説明

金属塗装材

【課題】表面の撥水性が高く、かつプレス加工時の加工性が良好な金属塗装材を提供する。
【解決手段】プレコートアルミニウム板10は、アルミニウム基材11と、該アルミニウム基材11の表面に形成された撥水性皮膜13と、アルミニウム基材11と撥水性皮膜13との間に両者の密着性を高めるべく介在する下地皮膜12を備える。撥水性皮膜13が、撥水性樹脂としてのフッ素系樹脂と、潤滑性成分としてのポリエチレングリコールと、を含む。ポリエチレングリコールの含有量がフッ素系樹脂に対して5〜50mass%、かつ、撥水性皮膜の皮膜量がアルミニウム基材の有効表面積に対して0.01〜3g/mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属塗装板は様々な用途が提案されているが、本明細書においては空調機の熱交換器のフィン材に適用した例を説明する。
空調機に用いられる熱交換器では、屋内外で循環させる冷媒が通過する配管に、熱交換面積の大きいフィン材が結合されている。このようなフィン材には、軽量で比較的熱伝導性も高い上、適度な機械的特性を有し、かつ美感、成形加工性、耐食性(防食性)等に優れた特徴を有しているため、アルミニウム又はアルミニウム合金材料が使用される。
【0003】
そして、最近では、熱交換器において、コンパクト化のため、隣接するフィン材の間隔をできる限り狭める設計がなされている。このように隣接するフィン材の間隔を狭くすると、冷媒と空気との熱伝達量が減少し、熱交換器の熱効率(熱交換効率)が低下する。そこで、そのような現象を解消することが必要になる。
【0004】
このような熱交換器では、空調機の冷房運転中などに、空気中の水分が、フィン材の表面に凝縮水となって付着することがある。アルミニウム又はアルミニウム合金材料からなるフィン材の表面は、撥水性及び親水性に乏しいことから、上記凝縮水はフィン材の表面に半円形、もしくは、隣接するフィン材間にブリッジ状に繋がるように存在するようになる。
【0005】
このような現象は、フィン材間を通過する空気の流れを妨げ、通風抵抗を増大させ、空調機の熱効率を大きく低下させるので、そのような凝縮水をフィン材の表面やフィン材間から排除することが必要となる。
【0006】
このためには、以下のいずれかの方策が考えられる。
(1)フィン表面に親水性皮膜を形成し、凝縮水を薄い水膜にして流下させる。
(2)フィン表面に撥水性皮膜を形成し、凝縮水の付着を防止する。
【0007】
上記(1)の具体例として、例えば、カルボキシメチルセルロースとポリエチレングリコールとを含有する組成物をフィン表面に塗布し、親水性皮膜を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
一方、上記(2)の具体例として、例えば、撥水性皮膜としてシリコーン系あるいはフッ素系に無機充填材を含有させ、撥水性皮膜としたものをフィン表面に形成する技術が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−028291号公報
【特許文献2】特開平3−244680号公報
【特許文献3】特開平5−222339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1記載の技術によれば、熱交換器を室内で使用する場合では、親水性皮膜によって凝縮水が効果的に排除され、満足な結果が得られる。ところが、特に冬季に熱交換器を室内で使用する場合では、フィン材の表面で結霧水が氷結して霜となり、暖房性能を低下させるという問題があった。
【0011】
一方、上記特許文献2及び3記載の技術によれば、フィン材の表面が撥水性となるため、フィン材をプレス加工で成形する際に用いる潤滑油がフィン材の表面に十分に付着せず、プレス加工の際にフィン材に割れ等を生じていた。なお、プレス加工では、一般に、被加工物である金属塗装材に割れやカジリが生じたり、摩擦増大による金型寿命や工具寿命が低下したりするという加工性の低下の問題を解消すべく、金属塗装材の表面に潤滑性を与えるため、このように潤滑油(成形油)を用いている。ここで、「金属塗装材」とは、金属基材の表面に撥水性皮膜を形成したものを意味する。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、表面の撥水性が高く、かつプレス加工時の加工性が良好な金属塗装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る金属塗装材は、金属基材と、該金属基材の表面に形成された撥水性皮膜と、を備え、
前記撥水性皮膜は、フッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂からなる撥水性樹脂と、潤滑性成分としての、末端に水酸基を有するポリエーテル化合物と、を含有し、
前記潤滑性成分の含有量が、前記撥水性皮膜に対して5〜50mass%、かつ、前記撥水性皮膜の皮膜量が、前記金属基材の表面積に対して0.01〜3g/mである、
ことを特徴とする。
【0014】
前記潤滑性成分が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、及びエチレングリコール・プロピレングリコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記潤滑性成分が、重量平均分子量が4000〜40000のポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0016】
前記金属塗装材は、前記金属基材と前記撥水性皮膜との間に下地皮膜をさらに備え、
前記下地皮膜が有機皮膜であって、且つ、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂成分を含み、当該下地皮膜の皮膜量が、前記金属基材の表面積に対して0.01〜10g/mであることが好ましい。
【0017】
前記金属基材と前記下地皮膜との間に、化成処理皮膜が設けられ、
前記化成処理皮膜が、クロム系、ジルコニウム系及びチタン系からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、金属元素換算にて5〜15mg/mの金属を含有することが好ましい。
【0018】
前記下地皮膜が、前記樹脂成分に無機微粒子を含有しており、
前記無機微粒子の含有量が前記下地皮膜に対して5〜50mass%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面の撥水性が高く、かつプレス加工時の加工性が良好な金属塗装材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る塗装金属板の層構成を示す模式断面図である。
【図2】下地皮膜にシリカ微粒子が含まれている状態での塗装金属板の層状態を示す模式断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、塗装金属板の製造方法を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係るプレコートアルミニウム板(金属塗装材)、塗料及びプレコートアルミニウム板の製造方法について説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る金属塗装材としてのプレコートアルミニウム板10は、アルミニウム基材(金属基材)11と、該アルミニウム基材11の表面に形成された撥水性皮膜13と、アルミニウム基材11と撥水性皮膜13との間に介在する下地皮膜12と、を備えている。
【0023】
撥水性皮膜13は、撥水性を有する撥水性樹脂を撥水性成分として含むことで、プレコートアルミニウム板10の表面に適度な撥水性を付与するものである。
【0024】
下地皮膜12は、アルミニウム基材11と撥水性皮膜13との塗膜密着性(密着性)を高めるために、当該アルミニウム基材11の表面に形成されている皮膜である。この下地皮膜12は、アルミニウム基材11の表面に耐食性を付与するためにも形成される。なお、アルミニウム基材11と撥水性皮膜13との間に十分な塗膜密着性が得られる場合には、下地皮膜12は省略できる。
【0025】
以下、上記アルミニウム基材11、下地皮膜12(シリカ微粒子(無機微粒子)を含む)、撥水性皮膜13(撥水性樹脂、潤滑性成分、その他添加物を含む)についてさらに詳細に説明する。
【0026】
<アルミニウム基材>
アルミニウム基材11としては、例えば、アルミニウム板又はアルミニウム合金板を用いることができる。
なお、アルミニウム板又はアルミニウム合金以外の金属基材としては、鉄、鉄合金(ステンレスを含む)及びその鍍金鋼板、銅、銅合金(黄銅を含む)及びその鍍金鋼板、並びに、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金などを用いることもできる。
【0027】
<下地皮膜>
下地皮膜12としては、化成処理皮膜、耐食性有機皮膜、陽極酸化皮膜、ベーマイト皮膜等の皮膜が挙げられる。耐食性、塗膜密着性、経済性の観点から、化成処理皮膜、有機耐食性皮膜を用いることが好ましい。
【0028】
化成処理皮膜としては、クロム系、ジルコニウム系、チタン系の化成処理皮膜が用いられるが、耐食性、塗膜密着性の観点からは、クロム系の化成処理皮膜が好ましい。化成処理皮膜の形成方法としては、塗布型、電解型、反応型の化成処理方法等が用いられるが、いずれの方法を用いてもよい。乾燥温度も任意である。上記化成処理皮膜の形成方法のうち、成形性、塗膜密着性、耐食性に優れた塗布型クロメート法によることが好ましい。この場合の塗布量は金属元素換算で2〜50mg/mである。塗布量が金属元素換算で2mg/m未満では、十分な耐食性と密着性が得られない。また、50mg/mを超えても耐食性や塗膜密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい塗布量は金属元素換算で5〜15mg/mである。
【0029】
また、有機耐食性皮膜は、耐食性が特に優れていることから好ましい。
有機耐食性皮膜としては、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種から成る樹脂皮膜が用いられる。なお、その上に形成される樹脂被膜の撥水性及び加工性を損なわない限り、いずれの樹脂皮膜も用いることができる。有機耐食性皮膜の形成量は、0.1〜10g/m、好ましくは0.5〜5g/mであることがよい。0.1g/m未満であると、十分な耐食性が得られず、10g/mを超えると、効果が飽和し不経済となる。
【0030】
なお、プレコートアルミニウム板(金属塗装材)10では、アルミニウム基材(金属基材)11と下地皮膜12との間に、化成処理皮膜を別に設けることにより、耐食性や密着性がより向上する。このように、下地皮膜12としての化成処理皮膜及び有機耐食性皮膜と、下地皮膜12とは別の化成処理皮膜とを併用することが好ましい。
【0031】
また、有機耐食性皮膜には、表面の凹凸を形成するため、図2に示すように、無機微粒子、具体的には、シリカ微粒子14を含有させることが好ましい。これにより、撥水性皮膜13の表面に凹凸形状14aが形成され、表面積が増大するので、撥水性皮膜13の撥水性がさらに高められる。無機微粒子としては、その他アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子なども使用することができる。
【0032】
(シリカ微粒子)
シリカ微粒子14の含有量は、下地皮膜12に対して5〜50mass%(重量%)、好ましくは10〜35mass%であることがよい。シリカ微粒子14の含有量が5mass%未満であると、撥水性皮膜13の表面の凹凸形状14aの形成が不十分となり、撥水性皮膜13の撥水性を高める効果が不足する。一方、シリカ微粒子14の含有量が50mass%を超えると、下地皮膜12と下地皮膜12との界面に存在する過剰なシリカ微粒子14によって下地皮膜12が下地皮膜12から剥離し易くなり、下地皮膜12と撥水性皮膜13との密着性が低下する。
【0033】
また、シリカ微粒子14は、撥水性皮膜13の撥水性、下地皮膜12と撥水性皮膜13との密着性(塗膜密着性)及び表面形状を確保する観点から、その平均粒子径が、3〜15μm、好ましくは、6〜12μmのものを使用することがよい。
【0034】
<撥水性皮膜>
撥水性皮膜13は、撥水性樹脂を含む皮膜である。撥水性皮膜13は、このような撥水性樹脂に加えて、潤滑性成分や、必要に応じ、その他添加物を含んでいる。
【0035】
(撥水性樹脂)
撥水性樹脂としては、フッ素系樹脂及びシリコーン系樹脂を用いることができる。中でも、撥水性及び塗膜密着性がともに良好であることから、フッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
フッ素系樹脂としては、フッ素原子を含むものであれば特に限定されずに用いることができる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、または、それらの混合物などを用いることができる。
【0037】
また、シリコーン系樹脂としてはシリコンレジン樹脂、ジメチルシリコン樹脂または、それらの混合物などを用いることができる。
【0038】
(潤滑性成分)
本実施形態において、上記撥水性樹脂に添加される潤滑性成分は、撥水性皮膜13の最表面に層状に分布し、空調機用熱交換器のフィン材などをプレス加工で成形する際に、背景技術で説明した潤滑油と同様、被加工物である金属塗装材の表面に潤滑性を与え、プレス加工の加工性を高める機能を有するものである。
【0039】
潤滑性成分としては、末端に水酸基を有するポリエーテル化合物、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコール及びエチレングリコール・プロピレングリコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種などを例示することができる。
【0040】
本実施形態のプレコートアルミニウム板10が、空調機の熱交換器にフィン材として組み込まれた場合では、上記潤滑性成分は水溶性であり、かつ、親水性でもあるため、フィン材を覆う撥水性皮膜13の表面に層状に分布すると、撥水性皮膜13の撥水性を損なうことになる。ところが、潤滑性成分はこのように水溶性であることにより、空調機の冷房運転中などに、フィン材の表面に付着する凝集水によって洗い流され、フィン材の表面に残存しない。このため、本実施形態に係るプレコートアルミニウム板10では、その撥水性が潤滑性成分によって損なわれないように、当該潤滑性成分の除去工程を設ける必要性がない。
【0041】
上記潤滑性成分としては、工業的に入手が容易、比較的安価、かつ環境への負荷が小さいことから、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と略記する。)を用いることが好ましい。
【0042】
潤滑性成分としてPEGを用いる場合、その重量平均分子量は、4000〜40000、好ましくは10000〜40000であることがよい。重量平均分子量が4000未満であると、撥水性皮膜13の潤滑性が不足し、プレコートアルミニウム板10のプレス加工時の加工性が低下する。一方、重量平均分子量が40000を超えると、撥水性皮膜13の潤滑性が低下し、プレス加工時の加工性が低下することに加え、撥水性が損なわれる。
【0043】
なお、入手した金属塗装板であるプレコートアルミニウム板10からの潤滑性成分の重量平均分子量の測定には、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いることができる。ここでは、入手したプレコートアルミニウム板10から潤滑性成分であるPEGを水により抽出し、得られたPEG水溶液をGPCに抽入し、重量平均分子量を測定する。
【0044】
また、PEGの含有量は、プレコートアルミニウム板10の表面に得られる撥水性皮膜13に対して5〜50mass%、好ましくは8〜45mass%、さらに好ましくは15〜20mass%であることがよい。PEGの含有量が5mass%未満であると、プレス加工時の加工性が低下する。一方、PEGの含有量が50mass%を超えると、撥水性樹脂の含有量が相対的に過少となり、撥水性皮膜13の撥水性が不足する。
【0045】
(その他添加物)
その他、撥水性皮膜13には、プレコートアルミニウム板10に要求される特性に応じ、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等の防錆剤、ポリアルコールのアルキルエステル類、ポリエチレンオキサイド縮合物等のレベリング剤、相溶性を損なわない範囲で添加されるポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミド等の充填剤、フタロシアニン化合物等の着色剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩系等の界面活性剤の添加物が含有されていても構わない。
【0046】
<プレコートアルミニウム板10の製造方法>
以下、本実施形態に係るプレコートアルミニウム板10の製造方法について説明する。
図3(a)に示すように、まず、用意したアルミニウム基材11の表面に、塗布型クロメート法によって、下地皮膜12を形成する。ここでは、塗布型クロメート法以外に、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種から成る樹脂皮膜を用い、有機耐食性皮膜とすることもできる。また、塗布型クロメート上に前記有機耐食性皮膜を形成することもできる。
【0047】
次に、図3(b)に示すように、アルミニウム基材11の表面の下地皮膜12上から、ロールコーター法によって、撥水性皮膜13の材料である液状の皮膜組成物15を塗布(塗装)する。
ここで皮膜組成物15は、撥水性皮膜13を構成する撥水性成分としてのフッ素系樹脂及びシリコーン系樹脂などの撥水性樹脂、PEGなどの潤滑性成分、及び、必要に応じたその他添加物を、水などの溶媒に溶解、分散させて調製することができる。
この溶媒としては、撥水性皮膜13を構成する各化合物成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されずに用いることができる。具体的には、上述した水等の水性溶媒、アセトン等のケトン系溶剤、エタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤、及びエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物、又はそれらの混合物などを用いることができる。中でも、環境負荷を低減させる観点から、水性溶媒を好ましく使用することができ、特に、水を好ましく使用することができる。
【0048】
また、皮膜組成物15の塗布方法としては、上述したロールコーター法以外に、ロールスクイズ法、ケミコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法の各種方法を使用することができる。中でも、得られる撥水性皮膜13の性能が均一なものとなり、生産性も良好なロールコーター法を使用することが好ましい。ロールコーター法としては、例えば、塗布量管理が容易なグラビアロール方式、厚塗りに適したナチュラルコート方式、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。
【0049】
さらに、皮膜組成物15の塗布量は、撥水性皮膜13の皮膜量が、アルミニウム基材11の表面に対して、0.01〜3g/m、好ましくは0.05〜2g/mとなるようにすることがよい。皮膜量が0.01g/m未満であると、所望する撥水性や、プレス加工時の加工性が得られず、3g/mを超えると、撥水性皮膜の撥水性が飽和して不経済となり、好ましくない。
【0050】
続いて、図3(c)に示すように、この積層物を、オーブン16を用い、70〜300℃で加熱、乾燥することにより、皮膜組成物15を下地皮膜12の上からアルミニウム基材11の表面に焼き付ける。これにより、アルミニウム基材11の表面に、下地皮膜12を介して、撥水性皮膜13が形成され、プレコートアルミニウム板10が得られる。また、ここでの撥水性皮膜13の加熱、乾燥には、上述したヒータ16を用いた通常の加熱法以外に、誘電加熱法を用いることもできる。
【0051】
このようにして製造されるプレコートアルミニウム板10に対し、さらにプレス加工を施すことにより、空調機用熱交換器のフィン材などの成形品を作成することができる。この成形品としては、空調機用の熱交換器のフィン材が特に好適な例として挙げられるが、このフィン材に限定されず、その他の成形品、例えば、パラボラアンテナなども挙げることができる。
【0052】
本実施形態に係るプレコートアルミニウム板10によれば、PEGなどの潤滑性成分によって、撥水性皮膜13の表面抵抗値が低くなる。このため、プレス加工時に適度な潤滑性が発揮され、加工性が良好なものとなる。また、撥水性皮膜13の撥水性は高いので、例えば、空調機用の熱交換器のフィン材に成形することで、空調機の稼動時にフィン材に付着する凝縮水を効果的に排除することができる。このため、このフィン材を用いた熱交換器は、長期に亘って優れた熱交換効率を発揮し、空調機の長寿命化が実現されるようになる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について、プレコートアルミニウム板を空調機用の熱交換器のフィン材に適用した実施例及び比較例によって、さらに具体的に説明する。なお、本発明の技術的思想はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1〜21、比較例1〜6)
表1に示すように、実施例1〜21、比較例1〜6では、アルミニウム基材であるアルミニウム合金板の表面に、撥水性皮膜を以下のようにして形成し、プレコートアルミニウム板を製造した。
【0055】
即ち、まず、アルミニウム合金板(1100−H24材、0.100mm厚さのもの)を用意した。そして、アルミニウム合金板を弱アルカリ脱脂し、水洗した後に乾燥した。
次に、このように処理したアルミニウム合金板の表面に、実施例2、比較例1〜6では、塗布型クロメート(日本ペイント社製SAT427)を塗布し、180℃で加熱して10秒間焼付けし、金属クロム換算にて、クロム付着量が10mg/m2 の塗布型クロメート系の化成皮膜を下地皮膜として形成した。
【0056】
また、実施例3〜21では、下地処理にエポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂を用い、240℃で加熱して10秒間焼付けすることによって、有機耐食性皮膜で下地皮膜を形成した。なお、実施例1では、アルミニウム合金板の表面に下地皮膜を形成しなかった。なお、表1には示していないが、実施例3、8及び14ではエポキシ系樹脂の有機耐食性皮膜の下層に、塗布型クロメート系の化成処理皮膜を形成した。
【0057】
また、実施例6〜実施例21(実施例7、8を除く)では、エポキシ系樹脂にシリカ微粒子(平均粒子径7μmのもの)を添加した。また、実施例7では、エポキシ系樹脂にアルミナ微粒子(平均粒子径5μmのもの)を添加し、実施例8では、ポリエステル樹脂にシリカ微粒子(平均粒子径7μmのもの)を添加した。なお、実施例3〜5では下地処理のための樹脂成分にシリカ微粒子を添加していない。
【0058】
その後、このように処理したアルミニウム合金板について、各実施例、各比較例では、表1に示す撥水性成分、潤滑性成分(実施例13ではポリプロピレングリコール(PPG)、その他の実施例ではPEG)を混合し、皮膜組成物(撥水性皮膜用組成物)を調整した。さらに、この皮膜組成物をバーコーターを用い、アルミニウム合金板の表面に、下地皮膜の上から塗布した。
【0059】
その後、オーブンを用い、アルミニウム合金板の表面温度(PMT)がほぼ80℃の状態で20秒間加熱して皮膜組成物をアルミニウム合金板の表面に焼付け、プレコートアルミニウム板を得た。
このようにして得られたプレコートアルミニウム板について、撥水性、加工性(潤滑性、成形性)、塗膜密着性を後述する方法で測定した。この結果を、表1に示す。
【0060】
なお、実施例3〜21において、下地皮膜の形成に使用した樹脂材料(成分)はそれぞれ以下のものである。
・エポキシ系樹脂(カルボキシル基含有アクリル系樹脂で変性したビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:約3800)
・ポリエステル系樹脂(テレフタル酸+イソフタル酸/エチレングリコール、数平均分子量:15000)
・アクリル系樹脂(ポリアクリル酸ポリマー、数平均分子量:9000)
・ウレタン系樹脂(トリレンジイソシアネート/ポリエチレングリコール、数平均分子量:100,000)
【0061】
また、各実施例、各比較例において、撥水性成分に使用した樹脂材料(成分)は以下のものである。
・エポキシ系樹脂(ビスフェノールAエポキシ樹脂にアクリル樹脂を付与させたエステル型エポキシ樹脂、エポキシ当量:約3800)
・フッ素系樹脂(フルロテクノロジ社製フロロサーフFS−6010)
【0062】
【表1】


注 ※ )金属クロム換算にてクロム付着量(mg/m)を表示。
略語対照)EPO:エポキシ系樹脂
PET:ポリエステル系樹脂
ACR:アクリル系樹脂
URE:ウレタン系樹脂
CHC:塗布型クロメート
SIP:シリカ微粒子
AIP:アルミナ微粒子
FLR:フッ素系樹脂
PEG:ポリエチレングリコール
PPG:ポリプロピレングリコール
STNa:ステアリン酸ナトリウム
【0063】
なお、各実施例、各比較例で得られたプレコートアルミニウム板について、撥水性、加工性(潤滑性、成形性)、塗膜密着性は、以下に示す方法で測定した。
【0064】
〔撥水性〕
各プレコートアルミニウム板を純水に30分浸漬し、その後、ゴニオメーターを用いてプレコートアルミニウム板の表面に付着した水滴の接触角を測定することで撥水性を評価した。
撥水性について、表1に示す記号◎、○、△、×は、それぞれ以下に対応し、このうちの◎及び○は、評価結果が、フィン材に要求される性能を満足し、合格であることを意味する。
◎:接触角が130°以上
○:接触角が100°以上、130°未満
△:接触角が80°以上、100°未満
×:接触角が80°未満
【0065】
〔加工性〕
各プレコートアルミニウム板について、プレス加工機を用い、ドローレス成形によってフィン材を成形し、加工性としての下記潤滑性及び成形性を評価した。
このドローレス成形は、揮発性プレスオイルとして出光興産製のAF−2C(型番)を用い、しごき率は58%、成形速度は250spmとした。
【0066】
(潤滑性)
各プレコートアルミニウム板について、バウデン式摩擦係数測定器により、荷重100g、直径1/2インチステンレス球を用いてAF−2C(出光興産)を塗油し、15回往復摺動させたときの動摩擦係数を測定することにより潤滑性を評価した。
潤滑性について、表1に示す記号◎、○、△、×は、それぞれ以下に対応し、このうちの◎及び○は、評価結果が、フィン材に要求される性能を満足し、合格であることを意味する。
◎:0.05未満
○:0.05以上0.10未満
△:0.10以上0.15未満
×:0.15以上
【0067】
(成形性)
成形性については、各プレコートアルミニウム板からフィン材を成形した状態を目視で観察することで行った。表1に示す記号◎、○、△、×は、それぞれ以下に対応し、このうちの◎及び○は、評価結果が、フィン材に要求される性能を満足し、合格であることを意味する。
◎:非常に良好
○:良好
△:カラー部内面にキズ発生
×:不良(座屈、カラー飛び発生)
【0068】
〔塗膜密着性〕
JIS H4001に従い、アルミニウム基材と撥水性皮膜と塗膜付着性を評価した。そして、各プレコートアルミニウム板について、碁盤目におけるテープ剥離後の残存個数を測定することにより塗膜密着性を評価した。表1に示す記号○、×は、それぞれ以下に対応し、このうちの○は、評価結果が、フィン材に要求される性能を満足し、合格であることを意味する。
○:塗膜残存率 100%
×:塗膜残存率 100%未満
【0069】
表1に示すように、実施例1〜21についてはいずれも、撥水性、加工性(潤滑性、成形性)、塗膜密着性の全ての評価項目について、評価結果が合格した。中でも、実施例6〜21は、撥水性皮膜を形成する前に、アルミニウム基材の表面にシリカ微粒子(実施例7を除く)、アルミナ微粒子(実施例7)を含んだ下地皮膜を形成したため、優れた撥水性を示していることが判る。
【0070】
これに対し、比較例1〜6は、いずれも、撥水性、加工性(潤滑性、成形性)、塗膜密着性のうちのいずれか1つの評価結果が不合格となった。
即ち、比較例1は、アルミニウム基材表面の皮膜が撥水性皮膜ではないエポキシ系皮膜であったため、撥水性について不合格となった。また、比較例2では、撥水性皮膜に潤滑性成分を含まないため、加工性としての潤滑性及び成形性について不合格となった。また、比較例3は、潤滑性成分であるPEGに代えて、潤滑性成分でないステアリン酸ナトリウムを含ませたため、潤滑性及び成形性について不合格となった。また、比較例4は、撥水性皮膜に含まれる潤滑性成分の含有量が不足していため、潤滑性及び加工性について不合格となった。また、比較例5は、撥水性皮膜に含まれる潤滑性成分の含有量が過剰であったため、塗膜密着性について不合格となった。さらに、比較例6は、撥水性皮膜の、アルミニウム基材表面への皮膜量が不足していたため、撥水性、潤滑性及び成形性のいずれについても不合格となった。
【0071】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態や実施例が可能とされるものである。また、上述した実施形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0072】
10 金属塗装板
11 金属基材(アルミニウム又はアルミニウム合金板)
12 下地皮膜
13 撥水性皮膜(撥水性樹脂+PEG)
14 シリカ微粒子(無機微粒子)
14a 撥水性皮膜の表面の凹凸形状
15 液状の皮膜組成物
16 オーブン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、該金属基材の表面に形成された撥水性皮膜と、を備え、
前記撥水性皮膜は、フッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂からなる撥水性樹脂と、潤滑性成分としての、末端に水酸基を有するポリエーテル化合物と、を含有し、
前記潤滑性成分の含有量が、前記撥水性皮膜に対して5〜50mass%、かつ、前記撥水性皮膜の皮膜量が、前記金属基材の表面積に対して0.01〜3g/mである、
ことを特徴とする金属塗装材。
【請求項2】
前記潤滑性成分が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体、及びエチレングリコール・プロピレングリコール共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の金属塗装材。
【請求項3】
前記潤滑性成分が、重量平均分子量が4000〜40000のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属塗装材。
【請求項4】
前記金属塗装材は、前記金属基材と前記撥水性皮膜との間に下地皮膜をさらに備え、
前記下地皮膜が有機皮膜であって、且つ、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂成分を含み、当該下地皮膜の皮膜量が、前記金属基材の表面積に対して0.01〜10g/mであることを特徴する請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属塗装材。
【請求項5】
前記金属基材と前記下地皮膜との間に、化成処理皮膜が設けられ、
前記化成処理皮膜が、クロム系、ジルコニウム系及びチタン系からなる群から選ばれる少なくとも1種であって、金属元素換算にて5〜15mg/mの金属を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属塗装材。
【請求項6】
前記下地皮膜が、前記樹脂成分に無機微粒子を含有しており、
前記無機微粒子の含有量が前記下地皮膜に対して5〜50mass%であることを特徴する請求項4に記載の金属塗装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235457(P2011−235457A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106438(P2010−106438)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】