酸化チタン薄膜の製造方法
【課題】製造作業の煩雑化を招来することなく、多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】超音波処理もしくは高周波処理を施すことによって表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けた調整稠密多層カーボンナノチューブをガラス基板に分散配置した後、このカーボンナノチューブに対して酸素ガス雰囲気中でレーザーアブレーション法により酸化チタンを蒸着させるようにしている。
【解決手段】超音波処理もしくは高周波処理を施すことによって表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けた調整稠密多層カーボンナノチューブをガラス基板に分散配置した後、このカーボンナノチューブに対して酸素ガス雰囲気中でレーザーアブレーション法により酸化チタンを蒸着させるようにしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば色素増感太陽電池の半導体電極や光触媒効果による有機物処理膜等に用いられる酸化チタン薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素による半導体の光増感作用を利用した色素増感太陽電池においては、シリコン半導体を用いず、導電性ガラス基板に酸化チタン薄膜を構成した後に色素を吸着させた電極を作用極として用いる。
【0003】
酸化チタン薄膜を構成する方法としては、テトラ低級アルコキシチタンのエチレングリコールモノメチルエーテル溶液を加水分解して得られたチタン含有加水分解ゾルを耐熱性基材表面に付着させ、これを加熱焼成する方法(例えば、特許文献1参照)や出発原料がチタンアルコキシドであるCVD(Chemical Vapor Deposition)法(例えば、特許文献2参照)などがある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−199230号公報
【特許文献2】特開2001−98373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した酸化チタン膜は、色素増感太陽電池の作用極として用いる場合、あるいは光触媒効果による有機物処理膜として用いる場合のいずれであっても、光触媒の効果を高めるため、粒子のサイズを可及的に小さくし、かつ比表面積を増加させることが好ましい。つまり、酸化チタン膜を多孔質で表面が粒状の薄膜状に構成することが好ましい。
【0006】
特許文献1に記載の方法は、多孔質で表面が粒状となる薄膜状の酸化チタン膜を製造することができるものの、溶液の調整に多大な時間を要し、また雰囲気の調整もシビアであるため、製造作業がきわめて煩雑となる。
【0007】
これに対して特許文献2に記載の方法は、製造作業の点で有利である。しかしながら、薄膜に関しては、多孔質で表面を粒状に構成することが困難であり、光触媒の効果を考慮した場合、好ましいものとはいえない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、製造作業の煩雑化を招来することなく、多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板に分散配置した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、上述した請求項1において、カーボンナノチューブの表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けることによって表面改質を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、カーボンナノチューブを基板に垂直配向した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、上述した請求項1または3において、レーザーアブレーション法によりカーボンナノチューブに酸化チタンを蒸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カーボンナノチューブに表面改質処理を施すことにより、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、このカーボンナノチューブを分散配置した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、基板に分散したカーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【0014】
また、本発明によれば、垂直配向したカーボンナノチューブの表面は閉じたものではなく、欠陥部位が多く存在するものであるため、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、カーボンナノチューブを垂直配向した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る酸化チタン薄膜の製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る製造方法では、まずカーボンナノチューブに表面改質処理を行う。表面改質処理は、カーボンナノチューブの表面に欠陥部位や細孔、酸化部位を設けるための処理であり、例えば超音波や高周波を照射することによって行う。あるいはカーボンナノチューブに熱処理を施すことによって表面に欠陥部位や細孔、酸化部位を設けるようにしても良い。適用するカーボンナノチューブとしては、単層のものであっても良いし、多層のものであっても良い。特に、稠密多層カーボンナノチューブ(d-CNTs)の場合には、金属触媒を要せずに合成することが可能であり、金属不純物をまったく含んでいないため好適である。
【0017】
次いで、実施の形態1の製造方法では、表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板の表面に分散配置する工程を行う。カーボンナノチューブを分散配置する方法としては、基板に塗布したり、揮発性の液体に分散させた後、この液体とともに基板に滴下させれば良い。
【0018】
最後に、カーボンナノチューブを分散配置した基板に対して酸化チタンの蒸着処理を施す。基板に酸化チタンを蒸着させる場合には、CVD法やPVD(Physical Vapor Deposition)法を適用すれば良い。このうち、レーザーアブレーション法を適用する場合には、酸素(O2)ガス雰囲気中で蒸着を行うことが好ましい。
【0019】
図3は、レーザーアブレーションによって形成されるプルームの成分を調べるために行った発光スペクトルの測定結果を示したものである。測定には分光器(凹面回析格子)と高感度マルチチャンネル光検出素子(CCDイメージセンサー)とを一体化した分光測定装置(HAMAMATSU PMA-11)を用いた。光の入力には、集光が容易で損失が少ないとの理由から光ファイバーを用いて行った。発光スペクトルの測定は、真空チャンバー1の内部圧力が真空(1×10-7Torr)の場合、並びに酸素ガス圧が15、250、500、760Torrの場合に行った。
【0020】
図3中の(a)に示すように、真空中においては、チタン原子(Ti)の発光及びチタンイオン(Ti+)の発光が多く見られたが、図3中の(b)に示すように、酸素ガス圧15Torrの状態下では、チタンイオンの発光が減少する一方でチタン原子の発光が増加した。他の酸素ガス圧においても同様にチタン原子の発光が増加した。すなわち、レーザーアブレーションを行う場合には、真空状態に比べて酸素ガスを導入した場合に微粒子が形成され易い状態になるとの結果を得た。
【0021】
また、レーザーアブレーション法においてターゲットにアブレーションレーザー光を照射する場合には、点食を避けるため、例えばモータによりターゲットを回転させ、レーザー光が一点に集中しないように照射することが好ましい。
【0022】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
(実施例)
図1に示すように、高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。このエチルアルコール中の稠密多層カーボンナノチューブに対して超音波処理装置(Hielscher UP400s)により、300W/cm2 で30分間超音波処理し、表面に欠陥部位や細孔、酸化部位等の改質部分を設けた稠密多層カーボンナノチューブ(r-CNTs)を調製した。
【0024】
調製した後の稠密多層カーボンナノチューブ(以下、「調製稠密多層カーボンナノチューブ」という)をピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に調整稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0025】
次いで、調製稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。すなわち、図2に示すように、真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0026】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は15Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した実施例を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0027】
(比較例1)
高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。
【0028】
エチルアルコールに分散させた稠密多層カーボンナノチューブをそのままピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0029】
次いで、稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0030】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は760Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した比較例1を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0031】
(比較例2)
高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。
【0032】
エチルアルコールに分散させた稠密多層カーボンナノチューブをそのままピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0033】
次いで、稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0034】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は15Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した比較例2を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0035】
(実施例と比較例との比較)
図4〜図6は、レーザーアブレーションを行った後のガラス基板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)(日立製作所 S-4000)及び透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)(日立製作所 H-9000)によって観察した結果を示したものである。SEMにおいては加速電圧18.0kVで観察を行った。尚、チャージアップを防ぐために、ガラス基板の表面にAu蒸着を120秒×2回行っている。TEM観察においては加速電圧300kVで観測を行った。図4は、実施例であるガラス基板のSEM観察結果を示し、図5は、実施例であるガラス基板のTEM観察結果を示す。図6は、比較例であるガラス基板の表面をSEM観察した結果を示したもので、(a)が比較例1、(b)が比較例2のものである。
【0036】
図6に示した比較例からも明らかなように、表面に改質部分が存在しない稠密多層カーボンナノチューブの場合には、酸素ガス圧が15Torrおよび760Torrのいずれであってもカーボンナノチューブの表面に微粒子を確認することができなかった。これは、改質部分が存在しない稠密多層カーボンナノチューブは結晶性が高く、表面のぬれ性が低いため、レーザーアブレーション法によって形成された微粒子がカーボンナノチューブの表面に付着できないことに起因するものと考えられる。実際、図6中の(c)に示すように、比較例のガラス基板には、付着できなかった微粒子が表面上で凝集し、直径20〜30nm程度の粒子が薄膜状に堆積していた。
【0037】
これに対して調整稠密多層カーボンナノチューブの場合には、図4に示すように、カーボンナノチューブの回りを覆うように一面に微粒子が堆積していた。堆積状態は、図5に示すように、カーボンナノチューブが微粒子を担持しているというよりも、カーボンナノチューブの表面をコーティングしている形態であった。
【0038】
堆積した微粒子は、電子線プローブ微小部分析装置(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)(日本電子株式会社 JXA8900)により、加速電圧15.0kVで分析した結果、詳細な組成比は不明であるが、Ti及びOが確認されたことから、TiO2であると考えられる。カーボンナノチューブの表面に付着した微粒子は、TEM観察の結果、直径約3〜10nm程度の大きさであることが確認できた。また、粒子同士が凝集した楕円形状のものも見られた。
【0039】
これらの結果、超音波処理によって表面に欠陥部位や細孔、酸化部位等の改質部分を設けた稠密多層カーボンナノチューブでは、これらの改質部分の存在によって表面のぬれ性が増大し、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなると考えられる。従って、この調整稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板に対してレーザーアブレーションによる酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブを核として酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る製造方法は、基板にカーボンナノチューブを垂直配向した後、この基板に対して酸化チタンの蒸着処理を施すようにしたものである。
【0041】
カーボンナノチューブを基板に垂直配向させる方法としては、例えばCVD法等の蒸着法を適用すれば良い。図7は、CVD法を用いて基板にカーボンナノチューブを垂直配向させる場合に適用する装置を概念的に示したものである。この装置では、石英管10の内部にガラス基板を配置し、炭素源としてエチルアルコールと微量の二硫化炭素(エチルアルコール:二硫化炭素=99:1)とを用いてカーボンナノチューブを垂直配向させるようにしている。ガラス基板の表面には、予め、カーボンナノチューブの成長に不可欠な金属触媒としてパーマロイの微粒子を堆積させてある。石英管10は、電気炉によって800℃に加熱した状態に維持している。石英管10の内部には、炭素源を供給するためのArガスを100sccmの流量で供給している。
【0042】
図8は、上述した装置によって垂直配向したカーボンナノチューブのSEM写真である。垂直配向したカーボンナノチューブは、高さが5〜6μm、径が70〜140nmである。TEMにより内部構造を観察したところ、カーボンナノチューブのグラファイト層はチューブ軸に対して平行に揃っておらず、他の方法で得られるカーボンナノチューブに比べて表面状態が活性である。つまり、垂直配向されたカーボンナノチューブは、ぬれ性が高く、粒子を担持し易すいため、触媒担体に適したものである。
【0043】
カーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に酸化チタンを蒸着させる場合には、CVD法やPVD法を適用すれば良い。このうち、レーザーアブレーション法を適用する場合には、酸素ガス雰囲気中で蒸着を行うことが好ましい。図9は、カーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に対してパルスレーザーデポジション法により酸化チタンを蒸着させる装置を示したものである。この装置では、真空チャンバー11の内部にターゲットとして酸化チタンペレット(ルチル型)を固定する一方、このチタンペレットに対向する態様で上述のガラス基板を設置し、ターゲットであるチタンペレットを1.5rpm程度で回転させながら周波数10Hzのパルスレーザー光を90分間照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを10J/cm2に調整した。
【0044】
真空チャンバー11の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-4Paに真空排気した後に酸素ガスを導入した。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した形成物を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は90分である。
【0045】
図10は、真空チャンバー11に導入する酸素ガス圧を20,40,60,80,100Paの5種類に変化させ、それぞれで得た形成物のSEM写真を示したものであり、さらに図11は、20,60,100Paのときの形成物を模式的に示したものである。
【0046】
これら図10及び図11からも明らかなように、酸素ガス圧に関しては、20〜60Paの範囲に設定することが好ましく、垂直配向したカーボンナノチューブに対して酸化チタンが良好に堆積しているのが分かる。特に、酸素ガス圧が20Paの場合には、カーボンナノチューブの表面全体にほぼ均一に20〜50nmの粒径となった酸化チタンの微粒子が堆積している。酸素ガス圧が40〜60Paの場合にも、カーボンナノチューブの上半部表面に酸化チタンの微粒子が堆積している。酸化チタンの微粒子が良好に堆積するのは、垂直配向したカーボンナノチューブが閉じた表面を有したものではなく、多数の欠陥部位を有したものであるため、表面のぬれ性が増大し、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなると考えられる。
【0047】
一方、酸素ガス圧が80Paを超えた場合には、酸化チタンの粒子サイズが大きくなり、カーボンナノチューブの上端部のみに堆積してガラス基板を膜状に覆う態様となるため好ましいとはいえない。これは、酸素ガス圧が80Pa以上の場合、酸化チタンの粒径増加及び運動エネルギーと表面移動度とが減少するため、堆積形態が均一な薄膜堆積からカーボンナノチューブの上端部のみへの粒子堆積に変化するものと考えられる。
【0048】
酸化チタンを蒸着させた後のガラス基板には、酸素ガス圧下において加熱処理を施すことが好ましい。これは、比較的低い酸素ガス圧下において堆積させた酸化チタンが酸素欠損状態にあるため、酸素ガス圧下において加熱処理を施すことにより、これを解消し、さらには堆積した酸化チタンをアナターゼ化するためのものである。
【0049】
以上説明したように、垂直配向したカーボンナノチューブの表面は閉じたものではなく、欠陥部位が多く存在するものであるため、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、カーボンナノチューブを垂直配向した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1である酸化チタン薄膜の製造工程を示す概念図である。
【図2】レーザーアブレーション法を行う際に適用する真空チャンバーを示す概念図である。
【図3】レーザーアブレーションによって形成されるプルームの成分分析結果を示すスペクトル図である。
【図4】本発明の実施の形態1についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図5】本発明の実施の形態1についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図6】比較例についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図7】本発明の実施の形態2においてCVD法を用いて基板にカーボンナノチューブを垂直配向させる場合に適用する装置を概念的に示した図である。
【図8】垂直配向したカーボンナノチューブの顕微鏡写真に基づく図である。
【図9】本発明の実施の形態2においてカーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に対してパルスレーザーデポジション法により酸化チタンを蒸着させる装置を示した図である。
【図10】本発明の実施の形態2についてカーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に酸化チタンを蒸着処理した顕微鏡写真に基づく図である。
【図11】本発明の実施の形態2について垂直配向したカーボンナノチューブに対して酸化チタンが堆積する様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0051】
1 真空チャンバー
10 石英管
11 真空チャンバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば色素増感太陽電池の半導体電極や光触媒効果による有機物処理膜等に用いられる酸化チタン薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素による半導体の光増感作用を利用した色素増感太陽電池においては、シリコン半導体を用いず、導電性ガラス基板に酸化チタン薄膜を構成した後に色素を吸着させた電極を作用極として用いる。
【0003】
酸化チタン薄膜を構成する方法としては、テトラ低級アルコキシチタンのエチレングリコールモノメチルエーテル溶液を加水分解して得られたチタン含有加水分解ゾルを耐熱性基材表面に付着させ、これを加熱焼成する方法(例えば、特許文献1参照)や出発原料がチタンアルコキシドであるCVD(Chemical Vapor Deposition)法(例えば、特許文献2参照)などがある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−199230号公報
【特許文献2】特開2001−98373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した酸化チタン膜は、色素増感太陽電池の作用極として用いる場合、あるいは光触媒効果による有機物処理膜として用いる場合のいずれであっても、光触媒の効果を高めるため、粒子のサイズを可及的に小さくし、かつ比表面積を増加させることが好ましい。つまり、酸化チタン膜を多孔質で表面が粒状の薄膜状に構成することが好ましい。
【0006】
特許文献1に記載の方法は、多孔質で表面が粒状となる薄膜状の酸化チタン膜を製造することができるものの、溶液の調整に多大な時間を要し、また雰囲気の調整もシビアであるため、製造作業がきわめて煩雑となる。
【0007】
これに対して特許文献2に記載の方法は、製造作業の点で有利である。しかしながら、薄膜に関しては、多孔質で表面を粒状に構成することが困難であり、光触媒の効果を考慮した場合、好ましいものとはいえない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、製造作業の煩雑化を招来することなく、多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板に分散配置した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、上述した請求項1において、カーボンナノチューブの表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けることによって表面改質を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、カーボンナノチューブを基板に垂直配向した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る酸化チタン薄膜の製造方法は、上述した請求項1または3において、レーザーアブレーション法によりカーボンナノチューブに酸化チタンを蒸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カーボンナノチューブに表面改質処理を施すことにより、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、このカーボンナノチューブを分散配置した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、基板に分散したカーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【0014】
また、本発明によれば、垂直配向したカーボンナノチューブの表面は閉じたものではなく、欠陥部位が多く存在するものであるため、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、カーボンナノチューブを垂直配向した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る酸化チタン薄膜の製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る製造方法では、まずカーボンナノチューブに表面改質処理を行う。表面改質処理は、カーボンナノチューブの表面に欠陥部位や細孔、酸化部位を設けるための処理であり、例えば超音波や高周波を照射することによって行う。あるいはカーボンナノチューブに熱処理を施すことによって表面に欠陥部位や細孔、酸化部位を設けるようにしても良い。適用するカーボンナノチューブとしては、単層のものであっても良いし、多層のものであっても良い。特に、稠密多層カーボンナノチューブ(d-CNTs)の場合には、金属触媒を要せずに合成することが可能であり、金属不純物をまったく含んでいないため好適である。
【0017】
次いで、実施の形態1の製造方法では、表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板の表面に分散配置する工程を行う。カーボンナノチューブを分散配置する方法としては、基板に塗布したり、揮発性の液体に分散させた後、この液体とともに基板に滴下させれば良い。
【0018】
最後に、カーボンナノチューブを分散配置した基板に対して酸化チタンの蒸着処理を施す。基板に酸化チタンを蒸着させる場合には、CVD法やPVD(Physical Vapor Deposition)法を適用すれば良い。このうち、レーザーアブレーション法を適用する場合には、酸素(O2)ガス雰囲気中で蒸着を行うことが好ましい。
【0019】
図3は、レーザーアブレーションによって形成されるプルームの成分を調べるために行った発光スペクトルの測定結果を示したものである。測定には分光器(凹面回析格子)と高感度マルチチャンネル光検出素子(CCDイメージセンサー)とを一体化した分光測定装置(HAMAMATSU PMA-11)を用いた。光の入力には、集光が容易で損失が少ないとの理由から光ファイバーを用いて行った。発光スペクトルの測定は、真空チャンバー1の内部圧力が真空(1×10-7Torr)の場合、並びに酸素ガス圧が15、250、500、760Torrの場合に行った。
【0020】
図3中の(a)に示すように、真空中においては、チタン原子(Ti)の発光及びチタンイオン(Ti+)の発光が多く見られたが、図3中の(b)に示すように、酸素ガス圧15Torrの状態下では、チタンイオンの発光が減少する一方でチタン原子の発光が増加した。他の酸素ガス圧においても同様にチタン原子の発光が増加した。すなわち、レーザーアブレーションを行う場合には、真空状態に比べて酸素ガスを導入した場合に微粒子が形成され易い状態になるとの結果を得た。
【0021】
また、レーザーアブレーション法においてターゲットにアブレーションレーザー光を照射する場合には、点食を避けるため、例えばモータによりターゲットを回転させ、レーザー光が一点に集中しないように照射することが好ましい。
【0022】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
(実施例)
図1に示すように、高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。このエチルアルコール中の稠密多層カーボンナノチューブに対して超音波処理装置(Hielscher UP400s)により、300W/cm2 で30分間超音波処理し、表面に欠陥部位や細孔、酸化部位等の改質部分を設けた稠密多層カーボンナノチューブ(r-CNTs)を調製した。
【0024】
調製した後の稠密多層カーボンナノチューブ(以下、「調製稠密多層カーボンナノチューブ」という)をピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に調整稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0025】
次いで、調製稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。すなわち、図2に示すように、真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0026】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は15Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した実施例を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0027】
(比較例1)
高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。
【0028】
エチルアルコールに分散させた稠密多層カーボンナノチューブをそのままピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0029】
次いで、稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0030】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は760Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した比較例1を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0031】
(比較例2)
高周波プラズマ装置(日本高周波株式会社製 HIK-100)を用いてグラファイトの直接蒸発により稠密多層カーボンナノチューブを生成し、この稠密多層カーボンナノチューブをエチルアルコールに分散させた。
【0032】
エチルアルコールに分散させた稠密多層カーボンナノチューブをそのままピペットによりガラス(Si)基板上に滴下することにより、表面に稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板を得た。
【0033】
次いで、稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板にレーザーアブレーション法により酸化チタンの蒸着処理を施した。真空チャンバー1の内部にターゲットとしてチタン板(1.0mm×1.0mm×0.1mm:ニラコ製)を固定する一方、このチタン板に対向する態様でガラス基板を設置し、ターゲットであるチタン板を1.5rpm程度で回転させながらアブレーションレーザー光を照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを8.3J/cm2に調整した。
【0034】
真空チャンバー1の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-7Torr以下に真空排気した後に酸素ガスを導入した。酸素ガス圧は15Torrである。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した比較例2を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は30分である。
【0035】
(実施例と比較例との比較)
図4〜図6は、レーザーアブレーションを行った後のガラス基板の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)(日立製作所 S-4000)及び透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)(日立製作所 H-9000)によって観察した結果を示したものである。SEMにおいては加速電圧18.0kVで観察を行った。尚、チャージアップを防ぐために、ガラス基板の表面にAu蒸着を120秒×2回行っている。TEM観察においては加速電圧300kVで観測を行った。図4は、実施例であるガラス基板のSEM観察結果を示し、図5は、実施例であるガラス基板のTEM観察結果を示す。図6は、比較例であるガラス基板の表面をSEM観察した結果を示したもので、(a)が比較例1、(b)が比較例2のものである。
【0036】
図6に示した比較例からも明らかなように、表面に改質部分が存在しない稠密多層カーボンナノチューブの場合には、酸素ガス圧が15Torrおよび760Torrのいずれであってもカーボンナノチューブの表面に微粒子を確認することができなかった。これは、改質部分が存在しない稠密多層カーボンナノチューブは結晶性が高く、表面のぬれ性が低いため、レーザーアブレーション法によって形成された微粒子がカーボンナノチューブの表面に付着できないことに起因するものと考えられる。実際、図6中の(c)に示すように、比較例のガラス基板には、付着できなかった微粒子が表面上で凝集し、直径20〜30nm程度の粒子が薄膜状に堆積していた。
【0037】
これに対して調整稠密多層カーボンナノチューブの場合には、図4に示すように、カーボンナノチューブの回りを覆うように一面に微粒子が堆積していた。堆積状態は、図5に示すように、カーボンナノチューブが微粒子を担持しているというよりも、カーボンナノチューブの表面をコーティングしている形態であった。
【0038】
堆積した微粒子は、電子線プローブ微小部分析装置(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)(日本電子株式会社 JXA8900)により、加速電圧15.0kVで分析した結果、詳細な組成比は不明であるが、Ti及びOが確認されたことから、TiO2であると考えられる。カーボンナノチューブの表面に付着した微粒子は、TEM観察の結果、直径約3〜10nm程度の大きさであることが確認できた。また、粒子同士が凝集した楕円形状のものも見られた。
【0039】
これらの結果、超音波処理によって表面に欠陥部位や細孔、酸化部位等の改質部分を設けた稠密多層カーボンナノチューブでは、これらの改質部分の存在によって表面のぬれ性が増大し、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなると考えられる。従って、この調整稠密多層カーボンナノチューブを分散配置したガラス基板に対してレーザーアブレーションによる酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブを核として酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【0040】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る製造方法は、基板にカーボンナノチューブを垂直配向した後、この基板に対して酸化チタンの蒸着処理を施すようにしたものである。
【0041】
カーボンナノチューブを基板に垂直配向させる方法としては、例えばCVD法等の蒸着法を適用すれば良い。図7は、CVD法を用いて基板にカーボンナノチューブを垂直配向させる場合に適用する装置を概念的に示したものである。この装置では、石英管10の内部にガラス基板を配置し、炭素源としてエチルアルコールと微量の二硫化炭素(エチルアルコール:二硫化炭素=99:1)とを用いてカーボンナノチューブを垂直配向させるようにしている。ガラス基板の表面には、予め、カーボンナノチューブの成長に不可欠な金属触媒としてパーマロイの微粒子を堆積させてある。石英管10は、電気炉によって800℃に加熱した状態に維持している。石英管10の内部には、炭素源を供給するためのArガスを100sccmの流量で供給している。
【0042】
図8は、上述した装置によって垂直配向したカーボンナノチューブのSEM写真である。垂直配向したカーボンナノチューブは、高さが5〜6μm、径が70〜140nmである。TEMにより内部構造を観察したところ、カーボンナノチューブのグラファイト層はチューブ軸に対して平行に揃っておらず、他の方法で得られるカーボンナノチューブに比べて表面状態が活性である。つまり、垂直配向されたカーボンナノチューブは、ぬれ性が高く、粒子を担持し易すいため、触媒担体に適したものである。
【0043】
カーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に酸化チタンを蒸着させる場合には、CVD法やPVD法を適用すれば良い。このうち、レーザーアブレーション法を適用する場合には、酸素ガス雰囲気中で蒸着を行うことが好ましい。図9は、カーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に対してパルスレーザーデポジション法により酸化チタンを蒸着させる装置を示したものである。この装置では、真空チャンバー11の内部にターゲットとして酸化チタンペレット(ルチル型)を固定する一方、このチタンペレットに対向する態様で上述のガラス基板を設置し、ターゲットであるチタンペレットを1.5rpm程度で回転させながら周波数10Hzのパルスレーザー光を90分間照射した。アブレーションレーザーとしては、Nd:YAGレーザーの4倍波(波長=266nm)を用いた。レーザー光は、レンズによって0.36cm2に集光し、またレーザーフルエンスを10J/cm2に調整した。
【0044】
真空チャンバー11の内部には、ロータリポンプ及びターボ分子ポンプを用いて1×10-4Paに真空排気した後に酸素ガスを導入した。ガラス基板が室温となる状況下で上述した操作を繰り返し行い、ガラス基板上に微粒子が付着した形成物を得た。繰り返し周波数は10Hzであり、レーザー光の照射時間は90分である。
【0045】
図10は、真空チャンバー11に導入する酸素ガス圧を20,40,60,80,100Paの5種類に変化させ、それぞれで得た形成物のSEM写真を示したものであり、さらに図11は、20,60,100Paのときの形成物を模式的に示したものである。
【0046】
これら図10及び図11からも明らかなように、酸素ガス圧に関しては、20〜60Paの範囲に設定することが好ましく、垂直配向したカーボンナノチューブに対して酸化チタンが良好に堆積しているのが分かる。特に、酸素ガス圧が20Paの場合には、カーボンナノチューブの表面全体にほぼ均一に20〜50nmの粒径となった酸化チタンの微粒子が堆積している。酸素ガス圧が40〜60Paの場合にも、カーボンナノチューブの上半部表面に酸化チタンの微粒子が堆積している。酸化チタンの微粒子が良好に堆積するのは、垂直配向したカーボンナノチューブが閉じた表面を有したものではなく、多数の欠陥部位を有したものであるため、表面のぬれ性が増大し、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなると考えられる。
【0047】
一方、酸素ガス圧が80Paを超えた場合には、酸化チタンの粒子サイズが大きくなり、カーボンナノチューブの上端部のみに堆積してガラス基板を膜状に覆う態様となるため好ましいとはいえない。これは、酸素ガス圧が80Pa以上の場合、酸化チタンの粒径増加及び運動エネルギーと表面移動度とが減少するため、堆積形態が均一な薄膜堆積からカーボンナノチューブの上端部のみへの粒子堆積に変化するものと考えられる。
【0048】
酸化チタンを蒸着させた後のガラス基板には、酸素ガス圧下において加熱処理を施すことが好ましい。これは、比較的低い酸素ガス圧下において堆積させた酸化チタンが酸素欠損状態にあるため、酸素ガス圧下において加熱処理を施すことにより、これを解消し、さらには堆積した酸化チタンをアナターゼ化するためのものである。
【0049】
以上説明したように、垂直配向したカーボンナノチューブの表面は閉じたものではなく、欠陥部位が多く存在するものであるため、表面のぬれ性が増大することになり、粒子が付着し易く、かつ粒子の凝集が起こり易くなる。従って、カーボンナノチューブを垂直配向した基板に酸化チタンの蒸着処理を施せば、カーボンナノチューブに対して酸化チタンの微粒子が良好に、かつ選択的に付着することになり、煩雑な製造作業を伴うことなく多孔質で表面が粒状の酸化チタン薄膜を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1である酸化チタン薄膜の製造工程を示す概念図である。
【図2】レーザーアブレーション法を行う際に適用する真空チャンバーを示す概念図である。
【図3】レーザーアブレーションによって形成されるプルームの成分分析結果を示すスペクトル図である。
【図4】本発明の実施の形態1についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図5】本発明の実施の形態1についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図6】比較例についてレーザーアブレーションを行った後のガラス基板の顕微鏡写真に基づく図である。
【図7】本発明の実施の形態2においてCVD法を用いて基板にカーボンナノチューブを垂直配向させる場合に適用する装置を概念的に示した図である。
【図8】垂直配向したカーボンナノチューブの顕微鏡写真に基づく図である。
【図9】本発明の実施の形態2においてカーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に対してパルスレーザーデポジション法により酸化チタンを蒸着させる装置を示した図である。
【図10】本発明の実施の形態2についてカーボンナノチューブを垂直配向したガラス基板に酸化チタンを蒸着処理した顕微鏡写真に基づく図である。
【図11】本発明の実施の形態2について垂直配向したカーボンナノチューブに対して酸化チタンが堆積する様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0051】
1 真空チャンバー
10 石英管
11 真空チャンバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板に分散配置した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブの表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けることによって表面改質を行うことを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブを基板に垂直配向した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項4】
レーザーアブレーション法によりカーボンナノチューブに酸化チタンを蒸着させることを特徴とする請求項1または3に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項1】
表面改質処理を施したカーボンナノチューブを基板に分散配置した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブの表面に欠陥部位及び/または細孔及び/または酸化部位を設けることによって表面改質を行うことを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブを基板に垂直配向した後、この基板に酸化チタンの蒸着処理を施すことを特徴とする酸化チタン薄膜の製造方法。
【請求項4】
レーザーアブレーション法によりカーボンナノチューブに酸化チタンを蒸着させることを特徴とする請求項1または3に記載の酸化チタン薄膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−63440(P2006−63440A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204944(P2005−204944)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000237710)富士電機リテイルシステムズ株式会社 (1,851)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
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