説明

酸化モリブデン薄膜の製造方法及び化学センサ

【課題】CVD法などのプロセスを用いる必要なく、高配向の酸化モリブデン薄膜を容易に形成することができる酸化モリブデン薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】6価のモリブデン酸化物のアンモニア溶解液に酸を供給して得られる析出物をアルコールに分散させた後、この析出物を含有するアルコールを基板に供給し、乾燥・焼成して薄膜を形成する。アルコールとしては、エチレングリコール、モリブデン酸化物としては、MoO3を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化モリブデン薄膜の製造方法及び、この酸化モリブデン薄膜を用いた化学センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化モリブデン(MoO)は層状構造を有する化合物であり、化学的操作により層間に様々な有機物を挿入することが可能であって、インターカレート型の有機無機ハイブリッド材料を形成することができる。有機無機ハイブリッド材料は、無機化合物の優れた機械特性や熱的安定性と、有機化合物の優れた化学的特性を併せ持つ新しいタイプの材料であり、発光素子、トランジスタ、電池、化学センサに応用することができる。
【0003】
そして有機無機ハイブリッド材料を素子として上記のような用途に使用するためには、薄膜化することが重要である。インターカレート型の有機無機ハイブリッド薄膜の作製方法としては、主に2種類の方法が挙げられる。
【0004】
ひとつの方法は、層状構造を持ちホストとなる無機化合物とゲストとなる有機化合物を溶媒中でコロイド状態にして、これを基板上に自己集合現象を利用して製膜する方法である(Delamination/Reassembling Process)(例えば非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながらこの方法では、ホストとゲストを一層ずつ交互に積層するため、1層の厚みがオングストロームオーダーと非常に薄いホスト及びゲストから素子を形成するのに十分な厚みを構築するには、非常に手間がかかってしまうという問題があった。
【0006】
もうひとつの方法は、無機化合物と格子定数が類似した金属酸化物基板の上に無機化合物膜を高配向に成膜し、水和ナトリウムイオンをインターカレートした後に、更に、導電性ポリマーあるいは有機イオンと置換する方法である。この方法で酸化モリブデンを高配向に成膜する手法としては、CVD法などのプロセスが用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0007】
しかしながらCVD法などのプロセスで酸化モリブデン薄膜を製造する場合には、真空度、ガス流量、温度、成膜時間などを精密に制御する設備と技術が必要となって、大面積に一括に安定した膜を作製することは困難であり、さらに製造コストが高くなってしまうという問題があった。
【非特許文献1】Liu, Z.-h.; Yang, X.; Makita, Y.; Ooi, K ,「Preparationof a Polycation-Intercalated Layered Manganese Oxide Nanocomposite by aDelamination/Reassembling Process」,Chem. Mater.,2002年, 14巻, 4800-4806頁
【特許文献1】特開2005−179115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、CVD法などのプロセスを用いる必要なく、高配向の酸化モリブデン薄膜を容易に形成することができる酸化モリブデン薄膜の製造方法を提供し、またこの酸化モリブデン薄膜を用いた化学センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る酸化モリブデン薄膜の製造方法は、6価のモリブデン酸化物のアンモニア溶解液に酸を供給して得られる析出物をアルコールに分散させた後、この析出物を含有するアルコールを基板に供給し、乾燥・焼成して薄膜を形成することを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、モリブデン酸化物からなる析出物を含有するアルコールを基板に供給して乾燥・焼成することによって、CVD法などのプロセスを用いる必要なく、高配向の酸化モリブデン薄膜を容易に形成することができるものである。
【0011】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記アルコールがエチレングリコールであることを特徴とするものである。
【0012】
この発明によれば、配向性がより高い酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記モリブデン酸化物がMoOであることを特徴とするものである。
【0014】
この発明によれば、純度の高い酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。
【0015】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、上記析出物を含有するアルコールには、アルコール可溶性の貴金属化合物をも含有することを特徴とするものである。
【0016】
この発明によれば、焼成後の酸化モリブデン薄膜に貴金属を均一に分散させることができ、酸化モリブデン薄膜の抵抗値を下げることができるものである。
【0017】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、上記析出物を含有するアルコールに、上記の焼成に要する温度以下で分解する粒子を分散して成ることを特徴とするものである。
【0018】
この発明によれば、多孔質で表面積の大きい酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。
【0019】
本発明の請求項6に係る化学センサは、請求項1乃至5のいずれかの製造方法で得られた酸化モリブデン薄膜を用いて形成されたことを特徴とするものである。
【0020】
この発明によれば、請求項1乃至5の方法によって高配向の酸化モリブデン薄膜を容易に形成することができるので、特性の優れた化学センサを効率良く作製することができるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、CVD法などのプロセスを用いる必要なく、高配向の酸化モリブデン薄膜を容易に作製することができるものであり、また特性の優れた化学センサを効率良く作製することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0023】
まず、6価のモリブデン酸化物をアンモニアに溶解する。6価のモリブデン酸化物はアンモニアに容易に溶解するものであり、アンモニアとしては、濃度は特に限定されるものではないが1〜40質量%濃度のアンモニア水を用いることができる。またアンモニアへの6価のモリブデン酸化物の溶解濃度は特に限定されるものではないが、Mo:NHのモル比で1:2〜1:5の範囲になるように設定するのが好ましい。
【0024】
次に、6価のモリブデン酸化物のアンモニア溶解液に酸を添加する。このように酸を添加すると、析出物が生成される。添加する酸としては特に限定されるものではないが、硝酸が好ましい。また酸の添加量も特に限定されるものではないが、モル比で、アンモニア溶解液中のアンモニア成分よりも多量となるように設定するのが好ましく、例えばアンモニア:酸のモル比で、1:2〜1:5の範囲に設定するのがよい。
【0025】
次にこのように析出した析出物を濾過して分離し、必要に応じて水洗等した後、この析出物をアルコールに添加して分散させる。アルコールに分散させる析出物の量は、特に限定されるものではないが、質量比でアルコールに対して1〜30質量%の範囲が好ましい。アルコールに対する析出物の分散量が1質量%未満であれば、後述のように成膜する際に成膜ムラが発生し易く、逆に30質量%を超えると、成膜した酸化モリブデン薄膜の配向性が低下するおそれがある。
【0026】
上記のようにして析出物を分散して含有するアルコールを基板の表面に供給して塗布する。この供給・塗布方法は、特に限定されるものではないが、ディップコート、滴下、スピンコート、印刷などが望ましい。このとき、基板の表面にこのアルコール分散液が良く濡れるように、基板の表面にOプラズマなどの親水化処理を加えておいてもよい。基板としては特に限定されるものではないが、例えばシリコン基板などを用いることができる。
【0027】
このように析出物を含有するアルコール分散液を基板の表面に供給して塗布した後、乾燥・焼成することによって、基板の表面に酸化モリブデン薄膜を形成することができる。焼成条件は特に限定されるものではないが、焼成温度は300〜600℃の範囲が、焼成時間は0.5〜50時間の範囲が好ましい。酸化モリブデン薄膜と基板との密着性は焼成温度が高いほど強くなるが、酸化モリブデン(MoO)は600℃以上では結晶構造中の酸素を失って層状構造が崩れるおそれがあるため、600℃以下の温度であることが望ましく、400〜550℃程度の範囲がより望ましい。
【0028】
上記のようにして、CVD法などのプロセスを用いる必要なく、塗布及び焼成の方法で高配向の酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。従って、真空度、ガス流量、温度、成膜時間などを精密に制御する設備や技術を必要とすることなく、製造コスト安価に、大面積に一括に安定した酸化モリブデン薄膜を容易に形成することが可能になるものである。
【0029】
ここで、析出物を分散させるアルコールとしては、その種類は限定されるものではないが、エチレングリコールが好ましい。エチレングリコールを用いることによって、他のアルコール類を用いる場合よりも、配向性の高い酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。
【0030】
また6価のモリブデン酸化物も、特に限定されるものではないが、モリブデン酸化物としてMoOを用いるのが好ましい。原料のモリブデン酸化物としてMoOを用いると、最終的に生成される酸化モリブデン薄膜の純度が高くなるものである。これはMo、O以外の元素が製造工程中に持ち込まれると、それらが酸化モリブデン薄膜の中に残存して純度を下げてしまう可能性があるが、このようなことを回避して純度の高い酸化モリブデン薄膜を形成することができるものである。
【0031】
上記のように基板の表面に作製した酸化モリブデン薄膜の結晶層間に有機物をインターカレートして、有機無機ハイブリッド薄膜として形成することができる。酸化モリブデン薄膜に有機物をインターカレートする方法としては、例えば、酸化モリブデン薄膜を金属イオン溶液に浸漬し、酸化モリブデンを還元しながら金属イオンを酸化モリブデン層間にインターカレートし、その後、カチオン性有機物を含有した溶液に浸漬することにより金属イオンとカチオン性有機物のカチオン交換反応で、酸化モリブデンの層間にカチオン性有機物をインターカレートする方法が挙げられる。使用する金属イオンとしてはその種類は限定されるものではないが、LiやNaイオンが用いられる。カチオン性有機物としてはその種類は限定されるものではないが、ポリアニリンやポリピロール、あるいはそれらの誘導体が挙げられる。
【0032】
そして上記のように作製した酸化モリブデン薄膜や、上記のように酸化モリブデン薄膜を母体として有機物をインターカレートした有機無機ハイブリッド薄膜は、電導性はあるものの、非常に高抵抗である。電子デバイスとしてこれらの薄膜を使用する場合、薄膜の抵抗値を下げることが望ましい。そこで本発明では、上記のように析出物を分散したアルコールに、アルコール可溶性の貴金属化合物を含有させ、焼成後に得られる上記の薄膜に貴金属を均一に分散させるようにしてある。このように薄膜に貴金属を分散させることによって、分散された貴金属は導電パスとなるので、これらの薄膜の抵抗値を下げることが可能となるものである。
【0033】
貴金属化合物としては、特に限定されるものではないが、HPtCl・6HOなどを用いることができる。また貴金属化合物の含有量は、アルコールに分散しているモリブデン酸化物のMoに対する貴金属元素のモル比で0.01〜10%(Mo:貴金属元素=100:0.01〜10)となるように設定するのが望ましい。貴金属化合物の含有量がモル比で0.01%未満であると、貴金属化合物を含有させることによる導電性向上への寄与がほとんど見られず、また10%を超えると、薄膜に分散される貴金属で配向性の高い酸化モリブデン薄膜の形成を阻害されるおそれがある。
【0034】
また酸化モリブデン薄膜を焼結して形成するにあたって、上記のように、析出物を分散したアルコールを基板に供給し、乾燥後、加熱することにより、酸化モリブデンが基板上に生成して焼結が促進される。しかしながら焼結が進みすぎると、酸化モリブデン粒子が数μm程度に大きくなってしまうおそれがあり、酸化モリブデンの表面積が小さくなる。酸化モリブデン薄膜をガスセンサや触媒に用いる場合、酸化モリブデンの表面積が大きいほど酸化モリブデンと外部との界面が増加するため、性能が向上するものであり、酸化モリブデン粒子の粒径が大きいと性能向上の妨げになる。
【0035】
そこで本発明では、上記のように析出物を分散したアルコールに、上記の焼成温度以下で分解する粒子を分散させるようにしてある。このように焼成温度以下で分解する粒子を分散させることによって、析出物を分散したアルコールを基板の表面に供給して焼成する際に、この分散粒子が酸化モリブデンの加熱時の焼結を抑制しつつ分解していき、最終的に酸化モリブデンだけが残ることから酸化モリブデン粒子が小さくなり、多孔質で表面積の大きい酸化モリブデン薄膜を作製することができるものである。
【0036】
この焼成温度以下で分解する粒子としては、アクリル樹脂などを用いることができる。この粒子の分解温度の上限は焼成温度であり、下限は特に設定されないが、分解温度の下限は400℃程度が、一般に好ましい。またこの粒子の分散量は特に限定されないが、アルコールに分散した析出物に対する質量比で、1:0.01〜の範囲が好ましい。さらにこの粒子の粒径も特に限定されないが、50〜3000nmの範囲が好ましい。
【0037】
上記のように本発明において基板の表面に得られる酸化モリブデン薄膜は配向性が高く、有機物をインターカレートした有機無機ハイブリッド薄膜の優れた母体となるものである。従って、酸化モリブデン薄膜に有機物をインターカレートして有機無機ハイブリッド薄膜を形成し、この薄膜に電極を設けることによって、VOCガスなどに対して優れたセンサ特性を有する化学センサを作製することができるものである。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
MoO粉末を25質量%濃度のアンモニア水に、Mo:NHがモル比で1:4となるように混合し、攪拌してMoOをアンモニア水に溶解させた。次に、このMoO−アンモニア溶液に70質量%濃度の硝酸を、Mo:HNOがモル比で1:2となるように添加し、攪拌すると、白い析出物が生成した。この析出物をろ過して、少量の水で洗浄した後、90℃で12時間乾燥した。
【0040】
次に、乾燥後のこの析出物をエチレングリコールに5g/Lとなるよう加え、1時間攪拌し、エチレングリコール中に析出物を分散させた。そしてこの分散後の液体をマイクロピペットにてシリコンウエハー基板の上に滴下した。滴下後、基板を180℃で1時間乾燥させ、さらに500℃で5時間焼成した。
【0041】
このように焼成した後の基板をX線回折測定した。X線回折結果を図1に示す。図1にみられるように、MoOの(0k0)に起因するピークのみ観測されることから、基板の表面にb軸に配向した高配向のMoO薄膜が形成されていることが確認された。
【0042】
(実施例2)
基板として熱酸化膜付Si基板を用い、熱酸化膜の表面にLaAlOゾル溶液をスピンコートして、1100℃で1時間焼成することによってLaAlOバッファー層を形成し、さらにこの上に、電極間隔20μmの金櫛形電極を金スパッタとフォトリソグラフィーを組み合わせて形成した。
【0043】
そして実施例1において、乾燥後の析出物をエチレングリコールに5g/Lとなるように加える他に、さらにHPtCl・6HOをモル比でPt:析出物のMo=1:19となるように添加して溶解した。その他は実施例1と同様にして、基板の櫛形電極の上にMoO薄膜を作製した。
【0044】
次に、このMoO薄膜を作製した基板を、NaMoO・2HOとNaとの質量比1:15の混合水溶液に浸漬し、MoOを還元して層間にNaをインターカレートした。さらにポリアニリン(PANI)単量体の8.3質量%濃度の塩酸塩水溶液に重合剤Naを0.27質量%添加した溶液に、基板を浸漬し、イオン交換によりPANIをインターカレートして、PANIをインターカレーションしたMoOの有機無機ハイブリッド薄膜を有する素子を作製した。
【0045】
そしてHPtCl・6HOを添加して作製した上記の素子と、HPtCl・6HOを添加しないで作製した素子について、櫛型電極間の室温における抵抗値を測定した。ここで、各素子を5個ずつ作製して、抵抗値を比較した。比較結果を表1に示すように、HPtCl・6HOを添加して作製した素子の方が抵抗値が低くなることを確認した。
【0046】
【表1】

【0047】
(実施例3)
実施例1において、乾燥後の析出物をエチレングリコールに5g/Lとなるように加える他に、さらに平均粒径250nmの非架橋アクリル樹脂球状粒子(綜研化学株式会社製「MP−1000」)を、質量比でアクリル樹脂球状粒子:析出物=1:4となるように添加した。尚、この非架橋アクリル樹脂球状粒子は、熱質量分析において10℃/minの昇温速度で計測すると500℃で残留成分は0.5質量%以下となり、分解温度は500℃以下である。その他は実施例1と同様にして、MoO薄膜を作製した。
【0048】
このようにして作製したMoO薄膜を走査型顕微鏡で観察し、任意の100個の粒子について粒径を測定した。また比較のために、アクリル樹脂球状粒子を添加しないで作製したMoO薄膜を走査型顕微鏡で観察した。その結果を表2に示す。表2にみられるように、アクリル樹脂球状粒子を添加したほうが、MoO薄膜の生成した粒子は小さいものであった。
【0049】
【表2】

【0050】
(実施例4)
基板として熱酸化膜付Si基板を用い、熱酸化膜の表面にLaAlOゾル溶液をスピンコートして、1100℃で1時間焼成することによってLaAlOバッファー層を形成し、さらにこの上に、電極間隔20μmの金櫛形電極を金メッキで形成した。
【0051】
この基板の櫛形電極の上に実施例1と同様にしてMoO薄膜を形成した。次に、このMoO薄膜を作製した基板を、NaMoO・2HOとNaとの質量比1:15の混合水溶液に浸漬し、MoOを還元して層間にNaをインターカレートした。さらにポリアニリン(PANI)単量体の8.33質量%濃度の塩酸塩水溶液に重合剤Naを0.27質量%添加した溶液に、基板を浸漬し、イオン交換によりPANIをインターカレートして、PANIをインターカレーションしたMoOの有機無機ハイブリッド薄膜を有する化学センサ素子を作製した。
【0052】
このように作製した化学センサ素子について、アセトアルデヒドガス雰囲気下での、櫛型電極間に形成した(PANI)MoO膜の抵抗値変化をモニタリングすることによって、センサ特性を評価した。そしてキャリアガスを窒素とし、アセトアルデヒドを200ppbで20分間、化学センサ素子に流したときの80℃での抵抗変化を図2に示す。図2にみられるように、アセトアルデヒドが流れていず窒素のみ流れているときに比べ、アセトアルデヒドが流れているときは3.1%の抵抗が増加している。従って本発明のMoO薄膜を用いることにより、アセトアルデヒドガスに対して高感度に応答する化学センサが得られることが確認された。
【0053】
(比較例1)
実施例1において、エチレングリコールに析出物を分散させる代わりに、キシレンに析出物を分散させるようにした。その他は実施例1と同様にしてMoO薄膜を作製した。
【0054】
(比較例2)
実施例1において、エチレングリコールに析出物を分散させる代わりに、テルピネオールに析出物を分散させるようにした。その他は実施例1と同様にしてMoO薄膜を作製した。
【0055】
実施例1で得た酸化モリブデン薄膜と、比較例1,2で得た酸化モリブデン薄膜のX線回折結果を図3に示す。図3にみられるように、キシレンを用いた比較例1ではほとんどピークが観測されなかった。またテルピネオールを用いた比較例2では層間距離に起因する(0k0)面のピークが観測されるものの、他の面のピークも観測されることからそれほどMoOの配向性は高くないものである。一方、エチレングリコールを用いた実施例1では、MoOの(0k0)に起因するピークのみ観測されることから、エチレングリコールの場合にMoOの配向性が最も高くなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の酸化モリブデン薄膜のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図2】実施例4の化学センサ素子のガス応答性の測定結果を示すグラフである。
【図3】比較例1、2及び実施例1の酸化モリブデン薄膜のX線回折測定の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6価のモリブデン酸化物のアンモニア溶解液に酸を供給して得られる析出物をアルコールに分散させた後、この析出物を含有するアルコールを基板に供給し、乾燥・焼成して薄膜を形成することを特徴とする酸化モリブデン薄膜の製造方法。
【請求項2】
上記アルコールがエチレングリコールであることを特徴とする請求項1に記載の酸化モリブデン薄膜の製造方法。
【請求項3】
上記モリブデン酸化物がMoOであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化モリブデン薄膜の製造方法。
【請求項4】
上記析出物を含有するアルコールには、アルコール可溶性の貴金属化合物をも含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸化モリブデン薄膜の製造方法。
【請求項5】
上記析出物を含有するアルコールに、上記の焼成に要する温度以下で分解する粒子を分散して成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸化モリブデン薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項の製造方法で得られた酸化モリブデン薄膜を用いて形成されたことを特徴とする化学センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−224447(P2008−224447A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63843(P2007−63843)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】