説明

金属担持ゼオライト成型体の製造方法及び該ゼオライトを含有する硫黄化合物除去用吸着剤

【課題】 炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中のチオール類やスルフィド類ばかりでなく硫化カルボニルまでの硫黄化合物を低濃度まで効率よく除去し得る金属担持ゼオライト成型体及びその製造方法、並びに前記金属担持ゼオライト成型体を含む硫黄化合物除去用吸着剤、さらにその吸着剤を用いて脱硫処理した炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料から水素を効果的に製造する方法及びその水素を用いる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 ゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を有する金属担持ゼオライト成型体及びその製造方法、並びに前記金属担持ゼオライト成型体を含む硫黄化合物除去用吸着剤、さらにその吸着剤を用いて脱硫処理した炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料から水素を製造する方法及びその水素を用いる燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持ゼオライト成型体、その製造方法及び該ゼオライト成型体からなる硫黄化合物除去用吸着剤に関するものであり、さらに詳しくはゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を有する金属担持ゼオライト成型体、その製造方法、該金属担持ゼオライト成型体を用いた硫黄化合物除去用吸着剤、該吸着剤を用いて硫黄化合物を除去した気体燃料又は液体燃料からの水素の製造、及び該水素を用いた燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が積極的になされている。
この燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型などのタイプが知られている。一方、水素源としては、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、さらにはLPG、ナフサ、灯油などの石油系炭化水素の使用が研究されている。
【0003】
LPG、都市ガス、灯油、軽油などのガス状又は液状炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、該炭化水素を、改質触媒の存在下に部分酸化改質、オートサーマル改質又は水蒸気改質などで処理する方法が用いられている。
改質触媒の被毒を抑制するためには、硫黄分を長期間にわたり0.1ppm以下に低減させる必要がある。また、プロピレン、ブテン等は石油化学製品の原料として使用する場合にも、やはり触媒の被毒を防ぐため、硫黄分を0.1ppm以下に低減させる必要がある。この様に、燃料電池用水素を製造するためには高度な脱硫が必要とされている。
【0004】
前記LPG中には、硫黄化合物として、一般にメタンチオールや硫化カルボニル(以下COSと表すことがある)、ジメチルジスルフィド(以下DMDSと略すことがある)等に加えて、ガス着臭剤としてジメチルスルフィド(以下DMSと略すことがある)、2−メチル−2−プロパンチオール(以下MPTと略すことがある)、メチルエチルスルフィド等の硫黄化合物が添加されている。また、最近ジメチルエーテルを燃料として利用する計画が進められている。このジメチルエーテル自体は硫黄化合物を含有しないが、漏洩対策から意図的にガス着臭剤の添加が検討されている。
【0005】
LPGや都市ガス等の気体炭化水素中の硫黄分を吸着除去する各種吸着剤が知られているが、従来の吸着剤は吸着容量が十分ではなく、長期間使用するには、しばしば取り替える必要があった。
例えば、硫黄化合物除去用吸着剤として、アルカリ土類金属以外の多価金属イオン(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn及びZn)を交換したゼオライト系脱硫剤(例えば、特許文献1参照)、疎水性ゼオライトにAg、Cu、Zn、Fe、Co、Niなどをイオン交換により担持させた脱硫剤(例えば、特許文献2参照)や、Y型ゼオライト、β型ゼオライト又はX型ゼオライトにAg又はCuを担持した脱硫剤(例えば、特許文献3参照)などが開示されている。
これらの脱硫剤は、いずれも硝酸塩、酢酸塩、塩化物を用いてイオン交換を行い製造することが記載されている。しかしながら、このような方法でイオン交換を行う場合、実際には1回のイオン交換では、担持量を十分に多くすることが困難である。したがって、担持量を増大させるには、繰り返しイオン交換を行う必要がある。
さらに、後述のように、本発明の開発過程において、こうした従来の脱硫剤は、チオール類やスルフィド類を室温で効率的に吸着除去できるものの、硫化カルボニルに対しては不十分であることが明らかになった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−306377号公報
【特許文献2】特開2001−286753号公報
【特許文献3】特開2001−305123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属担持ゼオライト成型体、その製造方法及び該ゼオライト成型体からなる硫黄化合物除去用吸着剤を提供することを主な目的とするものである。
さらに詳しくは本発明は、チオール類やスルフィド類ばかりでなく硫化カルボニルをも効率よく除去できる金属担持ゼオライト成型体、その製造方法、該金属担持ゼオライト成型体の硫黄化合物除去用吸着剤としての応用方法、該硫黄化合物除去用吸着剤によって脱硫した気体燃料又は液体燃料からの水素の製造、及び該水素を用いた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を有する金属担持ゼオライト成型体がチオール類やスルフィド類ばかりでなく硫化カルボニルをも効率よく除去できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ゼオライト成型体と、それに担持された金属成分を有し、かつ金属成分が、ゼオライト結晶中に金属イオンとして担持されたものと、ゼオライト結晶外部に金属または金属化合物の状態で担持されたものからなることを特徴とする金属担持ゼオライト成型体、
(2)金属成分が、Ag、Cu、Zn、Ni、Fe、Mn、Ce、La、Zr及びTi金属元素の中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)の金属担持ゼオライト成型体、
(3)ゼオライトが、FAU、BEA、LTL、MOR、MTW、GME、OFF、MFI、MEL、FER、TON、MTT及びLTA構造を有するゼオライトの中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)の金属担持ゼオライト成型体、
(4)金属担持量が、金属担持ゼオライト成型体全量に基づき、金属として5〜50質量%である上記(1)〜(3)のいずれかの金属担持ゼオライト成型体、
(5)ゼオライト成型体を用い、ゼオライト結晶中に金属イオン交換により金属イオンを担持し、次いでゼオライト結晶外部に金属または金属化合物を担持する上記(1)〜(4)のいずれかの金属担持ゼオライト成型体の製造方法、
(6)ゼオライト結晶外部への金属または金属化合物の担持を、溶解状態の金属化合物の溶解度を低下させ、該金属化合物を沈着させることにより行う上記(5)の金属担持ゼオライト成型体の製造方法、
(7)ゼオライト成型体を用い、ゼオライト結晶の少なくとも外部に1族または2族に属する金属元素を担持させ、次いでゼオライト結晶の内部に金属イオン交換により金属イオンを担持させると共に、ゼオライト結晶の外部に金属または金属化合物を担持させることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかの金属担持ゼオライト成型体の製造方法、
(8)上記(1)〜(4)のいずれかの金属担持ゼオライト成型体を含むことを特徴とする炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物除去用吸着剤、
(9)炭化水素燃料がLPG、都市ガス、天然ガス、ナフサ、灯油、軽油、あるいはエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンの中から選ばれる少なくとも一種の炭化水素である上記(8)の硫黄化合物除去用吸着剤、
(10)上記(8)又は(9)の硫黄化合物除去用吸着剤を用いて、炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物を脱硫した後、この脱硫処理燃料を部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒または水蒸気改質触媒と接触させることを特徴とする水素の製造方法、
(11)部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒または水蒸気改質触媒がルテニウム系触媒またはニッケル系触媒である上記(10)の水素の製造方法、及び
(12)上記(10)及び(11)の製造方法で得られた水素を用いることを特徴とする燃料電池システム
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チオール類やスルフィド類ばかりでなく、従来の金属含有ゼオライトでは除去できなかった硫化カルボニルをも効率よく除去できる金属担持ゼオライト成型体、その製造方法及び該ゼオライト成型体から成る硫黄化合物除去用吸着剤を提供することができる。
さらに詳しくは、本発明によれば、ゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を有する金属担持ゼオライト成型体、その製造方法、該成型体を用いた硫黄化合物除去用吸着剤、該硫黄化合物除去用吸着剤を用いて脱硫した気体及び液体燃料からの水素の製造、及び該水素を用いた燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の金属担持ゼオライト成型体は、ゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を有する。
金属交換するゼオライトの種類は、特に限定はされないが、ゼオライト構造がFAU,BEA,LTL,MOR,MTW,GME,OFF,MFI,MEL,FER,TON,MTT及びLTA構造を有するものの中から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの中で、12員環細孔を有するFAU,BEA,LTL,MOR,MTW,GME及びOFF構造を有するゼオライトが好ましい。
【0012】
本発明で用いるゼオライト成型体は、ゼオライトに該成型体全量に基づきバインダー成分を好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%の割合で、添加して成型したものが望ましい。この際用いるバインダー成分としてはアルミナ、シリカなどが好ましい。成型を容易にするためにさらにベントナイト、バーミキュライト等の粘土鉱物やセルロースなどの有機添加剤を加えて成型したものを用いてもよい。ゼオライトに上記のバインダーを加えて、押出成型、打錠成型、転動造粒、スプレードライなどの通常の方法で成型してゼオライト成型体にしたものを用いる。このゼオライト成型体の粒径は小さいほど好ましい。
【0013】
本発明では、上記ゼオライト成型体に、イオン交換によってゼオライト結晶の内部に金属イオンを担持させ、結晶外部に金属または金属化合物を沈着担持させることによって、結晶内部と外部の両方に金属成分を有する金属担持ゼオライト成型体を製造する。ここで、金属とは金属元素が還元された状態を言い、金属化合物とは、イオン交換していない金属塩や金属酸化物を言う。イオン交換する金属元素としては特に限定されないが、硫黄化合物の吸着除去に用いる場合はAg、Cu、Zn及びNiが好ましい。
【0014】
ゼオライト結晶中のイオンを金属イオンで交換する方法は、金属イオンを含有する溶液中に上記ゼオライト成型体を入れ、常温から80℃程度の温度で1〜数時間、接触させる方法で処理する。この時、金属イオン源としては、硝酸塩や塩化物など水溶性の金属塩が使用できる。アンモニア水に溶解させて、金属アンミン錯イオンを形成させた溶液を使用してもよい。イオン交換後、水で洗浄してもよい。更にイオン交換処理を繰り返してもよい。
【0015】
上述の方法でゼオライト結晶内部にイオン交換担持した後、乾燥または焼成を加えても構わないし、乾燥、焼成を行わずに次の沈着担持に移行しても構わない。
次いで、ゼオライト結晶外部へ金属又は金属化合物を沈着担持させる。
沈着担持の方法としては、下記の1)金属成分を含浸させる方法、及び2)金属交換時に溶液の溶解度を低下させて金属化合物を析出させる方法の2種類が挙げられる。
【0016】
1)金属成分を含浸させる方法:通常の方法で金属成分を含浸担持すればよい。この場合には、金属成分はゼオライト結晶粒子の間隙やバインダー上に担持される。金属成分の種類は特に限定されないが、Ag、Cu、Ni、Zn、Mn、Fe、Ce、La、Zr及びTiが特に好ましい。イオン交換に用いた金属種と同じでもよいし、異なる金属種でもよい。この場合の含浸による金属担持量は、金属担持ゼオライト成型体全量に基づいて、金属成分として、通常0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%である。担持量が多過ぎるとゼオライトの細孔が閉鎖されたり、ゼオライトの構造が崩壊することがある。含浸方法としては、ポアフィリング法、インシピエントウェットネス法、浸漬法及び蒸発乾固法等がある。含浸後、通常の方法で乾燥、焼成を行う。
【0017】
2)金属交換時に溶液の溶解度を低下させて金属化合物を析出させる方法:金属イオン交換を行い、ゼオライト結晶中に金属イオンを担持させた後に、溶液中の溶解残存している金属化合物を析出させてゼオライト結晶外部やバインダー上に沈着させる。金属化合物を沈着させる方法としては、金属元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物などで金属交換を行っていた場合には、塩基を加えてpHを6〜10.5程度まで上昇させ、金属元素の水酸化物または酸化物としてゼオライト結晶外部に沈着させる。金属アンミン錯イオンで交換する場合には、酸を加えてpHを7〜4程度の範囲にして、溶解度を低下させ沈着させる。また水溶性有機化合物を添加して、金属化合物の溶解度を低下させて金属化合物を沈着担持させてもよいし、金属化合物と不溶性の化合物を形成させて、析出させてもよい。例えば,Ag交換の場合には塩化水素、塩化ナトリウムなどの塩化物を加えると、塩化銀が生成し析出させることができる。
【0018】
本発明の別の方法は、ゼオライト結晶に1族または2族元素を担持した後金属交換する方法である。すなわち、ゼオライト成型体を用い、ゼオライト結晶の少なくとも外部に1族または2族に属する金属元素を担持させ、次いでゼオライト結晶内部に金属イオン交換により金属イオンを担持させる際に、ゼオライト結晶の外部に金属又は金属化合物を担持させる方法である。1族または2族元素をゼオライト結晶外部に担持する方法としては、ゼオライト成型体に1族または2族元素をポアフィリング法、インシピエントウェットネス法、浸漬法、蒸発乾固法等の方法でゼオライト結晶外部に担持する。1族または2族元素の一部はゼオライト結晶内部に担持されてもよい。次いで、ゼオライト結晶内部に金属イオン交換により金属イオンを担持させるがこの時、ゼオライト細孔外部に担持された1族または2族元素は交換する金属元素と反応し、交換金属は水酸化物または酸化物としてゼオライト結晶外部に沈着担持させることができる。
【0019】
以上のようにして得られた金属担持ゼオライト成型体は、水などで洗浄したのち、通常500℃以下、好ましくは50〜200℃程度の温度で乾燥処理する。乾燥後、通常500℃以下、好ましくは200〜500℃程度の温度、で数時間焼成する。イオン交換担持および沈着担持の合計である金属元素の総担持量は、金属担持ゼオライト成型体全量に基づいて、通常5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。本発明の金属担持ゼオライト成型体は、従来の金属イオン交換ゼオライトに比べて、金属担持量が多く、また、同じ金属担持量の場合でも、従来の金属イオン交換ゼオライトよりも、脱硫性能にはるかに優れている。
【0020】
本発明の金属担持ゼオライト成型体を硫黄化合物除去用吸着剤として利用することによって、天然ガス、都市ガス、LPG、石油化学製品、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油などの炭化水素燃料又はジメチルエーテルに含有される硫黄分を吸着除去する。ゼオライト結晶内部にイオン交換された金属イオンは硫化カルボニルを除く硫黄化合物の吸着に優れ、ゼオライト結晶外部に沈着担持された電荷を有しない金属成分(金属又は金属化合物)は硫化カルボニルの吸着に優れる。
【0021】
硫黄化合物の除去方法は、下記のように気体燃料と液体燃料で異なる。
気体燃料の場合には、供給原料燃料中の硫黄化合物の濃度は0.001〜10,000容量ppmが好ましく、特に0.1〜100容量ppmが好ましい。脱硫条件は、通常温度が−50℃〜150℃の範囲、GHSVは100〜1,000,000h-1の範囲の中から選ばれる。脱硫温度が高過ぎると、硫黄化合物の吸着が起こりにくくなる。
【0022】
液状燃料の場合には、供給原料燃料中の硫黄化合物の濃度は0.001〜10,000質量ppmが好ましく、特に0.1〜100質量ppmが好ましい。脱硫条件は、通常温度が−50℃〜150℃の範囲、WHSVが0.1〜1000h-1の範囲の中から選ばれる。液体燃料の場合にも、脱硫温度が150℃を超えると硫黄化合物の吸着が起こりにくくなる。
【0023】
次に、本発明の燃料電池用水素の製造方法においては、前述の本発明の金属担持ゼオライト成型体からなる硫黄化合物除去用吸着剤を用いて、炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物を脱硫処理したのち、この脱硫処理燃料を改質することにより、水素を製造する。
【0024】
この改質方法として、部分酸化改質、オートサーマル改質、水蒸気改質などの方法を用いることができる。この時それぞれの改質で触媒として用いる部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒、水蒸気改質触媒は、従来公知の各触媒の中から適宜選択して用いることができるが、特にルテニウム系及びニッケル系触媒が好適である。また、これらの触媒の担体としては、酸化マンガン、酸化セリウム及びジルコニアの中から選ばれる少なくとも一種を含む担体を好ましく挙げることができる。該担体は、これらの金属酸化物のみからなる担体であってもよく、アルミナなどの他の耐火性多孔質無機酸化物に、上記金属酸化物を含有させてなる担体であってもよい。各改質触媒の寿命の点から、改質の供給原料の脱硫処理済の炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物の濃度は、0.1容量ppm以下が好ましく、特に0.005容量ppm以下が好ましい。
【0025】
前記部分酸化改質は、炭化水素の部分酸化反応により、水素を製造する方法であって、部分酸化改質触媒の存在下、通常、反応圧力常圧〜5MPa、反応温度400〜1,100℃、GHSV1,000〜100,000h-1、酸素(O2)/炭素比0.2〜0.8の条件で改質反応が行われる。
【0026】
また、オートサーマル改質は、部分酸化改質と水蒸気改質とを組み合わせた方法であって、オートサーマル改質触媒の存在下、通常、反応圧力常圧〜5MPa、反応温度400〜1,100℃、酸素(O2)/炭素比0.1〜1、スチーム/炭素比0.1〜10、GHSV1,000〜100,000h-1の条件で改質反応が行われる。
【0027】
さらに、水蒸気改質は、炭化水素に水蒸気を接触させて、水素を製造する方法であって、水蒸気改質触媒の存在下、通常、反応圧力常圧〜3MPa、反応温度200〜900℃、スチーム/炭素比1.5〜10、GHSV1,000〜100,000h-1の条件で改質反応が行われる。
【0028】
本発明はまた、前記製造方法で得られた水素を用いる燃料電池システムを提供する。以下に本発明の燃料電池システムについて添付図1に従い説明する。
図1は本発明の燃料電池システムの一例を示す概略フロー図である。図1によれば、燃料タンク21内の燃料は、燃料ポンプ22を経て脱硫器23に流入する。脱硫器内には本発明の硫黄化合物除去用吸着剤が充填されている。脱硫器23で脱硫された燃料は水タンクから水ポンプ24を経た水と混合した後、気化器1に導入されて気化され、次いで空気ブロアー35から送り出された空気と混合され改質器31に送り込まれる。
改質器31の内部には前述の改質触媒が充填されており、改質器31に送り込まれた燃料混合物(水蒸気、酸素及び炭化水素燃料若しくはジメチルエーテル燃料を含む混合気体)から、前述した改質反応のいずれかによって水素又は合成ガスが製造される。
【0029】
このようにして製造された水素又は合成ガスはCO変成器32、CO選択酸化器33を通じてそのCO濃度が燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。これらの反応器に用いる触媒の例としては、CO変成器32では、鉄―クロム系触媒、銅―亜鉛系触媒あるいは貴金属系触媒を、CO選択酸化炉33では、ルテニウム系触媒、白金系触媒あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
燃料電池34は負極34Aと正極34Bとの間に高分子電解質34Cを備えた固体高分子型燃料電池である。負極側には上記の方法で得られた水素リッチガスが、正極側には空気ブロワー35から送られる空気が、それぞれ必要に応じて適当な加湿処理を行った後(加湿装置は図示せず)導入される。
このとき負極側では水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、正極側では酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行し、両極34A、34B間に直流電流が発生する。負極には、白金黒、活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが、正極には白金黒、活性炭担持のPt触媒などが用いられる。
【0030】
負極34A側に改質器31のバーナ31Aを接続して余った水素を燃料とすることができる。また、正極34B側に接続された気水分離器36において、正極34B側に供給された空気中の酸素と水素との結合により生じた水と排気ガスとを分離し、水は水蒸気の生成に利用することができる。
なお、燃料電池34では、発電に伴って熱が発生するため、排熱回収装置37を付設してこの熱を回収して有効利用することができる。排熱回収装置37は、反応時に生じた熱を奪う熱交換機37Aと、この熱交換器37Aで奪った熱を水と熱交換するための熱交換器37Bと、冷却器37Cと、これら熱交換器37A、37B及び冷却器37Cへ冷媒を循環させるポンプ37Dとを備え、熱交換器37Bにおいて得られた温水は、他の設備などで有効利用することができる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されない。
【0032】
実施例1
市販のNaY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製HSZ−320NAD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径とした。本ゼオライト成型体1kgに、硫酸ナトリウム110gを水450gに溶解させた溶液を注いで硫酸ナトリウムの含浸を行った。120℃で乾燥した後、500℃で3時間焼成した。硝酸銀394gを水2.5Lに溶解した。これに、上記Naを含浸したゼオライトを投入し、液を4時間撹拌してAgイオン交換を行った。溶液のpHは8.8であった。その後、水洗した後、120℃で乾燥した。次いで、400℃で焼成し、イオン交換されたAgと沈着されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は18.1質量%、Na含量2.4質量%であった。
【0033】
実施例2
市販のHY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製、HSZ−320HOD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径とした。硝酸銀394gを水2.5Lに溶解した。これに30質量%のアンモニア水400gを加え、銀アンミン錯体の溶液を得た。この銀アンミン錯体溶液に上記ゼオライト1kgを投入した。液を4時間撹拌しAgイオン交換を行った。溶液のpHは8.5であった。次いで30質量%硝酸溶液を加えて、pHを5に調整した。その後、水洗した後、120℃で乾燥した。次いで、400℃で焼成し、イオン交換されたAgと沈着されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は15.5質量%、Na含量0.1質量%であった。
【0034】
実施例3
市販のHY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製、HSZ−320HOD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径とした。硝酸銀394gを水2.5Lに溶解した。これに上記ゼオライト1kgを投入した。液を4時間撹拌しAgイオン交換を行った。溶液のpHは3.5であった。次いで、30質量%アンモニア水を加えて、pHを8に調整した。その後、水洗した後、120℃で乾燥した。次いで、400℃で焼成し、イオン交換されたAgと沈着担持されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は15.1質量%、Na含量0.1質量%であった。
【0035】
実施例4
市販のβ型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製、HSZ−930HODA)を砕いて0.5〜1mmの粒径とした。硝酸銀394gを水2.5Lに溶解した。これに上記ゼオライト1kgを投入した。液を4時間撹拌しAgイオン交換を行った。溶液のpHは2.7であった。次いで、30質量%アンモニア水を加えて、pHを7に調整した。その後、水洗した後、120℃で乾燥した。次いで、400℃で焼成し、イオン交換されたAgと沈着担持されたAgを含有するβ型ゼオライトを得た。Agの含有量は14.8質量%、Na含量0.1質量%であった。
【0036】
実施例5
市販のNaY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製、HSZ−320NAD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径とした。硝酸銀394gを水2.5Lに溶解した。これに、上記ゼオライト1kgを投入し、液を4時間撹拌してAgイオン交換を行った。溶液のpHは6.2であった。水洗、乾燥後、硝酸銀5.9gを水550gに溶解させた溶液を含浸し、次いで、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと沈着担持されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は17.8質量%、Na含量2.6質量%であった。
【0037】
比較例1
硝酸ナトリウムを含浸しなかったこと以外は実施例1と同様にAg交換を4時間行った。ついで、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は14.5質量%,Na含量2.7質量%であった。
【0038】
比較例2
30質量%硝酸溶液を加なかったこと以外は実施例2と同様にAg交換を4時間行った。ついで、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は11.2質量%,Na含量0.1質量%であった。
【0039】
実施例6
市販の13Xゼオライト成型体(ユニオン昭和製13Xペレット)を砕いて0.5〜1mmの粒径としたもの1kgを使用したこと以外は実施例5と同様に実施し、イオン交換されたAgと含浸担持されたAgを含有するX型ゼオライトを得た。Agの含有量は19.8質量%,Na含量5.7質量%であった。
【0040】
実施例7
市販のモルデナイト型ゼオライト成型体(東ソー製HSZ−640NAD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径としたもの1kgを使用したこと以外は実施例5と同様に実施し、イオン交換されたAgと含浸担持されたAgを含有するモルデナイト型ゼオライトを得た。Agの含有量は16.4質量%,Na含量2.3質量%であった。
【0041】
実施例8
市販のL型ゼオライト成型体(東ソー製HSZ−500K0D1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径としたもの1kgを使用したこと以外は実施例5と同様に実施し、イオン交換されたAgと含浸担持されたAgを含有するL型ゼオライトを得た。Agの含有量は15.3質量%,Na含量2.1質量%であった。
【0042】
実施例9
市販のUSY型ゼオライト成型体(東ソー製HSZ−341NHD1A)を砕いて0.5〜1mmの粒径としたもの1kgを使用したこと以外は実施例4と同様に実施し、イオン交換されたAgと沈着担持されたAgを含有するUSY型ゼオライトを得た。Agの含有量は15.1質量%,Na含量0.1質量%以下であった。
【0043】
実施例10
比較例2のAg交換されたY型ゼオライト100gを用いて水50gに硝酸ランタン6水和物15.6gを溶解した溶液を含浸し、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと含浸担持されたLaを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は10.3質量%,La含量4.9質量%であった。
【0044】
実施例11
比較例2のAg交換されたY型ゼオライト100gを用いて水200gに硝酸セリウム6水和物56.8gを溶解した溶液に浸漬し蒸発乾固させ含浸した。乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと含浸担持されたCeを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は9.1質量%,Ce含量14.9質量%であった。
【0045】
実施例12
比較例2の脱硫剤100gを用いて水50gに硝酸ニッケル6水和物40.0gを溶解した溶液を含浸し、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと含浸担持されたNiを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は10.1質量%,Ni含量7.2質量%であった。
【0046】
実施例13
比較例2の脱硫剤100gを用いて水50gに硝酸亜鉛6水和物24.7gを溶解した溶液を含浸し、乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと含浸担持されたZnを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は10.5質量%,Zn含量4.4質量%であった。
【0047】
実施例14
比較例2の脱硫剤100gを用いて水200gに硝酸ジルコニウム2水和物45.4gを溶解した溶液に浸漬し、蒸発乾固させ含浸した。乾燥、焼成を行い、イオン交換されたAgと含浸担持されたZrを含有するY型ゼオライトを得た。Agの含有量は9.3質量%,Zr含量13.7質量%であった。
【0048】
〔金属担持ゼオライトの硫黄化合物吸着性能テスト〕
実施例1〜14及び比較例1〜2で得られたそれぞれの金属担持ゼオライト3cm3を内径9mmの脱硫管に充填した。常圧下、温度20℃で、硫化カルボニル、ジメチルスルフィド、2‐メチル‐2‐プロパンチオール、ジメチルジスルフィドを各10容量ppm(合計40容量ppm)含むプロパンガスを、常圧下、GHSV=3000h-1で脱硫管中を流通させた。10時間後の脱硫管出口ガスの各硫黄化合物濃度をそれぞれSCD(Sulfur Chemiluminescence Detector=硫黄化学発光検出器)ガスクロマトグラフィーにより測定した。表1に各硫黄化合物の脱硫率を示す。
【0049】
比較例1及び2では、30質量%硝酸によるpH調整を行わなかったため、イオン交換だけであり、金属成分がゼオライト結晶内部には存在するが、結晶外部には無い。
この場合には、ジメチルスルフィド、2−メチル−2−プロパンチオール及びジメチルジスルフィドについては十分な脱硫効果を示すものの、硫化カルボニルに対する脱硫効果は不十分である。
これに対して、実施例1〜14で得られた結晶内部と外部の両方に金属が担持している金属担持ゼオライトはいずれも、ジメチルスルフィド、2−メチル−2−プロパンチオール及びジメチルジスルフィドばかりではなく、硫化カルボニルに対しても十分な脱硫効果があることが分かる。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳細に説明したように、ゼオライト結晶の内部と外部の両方に金属成分を担持させることによって、チオール類やスルフィド類ばかりでなく、従来の銀ゼオライトでは除去できなかった硫化カルボニルまでも効率よく除去できる。LPG、都市ガス、ナフサ、灯油、軽油又はエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等の炭化水素燃料及びジメチルエーテル燃料中に含まれる硫黄化合物の効率的な除去が可能になり、この硫黄除去燃料を原料として用いることによって、触媒被毒が極めて少なく部分酸化改質、オートサーマル改質又は水蒸気改質を行うことができ、燃料電池用の水素を効果的に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略フロー図である。
【符号の説明】
【0053】
1: 気化器
2: 燃料電池システム
20: 水素製造システム
21: 燃料タンク
23: 脱硫器
31: 改質器
31A:ボイラー
32: CO変成器
33: CO選択酸化器
34: 燃料電池
34A:負極
34B:正極
34C:高分子電解質
36: 気水分離器
37: 排熱回収装置
37A:熱交換機
37B:熱交換器
37C:冷却器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト成型体と、それに担持された金属成分を有し、かつ金属成分が、ゼオライト結晶中に金属イオンとして担持されたものと、ゼオライト結晶外部に金属または金属化合物の状態で担持されたものからなることを特徴とする金属担持ゼオライト成型体。
【請求項2】
金属成分が、Ag、Cu、Zn、Ni、Fe、Mn、Ce、La、Zr及びTi金属元素の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の金属担持ゼオライト成型体。
【請求項3】
ゼオライトが、FAU、BEA、LTL、MOR、MTW、GME、OFF、MFI、MEL、FER、TON、MTT及びLTA構造を有するゼオライトの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載の金属担持ゼオライト成型体。
【請求項4】
金属担持量が、金属担持ゼオライト成型体全量に基づき、金属として5〜50質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の金属担持ゼオライト成型体。
【請求項5】
ゼオライト成型体を用い、ゼオライト結晶中に金属イオン交換により金属イオンを担持し、次いでゼオライト結晶外部に金属または金属化合物を担持する請求項1〜4のいずれかに記載の金属担持ゼオライト成型体の製造方法。
【請求項6】
ゼオライト結晶外部への金属または金属化合物の担持を、溶解状態の金属化合物の溶解度を低下させ、該金属化合物を沈着させることにより行う請求項5に記載の金属担持ゼオライト成型体の製造方法。
【請求項7】
ゼオライト成型体を用い、ゼオライト結晶の少なくとも外部に1族または2族に属する金属元素を担持させ、次いでゼオライト結晶の内部に金属イオン交換により金属イオンを担持させると共に、ゼオライト結晶の外部に金属または金属化合物を担持させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属担持ゼオライト成型体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属担持ゼオライト成型体を含むことを特徴とする炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物除去用吸着剤。
【請求項9】
炭化水素燃料がLPG、都市ガス、天然ガス、ナフサ、灯油、軽油、あるいはエタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンの中から選ばれる少なくとも一種の炭化水素である請求項8記載の硫黄化合物除去用吸着剤。
【請求項10】
請求項8または9記載の硫黄化合物除去用吸着剤を用いて、炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物を脱硫した後、この脱硫処理燃料を部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒または水蒸気改質触媒と接触させることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項11】
部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒または水蒸気改質触媒がルテニウム系触媒またはニッケル系触媒である請求項10記載の水素の製造方法。
【請求項12】
請求項10及び11記載の製造方法で得られた水素を用いることを特徴とする燃料電池システム。



【図1】
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【公開番号】特開2006−55771(P2006−55771A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241133(P2004−241133)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】