説明

金型構成部材及びその製造方法

【課題】流路を自由な形状に形成することができ、流路内を流れる冷却媒体が抵抗をあまり受けずにスムーズに流れる金型構成部材を提供する。
【解決手段】冷却媒体が流通可能な冷却媒体用流路7を有し、射出成形型の一部を構成する金型構成部材であって、前記冷却媒体用流路7は、略平行に配置された複数の本体部15,17と、該本体部15,17の端部同士をつなぐ屈曲部19とから一体に連通された閉回路である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融樹脂をキャビティ内に射出及び充填して所望形状の成形品を形成する射出成形型に用いられる金型構成部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、射出成形型を用いて樹脂の成形品を作製する技術が知られている。前記射出成形型のキャビティ内に溶融樹脂を射出して充填させると、射出成形型の温度が上昇するため、成形品に成形不良が発生したり、成形サイクルが伸びたりするなどの不具合が生じる。この射出成形型の温度上昇を抑制するため、通常、キャビティに面する金型の部位に金型構成部材をはめ込み、この金型構成部材に、冷却水等の冷却媒体を流通させる冷却媒体用流路を形成している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図8は、従来例による金型構成部材を上方から見た断面図である。
【0004】
この金型構成部材101には、図8の縦方向に沿って延びる流路105と、同図の左右方向に沿って延びる流路107とが設けられている。前記流路105は、金型構成部材101を貫通して設けられ、両端部を止め栓103によって封鎖している。また、前記流路107は、図の左方向から延びて流路105に交差し、その先端部107aが略円錐状に形成されている。そして、止め栓103,103の近傍に、上方に向けて延びる一対の挿通孔109,109が設けられている。
【0005】
図9は、従来例による金型構成部材の別の断面図である。
【0006】
この流路は、平面視略コ字状に形成されている。図9の縦方向に沿って流路113,117が延びており、これらの流路113,117の先端同士を結ぶ流路115が図の左右方向に沿って延びている。また、流路113と流路115との交差部には、略円錐状の先端部113a,115aが形成されており、流路115と流路117との交差部には、略円錐状の先端部117aが形成されている。止め栓103によって、流路113,115,117の端部が封鎖されており、上方に延びる挿通孔109,109が設けられている。
【0007】
図10は、従来例による金型構成部材の別の断面図である。
【0008】
金型構成部材にエジェクターピン用挿通孔119が形成されている場合には、該エジェクターピン用挿通孔119を回避するように、流路をレイアウトする必要がある。この場合は、図10の縦方向に沿って延びる流路121,125の先端部121a,125a同士を流路123によって結び、流路121,123,125の端部を止め栓103によって封鎖している。
【非特許文献1】「プラスチック金型便覧」、株式会社誠文堂新光社発行、(昭和45年11月20日) 、p.230−231(図63−図65)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記非特許文献1に記載された冷却孔や図8〜図10に示した流路は、ドリル等の穿孔工具を用いて形成するため、直線状にのみ穿設することができなかった。また、図8〜図10に示すように、流路の端部に止め栓103を設ける必要があり、金型構成部材の作成に手間がかかった。さらに、流路の先端に略円錐状の先端部を形成する必要があり、流路内を流通する冷却水がこれらの先端部によって抵抗を受けるため、冷却水がスムーズに流れにくいという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、流路を自由な形状に形成することができ、流路内を流れる冷却媒体が抵抗をあまり受けずにスムーズに流れる金型構成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明に係る金型構成部材は、冷却媒体が流通可能な冷却媒体用流路を有し、射出成形型の一部を構成する金型構成部材であって、前記冷却媒体用流路は、一体に連通された閉回路であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る金型構成部材の製造方法は、金属粉末を所定厚さに積層し、この積層した金属粉末層のうち、冷却媒体用流路に相当する部位以外にレーザーを照射して焼結を施すことを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0013】
そして、本発明に係る金型構成部材の別の製造方法は、鋼材の表面に冷却媒体用溝を形成し、この冷却媒体用溝を含めた前記鋼材の表面に金属粉末を所定厚さに積層し、この積層した金属粉末層のうち、冷却媒体用流路に相当する部位以外にレーザーを照射して焼結を施すことを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る金型構成部材の更に別の製造方法は、第1の鋼材の表面に冷却媒体用溝を形成し、前記第1の鋼材の冷却媒体用溝に対応する冷却媒体用溝を第2の鋼材の表面に形成し、これらの第1及び第2の鋼材を、それぞれの冷却媒体用溝同士を対応させた状態で突き合わせ、直流電流を流すことによって、第1及び第2の鋼材同士を接合させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金型構成部材によれば、冷却媒体用流路が一体に連通された閉回路であるため、冷却媒体用流路内を冷却媒体が流通する際の流通抵抗が小さくなり、円滑に冷却媒体が流通する。
【0016】
本発明に係る金型構成部材の製造方法によれば、冷却媒体用流路の形状やレイアウトを自由に設定することができる。従って、所定断面の全体面積に対する冷却媒体用流路の面積の比率を大きくすることができ、冷却効率が大幅に向上する。
【0017】
本発明に係る金型構成部材の別の製造方法によれば、冷却媒体用流路の形状やレイアウトを自由に設定することができ、製造コストも安価にすることができる。
【0018】
本発明に係る金型構成部材の更に別の製造方法によれば、非常に簡単な手順で金型構成部材を製造することができるため、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態による金型構成部材の斜視図である。
【0021】
この金型構成部材1は、外形が直方体に形成され、内部には、後述する冷却媒体用流路(以下、単に「流路」という)7が形成されている。底面には、流入口3及び流出口5が開口しており、これらの流入口3及び流出口5は前記流路7に連通している。
【0022】
図2は図1のA−A線による断面図、図3は図1のB−B線による断面図である。
【0023】
金型構成部材1は、図2に示すように、上側に配置した素材部9と下側に配置した造形部11とから一体に形成されており、これらの素材部9と造形部11との境界線を二点鎖線Lで示している。これらの素材部9と造形部11については、後述する。
【0024】
流路7は略円筒状に形成され、その断面は図2に示すように円形である。また、流路7は、図3の縦方向に直線状に延びる複数の本体部15,17と、これらの本体部15,17の端部を結ぶ屈曲部19とから、一体に連通して形成された閉回路である。
【0025】
前記本体部15,17は、合計8本が互いに平行に配置されており、隣接する本体部15,17同士の間隔は寸法Dに設定されている。この寸法Dを小さくすれば、すなわち、本体部15,17同士を近接させれば、金型構成部材1の全体の断面積に対する流路7の断面積の比率を大きく設定することができる。なお、前記寸法Dは、2mm以上が好ましい。
【0026】
前記屈曲部19は、円弧状に形成され、所定の曲率をもって湾曲している。本実施形態では、流路7の両端に流入口3及び流出口5が形成されている。
【0027】
なお、図3と図9とを比較すれば明らかなように、本実施形態においては、流路7の屈曲部19は断面積が一定であり、流路7の外方へ突出する凹部が形成されていない。これに対して、従来の金型構成部材では、図9に示すように、流路の屈曲部(交差部)に、凹部形状の先端部113a,115a,117aが形成されており、断面積は屈曲部の各位置で異なっている。これらの先端部113a,115a,117aは、流路113,115,117の外方に突出している。このため、流路113,115,117内を冷却媒体が流通すると、冷却媒体は先端部113a,115a,117aに入り込んで流れが乱れ、流通抵抗が増大する。従って、図3に示す本実施形態の流路7は、外方に突出する凹部がないため、流路7内を冷却媒体が流通する際の流通抵抗が小さくなり、冷却媒体がスムーズに流れる。
【0028】
次いで、本実施形態による金型構成部材の製造方法を簡単に説明する。本実施形態では、一実施例として金属光造形複合加工法によって金型構成部材を製造する方法を説明する。
【0029】
この金属光造形複合加工法は、金属粉末を所定厚さに積層して金属粉末層とし、レーザーを照射して焼結を施し、この焼結した金属層の上に再度、金属粉末を積層してレーザーを照射して焼結を施すことを複数回繰り返して金属部材を製造する方法である。
【0030】
金型構成部材1は、図2に示すように、境界線Lよりも上側に配置した素材部9と下側に配置した造形部11とから一体に形成されている。また、図4は図2における素材部9を示す斜視図であり、図2の素材部9のみを仮想的に取り出して上下逆にして見ている。図5は、造形部11のみを仮想的に取り出して見た斜視図である。
【0031】
まず、素材部9となる直方体の鋼材を準備する。図4に示すように、この鋼材の表面には、本体部15,17と屈曲部19とからなる断面半円状の冷却媒体用溝8が予め形成されている。
【0032】
次に、素材部9の表面上に、所定厚さの金属粉末を積層する。この積層した金属粉末層のうち、前記冷却媒体用溝8以外の部分にレーザーを照射し、冷却媒体用溝部分にはレーザーを照射しない。この工程を繰り返し行うことにより、素材部9の上に造形部11を一体に形成する。そして、造形部11が下側で素材部9が上側になるように配置すると、図1及び図2に示す金型構成部材1を成形することができる。なお、前記金属粉末としては、例えば、SCM440(JIS)などを用いることが好ましい。
【0033】
なお、本実施形態による金型構成部材は、以下の方法によっても製造することが可能である。
【0034】
予め、直方体状の鋼材を2つ準備し、一方を第1の鋼材、他方を第2の鋼材とする。これらの鋼材は、例えば、図4及び図5に示す形状のものが好ましい。従って、これからは、図4及び図5の図面を流用して説明することにする。
【0035】
まず、第1の鋼材12の表面に冷却媒体用溝8を形成し、前記第1の鋼材12の冷却媒体用溝8に対応する冷却媒体用溝10を第2の鋼材14の表面に形成する。次いで、これらの第1及び第2の鋼材12,14を、それぞれの冷却媒体用溝同士8,10を対応させた状態で突き合わせ、一対の電極(図示せず)の間に配置する。そして、第1及び第2の鋼材12,14同士を加圧しながら直流電流を流す。これによって、第1及び第2の鋼材12,14の接触面にわずかに溶融することによって、第1及び第2の鋼材同士12,14を接合させる。
【0036】
図6は、本発明の第1実施形態による金型構成部材を適用した射出成形型を示す断面図である。
【0037】
射出成形型21の上側には、上型用取付板23及び該上型用取付板23に固定された上型25が設けられている。また、下側には、下型用取付板27及び該下型用取付板27にスペーサーブロック29を介して取り付けられた下型31が設けられている。上型25の内面35と下型31の内面33とによってキャビティ37が形成されている。下型31には、内面33の端部側に、本実施形態による金型構成部材1が埋め込まれており、該金型構成部材1の上面は、下型31の内面33と面一になっている。
【0038】
なお、下型31には、冷却媒体用流路39が形成されており、この冷却媒体用流路39は、金型構成部材1に形成された流入口3及び流出口5に接続されている。
【0039】
[第2実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。ただし、前述した第1実施形態と同一構造の部位は同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
図7は、本発明の第2実施形態による金型構成部材の断面図であり、第1実施形態の図3に対応している。本実施形態では、金型構成部材41にエジェクターピン用挿通孔43,45を設定した場合における流路47のレイアウトを示している。
【0041】
具体的には、図7に示すように、エジェクターピン用挿通孔43,45の近傍に配置された流路47は、本体部15,17を短く設定することにより、エジェクターピン用挿通孔43,45を回避するレイアウトとしている。
【0042】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0043】
金型構成部材1,41における前記冷却媒体用流路7,47は、複数の屈曲部19を有しているため、所定断面の全体面積に対する冷却媒体用流路7,47の面積の比率を大きくすることができ、冷却効率が大幅に向上する。
【0044】
前記屈曲部19は、所定の曲率をもって湾曲しているため、冷却媒体が冷却媒体用流路7,47内を流通する際における流通抵抗が低減する。即ち、冷却媒体が屈曲部19内を流通するときには、流通があまり妨げられずにスムーズに流れるため、流通抵抗が低減する。
【0045】
前記屈曲部19は、断面積が略一定に形成されているため、冷却媒体が屈曲部19内を流通するときには、流通があまり妨げられずに流通抵抗が低減する。
【0046】
前記冷却媒体用流路7,47は、複数の本体部15,17と、該本体部同士15,17を連結する屈曲部19とを備え、隣り合う本体部同士15,17を互いに近接して配置しているため、所定断面の全体面積に対する冷却媒体用流路7,47の面積の比率を大きくすることができ、冷却効率が大幅に向上する。
【0047】
なお、前述した従来の製造方法では、金型構成部材が所定の大きさよりも小さい場合は、冷却媒体用流路を形成することが困難であった。しかし、本発明に係る方法では、従来では形成することができなかった大きさの金型構成部材にも冷却媒体用流路を形成することができる。これは、本発明に係る方法では、冷却媒体用流路の径や断面積及び配置を自由に設定することができるからである。
【0048】
以上、本発明を第1実施形態及び第2実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されず、種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態による金型構成部材の斜視図である。
【図2】図1のA−A線による断面図である。
【図3】図1のB−B線による断面図である。
【図4】図2における素材部を示す斜視図である。
【図5】図2における造形部を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態による金型構成部材を適用した射出成形型を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による金型構成部材の断面図であり、第1実施形態の図3に対応している。
【図8】従来例による金型構成部材の断面図であり、第1実施形態の図3に対応している。
【図9】従来例による金型構成部材の別の断面図である。
【図10】従来例による金型構成部材の別の断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1,41…金型構成部材
7,47…冷却媒体用流路
8,10…冷却媒体用溝
12…第1の鋼材
14…第2の鋼材
15,17…本体部
19…屈曲部
21…射出成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体が流通可能な冷却媒体用流路を有し、射出成形型の一部を構成する金型構成部材であって、
前記冷却媒体用流路は、一体に連通された閉回路であることを特徴とする金型構成部材。
【請求項2】
前記冷却媒体用流路は、複数の屈曲部を有することを特徴とする請求項1に記載の金型構成部材。
【請求項3】
前記屈曲部は、所定の曲率をもって湾曲していることを特徴とする請求項2に記載の金型構成部材。
【請求項4】
前記屈曲部は、断面積が略一定に形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の金型構成部材。
【請求項5】
前記冷却媒体用流路は、複数の本体部と、該本体部同士を連結する屈曲部とを備え、隣り合う本体部同士を互いに近接して配置したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金型構成部材。
【請求項6】
金属粉末を所定厚さに積層し、この積層した金属粉末層のうち、冷却媒体用流路に相当する部位以外にレーザーを照射して焼結を施すことを複数回繰り返すことを特徴とする金型構成部材の製造方法。
【請求項7】
鋼材の表面に冷却媒体用溝を形成し、この冷却媒体用溝を含めた前記鋼材の表面に金属粉末を所定厚さに積層し、この積層した金属粉末層のうち、冷却媒体用流路に相当する部位以外にレーザーを照射して焼結を施すことを複数回繰り返すことを特徴とする金型構成部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−221801(P2008−221801A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67608(P2007−67608)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(597074310)エヌジーケイ・ファインモールド株式会社 (7)
【出願人】(506326176)株式会社OPMラボラトリー (5)
【Fターム(参考)】