説明

金属−セラミックス接合基板およびその製造方法

【課題】放熱性が高く且つ反りおよびそのばらつきが小さい金属−セラミックス接合基板、およびその金属−セラミックス接合基板を低コストで製造することができる、金属−セラミックス接合基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板12の一方の面に金属板14が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板10が直接接合した金属−セラミックス接合基板において、金属ベース板10より強度が高い金属からなる強化部材16が金属ベース板10の内部を貫通して延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関し、特に、セラミックス基板の一方の面に電子部品搭載用の金属板(金属回路板)が形成され、他方の面に放熱用の金属ベース板が形成された金属−セラミックス接合基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するために、パワーモジュールが使用されている。従来のパワーモジュールでは、ベース板と呼ばれている金属板または複合材の一方の面に金属−セラミックス絶縁基板が半田付けなどにより固定され、この金属−セラミックス接合基板の金属回路板上に半導体チップが半田付けにより固定されている。また、ベース板の他方の面(裏面)には、ねじ止めなどにより熱伝導グリースを介して金属製の放熱フィンや冷却ジャケットが取り付けられている。
【0003】
このような金属−セラミックス接合基板は、一般に、セラミックス基板の両面に異なる厚さの金属板(金属回路板とベース板)が接合されるため、接合後に大きな反りが生じ易い。また、金属−セラミックス接合基板への半導体チップの半田付けは加熱により行われるため、半田付けの際に、接合部材間の熱膨張係数の差によって金属回路板およびベース板の反りが生じ易い。さらに、半導体チップから発生した熱は、金属−セラミックス接合基板と半田とベース板を介して放熱フィンや冷却ジャケットにより空気や冷却水に逃がされるため、半田付けの際にベース板の反りが生じると、放熱フィンや冷却ジャケットをベース板に取り付けたときのクリアランスが大きくなり、放熱性が極端に低下する。また、実質的に反りのない金属−セラミックス接合基板が得られたとしても、熱衝撃が繰り返されると反りが大きくなる。
【0004】
このような問題を解決するため、Al板またはAl合金板を介して複数の窒化アルミニウム基板が接合された多層構造体の一方の面にAlまたはAl合金の回路が形成され、他方の面に放熱板が形成された回路基板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この回路基板は、接合材(ろう材)を用いて複数の窒化アルミニウム基板とAl板またはAl合金板を接合して多層構造体を製造するとともに、この多層構造体に接合材(ろう材)を用いてAlまたはAl合金の回路および放熱板を接合することによって製造されている。
【0005】
また、第1のセラミックス板の一方の面に回路板が接合され、他方の面に熱拡散板、第2のセラミックス板および放熱板が接合された積層体により形成され、回路板、熱拡散板および放熱板がCu、Cu合金、AlまたはAl合金からなり、熱拡散板と放熱板で第2のセラミックス板を完全に覆うように、熱拡散板の端部と放熱板の端部を一体化した絶縁回路基板が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この絶縁回路基板は、金型内に第1および第2のセラミックス板をセットして、回路板、熱拡散板および放熱板となる溶融Alまたは溶融Al合金を金型内に高圧で注入した後に、冷却して固体化することによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−7465号公報(段落番号0008−0009)
【特許文献2】特開2003−86747号公報(段落番号0015−0031)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の回路基板では、セラミックス基板として高い熱伝導度(170W/mK)の窒化アルミニウム基板を使用しているが、CuやAlまたはそれらの合金などからなる放熱板(金属ベース板)よりも熱伝導度が低いため、窒化アルミニウム基板により放熱性が妨げられる。仮に、金属ベース板と同等以上の熱伝導率を有するセラミックス基板を使用することができたとしても、そのようなセラミックス基板は非常に高価であり、工業的に量産するのは困難である。また、複数の窒化アルミニウム基板とAl板またはAl合金板を接合して多層構造体を製造するとともに、この多層構造体にAlまたはAl合金の回路および放熱板を接合するために、接合材(ろう材)を用いて極めて高い圧力を加える必要があり、多層構造体を製造するための積層工程を必要とし、製造コストが高くなる。
【0008】
また、特許文献2の絶縁回路基板では、熱拡散板と放熱板で覆われた第2のセラミックス板の熱伝導度が熱拡散板および放熱板よりも低いため、特許文献1の回路基板と同様に、セラミックス板により放熱性が妨げられる。また、特許文献2の絶縁回路基板を製造する場合、金型内にセラミックス板を所定の位置に保持したまま、溶融Alまたは溶融Al合金を金型内に高圧で注入することが困難であり、適正な位置にセラミックス板を接合することができない場合があり、熱拡散板と放熱板で第2のセラミックス板を完全に覆って精度良く位置決めするのは困難である。そのため、絶縁回路基板の反りを制御し難く、反りのばらつきにより信頼性が低下するおそれがある。
【0009】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、放熱性が高く且つ反りおよびそのばらつきが小さい金属−セラミックス接合基板、およびその金属−セラミックス接合基板を低コストで製造することができる、金属−セラミックス接合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、セラミックス基板の一方の面に金属板が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板が直接接合した金属−セラミックス接合基板において、金属ベース板より強度が高い金属からなる強化部材が金属ベース板の内部を貫通して延びるようにすることにより、放熱性が高く且つ反りおよびそのばらつきが小さい金属−セラミックス接合基板を低コストで製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明による金属−セラミックス接合基板は、セラミックス基板の一方の面に金属板が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板が直接接合した金属−セラミックス接合基板において、金属ベース板より強度が高い金属からなる強化部材が金属ベース板の内部を貫通して延びていることを特徴とする。
【0012】
この金属−セラミックス接合基板において、強化部材が、金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行に延びているのが好ましく、金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面の面積より小さい面積の主平面を有する板状部材であるのが好ましい。また、強化部材が、金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面上に配置され且つ互いに離間して略平行に延びる複数の板状部材または棒状部材でもよい。あるいは、強化部材が、金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面上に配置され且つ互いに離間して金属ベース板の長手方向に延びる複数の長手方向板状部と互いに離間して金属ベース板の幅方向に延びて長手方向板状部を連結する複数の幅方向板状部とからなる格子状の板状部材でもよい。
【0013】
また、上記の金属−セラミックス接合基板において、強化部材の金属ベース板の内部を貫通して延びる部分の全面が金属ベース板に直接接合しているのが好ましい。また、強化部材の端面が外部に露出し、その端面以外の全面が金属ベース板に直接接合しているのが好ましい。また、金属ベース板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるのが好ましく、金属板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるのが好ましい。さらに、強化部材が、ニッケル、コバルト、銅およびマンガンからなる群から選ばれる1種以上と鉄を含有する金属からなるのが好ましく、セラミックス基板が、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群から選ばれる1種以上からなるのが好ましい。
【0014】
また、本発明による金属−セラミックス接合基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に金属板が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板が直接接合した金属−セラミックス接合基板の製造方法において、金属ベース板より融点および強度が高い金属からなる強化部材と、セラミックス基板とを鋳型内に離間して配置させるように、セラミックス基板の端部と強化部材の端部を鋳型に支持させ、鋳型内のセラミックス基板の両面に接触するとともに強化部材の端部を除く全面に接触するように溶湯を注湯した後に冷却して固化させることにより、金属板を形成してセラミックス基板の一方の面に直接接合させ、金属ベース板を形成してセラミックス基板の他方の面に直接接合させるとともに、強化部材の端部を金属ベース板から突出させてその端部を除く強化部材の全面を金属ベース板に直接接合させることを特徴とする。
【0015】
この金属−セラミックス接合基板の製造方法において、金属ベース板から突出した強化部材の端部を除去するのが好ましい。また、鋳型が上側鋳型部材と下側鋳型部材とからなり、強化部材の端部が上側鋳型部材と下側鋳型部材に挟持されることによって鋳型に支持されるのが好ましい。また、強化部材が、ニッケル、コバルト、銅およびマンガンからなる群から選ばれる1種以上と鉄を含有する金属からなるのが好ましい。さらに、金属板および金属ベース板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放熱性が高く且つ反りおよびそのばらつきが小さい金属−セラミックス接合基板、およびその金属−セラミックス接合基板を低コストで製造することができる、金属−セラミックス接合基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態を示す斜視図である。
【図1B】図1Aの金属−セラミックス接合基板の平面図である。
【図1C】図1Bの右側から見た金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図1D】図1Bの下側から見た金属−セラミックス接合基板の側面図である。
【図2A】図1A〜図1Dに示す金属−セラミックス接合基板を製造するために使用する鋳型の断面図である。
【図2B】図2Aの鋳型の下側鋳型部材の斜視図である。
【図2C】図2Aの鋳型の下側鋳型部材の平面図である。
【図2D】図2Aの鋳型の上側鋳型部材の底面図である。
【図3】図1A〜図1Dに示す金属−セラミックス接合基板の強化部材の第1の変形例を示す平面図である。
【図4】図1A〜図1Dに示す金属−セラミックス接合基板の強化部材の第2の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明による金属−セラミックス接合基板およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0019】
図1A〜図1Dに示すように、本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態は、平面形状が略矩形の金属からなる金属ベース板10と、この金属ベース板10に一方の面が直接接合した平面形状が略矩形のセラミックス基板12と、このセラミックス基板12の他方の面に直接接合した平面形状が略矩形の金属からなる回路パターン用の金属板14とを備えている。
【0020】
また、図1A、図1Cおよび図1Dに示すように、金属ベース板10の内部には、複数の板状または棒状(本実施の形態では平面形状および横断面形状が略矩形の3つの細長い板状)の金属からなる強化部材16が、金属ベース板10の長手方向の両端面の一方の端面から他方の端面まで金属ベース板10の内部を貫通して長手方向に延びている。これらの強化部材16の長手方向の両端面は外部に露出し、その両端面以外の全面(強化部材16の金属ベース板10の内部を貫通して延びる部分の全面)が金属ベース板10に直接接合している。このように金属ベース板10の長手方向の両端面の一方の端面から他方の端面まで金属ベース板10の内部を貫通して長手方向に延びる強化部材16により、金属−セラミックス接合基板の反りおよびそのばらつき、特に長手方向の反りおよびそのばらつきを小さくすることができる。
【0021】
また、これらの強化部材16は、金属ベース板10のセラミックス基板12との接合面と略平行な(仮想)平面上に配置され、互いに離間して略平行に延びている(本実施の形態では、中央の強化部材16の両側に等間隔で2つの強化部材16が配置されている)。このように強化部材16間に間隙を設け、この間隙が金属板14上に搭載するパワー素子などの電子部品の真下に配置されるようにすれば、パワー素子などの電子部品によって発生した熱が下方の絶縁性のセラミックス基板12および金属ベース板10を伝導して放熱される際に、金属ベース板10の底面(金属ベース板10のセラミックス基板12との接合面と反対側の面)への熱伝導が阻害されず、放熱性の優れた金属−セラミックス接合基板にすることができる。
【0022】
なお、金属ベース板10および金属板14は、電気伝導性、熱伝導率およびセラミックス基板との接合の信頼性の観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるのが好ましい。また、セラミックス基板12は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素および炭化珪素の1種以上からなるのが好ましい。また、強化部材16は、金属ベース板10より融点および強度が高い金属からなるのが好ましく、安価で高強度の鋼または鉄含有金属からなるのがさらに好ましく、鉄含有金属がニッケル、コバルト、銅およびマンガンからなる群から選ばれる1種以上と鉄を含有する金属からなるのが好ましい。特に、金属とセラミックスとの熱膨張係数の相違により接合時に発生した熱応力や、金属−セラミックス接合基板にパワー素子などの電子部品を搭載する熱処理時や使用時などにおいて発生した熱応力によって、金属−セラミックス接合基板が大きく反り易く、この反りを抑制するために、強化部材16が低熱膨張係数の42Alloy(鉄にニッケルを配合した合金)、インバー(鉄とニッケルの合金、不変鋼)、コバール(鉄にニッケルとコバルトなどを配合した合金)、高強度のSPCC(普通鋼)などからなるのが好ましい。また、強化部材16の厚さは0.5〜2.0mmであるのが好ましい。また、強化部材16は、金属ベース板10との反応を抑制するために、Niめっきなどによって被覆されているのが好ましい。
【0023】
図1A〜図1Dに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板は、図2A〜図2Dに示す鋳型20内にセラミックス基板12と強化部材16とを離間して配置させるように、セラミックス基板12の周縁部と強化部材16の長手方向の両端部を鋳型に支持させ、鋳型20内のセラミックス基板12の両面に接触するとともに強化部材16の長手方向の両端部を除く全面に接触するように溶湯を流し込んで冷却することによって製造することができる。
【0024】
図2Aに示すように、鋳型20は、カーボンなどからなり、それぞれ平面形状が略矩形の下側鋳型部材22と上側鋳型部材24とから構成されている。
【0025】
図2A〜図2Cに示すように、下側鋳型部材22の上面には、金属ベース板10のセラミックス基板12側の部分(本実施の形態では略半分)を形成するための凹部(金属ベース板形成部)22aが形成され、この凹部22aの底面には、セラミックス基板12と略同一の形状および大きさでセラミックス基板12を収容するための凹部(セラミックス基板収容部)22bが形成され、この凹部22bの底面には、回路パターン用の金属板14を形成するための凹部(金属板形成部)22cが形成されている。また、金属ベース板形成部22aの長手方向の両側面の上側には、各々の強化部材16の長手方向の両端部のセラミックス基板12側の部分(本実施の形態では略半分)と略同一の形状および大きさでその部分を収容するための凹部(強化部材支持部)22dが互いに離間して形成されている。
【0026】
また、図2Aおよび図2Dに示すように、上側鋳型部材24の下面(裏面)には、金属ベース板10のセラミックス基板12と反対側の部分(本実施の形態では略半分)を形成するための凹部(金属ベース板形成部)24aが形成されている。この金属ベース板形成部24aと下側鋳型部材22の金属ベース板形成部22aによって画定された空間内に金属ベース板10が形成されるようになっている。また、この凹部24aの長手方向の両側面の上側(図2Aでは下側)には、各々の強化部材16の長手方向の両端部のセラミックス基板12と反対側の部分(本実施の形態では略半分)と略同一の形状および大きさでその部分を収容するための凹部(強化部材支持部)24dが互いに離間して形成されており、下側鋳型部材22の強化部材支持部22dに強化部材16を収容した後に上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せると、強化部材16が下側鋳型部材22の強化部材支持部22dと上側鋳型部材24の強化部材支持部24dによって挟持されるようになっている。このように強化部材16を挟持することにより、強化部材16を所定の位置(金属ベース板10の主面に沿った方向および厚さ方向の所定の位置)に精度良く固定することができるので、反りおよびそのばらつき、特に長手方向の反りおよびそのばらつきが小さい金属−セラミックス接合基板を製造することができる。
【0027】
また、上側鋳型部材24には、(図示しない)注湯ノズルから金属ベース板形成部24a内に溶湯を注湯するための(図示しない)注湯口が形成されているとともに、下側鋳型部材22には、金属ベース板形成部22aと金属板形成部22cとの間に延びる(図示しない)溶湯流路が形成されて、セラミックス基板収容部22b内にセラミックス基板12を収容したときにも金属ベース板形成部22aと金属板形成部22cとの間が連通するようになっている。
【0028】
なお、本実施の形態では、強化部材支持部として凹部22dおよび凹部24dをそれぞれ下側鋳型部材22の金属ベース板形成部22aおよび上側鋳型部材24の金属ベース板形成部24aに設けているが、強化部材16の長手方向の両端部に対応する形状および大きさの凹部を下側鋳型部材22の金属ベース板形成部22aおよび上側鋳型部材24の金属ベース板形成部24aのいずれか一方に設けてもよい。
【0029】
このような鋳型20を使用して図1A〜図1Dに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板を製造するためには、まず、下側鋳型部材22のセラミックス基板収容部22b内にセラミックス基板12を配置した後、下側鋳型部材22の強化部材支持部22dに強化部材16を載せて上側鋳型部材24を下側鋳型部材22に被せる。この状態で鋳型20内にアルミニウムまたはアルミニウム合金などの金属の溶湯を流し込んで冷却すると、内部に配置された強化部材16の長手方向の両端部が側面から突出した金属ベース板10がセラミックス基板12の一方の面に直接接合するとともに、セラミックス基板12の他方の面に回路パターン用の金属板14が直接接合した金属−セラミックス接合基板を製造することができる。その後、金属ベース板10から突出した強化部材16の長手方向の両端部を周知の切断方法で除去することにより、図1A〜図1Dに示す実施の形態の金属−セラミックス接合基板を製造することができる。
【0030】
鋳型20内に溶湯を流し込む際には、鋳型20を(図示しない)接合炉内に移動し、この接合炉内を窒素雰囲気にして酸素濃度を100ppm以下、好ましくは10ppm以下まで低下させ、ヒーターの温度制御によって鋳型20を注湯温度(例えばアルミニウム溶湯を注湯する場合には600〜800℃)まで加熱した後、注湯温度まで加熱して予め計量された金属溶湯を、窒素ガスによって所定の圧力で加圧して、注湯口から鋳型20内に流し込むのが好ましい。このように注湯することにより、金属とセラミックスとの間で大きな接合欠陥が発生するのを防止することができる。また、鋳型20内に溶湯を流し込んだ後、(図示しない)ノズルから注湯口に窒素ガスを吹き込むことによって、鋳型20内の溶湯を所定の圧力で加圧したまま冷却して凝固させるのが好ましい。なお、注湯および冷却の際に窒素ガスにより加圧される所定の圧力は、1〜100kPaであるのが好ましく、3〜80kPaであるのがさらに好ましく、5〜15kPaであるのが最も好ましい。この圧力が低過ぎると鋳型20内に溶湯が入り難くなり、高過ぎると強化部材16の位置がずれたり、鋳型20が破壊するおそれがある。特に、カーボン製の鋳型20を使用する場合、1MPa以上の高圧になると、鋳型20が破壊されたり、鋳型20から溶湯が漏れたり、強化部材16やセラミックス基板12の位置がずれるおそれがある。
【0031】
図3は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板の強化部材16の第1の変形例としての強化部材116を示している。この強化部材116は、金属ベース板10のセラミックス基板12との接合面と略平行な(仮想)平面上に配置され且つその平面の面積より小さい面積の主平面を有する1枚の板状部材であり、互いに離間して長手方向に延びる複数(図示した例では3つ)の長手方向板状部と互いに離間して(長手方向と略垂直な)幅方向に延びて長手方向板状部を連結する複数(図示した例では3つ)の幅方向板状部とからなる格子状の板状部材である。この強化部材116の各々の長手方向板状部の両端部116aは、鋳型20の強化部材支持部22dおよび24dによって画定される空間と略同一の形状および大きさになっている。この変形例の強化部材116を使用すれば、金属−セラミックス接合基板の長手方向の反りおよびそのばらつきだけでなく、幅方向の反りおよびそのばらつきも小さくすることができる。また、強化部材116の長手方向板状部と幅方向板状部によって囲まれた開口部116bが、金属板14上に搭載するパワー素子の真下に配置されるようにすれば、金属ベース板10の底面への熱伝導の阻害を防止して、放熱性の優れた金属−セラミックス接合基板にすることができる。その他の構成は、上述した実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0032】
図4は、上述した実施の形態の金属−セラミックス接合基板の強化部材16の第2の変形例としての強化部材216を示している。この強化部材216では、開口部216bの大きさや位置と長手方向板状部の両端部216aの形状が、上述した第1の変形例の強化部材116と異なっている。この強化部材216の長手方向板状部と幅方向板状部によって囲まれた開口部216bが、金属板14上に搭載するパワー素子などの電子部品の真下に配置されるようにすれば、金属ベース板10の底面への熱伝導の阻害を防止して、放熱性の優れた金属−セラミックス接合基板にすることができる。また、この強化部材216の角部は、長手方向側面および幅方向側面に対して傾斜した斜面になっており、長手方向板状部の両端部の大きさおよび形状が上述した第1の変形例の強化部材116と異なっているので、その変更に対応するように鋳型20の強化部材支持部22dおよび24dの形状および大きさも変更すればよい。その他の構成は、上述した第1の変形例と同様であるので、その説明を省略する。
【0033】
なお、金属ベース板10に放熱板をネジ止めするための取付穴が形成されている場合には、その取付穴に対応するように強化部材に穴をあけて金属ベース板10の取付穴を強化部材によって取り囲むようにすれば、ネジ止め部分の強度を向上させることができる。このネジ止め部分は、放熱にほとんど影響しないので、この部分では、強化部材が金属ベース板10から露出してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明による金属−セラミックス接合基板およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0035】
[実施例1]
まず、金属ベース板形成部22aの底面に互いに離間した2つのセラミックス基板収容部22bが形成され且つこれらのセラミックス基板収容部22bの各々の底面に金属板形成部22cが形成されている以外は、図2A〜図2Dに示す鋳型20と同様の形状のカーボン製の鋳型を使用し、下側鋳型部材22のそれぞれのセラミックス基板収容部22b内に50mm×50mm×0.6mmの大きさのAlNからなるセラミックス基板12を配置し、150mm×15mm×0.6mmの大きさの3本の42Alloyからなる強化部材16のそれぞれの両端部(それぞれ長さ5mmの部分)を下側鋳型部材22の強化部材支持部22dに配置した後、下側鋳型部材22に上側鋳型部材24を被せて炉内に入れ、炉内を窒素雰囲気にして酸素濃度を4ppm以下まで低下させた。この状態でヒーターの温度制御によって鋳型20を720℃まで加熱した後、720℃まで加熱して予め計量された純度99.9%のアルミニウム溶湯を、鋳型20の注湯口に取り付けられた注湯ノズルから、窒素ガスによって10kPaの圧力で加圧して、鋳型20内の140mm×60mm×5mmの大きさの金属ベース板形成部22aおよび24a内に流し込んで充填するとともに、下側鋳型部材22に形成された溶湯流路を介して48mm×48mm×0.6mmの大きさのそれぞれの金属板形成部22cまで充填した。その後、注湯ノズルから注湯口に窒素ガスを吹き込むことによって、鋳型20内の溶湯を10kPaの圧力で加圧したまま冷却して溶湯を凝固させた。このようにして、所謂溶湯接合法により、150mm×15mm×0.6mmの大きさの3本の強化部材16が内部を貫通するとともにそれぞれの強化部材16の長手方向の両端部(それぞれ長さ5mmの部分)が側面から突出した140mm×60mm×5mmの大きさの金属ベース板10が50mm×50mm×0.6mmの大きさのそれぞれのセラミックス基板12の一方の面に直接接合するとともに、それぞれのセラミックス基板12の他方の面に48mm×48mm×0.6mmの大きさの回路パターン用の金属板14が直接接合した金属−セラミックス接合基板を製造した。この金属−セラミックス接合基板を鋳型20から取り出した後、金属ベース板10から突出した強化部材16の長手方向の両端部を切断して除去することにより、金属ベース板10に2枚のセラミックス基板12が直接接合し且つこれらのセラミックス基板12の各々に回路パターン用の金属板14が直接接合している以外は、図1A〜図1Dと同様の形状の金属−セラミックス接合基板を製造した。
【0036】
このようにして得られた金属−セラミックス接合基板の金属ベース板10の長手方向の反り量(金属ベース板10の底面を水平面に配置したときの金属ベース板10の底面の中央部の接平面と端部の垂直方向の距離)を、下側に反っている場合(凹状)を正(+)、上側に反っている場合(凸状)を負(−)として、レーザー変位計で測定した。その結果、セラミックス基板12の長手方向の反り量は−10μmであった。
【0037】
また、得られた金属−セラミックス接合基板をホットプレート上で加熱して基板表面温度を260℃にしたときの長手方向の反り量を測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は+200μmであった。
【0038】
また、加熱後もセラミックス基板12に割れなどの不具合はなく、絶縁性などの電気性能も良好であった。金属板14とセラミックス基板12の間、金属ベース板10とセラミックス基板12の間、金属ベース板10と補強部材16の間のそれぞれの接合も特に欠陥がなく良好であった。
【0039】
[実施例2]
150mm×50mm×1.0mmの大きさの1本の強化部材16を使用し、それに対応する鋳型20を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を製造した。
【0040】
このようにして得られた金属−セラミックス接合基板の金属ベース板10の長手方向の反り量を実施例1と同様の方法により測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は+10μmであった。
【0041】
また、得られた金属−セラミックス接合基板をホットプレート上で加熱して基板表面温度を260℃にしたときの長手方向の反り量を測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は+298μmでであった。
【0042】
[実施例3]
150mm×50mm×0.6mmの大きさの1本の強化部材16を使用し、それに対応する鋳型20を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を製造した。
【0043】
このようにして得られた金属−セラミックス接合基板の金属ベース板10の長手方向の反り量を実施例1と同様の方法により測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は−20μmであった。
【0044】
また、得られた金属−セラミックス接合基板をホットプレート上で加熱して基板表面温度を260℃にしたときの長手方向の反り量を測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は+500μmでであった。
【0045】
[比較例]
強化部材16を使用せずそれに対応する鋳型20を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を製造した。
【0046】
このようにして得られた金属−セラミックス接合基板の金属ベース板10の長手方向の反り量を実施例1と同様の方法により測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は−30μmであった。
【0047】
また、得られた金属−セラミックス接合基板をホットプレート上で加熱して基板表面温度を260℃にしたときの長手方向の反り量を測定したところ、セラミックス基板12の長手方向の反り量は+900μmであった。
【符号の説明】
【0048】
10 金属ベース板
12 セラミックス基板
14 (回路パターン用の)金属板
16、116、216 補強部材
20 鋳型
22 下側鋳型部材
24 上側鋳型部材
22a、24a 金属ベース板形成部
22b セラミックス基板収容部
22c 金属板形成部
22d、24d 補強部材支持部
116a、216a 端部
116b、216b 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に金属板が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板が直接接合した金属−セラミックス接合基板において、金属ベース板より強度が高い金属からなる強化部材が金属ベース板の内部を貫通して延びていることを特徴とする、金属−セラミックス接合基板。
【請求項2】
前記強化部材が、前記金属ベース板の前記セラミックス基板との接合面と略平行に延びていることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項3】
前記強化部材が、前記金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面の面積より小さい面積の主平面を有する板状部材であることを特徴とする、請求項2に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項4】
前記強化部材が、前記金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面上に配置され且つ互いに離間して略平行に延びる複数の板状部材または棒状部材であることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項5】
前記強化部材が、前記金属ベース板のセラミックス基板との接合面と略平行な平面上に配置され且つ互いに離間して前記金属ベース板の長手方向に延びる複数の長手方向板状部と互いに離間して前記金属ベース板の幅方向に延びて長手方向板状部を連結する複数の幅方向板状部とからなる格子状の板状部材であることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項6】
前記強化部材の前記金属ベース板の内部を貫通して延びる部分の全面が前記金属ベース板に直接接合していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項7】
前記強化部材の端面が外部に露出し、その端面以外の全面が金属ベース板に直接接合していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項8】
前記金属ベース板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項9】
前記金属板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項10】
前記強化部材が、ニッケル、コバルト、銅およびマンガンからなる群から選ばれる1種以上と鉄を含有する金属からなることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項11】
前記セラミックス基板が、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群から選ばれる1種以上からなることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項12】
セラミックス基板の一方の面に金属板が直接接合するとともに、他方の面に金属ベース板が直接接合した金属−セラミックス接合基板の製造方法において、金属ベース板より融点および強度が高い金属からなる強化部材と、セラミックス基板とを鋳型内に離間して配置させるように、セラミックス基板の端部と強化部材の端部を鋳型に支持させ、鋳型内のセラミックス基板の両面に接触するとともに強化部材の端部を除く全面に接触するように溶湯を注湯した後に冷却して固化させることにより、金属板を形成してセラミックス基板の一方の面に直接接合させ、金属ベース板を形成してセラミックス基板の他方の面に直接接合させるとともに、強化部材の端部を金属ベース板から突出させてその端部を除く強化部材の全面を金属ベース板に直接接合させることを特徴とする、金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項13】
前記金属ベース板から突出した強化部材の端部を除去することを特徴とする、請求項12に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項14】
前記鋳型が上側鋳型部材と下側鋳型部材とからなり、前記強化部材の端部が上側鋳型部材と下側鋳型部材に挟持されることによって前記鋳型に支持されることを特徴とする、請求項12または13に記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項15】
前記強化部材が、ニッケル、コバルト、銅およびマンガンからなる群から選ばれる1種以上と鉄を含有する金属からなることを特徴とする、請求項12乃至14のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。
【請求項16】
前記金属板および前記金属ベース板がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項12乃至15のいずれかに記載の金属−セラミックス接合基板の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−199452(P2012−199452A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63504(P2011−63504)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】