説明

金型洗浄装置

【課題】大型且つフラットな金型の洗浄に適する洗浄装置を提供する。
【解決手段】電解洗浄液が供給される金型洗浄用の洗浄槽2と、フラットで大面積の金型を垂直状態あるいは傾斜状態で保持して、前記洗浄槽内に載置する金型保持材6と、前記金型保持材に保持された前記金型の側方に対向させて、前記洗浄槽内に浸漬する電解洗浄用の電極22と、前記金型保持材を介して前記金型を接触させ、前記電極と電解洗浄液および金型を介して通電させて電解洗浄を行わせる給電手段と、前記金型保持材の背面側に位置する前記洗浄槽の側壁外部に設置し、前記電解洗浄液に超音波振動を発生させる超音波発生装置4を備え、前記垂直あるいは傾斜保持された金型を電解洗浄及び超音波洗浄することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型洗浄装置に関し、特に、フラットな大型部品の樹脂成形用金型を電解洗浄および超音波洗浄を併用して洗浄するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂やゴムの成形用材料の改質および成形技術の進歩に伴い、従来プレス、鍛造、鋳造等により形成されていた金属製やガラス製等の部品も、大量生産が可能な金型で成形される樹脂製部品へと移行しつつある。
例えば、樹脂製品やゴム製品は金属製品やガラス製品と比較すると、強度、耐熱性、耐油性、耐摩耗性が乏しいとされてきたが、エンジニアリングプラスチックは耐熱性、耐衝撃性、耐油性に優れているため、各種部品の成形材となっている。
また、超精密成形技術の進歩により、表示板がガラスであったブラウン管テレビに変えて、表示板が樹脂からなるフラットディスプレイの大型画面のテレビが急増しており、金型による射出成形でフラットパネルディスプレイの導光板が大量生産されている。
【0003】
前記樹脂、ゴム等の成形に用いる金型は、成形量に伴ってその内面に樹脂カス、ゴムカスが付着すると共に、樹脂が溶解された時に発生するガスや樹脂カスが付着する。これらの付着物は、成形ショットを重ねると、ショット回数の増加に伴い金型表面に堆積し、簡単には除去することができない。
特に、前記エンジニアリングプラスチックは、前記した優れた性能を有する故に、樹脂カスやデポジットが金型に付着すると除去することが非常に困難となっている。
しかしながら、これらを確実に除去しないと、製品が規定の精度に達しない等の成形不良につながる等の不都合が生じる。よって、成形用金型は定期的に取り外して洗浄し、上記付着物を除去しなければならない。
特に、フラットパネルディスプレイの導光板用の金型は、フラットパネルディスプレイ、の大型化に伴い金型も大型化していると共に、微細な凹凸を備えている。この微細な凹部内に入り込んだ樹脂を取り除かなければ、高度化する精度に対応することができない。
【0004】
金型洗浄は、従来、トリクレンや炭化水素系の石油等に浸漬しておき、その後、ブラシや綿棒で擦りとる方法でなされていたが、トリクレンや炭化水素系の有機溶剤は人体に悪影響を与える。また、超精密金型では付着した樹脂の除去が困難であるため、使い捨てしている場合もあり、其の際は金型を新規に作製しなければならず、非常にコスト高になる問題がある。
この問題に対して、本出願人は、例えば、特開平7−214570号公報(特許文献1)等において水酸化ナトリウム等の強アルカリ成分が配合された電解用洗浄液を用い、電解洗浄と超音波洗浄とを併用した金型洗浄装置を多数提供している。
前記金型洗浄装置は、金型を電解洗浄および超音波洗浄を併用して洗浄するため、極めて効率良く短時間で金型の付着物を除去でき、洗浄効果が優れた利点を有するが、金型の大型化に対応するには改善の余地がある。
【0005】
即ち、フラットな大型金型を洗浄槽内に水平姿勢で浸漬する場合、洗浄槽自体が非常に大型化し、かつ、水平姿勢とした金型に対向して上方に多数の電極を配置する必要がある。また、該構成とすると、陽極側に接続する電極表面および陰極側に接続する金型表面から発生するガスが上方の電極と下方の金型の間に溜まり、陽極と陰極との間への電解洗浄液の侵入が阻害されることとなる。よって、陽極と陰極との間の洗浄液の量が希薄になり、電流が流れにくくなるため、必然的に液抵抗が高くなり、陰極側に接続された金型表面からのガス発生量が比例して減るだけでなく、極間に高熱が発生し、洗浄液が破壊される等、金型洗浄に悪影響が生じる。
さらに、電極として不溶性材を用いても、電解洗浄液の影響で電極を確実に不溶とすることは困難で、溶解した電極材の粒子が下方の金型表面に異物として付着する恐れもある。
【0006】
【特許文献1】特開平7−214570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明を前記問題に鑑みてなされたもので、特に、電解洗浄および超音波洗浄を併用した洗浄方法でフラットな大型金型を効率良く迅速に洗浄できる金型洗浄装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、電解洗浄液が供給される金型洗浄用の洗浄槽と、
フラットで大面積の金型を垂直状態あるいは傾斜状態で保持して、前記洗浄槽内に載置する金型保持材と、
前記金型保持材に保持された前記金型の側方に対向させて、前記洗浄槽内に浸漬する電解洗浄用の電極と、
前記金型保持材を介して前記金型を接触させ、前記電極と電解洗浄液および金型を介して通電させて電解洗浄を行わせる給電手段と、
前記金型保持材の背面側に位置する前記洗浄槽の側壁外部に設置し、前記電解洗浄液に超音波振動を発生させる超音波発生装置を備え、
前記垂直あるいは傾斜保持された金型を電解洗浄及び超音波洗浄することを特徴とする金型洗浄装置を提供している。
【0009】
前記金型保持材は、厚さに対して垂直方向の片面の表面積が3倍以上の大型フラットな金型を保持するものとし、前記給電手段の電源マイナス側に少なくとも金型接触面を接続している。具体的には、洗浄槽中には1個の大型金型を垂直或いは傾斜させて電解洗浄液中に浸漬させて洗浄する場合に好適に用いられるものである。但し、1度に洗浄槽中に浸漬して洗浄する金型は1枚に限定されず、洗浄槽の大きさによって複数枚の大型金型を浸漬しても洗浄作用が十分になされる場合には複数個の金型を同時に洗浄している。
【0010】
前記大面積のフラットな金型を垂直あるいは傾斜させて保持する金型保持材は、例えば、金型底面を載置する底面部と、金型の一側面を支持する側面部を有するL形状で、前記金型を傾斜状態で保持する場合には該金型保持材が洗浄槽内に傾斜支持される。なお、金型保持材は前記L形状に限定されず、大型かつフラットな金型を垂直状態あるいは傾斜状態で保持できる構成であればよい、
また、前記金型保持材は洗浄槽の上壁から突設した昇降部材、あるいは他の支持台上に搭載した昇降部材と連結し、金型保持材に金型を載置した状態で洗浄槽中に下降させ、洗浄後には洗浄槽から引き上げる構成とすることが好ましい。
【0011】
前記のように、本発明に係わる洗浄装置は、フラットで大型な金型は、具体的にはフラットパネルディスプレイの導光板の射出成型用金型等の洗浄用として好適に用いられるものである。
このようなフラットで大型の金型を、本発明では金型保持材に垂直方向あるいは10度以上90度未満の傾斜角度、好ましくは、45度〜90度の範囲で洗浄槽内に配置することで、洗浄槽の断面積を比較的小さくしても、洗浄槽の深さを比較的大きくすれば、フラットで大型の金型全体を洗浄槽内の電解洗浄液中に浸漬させることができる。
【0012】
本発明の金型洗浄装置では、金型保持材により大型の金型を垂直あるいは傾斜させて配置し、その一側方に電極を配置し、金型と電極との間に上下方向の空間をあけているため、電極表面および金型表面から上向きに発生するガスにより金型と電極と対向間にガスが溜まることが抑制できる。その結果、電極と金型の間への電解洗浄液の流入が阻害されず、電極と金型間の洗浄液の量が希薄になることもなく、電極と金型との間に電解洗浄液を介して電流が十分に流れ、金型表面に付着する樹脂カス等を電解洗浄で除去することができる。かつ、電極と金型間の液抵抗も高くならず、電極および電極間の洗浄液に高熱が発生することが抑制でき、金型のガス焼け発生も防止できる。
さらに、前記電極対向側と反対側の金型の背面側の洗浄槽側壁の外部に超音波発生装置を設置していることで、超音波振動を垂直あるいは傾斜配置している金型に効率的に付与できる。その結果、電解洗浄と超音波洗浄との両方式を併用して金型の洗浄作用を高めることができ、微小な凹部にこびりついた樹脂カスまでも金型表面から剥離除去することができる。
さらにまた、金型の上方に電極を吊り下げるのではなく、対向する側方に配置するため、電極が溶けて、その構成材が落下して金型表面に付着することも防止できる。
【0013】
前記電極は、前記金型保持材に保持された金型の他面側に上方より吊り下げられて電解液中に浸漬され、前記金型の大面積の側面の下部から上部にかけて上下長さ方向に対向して配置する板状電極、あるいは、上下間隔をあけて配置する複数の電極からなり、これら電極は前記給電手段の電源プラス側に接続している。
なお、前記電極に印加する直流電圧を2〜50Vの範囲で、下限は5V以上が好ましく、特に10V以上が好ましい。さらに上限は、好ましくは25V以下、より好ましくは20V以下である。
【0014】
即ち、電極は大面積となる金型の垂直面或いは傾斜面に対向させるために、上下方向に配置しており、該電極の配置方法は金型の対向面と略平行とすることが好ましい。よって、金型を垂直配置すると電極も垂直配置し、金型を傾斜配置すると同一間隔をあけて傾斜配置することが好ましい。
電極を板状とすると、上下に細長い板状の複数の電極板を金型の幅方向に並設して連結し、言わば簀の子板状とすることが好ましいが、一枚の大面積の平板状とすることも可能である。
【0015】
前記板状とした電極が、電解洗浄液中に直接浸漬した場合に少しでも溶ける可能性があれば、溶けた金属イオンが電解洗浄液中に流失しないようにイオン交換膜あるいは多孔質中性隔膜からなる被覆膜で覆い、該被覆膜内部に前記電解洗浄液あるいは苛性ソーダ等のアルカリ性液を充填している事が好ましい。なお、電解洗浄液中にキレート剤を含有させている場合にはキレート剤を除いた電解洗浄液を用いることが好ましいが、キレート剤を含有させてもよい。
前記イオン交換膜で覆った電極は、電解洗浄液が充填される前記洗浄槽内に常時浸漬させている。
【0016】
また、前記電極を上下方向の板状とせずに、対向する金型の上下両端間にかけて、所要ピッチで配置する複数の電極を用いる場合には、垂直或いは傾斜配置する給電棒の主軸から上下方向に間隔をあけて前記金型側へと突出させた複数の分岐軸の先端に夫々取り付けられる円盤型或いは非円盤型としている。
このように電極を小さい単体として、金型対向面に多数配置する場合は、前記イオン交換膜や多孔質中性隔膜で被覆しにくいため、電解洗浄液中に溶けにくい材質から電極を形成することが好ましい。具体的には、鉄製の電極とする場合には前記被覆膜で被覆せずに電解液中に直接浸漬させている。
前記鉄製の電極とする場合、洗浄液中より取り出して放置すると、錆等の腐食が発生しやすいため、洗浄槽と隔壁を隔てて水酸化ナトリウムを主成分とする防錆目的のアルカリ性液を充填した電極保管槽を設け、該電極保管槽内に前記鉄製電極を非洗浄時に浸漬して保管することが好ましい。
【0017】
なお、前記電極は、鉄、ニッケル、金、銀、パナジウム、ロジウム、チタン、鉛、プラチナ、ジルコニウム、ニオブ、ゲルマニウム、テクネチウム、イリジウム、テルル、ハフニウム、タンタル、タングステン、グラファイト、ルテニウムの単体あるいは合金から選択されるもので形成することが好ましい。
【0018】
前記垂直あるいは傾斜保持される金型の背面側の洗浄槽の側壁外部に設置する超音波発生装置は、超音波振動子を2種類以上の周波数に切り替えて超音波を発生させることが好ましい。このように、超音波振動を一定の周波数とせずに、異なる周波数、例えば34KHzと44KHzとに切り替えて交互の超音波振動を発生させると、電解洗浄液に適宜な撹拌作用を発生させることができ、洗浄力を高めることができる。超音波に変えて、30KHz〜100KHzの単波を用いてもよい。
洗浄する金型がフラットパネルディスプレイの導光板成形用金型等の超精密な凹凸を有する金型の場合、超音波の周波数は30KHz〜100KHz、好ましくは40〜70KHzの範囲が好適である。
【0019】
本発明の金型洗浄装置では、金型の電解洗浄後に洗浄槽内から電解洗浄液を排出する手段と、前記洗浄槽内の洗浄後の金型の水洗用として水洗水を給排する手段と、前記洗浄槽内の水洗後の金型の乾燥用として清浄空気、真空あるいは不活性ガスからなる気体を給排する手段とを設け、洗浄、水洗、乾燥を連続して行える構成としてもよい。
このように一槽式の金型洗浄装置とし、1つの洗浄槽内で電解洗浄による本洗浄、水洗、乾燥を順次連続的に行える構成とすると、該洗浄槽から大型の金型を別の槽に移送する必要はなく、移送中に金型表面の水滴に空気中の塵埃が付着してウオターマークとなる恐れがない。また、移送過程で金型に傷等が生じることを確実に防止でき、よって、特に微細な凹凸がある導光板用金型等の光学部材用金型の洗浄には適したものとなる。また、1つの槽内で本洗浄、水洗、乾燥を行うと、洗浄時間の短縮が図れると共に洗浄装置の設置スペースを大きくとらない。
さらに、洗浄槽の上面開口を密閉する蓋を着脱自在に取り付けてもよい。洗浄槽の上面開口を蓋で覆った状態で洗浄を行う密閉式とすると、洗浄時に空気中の塵埃が微細な金型表面に付着するのを防止でき、かつ、蓋で密閉していることから作業員の安全性を高めることができる。
前記電解洗浄時、水洗時および乾燥時のいずれも洗浄液、水洗水、乾燥用ガスを常温以上100℃以下として洗浄能力、乾燥能力を高めることが好ましいため、蓋で密閉することで温度制御ができ、洗浄、水洗、乾燥を行うことができる。
【0020】
さらに、洗浄槽内の投入する電解洗浄液の給排管には循環用ポンプを介設すると共に、前記水洗水、乾燥気体供給用の配管にも開閉弁を介設し、前記循環用ポンプ、開閉弁、さらに、電極と保持手段への給電、さらに前記超音波発生手段の動作を自動制御するコントローラを付設していることが好ましい。
【0021】
前記洗浄槽に供給される電解洗浄液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムから選択された1以上を含む強アルカリ成分と、EDTA4ナトリウム塩からなるキレート剤と、グルコン酸ナトリウムを含むことが好ましい。
さらに、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤から選択される1以上の界面活性剤を含めると、さらに洗浄力を高めることができると共に、金型から除去した樹脂カス等の金型への再付着や、ミストの発生を抑制する機能を有する。
【0022】
具体的には、電解洗浄液は強アルカリ成分を30〜100g/リットル、前記EDTA4ナトリウム塩を30〜100g/リットル、グルコン酸ナトリウムを10〜60g/リットル配合することが好ましい。
また、前記ノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤から選択される1以上の界面活性剤も配合する場合は、1〜3cc/リットル配合していることが好ましい。
前記配合量は、本発明者が実験を繰り返して知見したものである。
【0023】
また、前記電解洗浄液は加熱手段を付設して、30℃〜60℃に加熱することが、洗浄能力を高めることができる点から好ましい。
さらに、電解洗浄液には水を配合しているが、該水としては、水道水を精製手段を通して不純物を除去した水を配合していることが好ましい。
前記精製手段として、蒸留、イオン交換あるいは/および濾過法を採用した精製手段を用いられる。
【0024】
さらに、本発明の洗浄装置においては、電解洗浄中に発生する金属イオンの回収機構を付設してもよい。例えば、洗浄槽からオーバーフローする電解洗浄液の回収槽を付設し、該回収槽にオーバーフロー液中の金属イオン吸着用の電極板を配置し、あるいは、洗浄槽内または電解洗浄液用タンク内に、電解洗浄液中の金属イオンを吸着する電極板を配置してもよい。
【発明の効果】
【0025】
前述したように、本発明に係わる金型洗浄装置は、特に、大型のフラットな金型の洗浄に適した構成としており、金型保持材で金型を垂直あるいは傾斜させて洗浄槽中の電解洗浄液中に浸漬し、該金型の上方ではなく、金型の側方に所要の間隔をあけて対向させて電極も垂直あるいは傾斜させて配置しているため、電極表面および金型表面から通電時に発生するガスが上向くことで電極と金型間にガスが溜まることが防止できる。このように、電極と金型間にガスを溜めないことにより、その間の電解洗浄液の抵抗を増大させず通電性能を確保できることで、大型金型の洗浄作用を高めることができる。
また、フラットディスプレイの導光板のように微細な凹凸があり、その凹部に樹脂カスがこびりついている場合においても、電解洗浄と、金型の背面から負荷される超音波振動による超音波洗浄とを組み合わせていることで、前記樹脂カスも確実に除去でき洗浄能力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の金型洗浄装置を図面を参照して詳述する。
図1乃至図4に示す実施形態の金型洗浄装置は、フラットディスプレイの導光板成形用の金型等からなるフラットな大型金型を電解洗浄と超音波洗浄とを併用して洗浄するものとしている。
【0027】
金型洗浄装置1は図1に示すように、上面開口のボックス形状の洗浄槽2を備え、該洗浄槽2の底壁2aは傾斜させて、基台(図示せず)に固定する一方、前記上面開口を囲む側壁2bの上端面2cは水平としている。
洗浄槽2の一側壁には超音波発生装置4を収容する収容槽3を付設すると共に他側壁にはオーバフロー槽5を付設している。
【0028】
前記洗浄槽2内には、金型10を傾斜姿勢で保持する金型保持材6を配置している。該金型保持材6は導電性を有する金属製とし、金型10の底面10aを載置する底面部6aと、金型10の背面(一側面)10bを背もたれさせるように支持する側面部6bを有するL形状としている。さらに、図3に示すように、底面部6aと側面部6bの両側に支持枠6cを設けて安定支持する形状と、かつ、該支持枠6cの上端に給電用突片6dを設けている。
【0029】
前記金型保持材6は、その底面部6aが洗浄槽2の傾斜した底壁2aに設置することで金型保持材6自体も傾斜した状態となり、該金型保持材6の傾斜状態となる側面部6bを傾斜させた洗浄槽2の側壁2b−1の内面側に当接させて洗浄槽2内に配置している。
よって、金型保持材6に金型10を保持した状態で洗浄槽2内に配置すると、金型10は洗浄槽2内において側壁2b−1に沿って配置された状態となる。かつ、傾斜状態で保持された金型10の上端面10cは洗浄槽2中に収容され、洗浄槽2より上方に突出しない寸法に洗浄槽2の深さを設定している。
【0030】
また、図1において、金型保持材6の幅は図2に示すように洗浄槽2の幅方向の内面に沿った大きさとし、洗浄槽2中に金型保持材6を配置した状態で、金型保持材6の側面部6cの両側面が洗浄槽2の両側壁の上端面3に固定したマイナス側の給電用金属板8上に前記給電用突片6dが載置され、金型保持材6へ通電がなされ、該金型保持材6の側面部6bおよび底面部6aに接触する金型10への通電がなされるようにしている。
【0031】
さらに、前記金型保持材6を洗浄中には洗浄槽2内に下降する一方、図1中に点線で示すように、洗浄後には洗浄槽2から上昇させて洗浄槽2から取り出すようにしている。
即ち、前記超音波発生装置の収容槽3の上端面からワイヤ巻上機11の支持枠12を立設し、ワイヤ巻上機11に取り付けたワイヤ13を金型保持材6の上端部に連結している。
なお、洗浄後には洗浄槽2から電解洗浄液を全て排出する場合には、前記金型保持材6を洗浄槽中に常時配置しておいてもよく、その場合には前記金型保持材の昇降装置を付設する必要はない。
【0032】
洗浄槽2内には、前記金型保持材6および金型10の配置側と対向する側方に電極ユニット20を配置している。該電極ユニット20は複数の長さを相違させた給電棒21の下端に鉄製の板状電極22を連結して板状電極22を前記傾斜保持された金型10と平行となるように傾斜支持している。板状電極22は図4に示すように、複数枚の上下方向の板状電極22を複数枚並列させて連結材22aで連結した簀の子状とし、これら複数枚の板状電極22により対向する金型10の全面をカバーできるようにしている。
【0033】
該給電棒21と前記板状電極22とは、ユニットの上部枠23内に収容し、該上部枠23にイオン交換膜24の上端を連結し、該イオン交換膜24で板状電極22および給電棒21を囲んでいる。このイオン交換膜24の内部には苛性ソーダを主成分とするアルカリ溶液Qを充填した構成とし、イオン交換膜付き電極としている。
【0034】
前記複数の給電棒21の上端は連結棒25で連結すると共に前記上部枠23の上端とも連結し、このように一体化した電極ユニット20をガイドレール材26にスライド自在に搭載し、金型10側へ近接離反できる構成としている。前記連結棒25はプラス側の給電部と接続している。
詳細には、上部枠23にガイドレール26にスライド自在に搭載する移動部を設ける一方、前記ガイドレール26は洗浄槽2の側壁2b−2の上端面2cより突設した支持枠27と直交方向の洗浄槽2の側壁上端面より突設した支持枠28の間に下方傾斜させて設置している。
【0035】
前記電極ユニット20は、洗浄中には図1に示す金型への近接位置に配置し、金型10と電極ユニット20との間の距離Lが30mmとなるように設定している。この位置に保持すると、洗浄後において金型10を取り出すと電極ユニット20と干渉するため、金型10および金型保持材6を上方へ取り出す時に電極ユニット20を離反する方向へとスライドさせている。同様に、金型10を洗浄槽2中に挿入する場合も電極ユニット20を離反させる方向へ移動させている。
電極ユニット20のスライドは作業員が手動で行うようにしているが、電極ユニットにワイヤ等を取り付け、該ワイヤを電動駆動させる構成としてもよい。
【0036】
前記収容槽3に設置する超音波発生装置4も前記傾斜保持する金型10と平行となるように縦型に傾斜配置していると共に、大型の金型10の背面側の全域と対向するように設置している。よって、電解洗浄時において、金型10の背面側の全体に接する洗浄液に超音波振動を発生させるようにしている。
【0037】
前記洗浄槽2の底壁には電解洗浄液の給液口30、排液口31を設け、給液口30より洗浄槽2中に電解洗浄液を供給し、洗浄後に排液口31より排出している。また、超音波発生装置4を収容した収容槽3の底壁にも給液口33、排液口34を設け、温水を収容槽3内に供給している。さらに、オーバーフロー槽5は洗浄槽2からオーバーフローした電解洗浄液を収容する槽であり、底壁に排出口35を設けている。
【0038】
前記電解洗浄液の給排管路にポンプ、開閉弁、流路切替弁、フィルター等を介設して自動制御すると共に、超音波発生装置4の振動子も自動制御するコントローラを付設し、該コントローラに設けた操作スイッチで作動を行うようにしている。
【0039】
洗浄槽2に供給する電解洗浄液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムから選択された1以上を含む強アルカリ成分と、EDTA4ナトリウム塩からなるキレート剤と、グルコン酸ナトリウムと、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤から選択される1以上の界面活性剤を、水道水を精製手段で精製した純水に配合している。
そのさい、配合量は、強アルカリ成分を30〜100g/リットル、EDTA4ナトリウム塩を30〜100g/リットル、グルコン酸ナトリウムを10〜60g/リットル、前記ノニオン系、カチオン系、アニオン系の界面活性剤から選択される1以上の界面活性剤を1〜3cc/リットルとし、残りを純水として、配合している。
電解洗浄液は30〜60℃に加熱して洗浄槽2内に供給している。
【0040】
次ぎに、前記金型洗浄装置1における大型且つフラットな金型10の洗浄作用を説明する。
まず、金型保持材6を洗浄槽2から上方に取り出した位置で金型10を金型保持材6に載置する。この状態で金型保持材6を下降して洗浄槽2中に挿入し、その底面部6aを洗浄槽2の底壁に載置すると共に側面部6bを洗浄槽2の側壁2bにもたせ掛ける。この金型10を保持した金型保持材6の洗浄槽2への挿入作業時、電極ユニット20は図1中で左側の離反位置に離しておく。
金型10が所定位置に傾斜状態でセットした後に、電極ユニット20を図1中で右側へと移動させて、ガイドレールの最下端で停止させる。この位置で電極ユニット20と金型10との距離は30mmである。
【0041】
洗浄槽2内には金型保持材6で金型10を保持した状態で挿入する前に電解洗浄液を供給しておいてもよいし、金型10を洗浄槽2中に挿入してから電解洗浄液を供給してもよい。このように、洗浄槽2中の電解洗浄液に金型10を浸漬した状態で、電解洗浄と超音波洗浄を開始する。
即ち、電極ユニット20内の給電棒21を介して板状電極22をプラス側電源に接続すると共に金型保持材6を介して金型10をマイナス側電源に接続し、電解洗浄液を介して板状電極22と金型10とを通電し、電解洗浄を行う。
同時に、超音波発生装置4を駆動し、振動子を作動して電解洗浄液に超音波振動を発生させる。電解方式と超音波方式の洗浄方法を併用しているため、超音波方式の洗浄で金型10の外部より樹脂カス等の付着物に振動を与えて付着物を破壊すると共に、電解洗浄で金型10表面より発生する水素ガスにより金型10から付着物を浮き上がらせ、付着物を金型10より剥離して除去する。かつ、其の際、洗浄液を所要加熱しているため、強い洗浄力を発揮させることができる。
【0042】
また、電極ユニット20では、鉄製の板状電極22をイオン交換膜24で電解洗浄液と隔離しているため、鉄製の板状電極22の鉄イオンがイオン交換膜24内のアルカリ性液Q内に溶け出すだけで、電解洗浄液中まで流出せず、よって、鉄イオンが金型10の表面に付着せず、金型10に悪影響を与えることを防止できる。また、鉄製の板状電極から剥離が生じて異物として落下しても、イオン交換膜24内に保持されるため、電解洗浄液中に流出して金型10に付着することも防止できる。
【0043】
前記洗浄が終了すると、電極ユニット20を図1中で左側へと移動して、金型保持材6を金型10と共に上昇させ、洗浄槽2より取り出す。その後、図示していない水洗乾燥槽へと移動させている。
電極ユニット20は板状電極22をイオン交換膜24で覆い、該イオン交換膜24内にアルカリ性液を充填しているため、洗浄槽2内の電解洗浄液は排出せず、該電解洗浄液中に電極ユニット20を浸漬したままとして、次ぎに洗浄まで待機させている。
【0044】
図5は第2実施形態を示す。
第2実施形態では、電極ユニット20’をイオン交換膜つきとせず、かつ、板状電極を用いる代わりに、円盤状電極22’を用いており、かつ、オーバーフロー槽5の外方に非洗浄時における電極ユニット22の電極保管槽50を設けている。
【0045】
第2実施形態の電極ユニット20’は、前記したように、電極を上下方向の板状とせずに、対向する金型10の上下両端間にかけて、所要ピッチで配置する鉄製の複数の円盤電極22’を用いている。該円盤電極22’は垂直或いは傾斜配置する給電棒21の主軸から上下方向に間隔をあけて金型10側へと突出させた複数の分岐軸21aの先端に夫々取り付けている。
【0046】
前記電極22’は鉄製であるため、洗浄液中より取り出して放置すると、錆等の腐食が発生しやすい。そのため、オーバーフロー槽5と隔壁を隔てた電極保管槽50を設け、該電極保管槽50内にて水酸化ナトリウムを主成分とする防錆目的のアルカリ性液Q2を充填しておき、該電極保管槽50内に電極ユニット20’を非洗浄時に浸漬して保管している。
前記第1実施形態では、電極ユニット20はイオン交換膜24内に液を充填しているため、液中でしか移動できないため、スライド手段を付設しているが、第2実施形態の電極ユニット20’は洗浄槽2内より取り出して電極保管槽50に移し替えることができるために、第1実施形態のスライド手段を付設していない。
他の構成は第1実施形態と同一であり、作用も第1実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係わる金型洗浄装置は、実施形態に記載の合成樹脂用金型に限定されず、ゴム成形用、ガラス成形用等の大型でフラットな金型の洗浄にも好適に用いることができる。
また、フラットディスプレイの導光板等の精密成形品を成形するためのニッケル金型の洗浄に用いた場合において、高精度の洗浄能力を発揮できるものである。よって、高度化する精密品、例えば、CD−ROM、DVD−ROM、スパーマルチドライブRAM、HDDVDピックアップレンズ、ブルーレイディスクピックアップレンズ、液状デイスプレイホログラム・プリズム、デジタルカメラ、液状ホログラム・プリズム、携帯電話CCDカメラレンズ、各種導光板等において比較的大型でかつフラットな成形品用の金型の洗浄に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の金型洗浄装置の第1実施形態の断面図である。
【図2】図1の装置の概略平面図である。
【図3】図1の金型保持材の概略斜視図である。
【図4】(A)は図1の電極ユニット20の一部垂直断面図、(B)は(A)の断面図である。
【図5】本発明の金型洗浄装置の第2実施形態の断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 金型洗浄装置
2 洗浄槽
3 超音波発生装置の収容槽
4 超音波発生装置
5 オーバーフロー槽
6 金型保持材
6a 底面部
6b 側面部
10 金型
20、20’ 電極ユニット
21 給電棒
22 板状電極
22’円盤電極
24 イオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解洗浄液が供給される金型洗浄用の洗浄槽と、
フラットで大面積の金型を垂直状態あるいは傾斜状態で保持して、前記洗浄槽内に載置する金型保持材と、
前記金型保持材に保持された前記金型の側方に対向させて、前記洗浄槽内に浸漬する電解洗浄用の電極と、
前記金型保持材を介して前記金型を接触させ、前記電極と電解洗浄液および金型を介して通電させて電解洗浄を行わせる給電手段と、
前記金型保持材の背面側に位置する前記洗浄槽の側壁外部に設置し、前記電解洗浄液に超音波振動を発生させる超音波発生装置を備え、
前記垂直あるいは傾斜保持された金型を電解洗浄及び超音波洗浄することを特徴とする金型洗浄装置。
【請求項2】
前記金型保持材は、厚さに対して垂直方向の片面の表面積が3倍以上の大型フラットな金型を保持するものとし、前記給電手段の電源マイナス側に少なくとも金型接触面を接続している請求項1に記載の金型洗浄装置。
【請求項3】
前記金型保持材は、前記金型の底面を載置する底面部と、金型の一側面を支持する側面部を有するL形状で、前記金型を傾斜状態で保持する場合には該金型保持材が洗浄槽内に傾斜支持されている請求項1または請求項2に記載の金型洗浄装置。
【請求項4】
前記電極は、前記金型保持材に保持された金型の他面側に上方より吊り下げられて電解洗浄液中に浸漬され、前記金型の大面積の側面の下部から上部にかけて上下長さ方向に対向して配置する板状電極、あるいは、上下間隔をあけて配置する複数の電極からなり、これら電極は前記給電手段の電源プラス側に接続している請求項2または請求項3に記載の金型洗浄装置。
【請求項5】
前記電極はイオン交換膜あるいは多孔質中性隔膜からなる被覆膜で覆っていると共に、該被覆膜内部に前記電解洗浄液あるいはアルカリ性液を充填している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の金型洗浄装置。
【請求項6】
前記イオン交換膜で覆った電極は、電解洗浄液が充填される前記洗浄槽内に常時浸漬させている請求項5に記載の金型洗浄装置。
【請求項7】
前記電極は、給電棒の主軸から上下方向に間隔をあけて前記金型側へと突出させた複数の分岐軸の先端に夫々取り付けられる円盤型或いは非円盤型としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の金型洗浄装置。
【請求項8】
前記電極は、鉄、ニッケル、金、銀、バナジウム、ロジウム、チタン、鉛、プラチナ、ジルコニウム、ニオブ、ゲルマニウム、テクネチウム、イリジウム、テルル、ハフニウム、タンタル、タングステン、グラファイト、ルテニウムの単体あるいは合金から選択されるものからなる請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の金型洗浄装置。
【請求項9】
前記洗浄槽と隔壁を隔ててアルカリ性液を充填した電極保管槽を設け、該電極保管槽内に鉄製の前記電極を非洗浄時に保管する構成としている請求項1〜4、7、8のいずれか1項に記載の金型洗浄装置。
【請求項10】
前記洗浄される金型は、フラットパネルディスプレイの導光板の射出成型用金型である請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の金型洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−216431(P2007−216431A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37227(P2006−37227)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(593047415)ソマックス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】