説明

量子周波数標準器及び時刻制御システム

【課題】簡素な回路構成で低消費電力の量子周波数標準器。
【解決手段】化学結合している原子核間のスピン−スピン相互作用によって複数に分裂したエネルギー準位を有する物質110を含む容器120と、容器120に磁場を与える磁場発生源MGと、容器120に電磁波を照射する発振器150と、を含む核磁気共鳴部100と、核磁気共鳴部100から出力される共鳴信号RSからエネルギー準位の核磁気共鳴周波数f1を検出し第1検出信号SD1として出力する第1検出部200と、共鳴信号RSから隣り合うエネルギー準位間のエネルギー差であるスピン結合定数Jを検出し第2検出信号SD2として出力する第2検出部300と、第1検出信号SD1と第2検出信号SD2に基づき核磁気共鳴部100を駆動する駆動信号DSを生成する駆動信号生成部400と、を含み、第2検出部300は、第2検出信号SD2に基づき標準周波数信号SOを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子現象を利用した量子周波数標準器及び時刻制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
量子周波数標準器は、高精度な周波数が必要な測位システム、無線通信システム、実験用測定機器、音楽ソフト制作等の分野で使用されている。一方、一般的な電子機器には、小型で安価な水晶発振器が用いられている。しかしながら、ネットワーク技術の発達により、通信の同期、時空の認証など高精度な時刻、時間、周波数が必要なアプリケーションが増加し、より高い精度が求められており、水晶発振器の精度では、時間や周波数の精度が不十分になりつつある。
【0003】
量子周波数標準器として、第1族元素の基底準位の超微細構造内の特定準位間での遷移を利用したものが知られ、数GHz〜数十GHzの周波数を持っている。最も低消費電力で小型の量子周波数標準器として、例えば特許文献1に示すようなCPT(Coherent Population Trapping)方式の量子周波数標準器が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−530965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の第1族元素の基底準位の超微細構造内の特定準位間での遷移を利用する方法は、最外殻の電子のスピンを利用するため、外界の温度、圧力の影響を受けやすく、その調整機構が必要となる。また、高い周波数を利用する発振器なので消費電力が大きくなる。したがって、一般的な電子機器に使用するための、温度依存性の排除、低周波出力、低消費電力が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
化学結合している原子核間のスピン−スピン相互作用によって複数に分裂したエネルギー準位を有する物質を含む容器と、前記容器に磁場を与える磁場発生源と、前記容器に電磁波を照射する発振器と、を含む核磁気共鳴部と、前記核磁気共鳴部から出力される共鳴信号から前記複数に分裂したエネルギー準位のいずれか1つに対応する核磁気共鳴周波数f1を検出し第1検出信号として出力する第1検出部と、前記共鳴信号から隣り合う前記複数に分裂したエネルギー準位間のエネルギー差であるスピン結合定数Jを検出し第2検出信号として出力する第2検出部と、前記第1検出信号と前記第2検出信号に基づき前記核磁気共鳴部を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を含み、前記第2検出部は、前記第2検出信号に基づき標準周波数信号を出力する、ことを特徴とする量子周波数標準器。
【0008】
この構成によれば、核磁気共鳴部から第1検出部及び第2検出部により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号は比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器を実現できる。
【0009】
[適用例2]
上記に記載の量子周波数標準器において、前記第1検出部は、前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第1ロックインアンプと、前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、を含み、前記第2検出部は、前記共鳴信号と前記第2検出信号とを乗算した第1乗算信号を出力する第1乗算器と、前記第1乗算信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、を含み、前記駆動信号生成部は、前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、前記第2乗算信号と前記第1検出信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、を含む、ことを特徴とする量子周波数標準器。
【0010】
この構成によれば、核磁気共鳴部から第1検出部及び第2検出部により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号は比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器を実現できる。
【0011】
[適用例3]
上記に記載の量子周波数標準器において、前記第1検出部は、前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第3乗算器を含む第1ロックインアンプと、前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、を含み、前記第2検出部は、前記第3乗算器の出力信号を測定信号として入力し前記第2検出信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、を含み、前記駆動信号生成部は、前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、前記第2乗算信号と前記第1検出信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、を含む、ことを特徴とする量子周波数標準器。
【0012】
この構成によれば、核磁気共鳴部から第1検出部及び第2検出部により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号は比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器を実現できる。
【0013】
[適用例4]
上記に記載の量子周波数標準器において、前記第1検出部は、第1低周波数信号を出力する第1発振器と、前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1低周波数信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第1ロックインアンプと、前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、を含み、前記第2検出部は、第2低周波数信号を出力する第2発振器と、前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第2低周波数信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、を含み、前記駆動信号生成部は、前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、前記第1検出信号の周波数を前記第1低周波数信号に基づき変調させた第1変調信号を出力する第1周波数変調器と、前記第2検出信号の周波数を前記第2低周波数信号に基づき変調させた第2変調信号を出力する第2周波数変調器と、前記第1変調信号と前記第2変調信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、を含む、ことを特徴とする量子周波数標準器。
【0014】
この構成によれば、核磁気共鳴部から第1検出部及び第2検出部により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号は比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器を実現できる。
【0015】
[適用例5]
上記に記載の量子周波数標準器において、前記物質は液体または気体であることを特徴とする量子周波数標準器。
【0016】
この構成によれば、温度依存性が少なく温度制御が必要ないので低消費電力化を実現できる。
【0017】
[適用例6]
上記に記載の量子周波数標準器において、前記物質は1H、19F、31Pであることを特徴とする量子周波数標準器。
【0018】
この構成によれば、これらの物質を使うことにより感度よく共鳴させることができる。
【0019】
[適用例7]
上記に記載の量子周波数標準器が出力する標準周波数信号に基づき時刻制御する時刻制御システム。
【0020】
この構成によれば、比較的低い共鳴周波数の標準周波数を得られ、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な時刻制御システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図。
【図2】スピン結合により2つに分裂したNMRスペクトルの模式図。
【図3】第1実施形態に係る量子周波数標準器の動作を示す波形図。
【図4】第2実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図。
【図5】第2実施形態に係る量子周波数標準器の動作を示す波形図。
【図6】第3実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、量子周波数標準器の実施形態について図面に従って説明する。
【0023】
(第1実施形態)
<量子周波数標準器の構成>
先ず、第1実施形態に係る量子周波数標準器の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図である。
【0024】
図1に示すように、量子周波数標準器1は、核磁気共鳴部100と、第1検出部200と、第2検出部300と、駆動信号生成部400と、から構成されている。
【0025】
核磁気共鳴部100は、化学結合している原子核間のスピン−スピン相互作用によって複数に分裂したエネルギー準位を有する物質110が入った容器120と、容器120に磁場MFを与える永久磁石や電磁石などの磁場発生源MGと、容器120に電磁波を照射するコイルLと可変容量素子VCと抵抗R2とが配線140と接地電位GNDとの間に並列に接続されて構成される発振器150と、抵抗R1と、増幅器130と、から構成されている。抵抗R1は、駆動信号生成部400と配線140との間に接続されている。増幅器130は、配線140と接続され第1検出部200及び第2検出部300に共鳴信号RSを出力する。
【0026】
共鳴を観測する物質110は、感度の点から1H、19F、31Pなどがよく、液体または気体の状態で容器120に封入されている。スピン結合定数Jは、2つの核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルの差周波数であるため、直接その周波数を共鳴により検出することはできない。
【0027】
図2は、スピン結合により2つに分裂したNMRスペクトルの模式図である。図2において、低周波数側のピークの周波数(核磁気共鳴周波数)をf1、高周波数側のピークの周波数をf2、スピン結合定数をJとすると、f2=f1+Jの関係が常に成り立つ。
【0028】
図1において、第1検出部200は、共鳴信号RSから低周波数側のピークの周波数f1を検出し第1検出信号SD1として出力する。第2検出部300は、共鳴信号RSからスピン結合定数Jを検出し第2検出信号SD2として出力する。駆動信号生成部400は、第1検出信号SD1と第2検出信号SD2とから核磁気共鳴部100を駆動する駆動信号DSを出力する。
【0029】
第1検出部200は、第1ロックインアンプ210と、第1サーボ増幅器であるサーボ増幅器220と、第1電圧制御発振器であるVCXO(Voltage Controlled Xtal Oscillator)230と、第1分周器である分周器240と、から構成されている。第1ロックインアンプ210は、同期検波回路(PSD:Phase Sensitive Detecter)211と移相回路212と低域通過フィルター(LPF:Low Pass Filter)213とから構成されている。
【0030】
第1ロックインアンプ210は、核磁気共鳴部100から出力される共鳴信号RSを測定信号として入力し、第1検出信号SD1を参照信号として入力し、第1直流周波数信号DC1を出力する。サーボ増幅器220は、第1直流周波数信号DC1を増幅し第1増幅信号VC1を出力する。VCXO230は、第1増幅信号VC1に基づき出力する第1発振信号OS1の周波数を制御する。分周器240は、第1発振信号OS1を分周し第1検出信号SD1を出力する。
【0031】
第2検出部300は、第1乗算器である乗算器350と、第2ロックインアンプ310と、第2サーボ増幅器であるサーボ増幅器320と、第2電圧制御発振器であるVCXO330と、第2分周器である分周器340と、から構成されている。第2ロックインアンプ310は、PSD311と移相回路312とLPF313とから構成されている。
【0032】
乗算器350は、共鳴信号RSと第2検出信号SD2とを乗算した第1乗算信号MS1を出力する。第2ロックインアンプ310は、第1乗算信号MS1を測定信号として入力し、第1検出信号SD1を参照信号として入力し、第2直流周波数信号DC2を出力する。サーボ増幅器320は、第2直流周波数信号DC2を増幅し第2増幅信号VC2を出力する。VCXO330は、第2増幅信号VC2に基づき出力する標準周波数信号SOの周波数を制御する。分周器340は、標準周波数信号SOを分周し第2検出信号SD2を出力する。
【0033】
駆動信号生成部400は、第2乗算器である乗算器410と加算器420とから構成されている。乗算器410は、第1検出信号SD1と第2検出信号SD2とを乗算し第2乗算信号MS2を出力する。加算器420は、第2乗算信号MS2と第1検出信号SD1とを加算し駆動信号DSを出力する。
【0034】
<量子周波数標準器の動作>
次に、第1実施形態に係る量子周波数標準器の動作について、図3を参照して説明する。図3は、第1実施形態に係る量子周波数標準器の動作を示す波形図である。
【0035】
図3に示すように、第1検出部200から出力される第1検出信号SD1は、核磁気共鳴部100が出力する共鳴信号RSの低周波数側のピークの周波数f1となり、第2検出部300から出力される第2検出信号SD2は、スピン結合定数Jとなる。一例として1Hの場合、周波数f1は42.6MHz/T、スピン結合定数Jは45Hzである。
【0036】
第1検出信号SD1と第2検出信号SD2とを乗算器410で乗算した第2乗算信号MS2の周波数は、f1−Jとf1+Jになる。第2乗算信号MS2と第1検出信号SD1とを加算器420で加算した駆動信号DSの周波数は、f1−Jとf1とf1+Jになる。核磁気共鳴部100に駆動信号DSを印加した結果、共鳴信号RSの周波数はf1とf1+Jになる。共鳴信号RSを測定信号かつ第1検出信号SD1を参照信号として再び第1検出部200に入力すると、第1検出信号SD1の周波数はf1となる。
【0037】
一方、共鳴信号RSと第2検出信号SD2とを乗算器350で乗算した第1乗算信号MS1の周波数は、f1−Jとf1とf1+Jとf1+2Jになる。第1乗算信号MS1を測定信号かつ第1検出信号SD1を参照信号として再び第2検出部300に入力すると、第2検出信号SD2の周波数はJとなる。
【0038】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0039】
本実施形態では、核磁気共鳴部100から第1検出部200及び第2検出部300により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部100を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号SOは比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器1を実現できる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、量子周波数標準器の第2実施形態について説明する。第1実施形態においては、量子周波数標準器1は、第1ロックインアンプ210及び第2ロックインアンプ310をPSD211及びPSD311で構成するように説明したが、乗算器で構成するようにしてもよい。
【0041】
図4は、第2実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図である。図4に示すように、量子周波数標準器1000は、核磁気共鳴部100と、第1検出部1200と、第2検出部1300と、駆動信号生成部400と、から構成されている。
【0042】
第1検出部1200は、第1実施形態の第1ロックインアンプ210の代わりに第1ロックインアンプ1210で構成されている。第1ロックインアンプ1210は、第3乗算器である乗算器1211と移相回路1212とLPF1213とから構成されている。
【0043】
第2検出部1300は、第1実施形態の第2ロックインアンプ310の代わりに第2ロックインアンプ1310で構成されている。第2ロックインアンプ1310は、乗算器1311と移相回路1312とLPF1313とから構成されている。さらに、第1実施形態の第2検出部300にあった乗算器350が省略されている。第2検出部1300は、乗算器350の機能を第1検出部1200の乗算器1211で置き換えている。つまり、第2ロックインアンプ1310は、乗算器1211の出力信号SD3を測定信号かつ第2検出信号SD2を参照信号として入力し、第2直流周波数信号DC2を出力する。
【0044】
次に、第2実施形態に係る量子周波数標準器の動作について、図5を参照して説明する。図5は、第2実施形態に係る量子周波数標準器の動作を示す波形図である。
【0045】
図5に示すように、第1検出部1200から出力される第1検出信号SD1は、核磁気共鳴部100が出力する共鳴信号RSの低周波数側のピークの周波数f1となり、第2検出部1300から出力される第2検出信号SD2は、スピン結合定数Jとなる。
【0046】
第1検出信号SD1と第2検出信号SD2とを乗算器410で乗算した第2乗算信号MS2の周波数は、f1−Jとf1+Jになる。第2乗算信号MS2と第1検出信号SD1とを加算器420で加算した駆動信号DSの周波数は、f1−Jとf1とf1+Jになる。核磁気共鳴部100に駆動信号DSを印加した結果、共鳴信号RSの周波数はf1とf1+Jになる。共鳴信号RSと第1検出信号SD1を乗算器1211で乗算した出力信号SD3の周波数は、0とJと2f1と2f1+Jになる。
【0047】
出力信号SD3を測定信号かつ第2検出信号SD2を参照信号として再び第2検出部1300に入力すると、第2検出信号SD2の周波数はJとなる。
【0048】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0049】
本実施形態では、核磁気共鳴部100から第1検出部1200及び第2検出部1300により核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jを検出し、核磁気共鳴周波数f1とスピン結合定数Jに基づき核磁気共鳴部100を駆動するので、スピン結合定数Jに基づき出力される標準周波数信号SOは比較的低い共鳴周波数となり、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な量子周波数標準器1を実現できる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、量子周波数標準器の第3実施形態について説明する。図6は、第3実施形態に係る量子周波数標準器の構成を示す構成図である。図6に示すように、量子周波数標準器2000は、核磁気共鳴部100と、第1検出部2200と、第2検出部2300と、駆動信号生成部2400と、から構成されている。
【0051】
第1検出部2200は、第1低周波数信号FM1を出力する第1発振器である変調用低周波発振器2250と、共鳴信号RSを測定信号かつ第1低周波数信号FM1を参照信号として入力し第1直流周波数信号DC1を出力する第1ロックインアンプ2210と、第1直流周波数信号DC1を増幅し第1増幅信号VC1を出力する第1サーボ増幅器であるサーボ増幅器220と、出力する第1発振信号OS1の周波数を第1増幅信号VC1に基づき制御する第1電圧制御発振器であるVCXO230と、第1発振信号OS1を分周し第1検出信号SD1を出力する第1分周器である分周器240と、から構成されている。
【0052】
第2検出部2300は、第2低周波数信号FM2を出力する第2発振器である変調用低周波発振器2350と、共鳴信号RSを測定信号かつ第2低周波数信号FM2を参照信号として入力し第2直流周波数信号DC2を出力する第2ロックインアンプ2310と、第2直流周波数信号DC2を増幅し第2増幅信号VC2を出力する第2サーボ増幅器であるサーボ増幅器320と、出力する標準周波数信号SOの周波数を第2増幅信号VC2に基づき制御する第2電圧制御発振器であるVCXO330と、標準周波数信号SOを分周し第2検出信号SD2を出力する第2分周器である分周器340と、から構成されている。
【0053】
駆動信号生成部2400は、第1検出信号SD1と第2検出信号SD2とを乗算した第2乗算信号MS2を出力する第2乗算器である乗算器2410と、第1検出信号SD1の周波数を第1低周波数信号FM1に基づき変調させた第1変調信号SM1を出力する第1周波数変調器2430と、第2乗算信号MS2の周波数を第2低周波数信号FM2に基づき変調させた第2変調信号SM2を出力する第2周波数変調器2440と、第1変調信号SM1と第2変調信号SM2とを加算し駆動信号DSを出力する加算器2420と、から構成されている。
【0054】
以上、量子周波数標準器の実施形態を説明したが、こうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることができる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0055】
(変形例1)量子周波数標準器の変形例1について説明する。上記第1実施形態〜第3実施形態で説明したいずれかの量子周波数標準器(1,1000,2000)が出力する標準周波数信号SOに基づき時刻制御する時刻制御システムを提案する。この構成によれば、比較的低い共鳴周波数の標準周波数を得られ、さらに加熱温度制御不要で低消費電力な時刻制御システムを実現できる。
【符号の説明】
【0056】
1…量子周波数標準器、100…核磁気共鳴部、110…物質、120…容器、130…増幅器、140…配線、150…発振器、200…第1検出部、210…第1ロックインアンプ、211…PSD、212…移相回路、220…サーボ増幅器、230…VCXO、240…分周器、300…第2検出部、310…第2ロックインアンプ、311…PSD、312…移相回路、313…LPF、320…サーボ増幅器、330…VCXO、340…分周器、350…乗算器、400…駆動信号生成部、410…乗算器、420…加算器、1000…量子周波数標準器、1200…第1検出部、1210…第1ロックインアンプ、1211…乗算器、1212…移相回路、1213…LPF、1300…第2検出部、1310…第2ロックインアンプ、1311…乗算器、1312…移相回路、1313…LPF、2000…量子周波数標準器、2200…第1検出部、2210…第1ロックインアンプ、2250…変調用低周波発振器、2300…第2検出部、2310…第2ロックインアンプ、2350…変調用低周波発振器、2400…駆動信号生成部、2410…乗算器、2420…加算器、2430…第1周波数変調器、2440…第2周波数変調器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学結合している原子核間のスピン−スピン相互作用によって複数に分裂したエネルギー準位を有する物質を含む容器と、
前記容器に磁場を与える磁場発生源と、
前記容器に電磁波を照射する発振器と、
を含む核磁気共鳴部と、
前記核磁気共鳴部から出力される共鳴信号から前記複数に分裂したエネルギー準位のいずれか1つに対応する核磁気共鳴周波数f1を検出し第1検出信号として出力する第1検出部と、
前記共鳴信号から隣り合う前記複数に分裂したエネルギー準位間のエネルギー差であるスピン結合定数Jを検出し第2検出信号として出力する第2検出部と、
前記第1検出信号と前記第2検出信号に基づき前記核磁気共鳴部を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を含み、
前記第2検出部は、前記第2検出信号に基づき標準周波数信号を出力する、
ことを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項2】
請求項1に記載の量子周波数標準器において、
前記第1検出部は、
前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第1ロックインアンプと、
前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、
出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、
前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、
を含み、
前記第2検出部は、
前記共鳴信号と前記第2検出信号とを乗算した第1乗算信号を出力する第1乗算器と、
前記第1乗算信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、
前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、
出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、
前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、
を含み、
前記駆動信号生成部は、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、
前記第2乗算信号と前記第1検出信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、
を含む、
ことを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項3】
請求項1に記載の量子周波数標準器において、
前記第1検出部は、
前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1検出信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第3乗算器を含む第1ロックインアンプと、
前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、
出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、
前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、
を含み、
前記第2検出部は、
前記第3乗算器の出力信号を測定信号として入力し前記第2検出信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、
前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、
出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、
前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、
を含み、
前記駆動信号生成部は、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、
前記第2乗算信号と前記第1検出信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、
を含む、
ことを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項4】
請求項1に記載の量子周波数標準器において、
前記第1検出部は、
第1低周波数信号を出力する第1発振器と、
前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第1低周波数信号を参照信号として入力し第1直流周波数信号を出力する第1ロックインアンプと、
前記第1直流周波数信号を増幅し第1増幅信号を出力する第1サーボ増幅器と、
出力する第1発振信号の周波数を前記第1増幅信号に基づき制御する第1電圧制御発振器と、
前記第1発振信号を分周し前記第1検出信号を出力する第1分周器と、
を含み、
前記第2検出部は、
第2低周波数信号を出力する第2発振器と、
前記共鳴信号を測定信号として入力し前記第2低周波数信号を参照信号として入力し第2直流周波数信号を出力する第2ロックインアンプと、
前記第2直流周波数信号を増幅し第2増幅信号を出力する第2サーボ増幅器と、
出力する前記標準周波数信号の周波数を前記第2増幅信号に基づき制御する第2電圧制御発振器と、
前記標準周波数信号を分周し前記第2検出信号を出力する第2分周器と、
を含み、
前記駆動信号生成部は、
前記第1検出信号と前記第2検出信号とを乗算した第2乗算信号を出力する第2乗算器と、
前記第1検出信号の周波数を前記第1低周波数信号に基づき変調させた第1変調信号を出力する第1周波数変調器と、
前記第2検出信号の周波数を前記第2低周波数信号に基づき変調させた第2変調信号を出力する第2周波数変調器と、
前記第1変調信号と前記第2変調信号とを加算し前記駆動信号を出力する加算器と、
を含む、
ことを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の量子周波数標準器において、前記物質は液体または気体であることを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の量子周波数標準器において、前記物質は1H、19F、31Pであることを特徴とする量子周波数標準器。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の量子周波数標準器が出力する標準周波数信号に基づき時刻制御する時刻制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−245585(P2010−245585A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88655(P2009−88655)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】