説明

金属微粒子の製造方法及びそれにより得られる金属ペースト並びに金属皮膜

【課題】高純度かつ安価な金属微粒子を提供する。
【解決手段】金属濃度=金属の質量(g)×100(%)/反応溶液の質量(g)(mass%)で定義したとき、金属濃度の値が1mass%以上90mass%以下の範囲となるよう金属化合物とアミン保護剤とを混合し、この溶液を加熱・攪拌することで金属化合物を還元し、アミン保護剤によって被覆された金属微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき代替材料や微細配線形成材料として使用され、低温焼結性に優れる金属微粒子の製造方法及びそれにより得られる金属ペースト並びに金属皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子の製造方法は、大別して気相法、液相法の2種類が存在する。
【0003】
気相法による金属微粒子の製造方法としては、特許文献1に開示されているような、真空チャンバ内で金属塊を気化させ、その気体に金属微粒子同士の凝集を防ぐ保護剤の蒸気を接触させ、これを冷却し、金属微粒子を製造する方法がある。
【0004】
液相法による金属微粒子製造方法としては、特許文献2に記載されているような、溶液中で金属イオンを還元し、金属原子の核を少しずつ成長させていくことで、金属微粒子を製造する方法がある。また、特許文献3に記載されているような、金属錯体化合物を保護剤とともに加熱することで熱分解し、金属微粒子を析出させる製造方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【特許文献2】特開平5−117726号公報
【特許文献3】特開2007−63579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1にかかる問題点は、金属微粒子の製造コストが高価なことである。気相法の反応では、真空系やチャンバが必要であり、さらに金属塊を気化させるエネルギー源としてプラズマや電子ビーム、レーザー、誘導加熱といった装置が必要となり、これらは一般的に装置価格もランニングコストも高価という問題がある。さらに、気相法は製造速度も低いために、製造にあたる人件費も拡大する。
【0007】
特許文献2にかかる問題点は、気相法ほどではないものの金属微粒子の製造コストが高価であることと、得られる金属微粒子の純度が低いということである。液相法は、気相法と比べて装置が汎用的であり、初期設備費やランニングコストが安価である。しかし、工業的な観点からみた場合、従来液相法の製造速度は不十分である。その理由は次のように説明される。
【0008】
液相法において、微細な金属微粒子を得るためには、金属イオンからの金属微粒子の粒子成長速度を調節する必要がある。金属イオンの拡散速度は非常に速いために、粒子は粗大化し易い。金属微粒子の粒子成長速度を抑制するためには、金属微粒子表面に析出する単位時間あたりの金属原子量を減らせばよい。そのためには反応溶液中の金属イオン濃度を低濃度とすればよいが、それに伴い単位時間に得られる金属微粒子量は減少することになる。つまり液相法では、設備費は安価であるが単位時間の製造量が少ないために、気相法ほどではないにせよ、結局、金属微粒子の製造コストは高価となる。
【0009】
さらに液相法においては合成後の液中に原料である金属塩由来のカチオン(例えば、ナトリウムイオン)やアニオン(例えば、ハロゲン化物イオン、シアン化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンなど)が残存するため、これら不純物は金属微粒子の純度を低下させ、焼結性や触媒活性などの特性を悪化させる。
【0010】
特許文献2の均一イオン溶液による合成法の課題である金属濃度が低いことを解決する手法として、特許文献3の錯体分解法がある。錯体分解法は、金属錯体を溶媒中に溶解させず、金属錯体(固体)と溶媒(液体)が共存する固液不均一溶液中で、金属錯体を熱分解し、金属微粒子を析出させるという手法である。
【0011】
錯体分解法は合成時の金属濃度が高く、そのために製造速度が非常に高く、安価に金属微粒子を製造することができる。しかし、金属錯体を調整するという工程が入るため、その分の収率低下やコスト上昇は避けられない。さらに、金属錯体中には目的とする金属以外の不要な元素が含まれているため、それらが不純物として金属微粒子の純度を低下させ、焼結性や触媒活性などの特性を悪化させる課題がある。金属錯体中の不要な元素としては、例えば、ナトリウム、ハロゲン、硫黄、リンなどがある。
【0012】
従来の金属微粒子製造法の懸かる問題を鑑みて為された本発明の目的は、高純度かつ安価な金属微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために創案された本発明は、金属濃度=金属の質量(g)×100(%)/反応溶液の質量(g)(mass%)で定義したとき、金属濃度の値が1mass%以上90mass%以下の範囲となるよう金属化合物とアミン保護剤とを混合し、この溶液を加熱・攪拌することで金属化合物を還元し、アミン保護剤によって被覆された金属微粒子を析出させる金属微粒子の製造方法である。
【0014】
前記金属化合物は、酢酸銀、酸化銀、炭酸銀、オレイン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、酸化金、酸化白金、ビス(アセチルアセトナト)白金、酸化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、酸化ロジウム、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、オクタン酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、アセチルアセトナト(η4−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)、酸化イリジウム、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)、酸化ルテニウム、酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、水酸化鉄、酸化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、蟻酸ニッケル、水酸化ニッケルの群から少なくとも1種類選択されると良い。
【0015】
前記アミン保護剤が、式 NH21あるいはNHR12あるいはNR123
(式中、R1及びR2及びR3は、炭素数C=2〜16のアルキル基を表す)で示される脂肪族アミン化合物から選択されると良い。
【0016】
また本発明は、上記の製造方法により得られた金属微粒子と、溶剤組成物とを含んでなる金属ペーストである。
【0017】
また本発明は、上記の金属ペーストを用いて形成された金属皮膜である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高純度かつ安価な金属微粒子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施例に係る金微粒子のXRD測定結果を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施例に係る金微粒子のFE−SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、ナトリウムやハロゲン、硫黄、リンなどを含まない金属化合物を、アミン保護剤の存在下において、加熱・還元することで微細な金属微粒子が生成し、かつ、得られた金属微粒子の特性が優れたものになるという新規な事実に着目し、鋭意研究を進捗し、以下の発明を完成させた。
【0021】
すなわち本発明は、金属化合物と、アミン保護剤とを混合し、この反応溶液を加熱・攪拌することで金属化合物を還元し、アミン保護剤によって被覆された金属微粒子を析出させることを特徴とする。なお、反応溶液は金属化合物とアミン保護剤とを混合してなるものである。
【0022】
本発明の製造方法と従来の均一イオン溶液の製造方法との違いは次のように説明される。本発明の原料溶液(反応溶液)の態様は、金属化合物がアミン保護剤に不溶であるため、金属化合物(固体)とアミン保護剤(液体)が共存した不均一固液溶液である。この溶液を加熱することで、アミンの還元作用によって、金属化合物表面からしだいに金属核が析出する。析出した金属核に関して、次の2種類の相反する反応が起こる。1つは金属原子の取り込みによる核成長反応であり、もう1つはアミン保護剤の吸着による核成長抑制反応である。どちらの反応が優先するかによって、粒子の微細化あるいは粗大化が決定される。金属核の生成速度が速ければ粒子は粗大化し、反対に金属核の生成速度が遅ければ粒子は微細化する。
【0023】
金属化合物表面からの金属核の生成反応(固体−液体反応)は、従来の均一イオン溶液において金属核が生成する反応に比べて、非常に遅い。この理由は次のように説明される。
【0024】
均一イオン溶液中では、金属イオンに対して、還元剤によって電子を与えることで、金属イオンが還元され金属核として析出する。均一イオン溶液中では、イオンの拡散速度が速いために金属核の析出速度も速くなる。そのため、ある金属核の周囲に、他の金属核が存在する確率が高くなる。したがって、金属核の核成長が起こりやすく、粒子が粗大化しやすい。
【0025】
一方、本発明において、金属化合物表面から金属核を析出させるには、金属化合物結晶中の金属原子の化学結合(イオン結合や配位結合)を、アミン保護剤の作用によって切断する必要がある。イオン結合や配位結合の切断には大きなエネルギーを必要とする。さらに金属化合物(固体)とアミン保護剤(液体)という異種界面での反応であるため、先に説明した均一イオン溶液のイオン拡散反応よりも、反応速度が遅い。それに伴い金属核の析出速度も遅くなる。そのため、ある金属核の周囲に、他の金属核が存在する確率が低くなる。したがって、金属核の融合による核成長反応が比較的起こりにくく、金属核がアミン保護剤によって被覆される反応が優先され、最終的に微細な金属微粒子が得られる。
【0026】
本発明に使用可能な金属化合物としては、酢酸銀、酸化銀、炭酸銀、オレイン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、酸化金、酸化白金、ビス(アセチルアセトナト)白金、酸化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、酸化ロジウム、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、オクタン酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、アセチルアセトナト(η4−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)、酸化イリジウム、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)、酸化ルテニウム、酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、水酸化鉄、酸化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、蟻酸ニッケル、水酸化ニッケルの群から選択可能であり、2種類以上組合わせて使用することも可能である。2種類以上の金属化合物を用いた場合、金属種の組合わせによって金属間結合を持った合金微粒子を得ることができる。
【0027】
上記の金属化合物中には、除去が困難な元素(例えば、ナトリウム、ハロゲン、硫黄、リン)が含まれていないため、合成した金属微粒子溶液を容易に精製処理でき、さらに金属微粒子の純度も高いために、焼結性や触媒活性などの金属微粒子としての特性が優れたものとなる。特に、金属酸化物や貴金属酸化物は、構成元素に金属と酸素のみを含んでおり、毒性が低いものが多く、かつ合成反応時に有毒ガスを発生する虞がないことから好適に用いることができる。
【0028】
合成時における金属濃度としては、金属濃度=金属の質量(g)×100(%)/反応溶液の質量(g)(mass%)で定義したとき、金属濃度の値が1〜90mass%の範囲で設定することができる。より望ましい金属濃度は、1〜65mass%の範囲である。その理由は次のように説明される。
【0029】
金属化合物中に含まれている金属の質量を計算すると、金属濃度が90mass%未満であるものが多く、そのような金属化合物を用いた場合、90mass%を超える金属濃度で合成することは理論上不可能である。さらに、微細な金属微粒子を得るためには、一定量のアミン保護剤が必要であり、化学量論上、金属化合物を還元し、吸着するのに必要なアミン保護剤量を計算していくと、金属濃度の上限は90mass%であり、実験上も90mass%を超えるような条件では金属化合物が還元せず残存する結果や、あるいは粗大な金属粒子が生成する結果となる。他方、1mass%未満では、単位時間の金属微粒子製造量が従来の均一液相法と変わらないため、金属微粒子の製造コストが安価にならない。
【0030】
使用する金属化合物やアミン保護剤の組合わせにもよるが、微細な金属微粒子を高収率で得るためには、金属濃度は1〜65mass%の範囲にあることがより望ましい。
【0031】
本発明に使用可能なアミン保護剤として、第一級アミン(NH21)あるいは第二級アミン(NHR12)あるいは第三級アミン(NR123)(式中、R1及びR2及びR3は、炭素数C=2〜16のアルキル基を表す)で示されるアミン化合物から選択することが可能であり、異なるアミン化合物を2種類以上組合わせて使用しても良い。
【0032】
このようなアミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ステアリルモノエタノールアミン、デシルモノエタノールアミン、ヘキシルモノプロパノールアミン、ベンジルモノエタノールアミン、フェニルモノエタノールアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、ジオレイルモノエタノールアミン、ジラウリルモノプロパノールアミン、ジオクチルモノエタノールアミン、ジヘキシルモノプロパノールアミン、ジブチルモノプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンなどがある。
【0033】
アミン保護剤は、窒素原子上の非共有電子対の作用によって、金属表面に対して配位的な吸着が可能であり、金属微粒子の粒子成長速度を抑制することができる。同時に、アミン保護剤は金属化合物を還元する還元剤としても作用するため、合成に使用する金属化合物を還元するのに必要な還元力を有するアミン保護剤を適宜用いればよい。
【0034】
アミン保護剤の還元性は、窒素原子上の非共有電子対の電子密度の強弱に依存する。一般的には、電子供与性のアルキル基が多いほど窒素原子上の非共有電子対の電子密度は高くなり、還元性も高くなる。そのため、2級アミンや3級アミンの方が、1級アミンよりも還元性が強いことになる。2級アミンと3級アミンの還元性については、アルキル基数に由来する電子密度に加えて、アルキル基の立体的な因子も関係するため、還元性の強弱は明瞭でなく、実験上、金属化合物を還元する能力の高い級数のアミン化合物を選択すればよい。また、金属化合物の還元反応は加熱温度を高くすることで進行しやすくなるため、目的とする加熱温度よりも高い沸点を有するアミン化合物を適宜選択することが望ましい。
【0035】
アミン保護剤の添加量としては、金属濃度=金属の質量(g)×100(%)/反応溶液の質量(g)(mass%)で定義したとき、金属濃度の値が1〜90mass%となるような範囲で設定することができる。より望ましいアミン保護剤の添加量としては、金属濃度が1〜65mass%の範囲となるような値である。
【0036】
90mass%を超えるような条件では、金属化合物に対してアミン保護剤が少なく、化学量論上、金属化合物を還元し、吸着するのに必要なアミン保護剤量が確保できなくなり、金属化合物が還元せず残存する虞や、あるいは粗大な金属粒子が生成する虞がある。他方、1mass%未満では、金属化合物に対してアミン保護剤が過剰であり、単位時間の金属微粒子製造量が従来の均一イオン溶液による製造量と変わらないため、金属微粒子の製造コストが安価にならない。
【0037】
化学量論上、必要最小のアミン保護剤の添加量は、次の3種類の量の和となる。すなわち、(1)金属化合物を還元するのに必要な量、(2)微細な金属微粒子を被覆するのに必要な量、(3)副次的反応によって消費される量、である。
【0038】
(1)の金属化合物を還元するのに必要な量は、金属化合物とアミンの酸化還元反応を考慮し、決定すればよい。(2)の微細な金属微粒子を被覆するのに必要な量は、ある粒子径の金属粒子がある量生成すると仮定した場合、全ての金属微粒子の表面積を覆うのに必要なアミン化合物の吸着面積を考慮することで決定することができる。(3)の副次的反応とは、金属化合物の還元反応以外の反応を意味し、例えば、金属化合物の一つである酢酸銀中の酢酸とアミンが酸−塩基反応し、酢酸アミン塩が形成するような反応のことである。副次的な反応によってアミンが消費される場合は、その反応に必要な分のアミン量を算出し、加える必要がある。副次的な反応によって消費されるアミンを考慮しないと、(1)や(2)の反応に寄与するアミンが不足し、金属化合物が還元せず残存する虞や、あるいは金属粒子の核成長が抑制できない虞がある。
【0039】
金属微粒子製造時の加熱温度としては、金属化合物やアミン化合物の添加量や種類によって適宜選択することができる。実験上の目安としては、金属化合物の分解温度を超えない温度であり、かつ、アミン保護剤の沸点を超えない温度であることが望ましい。金属化合物の分解温度を超える温度では、金属化合物の分解・還元が急進的に起こり、金属微粒子が粗大化する虞がある。アミン保護剤の沸点を超える温度では、アミン保護剤の金属表面に対する吸着反応が起こりにくくなり、金属微粒子が粗大化する虞がある。
【0040】
金属微粒子製造時の合成時間としては、金属化合物の還元が完了する時間とすればよい。合成時間を過剰に長くすることは、金属微粒子が核成長しすぎるため、粒子が粗大化する虞があり、好ましくない。
【0041】
金属微粒子製造時の雰囲気としては、製造する金属微粒子の種類に応じて適宜選択することができる。貴金属(Ag、Au、Pt、Pd、Rh、Ru、Irなど)の微粒子を製造する場合、貴金属自体は酸化しないため、大気中雰囲気で製造可能である。しかし、貴金属以外の金属微粒子を製造する場合、金属微粒子の酸化を防ぐ目的で、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気にすることが必要である。また、金属の種類によらず、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気での合成は、アミン保護剤が大気中の酸素や水分と反応するのを抑制できるため、望ましい。
【0042】
本発明によれば、金属化合物はアミン化合物に対して不溶であるため、合成時の金属濃度を非常に高くすることが可能であり、そのために単位時間あたりの製造量が多く、安価に金属微粒子を製造できる。さらに、原料として使用する金属化合物中には、除去の困難な不純物元素(例えば、ナトリウム、ハロゲン、硫黄、リン)が含まれていないため、得られる金属微粒子の純度が高く、特性も優れたものとなる。
【0043】
本発明の製造方法により得られる金属微粒子の好ましい粒子径は1nm〜100nmである。
【0044】
また、本発明の製造方法によって得られた金属微粒子は、溶剤組成物と混合することで低温焼結性に優れる金属ペーストとして利用することができる。本発明の金属微粒子は不純物をほとんど含まないため、溶剤組成物に分散しやすく、均一な金属ペーストとなるため、塗布性にも優れる。
【0045】
利用可能な溶剤組成物の種類としては、水、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、アミン類、チオール類、単糖類、多糖類、直鎖の炭化水素類、脂肪酸類、芳香族類の群から選択することが可能であり、複数の溶剤を組み合わせて使用することも可能である。上記の群の中から、金属微粒子を覆うアミン保護剤と親和性のある溶剤を選択することが望ましい。さらに溶剤組成物としては、金属ペーストをコーティング可能な適正な粘度に調整でき、また室温で容易に蒸発しない、比較的高沸点な低極性溶剤あるいは非極性溶剤であることが望ましく、より具体的には、炭素数8〜16個のノルマルの炭化水素やトルエン、キシレン、1−デカノール、テルピネオールなどを好適に用いることが可能である。また、金属ペーストの成形性、粘度などを調節する目的で、溶剤中にワックスや樹脂を添加剤として微量に加えることも可能である。
【0046】
本発明の金属ペーストは必要量を必要な面積に塗布することが可能であり、従来の蒸着法やめっき法と比較して、金属使用量を低減できる。さらに、バッチプロセスの蒸着法と異なり、金属ペーストは連続プロセスでの塗布が可能であることから、製品へ適用した場合に製造速度を損ねることがない。加えて、めっき法におけるめっき液は毒劇物であるが、金属ペーストでは微粒子合成段階からペースト組成物までの全過程で使用される薬品が比較的安全であり、全体の使用量も少ないことから、環境負荷も小さいものとなる。また、本発明の金属ペーストは、金属ペースト中の原料となる金属微粒子の純度が高いことから、塗布性や焼結性が優れている。
【0047】
さらに、本発明の金属ペーストを焼成して得られる金属皮膜は、基本的な特性、例えば純度、体積抵抗率、反射率、密度、硬度、強度なども良好なものとなる。
【0048】
以上要するに、本発明は、金属化合物(固体)とアミン保護剤(液体)の固液不均一反応を利用することで、金属核の成長速度を制御し、金属の仕込み濃度を均一イオン溶液の製造方法よりも高い条件とすることが可能である。
【0049】
そのため、単位時間に多くの金属微粒子を得られ、金属微粒子の製造コストを従来よりも大幅に低下することができる。さらには、本発明で使用する金属化合物は、ナトリウムやハロゲン、硫黄、リンなどを含有していないため、得られる金属微粒子は純度が高く、触媒特性や焼結性が優れたものとなる。また、本発明の製造方法により得られた金属微粒子を含む金属ペーストを焼成することで得られる金属皮膜の特性も良好となる。以上より、本発明では特性の良い金属微粒子の安価な製造方法を提供できる。
【実施例】
【0050】
以下に、具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの具体例は、本発明にかかる最良の実施の形態の一例ではあるものの、本発明はこれらの具体例により限定を受けるものではない。
【0051】
各実施例における各物性の測定は、次のようにして実施した。
(1)定性分析
金属微粒子の相同定は、粉末X線回折装置「RINT2000」(株式会社リガク製)を用いたXRD測定により行った。
(2)平均粒子径
金属微粒子の粒子観察には、FE−SEM(日立製S−5000)を使用した。
(3)金皮膜の体積抵抗率
金属膜の体積抵抗率測定には、4探針電気抵抗測定装置を用いた。
【0052】
(実施例1)
酸化金としてAu23・1.5H2O(式量:468.8g/mol)を2.0g(含有Au質量:1.69g)、アミン保護剤としてトリエチルアミン(分子量:101.1g/mol)を4.31g(物質量:0.044mol)、アミン保護剤としてドデシルアミン(分子量:185.35g/mol)を0.79g(物質量:0.0042mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液(反応溶液)中に含まれる金属金の濃度は、約23.6mass%である。
【0053】
この混合溶液を攪拌しながら、75℃で1時間加熱し、Au23・1.5H2Oを還元させ、ドデシルアミンおよびトリエチルアミンで被覆された金微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、金微粒子表面の過剰なドデシルアミンとトリエチルアミンを除去することで金微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に金微粒子粉末を得た。金微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0054】
この金微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、図1に示すように面心立方格子構造(fcc)を有する金属金であることが確認された。この金微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、赤色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、図2に示すように粒子径8〜25nmの金微粒子が確認された。
【0055】
(実施例2)
酸化銀としてAg2O(式量:231.72g/mol)を2.0g(含有Ag質量:1.86g)、アミン保護剤としてジプロピルアミン(分子量:101.1g/mol)を2.62g(物質量:0.0259mol)、アミン保護剤としてドデシルアミン(分子量:185.35g/mol)を1.59g(物質量:0.0086mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属銀の濃度は、約29.9mass%である。
【0056】
この混合溶液を攪拌しながら、90℃で1時間加熱し、Ag2Oを還元させ、ドデシルアミンおよびジプロピルアミンで被覆された銀微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、銀微粒子表面の過剰なドデシルアミンとジプロピルアミンを除去することで銀微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に銀微粒子粉末を得た。銀微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0057】
この銀微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属銀であることが確認された。この銀微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、黄色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径5〜15nmの銀微粒子が確認された。
【0058】
(実施例3)
酸化白金としてPtO2(式量:227.08g/mol)を2.0g(含有Pt質量:1.71g)、アミン保護剤としてジプロピルアミン(分子量:101.1g/mol)を4.45g(物質量:0.044mol)、アミン保護剤としてドデシルアミン(分子量:185.35g/mol)を1.63g(物質量:0.0088mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属白金の濃度は、約21.2mass%である。
【0059】
この混合溶液を攪拌しながら、100℃で2時間加熱し、PtO2を還元させ、ドデシルアミンおよびジプロピルアミンで被覆された白金微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、白金微粒子表面の過剰なドデシルアミンとジプロピルアミンを除去することで白金微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に白金微粒子粉末を得た。白金微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0060】
この白金微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属白金であることが確認された。この白金微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、黒色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径5〜12nmの白金微粒子が確認された。
【0061】
(実施例4)
ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)としてPd(C5722(式量:304.4g/mol)を2.0g(含有Pd質量:0.699g)、アミン保護剤としてビス(2−エチルヘキシル)アミン(分子量:241.46g/mol)を7.93g(物質量:0.0328mol)、アミン保護剤としてドデシルアミン(分子量:185.35g/mol)を1.21g(物質量:0.0065mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属パラジウムの濃度は、約6.27mass%である。
【0062】
この混合溶液を攪拌しながら、200℃で3時間加熱し、Pd(C5722を還元させ、ドデシルアミンおよびビス(2−エチルヘキシル)アミンで被覆されたパラジウム微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、パラジウム微粒子表面の過剰なドデシルアミンとビス(2−エチルヘキシル)アミンを除去することでパラジウム微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上にパラジウム微粒子粉末を得た。パラジウム微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0063】
このパラジウム微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属パラジウムであることが確認された。このパラジウム微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、黒色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径10〜25nmのパラジウム微粒子が確認された。
【0064】
(実施例5)
ビス(アセチルアセトナト)銅としてCu(C5722(式量:261.5g/mol)を2.0g(含有Cu質量:0.485g)、アミン保護剤としてビス(2−エチルヘキシル)アミン(分子量:241.46g/mol)を9.23g(物質量:0.038mol)、アミン保護剤としてドデシルアミン(分子量:185.35g/mol)を1.41g(物質量:0.0076mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属銅の濃度は、約3.84mass%である。
【0065】
この混合溶液を窒素雰囲気中、攪拌しながら、200℃で3時間加熱し、Cu(C5722を還元させ、ドデシルアミンおよびビス(2−エチルヘキシル)アミンで被覆された銅微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にアセトンを500g添加し、銅微粒子表面の過剰なドデシルアミンとビス(2−エチルヘキシル)アミンを除去することで銅微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に銅微粒子粉末を得た。銅微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0066】
この銅微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属銅であることが確認された。この銅微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、緑色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径8〜25nmの銅微粒子が確認された。
【0067】
(実施例6)
金微粒子粉末を次に記載する方法でペースト化し、金皮膜焼成の実験を実施した。実施例1で作製した金微粒子粉末(平均粒子径:約15nm)を2.0g、溶剤としてペンタデカン3.2g、展開溶媒としてn−ヘキサン3.4g、ドデシルアミン0.6g、ノネニル無水こはく酸0.41gを混合し、減圧蒸留(20℃、4mmHg)によってn−ヘキサン溶媒を除去することで金ペーストを作製した。金ペーストの粘度は約10mPa・sであり、金含有量は32mass%であった。
【0068】
この金ペーストをガラス基板上にスピンコート塗布し、温度250℃で30分間焼成した。得られた金皮膜の体積抵抗率は約6μΩcmであった。
【0069】
(実施例7)
酸化銀としてAg2O(式量:231.72g/mol)を2.0g(含有Ag質量:1.86g)、アミン保護剤としてジプロピルアミン(分子量:101.1g/mol)を0.88g(物質量:0.0087mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属銀の濃度は、約64.6mass%である。
【0070】
この混合溶液を攪拌しながら、90℃で1時間加熱し、Ag2Oを還元させ、ジプロピルアミンで被覆された銀微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、銀微粒子表面の過剰なジプロピルアミンを除去することで銀微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に銀微粒子粉末を得た。銀微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0071】
この銀微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属銀であることが確認された。この銀微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、黄色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径30〜100nmの銀微粒子が確認された。
【0072】
(比較例1)
酸化銀としてAg2O(式量:231.72g/mol)を2.0g(含有Ag質量:1.86g)、アミン保護剤としてジプロピルアミン(分子量:101.1g/mol)を0.01g(物質量:9.88×10-5mol)混合し、100mlのナス型フラスコ中に加えた。混合溶液中に含まれる金属銀の濃度は、約92.6mass%である。
【0073】
この混合溶液を攪拌しながら、90℃で1時間加熱した。n−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過したが、大部分の粒子が濾紙上に残存した。濾紙上の粒子(Ag微粒子:5〜15nm、Ag2O粒子:1〜4μm)を回収し、40℃で1時間乾燥させた。
【0074】
この微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、AgおよびAg2Oの混合物であることが確認された。本比較例における金属銀の濃度では、Ag2Oを還元するのに必要なジプロピルアミンが不足し、Ag2Oが残存する結果となった。
【0075】
(比較例2)
酸化銀としてAg2O(式量:231.72g/mol)を2.0g(含有Ag質量:1.86g)100mlのナス型フラスコ中に加えた。金属銀の濃度は、約93.1mass%である。このAg2O粉末を300℃で1時間加熱した。加熱後、数mmの銀色の粒子が生成した。
【0076】
この粒子のXRD測定を行ったところ、Agであることが確認された。アミン保護剤を添加しない条件では、粗大な銀粒子が生成する結果となった。
【0077】
(比較例3)
本発明の金微粒子と錯体分解法(例えば、特許文献3の実施例1に記載される方法)の金微粒子の特性を比較する目的で、次の合成実験を実施した。
【0078】
AuCl(S(CH32)を0.295g(含有Au質量は0.197g、物質量:0.001mol)、ヘキサデシルアミン(n−C1633NH2)を2.41g(物質量:0.01mol)混合し、パイレックス(登録商標)製三つ口フラスコに入れた。混合溶液中に含まれる金属金の濃度は、約2.55mass%である。
【0079】
この混合溶液を攪拌しながら、120℃で1時間加熱し、AuCl(S(CH32)を還元させ、ヘキサデシルアミンで被覆された金微粒子の分散液を得た。この分散液にn−ヘキサンを100g添加し、1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾液を回収した。濾液にメタノールを500g添加し、金微粒子表面の過剰なヘキサデシルアミンを除去することで金微粒子を沈殿させた。この分散液を1μm厚の濾紙を用いて濾過し、濾紙上に金微粒子粉末を得た。金微粒子粉末を40℃で1時間乾燥させた。
【0080】
この金微粒子粉末のXRD測定を行ったところ、fcc構造を有する金属金であることが確認された。この金微粒子粉末をn−ヘキサン溶媒中に再分散させたところ、赤色の溶液が得られた。この溶液をマイクログリッド(応研商事株式会社製、STEM150Cuグリッド)に滴下し、室温で乾燥した。これをFE−SEMにより観察したところ、粒子径5〜20nmの金微粒子が確認された。
【0081】
この金微粒子粉末を次に記載する方法でペースト化し、金皮膜焼成の実験を実施した。
【0082】
金微粒子粉末(粒子径:5〜20nm)を2.0g、溶剤としてペンタデカン3.2g、展開溶媒としてn−ヘキサン3.4g、ドデシルアミン0.6g、ノネニル無水こはく酸0.41gを混合し、減圧蒸留(20℃、4mmHg)によってn−ヘキサン溶媒を除去することで金ペーストを作製した。金ペーストの粘度は約10mPa・sであり、金含有量は32mass%であった。
【0083】
この金ペーストをガラス基板上にスピンコート塗布し、温度250℃で30分間焼成した。得られた金皮膜の体積抵抗率は約12μΩcmであった。
【0084】
錯体分解法で製造した金微粒子表面には、原料であるAuCl(S(CH32)由来の塩素や硫黄などが付着しているために、金微粒子同士の焼結性が悪化し、体積抵抗率が高くなると考えられる。比較例3と実施例6の比較から、錯体分解法で得られた金微粒子よりも、本発明における金微粒子の方が焼結性に優れていることがわかる。
【0085】
なお本発明では、実施例で記載した以外の金属化合物から金属微粒子を製造することも可能である。その場合、使用する金属化合物の熱安定性(分解温度)や化学安定性を考慮して、製造する条件を選べばよい。
【0086】
酢酸銀、炭酸銀、オレイン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銅、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、ビス(アセチルアセトナト)白金、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、オクタン酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、アセチルアセトナト(η4−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)、酢酸鉄、シュウ酸鉄、水酸化鉄、炭酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、蟻酸ニッケル、水酸化ニッケルなどは、分解温度が比較的低いものが多い。そのため、加熱温度を適宜調節すれば、容易に金属化合物の還元反応が起こり、金属微粒子を得ることができる。
【0087】
酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化パラジウム、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの金属酸化物は、分解温度が比較的高いものが多い。しかしアミン(保護剤かつ還元剤)存在下での化学的な腐食(金属酸化物の還元)は、分解温度よりもはるかに低い温度で起こる。酸化パラジウム、酸化ロジウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウムなどの貴金属酸化物は、もともと貴金属酸化物の状態よりも貴金属単体の状態が安定であるため、アミン存在下で容易に還元し、貴金属微粒子を得ることができる。
【0088】
酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの貴金属酸化物は、熱的に安定である(分解温度が高い)。しかし、製造時の雰囲気を不活性雰囲気もしくは還元雰囲気とし、さらに還元性の強い2級アミンあるいは3級アミンを用いて加熱すれば、金属酸化物を還元することができる。大気中雰囲気と比較して、不活性雰囲気もしくは還元雰囲気では酸素が存在しないため、金属酸化物の分解温度が低下する(熱的に不安定になる)。さらに、析出した金属核が再度酸化することもない。還元性の強い2級アミンや3級アミンは、金属表面への吸着力も強いため、析出した金属微粒子表面を強固に保護することができる。以上のように、金属化合物の還元に関わる複数の要因(雰囲気、温度、アミンの構造)を適宜調節すれば、実施例以外の金属化合物も還元でき、金属微粒子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属濃度=金属の質量(g)×100(%)/反応溶液の質量(g)(mass%)で定義したとき、金属濃度の値が1mass%以上90mass%以下の範囲となるよう金属化合物とアミン保護剤とを混合し、この溶液を加熱・攪拌することで金属化合物を還元し、アミン保護剤によって被覆された金属微粒子を析出させることを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属化合物は、酢酸銀、酸化銀、炭酸銀、オレイン酸銀、ネオデカン酸銀、安息香酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、ビス(アセチルアセトナト)銅、酸化金、酸化白金、ビス(アセチルアセトナト)白金、酸化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、酸化ロジウム、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、オクタン酸ロジウム(II)、酢酸ロジウム(II)、アセチルアセトナト(η4−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)、酸化イリジウム、トリス(アセチルアセトナト)イリジウム(III)、酸化ルテニウム、酸化鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、水酸化鉄、酸化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト、酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、蟻酸ニッケル、水酸化ニッケルの群から少なくとも1種類選択される請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記アミン保護剤が、
式 NH21あるいはNHR12あるいはNR123
(式中、R1及びR2及びR3は、炭素数C=2〜16のアルキル基を表す)
で示される脂肪族アミン化合物から選択される請求項1又は2記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の製造方法により得られた金属微粒子と、溶剤組成物とを含んでなる金属ペースト。
【請求項5】
請求項4で得られた金属ペーストを用いて形成された金属皮膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−184451(P2012−184451A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46376(P2011−46376)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】