、感光性樹脂膜に再度露光処理を施し、感光性樹脂膜をアルカリ水溶液で取り除くことによって樹脂フィルム上に配線を形成する。そして、樹脂フィルム上に形成された配線を、セラミックグリーンシートに転写し、配線の転写されたセラミックグリーンシートを積層し焼成するという方法である(例えば、特許文献1を参照。)。
ここで、この感光性樹脂には、光を照射した部分が硬化して像として残るネガ型の感光性樹脂(ネガ型レジスト)と、光を照射した部分が除去され光を照射しなかった部分が像として残るポジ型の感光性樹脂(ポジ型レジスト)とがあり、それぞれの特性に応じて使い分けられている。特に、ポジ型レジストはネガ型レジストと比較して精度よく配線を形成することができるため、半導体素子等の微細配線加工用として多く用いられている。
【0003】
また、感光性樹脂には、薄いフィルム状のいわゆるドライフィルムレジストと呼ばれる薄いフィルム状のものと液状のものとがあり、高精度に配線形成可能なポジ型レジストは、ほとんどが液状である。
【0004】
この液状の感光性樹脂(ポジ型レジスト)は、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂フィルムに塗布してポジ型感光性樹脂膜として用いられるが、一般に感光性樹脂膜と樹脂フィルムとの接着性は高すぎる傾向にある。接着性が高すぎると、感光性樹脂膜の剥離工程においてきれいに剥離することが困難となり、残った感光性樹脂膜が配線とともにセラミックグリーンシートに転写され、これが脱バインダー不良およびこれによる不具合(デラミネーションの形成、磁器・導体の焼結不良)を引き起こす原因となる。
【0005】
そこで、シリコーン等の離型剤を樹脂フィルムの表面に塗布した後、液状の感光性樹脂(ポジ型レジスト)を塗布することが行われている。
【特許文献1】特開平7−122839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、シリコーン等の離型剤を樹脂フィルムの表面に塗布した場合、ポジ型感光性樹脂膜の樹脂フィルムに対する接着性が低すぎるために、特に線幅30μm以下の配線を形成するとき、アルカリ水溶液を用いた現像処理の際に感光性樹脂膜のパターンが樹脂フィルムから剥離しやすいという課題があった。
【0007】
また、ポジ型レジストを塗布、乾燥し、溶剤を蒸発させた際、乾燥が不十分だと、露光工程において残溶剤成分がCOガスを発生させてしまう。ここで、ポジ型感光性樹脂膜と樹脂フィルムとの間の接着性が低い場合、COガスの発生によってこの境界部分に直径数μm〜数100μmの膨れが形成され、感光性樹脂膜のパターン形成に対して大きな障害となり、結果的に高精度な配線形成が困難になるという課題があった。
【0008】
さらに、ポジ型レジストは液状であるため、シリコーン等による離型処理を施した樹脂フィルム表面にスピンコート法等でポジ型感光性樹脂膜を形成する際、ハジキや滲みが発生し、平滑で良好なポジ型感光性樹脂膜の形成が困難であり、結果的に高精度な配線形成が困難になるという課題があった。
【0009】
すなわち、ポジ型感光性樹脂膜の剥離容易性と接着性とを両立させるように、樹脂フィルム表面に離型剤を塗布することは困難であった。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、多層配線基板に線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができ、ポジ型感光性樹脂膜の剥離容易性と接着性とを両立させた配線形成用多層フィルムおよびこれを用いた多層配線基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の配線形成用多層フィルムは、基材となる樹脂フィルム上に、少なくとも表面にシリコーンまたはフッ素を含む粘着性樹脂膜が形成され、該粘着性樹脂膜の上に非粘着性樹脂膜が形成され、該非粘着性樹脂膜の上にポジ型感光性樹脂膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
また本発明の多層配線基板の製造方法は、上記の配線形成用多層フィルムに露光処理および現像処理を施して前記ポジ型感光性樹脂膜を貫通する配線パターンの溝を形成した後、該溝に導体を充填する工程と、前記ポジ型感光性樹脂膜に再度露光処理を施した後、前記ポジ型感光性樹脂膜を除去して配線付き多層フィルムを作製する工程と、該配線付き多層フィルムの前記非粘着性樹脂膜および前記導体を覆うようにセラミックスラリーを塗布し乾燥させセラミックスラリー乾燥体とした後に前記樹脂フィルムおよび前記粘着性樹脂膜を除去して配線付きシートを作製する工程と、該配線付きシートを複数積層して配線付きシート積層体を作製する工程と、該配線付きシート積層体を焼成して前記非粘着性樹脂膜を消失させるとともに前記導体および前記セラミックスラリー乾燥体を焼結させることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の多層配線基板の製造方法は、上記の配線形成用多層フィルムに露光処理および現像処理を施して前記ポジ型感光性樹脂膜を貫通する配線パターンの溝を形成した後、該溝に導体を充填する工程と、前記ポジ型感光性樹脂膜に再度露光処理を施した後、前記ポジ型感光性樹脂膜を除去して配線付き多層フィルムを作製する工程と、該配線付き多層フィルムの前記非粘着性樹脂膜および前記導体を覆うようにセラミックグリーンシートを積層した後に前記樹脂フィルムおよび前記粘着性樹脂膜を除去して配線付きシートを作製する工程と、該配線付きシートを複数積層して配線付きシート積層体を作製する工程と、該配線付きシート積層体を焼成して前記非粘着性樹脂膜を消失させるとともに前記導体および前記セラミックグリーンシートを焼結させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の配線形成用多層フィルムによれば、ポジ型感光性樹脂膜と非粘着性樹脂膜と間の接着性が確保されている。
【0015】
また、粘着性樹脂膜の表面にシリコーンまたはフッ素が含まれていることから、粘着性樹脂膜と非粘着性樹脂膜との間の粘着性および剥離容易性が両立されている。
【0016】
さらに、ポジ型感光性樹脂膜と非粘着性樹脂膜と間の接着性が確保されていることから、この境界部分の膨れが抑制され、またポジ型レジストに含まれる溶剤成分が非粘着性樹脂膜へ浸透して、非粘着性樹脂膜と粘着性樹脂膜との境界まで到達してしまうこともない。
【0017】
このように、ポジ型感光性樹脂膜の剥離容易性と接着性とが両立されているとともに、境界部分の膨れも抑制されていることから、本発明の配線形成用多層フィルムを用いて多層配線基板を製造することで、多層配線基板に線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができる。
【0018】
本発明の多層配線基板の製造方法によれば、多層配線基板に線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明の配線形成用多層フィルムの断面図であって、本発明の配線形成用多層フィルムは、樹脂フィルム1上に粘着性樹脂膜2が形成され、この粘着性樹脂膜2上に非粘着性樹脂膜3が形成され、さらにこの非粘着性樹脂膜3上にポジ型感光性樹脂膜4が形成されたものである。
【0021】
樹脂フィルム1は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)などの透明で柔軟なで有機樹脂で形成されている。この樹脂フィルム1は配線形成用多層フィルムにおける基材となるものであって、セラミックグリーンシートに配線を形成した後、取り除かれるものである。樹脂フィルム1の厚みは、通常30〜100μm程度に形成される。
【0022】
そして、この基材となる樹脂フィルムの上(主面)に粘着性樹脂膜2が形成されている。粘着性樹脂膜2は、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下のブチルアクリレートやメタクリレートを主成分とする樹脂を、トルエン、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸エチル等の有機溶剤に溶解させて液状にした後、シリコーンまたはフッ素を混合して攪拌脱泡器により十分攪拌し、ドクターブレード法などの方法により形成してなるものである。なお、この液状の粘着性樹脂が乾燥することで、樹脂フィルム1と粘着性樹脂膜2とは接着される。
【0023】
ここで、粘着性樹脂膜2にシリコーンまたはフッ素が含まれることが重要であって、これにより剥離容易性が付与される。シリコーンとしては例えば信越シリコーン製のKS779Hを用いることができ、フッ素としては例えばセイケミカル製のサーフロンS−393を用いることができる。これらシリコーンまたはフッ素は、樹脂成分100質量%に対して1〜8質量%添加され混合されているのが望ましい。
【0024】
なお、粘着性樹脂膜2に含まれるシリコーンまたはフッ素は、粘着性樹脂膜2と非粘着性樹脂膜3との間の粘着性および剥離性を両立させるためのものであるから、粘着性樹脂膜2の全体に亘って分散している必要はなく、少なくとも表面に含まれていればよい。なお、ここでいう表面とは、樹脂フィルム1に接する側の表面と対向する反対側の後述する非粘着性樹脂膜3と接する側の表面のことを意味する。粘着性樹脂膜2の表面のみにシリコーンまたはフッ素を含ませるには、予め粘着性樹脂膜本体層を形成した後、溶剤により希釈したシリコーンまたはフッ素をドクターブレード法やスピンコート法により塗布する方法やエアブラシ等を用いて表面に吹き付ける方法などが用いられる。シリコーンまたはフッ素が粘着性樹脂膜2の表面のみに含まれている場合は、膨れを防止できる程度の粘着性と剥離容易性とのバランスの点から、表面のうちの面積比率40〜95%にシリコーンまたはフッ素が含まれているのが望ましい。また、粘着性樹脂膜2の厚みは、粘着性と剥離容易性とのバランスの点から、0.8〜7μmであるのが望ましい。
【0025】
そして、粘着性樹脂膜2の上に非粘着性樹脂膜3が形成されている。非粘着性樹脂膜3は、例えばガラス転移温度(Tg)が30℃を超えるイソブチルメタクリレート(IBMA)を、トルエン、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸エチル等の有機溶剤に溶解させて液状にした後、シリコーンまたはフッ素を混合して攪拌脱泡器により十分攪拌し、ドクターブレード法などの方法により形成してなるものである。なお、この液状の非粘着性樹脂が乾燥することで、粘着性樹脂膜2と非粘着性樹脂膜3とは粘着している。非粘着性樹脂膜3の厚みは、ポジ型感光性樹脂膜および配線の接着性と剥離容易性の両立の点から0.5〜5μmであるのが望ましい。
【0026】
非粘着性樹脂膜3は、粘着性樹脂膜2に比べて濡れ性が悪いことから、後述するポジ型感光性樹脂膜4の残溶剤成分の浸透を抑制でき、残溶剤成分によるCOガスを発生させないようにすることができる。そして、非粘着性樹脂膜3は、多層配線基板を製造するにあたり、配線のセラミックグリーンシートへの転写時に粘着性樹脂膜2から切り離されて配線とともにセラミックグリーンシートに付着されるもので、配線付きシート積層体を構成する配線付きシート同士を接着させる機能も有している。なお、この非粘着性樹脂膜3は、配線付きシート積層体の焼成時には熱によって消失してしまうものであるが、具体的には400℃の大気中において90〜100%熱分解するのが好ましい。
【0027】
粘着性樹脂膜2の非粘着性樹脂膜3に対する粘着力は、1〜15mN/mmの範囲が望ましい。この範囲であれば、非粘着性樹脂膜3が配線のセラミックグリーンシートへの転写前の現像工程において剥離してしまうのを防止し、また転写時には配線(導体パターン)を非粘着樹脂膜3とともに負荷なく容易に剥離することができる。特に、粘着性と剥離容易性のバランスの点から、3〜8mN/mmの範囲が望ましい。
【0028】
またさらに、非粘着性樹脂膜3の上にはポジ型感光性樹脂膜4が形成されている。ポジ型感光性樹脂膜4は、有機溶剤、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させた液状の感光性樹脂をスピンコート法やドクターブレード法などの方法により形成してなるものである。ここで、液状の感光性樹脂としては、ノボラック樹脂等からなる感光性樹脂が挙げられ、液状とは有機溶剤が存在し、粘度が2000ポイズ以下の状態をいう。そして、ポジ型感光性樹脂膜4の厚みは10〜50μmの範囲とすることが望ましく、これにより厚い配線を形成することができ配線の抵抗を小さくすることができる。
【0029】
このような構成の配線形成用多層フィルムによれば、感光性樹脂膜4は非粘着性樹脂膜3と接着していて、非粘着性樹脂膜3と粘着性樹脂膜2とは剥離容易性と接着性が両立されてくっついていることから、非粘着性樹脂膜3が配線のセラミックグリーンシートへの転写前の現像工程において剥離してしまうのを防止し、また転写時には配線(導体パターン)を非粘着樹脂膜3とともに負荷なく容易に剥離することができる。また、非粘着性樹脂膜3は、ポジ型レジスト中の残溶剤成分を浸透させにくいため、粘着性樹脂膜2と非粘着性樹脂膜3との境界部分で膨れが発生してしまうこともない。
【0030】
以下、多層配線基板の製造方法について説明する。
本発明の多層配線基板の製造方法は、まず図1に示す上述の配線形成用多層フィルムを作製する工程にはじまる。
【0031】
次に、図2に示すように、露光処理および現像処理を施してポジ型感光性樹脂膜4を貫通する配線パターンの溝41を配線形成用多層フィルムに形成する。具体的には、配線パターンが形成されたガラスマスク7を用いて、例えば紫外線であるi線(365nm)による露光処理(1000mJ/cm)を行う。その後、アルカリ水溶液(例えば1%濃度の水酸化ナトリウム水溶液)で現像処理をし、感光性樹脂膜4を貫通する配線パターンの溝41を形成する。
【0032】
次に、図3に示すように、溝41に導体ペースト5を充填し乾燥する。導体ペースト5は、Cu粉末またはAg粉末等の金属粉末と、イソブチルメタクリレート樹脂などからなる有機バインダーと、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、テルピネオールなどの有機溶剤とを混合して得られたものである。なお、市販の導体ペーストを用いてもかまわない。なお、この導体ペースト5中には必要に応じてセラミック粉末やガラス粉末が添加されてもよい。ここで、有機バインダーは、金属成分100質量部に対して0.5〜5.0質量部の割合で混合されるのが望ましい。また、有機溶剤は、固形成分および有機バインダーの合計100質量部に対して、5〜100質量部の割合で混合されるのが望ましい。
【0033】
作製した導体ペースト5は、ウレタンゴム製のスキージやステンレス等の金属製のスキージによりポジ型感光性樹脂膜4を貫通する溝41の中に埋め込まれる。スキージは、剣スキージがより埋め込み易く望ましい。埋め込み方法は手動でも可能であるが、圧力を適切に制御するためにもスクリーン印刷機等を用いて行うことがより望ましい。その後、60〜100℃で1〜3時間程度かけて乾燥させる。なお、溝41への導体ペースト5の充填にかえて、めっき法により溝41に導体を充填してもよい。
【0034】
次に、ポジ型感光性樹脂膜4に再度露光処理(1000mJ/cm)を施す。、アルカリ水溶液(2%NaOH水溶液)にてポジ型感光性樹脂膜を除去する。ポジ型感光性樹脂膜4はi線のあたった部分がアルカリ水溶液にて溶解する(現像)。したがって、後の工程において、ポジ型感光性樹脂膜4を容易に除去するため再度露光するものである。
【0035】
次にポジ型感光性樹脂膜4を除去して配線付き多層フィルム6を作製する。ポジ型感光性樹脂膜4の除去には、アルカリ水溶液(例えば2%濃度の水酸化ナトリウム水溶液)を用いて感光性樹脂膜4を溶解させる方法が採用される。これにより、非粘着性樹脂膜3の上(主面)に底面を除いて露出した配線(導体ペースト5の乾燥体)が形成された配線付き多層フィルム6が作製される。
【0036】
次に、図4に示すように、配線付き多層フィルム6の非粘着性樹脂膜3および乾燥した導体ペースト5を覆うようにセラミックスラリー8を塗布し乾燥させセラミックスラリー乾燥体とした後に少なくとも前記樹脂フィルムを除去して配線付きシートを作製する。
【0037】
セラミックスラリー8は、セラミック粉末を含有するスラリーであって、これをドクターブレード法等により所望の厚みで塗布し、セラミックスラリーを乾燥、固化させてセラミックスラリー乾燥体とした後、樹脂フィルム1および粘着性樹脂膜2を剥離して、非粘着性樹脂膜3が固着した配線付きシート9を得ることができる。
【0038】
なお、予め別途セラミックグリーンシートを用意しておき、配線付き多層フィルム6の配線形成面を、別途用意したセラミックグリーンシートの表面に熱圧着させた後に、樹脂フィルムおよび粘着性樹脂膜を剥離して、配線および非粘着性樹脂膜をセラミックグリーンシートに転写することで、非粘着性樹脂膜が付着した配線付きシートを作製してもよい。
【0039】
ここで、この配線付きシート9に付着した非粘着性樹脂膜3は、この後の工程で配線付きシート9を積層する際、非粘着性樹脂層のTg点以上の温度で熱圧着することで、各々の層を接着させるという効果を奏するものである。
【0040】
そして、配線付きシート9の所望の部分に、例えば、レーザ光を用いて貫通孔を穿ち、この貫通孔に、導体ペーストにより貫通導体を形成する。
【0041】
次に、所望の位置に貫通導体を備えた複数の配線付きシート9を所望枚数積層して配線付きシート積層体を作製した後、この配線付きシート積層体を焼成して非粘着性樹脂膜を消失させるとともに導体およびセラミックスラリー乾燥体またはセラミックグリーンシートを焼結させる。
【0042】
なお、セラミックスラリーまたはセラミックグリーンシートは、例えば結晶化ガラスまたは、非結晶ガラスとSiOやAl、ZrO等の無機フィラーとを混合したもので、従来周知の材料を用いることができる。無機フィラーとしては、他にコランダム(αアルミナ)、フォルステライト、ジルコニア、マグネシアなどが例示できる。また、結晶化ガラスの場合、焼成処理することによって、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライト等の結晶を析出するものが例示できる。
【0043】
このような多層配線基板の製造方法によれば、線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができ、また従来の多層配線基板における配線形成方法であるスクリーン印刷法と比較して、配線パターンの断面形状が矩形に近くなるため比抵抗や高周波信号の伝送損失(S21)等の電気特性を向上させることができる。
【実施例】
【0044】
まず、厚み50μmの基材としての樹脂フィルム(PETフィルム)、ガラス転移温度(Tg)が30℃以下のブチルアクリレートを主成分とし、シリコーン(信越シリコーン製 KS779H)を樹脂成分100質量%に対して5質量%添加して混合してなる粘着性樹脂膜(シリコーン含有粘着性樹脂膜)をドクターブレード法により厚み2μmに形成した。
【0045】
この粘着性樹脂膜の上(主面)に、ガラス転移温度(Tg)が30℃を超えるイソブチルメタクリレート(IBMA)を主成分とする非粘着性樹脂膜をドクターブレード法により厚み2μmに形成した。
【0046】
そして、非粘着性樹脂層の上(主面)に、ポジ型感光性樹脂膜(東京応化製 PMER LA900PM)をドクターブレード法により厚み25μmに形成して、本発明の配線形成用多層フィルムを作製した。
【0047】
次に、配線パターンを形成したガラスマスクを使い、UV照射機により、ポジ型感光性樹脂膜側から、波長が365nmの紫外線(i線)を1500mJ/cm照射した。さらに、1質量%NaOH水溶液を用いて現像処理を行い、ポジ型感光性樹脂膜を貫通する溝を形成した。
【0048】
そして、平均粒径が2μmのCu又はAg粉末98質量%とホウ珪酸ガラス粉末2質量%とからなる混合粉末100質量部に対して、エチルセルロースを5質量部、有機溶剤として2・2・4−トリメチル−3・3−ペンタジオールモノイソブチレートを加え、3本ロールミルで混合し、導体ペーストを作製し、この導体ペーストをスキージを用いて溝内に埋め込み、配線付き多層フィルムを作製した。
【0049】
その後、埋め込んだ導体ペーストを、80℃の温度で乾燥させた後、2%濃度のNaOH水溶液にてポジ型感光性樹脂膜の溶解処理を行って、配線付き多層フィルムを作製した。
【0050】
次に、この配線付き多層フィルムの配線(乾燥した導体ペースト)を覆うように、予め作製しておいたセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布、80℃で乾燥した後、粘着性樹脂膜が形成された樹脂フィルム(PETフィルム)を剥離することで、配線パターンが形成されたグリーンシート(配線付きシート)を作製した。
【0051】
なお、このときのセラミックスラリーはセラミック粉末100質量部と、有機バインダー(イソブチルメタクリレート)15質量部と、トルエン70質量部とを、ボールミルで24時間混練して作製したものを用いた。なお、セラミック粉末は、無機フィラーとしてSiOと、非結晶性のホウ珪酸ガラスを、混合原料の平均粒径を2μmとしたものを用いた。ガラスの組成としては、SiO:40質量%、B:10質量%、BaO:40質量%、Al:5質量%、CaO:5質量%のものを用いた。
【0052】
次に、得られた配線付きシートを所望枚数積層し、950℃の温度で焼成して、多層配線基板を作製した。このとき、Cu導体の場合はN雰囲気、Ag導体の場合はAir雰囲気で焼成を行った。
【0053】
ここで、上記多層配線基板の製造過程において作製された本発明の配線形成用多層フィルムについて、配線パターンの接着性および剥離容易性を引っ張り試験装置を用いて評価した。また、ポジ型レジストの残溶剤成分によるCOガス発生の有無(膨れの有無)についても、レーザーラマン分光分析により測定した。その結果を表1(試料No.1)に示す。
【0054】
また、比較例として、試料No.1の配線形成用多層フィルムの層構成からシリコーン含有粘着性樹脂膜および非粘着性樹脂膜を除いた層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.2)、試料No.2の配線形成用多層フィルムの層構成の厚み50μmの樹脂フィルム(PETフィルム)上に厚み0.5μmのシリコーンコート(信越シリコーン製 KS779H)が形成された層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.3)、試料No.2の配線形成用多層フィルムの層構成の樹脂フィルムとポジ型感光性樹脂膜との間に粘着性樹脂膜を介在させた層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.4)、試料No.1の配線形成用多層フィルムの層構成から非粘着性樹脂膜を除いた層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.5)、試料No.1の配線形成用多層フィルムの層構成からシリコーン含有粘着性樹脂膜にかえてシリコーンを含有していない粘着性樹脂膜を用いた層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.6)、試料No.3の配線形成用多層フィルムの層構成のシリコーンコート上に非粘着性樹脂膜を形成した層構成の配線形成用多層フィルム(試料No.7)を作製し、試料No.1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
表1に示すように、本発明の配線形成用多層フィルムによれば、膨れが無く、接着性および剥離容易性を両立させていることがわかる。なお、この配線形成用多層フィルムを用いて作製した多層配線基板において、線幅30μm以下の高精度な配線が形成されていることを確認した。
【0056】
これに対し、試料No.2では、膨れの発生はないものの、樹脂フィルムとポジ型感光性樹脂膜との接着性が高すぎるため、剥離不可という結果になっている。
【0057】
試料No.3では、接着性が低すぎて転写前において剥離してしまうとともに、膨れの発生が確認された。
【0058】
試料No.4では、膨れの発生はないものの、粘着性樹脂膜とポジ型感光性樹脂膜との接着性が高すぎるため、剥離不可という結果になっている。
【0059】
試料No.5では、接着性および剥離容易性がバランスよく両立できているが、膨れが発生している。
【0060】
試料No.6では、膨れの発生はないものの、樹脂フィルムとポジ型感光性樹脂膜との接着性が高すぎるため、剥離不可という結果になっている。
【0061】
試料No.7では、接着性および剥離容易性がバランスよく両立できているが、膨れが発生している。
【0062】
以上のことから、本発明の配線形成用多層フィルムの層構成であることが、多層配線基板に線幅30μm以下の高精度な配線を形成することができ、ポジ型感光性樹脂膜の剥離容易性と接着性とを両立させることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の配線形成用多層フィルムの断面図である。
【図2】本発明の多層配線基板の製造方法の説明図であって、(a)はポジ型感光性樹脂膜に露光している状態を示しており、(b)はポジ型感光性樹脂膜を貫通する配線パターンの溝が形成された状態を示している。
【図3】本発明の配線基板の製造方法の説明図であって、(a)はポジ型感光性樹脂膜を貫通する溝に配線基板用導体ペーストが充填された状態を示しており、(b)は(a)に示すポジ型感光性樹脂膜を取り除くことで作製された配線付きフィルムを示している。
【図4】本発明の配線基板の製造方法の説明図であって、(a)は配線付き多層フィルムにセラミックスラリーが塗布された状態を示しており、(b)は(a)に示す樹脂フィルムおよび粘着性樹脂膜を取り除くことで作製された配線付きシートを示している。
【符号の説明】
【0064】
1・・・樹脂フィルム
2・・・粘着性樹脂膜
3・・・非粘着性樹脂膜
4・・・ポジ型感光性樹脂膜
41・・・溝
5・・・導体ペースト
6・・・配線付き多層フィルム
7・・・ガラスマスク
8・・・セラミックスラリー
9・・・配線付きシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となる樹脂フィルム上に、少なくとも表面にシリコーンまたはフッ素を含む粘着性樹脂膜が形成され、該粘着性樹脂膜の上に非粘着性樹脂膜が形成され、該非粘着性樹脂膜の上にポジ型感光性樹脂膜が形成されていることを特徴とする配線形成用多層フィルム。
【請求項2】
請求項1に記載の配線形成用多層フィルムに露光処理および現像処理を施して前記ポジ型感光性樹脂膜を貫通する配線パターンの溝を形成した後、該溝に導体を充填する工程と、前記ポジ型感光性樹脂膜に再度露光処理を施した後、前記ポジ型感光性樹脂膜を除去して配線付き多層フィルムを作製する工程と、該配線付き多層フィルムの前記非粘着性樹脂膜および前記導体を覆うようにセラミックスラリーを塗布し乾燥させセラミックスラリー乾燥体とした後に前記樹脂フィルムおよび前記粘着性樹脂膜を除去して配線付きシートを作製する工程と、該配線付きシートを複数積層して配線付きシート積層体を作製する工程と、該配線付きシート積層体を焼成して前記非粘着性樹脂膜を消失させるとともに前記導体および前記セラミックスラリー乾燥体を焼結させることを特徴とする多層配線基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の配線形成用多層フィルムに露光処理および現像処理を施して前記ポジ型感光性樹脂膜を貫通する配線パターンの溝を形成した後、該溝に導体を充填する工程と、前記ポジ型感光性樹脂膜に再度露光処理を施した後、前記ポジ型感光性樹脂膜を除去して配線付き多層フィルムを作製する工程と、該配線付き多層フィルムの前記非粘着性樹脂膜および前記導体を覆うようにセラミックグリーンシートを積層した後に前記樹脂フィルムおよび前記粘着性樹脂膜を除去して配線付きシートを作製する工程と、該配線付きシートを複数積層して配線付きシート積層体を作製する工程と、該配線付きシート積層体を焼成して前記非粘着性樹脂膜を消失させるとともに前記導体および前記セラミックグリーンシートを焼結させることを特徴とする多層配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−111041(P2009−111041A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279855(P2007−279855)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】