説明

酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット、その製造方法、および酸化インジウム亜鉛系薄膜

【課題】酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット、その製造方法、および酸化インジウム亜鉛系薄膜を提供する。
【解決手段】酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、(MO(In(ZnO)の組成を有し、x:yは1:0.01〜1:1であり、y:zは1:0.1〜1:10であり、Mは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびチタニウム(Ti)からなる群から選択された1つ以上の金属である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットの製造、およびそのスパッタリングターゲットを用いた薄膜の製造に関し、より詳細には、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット、その製造方法、およびその酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを用いて蒸着された酸化インジウム亜鉛系薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)は、微細かつ薄い膜の形状で生成された小型増幅管であり、ゲート(gate)、ソース(source)、およびドレイン(drain)を備える三端子素子である。従来は、薄膜トランジスタのチャンネル層として多結晶(polycrystalline)シリコン膜または非晶質(amorphous)シリコン膜を主に用いていた。しかしながら、多結晶シリコン膜の場合は、多結晶粒子界面で起こる電子の散乱により、電子移動度(electron mobility)が制限されることがある。これに対し、非晶質シリコン膜の場合は、電子移動度が極めて低く、時間による素子の劣化が発生し、素子の信頼性が極めて低くなることがある。このような問題点を解決するために、最近では、多結晶シリコン膜または非晶質シリコン膜の代りに酸化物薄膜、例えば酸化亜鉛系薄膜でTFTチャンネル層を形成しようとする研究がなされている。
【0003】
酸化物薄膜を形成する方法としては、多結晶焼結体をターゲットとするスパッタリング法(Sputtering)、パルスレーザ蒸着法(PLD:Pulse Laser Deposition)、電子ビーム蒸着法(Electron Bean Deposition)などがある。このうち、スパッタリング法は量産適用が容易であるため、スパッタリングを用いて薄膜を蒸着することができるターゲットを製造する方法についての研究が進められている。
【0004】
スパッタリング法には、アルゴンプラズマの発生方法によって高周波(RF)プラズマを用いるRFスパッタリング法と、直流(DC)プラズマを用いるDCスパッタリング法とがある。このうち、DCスパッタリング法は、成膜速度が早くて操作が簡単であることから、産業用として主に用いられている。ところが、酸化亜鉛系薄膜を蒸着するための酸化亜鉛系スパッタリングターゲットの場合は、ドーピングされる物質の種類および含量に応じて酸化亜鉛系スパッタリングターゲットの抵抗が極めて高く、DCスパッタリングが不可能になる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するために案出されたものであって、抵抗が低い酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、低温で非晶質あるいはナノ結晶質薄膜を成膜することができる酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを提供することを他の目的とする。
【0007】
また、本発明は、電子移動度および薄膜平坦度の優れた酸化インジウム亜鉛系薄膜を提供することを他の目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、抵抗が低くて焼結密度が高い酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法を提供することをさらに他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、(MO(In(ZnO)の組成を有し、x:yは1:0.01〜1:1であり、y:zは1:0.1〜1:10であり、前記Mは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびチタニウム(Ti)からなる群から選択された1つ以上の金属である。
【0010】
本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系薄膜は、上述した範囲の組成を有する酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを用いてDCスパッタリング法で蒸着され、電子移動度が1〜100cm/V・sを示す。
【0011】
本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法は、酸化インジウム粉末および酸化亜鉛粉末が添加されたスラリに酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された1種以上の酸化物粉末を添加してスラリ混合物を準備するステップと、前記スラリ混合物に分散剤を添加して湿式ミリングする分散ステップと、前記分散したスラリ混合物を乾燥して顆粒粉末を形成する顆粒化ステップと、前記顆粒粉末を成形して成形体を製造する成形ステップと、前記成形体を焼結する焼結ステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、ターゲットの電気抵抗が低くてDCスパッタリングが可能であり、焼結密度が高くて焼結体内部に存在する微細気孔によるプラズマ異常放電の発生を抑制することができる。また、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット内に存在する二次相凝集体のサイズが小さくて酸化インジウム亜鉛系薄膜の組成が均一になるように酸化インジウム亜鉛系薄膜を成膜することができ、異常放電およびノジュールの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系薄膜は、優れた電子移動度および薄膜平坦度を示し、素子の信頼性を向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法によれば、ターゲット内に含まれた構成成分の組成分布が均一になるようにターゲットを製造することができる。これにより、このようなターゲットを用いて成膜された薄膜の組成均質性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例2に係る酸化インジウム亜鉛系薄膜の可視光領域における光透過率グラフである。
【図2】本発明の実施例2に係る酸化インジウム亜鉛系薄膜の表面粗度を原子力間顕微鏡(AFM)で測定した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット、その酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを用いて蒸着された酸化インジウム亜鉛系薄膜、およびその酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法についてより詳しく説明する。
【0017】
本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、酸化インジウム、酸化亜鉛を基本として含み、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウムのうちから選択された1つ以上の酸化物を追加的に含む。すなわち、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、(MO(In(ZnO)の組成を有し、Mは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびチタニウム(Ti)からなる群から選択された1つ以上の金属である。言い換えれば、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットは、(HfO(In(ZnO)、または(ZrO(In(ZnO)、または(TiO(In(ZnO)の組成を有することができる。
【0018】
ここで、x:yは1:0.01〜1:1、y:zは1:0.1〜1:10であり、より好ましくは、x:yが1:0.01〜1:0.5、y:zが1:0.2〜1:5である。このようなx:yの比率は、酸化インジウム亜鉛系薄膜が最適な電子移動度を示すと同時に半導体特性を際立たせる条件、およびDCスパッタリングが可能な条件に応じて決定される。x:yが1:0.01〜1:1の比率を外れる場合には、薄膜自体が不導体特性を帯びるだけでなくターゲット抵抗が高くなり、DCスパッタリングが困難になることがある。y:zの比率は、非晶質あるいはナノ結晶質特性を示す薄膜を得る条件に応じて決定される。y:zが1:0.1〜1:10の比率を外れる場合には、薄膜の結晶質特性が強まり、多結晶シリコンで発生する問題点が同じように発生する恐れがある。zの比率は、原料の価格を考慮する場合、大きいほど好ましい。しかしながら、zの比率が一定の値を超えれば、ターゲットにおいて酸化亜鉛の性向が強まって薄膜が多結晶化し、非晶質薄膜を形成し難くなることがある。これにより、薄膜が半導体的である特性よりは、透明電極に近い物性を示すことができる。このように、本発明の一側面によれば、Hf:In:ZnあるいはZr:In:ZnあるいはTi:In:Znの比率を調節し、電気抵抗が100mΩ以下であるだけでなくDCスパッタリングが可能な酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0019】
Mの含量が本発明の一側面に係る組成比を外れて過多に添加される場合、Mは酸化インジウム亜鉛に固溶されずに不純物凝集体として残り、ターゲットの局部的な高抵抗を引き起こすことがある。これにより、酸化インジウム亜鉛系薄膜特性が低下することがあり、薄膜が不導体に変わる恐れがある。同時に、これによってDCスパッタリングが不可能になることもあり、またはスパッタリング時に異常放電(アーキング)を起こすこともあり、薄膜が酸化物半導体としての役割を果たせなくなる恐れもある。これに反し、Mの含量が本発明の一側面に係る組成比を外れて不足して添加される場合は、非晶質あるいはナノ結晶質特性が現われない恐れもある。
【0020】
酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造時、酸化亜鉛に酸化インジウムが添加され、追加的に酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物がターゲット内に添加されるようになる。このために、酸化亜鉛格子内で酸素空孔(oxygen vacancy)や電子(electron)などの電荷キャリア(carrier)が生成されてターゲットに電気が流れるようになる。
【0021】
酸化亜鉛は、広いバンドギャップを有した物質であり、それ自体が非導電性を示す物質であるため、上述したような酸化物がドーピング元素として添加されることによって電気が流れるようになる。このとき、ドーピング元素の種類および含量に応じてドーピング元素が不純物凝集体をなし、問題が発生することがある。しかしながら、本発明の一側面に係る組成を有する酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットでは、酸化亜鉛にそれぞれのドーピング物質の置換固溶が良好になされるようになり、一部固溶がなされない不純物凝集体、すなわちインジウム二次相、ハフニウム二次相、ジルコニウム二次相、およびチタニウム二次相のサイズが小さい。このため、スパッタリング時に電気抵抗が高い不純物凝集体による異常放電(アーキング)およびノジュールの発生が抑制されるようになる。
【0022】
DCスパッタリングを可能にするためには、ターゲットのバルク抵抗が数十Ω以下の値である必要がある。もし、スパッタリング時にターゲットに電気が流れない場合は、薄膜蒸着のためにRFスパッタリングを行わなければならないが、これは工程費用が高く、効率性面においてDCスパッタリングに比べて不利である。しかしながら、本発明の一側面によれば、酸化亜鉛にi)酸化インジウム、およびii)酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を所定の組成比で添加することにより、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの抵抗を低くすることができる。また、添加された酸化物の二次相のサイズが1μmよりも小さくなることでターゲットの抵抗を低くすることができるだけでなく、スパッタリング時のアーキングおよびノジュールの発生を抑制してターゲット製造工程の効率を高めることができる。同時に、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットが本発明の一側面に係る組成比を満たす場合には、電子移動度の優れた非晶質の透明半導体薄膜がDCスパッタリングで形成されるようになる。
【0023】
以下、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを製造する方法について説明する。
【0024】
まず、酸化インジウム粉末および酸化亜鉛粉末が添加されたスラリに酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された1種以上の酸化物粉末を添加してスラリ混合物を準備するステップを実行する。次に、このスラリ混合物に分散剤を添加して湿式ミリングする分散ステップ、分散したスラリ混合物を乾燥して顆粒粉末を形成する顆粒化ステップ、顆粒粉末を成形して成形体を製造する成形ステップ、および成形体を焼結する焼結ステップを実行する。以下、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを製造する方法についてより具体的に説明する。
【0025】
スラリ混合物を準備するステップにおいて、例えば、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムのうちの少なくとも1つの酸化物粉末に分散剤および水を混合して湿式ミリングするステップ、酸化インジウム粉末、分散剤、および水を混合して湿式ミリングするステップ、酸化亜鉛粉末、分散剤、および水を混合して湿式ミリングするステップをそれぞれ個別に実行した後、ミリングされた各粉末を混合することができる。ここで、湿式ミリングは、各構成粒子を粉砕させる機能を担うと同時に、各構成粒子が粉砕された状態で均質な状態になるように分散させる役割を果たす。このような分散のために、分散剤を用いることができる。このとき用いられる分散剤としては、ポリカルボン酸塩類を一般的に用いることができるが、より具体的には、ポリカルボン酸アンモニウム塩またはポリアクリル酸アンモニウム塩を用いることができる。このような分剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
一方、本発明は、スラリ混合物を準備するステップにおいて、上述した例によって限定されることはない。一例として、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ハフニウムなどの酸化物粉末をスラリで混合した後にミリング過程を実行することができるが、好ましくは、それぞれの酸化物粉末を個別にミリングしてそれぞれの酸化物粉末の平均直径を調節することができる。
【0027】
上述したように、原料の直径を個別に制御して混合させる工程を用いる場合には、分散剤の種類および添加量をそれぞれの構成粒子の表面特性に適合するように最適化して用いることができる。例えば、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、または酸化チタニウムの分散には酸化物粉末に対し0.8〜2.0重量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(分子量約2000)を用い、酸化インジウムの分散には酸化インジウム粉末に対し0.5〜1.5重量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(分子量約5000)を用い、酸化亜鉛の分散には酸化亜鉛粉末に対し0.1〜0.5重量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(分子量約3000)を用いることができる。
【0028】
このように添加される分散剤の種類、分子量、配合量などを酸化物粉末の種類に応じて調整して、粉末の直径を調節することができる。しかしながら、分散ステップ前に酸化インジウム、酸化亜鉛粉末に酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、または酸化チタニウム粉末を混合してスラリ混合物を準備した場合には、全体の酸化物粉末に対し約0.5重量%のポリアクリル酸アンモニウム塩(分子量約3000〜20000)を水に添加することができる。
【0029】
スラリ混合物として混合する前に酸化亜鉛粉末、酸化インジウム粉末、およびドーパントとして添加される酸化物粉末は、それぞれミリング過程を経ることによって平均直径が小さい粉末状態で互いに混合することができる。これにより、酸化亜鉛格子内の格子間位置(interstitial site)または置換位置(substitutional site)に添加された成分がドーピングされる固溶効果を増加することもでき、ターゲット内でインジウム粉末、ハフニウム粉末、ジルコニウム粉末、およびチタニウム粉末がそれぞれ局部的に固まった不純物(またはドーパント)凝集体のサイズも小さく現れ、1μm以上である二次相の比率が5%以下で示されるようになる。
【0030】
一方、原料物質として用いられる酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムの平均直径が調節された後、顆粒粉末状態で酸化物粉末が極めて均一に混合される必要がある。この場合、酸化物粉末の平均直径は、1μmよりも小さいことが好ましい。そうではない場合には、原料の均一な混合のために工程費用が追加されることがあり、スパッタリングターゲット内部に特定元素の局部的な濃縮化が発生し、成膜後に薄膜の組成の均質性を得難くなることがある。これはすなわち、薄膜物性の低下と信頼性の低下を招来することになる。
【0031】
したがって、湿式ミリングを用いてスラリ混合物を均一に分散させる分散ステップを実行する。このときの湿式ミリングは、各構成粒子を粉砕させる機能を担うと同時に、3種類以上の酸化物粒子が粉砕された状態から均質な状態になるように分散させる役割を果たす。これにより、上述した分散剤が添加される。分散ステップのときには、湿式ミリングによって得られたスラリの粘度が100cps以下になるようにすることが好ましい。粘度が100cpsよりも高い場合には、スラリ内の粒子サイズが大きくて分散性が低下し、焼結後の焼結体の密度低下の原因となる。
【0032】
分散ステップを経て混合されたスラリが完成すれば、ここにポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(Polyethylene glycol:PEG)のような結合剤を添加することができる。このような結合剤は、スパッタリングターゲットを製造するための成形体の製造時に、成形体の強度と焼結密度を向上させることができる。結合剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明において、結合剤の種類および添加量は、特定の事項に限定されることはない。すなわち、成形強度を維持させることができる結合剤であれば、すべて応用が可能である。結合剤の添加量は、スラリ内で粉末に対し0.01〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%とすることができる。
【0033】
分散剤、結合剤などのような有機溶媒を過量で用いる場合は、以後に製造される焼結体の密度を低下させる恐れがあるため、上述した含量内で用いることが好ましい。
【0034】
次に、結合剤が添加されたスラリ混合物を噴霧乾燥によって顆粒粉末に製造する。噴霧乾燥技術は、既に公知の技術を用いることができ、その使用方法を特定のものとして本発明を限定することはない。しかしながら、顆粒化された顆粒粉末は、国際標準規格であるASTM標準手順に基づいて規定された見掛け密度(apparent density)を1.3以上とすることができる。顆粒粉末の見掛け密度が1.3よりも小さい場合には、焼結体の焼結密度が低下し、これはすなわちターゲットのスパッタリングにおいて異常放電の原因となり得るためである。
【0035】
次に、噴霧乾燥した顆粒粉末を一般的な冷却プレス(cold press)法によって1次成形し、冷間等方圧成形によって2次成形する。このとき、冷却プレスの成形圧力は、300〜700kg/cmであることが好ましい。成形圧力が300kg/cmよりも小さかったり700kg/cmよりも大きかったりする場合は、冷間等方圧プレスと焼結工程を経る間に、横方向収縮と軸方向収縮程度において大きな差を発生することがあり、これによって成形体や焼結体が曲がる現象が現れる恐れがある。
【0036】
最後に、成形ステップが完了すれば、焼結ステップを経てスパッタリングターゲットを製造する。焼結ステップを介してターゲットを構成する構成成分が均一な状態で存在することができ、同時にDCスパッタリングが可能になるように焼結体のバルク抵抗を100mΩ以下に維持することができる。
【0037】
インジウム、亜鉛、ハフニウムまたはインジウム、亜鉛、ジルコニウムの3成分系において、ハフニウムとジルコニウムの含量が高くなることにより、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの電気抵抗が高くなることがあるため、焼結時の焼結条件を調節することができる。例えば、ターゲットの電気抵抗特性をDCスパッタリングが可能な程度に低くするために、焼結ステップは、1300℃〜1500℃の温度範囲、および酸素または空気雰囲気またはこの2つが適切に組み合わされた雰囲気下で実行することができる。
【0038】
以下、本発明の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットから製造される酸化インジウム亜鉛系薄膜について説明する。
【0039】
スパッタリングターゲットの組成と薄膜の組成は、単一成分ではない多成分系では異なることがある。一例として、半導体特性を示す薄膜は、この薄膜の組成と同じ組成のスパッタリングターゲットから得ることができない場合がある。これは、スパッタリング時に用いたパワーの種類、気体雰囲気などに応じて成膜された薄膜の特性が変わることがあるためである。
【0040】
そして、酸化インジウム亜鉛系薄膜は、具体的な目的に応じてターゲットの組成およびスパッタリング条件を調節し、非晶質薄膜または結晶質薄膜として形成することができる。同じように、ターゲットの組成およびスパッタリング条件に応じて、半導体薄膜または導電性薄膜として形成することができる。一例として、酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットで透明半導体薄膜を製造するために、スパッタリング工程時にアルゴン気体と酸素気体の合計体積に対する酸素気体の体積比が0%超過30%以下となる量で酸素を注入することができる。このようなスパッタリング条件でDCスパッタリングとして成膜された酸化インジウム亜鉛系薄膜は、非晶質形態を有することができる。また、ターゲットの組成およびスパッタリング条件を調節して薄膜の蒸着速度を早くすることもできる。
【0041】
本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系薄膜は、高い光透過率、例えば、550nmで95%以上の可視光透過率を示すことができる。また、薄膜の表面RMS粗度は100Å以下と、薄膜の表面平坦度が極めて優れるようになる。このために、薄膜トランジスタ素子の製造時にゲート絶縁膜の厚さを減少させることができる。また、酸化インジウム亜鉛系薄膜の電子移動度は、1〜100cm/V・sとすることができる。
【0042】
以下、実施例を参照しながら、本発明の一側面に係る酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットおよび酸化インジウム亜鉛系薄膜についてより詳しく説明するが、下記の実施例は本発明をより一層具体的に説明するための例示的なものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0043】
実施例1:HIZO(Hafnium Indium Zinc Oxide)スパッタリングターゲット製造
平均直径がそれぞれ1μm以下である酸化ハフニウム粉末、酸化インジウム粉末、および酸化亜鉛粉末をHf:In:Znの比率が1:0.4:0.4となるように準備した。次いで、このように準備した酸化物粉末をそれぞれ、水とポリカルボン酸アンモニウム塩が混合されたそれぞれの混合物に混合した後、硬質ジルコニアボールミルを用いて個別に1時間湿式ミリングした後、湿式ミリングされた混合物を混合してスラリ混合物を準備した。次いで、このスラリ混合物にポリカルボン酸アンモニウム塩を添加し、硬質ジルコニアボールミルを用いて1時間湿式ミリングを行った後、ポリビニルアルコールを添加した。次いで、ポリビニルアルコールが添加されたスラリ混合物をスプレー乾燥機(Spray Dryer)を用いて乾燥して顆粒粉末の形態に生成した。次いで、500kg/cmの圧力で冷却プレスして1次成形した後、1次成形された顆粒粉末を600kg/cmの圧力で冷却等方圧プレスして2次成形して成形体を製造した。次いで、この成形体を酸素雰囲気下で約1400℃の高温で1時間焼結してHIZO焼結体を製造した。次いで、この焼結体のスパッタリング面を研摩機で研磨して直径3インチ、厚さ5mmに加工し、インジウム系合金を用いてバッキング(backing)プレートを接合させてHIZOスパッタリングターゲットを製造した。このようなHIZOスパッタリングターゲットの電気抵抗は、75mΩであった。
【実施例2】
【0044】
実施例2:HIZO薄膜製造
実施例1によって製造されたHIZOスパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタリング装置に装着し、常温で酸素とアルゴン気体を投入してガラス基板上に厚さ150nmの透明HIZO薄膜を成膜した。このとき、この成膜は、アルゴン気体と酸素気体の合計体積に対する酸素気体の体積が15%である雰囲気下で実行された。同時に、DCパワーは100Wであった。このとき、100WのDCパワーにおける従来のGIZO(Gallium Indium Zinc Oxide)の蒸着速度(9A/sec)よりも早い蒸着速度(11A/sec)でHIZO薄膜が蒸着された。
【0045】
実施例2によって製造されたHIZO薄膜をX線回折分析(XRD:X−ray Diffraction)した結果、HIZO薄膜は非晶質特性を示した。HIZO薄膜の電気導電度を測定した結果、TFT素子製造に適合した1E−4〜3E−3(ohm・cm)−1の範囲値を有した。また、HIZO薄膜の電子移動度を測定した結果、極めて優れていることが分かった。
【0046】
HIZO薄膜が蒸着されたガラス基板に対し、可視光領域における光透過率を測定した結果を図1に示した。図1を参照すれば、HIZO薄膜は、特に550nmにおける光透過率が約98%と高い値を示した。これにより、HIZO薄膜は、透明なTFT素子に適用できることが分かった。
【0047】
HIZO薄膜の表面粗度を原子力間顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で測定した写真を図2に示した。図2を参照すれば、HIZO薄膜の表面RMS粗度は3Åであった。一般的に、従来のエキシマレーザで結晶化された多結晶シリコン薄膜の表面RMS粗度が数百Åであることに比べれば、HIZO薄膜の表面平坦度は極めて優れていることが分かった。
【0048】
上述したように、本発明の好ましい実施形態を参照して説明したが、当該技術分野において熟練した当業者にとっては、特許請求の範囲に記載された本発明の思想および領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正および変更させることができることを理解することができるであろう。すなわち、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められ、発明を実施するための最良の形態により制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(MO(In(ZnO)の組成を有し、x:yは1:0.01〜1:1であり、y:zは1:0.1〜1:10であり、前記Mは、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、およびチタニウム(Ti)からなる群から選択された1つ以上の金属であることを特徴とする酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットは、DCスパッタリングが可能であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記スパッタリングターゲットは、電気抵抗が100mΩ以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
DCスパッタリングで請求項1に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットを用いて蒸着された酸化インジウム亜鉛系薄膜であって、電子移動度が1〜100cm/V・sであることを特徴とする酸化インジウム亜鉛系薄膜。
【請求項5】
前記蒸着は、アルゴン気体と酸素気体の合計体積に対する酸素気体の体積比が0%超過30%以下である雰囲気下でなされることを特徴とする請求項4に記載の酸化インジウム亜鉛系薄膜。
【請求項6】
前記薄膜は、非晶質であることを特徴とする請求項4に記載の酸化インジウム亜鉛系薄膜。
【請求項7】
前記薄膜の表面RMS粗度は、100Å以下であることを特徴とする請求項4に記載の酸化インジウム亜鉛系薄膜。
【請求項8】
酸化インジウム粉末および酸化亜鉛粉末が添加されたスラリに酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された1種以上の酸化物粉末を添加してスラリ混合物を準備するステップと、
前記スラリ混合物に分散剤を添加して湿式ミリングする分散ステップと、
前記分散したスラリ混合物を乾燥して顆粒粉末を形成する顆粒化ステップと、
前記顆粒粉末を成形して成形体を製造する成形ステップと、
前記成形体を焼結する焼結ステップと、
を含むことを特徴とする酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
前記スラリ混合物を準備するステップは、
第1酸化物粉末、第1分散剤、および水を混合し、湿式ミリングして第1酸化物スラリを準備するステップと、
酸化インジウム粉末、第2分散剤、および水を混合し、湿式ミリングして酸化インジウムスラリを準備するステップと、
酸化亜鉛粉末、第3分散剤、および水を混合し、湿式ミリングして酸化亜鉛スラリを準備するステップと、
前記第1酸化物スラリ、前記酸化インジウムスラリ、および前記酸化亜鉛スラリを混合するステップと、
を含み、
前記第1酸化物粉末は、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタニウムからなる群から選択された1種以上であることを特徴とする請求項8に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
前記第1分散剤、前記第2分散剤、または前記第3分散剤のうちの少なくとも1つは、ポリカルボン酸アンモニウム塩またはポリアクリル酸アンモニウム塩であることを特徴とする請求項9に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
前記第1分散剤は前記第1酸化物スラリ内に0.8〜2.0重量%、前記第2分散剤は前記酸化インジウムスラリ内に0.5〜1.5重量%、前記第3分散剤は前記酸化亜鉛スラリ内に0.1〜0.5重量%、それぞれ含まれることを特徴とする請求項9に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
前記顆粒粉末は、国際標準規格であるASTM測定に基づいて1.3以上の見掛け密度を示すことを特徴とする請求項8に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
前記焼結ステップは、1300℃〜1500℃の温度範囲、および酸素または空気雰囲気下でなされることを特徴とする請求項8に記載の酸化インジウム亜鉛系スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−203554(P2009−203554A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44105(P2009−44105)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(502411241)サムスンコーニング精密ガラス株式会社 (80)
【Fターム(参考)】