説明

金属箔、金属箔の加工方法、および蓄電デバイス

【課題】厚み方向に貫通孔を有しつつ、ペースト等の塗布時に反対側へ回り込むことのない金属箔を得ることを目的とする
【解決手段】複数の貫通孔2が主面1f内に分散して形成された金属箔1であって、複数の貫通孔2のそれぞれは、一方の面1fFにおける開口部1aFの他方の面1fRへの主面1fに垂直な投影像が、他方の面1fRにおける開口部2aRと重ならないように、厚み方向(z)に対して傾いて形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の貫通孔が主面内に形成された金属箔、金属箔の加工方法、および当該金属箔を電極に用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属箔には、アルミ箔、銅箔、ニッケル箔やステンレス箔など、さまざまな用途に使われるものがある。特に、二次電池やキャパシタのような電気化学的な蓄電デバイスでは、その導電性としなやかさを活かして電極集電箔として用いられている。その際、急激な負荷に対応するため、電極集電箔の表裏間で電解液が移動できるように、多数の貫通孔が面内に形成された電極集電箔を用いた蓄電デバイスが提案されている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−123767号公報(段落0022〜0024、図2)
【特許文献2】特開2007−141897号公報(段落0035〜0038)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの電極集電箔に形成された貫通孔は、開口径の範囲や開口形状の工夫はあるものの、金属箔の主面に対して垂直、つまり厚み方向に平行に穿孔されたものばかりであった。一方、金属箔に電極を形成するために、活物質を分散させたペーストを金属箔に塗布する工程があるが、上記のように貫通孔が厚み方向に平行に形成されているので、塗布時にペーストが貫通孔を透過して反対側の面に回り込み、電極層に窪みや隆起が生じて性能や信頼性を低下させてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、厚み方向に貫通孔を有しつつ、ペースト等の塗布時に反対側へ回り込むことのない金属箔を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る金属箔は、複数の貫通孔が主面内に分散して形成された金属箔であって、前記複数の貫通孔のそれぞれは、一方の面における開口部の他方の面への前記主面に垂直な投影像が、前記他方の面における開口部と重ならないように、厚み方向に対して傾いて形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属箔を貫通する貫通孔が、斜めに形成されているので、ペーストを塗布しても、ペーストの回り込みを抑制する金属箔を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる金属箔の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる金属箔の加工装置と加工方法を説明するための平面図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる金属箔の加工装置と加工方法を説明するための斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる金属箔の加工装置と加工方法を説明するため部分側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる金属箔の加工装置と加工方法を説明するため部分断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる金属箔の加工装置と加工方法を説明するための斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態3にかかる金属箔を用いて製造した蓄電デバイスの構成を説明するための断面模式図である。
【図8】本発明の実施の形態3にかかる金属箔に電極層を形成する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1〜図5は、本発明の実施の形態1にかかる集電箔の構成及び加工装置と加工方法を説明するためのものである。図1は、集電箔の構成を説明するためのもので、図1(a)は集電箔の部分平面図、図1(b)は図1(a)の円B内の拡大透過図、図1(c)は図1(b)のC−C線における部分断面図である。また、図2は実施の形態1における金属箔の加工装置と加工方法を説明するための平面図で、図2(a)は加工装置の全体図、図2(b)は図2(a)の円E内の拡大図である。図3は金属箔の加工装置と加工方法を示す斜視図、図4は金属箔の加工装置と加工方法を示す部分側面図、図5は図2(a)におけるD1〜D4の断続した4つの線における部分断面をつないだ図である。以下、図に基づいて説明する。
【0010】
本実施の形態1にかかる金属箔1は、図1に示すように、厚み方向(z方向)に貫通する複数の貫通孔2が主面1f内に分散して形成され、各貫通孔2は金属箔1の主面1f(xy平面)に垂直な方向、つまり厚み方向(z)に対して傾いている。そして、厚み方向に対する傾きにより、図1(b)に示すように、貫通孔2の金属箔1の例えば図中上側の面である1fF面における開口部2aFを下側の面1fRへ主面1fに垂直に投影した像が、面1fRにおける開口部2aRと重ならないようになっている。別の言い方をすれば、図1(c)に示すように、一方の面1fFの開口部2aFと他方の面1fRの開口部1aRは、厚み方向に平行(面に垂直)な線LVを含む面により分離できるようになっている。
【0011】
金属箔1の材料としては、特に限定されることはなく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケルメッキされた銅、ステンレス、タングステン、モリブデン等、箔形成できる金属材料であれば使用できる。厚みtの範囲としてもとくに限定する必要はないが、一般に5μm〜50μmのものが後述する加工方法で扱いやすい。例えば、蓄電デバイスの場合、大きな充放電電流が要求されている場合には、内部抵抗を小さくするために比較的厚い集電箔が用いられるのに対し、小さな充放電電流が要求されている場合には、エネルギー密度を向上(コンパクト化)させるために出来るだけ薄い集電箔が用いられる。貫通孔2の口径Dの範囲としても、とくに限定する必要はないが、0.1μm〜50μmの範囲であれば、容易に形成することができる。そして、貫通孔2の口径Dが10μm以下であれば、ペーストが反対側に回り込むのを防止する効果が高くなり、集電箔に用いる場合は、0.1μm〜10μmの範囲に調整する事が望ましい。
【0012】
つまり、金属箔1の主面1f内に形成した複数の貫通孔2を面に垂直な方向から透視したときに、一方の面1fFの開口部2aFと他方の面1fRの開口部2aRとが重ならない程度に傾斜して穿孔されており、その口径Dが0.1μm〜10μmの範囲内であれば、例えば、金属箔1に対して所定の粘性を有する液体やゲルを一方の面に塗布するような場合、塗布した液体が貫通孔2を突き抜けて塗布面と反対側の面である他方の面まで回り込むということはなくなる。また、口径Dがどのような範囲であっても、一方の面1fFと他方の面1fRの開口部2aFと2aRが重ならない程度に傾斜して穿孔されていれば、例えば、金属箔1は、光を透過する事ができるが、真正面から見た場合は、反対側の様子を見ることができない。つまり、光は通すが正面からの像は遮断するといういわゆる目隠し効果を得ることができる。
【0013】
なお、後の実施の形態で示す蓄電デバイスの集電箔として用いる場合には、厚みtが10〜50μmで、貫通孔2の口径Dが0.5〜10μmのアルミニウム箔または銅箔を用いることが望ましい。これにより、活物質を分散させたペーストを一方の面に塗布する際、ペーストが貫通孔2を突き抜けて塗布面と反対側の面まで回り込むということはなく、さらに、蓄電デバイスを駆動させるときに、集電箔の裏表間を電解質が貫通孔2を通じて容易に移動できるので、急激な負荷にも対応する事が可能となる。
【0014】
つぎに、本実施の形態1にかかる金属箔1を製造するための加工装置および加工方法(穿孔方法)について図2〜図5を用いて説明する。
図において、加工装置20にセットされた穿孔対象である無垢の金属箔1は、蓄電デバイスの集電箔として用いるためのもので、厚さ15μm、幅300mmの銅箔であり、加工前はロール状に巻かれている。本実施の形態1では、このうち、幅200mmの範囲Rsにレーザを照射して穿孔する。加工装置20が備えるレーザ発振器11としては、銅材が吸収しやすい波長λが0.5μmのグリーンレーザを用い、アッテネータ12でレーザの出力を調整し、ビームエキスパンダ13でレーザビーム径を調整する。これをミラー14に照射して、ミラー14を軸AX周りに位置決め可能に回動(位置決めしながら所定角度の回転を繰り返し反転)させることで、fθレンズ15を介して金属箔1に照射されるレーザビームの到達位置を制御する。ミラー14としては、反射材として石英ガラスを用いたガルバノミラーや共振タイプのスキャンミラーを使用することができる。
【0015】
レーザ発振器11(から照射されるレーザビームB)は、1mmピッチで、内径Dが10μm程度の貫通孔2を、1秒間に約6千穴開ける能力がある。金属箔1は、ロール16に位置決め可能に移動(寸進)するように巻き取られ、1分間に2mのスピードで矢印Dtの方向に移動する。
【0016】
レーザビームBは、概略、金属箔1の加工面SW(xy面)に平行で、金属箔1の移動する方向Dtに垂直な方向(x方向)に沿ってミラー14に入射し、ミラー14は、概略、加工面SWに垂直で、金属箔1の移動する方向Dtに平行な面(yz面)内で加工面SWに対して傾斜した軸AXを中心に回動するように設定している。つまり、レーザビームBが加工面SWに入射する角度や位置は、ミラー14によって制御され、図2の矢印で示す範囲RsをB1からBnのように角度と位置を変化させながら移動する。
【0017】
そのため、ミラー14で反射されて、加工面SWに入射するレーザビームの角度は、B1からBnのどの位置であっても、図4に示すように金属箔1の移動する方向Dt(y方向)に対して、傾斜することになる。つまり、加工面SWのどの位置に穿孔された貫通孔2も金属箔1の厚み方向に対して傾斜することになる。
【0018】
一方、進行方向Dtから見ると、図5に示すように、金属箔1の幅方向(x方向)の位置に応じて、照射角度が変化し、貫通孔2a、2b、2c、2dはそれぞれ傾斜角度が異なり、例えば、中央付近に穿孔した貫通孔2bは、面に垂直に穿孔されているように見える。しかし、これは金属箔1の幅方向に対しての傾斜であり、金属箔1の移動する方向Dtに対しては、図4で説明したように、所定以上の傾斜を設けることが可能になる。そのため、所定の傾斜を制御することで、主面1f内のどの位置の貫通孔2も、一方の面1fFと他方の面1fFにおける開口部2aF、2aRが重ならないように形成することができる。
【0019】
つまり、レーザビームBの照射する位置の変化方向と金属箔1の位置の変化方向を略直角とし、金属箔1の厚み方向に対して傾斜する貫通孔2を主面1f上に連続的に多数形成するので、極めて高速に、効率よく穿孔することが可能になり、低コストに貫通孔2を備える金属箔1を製造することができる。
【0020】
このとき、金属箔1の幅方向においては、加工面SW側のミラー14の位置を中心として貫通孔2が放射状に形成されているようになっている。そのため、例えば、前述した目隠し効果の場合、加工面SWを内側にすれば、内側から外側は見えるが、外側から内側を見ることは困難となる。
【0021】
なお、上記実施の形態では、ミラー14を回動させることにより、幅方向に照射位置を移動させるようにしたが、ミラー14自体をミラー14へのレーザビームBの入射方向に沿って、(位置決めしながら)移動させるようにしてもよい。この場合、レーザビームBの加工面SWへの入射角度は位置によらず一定となるので、貫通孔2の穿孔角度を揃えることができる。
【0022】
なお、上記の例では、金属箔1の移動する方向Dtに対して、貫通孔2に所定以上の傾斜を設けるために、発振器11の出射方向をx方向に平行とし、ミラー14の回転軸AXをyz面内で傾斜をつける場合について説明したが、これに限られることはない。例えば、発振器11をyz面内で進行方向Dtに対して傾斜をつければ、ミラー14の回転軸AXを加工面SWに垂直にしても、先程の例と同様に傾斜をつけることができ、その他、様々な設置角度の組合せが可能である。
【0023】
また、ミラー14の回動によるレーザ照射位置の幅方向の変化と金属箔1の移動にともなう金属箔1上のレーザビームBの走査軌跡、つまり、レーザによる穿孔の軌跡Tsは、図2および図3に示すようにジグザグになる。そして、レーザビームの照射(発振)を一瞬止める、あるいは遮ることによって、貫通孔2は、ジグザグ形状に並んで形成される。貫通孔2の並びをジグザグ形状、つまり走査軌跡の方向を複数にすることで、穿孔後の金属箔1が貫通孔2を基点として裂けるのを防止する効果が得られる。その原理は、ジグザクにミシンがけして生地を補強するのと同じであり、碁盤目や千鳥模様などの形状では、金属箔が孔を基点として裂ける恐れがある。このとき、金属箔1を一定速度で送るのではなく、送ったり戻したりすることで、穿孔模様を重ねて描写することができ、よりきめ細かい穿孔が可能になる。
【0024】
なお、今回の貫通孔2は口径DがレーザビームBの波長より数倍大きいので、銅に最適なグリーンレーザを用いたが、例えば、口径Dが数μm以下の場合、波長の短いUVレーザが適している。また、アルミニウムを用いる場合、アルミニウムが吸収しやすい波長は800nm付近であるので、現状でその波長に近い波長をもつレーザとしてはUVレーザ(例えば355nm)を用いることで効率的に穿孔できる。その他、穿孔対象の金属箔の材料や口径に応じて、グリーンレーザ、UVレーザのほか、COレーザやYAGレーザなど、最適なものを選択すればよい。
【0025】
以上のように、本実施の形態1にかかる金属箔1によれば、複数の貫通孔2が主面1f内に分散して形成された金属箔1であって、複数の貫通孔2のそれぞれは、一方の面1fFにおける開口部1aFの他方の面1fRへの主面1fに垂直な投影像が、他方の面1fRにおける開口部2aRと重ならないように、厚み方向(z)に対して傾いて形成されている、ようにしたので、ペースト等の塗布を行ったときに、ペーストが反対側に回り込むのを抑制することができる。その結果、厚み分布の均一な塗布層を形成することができる。また、光学的には、見る角度や向きによって目隠し効果を有する金属箔を得ることができる。
【0026】
とくに、金属箔1は、アルミニウム材または銅材で、10〜50μmの厚みtを有し、貫通孔2のそれぞれは、0.5〜10μmの口径Dを有する、ようにしたので、導電性、イオン移動性を維持しつつ、厚み分布が均一で良好な接触が得られる蓄電デバイスの電極集電箔を形成することができる。
【0027】
また、本実施の形態1にかかる金属箔1の加工方法によれば、金属箔1を当該金属箔1の主面1fの延在方向Dtに位置決め可能に移動させる金属箔移動手段16と、レーザビームBを発振するレーザ発振器11と、レーザビームBの主面1fに対する入射位置を、移動方向Dtの垂直方向(x)において位置決め可能に移動する入射位置移動手段(ミラー14の回動手段またはミラーの平行移動手段、レーザ発振器、あるいは金属箔1自体を移動する手段)と、を備えた金属箔の加工装置10を用い、金属箔1に入射するレーザビームBを、主面1f(加工面SW)に対して、移動方向Dtに沿って傾けるとともに、金属箔1または入射位置が位置決めするたびにレーザビームBを発振して貫通孔2を形成する、ように、構成したので、金属箔1の主面1f内に傾斜を有する貫通孔2を効率的に形成することができる。
【0028】
とくに、加工装置10には、レーザ発振器11から発振されたレーザビームBを金属箔1に向けて反射するミラー14を備え、ミラー14を軸AXを中心に回動させることにより、レーザビームBの主面1fに対する入射位置を変化させるように構成したので、容易に貫通孔2を主面1f内にジグザグ状に並べて分散して形成することができる。さらに、ミラーの位置を中心として貫通孔の穿孔角度が放射状に形成されるので、ミラー位置に相当する部分からは像が見えるが他の方向からでは目隠し機能を有する金属箔1を得ることができる。
【0029】
また、本実施の形態1にかかる金属箔1の加工装置20によれば、金属箔1を当該金属箔1の主面1fの延在方向Dtに位置決め可能に移動させる金属箔移動手段であるローラ16と、レーザビームBを断続的に発振できるレーザ発振器11と、レーザ発振器11から発振されたレーザビームBを反射するとともに、反射したレーザビームBが金属箔1の主面1fに対して、移動方向Dtに沿って所定角度以上傾くように配置されたミラー14と、ミラー14が反射したレーザビームBの金属箔1の主面1f(加工面SW)に対する入射位置が、移動方向Dtの垂直方向(x)において位置決め可能に移動するように、ミラー14を駆動させるミラー駆動装置と、を備え、レーザ発振器11は、金属箔1または入射位置が位置決めするたびにレーザビームBを発振するように、構成したので、金属箔1の主面1f内に傾斜を有する貫通孔2を効率的に形成することができる。
【0030】
実施の形態2.
図5は、本実施の形態2における金属箔の加工装置210および加工方法を説明するための斜視図である。本実施の形態2では、ミラーを回動させて照射位置を変化させるのではなく、ポリゴンミラー214を一定方向に回転させる点が実施の形態1と異なっている。ポリゴンミラー214を用いることで、レーザビームBの走査方向が一方向(例えば図5では「−x」方向)となるので、ジグザグではなく、平行な線を高速に形成することができる。平行な線の間隔を密にすることで、多くの微細な傾斜した貫通孔2を形成することが可能になる。これにより、ジグザグの実施の形態1に比べて金属箔1中の開孔度を大幅に高めることができ、集電箔の貫通孔を介して多量のイオンを行き来させたい用途、たとえば、リチウムイオンキャパシタとリチウムイオン電池をセル内部で複合化させた複合型蓄電デバイスなどに好適に用いることができる。
【0031】
以上のように、本実施の形態2にかかる金属箔1の加工方法によれば、加工装置210には、レーザ発振器11から発振されたレーザビームBを金属箔1に向けて反射する多角形のミラー214を備え、多角形のミラー214を所定の軸を中心に回転させることにより、レーザビームBの主面1f(加工面SW)に対する入射位置を変化させる、ように構成したので、容易に貫通孔2を主面1f内に平行に並べて分散して形成することができる。
【0032】
実施の形態3.
本実施の形態3では、上記実施の形態1や2で示した金属箔1を集電箔に用いた蓄電デバイスの構成および集電箔を製造する方法について記す。
図7と図8は、本実施の形態3にかかる蓄電デバイスおよびその製造方法を説明するためのもので、図7は蓄電デバイスの構成を説明するための断面模式図、図8は蓄電デバイスの製造工程のうち、金属箔に電極層を形成する工程を説明するための図である。はじめに、図7を用いて蓄電デバイスの構成について説明する。
【0033】
図において、蓄電デバイス20は、集電箔6(無垢の金属箔)の図中下面に活性炭の微粒子を含むキャパシタ正極電極層24が形成されたキャパシタ正極26Cと、集電箔6の図中上面にリチウム含有金属化合物の粒子を含んだリチウム正極層25が形成されたリチウム正極26Lと、透過孔となる貫通孔2を有する集電箔1(上記各実施の形態の金属箔)の上面と下面にそれぞれキャパシタ負極電極層22とリチウム負極電極層23が形成された共通負極21と、多孔質の絶縁フィルムからなる第1のセパレータ27と、多孔質の絶縁フィルムからなる第2のセパレータ28と、を備え、キャパシタ正極電極層24と共通負極21のキャパシタ負極電極層22が形成された面との間に第1のセパレータ27を挟持してキャパシタ部を形成し、リチウム正極層25と共通負極21のリチウム負極電極層23が形成された面との間に第2のセパレータ28を挟持してリチウム電池部を形成しキャパシタ正極26Cとリチウム電池正極26Lを短絡接続したものを単位セルとし、単位セル単体あるいは単位セルを積層して電解質を含ませ、集電箔の一部を外部に連通しつつ、パッケージングしたものである。
【0034】
上記構成の電力貯蔵デバイスセルでは、キャパシタ部とリチウム電池部の負極が共通負極21で共用され、キャパシタ正極26Cとリチウム正極26Lとを短絡接続されている。そのため、充放電の際に、共通負極21の集電箔1に設けられた透過孔2を介してキャパシタ部とリチウム電池部間でのLiイオン(電解液)が迅速に移動できるので、キャパシタ部も充放電に参加でき、急速な充放電に対応できるようになる。
【0035】
図7において、共通負極21は、複数の貫通孔(透過孔)2を面内に分散して設けた上記実施の形態にかかる金属箔1のうち、厚さtが10μm〜20μm、口径D2が5μmの貫通孔2を有する銅の金属箔1をトリミング等して形成した負極集電箔1の表裏に、炭素系の活物質粒子からなるキャパシタ負極電極層22と、リチウム電池負極電極活物質層23を形成することにより構成される。
【0036】
図8は、金属箔1にキャパシタ負極電極層22を形成する工程を説明するためのものであり、図8(a)は塗布工程の全体を図8(b)は図8(a)の領域F部分の拡大断面図を示す。図において、斜めの貫通孔2が主面内に形成された金属箔1は、送りローラ31に巻かれた状態で塗布装置に装填され、ガイドローラ37a、37bを経由して巻き取りローラ36により巻き取られていく。このとき、負極電極層22を構成する活物質を含み、粘度を1〜10Pa・sに調整されたペースト22Pが液溜め35内に充填されており、コーティングロール32の回転に伴い引き出され、ドクターロール34によって所定厚みに調整された後、コーティングロール32の回転に伴い金属箔1まで運ばれる。これにより、金属箔1がバックロール33とコーティングロール32の間を通過する際、所定厚みのペースト22Pが一方の面に塗布される。さらに、乾燥器38を通過することで、活物質層22Lが一方の面に形成された集電箔準備体21Pとなり、巻き取りローラ36には、集電箔準備体21Pとして巻き取られていく。
【0037】
このとき、図8(b)に示すように、貫通孔2の傾く方向として、塗布面の開口よりも裏面の開口が、塗布時に金属箔1を移動させる方向Dtの前方に向かうようにしている。コーティングロール32により、ペースト22Pを金属箔1に押しつける方向は、進行方向Dtの後方に向かうので、塗布された電極ペースト22Pが、金属箔1の進行方向Dtへの動きを抑えて、裏面への流出をさらに抑制することができる。つまり、単に貫通孔2が傾いているため、垂直方向にペースト22P移動するのを抑制するのに加え、電極ペースト22Pが、金属箔1の進行方向Dtと逆方向に圧迫されることにより、より効果的に電極ペースト22Pが裏面に回り込むことを抑制できる。これにより、裏面は金属箔1の地のままで保たれ、同様に裏面にリチウム電池負極電極層23のペーストを塗布する事により、リチウム電池負極層23を形成する事ができる。
【0038】
後述するように、リチウム電池負極用の活物質と、キャパシタ負極電極用の活物質は同じ材料であり、上記工程において、ペーストが裏面に回り込んだとしても、表側、裏側の層の組成が変化するわけではない。しかし、ペーストが回り込む際、塗布面側においては、ペーストが反対側に流出することにより、貫通孔周辺部分の層厚みが減少(窪む)し、裏面側では貫通孔周辺部分の層厚みが厚く(隆起する)なる。図7で説明したように、蓄電デバイス20は電極やセパレータが層状に重なったものであり、各層が隙間なく密着することによって、イオンや電子を受け渡ししている。したがって、貫通孔でペーストの回り込みが発生すると、例えば、貫通孔周辺でキャパシタ負極電極層が陥没した部分では、セパレータ27とキャパシタ負極電極層22との間に隙間が発生してキャパシタの電気化学反応に寄与しなくなり、有効電極面積が減少して性能が低下する。また、その場合では、後塗りするリチウム電池負極電極層23の貫通孔周辺は隆起することになり、貫通孔2を中心とするドーナッツ状の範囲でセパレータ28とリチウム電池負極電極層23との間に隙間が発生し、リチウム電池の電気化学反応に寄与しなくなり、有効電極面積が減少して性能が低下する。なお、電極層22、23のうち、一方は塗布を省略してもよい。
【0039】
つまり、貫通孔を介してペーストが回り込むことは、蓄電デバイスに大きな性能低下を及ぼすことになる。しかし、上記のように実施の形態1または2にかかる金属箔1を用いたこと、さらにはその傾きに応じて塗布する向きも調整したので、貫通孔2を介したペースト塗布時の回り込みを防止する事により、安定した性能を発揮する蓄電デバイスを得ることができる。
【0040】
<共通負極材料について>
共通負極21に用いられるキャパシタ負極電極層22とリチウム電池負極電極層23の材料としては、平均粒子径が1〜20μm程度の炭素系粒子、いわゆるカーボン粒子が用いられる。カーボン粒子の組成としては、一般にリチウムイオン電池に使われている高電位からリチウムの吸蔵放出を行うことのできるハードカーボン系粒子が用いられるが、例えば、低電位で大量のリチウムイオンの吸蔵放出を行うことのできる黒鉛系粒子とを混合して調整したりしてもよい。
【0041】
ハードカーボン系粒子としては、非晶質カーボン、アモルファスカーボン、易黒鉛化カーボンを1000℃から1500℃程度の比較的低温で熱処理したカーボンの粒子などを用いることができる。これらに共通する性質は、電位が1.0V(vs.Li)と高い電位からリチウムイオンを吸蔵放出することができ、徐々に電位が低下するというものである。黒鉛系粒子としては、スリランカ産黒鉛、マダカスカル産黒鉛、中国産黒鉛などの天然黒鉛の他、メソカーボンマイクロビーズ黒鉛、コークス系黒鉛、鱗状黒鉛などの人造黒鉛や層間を広げた膨張黒鉛などの粒子を用いることができる。これらに共通する性質は、リチウムの酸化還元電位に近い低い電位で大量のリチウムイオンの吸蔵放出が可能であるが、電位が0.3V(vs.Li)以上になると、リチウムイオンをほとんど吸蔵放出できないというものである。
【0042】
<正極について>
正極としては、正極集電箔6の表裏に、活性炭粒子を含むキャパシタ正極電極層24と、リチウム含有金属化合物粒子を含むリチウム電池正極電極層25を形成し、単位セルを積層したときに一方のセルのキャパシタ正極であり、隣接するセルのリチウム電池正極として働くハイブリッド正極26として構成している。キャパシタ正極電極層24とキャパシタ負極電極層22を第1のセパレータ27を介して対峙させ、キャパシタ部を構成し、リチウム電池の正極電極層25とリチウム電池負極電極層23を第2のセパレータ28を介して対峙させている。つまり、集電箔6の一方の面に、キャパシタ正極電極層24、他方の面にリチウム電池正極電極層25が形成された同仕様のハイブリッド正極26を、図7では配置の違い(使用する面の違い)により、26Cをキャパシタ正極、26Lをリチウム電池正極と、それぞれ役割を変えるようにしている。
【0043】
キャパシタ正極電極層24の活性炭粒子としては、フェノール樹脂、石油ピッチ、石油コークス、ヤシガラなどを原料として、水蒸気賦活もしくはアルカリ賦活を施した、平均粒子径が1〜10μm程度の粒子を用いることが望ましい。リチウム電池正極電極層25のリチウム含有金属化合物の粒子としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)が充電時の吸熱量と放電時の発熱量が大きくて望ましいが、この他に、充電時に吸熱、放電時に発熱するものとして、オリビン形リン酸鉄リチウム、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)やリチウムマンガン酸化物(LiMn)を含むリチウムコバルト酸化物であってよく、3元系や4元系などの多元系であってもよい。平均粒子径は、1〜10μm程度の粒子を用いることが望ましい。とくに、オリビン形リン酸鉄を用いた場合には、キャパシタの耐電圧の方が高いので、急速充電の時にキャパシタの負担を大きくすることができ、より大きな瞬発性をそなえた電力貯蔵デバイスを実現することができる。正極集電箔6には、厚さ7μm以上50μm以下のアルミニウム箔(無垢)を用いることができる。
【0044】
<その他の構成材料について>
電解液としては、例えば電解質であるLiPFを有機溶媒に含有させた電解液を用いることができ、キャパシタ部とリチウム電池部とで共用する。有機溶媒としては、例えば炭酸プロピレン(PC:Propylene Carbonate)や炭酸エチレン(EC:Ethylene Carbonate)と炭酸ジエチル(DEC:Diethyl Carbonate)などを用いることができる。第1のセパレータ27および第2のセパレータ28は、例えば厚さが10〜50μm程度、気孔率(空隙率)が60〜80体積%程度、平均気孔径が数〜数十μm程度の多孔質のセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁フィルムを用いることができる。
【0045】
なお、本実施の形態3では、リチウムイオンキャパシタとリチウムイオン電池をセル内部で複合化させた複合型蓄電デバイスの共通負極に金属箔1を用いた例を示したが、これに限ることなく、例えば、特許文献に示したように、リチウムイオンキャパシタやリチウムイオン電池単独の場合にも用いることができる。
【0046】
以上のように、本発明の実施の形態3にかかる蓄電デバイス20によれば、第1の集電箔6の一方の面に活性炭の微粒子を含む第1の電極層24が形成された第1の電極26Cと、第2の集電箔6の一方の面にリチウム含有金属化合物の粒子を含んだ第2の電極層25が形成された第2の電極26Lと、上記実施の形態1または2で蓄電デバイスに好適な金属箔として挙げた材料、厚み、貫通孔を有する金属箔1の少なくとも一方の面に炭素系材料で構成された電極層22(または23)が形成された第3の電極21と、多孔質の絶縁フィルムからなる第1のセパレータ27と、多孔質の絶縁フィルムからなる第2のセパレータ28と、を備え、第1の電極層24と第3の電極の一方の面(22側)との間に第1のセパレータ27を挟持して第3の電極21を負極とするキャパシタを形成し、第2の電極層25と第3の電極の他方の面(23側)との間に第2のセパレータ28を挟持して第3の電極21をキャパシタとの共通負極とするリチウムイオン電池を形成し、第1の電極26Cと第2の電極26Lを短絡接続して、構成したので、急速充放電時に貫通孔2を介して電解液またはイオンが移動できるので、瞬発力と持続力を兼ね備え、各層の接触(密着)が良好で信頼性の高い蓄電デバイスを得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 金属箔(負極集電箔)(1f:主面、1fF:一方の主面、1fR:他方の主面)、 1 穿孔前(無垢)の金属箔、 2 貫通孔(2aF:一方の面の開口、2aR:他方の面の開口)、
10 加工装置、 11 レーザ発振器、 12 アッテネータ、 13 ビームエキスパンダ、 14 ミラー(平板)、 15 fθレンズ、 16 ロール、
210 加工装置、 214 ミラー(ポリゴン)
20 蓄電デバイス、 21 共通負極(第3の電極)、 22 キャパシタ負極電極層(第3の電極層)、 23 リチウム電池負極電極層(第3の電極層)、 24 キャパシタ正極電極層(第1の電極層)、 25 リチウム電池正極電極層(第1の電極層)、 6 正極集電箔、 26 正極(26C:ハイブリッド正極(キャパシタ正極扱い)、26L:ハイブリッド正極(リチウム電池正極扱い))、 27 第1のセパレータ、
28 第2のセパレータ、
B レーザビーム、 D 貫通孔の口径、 Dt 金属箔送り方向、 SW 加工面、 Ts レーザ走査軌跡、 t 金属箔の厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が主面内に分散して形成された金属箔であって、
前記複数の貫通孔のそれぞれは、一方の面における開口部の他方の面への前記主面に垂直な投影像が、前記他方の面における開口部と重ならないように、厚み方向に対して傾いて形成されている、
ことを特徴とする金属箔。
【請求項2】
前記金属箔は、アルミニウム材または銅材で、10〜50μmの厚みを有し、
前記貫通孔のそれぞれは、0.5〜10μmの口径を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属箔。
【請求項3】
金属箔を当該金属箔の主面の延在方向に位置決め可能に移動させる金属箔移動手段と、
レーザビームを発振するレーザ発振器と、
前記レーザビームの前記主面に対する入射位置を、前記移動方向の垂直方向において位置決め可能に移動する入射位置移動手段と、を備えた金属箔の加工装置を用い、
前記金属箔に入射するレーザビームを、前記主面に対して、前記移動方向に沿って傾けるとともに、前記金属箔または前記入射位置が位置決めするたびに前記レーザビームを発振して貫通孔を形成する、
ことを特徴とする金属箔の加工方法。
【請求項4】
前記加工装置には、前記レーザ発振器から発振されたレーザビームを前記金属箔に向けて反射するミラーを備え、
前記ミラーを所定の軸を中心に回動させることにより、前記レーザビームの前記主面に対する入射位置を変化させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の金属箔の加工方法。
【請求項5】
前記加工装置には、前記レーザ発振器から発振されたレーザビームを前記金属箔に向けて反射する多角形のミラーを備え、
前記多角形のミラーを所定の軸を中心に回転させることにより、前記レーザビームの前記主面に対する入射位置を変化させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の金属箔の加工方法。
【請求項6】
第1の集電箔の一方の面に活性炭の微粒子を含む第1の電極層が形成された第1の電極と、
第2の集電箔の一方の面にリチウム含有金属化合物の粒子を含んだ第2の電極層が形成された第2の電極と、
請求項2に記載の金属箔の少なくとも一方の面に炭素系材料で構成された電極層が形成された第3の電極と、
多孔質の絶縁フィルムからなる第1のセパレータと、
多孔質の絶縁フィルムからなる第2のセパレータと、を備え、
前記第1の電極層と前記第3の電極の一方の面との間に前記第1のセパレータを挟持して前記第3の電極を負極とするキャパシタを形成し、前記第2の電極層と前記第3の電極の他方の面との間に前記第2のセパレータを挟持して前記第3の電極を前記キャパシタとの共通負極とするリチウムイオン電池を形成し、前記第1の電極と前記第2の電極を短絡接続した、
ことを特徴とする蓄電デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−61479(P2012−61479A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205538(P2010−205538)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】