説明

金型ムラ検査装置および金型ムラ検査方法

【課題】防眩効果を奏する製品を成形するための金型に関して、たとえその金型によって製品を成形しなくても、製品に得られるであろうムラを金型から把握することができるようにする。
【解決手段】金型ムラ検査装置101は、表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型1の表面のムラの検査装置であって、金型1の被検査面1aに向けて投光するための投光ファイバ11と、被検査面1aからの反射光72を受光しうる1以上の受光ファイバ12と、前記1以上の受光ファイバ12が受光する光の強度を検出するための検出部20と、前記1以上の受光ファイバ12を被検査面1aに平行に移動させるための移動部26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型について用いることのできる金型ムラ検査装置および金型ムラ検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防眩効果を持たせた製品を製造するためには、製品の表面に微細な凹凸形状を形成することが有効であることが知られている。そのような構成を備える防眩フィルムの一例が特開2006−53371号公報(特許文献1)に記載されている。この文献では、防眩フィルムを得るために、フィルムを成形するための金型の表面に微粒子を衝突させて凹凸形状を予め設けておくこととされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−53371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金型の表面に凹凸形状を形成し、その金型で製品を成形することによって、防眩効果を有する製品を得ようとする場合、凹凸形状形成処理を直接施す対象は金型であるにもかかわらず、その金型から得られる製品にどのような光学特性が表れるのかは、実際に製品を作製してみるまでわからない。特に、金型に起因して製品に生じるムラは、金型での確認が困難であった。
【0005】
これは、金型表面と防眩処理が施される製品表面とで性質が大きく異なることによる。防眩処理が施される面の多くは、透明体または黒色体である。このような処理対象の表面は反射する光量が少ない。したがって、金型によって付与された凹凸による光散乱すなわち乱反射がわずかに増加するだけで、その部分が白っぽく見え、ムラとして認識される。一方、金型は一般に金属で作製されるので、その表面には金属光沢がある。このような表面は反射する光量が多いので、凹凸によるわずかな光散乱すなわち乱反射の違いを確認することは困難である。
【0006】
このため、従来、金型の表面において既にわずかに生じているムラを目視で確認するには限られた条件で蛍光灯を当てて反射具合を注視するなどの熟練作業を要した。
【0007】
さらに、金型の大きさが100mm角を超える場合にはCCDカメラなどの機器を用いてムラを測定・記録することも、照明状態の調整が難しく、難度の高い作業であった。また、金型がロール形状の場合は、同時に撮影することができるのは金型の外周の一部のムラのみであり、外周の全周にわたるムラの発生状況を同時に把握することはできなかった。
【0008】
そこで、本発明は、たとえその金型によって製品を成形しなくても、製品に得られるであろうムラを金型から把握することができる金型ムラ検査装置および金型ムラ検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に基づく金型ムラ検査装置は、表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型の表面のムラの検査装置であって、上記金型の被検査面に向けて投光するための投光ファイバと、上記被検査面からの反射光を受光しうる1以上の受光ファイバと、上記1以上の受光ファイバが受光する光の強度を検出するための検出部と、上記1以上の受光ファイバを上記被検査面に平行に移動させるための移動部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、投光ファイバからの光を被検査面の軸方向に沿って順に照射し、それぞれの位置で検出できる乱反射成分の状況を受光ファイバで収集することができるので、金型によって製品を成形することなく、製品に得られるであろうムラを金型から把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に基づく実施の形態1における金型ムラ検査装置の概念図である。
【図2】本発明に基づく実施の形態1における金型ムラ検査装置が備える光ファイバ束の断面図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態1における金型ムラ検査装置が備えるコリメートレンズユニットの端部の断面図である。
【図4】本発明に基づく実施の形態1においてムラを可視化した画像の一例である。
【図5】本発明に基づく実施の形態2における金型ムラ検査装置の概念図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態2における金型ムラ検査装置が備える光ファイバ束の断面図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態2における金型ムラ検査装置が備えるコリメートレンズユニットの端部の断面図である。
【図8】本発明の効果を確認するための実験において採用した同軸モードの説明図である。
【図9】本発明の効果を確認するための実験におけるシステム構成図である。
【図10】金型で作製した防眩フィルムによって実際に生じたムラの写真である。
【図11】金型から得た光の強度の分布を可視化した画像である。
【図12】本発明の効果を確認するための実験によりもうひとつの試料から得られたムラの可視化画像である。
【図13】本発明に基づく実施の形態3における金型ムラ検査方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
防眩製品の一種として防眩フィルム(「AG(Anti-Glare)フィルム」ともいう。)を挙げることができる。防眩フィルムの製造方法として、凹凸形状が形成された金型の表面形状をフィルム表面に転写することによって、フィルムに防眩処理を施すという方法がある。この方法においては、将来その金型から得られるであろう製品の光学特性を推定する技術が求められる。発明者らは、金型の表面形状を何らかの方法で分析してムラを観測しやすくする装置および方法を検討し、試行錯誤の末に本発明に至った。
【0013】
まず、本発明に関係する構成要素について基本的な考え方の説明をし、その後に各実施の形態について説明する。
【0014】
(防眩処理用金型)
「防眩処理用金型」とは、表面に数μm〜数mm程度の凹凸形状を有する金型である。この金型は、通常、フィルムへのUVエンボス法による転写や、成型加工の際に用いられ、加工対象物に防眩処理表面を形成する。防眩処理用金型としては、銅面にエッチングを施した後、硬質クロムメッキで耐擦傷性を持たせた形態のものが用いられうる。他に、ビーズショット法により、表面に細かな凹凸が形成された金属板なども防眩処理用金型として用いられる。金型の形状としては、板状やロールトゥロールプロセスで用いられるロール状の金型などがある。
【0015】
(投光ファイバ)
「投光ファイバ」とは、発光器により発せられた光を導き、1点から被検査面に向けて光を照射する役割を果たす光ファイバである。投光ファイバは、シングルモードまたはマルチモードの光ファイバの単線であってもよく、複数の光ファイバが束となった形態のものも考えられる。
【0016】
(受光ファイバ)
「受光ファイバ」は、被検査面から反射された光を検出部に導く役割を果たす光ファイバである。投光ファイバは、シングルモードまたはマルチモードの光ファイバの単線であってもよく、複数の光ファイバが束となった形態のものも考えられる。
【0017】
(光ファイバ)
投光ファイバまたは受光ファイバを複数の光ファイバの束によって構成する場合、束の断面形状は、円形であっても楕円形であってもよく、四角形、多角形、環状、線状などであってもよい。光ファイバの位置決めを容易にするために、光ファイバの束の全体としての断面形状は、回転対称性を有する形状が好ましく、特に円形が好ましい。検査対象物が、円筒形状の金型である場合のように、被検査面が何らかの曲率を有する曲面である場合には、その曲率に応じて、得られる反射光が円形となるように、楕円形に束ねられた光ファイバの束を用いることが好ましい。
【0018】
(光源)
光源としては、ハロゲンランプ、タングステンランプ、水銀灯に代表される電球の他に、発光ダイオード(LED)、レーザ素子など、各種光源を用いることができる。光源としては、特に、ノイズ除去のために必要に応じて変調をかけることが容易であるLED、半導体レーザ素子、半導体励起レーザ素子といった固体光源を用いることが好ましい。
【0019】
電球やLEDなどを光源として用いた場合には、光ファイバから出射した光は広がりながら進行する。しかし、本発明においては、乱反射の影響をより明確に把握できるようにするために、投光ファイバから出射された光は被検査面に到達するまでに概略平行光とする必要がある。このため、光ファイバから出射した光が広がりながら進行する光である場合には適宜レンズを組み合わせて光を平行光に近い形に整えればよい。このような操作は、一般的に、凸レンズまたは凹面鏡により実現することができる。また、光ファイバから出射した光を概平行光とすることができるレンズが、ファイバセンサメーカから市販されている。このようなレンズとしては、たとえば、株式会社キーエンス製の型式F−3HAなどがある。このレンズと専用の光ファイバ(株式会社キーエンス製FU−35FZなど)とを組み合わせることによりレンズからおよそ20mm〜40mm前後の範囲において、概略平行光を実現することができる。F−3HAは、開口直径が約4.3mmであって、凸レンズを備えており、レンズ先端から0〜20mmの位置においてスポット径が約4mmの概略平行光となるように設計されている。
【0020】
(移動部)
光ファイバの束を被検査面に対して相対的に移動させる手段としては、一般的にメカニカル標準部品として販売されているリニアガイドや、シャフト上にリニアブッシュを移動させる機構などが例示される。リニアガイドは、THK株式会社など多くのメーカーによって製造・販売されている。平行移動は手動で行なうこととしてもよいが、測定精度や省力化の観点からは、自動で平行に移動できるリニアアクチュエータを用いることが特に好ましい。リニアアクチュエータとしては、THK株式会社製GLM20シリーズや、オリエンタルモーター株式会社製サーボリニアアクチュエーターEXZシリーズ他、多くのメーカーから多様な製品が販売されている。
【0021】
(実施の形態1)
(構成)
図1〜図3を参照して、本発明に基づく実施の形態1における金型ムラ検査装置101について説明する。図1に示すように、本実施の形態における金型ムラ検査装置101は、表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型1の表面のムラの検査装置であって、金型1の被検査面1aに向けて投光するための投光ファイバ11と、被検査面1aからの反射光を受光しうる1以上の受光ファイバ12と、1以上の受光ファイバ12が受光する光の強度を検出するための検出部20と、1以上の受光ファイバ12を被検査面1aに平行に移動させるための移動部26とを備える。投光ファイバ11と複数の受光ファイバ12とを合わせたものは光ファイバ束13となっている。光ファイバ束13の端にコリメートレンズユニット10が配置されている。
【0022】
金型1はロール形状である。金型1の中心軸には金型1自体を回転させるためのモータ27が接続されている。移動部26はリニアアクチュエータ41とセンサボックス42とを含む。リニアアクチュエータ41はセンサボックス42を金型1の軸方向すなわち図1における紙面垂直方向に沿って直線的に移動させることができる。検査部20、投光ファイバ11、受光ファイバ12およびコリメートレンズユニット10はセンサボックス42の内部に設置されている。図1においてコリメートレンズユニット10はセンサボックス42を示す長方形からはみ出しているが、コリメートレンズユニット10はセンサボックス42に対して固定されており、センサボックス42が移動したときにはコリメートレンズユニット10も共に移動する。図1においてセンサボックス42は箱状の部材として描かれているが、必ずしも箱状の部材である必要はなく、フレームのみのものであってもよく、関係する各構成要素を相対的に一体的に固定しただけのものであってもよい。
【0023】
光ファイバ束13の断面を図2に示す。この例では、1本の投光ファイバ11の周りに6本の受光ファイバ12が配置されている。受光ファイバ12の本数は6本に限らず、他の本数であってもよい。たとえば、後に示す実験で用いた株式会社キーエンス製FU−35FZでは受光ファイバの本数は8本である。
【0024】
コリメートレンズユニット10の内部構造の概要を図3に示す。筐体15の内部に光ファイバ束13の端が配置されており、この端に対して焦点が合う位置にコリメートレンズ14が配置されている。コリメートレンズ14は筐体15によって保持されている。
【0025】
図1に示すように、コリメートレンズユニット10は、被検査面1aに対して垂直に配置するのではなく、垂直からある程度傾けた姿勢で配置されている。投光ファイバ11から光71が出射し、被検査面1aで反射している。光71は被検査面1aで反射することによって正反射成分と乱反射成分とを生じている。正反射成分である反射光72はコリメートレンズユニット10には直接当たらない方向に進行している。コリメートレンズユニット10の姿勢は、正反射成分である反射光72はコリメートレンズユニット10の受光ファイバ12に入射しないが乱反射成分(図示せず)は受光ファイバ12に入射しうる程度に設定されている。
【0026】
上記説明において「1以上の受光ファイバ12」が「被検査面1aからの反射光を受光しうる」ものとしたのは、受光ファイバ12は常に反射光を受光し続けるわけではなく、乱反射成分の発生状況によっては、反射光のいかなる成分も受光しない状況も起こりうるからである。乱反射成分の発生状況によっては、「1以上の受光ファイバ12」は乱反射成分の一部を受光する状況となりうる。
【0027】
(作用・効果)
本実施の形態における金型ムラ検査装置101では、移動部26によって金型1の軸方向のスキャンが可能である。このようにスキャンすることによって、投光ファイバ11からの光71を被検査面1aの軸方向に沿って順に照射し、それぞれの位置で検出できる乱反射成分の状況を受光ファイバ12で収集することができる。さらにここで示したようにモータ27によって金型1の周方向のスキャンが可能であることが好ましい。軸方向と周方向との両方についてスキャンすることにより、2次元的に広がりを有する被検査面1aの全域にわたって乱反射成分の状況を受光ファイバ12で収集することができる。こうして得られた情報を2次元的にマップ状に整理した一例を図4に示す。このようにして、何ら熟練作業を要さずにムラを可視化することができる。図4に示すように整理して表示すれば、金型がたとえ円筒形状であっても平面的に表示することができるので、金型の外周面のムラ発生状況を瞬時に把握することができ、好都合である。以上のように、本実施の形態における金型ムラ検査装置では、金型の被検査面に光を照射し、その反射光の受光の有無および強度を受光ファイバによって検出することとしているので、たとえその金型によって製品を成形しなくても、製品に生じるであろうムラを金型から把握することができる。
【0028】
なお、金型ムラ検査装置101は、本実施の形態で示したように、被検査面1aからの反射光を受光しうる複数の受光ファイバ12を備え、複数の受光ファイバ12は投光ファイバ11を取り囲むように配置されていることが好ましい。この構成を採用することにより、投光ファイバと複数の受光ファイバとをコンパクトにまとめることができる。
【0029】
(実施の形態2)
(構成)
図5〜図7を参照して、本発明に基づく実施の形態2における金型ムラ検査装置について説明する。本実施の形態における金型ムラ検査装置102は、基本的には実施の形態1で説明した金型ムラ検査装置101と同様の構成を備えているが、さらに以下の構成を備えている。
【0030】
図5に示すように、金型ムラ検査装置102は、被検査面1aからの反射光72を受光しうる複数の受光ファイバによる受光ファイバ束17を備える。受光ファイバ束17は、中心に位置する第1受光ファイバ12fと、第1受光ファイバ12fの周囲を取り囲む複数の第2受光ファイバ12gとを含む。投光ファイバ11から出射して被検査面1aで反射した光を第1受光ファイバ12fが受光できるような位置に、受光ファイバ束17が配置されている。
【0031】
受光ファイバ束17の断面を図6に示す。この例では、1本の第1受光ファイバ12fの周りに6本の第2受光ファイバ12gが配置されている。第2受光ファイバ12gの本数は6本に限らず、他の本数であってもよい。
【0032】
図5に示すように、投光ファイバ11の先端にはコリメートレンズユニット10が設けられているが、このコリメートレンズユニット10には投光ファイバ11以外の光ファイバも含まれていてもよい。コリメートレンズユニット10には少なくとも投光ファイバ11が含まれていればよい。一方、受光ファイバ束17の先端にはコリメートレンズユニット10iが設けられている。
【0033】
コリメートレンズユニット10iの内部構造の概要を図7に示す。筐体15の内部に受光ファイバ束17の端が配置されており、この端に対して焦点が合う位置にコリメートレンズ14が配置されている。コリメートレンズ14は筐体15によって保持されている。
【0034】
図5に示すように、光源としてのLED30から発せられた光は非球面コンデンサレンズ31を介して投光ファイバ11に入射する。投光ファイバ11からは被検査面1aに向けて光71が出射する。光71は被検査面1aで反射して反射光72となる。反射光72はコリメートレンズユニット10iに入射する。コリメートレンズユニット10iの内部には受光ファイバ束17に含まれる第1受光ファイバ12fの端面が露出しているので、反射光72の一部は第1受光ファイバ12fに入射しうる。コリメートレンズユニット10,10iと被検査面1aとの相対的な位置関係はこのような条件を考慮して定められたものである。
【0035】
受光ファイバ束17のうち第1受光ファイバ12fはフォトダイオード32fに光を伝達し、第2受光ファイバ12gはフォトダイオード32gに光を伝達する。
【0036】
検査部20は、LEDドライバ33とA/Dコンバータ34とを備える。LEDドライバ33はLED30に指示を送るものであり、A/Dコンバータ34はフォトダイオード32f,32gで検出された光量を信号化処理するものとなっている。図5では、LED30およびフォトダイオード32f,32gは検査部20の外にあるものとして示しているが、LED30およびフォトダイオード32f,32gのうち一部または全部は、検査部20の一部として設けられていてもよい。図5では、検査部20はセンサボックス42の内部に設置されているように描かれているが、検査部20はセンサボックス42の外に設置されていてもよい。
【0037】
なお、図5においてコリメートレンズユニット10に接続された光ファイバの一部が下方に延在してその先にX印が付されているのは、これらの光ファイバが不使用であることを意味する。コリメートレンズユニット10に保持された複数の光ファイバのうちでは投光ファイバ11のみが使用されている。
【0038】
実施の形態1で説明したように、リニアアクチュエータ41はセンサボックス42を金型1の軸方向に沿って直線的に移動させることができるので、センサボックス42の移動に伴って、コリメートレンズユニット10,10iは相対的な位置関係を保ったまま移動することができる。
【0039】
(作用・効果)
本実施の形態では、光71が被検査面1aで正反射した成分である反射光72は、受光ファイバ束17のうちの第1受光ファイバ12fに入射し、光71が被検査面1aで乱反射した成分である散乱光73の一部は、受光ファイバ束17のうちの第2受光ファイバ12gに入射する。
【0040】
本実施の形態における金型ムラ検査装置においても実施の形態1と同様に、移動部26によって金型1の軸方向のスキャンが可能であり、モータ27によって金型1の周方向のスキャンが可能である。
【0041】
本実施の形態では、金型の表面でほぼ正反射した成分を第1受光ファイバ12fで受光し、乱反射した成分を第2受光ファイバ12gで受光することができるが、表面のムラに関係する凹凸の存在する箇所においては、正反射成分と乱反射成分との光量の配分が変動するので、第1受光ファイバ12fと第2受光ファイバ12gとの各々で受光する光量が変動する。
【0042】
本実施の形態では、被検査面1aの全面にわたってスキャンすることによって、投光ファイバ11からの光71を被検査面1aの全面に順に照射し、それぞれの位置で検出できる正反射成分および乱反射成分の状況を受光ファイバ束17で収集することができる。こうして得られた情報を2次元的にマップ状に整理することによって、実施の形態1で示したのと同様に、何ら熟練作業を要さずにムラを可視化することができる。こうして、実施の形態1で説明したのと同様の効果を得ることができる。
【0043】
(実験)
本発明によって実際にムラが可視化できるか否か確認するために、発明者らは、実験を行なった。
【0044】
この実験では、図2、図3に示したように、1本の投光ファイバ11の周りに複数本の受光ファイバ12が配置されたファイバ束13を用いた。このファイバ束13を、図8に示すようにいわゆる「同軸モード」となるように構成した。図8はファイバ束13から被検査面1aに向かう光71と、被検査面1aからファイバ束13に戻る反射光72とを一直線上に展開して表示した図である。図8において左に表示されたファイバ束13と右に表示されたファイバ束13とが同一のものであるが、説明の便宜上このように2ヶ所に表示されている。図1に示した金型ムラ検査装置101では、光71の正反射成分である反射光72はコリメートレンズユニット10には直接当たらないように設定されていたが、この実験においては、光71の正反射成分が投光ファイバ11に入射するような位置関係となるようにコリメートレンズユニット10を設置した。
【0045】
この実験では、投光ファイバ11として株式会社キーエンス製FU−35FZの中心側ファイバ、受光ファイバ12として株式会社キーエンス製FU−35FZの周辺側ファイバ、コリメートレンズユニット10として株式会社キーエンス製F−3HAを用いた。
【0046】
FU−35FZは、直径約1.1mmの円形領域の中心部に直径約0.05mmの多数の光ファイバを直径約0.5mmの円形に束ねた光ファイバ束を配置し、この光ファイバ束の周囲を直径約0.265mmの光ファイバ8本が取り囲む構成となっている。中心に配置された光ファイバ束を一体の光ファイバとみなせば、周辺部の光ファイバの直径は中心部に配置された光ファイバの直径よりも小さくなっている。コリメートレンズユニット10としてのF−3HAは、開口直径が約4.3mmであって、凸レンズを備えており、レンズ先端から0〜20mmの位置においてスポット径が約4mmの概略平行光となるように設計されている。ここでは、レンズ先端が被検査面1aから約20mm離れた位置となるようにF−3HAを設置した。このとき、被検査面1aにおけるスポットの直径は約4mmであった。
【0047】
投光ファイバ11は、株式会社キーエンス製ファイバアンプFS−V31Mの「投光」側に接続し、受光ファイバ12は同機の「受光」側に接続した。さらにFS−V31Mのアナログ出力(1V〜5V)を、12bitA/Dコンバータに接続した。A/DコンバータとしてはMicrochip Technology Inc社製マイクロコントローラdsPIC30F4013−30I/Pを用いた。
【0048】
さらに移動部を含めたシステム構成は図9に示すとおりである。この実験では移動部に相当するX軸モータとしてEZX9LH−80WAを用いた。さらにロール状の金型を回転させるためにθ軸モータとしてAR98AA−H50−2を用いた。X軸モータはリニアアクチュエータ41に相当し、θ軸モータはモータ27に相当する。X軸モータとθ軸モータとの協働により、コリメートレンズユニットF−3HAは金型の外周の全面をスキャンすることができた。
【0049】
この構成によれば、正反射成分は投光ファイバ11に入射するので検出されないが、乱反射成分の一部は受光ファイバ12に入射するので、ファイバセンサアンプFS−V31Mによって検出することができる。検出された光の強度をデジタル化し、数値表現することができる。こうして得られたデータの一部を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1において「出力12bit整数値」として表示された数値は、電圧の大きさをA/D変換して整数化したものであり、受光ファイバ12に入射した光の強度に対応する。この数値が大きい位置は光が散乱している度合いが高いということになり、この数値が小さい位置は光が散乱する度合いが低いということになる。この数値としては、常に整数値が出力されるように設定されたものである。この数値は、ファイバセンサアンプからの出力が0Vのときに0を示し、5Vのときに4095を示すように設定されたものである。
【0052】
この実験に用いた金型を使って実際に防眩フィルムを作製し、その防眩フィルムを黒い板に貼り付けた状態でムラが見えるように蛍光灯の光を当てて撮影したものを図10に示す。図10において上下方向に延在するように見えている数本の白っぽい筋は蛍光灯が映り込んだものである。図10において左右方向に延在するように見えている多数の白っぽい筋は発明者らが関心を寄せているムラである。
【0053】
一方、この金型を用いて実験を行なって得た数値から光強度の分布を2次元的にマップ状に表示したものを図11に示す。表1の右欄に示した数値が大きい位置は白く、小さい位置は黒く表現している。図11に表示した領域は図10に表示した領域をフィルムに転写する元となった金型上の領域である。図11では左右方向に延在する複数の筋が見えている。これらの筋は図10でムラとして見えていたものとほぼ一致していることがわかる。
【0054】
この実験により、従来はフィルムを実際に成形した後に目視で確認していたムラが、フィルムを成形することなく金型を直接スキャンすることによってわかりやすく可視化することができることが確かめられた。
【0055】
なお、図4に示したムラの可視化画像は、あるひとつの試料から得られた結果であるが、もうひとつの試料から得られたムラの可視化画像を、参考のために図12に示す。
【0056】
上記各実施の形態および実験においては、前記投光ファイバにおいて光を外部へ出射するための開口部の径に比べて、前記1以上の受光ファイバにおいて外部から光を受け入れるための開口部の径は、同じまたはより小さくなっていることが好ましい。この構成を採用することにより、受光ファイバは所望の光の成分のみを受光しやすくなり、不所望の光の成分が混入して受光される確率を低くすることができる。また、この構成を採用することにより、受光ファイバに対して入射する光の量はわずかな角度の変化によって大きく変動することとなるので、光の強度の変化を敏感に検出することが可能となる。
【0057】
上記各実施の形態で示したように、金型1は円柱形状であり、移動部26は、投光ファイバ11および前記1以上の受光ファイバ12を金型1の中心軸に平行に移動させることができることが好ましい。この構成を採用することにより、金型が円柱形状である場合において、金型の軸方向にわたってスキャンすることができるからである。このように軸方向にわたってのスキャンができなくてもムラの有無を検出する上ではある程度の手がかりとなるデータを得ることができるが、軸方向のスキャンができることによってムラ情報を2次元的に把握することが容易となるので好ましい。
【0058】
また、金型としては円柱形状以外のものもありうるが、その場合も何らかの移動機構によって、製品に転写される面のなるべく広い領域をスキャンすることが好ましい。
【0059】
(実施の形態3)
(検査方法)
図13を参照して、本発明に基づく実施の形態3における金型ムラ検査方法について説明する。本実施の形態における金型ムラ検査方法のフローチャートを図13に示す。金型ムラ検査方法は、表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型の表面のムラの検査方法であって、1以上の受光ファイバを被検査面に平行に移動させながら、前記1以上の受光ファイバが受光する光の強度情報を収集する工程S1と、前記収集する工程S1によって得た強度情報から前記金型の表面のムラの有無を判断する工程S2とを含み、前記収集する工程S1は、前記金型の前記被検査面に向けて投光ファイバから投光する工程S11と、前記被検査面からの反射光を前記1以上の受光ファイバによって受光する工程S12とを含む。
【0060】
この金型検査方法は、実施の形態1,2のいずれかで説明した金型ムラ検査装置(図1または図5参照)を用いて行なうことができる。その場合、工程S11では、投光ファイバ11から被検査面1aに向けて投光すればよい。工程S12では、受光ファイバ12、第1受光ファイバ12fまたは第2受光ファイバ12gで反射光を受光すればよい。工程S1では、受光した光の強度情報を検査部20で収集すればよい。検査部20以外に図示しない情報処理装置を接続し、情報処理装置で強度情報を収集することとしてもよい。工程S2はこのような情報処理装置で行なうことが好ましい。
【0061】
金型ムラ検査方法の第1の局面において、投光する工程S11および受光する工程S12は、図2に示したように、投光ファイバ11の周りを複数の受光ファイバ12で取り囲むように配置した光ファイバ束13を用いて行ない、収集する工程S1は、光ファイバ束13を移動させることによって行なうことが好ましい。この構成を採用することにより、投光ファイバと複数の受光ファイバとを光ファイバ束13としてコンパクトにまとめることができ、光ファイバ束13を移動させることによって、投光ファイバと受光ファイバとの相対的位置関係を維持したまま移動させることができる。
【0062】
金型ムラ検査方法の第2の局面において、受光する工程S12は、図5に示したように、被検査面1aからの反射光72を受光しうる複数の受光ファイバによる受光ファイバ束17を用いて行ない、受光ファイバ束17は、中心に位置する第1受光ファイバ12fと、第1受光ファイバ12fの周囲を取り囲む複数の第2受光ファイバ12gとを含むことが好ましい。この構成を採用することにより、役割の異なる複数の受光ファイバをコンパクトにまとめることができる。
【0063】
金型ムラ検査方法は、前記ムラの有無を判断する工程S2は、前記ムラを可視化する工程を含むことが好ましい。実際に可視化した例は既に図4、図12に示したとおりである。このようにすれば、作業者は何ら熟練作業を要さずにムラを把握することができる。
【0064】
前記投光ファイバにおいて光を外部へ出射するための開口部の径に比べて、前記1以上の受光ファイバにおいて外部から光を受け入れるための開口部の径は、同じまたはより小さくなっていることが好ましい。このようにすることにより、受光ファイバは所望の光の成分のみを受光しやすくなり、不所望の光の成分が混入して受光される確率を低くすることができる。また、この構成を採用することにより、受光ファイバに対して入射する光の量はわずかな角度の変化によって大きく変動することとなるので、光の強度の変化を敏感に検出することが可能となる。
【0065】
なお、上記各実施の形態では、金型としてロール形状の金型を例に挙げて説明したが、本発明を適用する上では、金型はロール形状に限らず、他の形状の金型であってもよい。たとえば平板形状の金型であってもよい。
【0066】
なお、本発明は、防眩処理用金型において得られる製品に生じるであろうムラを、製品ではなく金型に対する測定によって把握することを想定してなされた発明であるが、この考え方自体は、防眩処理用金型に限らず、他の用途の金型においても適用することができる。すなわち、製品の表面におけるムラの有無が問題となるような分野においてその製品の表面性状を決定するための金型に対して、本発明を適用することによって、ムラの把握が可能となると考えられる。したがって、防眩処理用金型以外の金型に対しても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 金型、1a 被検査面、10,10i コリメートレンズユニット、11 投光ファイバ、12 受光ファイバ、12f 第1受光ファイバ、12g 第2受光ファイバ、13 光ファイバ束、14 コリメートレンズ、15 筐体、17 受光ファイバ束、20 検出部、26 移動部、27 モータ、33 LEDドライバ、34 A/Dコンバータ、41 リニアアクチュエータ、42 センサボックス、71 光、72 反射光、101,102 金型ムラ検査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型の表面のムラの検査装置であって、
前記金型の被検査面に向けて投光するための投光ファイバと、
前記被検査面からの反射光を受光しうる1以上の受光ファイバと、
前記1以上の受光ファイバが受光する光の強度を検出するための検出部と、
前記1以上の受光ファイバを前記被検査面に平行に移動させるための移動部とを備える、金型ムラ検査装置。
【請求項2】
前記被検査面からの反射光を受光しうる複数の受光ファイバを備え、前記複数の受光ファイバは前記投光ファイバを取り囲むように配置されている、請求項1に記載の金型ムラ検査装置。
【請求項3】
前記被検査面からの反射光を受光しうる複数の受光ファイバによる受光ファイバ束を備え、前記受光ファイバ束は、中心に位置する第1受光ファイバと、前記第1受光ファイバの周囲を取り囲む複数の第2受光ファイバとを含み、
前記投光ファイバから出射して前記被検査面で反射した光を前記第1受光ファイバが受光できるような位置に、前記受光ファイバ束が配置されている、請求項1に記載の金型ムラ検査装置。
【請求項4】
前記投光ファイバにおいて光を外部へ出射するための開口部の径に比べて、前記1以上の受光ファイバにおいて外部から光を受け入れるための開口部の径は、同じまたはより小さくなっている、請求項1から3のいずれかに記載の金型ムラ検査装置。
【請求項5】
前記金型は円柱形状であり、前記移動部は、前記投光ファイバおよび前記1以上の受光ファイバを前記金型の中心軸に平行に移動させることができる、請求項1から4のいずれかに記載の金型ムラ検査装置。
【請求項6】
表面に形成された凹凸形状によって防眩効果を奏する製品を成形するための金型の表面のムラの検査方法であって、
1以上の受光ファイバを被検査面に平行に移動させながら、前記1以上の受光ファイバが受光する光の強度情報を収集する工程と、
前記収集する工程によって得た強度情報から前記金型の表面のムラの有無を判断する工程とを含み、
前記収集する工程は、前記金型の前記被検査面に向けて投光ファイバから投光する工程と、前記被検査面からの反射光を前記1以上の受光ファイバによって受光する工程とを含む、金型ムラ検査方法。
【請求項7】
前記投光する工程および前記受光する工程は、前記投光ファイバの周りを複数の受光ファイバで取り囲むように配置した光ファイバ束を用いて行ない、前記収集する工程は、前記光ファイバ束を移動させることによって行なう、請求項6に記載の金型ムラ検査方法。
【請求項8】
前記受光する工程は、前記被検査面からの反射光を受光しうる複数の受光ファイバによる受光ファイバ束を用いて行ない、前記受光ファイバ束は、中心に位置する第1受光ファイバと、前記第1受光ファイバの周囲を取り囲む複数の第2受光ファイバとを含む、請求項6に記載の金型ムラ検査方法。
【請求項9】
前記ムラの有無を判断する工程は、前記ムラを可視化する工程を含む、請求項6から8のいずれかに記載の金型ムラ検査方法。
【請求項10】
前記投光ファイバにおいて光を外部へ出射するための開口部の径に比べて、前記1以上の受光ファイバにおいて外部から光を受け入れるための開口部の径は、同じまたはより小さくなっている、請求項6から9のいずれかに記載の金型ムラ検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図13】
image rotate

【図4】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−214982(P2011−214982A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83019(P2010−83019)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】