説明

金属リングの周長測定方法

【課題】金属リングの周長を精度よく測定することができる金属リングの周長測定方法を提供する。
【解決手段】金属リングWを1対のローラ2,3に掛け回し、一方のローラ3を他方のローラ2から離間する方向へ移動することにより金属リングWに張力を付与すると共に両ローラ2,3間の距離を測定し、両ローラ2,3間の距離から金属リングWの周長を算出する金属リングWの周長測定方法において、金属リングWの1つの部位Pが両ローラ2,3間の所定の位置Mにあるときに金属リングWの周長を算出した後、金属リングWの他の部位Pが所定の位置Mにあるときに金属リングWの周長を算出する処理を少なくとも1回行い、算出された全ての金属リングWの周長の平均値を金属リングWの周長とする。金属リングWの周長を算出する処理を少なくとも3回以上行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機等のベルトに用いられる無端帯状金属リングの周長を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)等の動力伝達に用いられるベルトは、複数の無端帯状の金属リングをそれらの厚み方向に積層して組み立てた積層リングに複数のエレメントを組み付けることにより構成されている。この種の積層リングは、基本的にはその周長や半径が設計値(これは各層毎に互いに相違する)になるように製造されているものの、常に高精度に設計値に一致するわけではなく、一般には製造上の誤差のために設計値を中心にある程度のばらつきを生じる。このため、前記各層の金属リングを組み合わせて積層する場合、各層の金属リングはその製造後、周長が別途測定され、そのデータに基づいて積層リングが組み立てられる。
【0003】
従来、金属リングの周長測定は、金属リングを1対のローラに掛け回し、少なくとも一方のローラを他方のローラから離間する方向へ移動することにより該金属リングに張力を付与すると共に両ローラ間の距離を測定し、両ローラ間の距離から該金属リングの周長を算出する方法により行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記周長測定においては、前記金属リングは厚み方向に積層されて積層リングに組み立てられることから、前記周長が設計値に対して許容範囲外の値であると、該金属リングを積層リングに用いることができない。そこで、前記周長が設計値に対して許容範囲内の値となることが望まれる。
【0005】
しかしながら、前記周長測定方法によれば、算出される周長のばらつきが大きいため、周長が設計値に対して許容範囲外の値となって積層リングに用いることができない金属リングの発生が避けられないという不都合がある。
【特許文献1】特開2002−156220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して金属リングの周長を精度よく測定することができる金属リングの周長測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記周長測定方法において周長のばらつきが大きくなる理由について鋭意検討した結果、金属リングの円弧形状の曲率の大小と1対のローラの円弧形状の曲率との関係によって、算出された周長が実寸よりも長かったり短かったりすることがあることを見出した。すなわち、金属リングが掛け回される1対のローラは、金属リングに張力を付与するために、外周面に、幅方向の断面視で中央部が外方に向かって凸となる円弧形状を備える。一方、図2に示すように、金属リングWは、積層リングに組み立てられた際の積層状態の保持を容易にするために、外周面に、幅方向の断面視で中央部が外方に向かって凸となる円弧形状Waを備える。円弧形状Waは所定の曲率を有するように形成されるものの、この曲率は金属リングWの周方向の位置によってばらつきがある。したがって、前記周長測定方法によれば、1回のみの周長測定では、金属リングWの円弧形状Waの曲率の大小と1対のローラの円弧形状の曲率との関係によっては、算出される周長のばらつきが大きくなるものと考えられる。
【0008】
本発明者らは、前記知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0009】
そこで、前記目的を達成するために、本発明は、金属リングを1対のローラに掛け回し、少なくとも前記一方のローラを前記他方のローラから離間する方向へ移動することにより該金属リングに張力を付与すると共に両ローラ間の距離を測定し、両ローラ間の距離から該金属リングの周長を算出する金属リングの周長測定方法において、該金属リングの1つの部位が両ローラ間の所定の位置にあるときに該金属リングの周長を算出した後、該金属リングの他の部位が該所定の位置にあるときに該金属リングの周長を算出する処理を少なくとも1回行い、算出された全ての該金属リングの周長の平均値を該金属リングの周長とすることを特徴とする。
【0010】
本発明では、まず、前記1対のローラに前記金属リングを掛け回し、少なくとも一方のローラを他方のローラから離間する方向へ移動することにより、該金属リングに張力を付与する。次に、張力が付与された前記金属リングの1つの部位が両ローラ間の所定の位置にあるときに両ローラ間の距離を測定し、得られた両ローラ間の距離から前記金属リングの周長を算出する。しかし、1回のみの測定では、算出される周長は、ばらつきが大きく実寸を精度よく示すものとは言えない。
【0011】
そこで、一旦周長を算出した後、前記金属リングの他の部位が前記所定の位置にあるときに両ローラ間の距離を測定して、該金属リングの周長を算出する処理を少なくとも1回行う。次に、算出された全ての前記金属リングの周長から平均値を算出し、該平均値を該金属リングの周長とする。
【0012】
本発明によれば、前記金属リングの互いに異なる部位が両ローラ間の所定の位置にあるときに該金属リングの周長を算出する処理を少なくとも2回行い、得られた全ての周長の平均値を周長とするので、該金属リングの円弧形状の曲率が該金属リングの周方向の位置によってばらつきを有する場合でも、金属リングの周長を精度よく測定することができる。
【0013】
また、前記金属リングの周長を算出する処理は、できるだけ多く行うことにより精度を上げることができるが、処理回数が多くなるほどコスト増が避けられない。そこで本発明では、前記金属リングの周長を算出する処理を少なくとも3回以上行うことが好ましい。これにより、コスト増となることなく、前記金属リングの周長を十分に精度よく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の金属リングの周長測定方法を実施する金属リング用周長測定装置を示す説明的正面図であり、図2は金属リングの断面図であり、図3は金属リングの周長測定位置を示す説明的平面図である。また、図4は金属リングの周長測定誤差を示すグラフであり、図5は金属リングの周長測定誤差のばらつきを示すグラフである。
【0015】
図1に示す金属リング用周長測定装置1は、無段変速機用ベルトを構成するための無端帯状金属リングWの周長を測定するものであり、金属リングWが掛け回される1対のローラとしての駆動ローラ2及び従動ローラ3と、金属リングWに張力を付与する引張シリンダ4と、両ローラ2,3の軸間距離を検出する測定手段5とを備える。
【0016】
金属リングWは、マルエージング鋼等の高強力鋼からなり、図2に示すように、外周面に、幅方向の断面視で中央部が外方に向かって凸となる円弧形状Waを備える。円弧形状Waの曲率は、金属リングWの周方向の位置によってばらつきを有する。
【0017】
駆動ローラ2及び従動ローラ3は、同径であり、水平方向に所定の間隔を存して設けられ、金属リングWが掛け回されるようになっている。駆動ローラ2及び従動ローラ3は、外周面に、幅方向の断面視で中央部が外方に向かって凸となる円弧形状を有する。この円弧形状は、金属リングWの円弧形状Waの曲率とは異なる大きさに形成されている。
【0018】
駆動ローラ2は、駆動ローラ用軸受部材6に接続されたモータ7の作動により、回転駆動する。また、従動ローラ3は、引張シリンダ4のシリンダロッド4aの先端に取着されるとともにガイドレール8に沿って摺動可能に設けられた軸支部材9に軸支されている。従動ローラ3は、引張シリンダ4により、ガイドレール8に沿って駆動ローラ2から離間する方向に変位自在とされている。
【0019】
引張シリンダ4は、従動ローラ3を駆動ローラ2から離間する方向に変位させることにより、両ローラ2,3に掛け回された金属リングWを延引して張力を付与するようになっている。
【0020】
軸支部材9は、測定手段5の先端が当接される当接部材10を備え、当接部材10は外方に突出して設けられている。測定手段5は、ガイドレール8に沿って移動する従動ローラ3の変位量を検出して、両ローラ2,3間の軸間距離を測定するようになっている。
【0021】
なお、金属リング用周長測定装置1では、引張シリンダ4にて金属リングWに張力を付与するとしたが、引張シリンダ4に代えてウエイト、スプリング等を用いてもよい。
【0022】
次に、図1を参照しながら本実施形態の金属リングの測定方法について説明する。金属リング用周長測定装置1で、従動ローラ3を駆動ローラ2に近接させた状態で、駆動ローラ2及び従動ローラ3に金属リングWを掛け回す。
【0023】
次に、引張シリンダ4により、従動ローラ3を、ガイドレール8に沿って駆動ローラ2から離間する方向へ移動することにより、金属リングWに張力を付与して金属リングWを緊張状態にさせる。
【0024】
次に、モータ7を作動し、駆動ローラ2の回転駆動により、張力が付与された金属リングWを駆動ローラ2と従動ローラ3との間で周回させる。そして、図3に示すように、両ローラ2,3の間であって両ローラ2,3に掛け回される金属リングWに対面する位置に、周長測定の基準となる測定基準マーカMを想定し、金属リングの部位Pが測定基準マーカMの位置にあるときに、測定手段5により、両ローラ2,3間の軸間距離を検出する。次に、両ローラ2,3間の軸間距離と各ローラ2,3の直径とから、金属リングWの1回目の周長を算出する。
【0025】
次に、1回目の周長算出の際に両ローラ2,3間の軸間距離を検出した部位Pとは異なる他の部位Pが測定基準マーカMの位置にあるときに2回目の周長算出が行われるように、金属リングWを周回させる。
【0026】
次に、1回目の周長算出と同様にして、周回する金属リングWの他の部位Pが測定基準マーカMの位置にあるときに両ローラ2,3間の軸間距離を検出し、金属リングWの2回目の周長を算出する。
【0027】
以上のようにして、金属リングWの互いに異なる部位P,P,…が測定基準マーカMの位置にあるときに両ローラ2,3間の軸間距離を検出し、金属リングWの1回目、2回目、…の周長を算出する。前記金属リングWの周長を算出する処理は、少なくとも3回以上行う。
【0028】
次に、算出された全ての周長から平均値を算出し、該平均値を金属リングWの周長とする。
【0029】
本実施形態の金属リングの周長測定方法によれば、金属リングWの互いに異なる部位P,P,…が測定基準マーカMの位置にあるときに金属リングWの周長を算出する処理を少なくとも3回以上行い、得られた全ての周長の平均値を周長とする。したがって、金属リングWの円弧形状Waの曲率が金属リングWの周方向の位置によってばらつきを有する場合でも、金属リングWの周長を精度よく測定することができる。
【0030】
本実施形態では、互いに異なる部位P,P,…が測定基準マーカMの位置にあるときに各周長算出が行われるように、各周長算出の間で金属リングWを周回させるとしたが、金属リングWを周回させる代わりに、各周長算出の間でモータ7を停止して金属リングWの周回を停止し、金属リングWを両ローラ2,3に掛け直すようにしてもよい。
【0031】
次に、本実施形態の金属リングの周長測定方法による結果を示す。まず、上記のようにして、金属リングWについて、金属リングWの部位Pが測定基準マーカMに位置するときに1回目の周長算出を行った。
【0032】
次に、金属リングWを両ローラ2,3に掛け直した後、1回目の周長算出を行った部位Pからd=10mm離間する他の部位Pが位置決めマーカに位置するときに2回目の周長算出を行った。以降、同様にして、互いに10mm離間し互いに異なる部位P,P,…,P10が測定基準マーカMに位置するようにして、周長算出を合計10回行った。
【0033】
次に、1,2,…,10回目の周長算出で得られた周長について、順番に平均値を算出することにより、該平均値を1,2,…,10回目の周長測定による周長とした。例えば、1,2回目の周長算出で得られた周長の平均値を2回目の周長測定による周長とし、1〜3回目の周長で得られた周長の平均値を3回目の周長測定による周長とした。ただし、1回目の周長測定による周長は、1回目の周長算出で得られた周長とした。そして、各周長測定で得られた金属リングWの周長と設計値との測定誤差とを調べた。以上の処理を同様にして全32本の金属リングWに対して行った。結果を図4に示す。また、測定誤差のばらつきを図5に示す。
【0034】
図4から、測定誤差が、1回目の周長測定では−0.004〜0.004mmの範囲と非常に大きいが、3回目の周長測定では−0.0008〜0.0006mmの範囲と十分に小さく、10回目の周長測定では−0.0004〜0.0004mmの範囲と非常に小さいことが明らかである。また、図5から、測定誤差のばらつきが、1回目の周長測定では0.008と非常に大きいが、3回目の周長測定では0.0014と十分に小さく、10回目の周長測定では0.0008と非常に小さいことが明らかである。
【0035】
したがって、本実施形態の金属リングの周長測定方法によれば、1回の周長測定では、金属リングの円弧形状の曲率のばらつきの影響を受けて精度よく測定できないが、周長測定を3回以上行うことにより、該ばらつきの影響を受けることなく精度よく測定できることが明らかである。また、本実施形態の金属リングの周長測定方法によれば、10回行わなくても3回で十分に精度よく測定できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の金属リングの周長測定方法を実施する金属リング用周長測定装置を示す説明的正面図。
【図2】金属リングの断面図。
【図3】金属リングの周長測定位置を示す説明的平面図。
【図4】金属リングの周長測定誤差を示すグラフ。
【図5】金属リングの周長測定誤差のばらつきを示すグラフ。
【符号の説明】
【0037】
2…1対のローラ、他方のローラ、 3…1対のローラ、一方のローラ、 M…所定の位置、 P,P,P,P,P,P,P,P,P,P10…金属リングの部位、 W…金属リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リングを1対のローラに掛け回し、少なくとも一方のローラを他方のローラから離間する方向へ移動することにより該金属リングに張力を付与すると共に両ローラ間の距離を測定し、両ローラ間の距離から該金属リングの周長を算出する金属リングの周長測定方法において、
該金属リングの1つの部位が両ローラ間の所定の位置にあるときに該金属リングの周長を算出した後、
該金属リングの他の部位が該所定の位置にあるときに該金属リングの周長を算出する処理を少なくとも1回行い、
算出された全ての該金属リングの周長の平均値を該金属リングの周長とすることを特徴とする金属リングの周長測定方法。
【請求項2】
前記金属リングの周長を算出する処理を少なくとも3回以上行うことを特徴とする請求項1記載の金属リングの周長測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−71671(P2010−71671A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236385(P2008−236385)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】