説明

酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲット

【課題】表面抵抗が低く、酸素を含む雰囲気下で加熱しても加熱前後の表面抵抗の変化率が小さく耐熱性に優れた酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットを提供する。
【解決手段】酸化亜鉛およびインジウムを含む焼結体からなる酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットであって、焼結体に含まれるインジウム元素の比率は0.003〜30質量%である。焼結体の結晶粒径を走査型電子顕微鏡で観察したとき、平均結晶粒径は0.1〜20μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング法によって酸化亜鉛系薄膜を製造する際に用いるターゲット、および当該ターゲットを用いて得られる酸化亜鉛系薄膜に関し、特に、加熱前後の表面抵抗(シート抵抗)の変化率が少なく耐湿熱性に優れた酸化亜鉛系薄膜を製造するのに有用なイオンプレーティング用ターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などに用いられる透明電極用の導電膜として、比抵抗が低く透明性が高いITO(インジウム錫酸化物)膜が汎用されている。しかし、インジウムは高価であり資源の制約も懸念されるため、ITO膜に代わる導電膜として、酸化亜鉛(ZnO)を主体として含有する酸化亜鉛系導電膜の開発が進められている。
【0003】
酸化亜鉛系導電膜を量産レベルで製造する代表的な方法として、直流マグネトロンスパッタリング法が知られている。この方法は、製膜速度や製膜面積の点で優れている。しかし、直流マグネトロンスパッタリング法を含めスパッタリング法で酸化亜鉛系導電膜を形成すると、基板上に大きな抵抗率分布(エロージョン対向部での表面抵抗率の増大)を生じる場合がある。また、スパッタリング法では、酸化亜鉛系導電膜の膜厚が数十nm〜数百nm程度の極薄レベルになると、低い表面抵抗が得られないといった問題もある。
【0004】
これに対し、イオンプレーティング法を用いれば、スパッタリング法のように大きな抵抗率分布を生じることなく、表面抵抗の小さい酸化亜鉛系導電膜を高い製膜速度(前述した直流マグネトロンスパッタリング法の3〜5倍程度)で大きな製膜面積に形成することが可能である。
【0005】
ここで、イオンプレーティング法とは、プラズマガンや電子銃でターゲット(蒸発原料)にプラズマビームや電子ビームを照射し、蒸発原料を蒸発(出射)させると共にその蒸発粒子が基板に到達する前にイオン化させ、電位勾配を利用して蒸発粒子のエネルギーを制御したうえで基板上に蒸着(入射)させる方法である。
【0006】
イオンプレーティング法による酸化亜鉛系導電膜として、例えば、特許文献1〜3に記載の方法が挙げられる。
【0007】
特許文献1は、比抵抗が小さい酸化亜鉛系導電膜を高い製膜速度で大きな製膜面積に形成することが可能な製造方法に関し、ガリウム(Ga)またはガリウム化合物を添加した酸化亜鉛を蒸発材料として用い、製膜室の酸素分圧が0.012Pa以下にて製膜する方法が記載されている。
【0008】
特許文献2および特許文献3は、いずれも、本願出願人によって出願されたものであり、ターゲットの加熱時に生じるスプラッシュ現象を防止または抑制することが可能な酸化亜鉛系導電膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットに関するものである。実施例の欄には、ターゲットとして用いられる酸化亜鉛系焼結体として、ガリウムを導電性付与成分として含む焼結体を用いた例が開示されている。
【0009】
ところで、一般に酸化亜鉛系透明導電膜は、非特許文献1などに記載されているように耐久性に劣っており、耐湿熱環境試験での抵抗安定性が悪い(耐湿熱環境試験前後における表面抵抗の変化率が高い)などの問題を抱えている。特に、イオンプレーティング法では、膜中に不足する酸素を補って透明な導電膜を得るため、イオンプレーティング装置内に酸素を供給しながら製膜する。そのため、ターゲットの表面が酸化されて表面抵抗が上昇し、そのことが、酸化亜鉛系導電膜の表面抵抗も上昇させ、耐湿熱性が低下するようになる。
【0010】
そこで、酸素雰囲気などの大気雰囲気で加熱しても加熱前後の表面抵抗の変化率が小さい、耐熱性に優れたイオンプレーティング用ターゲットの提供が望まれている。前述した特許文献1〜3では、耐熱性向上に対して何も考慮していない。
【0011】
なお、特許文献4には、イオンプレーティング法ではなくスパッタリング法によって耐湿熱性が高められた透明導電膜が開示されている。しかしながら、この透明導電膜は、Inの原子比In/(In+Zn)が0.55〜0.80からなり、高価なインジウムを多量に使用する必要がある。また、特許文献4では、スパッタリング法を採用しているため、得られる透明導電膜の膜厚は、約200〜350nmと厚い。従って、例えば厚さが約数200nm以下の極薄レベルであっても耐湿熱性に優れた透明導電膜を得ることが可能な、イオンプレーティング用ターゲットの提供が望まれている。
【特許文献1】特開2004−95223号公報
【特許文献2】特開2007−56351号公報
【特許文献3】特開2007−56352号公報
【特許文献4】特開平6−318406号公報
【非特許文献1】APPLIED PHYSICS LETTERS 89,091904(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面抵抗が低く、酸素を含む雰囲気下で加熱しても加熱前後の表面抵抗の変化率が小さく耐熱性に優れた酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲット、および当該ターゲットを用いて得られる酸化亜鉛系薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決することのできた本発明に係るイオンプレーティング用ターゲットとは、酸化亜鉛およびインジウムを含む焼結体からなる酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットであって、前記焼結体中に含まれるインジウム元素の比率は、0.003〜30質量%であるところに要旨を有している。
【0014】
好ましい実施形態において前記焼結体は、更にガリウムを含むものであって、前記焼結体に含まれるガリウム元素の比率は、0.5〜7.5質量%である。
【0015】
好ましい実施形態において、前記更にガリウムを含む焼結体は、該焼結体に含まれるインジウム元素の比率の上限が8質量%である。
【0016】
好ましい実施形態において、前記焼結体の結晶粒径を走査型電子顕微鏡で観察したとき、平均結晶粒径が0.10〜20μmである。
【0017】
好ましい実施形態において、前記焼結体の表面抵抗は0.1Ω/□以下である。
【0018】
好ましい実施形態において、大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行ったとき、加熱試験前の表面抵抗に対する加熱試験後の表面抵抗の比は3以下である。
【0019】
本発明には、上記のいずれかに記載のイオンプレーティング用ターゲットを用いて得られる酸化亜鉛系薄膜も包含される。
【0020】
好ましい実施形態において、酸化亜鉛系薄膜の厚さは5〜200nmである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のイオンプレーティング用ターゲットは上記のように構成されているため、耐湿熱性に優れた酸化亜鉛系導電膜を製造するためのターゲットとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明者らは、表面抵抗が低く、耐湿熱性に優れた酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットを提供するため、検討してきた。その結果、前述した特許文献1〜3のようにガリウム(Ga)を用いるのではなくインジウム(In)を用い、Inを所定比率で含む酸化亜鉛系焼結体であって、焼結体の表面抵抗が0.1Ω/□以下と低く、且つ、大気雰囲気中600℃で1時間の加熱試験を行ったときの加熱試験前後の表面抵抗の変化率が3以下の焼結体からなるターゲットを用いれば、所望とする酸化亜鉛系薄膜が得られることを見出した。具体的には、(ア)Inを0.003〜30質量%の範囲で含み、好ましくは、平均結晶粒径が0.10〜20μmと適切に制御されたIn含有酸化亜鉛焼結体からなるターゲットを用いれば良いこと、(イ)このような酸化亜鉛焼結体ターゲットを製造するためには、酸化亜鉛とインジウム元素が所定比率で混合された混合粉末を予め高温で焼成し、最大粒子径および平均粒子径が適切に制御された焼成粉を用いて、実質的に酸素を含まない雰囲気下で焼結すれば良いこと、を見出し、本発明を完成した。
【0023】
本発明のターゲットは、前述した特許文献4に記載のIn主体のターゲットに比べ、Inの含有量が少ない酸化亜鉛主体のターゲットであり、当該ターゲットを用いて得られる酸化亜鉛系導電膜の厚さは、概ね200nm以下と非常に薄いにもかわらず、表面抵抗が低く、且つ、耐湿熱性にも優れた導電膜を得ることができる。
【0024】
本発明に到達した経緯は以下のとおりである。
【0025】
本発明者らは、酸化亜鉛系の透明導電膜が耐湿熱性に劣っている理由は、ターゲットを構成する焼結体の耐熱性が悪いことに起因しているのではないかと考え、ターゲット、および当該ターゲットを用いてイオンプレーティング法によって得られる透明導電膜の両方について、加熱前後における表面抵抗の変化率を調べた。その結果、透明導電膜の耐湿熱性はターゲットの耐熱性と密接に関連しており、加熱前後における表面抵抗の変化率が大きい焼結体ターゲットを用いると透明導電膜の表面抵抗の変化率が大きくなって耐湿熱性が低下するのに対し、加熱前後における表面抵抗のターゲットの変化率が小さい焼結体ターゲットを用いれば透明導電膜の表面抵抗の変化率は小さくなり、耐湿熱性が改善されることが確認された。
【0026】
この理由は詳細には不明であるが、以下のように推察される。
【0027】
イオンプレーティング法によれば、電子ビームや熱プラズマなどで加熱された酸化亜鉛系焼結体(ターゲット)の蒸発原料は、急激な温度上昇によって昇華して蒸発が進むと同時に、イオンプレーティング装置内に供給される酸素ガスによって焼結体の表面が酸化される。このとき、耐熱性が悪い焼結体を用いると、焼結体の表面抵抗が上昇して電子ビームの安定な流れなどが変化し、焼結体からの高エネルギー蒸発物質による均一な蒸発が阻害され、エネルギーの低い蒸発物質が蒸発するため、透明導電膜の耐湿熱性が低下すると考えられる。これに対し、耐熱性に優れた焼結体を用いれば、イオンプレーティング装置内に供給される酸素ガスによる焼結体の表面抵抗の上昇が低く抑えられ、電子ビームの流れや熱プラズマの空間分布が一様で安定なため、焼結体からの高エネルギー蒸発物質による均一な製膜が実現される結果、透明導電膜の耐湿熱性が向上すると考えられる。
【0028】
本明細書において、「ターゲットの表面抵抗(シート抵抗)が低い」とは、後記する実施例の欄に記載の方法で加熱前の表面抵抗を四探針法によって測定したとき、0.1Ω/□以下のものを意味する。好ましい表面抵抗は、0.08Ω/□以下である。
【0029】
また、本明細書において、「ターゲットの耐熱性に優れている」とは、大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行ったとき、加熱試験前の表面抵抗に対する加熱試験後の表面抵抗の比が3以下であるものを意味する。好ましい表面抵抗の比は2.5以下である。
【0030】
本明細書において、「酸化亜鉛系薄膜(導電膜)の耐湿熱性に優れている」とは、60℃、95%RHにセットした恒温恒湿槽で500時間の環境試験を行ったとき、環境試験前の表面抵抗に対する環境試験後の表面抵抗の比が1.3以下であるものを意味する。好ましい表面抵抗の比は、1.2以下である。
【0031】
まず、本発明に係る酸化亜鉛系薄膜製造用イオンプレーティング用ターゲットについて説明する。
【0032】
本発明のターゲットは、酸化亜鉛およびインジウムを含む焼結体からなり、焼結体に含まれるインジウム元素の比率は0.003〜30質量%である。前述したように、本発明は、従来のようにインジウム主体の導電膜でなく、酸化亜鉛主体の導電膜を得るために有用なインジウム含有酸化亜鉛系焼結体からなるターゲットの提供を目的とするものである。上記の観点に基づき、本発明では、インジウム元素の上限を30質量%と定めた。一方、インジウム元素の含有量が0.003質量%未満では酸化亜鉛系薄膜の導電性および耐湿熱性が低下するため、インジウム元素の下限を0.003質量%と定めた。インジウム元素の好ましい含有量は、0.01質量%以上20質量%以下である。
【0033】
本発明のターゲット(焼結体)は、基本的に、酸化亜鉛およびインジウム成分(例えば酸化インジウムなど)からなり、残部は原料や製造過程等で混入する不可避不純物である。但し、本発明の効果(酸化亜鉛系薄膜の耐湿熱性)に悪影響を及ぼさない範囲で、本発明のターゲットは、他の成分を含有しても良い。
【0034】
本発明のターゲットは、さらにガリウム成分(例えば酸化ガリウムなど)を含んでいても良い。インジウムに加えてさらにガリウムを酸化亜鉛系ターゲットに含有させることによって、酸化亜鉛系薄膜の透明性(可視光透過率、400〜800nmの平均透過率)も併せて向上させることができる。
【0035】
高い透明性を確保するには、ターゲット(焼結体)に含まれるガリウム元素の比率を、0.5質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。一方、ガリウム元素の含有比率が過剰であると、ターゲットの耐熱性および酸化亜鉛系薄膜の耐湿熱性が劣化する。よって、良好な耐熱性を確保するため、ターゲット(焼結体)に含まれるガリウム元素の比率は、好ましくは7.5質量%以下とする。より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下である。
【0036】
尚、この様に酸化亜鉛系薄膜の透明性を高めるべくガリウムを含有させる場合(即ち、ZnO−In−Gaの3成分系の酸化亜鉛系ターゲットの場合)、このガリウムによる酸化亜鉛系薄膜の透明性向上の効果を有効に発揮させるべく、ターゲット(焼結体)に含まれるインジウム元素の比率を、8.0質量%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは7.5質量%以下、さらに好ましくは7.0質量%以下である。なお3成分系の酸化亜鉛系ターゲット(ZnO−In−Ga)のインジウム元素の含有比率の下限は、上述したとおりである。
【0037】
なお本明細書において、「酸化亜鉛系薄膜(導電膜)の透明性が高い」とは、薄膜の400〜800nmの平均透過率(可視光透過率)が、後記する実施例の欄に記載の方法で測定したとき、75%以上であることを意味する。好ましい可視光透過率は80%以上、より好ましい可視光透過率は82%以上である。
【0038】
上記焼結体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときの平均結晶粒径は0.10〜20μmである。平均結晶粒径が20μmを超えると、焼結体からの蒸発粒子が基板に到達する前に凝集が生じ、基板面内で均一かつ緻密な製膜の実現が阻害されるため、透明導電膜の表面抵抗が上昇し、耐湿熱性が低下する。平均結晶粒径は小さいほど良く、例えば、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましい。なお、その下限は、耐湿熱性の観点からは特に限定されないが、実用上可能な平均結晶粒径の下限は、おおむね、0.10μmである。
【0039】
ここで、焼結体の平均結晶粒径は、以下のようにして測定した。
【0040】
まず、平均結晶粒径測定用のサンプルとして、直径20mm、厚さ20mmの円柱型ターゲットを用意する。このサンプルについて、厚み方向で1/3t(tは厚み)〜2/3tの部位をダイヤモンドカッターで切断し、表面研磨を行った後、走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−5800LV)を用いて倍率2000倍で観察した。1視野サイズは約60μm×40μmとし、合計3視野を観察した。得られたSEM像を解析装置(ナノシステム社製NanoHunter NS2K−Pro)に取り込んで画像解析を行い、結晶粒径の平均値を算出した。
【0041】
上記焼結体の表面抵抗は0.1Ω/□以下である。後記する実施例に示すように、表面抵抗が0.1Ω/□を超える焼結体を用いると、大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱
試験を行ったとき、加熱後の表面抵抗は加熱前に比べて3倍以上上昇してしまう。また、このような焼結体を用いてイオンプレーティング法によって製膜すると、後記する実施例に示すように、透明導電膜の耐湿熱性が低下する。
【0042】
焼結体の表面抵抗は小さいほど良く、好ましい表面抵抗は0.08Ω/□以下であり、更に好ましくは0.06Ω/□以下である。また、上記の加熱試験を行ったとき、加熱試験前の表面抵抗に対する加熱試験後の表面抵抗の比も小さいほど良く、好ましくは3以下であり、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2以下である。
【0043】
次に、本発明のイオンプレーティング用ターゲットを得るための有用な製造方法について説明する。
【0044】
本発明に係るターゲットの製造方法は、基本的に、酸化亜鉛とインジウム元素の質量比率が99.997:0.003〜70:30の混合粉末を用意する工程と、
前記混合粉末を400〜1300℃で焼成し、最大粒子径が150μm以下で平均粒子径が0.10〜20μmの焼成粉を得る工程と、
前記焼成粉を予備成型し、実質的に酸素を含まない雰囲気下にて500〜1600℃で焼結する工程と、
を包含している。
【0045】
尚、ターゲットに他の成分(ガリウムなど)を含有させる場合は、その量に応じて混合粉末の質量比率を調整すればよい。以下では基本的に、酸化亜鉛およびインジウム元素の2成分系のターゲット(ZnO−In)について説明する。
【0046】
上記工程のうち、所望とする焼結体ターゲットを得るために最も留意すべき工程は焼結工程である。本発明では、特に、焼結時の雰囲気を実質的に酸素を含まない雰囲気に制御することによって耐熱性に優れ、表面抵抗も低いターゲットが得られる(後記する実施例を参照)。
【0047】
所望とするターゲットを得るためには、上記のほか、最大粒子径および平均粒子径が適切に制御され、且つ高温で焼成された焼成粉を用いることも重要である。このような焼成粉の使用により、焼成工程では結晶の成長が進むが、その後の焼結工程では体積収縮を起こし難くなるため、焼結体を構成する結晶粒子の成長が極力少なくなって、焼結体の平均結晶粒径を20μm以下と小さく抑えることができる。
【0048】
以下、各工程を詳細に説明する。
【0049】
まず、酸化亜鉛とインジウム元素の質量比率が99.997:0.003〜70:30の混合粉末を用意する。インジウム元素の含有比率は、製膜される導電膜の要求特性に応じて適宜適切に変更することができる。
【0050】
本発明では、原料粉末として、平均粒子径がおおむね0.05〜3μmであり、最大粒子径がおおむね10μm以下の酸化亜鉛粉と、平均粒子径がおおむね0.05〜3μmであり、最大粒子径がおおむね10μm以下の酸化インジウム粉を用いることが好ましく、これにより、所望の最大粒子径および平均粒子径を備えた焼成粉を得ることができる。酸化亜鉛粉の好ましい平均粒子径は0.1〜2μmであり、酸化亜鉛粉の好ましい最大粒子径は8μm以下である。また、酸化インジウム粉の好ましい平均粒子径は0.1〜2μmであり、酸化インジウム粉の好ましい最大粒子径は8μm以下である。尚、更に酸化ガリウム粉を用いる場合には、該酸化ガリウム粉の好ましい平均粒子径は0.1〜2μmであり、酸化ガリウム粉の好ましい最大粒子径は8μm以下である。これらの原料粉末は、市販品を用いてもよい。
【0051】
ここで、酸化亜鉛粉および酸化インジウム粉の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡で数万倍の写真を数視野撮影し、投影された各粒子の円近似直径を、1試料当たり約100個〜150個計測する。計測は、粒子径自動解析装置(Zeiss Model TGA10)などを用いて行なうことができる。
【0052】
酸化亜鉛粉および酸化インジウム粉の純度は、焼結体の特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、出来るだけ高いこと(おおむね、純度99.9%以上)が好ましい。
【0053】
酸化亜鉛粉と酸化インジウム粉の混合方法は特に限定されず、酸化インジウム粉を酸化亜鉛粉に対して適量配合し、ボールミル、ホモジナイザー、ヘンシェルミキサーなど公知の混合装置を用いて混合すればよい。
【0054】
なお、導電性などの更なる向上を目的として、上記の混合粉末には、本発明の作用を阻害しない限度で、公知の導電性付与成分(例えば、Ga、Al、Snなど)を添加してもよい。すなわち、本発明には、酸化亜鉛とインジウムだけでなく、他の導電性付与成分を含む焼結体ターゲットおよび当該焼結体ターゲットを用いて得られる導電膜も包含される。
【0055】
次に、上記混合粉末を400〜1300℃で焼成し、最大粒子径が150μm以下で平均粒子径が0.1〜20μmの焼成粉を得る。これにより、焼成時における結晶の成長が進むと共に、その後の焼結時では体積収縮を起こし難くなるため、焼結体の平均結晶粒径を小さく制御することができる。
【0056】
上記のように焼成温度は400〜1300℃とする。焼成によって得られるインジウム含有酸化亜鉛焼成粉は、焼結体(ターゲット)の骨格成分となるもので、それ自身、結晶化が十分に進んでいることが必要であり、そのために、焼成温度を400℃以上、好ましくは500℃以上とする。しかし、焼成温度が高過ぎると、焼成前の予備成型時において予備成型体がひび割れを起こし易くなるため、高くとも1300℃以下、好ましくは1100℃以下とする。
【0057】
焼成粉の粒度構成は、最大粒子径が150μm以下で且つ平均粒子径が0.10〜20μmである。これにより、所望とする平均結晶粒径の焼結体が得られる。最大粒子径が150μmを超え、或いは平均粒子径が20μmを超えると、焼成粉が粗くなり過ぎて、焼結後のターゲットが均質性不足となるほか、強度も不足気味となり、品質安定性に欠けるものとなる。一方、平均粒子径が小さ過ぎると、焼成粉が微細になり過ぎるためにターゲットが緻密になり、平均結晶粒径が大きくなる。焼成粉の好ましい粒度構成は、最大粒子径が130μm以下、更に好ましくは110μm以下であり、平均粒子径が0.3〜15μm、更に好ましくは0.5〜10μmである。
【0058】
次いで、上記の焼成粉を予備成型し、実質的に酸素を含まない雰囲気下にて500〜1600℃で焼結する。これにより、表面抵抗が低く、耐熱性に優れており、しかも適度の強度を有する焼結体ターゲットが得られる。
【0059】
ここで、焼結雰囲気の制御は極めて重要であり、本発明では実質的に酸素を含まない雰囲気下で焼結を行なう。「実質的に酸素を含まない」とは、雰囲気中のガス濃度を測定したとき、酸素濃度が検出限界以下であることを意味する。具体的には、本発明では、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中、または水素、一酸化炭素等の還元雰囲気中で焼結を行う。あるいは、不活性ガスと還元ガスとの混合雰囲気下で焼結を行なってもよい。後記する実施例に示すように、酸素を含む雰囲気下で焼結を行うと、焼結体の表面抵抗を所定値以下に低くすることができず、焼結体の耐熱性も低下してしまう。従って、例えば、前述した特許文献2および3の実施例では、大気雰囲気下で焼結を行なって酸化亜鉛焼結体を製造しているが、これでは、本発明で所望とする焼結体を得ることはできない。
【0060】
また、焼結温度は500℃〜1600℃とする。焼結温度が500℃未満では十分な焼結が起こらず、焼結体(ターゲット)自身が崩れ易くなる。しかし、焼結温度が1600℃を超えて高くなり過ぎると、焼結体からの酸化亜鉛の蒸発が起こり、インジウム元素との組成比にズレが生じ易くなるので好ましくない。好ましい焼結温度は、600℃以上1500℃以下であり、更に好ましくは700℃以上1400℃以下である。
【0061】
焼結時間は特に制限されないが、通常は1時間程度以上で十分であり、標準的には3時間程度以上とされる。焼結時間の上限は特に限定されないが、5時間以上焼結を行なっても経済的に無駄であるため、おおむね、5時間以下に制御することが好ましい。
【0062】
なお、予備成型の方法は、特に限定されず、機械プレスや静水圧プレスなど予備成型体を得るための任意の方法を採用することができる。
【0063】
本発明には、上述したターゲットを用い、イオンプレーティング法によって得られる酸化亜鉛系導電膜も包含される。本発明のターゲットを用いてイオンプレーティング法による製膜を行なえば、酸化亜鉛系焼結体からの高エネルギー蒸発物資による均一な蒸発が実現されるため、表面抵抗が低く、耐湿熱性に優れた高性能の酸化亜鉛系導電膜をおおむね、5〜200nm程度(好ましくは、10〜150nm程度)の薄膜レベルで得ることができる。従って、本発明によって得られる酸化亜鉛系導電膜は、ITO膜などに代替可能な廉価な導電膜素材としての利用が期待される。
【0064】
上記酸化亜鉛系導電膜の表面抵抗は、おおむね、50〜1000Ω/□であり、好ましくは50〜900Ω/□である。また、上記酸化亜鉛系導電膜について、前述した環境試験を行ったとき、環境試験前の表面抵抗に対する環境試験後の表面抵抗の比は、おおむね、1.01〜1.30であり、好ましくは1.01〜1.20である。
【0065】
上記酸化亜鉛系導電膜の可視光透過率(400〜800nmの平均透過率)は、75%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは82%以上である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
(焼結体からなるターゲットの特性評価)
後記する実施例および比較例の焼結体からなるターゲットの表面抵抗および耐熱性は、以下のようにして測定した。
【0068】
(1)表面抵抗
エヌピイエス株式会社製の抵抗率測定器Σ―5を用い、四探針法によって表面抵抗を測定した。ここでは、表面抵抗が0.1Ω/□以下のものを「表面抵抗が低い」と評価した。
【0069】
(2)耐熱性
大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱試験前の表面抵抗に対する加熱試験後の表面抵抗の比(変化率)を測定した。ここでは、上記の変化率が3以下のものを「耐熱性に優れる」と評価した。
【0070】
(透明導電膜の製膜条件および特性評価)
後記する実施例および比較例の焼結体からなるターゲットを用い、イオンプレーティング法によって透明導電膜を製膜した。製膜条件を下記に示す。
基板 :厚み0.7mmの無アルカリガラス
製膜前の基板の予備加熱:なし
製膜時の圧力 :0.3Pa
製膜時の雰囲気ガス条件:アルゴン=160sccm、酸素=2sccm
製膜時の放電電流 :100A
イオンプレーティング装置:ヘンミ計算尺株式会社製「Z−TOPS」
【0071】
透明導電膜の表面抵抗、耐湿熱性および可視光透過率は、以下のようにして測定した。
【0072】
(3)表面抵抗
焼結体ターゲットと同様にして透明導電膜の表面抵抗を測定した。ここでは、表面抵抗が1000Ω/□以下のものを「表面抵抗が低い」と評価した。
【0073】
(4)耐湿熱性
焼結体ターゲットと同様にして湿熱試験前後の表面抵抗の変化率を測定した。ここでは、上記の変化率が1.3以下のものを「耐湿熱性に優れる」と評価した。
【0074】
(5)可視光透過率(透明性)
作製した透明導電膜の可視光透過率(透明性)は、(株)日立ハイテクノロジーズ製U−4100形分光光度計を用いて測定を行った。透明性の評価には、可視領域(400〜800nm)の透過率の平均値を用いた。そして、この400〜800nmの平均透過率(可視光透過率)が80%以上のものを「透明性が高い」と評価した。
【0075】
実施例1
原料粉末として、純度3N、平均粒子径2μmで最大粒子径が8μmの酸化インジウム粉(稀産金属株式会社社製の酸化インジウム)、および純度4N、平均粒子径1μmで最大粒子径が8μm以下の酸化亜鉛粉(ハクスイテック株式会社社製の酸化亜鉛1種)を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が6.0質量%となるように秤量した。この原料粉末を湿式ボールミルで12時間混合・粉砕し、混合粉末を得た。
【0076】
得られた混合粉末を800℃で3時間焼成し、最大粒子径が110μmで平均粒子径が5μmの焼成粉を得た。得られた焼成粉を機械プレスにより40MPaの圧力下で予備成型した後、窒素雰囲気下に1300℃で5時間焼結し、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は0.028Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は0.05Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は1.79であった。
【0077】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットをイオンプレーティング装置に装填し、前述した条件で厚さ150nmの透明導電膜を製膜した(製膜時間は200秒)。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は400Ω/□であった。上記の透明導電膜を用い、前述した湿熱試験を行なったとき、湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は1.10であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.0%であった。
【0078】
実施例2
前述した実施例1において、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が9.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして混合粉末を得た。
【0079】
得られた混合粉末を700℃で3時間焼成し、最大粒子径が110μmで平均粒子径が4.5μmの焼成粉を得た。得られた焼成粉を機械プレスにより40MPaの圧力下で予備成型した後、水素雰囲気下に900℃で5時間焼結し、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は0.025Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は0.042Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は1.69であった。
【0080】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットを用いてイオンプレーティング法を行い、製膜時間を140秒に制御して厚さ100nmの透明導電膜を製膜した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は500Ω/□であり、前述した湿熱試験を行なったときの湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は1.08であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.2%であった。
【0081】
実施例3
前述した実施例1において、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が12.5質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして混合粉末を得た。
【0082】
得られた混合粉末を600℃で3時間焼成し、最大粒子径が110μmで平均粒子径が
4.0μmの焼成粉を得た。得られた焼成粉を機械プレスにより40MPaの圧力下で予備成型した後、一酸化炭素雰囲気下に900℃で5時間焼結し、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は0.024Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は0.038Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は1.58であった。
【0083】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットを用いてイオンプレーティング法を行い、製膜条件を80秒に制御して厚さ60nmの透明導電膜を製膜した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は550Ω/□であり、前述した湿熱試験を行なったときの湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は1.06であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.5%であった。
【0084】
実施例4
前述した実施例1において、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が0.3質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0085】
実施例5
前述した実施例2において、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が3.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0086】
実施例6
前述した実施例3において、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が25.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例3と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0087】
前記実施例4〜6で得られた焼結体からなるターゲットの特性(平均結晶粒径、表面抵抗および耐熱性)を上記の通り評価すると共に、該ターゲットを用いて、表1に示す厚さの透明導電膜(酸化亜鉛系薄膜)を製膜し、該透明導電膜の特性(表面抵抗、耐湿熱性および可視光透過率)を上記の通り評価した。その結果を表1に示す。
【0088】
比較例1
前述した実施例1において、酸素濃度3%を含む窒素雰囲気下に1100℃で5時間焼結を行なったこと以外は実施例1と同様にして、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は290Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は3000Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は10.34であった。
【0089】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットを用いてイオンプレーティング法を行い、厚さ160nmの透明導電膜を製膜した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は380Ω/□であり、前述した湿熱試験を行なったときの湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は1.40であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.2%であった。
【0090】
比較例2
前述した実施例2において、酸素濃度3%を含む窒素雰囲気下に1100℃で5時間焼結を行なったこと以外は実施例2と同様にして、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は120Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は730Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は6.08であった。
【0091】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットを用いてイオンプレーティング法を行い、厚さ95nmの透明導電膜を製膜した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は530Ω/□であり、前述した湿熱試験を行なったときの湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は1.50であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.4%であった。
【0092】
比較例3
前述した実施例3において、酸素濃度3%を含む窒素雰囲気下に1100℃で5時間焼結を行なったこと以外は実施例3と同様にして、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造した。このようにして得られた焼結体の表面抵抗は18Ω/□であった。上記の焼結体を大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行なったとき、加熱後の表面抵抗は160Ω/□であり、加熱前後の表面抵抗の変化率(耐熱性)は8.89であった。
【0093】
次に、上記のようにして得られた焼結体からなるターゲットを用いてイオンプレーティング法を行い、厚さ65nmの透明導電膜を製膜した。このようにして得られた透明導電膜の表面抵抗は540Ω/□であり、前述した湿熱試験を行なったときの湿熱試験前後の表面抵抗の変化率(耐湿熱性)は2.50であった。また、上記の透明導電膜の可視光透過率は79.1%であった。
【0094】
表1に、実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例3の結果をまとめて記載する。
【0095】
【表1】

【0096】
表1より、焼結雰囲気を適切に制御したために、インジウム元素の含有比率および平均結晶粒径が本発明の要件を満足し、表面抵抗が低く耐熱性に優れた実施例1〜実施例6の焼結体ターゲットを用いて得られた酸化亜鉛系薄膜は、いずれも、厚さが約35〜195μm程度と薄いにもかかわらず、表面抵抗が低く、且つ、耐湿熱性にも優れている。
【0097】
これに対し、大気雰囲気下で焼結を行なったために表面抵抗が高く耐熱性に劣っている比較例1〜比較例3の焼結体ターゲットを用いて得られた酸化亜鉛系薄膜は、いずれも、表面抵抗は良好であるが、耐湿熱性に劣っている。
【0098】
比較例4
前述した実施例1において、原料粉末を湿式ボールミルで24時間混合・粉砕したこと以外は実施例1と同様にして混合粉末を得た。
【0099】
得られた混合粉末を300℃で3時間焼成し、最大粒子径が3μmで平均粒子径が0.08μmの焼成粉を得た。ここでは、焼成温度が低いため、上記焼成粉の平均粒子径は本発明の要件(0.10μm以上)を下回っている。得られた焼成粉を機械プレスにより40MPaの圧力下で予備成型した後、窒素雰囲気下に400℃で5時間焼結し、直径20mm×厚さ20mmの焼結体を製造したところ、焼結が充分進行せず、焼結体自体が崩れてしまった。
【0100】
比較例5
前述した実施例1と同様にして混合粉末を得た後、この混合粉末を1400℃で3時間焼成し、最大粒子径が180μmで平均粒子径が30μmの焼成粉を得た。ここでは、焼成温度が高いため、上記焼成粉の平均粒子径は本発明の要件(20μm以下)を超えている。得られた焼成粉を機械プレスにより40MPaの圧力下で予備成型したところ、予備成型体にひび割れが生じ、予備成型体自体が崩れてしまった。
【0101】
実施例7
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、純度4N、平均粒子径2μmで最大粒子径が8μmの酸化ガリウム粉(稀産金属株式会社製の酸化ガリウム)を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.0質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0102】
実施例8
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が4.0質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0103】
実施例9
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が4.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0104】
実施例10
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0105】
実施例11
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が6.0質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0106】
実施例12
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が5.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0107】
実施例13
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が7.5質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0108】
実施例14
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が7.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0109】
実施例15
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が8.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0110】
実施例16
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が10.0質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0111】
実施例17
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が1.0質量%およびガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例2と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0112】
実施例18
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が0.7質量%となるように秤量したこと以外は実施例3と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0113】
実施例19
原料粉末として、前記酸化インジウム粉および前記酸化亜鉛粉に加えて、実施例7と同様に酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するインジウム元素の比率が2.5質量%およびガリウム元素の比率が0.3質量%となるように秤量したこと以外は実施例3と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0114】
比較例6
原料粉末として、前記酸化亜鉛粉および前記酸化ガリウム粉を用意し、原料粉末の合計量に対するガリウム元素の比率が2.0質量%となるように秤量したこと以外は実施例1と同様にして焼結体(ターゲット)を製造した。
【0115】
前記実施例7〜19および比較例6で得られた焼結体からなるターゲットの特性(平均結晶粒径、表面抵抗および耐熱性)を上記の通り評価すると共に、該ターゲットを用いて、表2に示す厚さの透明導電膜(酸化亜鉛系薄膜)を製膜し、該透明導電膜の特性(表面抵抗、耐湿熱性および可視光透過率)を上記の通り評価した。その結果を表2にまとめて記載する。
【0116】
【表2】

【0117】
表2より、インジウム元素およびガリウム元素の含有比率が本発明の好ましい要件を満たす実施例7〜14、実施例17および実施例18の焼結体ターゲットを用いて得られた酸化亜鉛系薄膜は、表面抵抗が低く、耐湿熱性にも優れ、且つ透明性が高い。
【0118】
透明性の高い酸化亜鉛系薄膜を得るには、ターゲットに規定量のガリウム元素が含まれていることが好ましいことが、実施例19からわかる。一方、実施例15の結果から、ガリウム元素が過剰に含まれていると、焼結体ターゲットの耐熱性および酸化亜鉛系薄膜の耐湿熱性が低下するため好ましくないことがわかる。また、実施例16の結果より、透明性を高める観点からは、インジウム元素の含有比率を8質量%以下に抑えることが好ましいことがわかる。
【0119】
尚、比較例6は、インジウム元素を含有していないため、焼結体ターゲットの耐熱性および酸化亜鉛系薄膜の耐湿熱性に劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛およびインジウムを含む焼結体からなる酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲットであって、
前記焼結体に含まれるインジウム元素の比率は、0.003〜30質量%であることを特徴とする酸化亜鉛系薄膜製造用のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項2】
前記焼結体は、更にガリウムを含むものであって、前記焼結体に含まれるガリウム元素の比率が、0.5〜7.5質量%である請求項1に記載のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項3】
前記焼結体に含まれるインジウム元素の比率の上限が8質量%である請求項2に記載のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項4】
前記焼結体の結晶粒径を走査型電子顕微鏡で観察したとき、平均結晶粒径が0.10〜20μmである請求項1〜3のいずれかに記載のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項5】
前記焼結体の表面抵抗が0.1Ω/□以下である請求項1〜4のいずれかに記載のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項6】
大気雰囲気中、600℃で1時間の加熱試験を行ったとき、加熱試験前の表面抵抗に対する加熱試験後の表面抵抗の比が3以下である請求項1〜5のいずれかに記載のイオンプレーティング用ターゲット。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のイオンプレーティング用ターゲットを用いて得られる酸化亜鉛系薄膜。
【請求項8】
厚さが5〜200nmである請求項7に記載の酸化亜鉛系薄膜。

【公開番号】特開2009−114538(P2009−114538A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269691(P2008−269691)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省四国経済産業局、平成19年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(酸化亜鉛技術をベースとした多機能ハイブリッド部材の設計的創出)に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000234395)ハクスイテック株式会社 (9)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】