説明

酸洗廃液の処理方法および酸洗廃液用処理装置

【課題】アルカリ溶液で中和処理された酸洗廃液から酸とアルカリを効率的に回収することのできる酸洗廃液の処理方法および酸洗廃液処理装置を提供する。
【解決手段】遊離酸が回収された酸洗廃液を脱遊離酸液中和処理装置5に供給して中和液を得、得られた中和液を逆浸透膜装置6に供給して塩溶液と水とに分離し、逆浸透膜装置6で得られた塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置9に供給して酸洗廃液から酸とアルカリを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼帯等の鋼帯を酸洗処理したときに発生する酸洗廃液の処理方法および酸洗廃液用処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、耐食性や耐熱性などの機能の他に、表面の美麗さ(光沢、白色度等)も製品価値を左右する重要なポイントになっている。このため、ステンレス鋼板を製造するときには、良好な表面品質を得るために、ステンレス鋼帯の熱間圧延工程や焼鈍工程などでステンレス鋼帯の表面に発生したスケールを除去する脱スケール処理を行う必要がある。
【0003】
ステンレス鋼帯の表面に発生したスケールを除去する方法としては、硝酸溶液や硝フッ酸溶液(フッ酸と硝酸の混合溶液)などの酸洗液を用いてステンレス鋼帯を酸洗処理する方法が一般的に用いられている。特に、硝フッ酸はステンレス鋼の酸洗能力が最も高く、短時間で美麗な鋼板表面を得られることが知られている。また、酸洗処理の前には、酸洗によるスケール除去効果を高めるために、ブラスト、グラインダー、メカニカルブラシ等による機械的なスケール除去やベンディング、テンションレベラー、スキンパス等によるスケール層へのクラック付与、あるいは塩浴(溶融アルカリ塩)浸漬処理や中性塩電解処理によるCr系酸化物の変質などが適宜行なわれる。
【0004】
硝フッ酸等を用いてステンレス鋼帯を酸洗処理するとフッ素や硝酸を含んだ酸洗廃液が発生するが、酸洗廃液に含まれるフッ素は日本国内におけるフッ素の排出基準値(公共用水域で8mg/リットル、海域で15mg/リットル)を満たしていない場合が多い。また、酸洗廃液に含まれる硝酸もフッ素の場合と同様に排水基準値(亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の合計が100mg/リットル以下)を満たしていない場合が多い。このため、ステンレス鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液は、通常、水酸化カルシウム(消石灰)で中和処理された後、フッ素含有スラッジとして埋め立て処理されるのが一般的であるが、酸洗廃液にはFe、Cr、Ni等の有価金属やHNO3,HF等の酸が含まれているため、これらを回収して再利用することは有用である。
【0005】
酸洗廃液に含まれる有価金属や酸を回収する方法としては、酸洗廃液にフッ酸または硝フッ酸を添加した後、酸洗廃液を酸回収用イオン交換膜電気透析装置により透析脱酸処理し、透析した酸を回収する一方、脱酸処理された液を中和処理し、生じた沈殿物を分離処理し、分離された溶液をバイポーラ膜電気透析装置により酸とアルカリとに分離して回収する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−112558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、アルカリ溶液で中和処理して得られた中和液をバイポーラ膜電気透析装置に直接供給して酸とアルカリを回収している。このため、バイポーラ膜電気透析装置に供給される中和液の塩濃度が低い場合にはバイポーラ膜電気透析装置のセル電圧が上昇し、中和液から酸とアルカリを効率的に回収することが困難となる場合があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では酸洗廃液にフッ酸または硝フッ酸を添加して有価金属や酸を回収しているため、処理容量の大きい中和処理槽や電気透析装置を必要とし、設備の大型化を招くという問題もあった。
更に、フッ酸および硝酸を加えて濃度を上げることにより電気透析の効率を上げているが、酸濃度が大きいために膜の寿命が短いこと、またスラッジは再利用されていないという問題がある。
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、中和処理された酸洗廃液から酸とアルカリを効率的に回収することのできる酸洗廃液の処理方法および酸洗廃液処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る酸洗廃液の処理方法は、鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る酸洗廃液処理装置は、鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る脱酸処理装置と、この脱酸処理装置で得られた前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して中和液を得る脱遊離酸液中和処理装置と、この脱遊離酸液中和処理装置で得られた中和液を塩溶液と水とに分離する逆浸透膜装置と、この逆浸透膜装置で得られた塩溶液を酸溶液とアルカリ溶液とに分離するバイポーラ膜電気透析装置と、このバイポーラ膜電気透析装置で得られた酸溶液を減圧蒸留する減圧蒸留装置とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る酸洗廃液の処理方法において、前記第1工程は前記酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記遊離酸を回収する工程であることが好ましい。また、前記第2工程は前記脱遊離酸液をアルカリ溶液でpH10以上に中和処理し、沈殿した有価金属スラッジを水または希薄アルカリ液で洗浄する工程であることが好ましい。さらに、前記第3工程は前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を濃縮する工程であることが好ましい。さらにまた、前記第5工程は前記第4工程で得られた酸溶液を製鉄所で発生する未利用の廃熱を利用して減圧蒸留する工程であることが好ましい。
【0011】
また、前記第1工程で回収された遊離酸は前記第4工程で得られた酸溶液と共に前記第5工程で減圧蒸留されてもよい。また、前記第1工程で回収された遊離酸は前記鋼帯の酸洗処理に再利用されることができる。さらに、前記第2工程で回収された有価金属は、前記鋼帯の原料として再利用されることができる。さらにまた、前記第4工程で得られたアルカリ溶液は、前記脱遊離酸液の中和処理に再利用されることができる。
【0012】
また、前記塩溶液を電気透析しないときは、通常運転時の9/10〜1/100の電流を前記バイポーラ膜電気透析装置に通電しておくことが好ましい。また、前記第3工程は前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を塩溶液と水とに分離する工程であってもよい。この場合、前記逆浸透膜装置で得られた塩溶液の塩濃度を塩濃度測定器で測定し、この塩濃度測定器の測定値が予め設定された基準濃度以下のときは前記塩溶液を前記逆浸透膜装置に戻して再濃縮することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルカリ溶液で中和処理して得られた中和液をバイポーラ膜電気透析装置に供給する前に中和液の塩濃度を高めることができる。これにより、バイポーラ膜電気透析装置のセル電圧が上昇することを防止できるので、中和液から酸とアルカリを効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施形態に係る酸洗廃液処理装置の概略構成を図1に示す。同図において符号1はステンレス鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液を貯溜しておく酸洗廃液タンクを示し、この酸洗廃液タンク1に貯溜された酸洗廃液は送液ポンプ2により脱酸処理装置3に供給され、ここで脱酸処理される。
脱酸処理装置3は酸洗廃液を陰イオン交換樹脂3aに接触させて酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液(遊離酸が回収された酸洗廃液)を得るように構成されており、脱酸処理装置3で得られた脱遊離酸液は脱遊離酸液中和処理装置5に供給される。なお、陰イオン交換樹脂3aに吸着した遊離酸は、脱酸処理装置3に逆方向から水を流すことで陰イオン交換樹脂3aから回収することができる。
【0015】
脱遊離酸液中和処理装置5に供給された脱遊離酸液は、アルカリ溶液タンク4から脱遊離酸液中和処理装置5に供給されるNaOH,NaCO,KOH等のアルカリ溶液でpH10〜12に中和処理され、中和液となる。このとき、脱遊離酸液に含まれる金属イオンは脱遊離酸液中和処理装置5に供給されたアルカリ溶液の水酸化イオンと結合して金属水酸化物となり、金属スラッジとして脱遊離酸液中和処理装置5に沈殿するので、脱遊離酸液中和処理装置5に沈殿した金属スラッジを濾過、遠心分離、静置分離等の方法で脱水処理した後に、水あるいは希薄アルカリ液で洗浄することにより、Fe等の有価金属を脱遊離酸液から回収することができる。
【0016】
脱遊離酸液中和処理装置5で得られた中和液は逆浸透膜装置6に供給され、ここで塩溶液と水とに分離されることによって所定の塩濃度(例えば0.3mol/リットル以上)に濃縮される。ここで、脱遊離酸液中和処理装置5で得られた中和液を逆浸透膜装置6に供給して中和液の塩濃度を濃縮する理由は、脱遊離酸液中和処理装置5で得られた中和液の塩濃度が例えば0.3mol/リットル以下であると、後述するバイポーラ膜電気透析装置9の電気透析能力が低下し、中和液から酸とアリカリを効率的に回収できないためである。
【0017】
逆浸透膜装置6で中和液を濃縮して得られた塩溶液は、塩濃度測定器7に供給されて塩濃度が測定される。ここで、塩濃度測定器7の測定値が予め設定された基準濃度(例えば0.3mol/リットル)より低い場合には、塩溶液は酸洗廃液再濃縮ライン8を通って逆浸透膜装置6に供給され、逆浸透膜装置6で再濃縮される。一方、塩濃度測定器7の測定値が基準濃度より高い場合には、塩溶液はバイポーラ膜電気透析装置9に供給され、ここで酸溶液とアルカリ溶液とに分離される。
【0018】
バイポーラ膜電気透析装置9から排出される、酸、アルカリに分離しなかった残余の塩溶液は第2工程で得られる中和液と混合して、逆浸透膜装置6に供給されて再濃縮される。
バイポーラ膜電気透析装置9は、図2に示すように、陽極91と陰極92との間に、バイポーラ膜(B)、陰イオン交換膜(A)、陽イオン交換膜(C)の3種類を順に配列し、アルカリ室93、酸室94及び塩室95の三室を形成させた構造のものであれば、公知のものが使用できる。ここで、陽イオン交換膜(C)とバイポーラ膜(B)との間の室をアルカリ室93、バイポーラ膜(B)と陰イオン交換膜(A)との間の室を酸室94、陰イオン交換膜(A)と陽イオン交換膜(C)との間の室を塩室95という。
【0019】
バイポーラ膜電気透析装置の代表的な構成は、
陽極−(C−B−A)n−C−陰極
で示される。ここで、陽イオン交換膜、バイポーラ膜及び陰イオン交換膜などで構成される繰り返し単位をセルと称し、nはセルの繰り返し積層数である。
また、バイポーラ膜電気透析装置9では、通電下、塩室95に導入された塩溶液中のNa,Ka等のアルカリ金属イオンは、アルカリ室93に移動し、バイポーラ膜(B)で発生したOHと結合してアルカリ溶液を生成する。一方、塩室95に導入された塩溶液中のフッ素イオン(F)や硝酸イオン(NO)は酸室94に移動し、バイポーラ膜(B)で発生したHと結合して酸溶液を生成するようになっている。
【0020】
なお、バイポーラ膜電気透析装置9は市販のものを使用できるが、無機塩を元の無機酸と無機塩基に分解するには、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜の3種類の膜を使用する3室法バイポーラ膜電気透析を好適に使用できる。また、バイポーラ膜としては例えば株式会社トクヤマ製バイポーラ膜BP−1、BP−1E(商品名)、陽イオン交換膜としては株式会社トクヤマ製陽イオン交換膜CMB、CMX(商品名)、陰イオン交換膜としては株式会社トクヤマ製陰イオン交換膜ACM、AHA(商品名)をそれぞれ好適に使用できる。
【0021】
バイポーラ膜電気透析装置9で得られたアルカリ溶液は、酸洗廃液を中和するアルカリ溶液としてアルカリ溶液タンク4にアルカリ溶液回収ライン10を経て供給される。また、バイポーラ膜電気透析装置9で得られた希薄塩溶液は、逆浸透膜装置6に供給され、ここで再度濃縮されることにより、再利用することができる。一方、バイポーラ膜電気透析装置9で得られた酸溶液は、脱酸処理装置3で回収された遊離酸と共に減圧蒸留装置11に供給され、例えば温度:40〜80℃、圧力:500torr(67kPa)以下の条件下で減圧蒸留される。そして、減圧蒸留装置11で減圧蒸留された酸溶液はステンレス鋼の酸洗液として再利用される。
【0022】
なお、脱酸処理装置3で回収された遊離酸は、脱酸処理装置3で回収された遊離酸のフッ素イオン濃度と硝酸イオン濃度は共に2.0mol/リットル以下程度であり、ステンレス鋼の酸洗液として直接使用できる。一方、バイポーラ膜電気透析装置9で得られた酸溶液は、バイポーラ膜電気透析装置9で得られた酸溶液のフッ素イオン濃度が1.0mol/リットル以下で、硝酸イオン濃度が0.8mol/リットル以下と低く、ステンレス鋼の酸洗液として直接使用できないため、これらを混合して減圧濃縮装置11で濃縮する。
【0023】
なお、このとき両者の酸を減圧蒸留させる方法は特に限定されないが、脱酸処理装置3で回収された遊離酸は、バイポーラ膜電気透析装置9で得られた酸溶液と混合して減圧蒸留することが好ましい。なぜなら、脱酸処理装置3で回収された遊離酸中には遊離酸の他にメタル結合酸が含まれており、これを単独で減圧蒸留すると濃縮工程でメタル結合酸の結晶が生成され、特にフッ酸の回収率を著しく低下させることがある。一方、バイポーラ膜電気透析装置9で回収された酸溶液には、メタルはほとんど含まれないことから、両者を混合することによってメタル結合酸の結晶生成を伴うことなく必要な酸濃度まで濃縮することができる。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態に係る酸洗廃液の処理方法を説明するためのフローチャートである。同図に示すように、ステンレス鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液からFe等の有価金属やNO、HF等の酸を回収する場合は、先ず、酸洗廃液タンク1に貯溜された酸洗廃液を脱酸処理装置3に供給し、この脱酸処理装置3の陰イオン交換樹脂3aに酸洗廃液を接触させて酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液(遊離酸が回収された酸洗廃液)を得る(第1工程)。
【0025】
ここで、酸洗廃液タンク1から脱酸処理装置3に供給される酸洗廃液の金属イオン濃度が10wt%を超えると、Fe,Cr,Ni等の金属イオンが酸洗廃液中の硝酸あるいはフッ酸と錯体を形成し、陰イオン交換樹脂3aに吸着する遊離酸の量が少なくなるので、酸洗廃液の金属イオン濃度を10wt%未満とすることが好ましい。
また、酸洗廃液タンク1から脱酸処理装置3に供給される酸洗廃液の硝酸イオン濃度やフッ酸イオン濃度が0.5質量%を下回ると、脱酸処理装置3で回収される遊離酸の濃度が低くなる。逆に、酸洗廃液の硝酸イオン濃度やフッ酸イオン濃度が20質量%を超えると、陰イオン交換樹脂3aに吸着する遊離酸の吸着量が少なくなる。従って、酸洗廃液に含まれる遊離酸を経済的に且つ効率よく回収するためには、脱酸処理装置3に供給される酸洗廃液の酸濃度を0.5〜20質量%程度とすることが好ましい。
【0026】
脱酸処理装置3で得られた脱遊離酸液は脱遊離酸液中和処理装置5に供給され、アルカリ溶液で中和処理されて中和液となる(第2工程)。ここで、第2工程で得られた中和液のpHがpH10を下回ると、Fe,Cr,Ni等の金属イオンが錯体の形態で酸洗廃液中に一部残存し、金属スラッジの回収量を減少させると共に後工程に悪影響を及ぼす。また、中和液のpHがpH12を上回ると、中和液中の金属イオンの殆どを金属スラッジとして回収可能であるが、アルカリ溶液の添加量が多くなり、処理コストの上昇を招く。従って、脱遊離酸液に含まれるFe等の有価金属を経済的に効率よく回収するためには、pH10〜12の範囲内で脱遊離酸液を中和処理することが好ましい。なお、酸洗廃液のpHと金属イオンの溶解度との関係は、「水処理管理便覧」(水処理管理便覧編集委員会、丸善株式会社)に記載されていて、金属の種類によってその挙動は異なる。
【0027】
また、脱遊離酸液を中和処理した際に発生する金属スラッジはNaやK,F等が含まれるため、そのままでは資源として利用し難いので、水あるいは希薄アルカリで洗浄することが好ましい。
脱遊離酸液中和処理装置5で得られた中和液は、逆浸透膜装置6に供給される(第3工程)。この逆浸透膜装置6では脱遊離酸液中和処理装置5からの中和液を塩溶液と水とに分離し、逆浸透膜装置6で得られた塩溶液はバイポーラ膜電気透析装置9に供給される(第4工程)。
【0028】
バイポーラ膜電気透析装置9では逆浸透膜装置6で得られた塩溶液を電気透析して酸溶液とアルカリ溶液とに分離するが、塩溶液を電気透析するときだけバイポーラ膜電気透析装置9を運転するような間欠運転を行うと、バイポーラ膜電気透析装置9のセル電圧が徐々に上昇するので、塩溶液を電気透析しないときには、セル電圧の上昇を抑制するために、通常運転時の9/10〜1/100の電流をバイポーラ膜電気透析装置9に通電しておくことが好ましい。高電流で通電すると電力消費量が増加し、さらにバイポーラ膜寿命に悪影響を与えるため、好ましくない。また、1/100より小さな電流ではセル電圧の上昇抑制効果が十分に発揮されずに好ましくない。電力消費量、膜寿命への影響、セル電圧抑制効果などを総合的に考慮して、通常運転時の1/2〜1/50程度の電流が更に好適に用いられる。
【0029】
バイポーラ膜電気透析装置9で得られた酸溶液は減圧蒸留装置11に供給され、温度:40〜80℃、圧力:500torr(67kPa)以下の条件下で減圧蒸留される(第5工程)。ここで、酸溶液を減圧蒸留装置11で蒸留するときの温度を40〜80℃とする理由は、ステンレス鋼の酸洗液として使用されるフッ酸溶液は強酸であり、酸溶液の蒸留を100℃以上の高温で行なうと蒸留装置に耐酸性の特殊な材質を用いなければならず、装置が非常に高価になるためである。また、酸溶液を減圧蒸留装置11で蒸留するときの圧力を500torr(67kPa)以下とする理由は、500torr(67kPa)以下の圧力下であれば酸溶液の蒸留を40〜80℃の温度で行うことができ、蒸留装置に耐酸性の特殊な材質を用いなくて良いためである。なお、酸溶液を減圧蒸留装置11で減圧蒸留するときの熱源としては、製鉄所での廃熱を利用することが好ましく、製鉄所にはスラグ、焼結鉱、鉄鋼製品等の固体顕熱、鉄製造での排ガス顕熱のように、回収されていない未利用エネルギーが多くある。この未利用エネルギーを酸蒸留に利用することで、経済的に濃縮酸を得ることができる。
【0030】
減圧蒸留装置の構成は特に限定されないが、高い酸回収率を得るためには、以下の構成を採ることができる。すなわち、この構成では、減圧蒸留装置が酸液に供給される第1の蒸発缶と、純水又は清水が供給される第2の水洗塔からなり、第1の蒸発缶からの蒸発蒸気が第2の水洗塔に導入される。運転方法は連続的でもよいが、より好ましくは、蒸発缶内の酸濃度がある値に達するまでは連続的に酸液が供給されると共に、蒸発させ、以後、酸液の供給を停止して必要な濃度になるまで濃縮をするバッチ運転方法が採用される。水洗塔には純水または清水が供給されているが、次第に蒸気中に同伴される酸が溶解して希薄酸液となるが、バッチ運転終了後、第1の蒸発缶に返送すればよい。
【0031】
酸液はフッ酸と硝酸の混合液であり、硝酸の濃度が高くなるとフッ酸が蒸発し易くなって、特にフッ酸の回収率が低下するという問題があるが、このような構成とすることにより、フッ酸を第二の水洗塔で回収することができ、好都合である。
この構成は2段であるから、全体の運転温度も40〜80℃程度にできる。これは、酸と水の気液平衡関係において酸の蒸発圧を低く抑制することができ、酸の回収率を高くすることに効果的である。また、液中にはシリコンの不純物がケイフッ酸の形態で含まれ、この蒸発を抑制する点でも好ましい。なぜなら、ケイフッ酸の蒸発は気相側でシリカスケールの発生による蒸発塔のトラブルを引き起こすからである。さらに装置の構成材料には耐酸性に優れる特殊な材料を使用するが、この耐久性の点でも比較的低温の運転条件が好ましい。
【0032】
上述のように、本発明の一実施形態では、脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して得られた中和液をバイポーラ膜電気透析装置9に供給する前に逆浸透膜装置6に供給して中和液を塩溶液と水とに分離することにより、バイポーラ膜電気透析装置9に供給される塩溶液の塩濃度を高めることができる。これにより、バイポーラ膜電気透析装置9のセル電圧が上昇することを防止できるので、アルカリ溶液で中和処理された酸洗廃液から酸とアルカリを効率的に回収することができる。
【0033】
また、脱酸処理装置からの回収酸を分離することから、脱遊離酸液に対して、その後に続く中和、脱水、バイポーラ膜電気透析処理の負荷が著しく低減されている。このことは、システム全体が極めて実用的であることを意味している。さらに、脱酸処理装置は硝酸の回収率がフッ酸よりも高いため、硝酸濃度を低濃度に維持した状態でバイポーラ膜電気透析装置を運転することができる。このことは、バイポーラ膜の耐久性にとって好都合に作用する。加えて、回収酸の濃縮工程においても硝酸濃度がフッ酸濃度よりも低いので、単純な蒸留プロセスであってもフッ酸の回収率を高くすることができる。そのほか、中和処理で得られた金属スラッジを水あるいは希薄アルカリで洗浄することで再資源化が可能である。
なお、以上本発明の説明にあたり、ステンレス鋼帯の酸洗廃液を例としたが、本発明の基本的な構成は半導体製造産業における酸洗廃液の処理においても利用できる。
【実施例1】
【0034】
SUS304(18Cr−8Ni)を硝フッ酸液で酸洗浄を行い、Feイオン濃度:5.2wt%、Crイオン濃度:0.9wt%、Niイオン濃度:0.1wt%、フッ素イオン濃度:3.0mol/リットル、硝酸イオン濃度:3.5mol/リットルの酸洗廃液を得た。この酸洗廃液をアニオン交換樹脂の槽に通し、酸洗廃液中のフッ素イオンおよび硝酸イオンを陰イオン交換樹脂に吸着させた。陰イオン交換樹脂に水を逆方向から通すことで陰イオン交換樹脂に吸着したフッ素イオンおよび硝酸イオンをフッ素水素および硝酸として回収し、そのイオン濃度を測定したところ、フッ素イオンは1.7mol/リットル、硝酸イオンは3.3mol/リットルであった。
【0035】
次に、陰イオン交換樹脂に吸着されなかった金属を含む脱遊離酸液(遊離酸が回収された酸洗廃液)に1.5mol/リットルのKOH溶液をpH=10になるまで添加した後、30分間攪拌した。攪拌終了後の酸洗廃液は金属水酸化物を含むスラッジ状となり、これを濾過して金属スラッジと中和液とに分離した。金属スラッジは更に10倍容量の水で洗浄し、濾過により金属スラッジと洗浄液とに分離した。金属スラッジは更に10倍量の0.01規定のKOH水溶液を用いて、金属スラッジに残存しているフッ素イオン、硝酸イオン、カリウムイオンを除去した。この洗浄液を中和液と混合した液は、鉄、クロム、ニッケルが全く含有されず、フッ素イオン濃度:0.3mol/リットル、硝酸イオン濃度:0.15mol/リットル、カリウムイオン濃度:0.45mol/リットルであった。次に、水分を逆浸透法により分離し、フッ素イオン濃度:0.6mol/リットル、硝酸イオン濃度:0.3mol/リットル、カリウムイオン濃度:0.9mol/リットルの塩溶液を得、これをバイポーラ膜電気透析して酸とアルカリに分離した。
【0036】
バイポーラ膜電気透析により得られたアルカリ溶液は1.5mol/リットルのカリウムイオンを含み、酸溶液は0.9mol/リットルのフッ素イオンと0.6mol/リットルの硝酸イオンを含んでいた。また、バイポーラ膜電気透析後の塩溶液は0.4mol/リットルのフッ素イオンと0.4mol/リットルのカリウムイオンを含んでいた。
バイポーラ膜電気透析装置により得られた酸溶液73Lと陰イオン交換樹脂で回収された遊離酸27Lを混合して混合酸溶液100Lを調整した。混合酸溶液中のフッ素イオンは、1.1mol/L、硝酸イオンは1.3mol/Lであった。
【0037】
この混合酸液を蒸発缶内に40L投入し、また水洗塔には純水を20L投入した。蒸発缶は加熱器と接続され、液はポンプで缶底より抜き出され、加熱器を経て加熱されてから蒸発缶の塔頂より再び戻されるとフラッシュ蒸発する。水洗塔は内部液をポンプで抜き出し再び塔頂より散水し、蒸発缶で蒸発した蒸気が水洗塔下部より導入され、散水と気液接触した後、塔頂より別途設けられているアルカリ水洗塔に導かれる。なお、蒸気はフッ酸を含むので、耐フッ酸性に優れる凝縮器でそのまま凝縮させても良い。蒸発缶は50℃、100torr(13.3kPa)の条件で蒸発を行い、蒸発能力は10L/時間であった。
【0038】
運転を開始すると蒸発缶の水位が低下するので、これを一定に保つように混合酸液を補給した。5時間後、混合酸液供給量は50Lとなり、初期投入量40Lと合計して90Lに達した。ここで混合酸液の供給を停止したまま蒸発運転を続け、蒸発缶液量が16.5Lにまで減少した時点で運転を終了した。このときの各缶、塔内の液を抜き出し下記のデータを得た。
【0039】
【表1】

【0040】
フッ酸イオンの回収率は96%、硝酸イオンはほとんで蒸発せず、その回収率はほぼ100%であった。
【実施例2】
【0041】
バイポーラ膜電気透析装置9に通電される電流の電流密度を10A/dmに設定してバイポーラ膜電気透析装置9を12時間連続して運転した後、電流密度が2.5A/dmの微弱電流をバイポーラ膜電気透析装置9に12時間連続して通電し、これを240時間繰り返した。初期のセル電圧は2.1V/セルであり、最終日の電流密度は10A/dmのときのセル電圧は2.1V/セルと初期値と同じ電圧であった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸洗廃液処理装置の概略構成図である。
【図2】図1に示すバイポーラ膜電気透析装置の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る酸洗廃液の処理方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 酸洗廃液タンク
2 送液ポンプ
3 脱酸処理装置
3a 陰イオン交換樹脂
4 アルカリ溶液タンク
5 脱遊離酸液中和処理装置
6 逆浸透膜装置
7 塩濃度測定器
8 塩溶液再濃縮ライン
9 バイポーラ膜電気透析装置
C 陽イオン交換膜
B バイポーラ交換膜
A 陰イオン交換膜
91 陽極
92 陰極
93 アルカリ室
94 酸室
95 塩室
10 アルカリ溶液回収ライン
11 減圧蒸留装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含むことを特徴とする酸洗廃液の処理方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記遊離酸を回収する工程であることを特徴とする請求項1記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液でpH10以上に中和処理し、沈殿した有価金属スラッジを水または希薄アルカリ液で洗浄する工程であることを特徴とする請求項1又は2記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項4】
前記第3工程は、前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を濃縮する工程であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項5】
前記第5工程は、前記第4工程で得られた酸溶液を製鉄所で発生する未利用の廃熱を利用して減圧蒸留する工程であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項6】
前記第1工程で回収された遊離酸は、前記第4工程で得られた酸溶液と共に前記第5工程で減圧蒸留されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項7】
前記第1工程で回収された遊離酸は、前記鋼帯の酸洗処理に再利用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項8】
前記第2工程で回収された有価金属は、前記鋼帯の原料として再利用されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項9】
前記第4工程で得られたアルカリ溶液は、前記脱遊離酸液の中和処理に再利用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項10】
前記塩溶液を電気透析しないときは、通常運転時の9/10〜1/100の電流を前記バイポーラ膜電気透析装置に通電しておくことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項11】
前記第3工程は、前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を塩溶液と水とに分離する工程であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の酸洗廃液の処理方法。
【請求項12】
請求項11記載の酸洗廃液の処理方法において、前記逆浸透膜装置で得られた塩溶液の塩濃度を塩濃度測定器で測定し、この塩濃度測定器の測定値が予め設定された基準濃度以下のときは前記塩溶液を前記逆浸透膜装置に戻して再濃縮することを特徴とする酸洗廃液の処理方法。
【請求項13】
鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る脱酸処理装置と、この脱酸処理装置で得られた前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して中和液を得る脱遊離酸液中和処理装置と、この脱遊離酸液中和処理装置で得られた中和液を塩溶液と水とに分離する逆浸透膜装置と、この逆浸透膜装置で得られた塩溶液を酸溶液とアルカリ溶液とに分離するバイポーラ膜電気透析装置と、このバイポーラ膜電気透析装置で得られた酸溶液を減圧蒸留する減圧蒸留装置とを備えてなることを特徴とする酸洗廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−131982(P2006−131982A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325372(P2004−325372)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】