説明

金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法

【課題】本発明は、金属微粒子が高分散で担持され、金属微粒子のシンタリングを抑制できる金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能な窒素含有ポリマー、および有機金属化合物を含有する原料組成物を、エレクトロスピニング法により、上記窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する紡糸工程を有することを特徴とする金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子が高分散で担持され、金属微粒子のシンタリングを抑制できる金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ型燃料電池は使用環境がアルカリ性であり、固体高分子型燃料電池のように使用環境が強酸性ではないため、触媒材料の腐食が起こり難い。そのため、非貴金属触媒(例えばFe、Co、Ni等)が使用できるという利点を有する。触媒特性を高めるためには、触媒金属をナノサイズで微細分散させ、固定することが必要である。
【0003】
特許文献1においては、窒素含有ポリマー(例えばポリアクリロニトリル)に、有機金属化合物を混合した溶液を作製し、電界紡糸法により有機金属含有ポリマー繊維を作製し、さらにこれを焼成して、金属微粒子担持カーボンナノファイバーを作製することが開示されている。この方法では、金属微粒子が高分散で担持された金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができる。また、得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーを燃料電池に使用できることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特表2007−515364号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2005/028719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、電界紡糸を行った後に、さらに焼成を行っている。そのため、原料である窒素含有ポリマー(例えばポリアクリロニトリル)は完全に炭化され、金属微粒子は単にカーボンナノファイバー上に担持している状態となる。そのため、高温環境化において、金属微粒子の粒成長(シンタリング)が生じやすく、例えば触媒機能の劣化を引き起こす等の問題がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、金属微粒子が高分散で担持され、金属微粒子のシンタリングを抑制できる金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明においては、窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能な窒素含有ポリマー、および有機金属化合物を含有する原料組成物を、エレクトロスピニング法により、上記窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する紡糸工程を有することを特徴とする金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、窒素元素をカーボンナノファイバーに残留させることにより、その窒素元素が金属微粒子に配位することができる。これにより、単に金属微粒子をカーボンナノファイバー上に担持させる場合と比較して、金属微粒子とカーボンナノファイバーとの結合を強くすることができ、金属微粒子のシンタリングを抑制することができる。
【0009】
上記発明においては、上記窒素含有ポリマーが、ポリアクリロニトリルであることが好ましい。カーボンナノチューブの形成が容易だからである。
【0010】
上記発明においては、上記有機金属化合物として、中心金属の異なる複数の金属錯体を用いることが好ましい。異なる金属微粒子が高分散した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【0011】
上記発明においては、上記複数の金属錯体が、Fe含有錯体、Ni含有錯体およびCo含有錯体であることが好ましい。例えば直接エタノールアルカリ型燃料電池において有用な触媒機能を発揮する金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【0012】
上記発明においては、上記複数の金属錯体の中心金属の磁化率が互いに異なり、上記原料組成物が射出される方向とは交差する方向で、磁場を印加することが好ましい。磁場を印加することにより、金属錯体から形成される金属微粒子が金属の磁化率に応じて配置され、複数の金属微粒子が規則正しく配列した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、金属微粒子が高分散で担持され、金属微粒子のシンタリングを抑制できる金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法について、以下詳細に説明する。
【0015】
本発明の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法は、窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能な窒素含有ポリマー、および有機金属化合物を含有する原料組成物を、エレクトロスピニング法により、上記窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する紡糸工程を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、窒素元素をカーボンナノファイバーに残留させることにより、その窒素元素が金属微粒子に配位することができる。これにより、単に金属微粒子をカーボンナノファイバー上に担持させる場合と比較して、金属微粒子とカーボンナノファイバーとの結合を強くすることができ、金属微粒子のシンタリングを抑制することができる。また、本発明によれば、エレクトロスピニング法を用いるため、金属微粒子がナノサイズで高分散された金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができる。
【0017】
従来はエレクトロスピニング法(電界紡糸法)を行った後にさらに焼成を行い、カーボンナノファイバーの結晶性を高めていた。これは、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留していると、電子伝導性等の観点から好ましくないからである。すなわち、窒素元素が残留したカーボンナノファイバーは、欠陥品として扱われていたことになる。これに対して、本発明によれば、積極的に窒素元素をカーボンナノファイバーに残留させることにより、金属微粒子とカーボンナノファイバーとの結合を強くしたものであり、これにより、金属微粒子のシンタリングを抑制することができるのである。
【0018】
また、例えば金属微粒子を触媒として用いる場合、金属微粒子の表面は酸素と接触することで酸化し、触媒機能が低下することが想定される。本発明によれば、カーボンナノファイバーに残留した窒素元素が金属微粒子に配位することで、金属微粒子の表面が酸化され難い状態とすることができ、触媒機能が低下を抑制することができる。また、本発明によれば、例えば鉄、ニッケル、コバルト等の元素を含む有機金属化合物を使用することができるため、低コストで燃料電池用触媒等を製造することができる。また、カーボンナノファイバーは、一般的に強度、弾性、電子伝導性に優れているため、燃料電池用途等に特に有用である。
【0019】
図1は、本発明の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法の一例を説明する説明図である。図1においては、まず窒素含有ポリマー(例えばポリアクリロニトリル)と、有機金属化合物(例えば鉄(III)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート、およびコバルト(III)アセチルアセトナート)と、溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド)とを含む原料組成物1を用意し、シリンジ2に充填する。このシリンジ2のノズル3と収集板4とは、それぞれ高電圧発生器5に接続されており、所定の電圧が加えられるようになっている。次に、所定の電圧を加えた状態でシリンジ2から原料組成物1を射出する。これにより、シリンジ2から射出された原料組成物1は即座に高温に加熱され、原料組成物1に含まれる窒素含有ポリマーは、カーボンナノファイバーとなる。この際、本発明においては、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸を行う。
【0020】
図2は、ポリアクリルニトリルからカーボンナノファイバーが形成される化学変化を示す説明図である。ポリアクリロニトリル(図2(a))は加熱により縮合し、ヘテロ環構造(図2(b))が形成される。さらに加熱を行うと、より縮合反応が進行し(図2(c))、最終的には窒素元素が消失したカーボンナノファイバー(図2(d))が得られる。本発明においては、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸を行う。そのため、得られる金属微粒子担持カーボンナノファイバーは、残留した窒素元素が金属微粒子に配位したものになる。窒素−金属間の結合が生じることにより、金属微粒子のシンタリングを抑制できる金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるのである。
【0021】
本発明において、「カーボンナノファイバー」は、直径がナノオーダーの繊維状炭素をいい、カーボンナノチューブも含まれる。
以下、本発明における各工程について説明する。
【0022】
1.紡糸工程
本発明における紡糸工程は、窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能な窒素含有ポリマー、および有機金属化合物を含有する原料組成物を、エレクトロスピニング法により、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する工程である。
【0023】
(1)原料組成物
まず、本発明に用いられる原料組成物について説明する。本発明に用いられる原料組成物は、通常、窒素含有ポリマー、有機金属化合物および溶媒を含有する。
【0024】
上記窒素含有ポリマーは、窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能なポリマーであれば特に限定されるものではない。通常は、加熱により縮合し、ヘテロ環構造を形成できるポリマーであれば、カーボンナノファイバーを形成可能であるといえる。窒素含有ポリマーとしては、例えばポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル−アクリル酸)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ポリスチレン・ポリアミック酸等を挙げることができ、中でもポリアクリロニトリルが好ましい。
【0025】
上記窒素含有ポリマーの平均分子量は、カーボンナノファイバーを形成可能であれば特に限定されるものではない。例えば、窒素含有ポリマーがポリアクリロニトリルである場合、その重量平均分子量Mwは、例えば8,000〜13,000の範囲内であることが好ましい。
【0026】
原料組成物における窒素含有ポリマーの濃度は、例えば50vol%〜80vol%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、効率良くカーボンナノファイバーを形成できるからである。
【0027】
一方、原料組成物に用いられる有機金属化合物は、エレクトロスピニング法により金属微粒子を形成可能な化合物であれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、有機金属化合物が金属錯体であることが好ましい。上記金属錯体としては、例えばFe含有錯体、Ni含有錯体、Co含有錯体、Mn含有錯体、Mo含有錯体、Cu含有錯体、Cr含有錯体等の遷移金属系錯体;およびPt含有錯体、Pd含有錯体、Rh含有錯体、Ru含有錯体、Au含有錯体、Ag含有錯体等の貴金属系錯体を挙げることができる。
【0028】
上記Fe含有錯体としては、具体的には鉄(III)アセチルアセトナート等を挙げることができる。上記Ni含有錯体としては、具体的にはニッケル(II)アセチルアセトナート等を挙げることができる。上記Co含有錯体としては、具体的にはコバルト(III)アセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0029】
本発明においては、原料組成物が、単一の有機金属化合物を含有していても良く、複数の有機金属化合物を含有していても良い。また、原料組成物が複数の金属錯体を含有する場合、その複数の金属錯体の中心金属は、互いに同じであっても良く、異なっていても良い。中でも、本発明においては、有機金属化合物として、中心金属の異なる複数の金属錯体を用いることが好ましい。異なる金属微粒子が高分散した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。異なる金属微粒子の相互作用により、例えば触媒機能を向上させた金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができる。
【0030】
原料組成物が複数の金属錯体を含有する場合、複数の金属錯体は、Fe含有錯体、Ni含有錯体およびCo含有錯体であることが好ましい。例えば直接エタノールアルカリ型燃料電池において有用な触媒機能を発揮する金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【0031】
原料組成物における(単一の)有機金属化合物の濃度は、例えば5wt%〜30wt%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、金属微粒子がより高分散した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【0032】
また、原料組成物に用いられる溶媒は、窒素含有ポリマーおよび有機金属化合物を分散可能な溶媒であれば特に限定されるものではない。上記溶媒としては、具体的には、アセトン、クロロホルム、エタノール、イソプロパノール、メタノール、トルエン、テトラヒドロフラン、水、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、プロパノール、塩化メチレン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトン等を挙げることができる。
【0033】
原料組成物は、例えば、窒素含有ポリマー、有機金属化合物および溶媒を混合し、撹拌することにより形成することができる。撹拌時間としては、均一な原料組成物を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば24時間〜100時間の範囲内であることが好ましい。
【0034】
(2)紡糸条件
次に、本発明における紡糸条件について説明する。本発明においては、原料組成物を、エレクトロスピニング法により、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する。一般的に、エレクトロスピニング法とは、原料組成物を、高電圧を加えた状態で射出することにより、ナノファイバーを形成する方法をいう。
【0035】
本発明において、金属微粒子を担持するカーボンナノファイバーは、必ずしも高い結晶性を有する必要はない。本発明においては、所望の電子伝導性を発揮することができる程度のカーボンナノファイバーを形成することができれば、カーボンナノファイバーを形成可能であるといえる。
【0036】
本発明において原料組成物を射出する装置としては、径の細いノズルから原料組成物を射出することができる装置であれば特に限定されるものではない。ノズルの径としては、例えば10μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。ノズルの径が大きすぎると、均一に縮合反応が生じない可能性があり、ノズルの径が小さすぎると、目詰まりを起こす可能性があるからである。
【0037】
ノズルから原料組成物を射出するfeeding rateとしては、例えば0.05ml/m〜0.3ml/mの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、金属微粒子がより高分散した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。
【0038】
ノズルの先端から収集板までの距離としては、例えば5cm〜50cmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、金属微粒子がより高分散した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。また、ノズルから原料組成物を射出する射出方向は、特に限定されず、収集板の表面に対して垂直であっても良く、所定の角度を有していても良い。
【0039】
本発明においては、ノズルと収集板との間に所定の電圧を加えた状態で、原料組成物を射出する。印加する電場の強さとしては、例えば1kV/cm〜3kV/cmの範囲内であることが好ましい。なお、エレクトロスピニング法においては、ノズルと収集板との間に電場を形成できれば、電界の向きには依存しない。そのため、収集板を接地しても良いし、ノズルを接地しても良い。
【0040】
また、本発明において、原料組成物を射出する際の雰囲気は特に限定されるものではなく、酸素雰囲気下であっても良く、不活性ガス雰囲気下であっても良い。
【0041】
本発明においては、複数の金属錯体の中心金属の磁化率が互いに異なり、原料組成物が射出される方向とは交差する方向で、磁場を印加することが好ましい。磁場を印加することにより、金属錯体から形成される金属微粒子が金属の磁化率に応じて配置され、複数の金属微粒子が規則正しく配列した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができるからである。具体的には、図3に示されるように、窒素含有ポリマー、有機金属化合物および溶媒を含む原料組成物1をシリンジ2に充填し、高電圧発生器5により所定の電圧を加える。さらに、シリンジ2のノズル3から原料組成物1が射出される方向Aとは交差する方向Bで磁場を印加する。これにより、複数の金属微粒子が規則正しく配列した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができる。
【0042】
図4は、Fe含有錯体、Ni含有錯体およびCo含有錯体を用い、所定の磁場を印加した場合に形成される金属微粒子担持カーボンナノファイバーを説明する説明図である。各中心金属の磁化率は、Fe+3>Co+3>Ni+3になる。そのため、図4に示されるように、最も大きな磁化率を有するFeが磁化方向Bに沿って最も移動し、最も小さな磁化率を有するNiが磁化方向Bに沿って最も移動せず、それらの中間の磁化率を有するCoが、それらの中間位置に移動する。このようにして、Fe、CoおよびNiの各金属微粒子が規則正しく配列した金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得ることができる。
【0043】
Fe、CoおよびNiの各金属微粒子が規則正しく配列した金属微粒子担持カーボンナノファイバーは、例えば直接エタノールアルカリ型燃料電池において有用な触媒機能を発揮することができる。直接エタノールアルカリ型燃料電池のアノード側における触媒の反応機構はまだ明らかではないが、主にNiがC−C結合を切断し、CoがC−H結合を切断し、FeがC−O結合の切断に重要な役割を果たしていることが考えられる。ここで、従来のようにFe、CoおよびNiの各金属微粒子がランダムに配列している場合は、金属触媒の配列が、各種結合を切断するために適したものとはならない。具体的には、図5(a)に示されるように、Niの金属微粒子が密集している部位では、エタノールの酸化を効率良く行うことができない。これに対して、Fe、CoおよびNiの各金属微粒子が規則正しく配列していると、図5(b)に示されるように、各種結合を切断するために適した金属触媒の配列とすることができ、エタノールの酸化を効率良く行うことができるのである。
【0044】
磁場を印加する方向としては、原料組成物が射出される方向と交差する方向であれば特に限定されるものではないが、中でも、原料組成物が射出される方向と直交する方向であることが好ましい。カーボンナノファイバーの径方向に沿って、規則正しく金属微粒子を配列することができるからである。また、印加する磁場の強さは、原料組成物の組成等に応じて適宜選択することが好ましい。なお、磁場を印加する場所は、通常、原料組成物が射出される部位と収集板との間である。また、本発明においては、複数の金属錯体の中心金属の磁化率が、金属微粒子の配列に影響を与える程度に、互いに異なっていることが好ましい。
【0045】
2.焼成工程
本発明においては、上述した紡糸工程の後に焼成工程を行っても良い。本発明においては、紡糸工程でエレクトロスピニング法を行う際に電場の強さ等を適宜調整することにより、原料組成物を充分に炭化することが可能である。しかしながら、例えば紡糸工程での炭化が不充分である場合は、焼成工程を行うことにより縮合反応を再度進行させ、カーボンナノファイバーに残留する窒素元素の量を調整しても良い。なお、本発明における焼成工程は、上述した紡糸工程と同様に、窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で行うことが必要である。
【0046】
焼成方法としては、一般的なカーボンナノファイバーの作製時における焼成方法と同様であり、具体的には焼成炉を用いる方法が挙げられる。焼成温度としては、対象物の縮合反応を進行させる温度であれば特に限定されるものではないが、例えば180℃〜300℃の範囲内であることが好ましい。また、焼成工程は、通常、実質的に酸素を含まない雰囲気下で行う。炭素の消失を防止するためである。焼成工程を行う際の酸素濃度としては、例えば20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。通常は、窒素やアルゴンガス等の不活性ガスを流通させながら焼成を行う。
【0047】
3.金属微粒子担持カーボンナノファイバー
次に、本発明により得られる金属微粒子担持カーボンナノファイバーについて説明する。本発明により得られる金属微粒子担持カーボンナノファイバーは、窒素元素が残留したカーボンナノファイバーと、上記窒素元素と配位結合を形成した金属微粒子と、を有するものである。
【0048】
カーボンナノファイバーの径としては、例えば1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。また、カーボンナノファイバーの長さとしては、例えば10μm以上であることが好ましい。
【0049】
カーボンナノファイバー上に担持された金属微粒子の径としては、特に限定されるものではないが、例えば0.1nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
また、金属微粒子担持カーボンナノファイバーの用途としては、例えば触媒用途を挙げることができる。金属微粒子担持カーボンナノファイバーを触媒として用いる場合、その触媒は、例えば燃料電池に用いることができ、中でもアルカリ型燃料電池に用いることが好ましい。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
窒素含有ポリマーであるポリアクリロニトリル(PAN、重量平均分子量Mw84,500、シグマアルドリッチ社製)7重量部と、Fe含有錯体である鉄(III)アセチルアセトナート(シグマアルドリッチ社製)5重量部と、Ni含有錯体であるニッケル(II)アセチルアセトナート(シグマアルドリッチ社製)5重量部と、Co含有錯体であるコバルト(III)アセチルアセトナート(シグマアルドリッチ社製)5重量部と、溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド(シグマアルドリッチ社製)90重量部と、を48時間混合して、原料組成物を作製した。
【0053】
得られた原料組成物および図1に示した装置を用い、エレクトロスピニング法により紡糸した。この際、ノズルの内径は50μmであり、ノズルと収集板との距離は30cmであり、電場の強さは2kV/cmであり、feeding rateは0.1ml/mであった。その後、得られたナノファイバーを、まず60℃2時間、空気中で乾燥し、次に180℃〜300℃の温度範囲で16時間、窒素雰囲気中で加熱し、金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得た。
【0054】
[比較例1]
実施例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーを、さらに1100℃〜2000℃の温度範囲で2時間、窒素雰囲気中で加熱し、金属微粒子担持カーボンナノファイバーを得た。
【0055】
[評価1]
実施例1および比較例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーについて、X線光電子分光(XPS)装置で測定を行った。その結果を図6に示す。図6に示されるように、実施例1の金属微粒子担持カーボンナノファイバーには窒素元素を示すピークが存在し、原料の窒素含有ポリマーの窒素元素がカーボンナノファイバーに残留していることが確認された。一方、比較例1の金属微粒子担持カーボンナノファイバーには窒素元素を示すピークが存在せず、原料の窒素含有ポリマーが完全に炭化されていることが確認された。
【0056】
[実施例2]
実施例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーを用いて、アルカリ型燃料電池を作製した。実施例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバー0.5gを、約10mlの水に分散させ、その触媒分散液をニッケル製の多孔体シート(ニッケルフォーム、厚さ約1mm)に塗布し(36mm角、0.3mm)、乾燥してアノード電極(厚さ0.3mm)とした。一方、実施例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバー0.5gを、テトラフルオロエチレン0.05gと共に、超音波分散により約10mlの水に分散させ、その触媒分散液をカーボン製の多孔体シート(カーボンシート、厚さ約1mm)にスプレー塗布し(36mm角、0.2mm)、乾燥してカソード電極とした。次に、アニオン交換膜(炭化水素系膜、膜厚40μm、65mm角)を、アノード電極およびカソード電極の触媒分散液塗布面と接するように、アノード電極及びカソード電極で挟み込み、さらに、セル治具に設置してアルカリ型燃料電池を作製した。
【0057】
[比較例2]
比較例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーを用いたこと以外は、実施例2と同様にしてアルカリ型燃料電池を作製した。
【0058】
[評価2]
実施例2および比較例2で得られたアルカリ型燃料電池について、以下の条件下、ガルバノスタットによりI−V特性を測定した。結果を図7に示す。
【0059】
<I−V特性測定条件>
・アノード燃料:KOHエタノール水溶液(エタノール10wt%、KOH 1M)
・アノード燃料流量:約600ml/min
・カソードガス:空気
・カソードガス流量:130ml/min
・温度(恒温槽温度):50℃
【0060】
図7に示されるように、実施例2のアルカリ型燃料電池は、比較例1のアルカリ型燃料電池と比較して、出力密度が大幅に向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法の一例を説明する説明図である。
【図2】ポリアクリルニトリルからカーボンナノファイバーが形成される化学変化を示す説明図である。
【図3】本発明の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法の他の例を説明する説明図である。
【図4】Fe含有錯体、Ni含有錯体およびCo含有錯体を用い、所定の磁場を印加した場合に形成される金属微粒子担持カーボンナノファイバーを説明する説明図である。
【図5】エタノールの酸化を説明する説明図である。
【図6】実施例1および比較例1で得られた金属微粒子担持カーボンナノファイバーについて、XPS分析を行った結果を示すグラフである。
【図7】実施例2および比較例2で得られたアルカリ型燃料電池について、I−V特性の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 … 原料組成物
2 … シリンジ
3 … ノズル
4 … 収集板
5 … 高電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素元素を有しカーボンナノファイバーを形成可能な窒素含有ポリマー、および有機金属化合物を含有する原料組成物を、エレクトロスピニング法により、前記窒素元素がカーボンナノファイバーに残留し、かつ、カーボンナノファイバーを形成可能な条件で紡糸する紡糸工程を有することを特徴とする金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記窒素含有ポリマーが、ポリアクリロニトリルであることを特徴とする請求項1に記載の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記有機金属化合物として、中心金属の異なる複数の金属錯体を用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記複数の金属錯体が、Fe含有錯体、Ni含有錯体およびCo含有錯体であることを特徴とする請求項3に記載の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記複数の金属錯体の中心金属の磁化率が互いに異なり、前記原料組成物が射出される方向とは交差する方向で、磁場を印加することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の金属微粒子担持カーボンナノファイバーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−133037(P2009−133037A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310550(P2007−310550)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】