説明

金属粉末および金属粉末製造方法、導電性ペースト、並びに積層セラミックコンデンサ

【課題】粒子凝集物を生じにくいように改善された、液相還元法による金属粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】金属化合物、還元剤、錯化剤、分散剤を溶解することにより、金属化合物に由来する金属イオンを含有する水溶液を作製する第1工程と、水溶液のpH調整をすることにより金属イオンを還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程とを備える金属粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末および金属粉末の製造方法、導電性ペースト、並びに積層セラミックコンデンサに関する。特に、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いる導電性ペースト用の導電性微粉末として好適な金属粉末、その製造方法、およびそれを用いた導電性ペースト、並びに積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末は、種々の分野で使用されており、厚膜導電体の材料として、積層セラミック部品の電極等の電気回路の形成に使用されている。例えば、積層セラミックコンデンサ(Multi−LayerCeramic Capacitor:MLCC)の内部電極は、金属粉末を含む導電性ペーストを用いて形成されている。
【0003】
この積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の導電層(内部電極層)とを、圧着により交互に積み重ね、これを焼成して一体化することにより、積層セラミック焼成体としたセラミック本体と、当該セラミック本体の両端部に一対の外部電極を形成したものである。
【0004】
より具体的には、例えば、金属粉末を、セルロース系樹脂等の有機バインダーをターピネオール等の溶剤に溶解させた有機ビヒクルと混合し、三本ロール等によって混練・分散して、内部電極用の導電性ペーストをまず作製する。次に、この導電性ペーストを、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート上に印刷し、セラミックグリーンシートと導電性ペースト層(内部電極層)とを、圧着により交互に積み重ねて積層体を形成する。そして、この積層体を還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体を得ることができる。
【0005】
また、この積層セラミックコンデンサの内部電極を形成する導電性ペーストに含有される金属粉末として、従来、白金、パラジウム、銀−パラジウム合金等の金属が用いられていたが、これらの金属は高価であるため、近年、低コスト化を図るべく、より安価な卑金属、特にニッケル等の金属が使用されている。
【0006】
この金属粉末の製造方法としては、気化した金属原料を水素ガスにより還元する気相還元法の他、金属イオンを還元剤により還元する液相還元法が利用されている。より具体的には、例えば、還元剤を含有する還元剤水溶液を用意し、この還元剤水溶液中にニッケルイオンを含有するニッケル水溶液を混合することにより、ニッケルイオンを還元させて、ニッケル粉末を析出させるいわゆる液相還元法が広く用いられている。この液相還元法によれば、所望の粒径を有し、品質が極めて安定した、不純物の少ないニッケル粉末を製造することができる。例えば、特許文献1には、金属塩用液の投入タイミングを制御することにより、微粒であり、かつ粒径のより均一な金属粉末の製造方法が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−332509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、電子部品の高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化が要請されるとともに、内部電極の電極表面の平滑化が求められている。そのためには、電極として使用される導電性ペースト中において、金属粉末が均一に分散する必要がある。上記液相還元法によれば気相法に比して小粒径かつ品質が極めて安定した、不純物の少ない金属粉末を製造することができる。また、特許文献1に提示された製法によれば、「より微粒でありかつ粒径のより均一な金属粉末を液相法によって製造することができる、」と記載されている。
【0009】
しかし、微粒かつ粒径の均一な金属粉末を製造することができたとしても、製造工程において粒子同士が凝集すると、導電性ペースト中での分散性が低下し、係る粒子凝集物を含む導電性ペーストにより、積層セラミックコンデンサの内部電極を形成すると、電極表面の平滑化が困難になるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、粒子凝集物を生じにくいように改善された、液相還元法による金属粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る金属粉末製造方法は、金属化合物、還元剤、錯化剤、分散剤を溶解することにより、該金属化合物に由来する金属イオンを含有する水溶液を作製する第1工程と、前記水溶液のpH調整をすることにより前記金属イオンを前記還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程とを備える。
【0012】
上記構成によれば、水溶液のpH調整をすることにより金属イオンを還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程を備える、言い換えれば、金属粉末の析出をpH調整により行うことに特徴を有する。金属粉末の析出をpH調整により行うことにより、金属粒子が析出する速度を小さくすることができるため、金属粉末の全粒子数に対して、金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合を、上記従来に比して、小さくすることができる。
【0013】
本発明に係る金属粉末製造方法は、前記金属化合物が卑金属の化合物であることが好ましい。一般に、卑金属は貴金属に比して、液相還元法により析出させることが困難であるため、強い還元剤を使用する必要がある。そうすると、析出速度が大きくなりすぎ、析出した金属が分散剤により安定化される前に、金属同士が接触し、粒子凝集物を形成しやすくなる。本発明に係る金属粉末製造方法によれば、金属粉末の析出をpH調整により行うことができ、析出速度をコントロールすることが可能となる。その結果、卑金属の化合物であっても、析出した金属が分散剤により安定化させる時間を与えることができるため、粒子凝集物を発生させることを抑制できる。
【0014】
本発明に係る金属粉末製造方法は、前記金属化合物がニッケル・鉄・コバルトからなる郡のうち少なくともいずれか1つの金属の化合物であることが好ましい。上記構成によれば、導電性ペーストの主成分として広く用いられる卑金属であるニッケル・鉄・コバルトの粒子凝集物の無い金属粉末を容易に作製できる。
【0015】
本発明に係る金属粉末製造方法は、前記還元剤が三塩化チタンおよびヒドラジンの少なくとも一方であることが好ましい。三塩化チタン、ヒドラジンは還元させる力が強く卑金属の金属化合物を容易に還元することができる。従って、本発明に係る金属粉末製造方法に好適に用いることができる。
【0016】
本発明に係る金属粉末製造方法は、前記pH調整が炭酸ナトリウムまたはアンモニア水により行われることが好ましい。炭酸ナトリウムおよびアンモニア水は適度なアルカリ性を有するため、pH調整の速度を制御しやすく、本発明に係る金属粉末製造方法に好適に用いることができる。
【0017】
本発明に係る金属粉末は、卑金属で形成された平均粒径が20nm以上200nm以下の金属粉末である。また、前記金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合が、金属粉末の全粒子数に対して1.0%未満である。ここでいう平均粒径とは、体積換算の積算値50%のD50をいい、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した500個の粒子の画像解析により測定したものである。
【0018】
上記構成によれば、金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合が、金属粉末の全粒子数に対して1.0%未満である。従って、導電ペーストの主成分として使用した場合、導電性ペースト中に均質に分散性させることができる。また、係る導電性ペーストにより積層セラミックコンデンサの内部電極を形成すると、電極表面の平滑性を上記従来に比して向上させることが可能となる。
【0019】
本発明に係る金属粉末は、金属粉末を主成分とする。上記構成によれば、粒子凝集物の占める割合が、金属粉末の全粒子数に対して1.0%未満である合金粉末が充填された導電性ペーストを提供することが可能になるため、電極表面の平滑化が要請されるとともに、電極途切れのない積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に最適な導電性ペーストを提供することが可能になる。
【0020】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、内部電極層および誘電体層を交互に積層して形成されたコンデンサ本体を備える積層セラミックコンデンサであって、前記内部電極層が、本発明に係る導電性ペーストにより形成されていることを特徴とする。
【0021】
同構成によれば、電極表面が平滑であり、さらに電極途切れのない内部電極を備える積層セラミックコンデンサを提供することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粒子凝集物を生じにくいように改善された、液相還元法による金属粉末の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1におけるニッケル粉末を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例4におけるニッケル粉末を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1におけるニッケル粉末を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した金属粉末の製造方法の一実施形態、および製造された金属粉末を使用した積層セラミックコンデンサを説明する。この実施形態において製造される金属粉末は、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いる導電性ペースト用の導電性粉末として使用されるものである。また、この金属粉末の製造方法は、水溶液中の金属イオンを還元して、金属化合物を湿式還元処理する液相還元法を改良したものである。
【0025】
具体的には、金属化合物、還元剤、錯化剤、分散剤を溶解することにより、金属化合物に由来する金属イオンを含有する水溶液を作製する第1工程と、水溶液のpH調整をすることにより金属イオンを還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程とを備えること特徴を有する。
【0026】
例えば、金属粉末として、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末を製造する場合は、純水に金属化合物としてのニッケル塩(例えば、塩化ニッケル)が溶解した金属イオン(ニッケルイオン)を含み、分散剤が添加された水溶液と、還元剤として作用する3価のチタンイオンを含むチタンイオン水溶液を、所定の割合で混合して反応液を作製した後、当該反応液にpH調整剤として炭酸ナトリウム水溶液を加えてpHを調整し、攪拌を行うことにより、ニッケルイオンを還元して、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末を析出させる。
【0027】
製造される金属粉末としては、特に限定されないが、卑金属の金属粉末、または、卑金属を含む合金の金属粉末に好適に使用される。貴金属の金属粉末を製造することも可能であるが、貴金属化合物は還元が容易であるため、マイルドな特性を持つ還元剤により還元させることができる。そのため、特段に、pH調整によって制御する必要がない。
【0028】
卑金属の金属粉末においても特にニッケル、鉄、コバルトの粉末が好適に使用される。コストが低く、導電性材料として好適だからである。特に、ニッケル粉末およびニッケルを主成分とする合金粉末は、導電性に優れるとともに、コストが低く、また、銅等の他の金属に比し耐酸化性に優れるため、酸化による導電性の低下も生じにくく、導電性材料として好適ある。ニッケルの合金粉末としては、例えば、マンガン、クロム、コバルト、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、銀、金、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とニッケルとの合金粉末が使用できる。また、ニッケルを主成分とする合金粉末におけるニッケルの含有量は、50質量%以上、好ましくは80質量%以上であることが好ましい。これは、ニッケルの含有量が少なくなると、焼成時に酸化されやすくなるため、電極途切れや静電容量の低下等が起こりやすくなるためである。
【0029】
また、本発明に係る金属粉末は、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いる導電性ペースト用の導電性粉末として使用されるため、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末の平均粒径D50が20nm〜200nmであるものが使用できる。
【0030】
また、使用するニッケル塩は、特に限定されないが、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル、および水酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むものが使用できる。また、これらのニッケル塩のうち、還元剤である三塩化チタンと同じ塩素イオンを含むとの観点から、塩化ニッケルを使用することが好ましい。
【0031】
また、反応液中のニッケル塩の濃度は、5g/l以上100g/l以下が好ましい。これは、ニッケル塩の濃度が5g/l未満の場合は、十分な量のニッケル粉末を還元析出させることが困難になるため、生産性が低下し、また、ニッケル塩の濃度が100g/lより大きい場合は、ニッケル粒子同士の衝突確率が増すため粒子が凝集しやすく、粒径の制御が困難になるという不都合が生じる場合があるためである。
【0032】
また、使用する還元剤としては、例えば、三塩化チタン、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、エチレングリコール等のポリオール、アスコルビン酸等が使用できる。このうち、金属イオンに対する強還元性を有する三塩化チタン、ヒドラジンが特に好ましく、三塩化チタンが最も好ましい。
【0033】
また、pH調整剤は、従来、ニッケル粉末の還元析出工程において使用されているものであれば、特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム等を使用することができる。このうち、炭酸ナトリウム、アンモニアが適度なアルカリ性を有するため、pH調整の速度を制御しやすく、特に好ましく、炭酸ナトリウムが最も好ましい。
【0034】
また、使用する分散剤としては、反応液中のニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末の分散性を向上させるとともに、還元析出したニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末の表面に炭素を吸着させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、高分子分散剤であるポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸型アニオン系分散剤等を使用することができる。
【0035】
水溶液のpH調整をすることにより金属イオンを還元剤により還元させ、金属粉末を析出させることにより金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合を、上記従来に比して、小さくすることができる理由は、詳細は明らかではないが、以下のような機構によると考えられている。
【0036】
液相還元法は金属化合物を溶解させて得られる金属イオンを還元させることにより、金属にし、析出させる方法である。還元反応は化学反応であるので、反応に適した金属イオン濃度、温度、pHが当然に存在する。上記条件の全てがそろった状態で、反応をスタートさせることができる。
【0037】
一般的には、他の条件を揃えた反応溶液中に金属化合物を溶解させた水溶液を投入する。即ち、金属イオン濃度によって反応を制御することが一般的である。上述の特許文献1は、投入開始から、反応に伴い発生する反応熱による温度上昇のピークの2/3までの間に全ての金属イオンを投入することにより反応速度を制御し、析出する金属粒子の大きさを均一化している。しかし、他の反応条件が整った状態で金属イオンを添加すると、反応が急速に進むため、析出した各々の金属粒子が分散剤で保護される前に、金属粒子同士が接触し、粒子凝集物が生ずるものと考えられる。
【0038】
本実施形態においては、pH調整を最後に行うことにより、pH調整により反応速度を制御する。分散剤等の高分子を含む反応系においては、pH変化は徐々に進むため、金属イオンの還元反応も徐々に進行し、析出した金属粒子が分散剤により安定化される時間が取れるため、金属粒子同士が直接接触することが防止され、粒子凝集物が形成されることが抑制されるものと考えられる。
【0039】
次に、積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストについて説明する。本発明の導電ペーストとしては、上述の本発明のニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末と、有機ビヒクルを主成分としている。本発明において使用される有機ビヒクルは、樹脂と溶剤との混合物であり、樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル等のアクリル酸エステル類、アルキッド樹脂、およびポリビニルアルコール等が使用でき、安全性、安定性等の観点から、エチルセルロースが特に好ましく使用される。また、有機ビヒクルを構成する溶剤としては、ターピネオール、テトラリン、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、カルビトールアセテート等を単独でまたは混合して使用することができる。
【0040】
導電性ペーストを作製する際には、例えば、セルロース系樹脂の有機バインダーをターピネオールに溶解させた有機ビヒクルを作製し、次いで、本発明のニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末と有機ビヒクルを混合し、三本ロールやボールミル等によって混練・分散することにより、本発明の積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストを得ることができる。なお、導電性ペーストには、誘電体材料や焼結調整用の添加剤等を加えることもできる。
【0041】
次に、上述の導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる複数の誘電体層と、導電性ペーストからなる複数の内部電極層とを、圧着により交互に積層させて積層体を得た後、当該積層体を焼成して一体化することにより、セラミックコンデンサ本体となる積層セラミック焼成体を作製する。その後、当該セラミックコンデンサ本体の両端部に一対の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサが製造される。
【0042】
より具体的には、まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm〜3μmが好ましい。
【0043】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷して塗布し、導電性ペーストからなる内部電極層を形成したものを複数枚、用意する。なお、導電性ペーストからなる内部電極層の厚みは、当該内部電極層の薄層化の要請の観点から、1μm以下とすることが好ましい。
【0044】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された導電性ペーストからなる内部電極層とが交互に配置されるように、加熱・加圧処理により積層して、積層体を得る。なお、当該積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを配置する構成としても良い。
【0045】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはN2ガス雰囲気にすることが好ましく、脱バインダー処理を行う際の温度を200℃〜400℃とすることが好ましい。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間〜24時間とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、焼成を行う際の雰囲気は、NガスまたはNガスとHガスとの混合ガスの雰囲気にすることが好ましく、また、積層体の焼成を行う際の温度を1000℃〜1350℃とすることが好ましい。また、焼成を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間〜8時間とすることが好ましい。
【0046】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラッミック製の誘電体層が形成される。また内部電極層中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層と内部電極層とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。
【0047】
なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで電気的特性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後のグリーンチップに対して、アニール処理を施すことが好ましい。なお、アニール処理における雰囲気は、Nガス雰囲気にすることが好ましく、アニール処理を行う際の温度を800℃〜950℃とすることが好ましい。また、アニール処理を行う際の、上記温度の保持時間を2時間〜10時間とすることが好ましい。
【0048】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極を設けることにより、積層セラミックコンデンサが製造される。なお、外部電極の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。
【0049】
以上に説明した本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施形態においては、水溶液のpH調整をすることにより金属イオンを還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程とを備える、言い換えれば、金属粉末の析出をpH調整により行うことに特徴を有する。金属粉末の析出をpH調整により行うことにより、金属粒子に析出速度を小さくすることができるため、金属粉末の全粒子数に対して、金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合を、上記従来に比して、小さくすることができる。
【0050】
(2)本実施形態においては、金属化合物が卑金属の化合物であることが好ましい。一般に、卑金属は貴金属に比して、液相還元法により析出させることが困難であるため、強い還元剤を使用する必要がある。そうすると、析出速度が大きくなりすぎ、析出した金属が分散剤により安定化される前に、金属同士が接触し、粒子凝集物を形成しやすくなる。本発明に係る金属粉末製造方法によれば、金属粉末の析出をpH調整により行うことができ、析出速度をコントロールすることが可能となる。その結果、卑金属の化合物であっても、析出した金属が錯化剤により安定化させる時間を与えることができるため、粒子凝集物を発生させずに析出させることができる。
【0051】
(3)本実施形態においては、導電性ペーストの主成分として広く用いられる卑金属であるニッケル・鉄・コバルトにおいて、従来に比して粒子凝集物の少ない金属粉末を容易に作製できる。
【0052】
(4)本実施形態においては、還元力が強い三塩化チタンまたはヒドラジンを、還元剤として用いるため、卑金属の金属化合物を容易に還元することができる。
(5)また、pH調整は炭酸ナトリウムまたはアンモニア水により行われる。炭酸ナトリウムおよびアンモニア水は適度なアルカリ性を有するため、pH調整の速度を制御しやすく、金属粉末製造方法に好適である。
【0053】
(6)本実施形態においては、製造された金属粉末の平均粒径が20nm以上200nm以下であって、複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合が、金属粉末の全粒子数に対して1.0%未満である。従って、導電ペーストの主成分として使用した場合、導電性ペースト中に均質に分散性させることができる。また、係る導電性ペーストにより積層セラミックコンデンサの内部電極を形成すると、電極表面の平滑性を上記従来に比して向上させることが可能となる。
【0054】
次に金属粉末を本実施形態によって製造した例を、実施例1〜7に示し、従来の製造方法によって製造した例を、比較例1および2に示すとともに、その効果を比較する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【実施例1】
【0055】
ビーカーに、還元剤としての三塩化チタン溶液80g、金属原料としての塩化ニッケル10g、錯化剤としてのグルコン酸ナトリウム65g、分散剤としてのポリビニルピロリドン(PVP:分子量30000)1gを純水1リットルに溶解させる。この工程が第1工程に該当する。
【0056】
この液に、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら、pH調整剤としての炭酸ナトリウムを徐々に加えてpHを8.5となるように調整し、沈殿物を析出させた。この工程が第2工程に該当する。得られた沈殿物を限外ろ過膜で洗浄ろ過を行い、純水で洗浄を繰り返しながら不純物を除去して、水を分散媒とする少量の沈殿を含むニッケル分散液を得た。このニッケル分散液を60℃の恒温槽で乾燥させてニッケル粉末を得た。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は30nmであり、凝集率は0.2%であった。結果を表1に示す。また、本実施例で得られた金属粉末の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
【0057】
錯化剤としてとしてのグルコン酸ナトリウム65gに換えて、リンゴ酸を40g使用したほかは実施例1と同様に製造したため、ニッケル粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は100nmであり、凝集率は0.4%であった。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0058】
錯化剤としてとしてのグルコン酸ナトリウム65gに換えて、クエン酸ナトリウムを90g使用したほかは実施例1と同様に製造したため、ニッケル粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は90nmであり、凝集率は0.8%であった。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0059】
還元剤としてとしての三塩化チタン80gに換えて、ヒドラジンを100g使用したほかは実施例1と同様に製造したため、ニッケル粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は180nmであり、凝集率は0.8%であった。結果を表1に示す。また、本実施例で得られた金属粉末の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【実施例5】
【0060】
pH調整剤として、炭酸ナトリウムに換えてアンモニア水を使用したほかは実施例1と同様に製造したため、ニッケル粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は90nmであり、凝集率は0.8%であった。結果を表1に示す。
【実施例6】
【0061】
金属化合物を、塩化ニッケルに換えて塩化鉄にしたほかは実施例1と同様に製造したため、金属粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMにより鉄粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は100nmであり、凝集率は0.6%であった。結果を表1に示す。
【実施例7】
【0062】
金属化合物を、塩化ニッケルに換えて塩化コバルトにしたほかは実施例1と同様に製造したため、金属粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりコバルト粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は50nmであり、凝集率は0.6%であった。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
ビーカーに、還元剤としての三塩化チタン溶液80g、錯化剤としてのグルコン酸ナトリウム65g、分散剤としてのポリビニルピロリドン(PVP:分子量30000)を1gを純水1リットルに溶解させる。この液を、500rpmの速度で攪拌しながら、pH調整剤としての炭酸ナトリウムを徐々に加えてpHを8.5となるように調整した。
【0064】
pH調整の液に、30℃の反応温度で120分間、500rpmの速度で攪拌しながら、金属原料としての塩化ニッケル10g加えて、沈殿物を析出させた。得られた沈殿物を限外ろ過膜で洗浄ろ過を行い、純水で洗浄を繰り返しながら不純物を除去して、水を分散媒とする少量の沈殿を含むニッケル分散液を得た。このニッケル分散液を60℃の恒温槽で乾燥させてニッケル粉末を得た。即ち、金属原料の投入を最後に行うことにより、金属粉末析出の制御を金属原料の投入タイミングにより行った点が実施例1と異なる。
【0065】
得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は30nmであり、凝集率は1.6%であった。結果を表1に示す。また、本実施例で得られた金属粉末の電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0066】
(比較例2)
還元剤としての三塩化チタン80gに換えて、ヒドラジンを100g使用したほかは比較例1と同様に製造したため、ニッケル粉末の製造方法の記載を省略する。得られた粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察しその粒径の平均値を求めた。また、同じくSEMによりニッケル粉末粒子を500粒子カウントし、その500粒子中の粒子凝集物の数を求め、粒子凝集物の存在割合を算出して凝集率とした。その結果、平均粒径は300nmであり、凝集率は4.0%であった。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

(評価)
図1および2に示すように、実施例1および4の金属粉末には、凝集した粒子は見つからないのに対して、比較例1の金属粉末には、図3中○で囲み表示したように、凝集した粒子が存在している。係る傾向は他の実施例と比較例とにおいても同様である。表1から明らかなように、実施例1〜7はいずれも凝集率1.0%未満であり、金属粉末の粒子凝集物の発生が抑制されている。一方比較例1および2はいずれも凝集率が1.0%以上であり、金属粉末の粒子凝集物が多く発生している。
【0068】
実施例1に対して、実施例2および3は錯化剤のみを変えた例であり、比較すると実施例2および3とも凝集率が上昇している。従って、錯化剤としてはリンゴ酸、クエン酸ナトリウムに比して、グルコン酸ナトリウムが優れていることが判る。同様に、実施例1に対して、実施例4は還元剤のみを変えた例であり、比較すると実施例4は凝集率が上昇している。従って、還元剤としてはヒドラジンに比して、三塩化チタンが優れていることが判る。また、実施例1に対して、実施例5はpH調整剤のみを変えた例であり、比較すると実施例5は凝集率が上昇している。従って、pH調整剤としてはアンモニア水に比して、炭酸ナトリウムが優れていることが判る。
【0069】
更に、実施例1に対して、実施例6および7は金属化合物のみを変えた例であり、いずれも1.0%未満の凝集率の金属粉末を得ることができている。従って、少なくとも、金属種として塩化鉄を使用し、凝集率1.0%未満の鉄粉末を得ることが、本発明を適用することにより可能であることが判る。同様に、少なくとも、金属種として塩化コバルトを使用し、凝集率1.0%未満のコバルト粉末を得ることが、本発明を適用することにより可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の活用例としては、卑金属粉末または卑金属を主成分とする合金粉末およびその製造方法、導電性ペースト、並びに積層セラミックコンデンサに関し、特に、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いる導電性ペースト用の導電性微粉末として好適な卑金属粉末または卑金属を主成分とする合金粉末、その製造方法、およびそれを用いた導電性ペースト、並びに積層セラミックコンデンサが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物、還元剤、錯化剤、分散剤を溶解することにより、該金属化合物に由来する金属イオンを含有する水溶液を作製する第1工程と、
前記水溶液のpH調整をすることにより前記金属イオンを前記還元剤により還元させ、金属粉末を析出させる第2工程とを備える金属粉末製造方法。
【請求項2】
前記金属化合物が卑金属の化合物である請求項1に記載の金属粉末製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物がニッケル・鉄・コバルトからなる郡のうち少なくともいずれか1つの金属の化合物である請求項1または2に記載の金属粉末製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が三塩化チタンおよびヒドラジンの少なくとも一方である請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属粉末製造方法。
【請求項5】
前記pH調整が炭酸ナトリウムまたはアンモニア水により行われる請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属粉末製造方法。
【請求項6】
卑金属で形成された平均粒径が20nm以上200nm以下の金属粉末において、
前記金属粉末の複数の粒子が凝集することにより形成された粒子凝集物の占める割合が、金属粉末の全粒子数に対して1.0%未満であることを特徴とする金属粉末。
【請求項7】
請求項6に記載の金属粉末を含む導電性ペースト。
【請求項8】
内部電極層および誘電体層を交互に積層して形成されたコンデンサ本体を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記内部電極層が、請求項7に記載の導電性ペーストにより形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−242143(P2010−242143A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90460(P2009−90460)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】