説明

金属蒸着ポリエステルフィルム

【課題】
フィルムロール状に巻き取った際に、シワやクラックになりにくい金属蒸着ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】
ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設けた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、M層の光学濃度ODが0.7〜8.0であり、幅方向の蒸着厚みムラが20%以下である金属蒸着ポリエステルフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録材料、電子材料、製版フィルム、昇華型リボン、包装材料などに用いた際に有用で、特に高容量の磁気記録媒体用支持体として用いたときに有用な金属蒸着ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データストレージやデジタルビデオテープ用などの磁気記録媒体においては、高密度化、高容量化が進んでいる。LTO(Linear Tape Open)、SDLT(Super Digital Linear Tape)、エンタープライズ用などのリニア記録方式の磁気記録媒体では、1巻で300GB以上の高容量を有するものが開発されている。
【0003】
高容量化のために、延伸倍率アップによるベースフィルムの高強度化、テープ幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数の最適化、添加粒子の小径化等これまで数多くの検討がなされてきた。しかし、これらの技術を用いても1巻で300GB以上の高容量を有する磁気記録媒体用としては十分な特性が得られなかった。それらの中でも特に厳しい、ベースフィルムの高強度化、温度や湿度に対する寸法安定性向上の要求に応えるため、ポリエステルフィルムの片面または両面に金属などの補強層を設ける方法(特許文献1)が開示されている。しかしながら、補強層が金属の場合、酸化物と比較して一般に強度が弱く、さらには光が十分に透過しないため磁性層の膜厚管理が困難である。一方、補強層が酸化物やその他の化合物の場合、硬いがもろいため、張力によってクラックを生じやすかった。検討の結果、金属を完全に酸化させるのではなく、補強層の酸化度を制御することで、ベースフィルムの高強度化、及び耐クラック性の向上が可能であることが分かってきた。
【0004】
酸化金属層を蒸着する技術として、図1に示すような真空蒸着装置が開示されている(特許文献2)。この真空蒸着装置11においては、真空チャンバ12の内部をポリエステルフィルムが巻出しロール部13から冷却ドラム16を経て巻取りロール部18へと走行する。このときに、るつぼ21内の金属材料19を電子ビーム加熱25により蒸発させるとともに、酸素供給ノズル22から酸素ガスを導入し、蒸発した金属を酸化反応させながら冷却ドラム16上のポリエステルフィルムに蒸着する。しかしながら、これらの技術においては、幅方向の蒸着厚みムラに関する考慮は一切されていない。蒸着厚みムラが存在するとフィルムロールとして巻き取った際に、シワやクラックが入りやすく、例えば磁気記録媒体用として、使用が困難である。
【0005】
一方で、蒸着厚みムラを補正する技術として補正板を使用する技術が知られている(特許文献3、4)。しかしこれらの技術では、蒸着原料そのものに完全な酸化物を使用しており、本願の特徴とする酸化度の調整ができない。そのため、磁気記録媒体用支持体として求められる高強度化および耐クラック性を両立することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−216195号公報
【特許文献2】特開2007−157244号公報
【特許文献3】特開平9−287069号公報
【特許文献4】特開平9−287074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フィルムロール状に巻き取った際にシワやクラックになりにくい金属蒸着ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設けた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、M層の光学濃度ODが0.7〜8.0であり、幅方向の蒸着厚みムラが20%以下である金属蒸着ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、フィルムロール状に巻き取った際に、シワやクラックになりにくい金属蒸着ポリエステルフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】金属蒸着ポリエステルフィルムを製造する際に用いられる真空蒸着装置の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)が形成されている。金属酸化物とは、例えば、Cu、Zn、Al、Si、Fe、Ag、Ti、Mg、Sn、Zr、In、Cr、Mn、V、Ni、Mo、Ce、Ga、Hf、Nb、Ta、Y、Wなどの金属成分を酸化させたものであり、本発明においてはM層にこれら金属酸化物が含まれている。このような金属酸化物は、蒸着工程中において酸化させたものであることが好ましい。
【0012】
上記の金属酸化物は、光学濃度が後述するような範囲内であれば両表面で異なる金属成分を含んでいてもよく、また、複数種の金属成分を混合して含んでいても構わないが、より好ましくは両表面で同一種の金属成分を含む方が平面性などを制御しやすいため好ましい。さらに、酸化度の制御性、寸法安定性、生産性、環境性の観点から、金属種としては、Al、Cu、Zn、Ag、Si元素の少なくとも一種を含んでいることが好ましく、より好ましくはAl元素を含んでいることが好ましい。
【0013】
また、M層の厚みは20〜200nmであることが好ましい。M層の厚みが20nmより小さい場合、補強効果が小さくなる傾向にある。M層の厚みの下限は、好ましくは30nm、より好ましくは40nmである。一方、M層の厚みが200nmより大きい場合は、熱負けなどにより蒸着が困難になることがある。M層の厚みの上限は、好ましくは180nm、更に好ましくは160nmである。
【0014】
幅方向の蒸着厚みムラは20%以下、好ましくは15%以下、更に好ましくは8%以下である。蒸着厚みムラが20%よりも大きいと、フィルムロール状として巻き取る際に、幅方向の応力バランスが不均一となり、シワが入ったり、金属蒸着層にクラックが入りやすくなる。
【0015】
また、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムにおいて、各M層の光学濃度は0.7〜8.0であることが好ましい。光学濃度とは、下記式(1)のように光線透過率と蒸着厚み(各M層の厚み)から算出される。光学濃度が小さいほど酸化が進んでいることを示し、大きいほど酸化が不完全であることを示す。
【0016】
光学濃度OD[1/μm]=
−(1/蒸着厚み[μm])log(全光線透過率[%]/100) ・・・(1)
光学濃度が0.7より小さい場合、酸化が進みすぎているため、脆く割れやすくなる。光学濃度の下限はより好ましくは0.8、さらに好ましくは1.0である。一方、8.0より大きい場合、酸化が不充分であるため、強度が弱く、補強効果が小さくなるばかりか、透過率が小さくなるため、磁気記録媒体用支持体として用いた場合に膜厚制御が困難になることがある。光学濃度の上限はより好ましくは7.0、さらに好ましくは6.0である。
【0017】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、全光線透過率が1〜80%であることが好ましい。80%より高い場合、酸化が進みすぎているため、M層が硬くて脆く、金属蒸着フィルムをロール状に巻き取った際にクラックを生じやすい。上限は75%が好ましく、さらに好ましくは70%である。全光線透過の下限は、より好ましくは2%であり、さらに好ましくは3%である。より好ましい範囲としては、2〜75%、さらに好ましい範囲としては、3〜70%である。M層として金属を蒸着した場合、光線透過率が小さくなるため、磁性層やバックコート層の塗布厚みのコントロールがしにくい。
【0018】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムにおいて、F層は2層以上の積層構成であることが好ましい。特に、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体用支持体として用いた時に有用であり、一方の表面には優れた電磁変換特性を得るための平滑さが求められ、他方の表面には、製膜・加工工程での搬送や、磁気テープの走行性や走行耐久性を付与するための粗さが求められる。
【0019】
磁性層を設ける側の表面(A)の表面粗さSRaは0.5nm〜10nmであることが好ましい。磁性層を設ける側の表面(A)のSRaが0.5nmより小さい場合は、フィルム製造、加工工程などで、搬送ロールなどとの摩擦係数が大きくなり、工程トラブルを起こすことがある。また、SRaが10nmより大きい場合は、高密度記録の磁気テープとして用いる場合に、電磁変換特性を低下させることがある。磁性層を設ける側の表面(A)のSRaの下限は、1nmであることが好ましく、より好ましくは2nm、さらに好ましくは3nmであり、上限は9nm、さらに好ましくは8nmである。より好ましい範囲としては、2〜9nm、さらに好ましい範囲としては、3〜8nmである。
【0020】
一方、バックコート層を設ける側の表面(B)の表面粗さSRaは2nm〜30nmであることが好ましい。バックコート層側の表面(B)のSRaが2nmより小さい場合は、搬送ロールなどとの摩擦係数が大きくなり、工程トラブルを起こすことがある。また、SRaが30nmより大きい場合は、フィルムロールやパンケーキとして保管する際に、表面突起が反対側の表面に転写し、電磁変換特性が低下することがある。バックコート層側の表面(B)のSRaの下限は、より好ましくは3nm、さらに好ましくは4nmであり、上限は20nm、さらに好ましくは15nmである。より好ましい範囲としては、3〜25nm、さらに好ましい範囲としては4〜20nmである。
【0021】
SRaを上記範囲内とするためには、F層の表面粗さを制御することが有効である。F層の表面粗さを制御するためには、層内に不活性粒子を添加することが好ましく、本発明において層(A)に不活性粒子Iを用いる場合、その平均粒径dIは好ましくは0.04〜0.30μm、より好ましくは0.05〜0.15μmで、その層における含有量は好ましくは0.001〜0.30質量%、より好ましくは0.01〜0.25質量%である。磁気記録用媒体においては平均粒径が0.30μmよりも大きな粒子を用いると電磁変換特性が悪化する場合がある。一般に平均粒径および添加量を小さくするほどSRaは小さくなり、平均粒径および添加量を大きくするほどSRaは大きくなる。
【0022】
2層構造のF層において、表面(B)を構成する層(B)の厚みtBは好ましくは0.1〜2.0μmであり、より好ましくは0.2〜1.5μmである。この厚みが、0.1μmよりも小さくなると蒸着工程などで粒子が脱落しやすくなり、2.0μmよりも大きくなると添加粒子の突起形成効果が減少する場合がある。
【0023】
2層構造のF層において、層(B)に粒子を含める場合、その粒子は1種類であっても2種類以上であってもよい。層(B)に添加する最も大きい不活性粒子を不活性粒子IIとしたとき、その平均粒径dIIは、好ましくは0.1μm〜1.0μmで、より好ましくは0.4μm〜0.9μm、その層における含有量は好ましくは0.002質量%〜0.10質量%、より好ましくは0.005〜0.05質量%であり、さらに不活性粒子IIIを含有せしめる場合、その平均粒径は不活性粒子IIよりも小さく平均粒径は好ましくは0.05μm〜0.5μm、より好ましくは0.2μm〜0.4μmで、含有量は好ましくは0.1質量%〜1.0質量%、より好ましくは0.2〜0.4質量%である。
【0024】
2層構造のF層において、層(B)および、表面(A)を構成する層(A)に含まれる不活性粒子は、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子を用いることができ、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いるとよい。
【0025】
2層構造のF層において、層(A)および層(B)に含まれる不活性粒子は、粒子形状・粒子分布は均一なものが好ましく、体積形状係数は好ましくはf=0.3〜π/6であり、より好ましくはf=0.4〜π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
【0026】
f=V/Dm
ここでVは粒子体積(μm),Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。
【0027】
なお、体積形状係数fは粒子が球の時、最大のπ/6(=0.52)をとる。必要に応じて粗大粒子や介在物を除去するため、濾過などを行うことが好ましい。中でも、球状シリカは単分散性に優れ、突起形成を容易に制御でき、本発明の効果がより良好となるため好ましい。また必要に応じて、地肌補強の観点から一次粒径が0.005〜0.10μm、好ましくは0.01〜0.05μmのα型アルミナ、γ型アルミナ、δ型アルミナ、θ型アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタン粒子などから選ばれる不活性粒子を表面突起形成に影響を及ぼさない範囲で含有してもよい。
【0028】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、長手方向および幅方向のヤング率がいずれも4〜13GPaであることが好ましい。長手方向のヤング率が4GPaより小さい場合、テープドライブ内での長手方向への張力によって長手方向に伸び、この伸び変形により幅方向に収縮し、記録トラックずれという問題が発生しやすい。長手方向のヤング率の下限は、より好ましくは4.5GPa、さらに好ましくは5GPaである。一方、長手方向のヤング率が13GPaより大きい場合、幅方向のヤング率を好ましい範囲に制御することが難しくなり、幅方向のヤング率が不足し、エッジダメージの原因となる。長手方向のヤング率の上限は、より好ましくは12GPa、さらに好ましくは10GPaである。より好ましい範囲としては、4.5〜12GPa、さらに好ましい範囲としては5〜10GPaである。
【0029】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、幅方向のヤング率が4〜13GPaの範囲であることが好ましい。幅方向のヤング率が4GPaより小さい場合、エッジダメージの原因となったりすることがある。幅方向のヤング率の下限は、より好ましくは5GPa、さらに好ましくは6GPaである。一方、幅方向のヤング率が13GPaより大きい場合、長手方向のヤング率を好ましい範囲に制御することが難しくなる。幅方向のヤング率の上限は、より好ましくは12.5GPa、さらに好ましくは12GPaである。より好ましい範囲としては、5〜12.5GPa、さらに好ましい範囲としては6〜12GPaである。
【0030】
また、長手方向と幅方向のヤング率の比(長手方向/幅方向)は0.3〜1.0、好ましくは0.4〜0.9、さらに好ましくは0.5〜0.8である。ヤング率の比が0.3よりも小さいと、磁気テープとして十分な長手方向の強度が得られず、一方1.0よりも大きいと、横方向の強度が十分に得られないことがある。
【0031】
金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向及び幅方向のヤング率は、ポリエステルフィルムのヤング率、M層の厚み、酸化度などによって制御できる。一般に、ポリエステルフィルムのヤング率を大きく、M層の厚みを厚く、更に酸化度を大きくするほど金属蒸着フィルムのヤング率は大きくなる傾向にある。逆にフィルムのヤング率を小さく、M層の厚みを薄く、更に酸化度を小さくするほど金属蒸着フィルムのヤング率は小さくなる傾向にある。
【0032】
なお、本発明において長手方向とは、一般的にMD方向といわれる方向であって、ポリエステルフィルム製造工程時の長手方向と同じ方向を指し、幅方向とは、一般的にTD方向といわれる方向であって、ポリエステルフィルム製造工程時の幅方向(MD方向と直交する方向)と同じ方向を指す。
【0033】
本発明におけるポリエステルフィルムとは、分子配向により高強度フィルムとなるポリエステルを使用したものであれば特に限定しないが、主としてベンゼン環、ナフタレン環を主鎖骨格にもつポリエステルであるポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどからなることが好ましい。特に好ましくはクリープ特性が良好であるポリエチレンテレフタレートである。エチレンテレフタレート以外のポリエステル共重合体成分としては、例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、p−キシリレングリコール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどのジオール成分、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカンジオン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸成分、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分、p−オキシエトキシ安息香酸などが使用できる。さらに、エステル結合を生成するモノマーとして、ジカルボン酸成分、ジオール成分以外に、カルボキシル基とヒドロキシ基を一分子内に有するモノマーである、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸を共重合せしめることができる。これら共重合ポリマーの構成モノマー分率はNMR法(核磁気共鳴法)や顕微FT−IR法(フーリエ変換顕微赤外分光法)などの分光法を用いて調べることができる。
【0034】
また、本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、3〜6μmであることが好ましい。この厚みが3μmより小さい場合は、磁気記録媒体用支持体として十分な強度が得られないことがある。ポリエステルフィルムの厚みの下限は、より好ましくは3.5μm、さらに好ましくは4.0μmである。一方、ポリエステルフィルムの厚みが6μmより大きい場合は、テープ1巻あたりのテープ長さが短くなるため、磁気テープの小型化、高容量化が困難になる場合がある。ポリエステルフィルムの厚みの上限は、より好ましくは5.5μm、さらに好ましくは5.0μmである。より好ましい範囲としては3.5〜5.5μm、さらに好ましい範囲としては4.0〜5.0μmである。
【0035】
上記したような本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、たとえば次のように製造される。
【0036】
まず、金属蒸着ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムを製造する。以下、ポリエチレンテレフタレート(PET)をポリエステルとして用いた例を代表例として説明するが、本願はPETフィルムを用いた金属蒸着ポリエステルフィルムに限定されるものではない。
【0037】
ポリエステルに不活性粒子を含有させる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子Iを所定割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、滑り性、電磁変換特性を共に良好とすることができる。また粒子の水スラリーを直接所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の効果に有効である。
【0038】
このようにして準備した、粒子含有ペレットおよび粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給し、ポリマーをフィルターにより濾過する。
【0039】
また、非常に薄い磁性層を塗布する高密度磁気記録媒体用途においては、ごく小さな異物も磁気記録欠陥であるDO(ドロップアウト)の原因となるため、フィルターには例えば1.5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度の繊維焼結ステンレスフィルターを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、1から3台の押出機、1から3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて必要に応じて積層し、口金からシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は有効である。
【0040】
続いて、上記未延伸フィルムを長手方向と幅方向の二軸に延伸した後、熱処理する。延伸工程は、特に限定されないが、各方向において2段階以上に分けることが好ましい。すなわち再縦、再横延伸を行う方法が高密度記録の磁気テープとして最適な高強度のフィルムが得られ易いために好ましい。
【0041】
延伸方法は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸においてはロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱が発生せず、表面性が制御しやすいため延伸方法としてより好ましい。同時二軸延伸においては未延伸フィルムを、まず長手および幅方向に延伸温度は、例えば80〜160℃、好ましくは85〜130℃、更に好ましくは90〜110℃で同時に延伸する。延伸温度が80℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が160℃よりも高くなると磁気記録媒体として用いた時に十分な強度が得らにくい場合がある。また、延伸ムラを防止する観点から、長手方向・横方向の合計延伸倍率は、例えばベンゼン環やテレフタル酸など単環系芳香族基を主要な成分とするポリエステルでは8〜30倍、好ましくは9〜25倍、更に好ましくは10〜20倍とすることが好ましい。また、ナフタレン環など二環系芳香族基を主要な成分とするポリエステルでは10〜40倍とすることが好ましく、より好ましくは10〜35倍、更に好ましくは10〜32倍とする。延伸倍率が8倍よりも小さいと本発明の対象とする高密度磁気記録媒体用として必要十分な強度が得られにくい。一方、倍率が30倍よりも大きくなると、フィルムが破れ、製造が難しい場合がある。高密度磁気記録媒体に必要な強度を得るためには、必要に応じて、好ましくは温度140〜210℃、より好ましくは160〜200℃で、好ましくは、1.05〜1.8、より好ましくは1.2〜1.6倍で再度長手及び/又は幅方向に延伸を行うことが好ましい。1.05よりも小さいと十分な強度が得られない場合があり、1.8倍よりも大きいとフィルムが破れ、製造が難しい場合がある。その後、例えば180〜235℃好ましくは190〜220℃で、例えば0.5〜20秒、好ましくは1〜15秒熱固定を行う。熱固定温度が180℃よりも低いとフィルムの結晶化が進まないため構造が安定しにくい。一方、235℃よりも大きくすると、ポリエステル非晶鎖部分の緩和が進み、ヤング率が小さくなるため磁気記録媒体用途として十分な強度が得られにくい。その後、長手方向及び又は幅方向に0.5〜7.0%の弛緩処理を施す。逐次二軸延伸においても、上述の温度範囲・合計延伸倍率範囲が好適に用いられる。
【0042】
その後、公知の方法により所定の幅、長さに巻き取ったポリエステルフィルムロールは水分を吸湿しないように、低湿度の環境下で保存することが好ましく、輸送時などもできるだけ吸湿を防ぐような包装が好ましい。包装内の湿度は、ブロッキングによるフィルム切れ防止として20%RH以下、好ましくは15%RH以下、さらに好ましくは10%RH以下で保持することが好ましい。包装内の湿度は包装材や乾燥剤の種類を変更することで達成できる。
【0043】
次に、上記のようにして得られたポリエステルフィルムの少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設ける。このとき、光学濃度ODを上述のとおりとするために、金属酸化物の膜厚と酸化状態を制御する。M層の形成方法としては物理蒸着法や化学蒸着法を用いることができる。ポリエステルフィルムへの物理蒸着法には真空蒸着法、スパッタリング法があり、特に酸化度の制御しやすさから真空蒸着法が好ましく、具体的には誘導加熱蒸着法や、金属蒸気の高エネルギー化が可能な電子ビーム蒸着法が好ましい。更には、幅方向の金属蒸気分布を制御しやすい電子ビーム蒸着法が好ましい。金属蒸気の蒸発量は、金属材料上での電子ビームの滞在時間を幅方向の位置で変化させることにより制御可能である。すなわち、電子ビームの滞在時間を長くした位置では金属蒸気の蒸発量が多くなり蒸着膜厚は厚くなる。一方、滞在時間を短くした位置では金属蒸気の蒸発量が少なくなり、蒸着膜厚は薄くなる。
【0044】
M層を構成する金属酸化物の酸化度を制御するには、基本的には金属蒸発量と酸素ガス導入量を制御する必要がある。金属蒸発量が一定であれば、酸素ガス導入量を減らせば酸化度が低くなり、酸素ガス導入量を増やせば酸化度が高くなる。逆に酸素ガス導入量が一定であれば、金属蒸発量を減らせば酸化度が高くなり、金属蒸発量を増やせば酸化度が低くなる。
【0045】
一般に幅方向に均一な酸素導入、均一な金属蒸発を行えば、幅方向について均一な膜厚が得られる、すなわち厚みムラの小さな蒸着膜が得られると推定されるが、現実には中央と比較して端部の厚みが大幅に小さくなることが多い。検討した結果、端部には中央より多くの金属蒸気の蒸発、および酸素導入が必要であり、蒸発源近傍の蒸発条件を逆に不均一にすることによって初めて幅方向均一な膜厚の金属蒸着ポリエステルフィルムが得られることが分かってきた。原因は明らかではないが、端部の金属蒸気はフィルムへ到達する前に一部がフィルム以外の部分に拡散、もしくは排気されるものと推定される。本願の手法は、不均一な制御により蒸着ムラを均一に制御するものであり、極めて特徴のある手法である。
【0046】
なお、本発明においては、ポリエステルフィルムやそのポリエステルフィルムを用いて得られた金属蒸着ポリエステルフィルムに、必要に応じて、熱処理、マイクロ波加熱、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチング、などの任意の加工を行ってもよい。
【0047】
ポリエステルフィルム表面にM層を形成するには、前述の図1に示すような真空蒸着装置を用いる。蒸着は両面であっても片面であっても良いが、両面の場合高強度のフィルムが得られやすいため好ましい。両面にM層が必要な場合、片方の表面(1面目)に金属酸化物を蒸着した後巻取りロール部18から片面蒸着ポリエステルフィルムを取り外し、それを巻出しロール部13にセットし同じように反対側の表面(2面目)に金属酸化物を蒸着してもよいし、もしくは両面を1パスで蒸着してもよい。なお、この真空蒸着装置11は、酸化度を容易に制御でき、かつ効率的に酸化反応を行わせるため、酸素供給ノズル24をるつぼ21と冷却キャン16の間に図のように設置している。
【0048】
ここで、真空チャンバ12の内部は1.0×10−8〜1.0×10Paに減圧することが好ましい。より緻密で良好なM層を形成させるために好ましくは、1.0×10−6〜1.0×10−1Paに減圧することが好ましい。1.0×10−8Paよりも低くすることは実用上難しく、1.0×10よりも大きいと、金属蒸気が蒸発しにくくなるため、所望の蒸着厚みを形成することが困難である。
【0049】
冷却ドラム16は、その表面温度を−40〜60℃の範囲内にすることが好ましい。より好ましくは−35〜40℃、さらに好ましくは−30〜0℃である。−40℃よりも低くすることは実用上難しく、60℃よりも大きいと冷却不足となり、ポリエステルフィルム表面が溶けやすくなる。また、冷却効率をあげるため、ポリエステルフィルムを静電印加等の公知の手法により冷却キャンに密着させることも有効である。
【0050】
酸素ガスは、ガス流量制御装置24を用いて導入する。酸素ノズルは幅方向、特に端部の流量が調整できるように、好ましくは3点、更に好ましくは5点以上独立して流量が制御できることが好ましい。
【0051】
真空チャンバ12の内部におけるポリエステルフィルムの搬送張力は40〜150N/mが好ましい。40N/mよりも小さいと熱負けしやすく、150N/mよりも大きいと巻き締まりによるシワが発生しやすくなる。より好ましくは50〜140N/m、さらに好ましくは60〜130N/mである。フィルム幅は500〜1,200mmが好ましく、長さは5,000m〜60,000mが好ましい。フィルム幅が500mmよりも小さいと生産効率が悪く、1,200mmよりも大きいと、熱負けによる破れが発生しやすくなる。また、長さが5,000mよりも小さいと、生産効率が悪く、60,000mよりも大きいと、シワになりやすい。
【0052】
次に本発明のフィルムロールを巻き取る際には、下記のような条件が一般的に用いられている。すなわち、巻取張力30〜150N/m、巻取接圧200〜1,000N/m、巻取速度50〜200m/分とするとフィルムロールの外観の点で好ましい。特に、幅1m、長さ10,000m程度のフィルムを巻き取る場合には、巻取張力50〜130N/m、巻取接圧300〜800N/m、巻取速度50〜180m/分の範囲にすることが巻き取り中のシワを防止する点で好ましい。
【0053】
金属蒸着ポリエステルフィルムの幅、長さについては特に限定されないが、幅が100mmに満たない場合や、長さが300mに満たない場合、応力の集中が起こりにくいため、シワやクラックには至りにくい。ただし、フィルム幅が6,000mmを超える場合や、長さが100,000mを超える場合、自重による偏心の影響が大きくなるため、本発明の効果が発現しにくい。金属蒸着ポリエステルフィルム幅は100mm〜6,000mm、好ましくは300mm〜3,000mm、更に好ましくは500mm〜2,000mmである。金属蒸着ポリエステルフィルムの長さは、300m〜100,000m、好ましくは500m〜80,000m、更に好ましくは1,000m〜60,000mである。
【0054】
本発明の金属蒸着ポリエステルフィルムは、磁気記録材料、電子材料、製版フィルム、昇華型リボン、包装材料として用いた時に有用で、特に1巻で300GB以上の高容量を有する磁気記録媒体用支持体として用いた時に有用である。
【実施例】
【0055】
(物性の測定方法ならびに効果の評価方法)
本発明における特性値の測定方法並びに効果の評価方法は次の通りである。
【0056】
(1)M層の厚み
下記条件にて蒸着厚みの測定を行う。幅方向の中央、および中央から両端へ向けて100mmおきに測定する。例えば、1m幅のサンプルであれば幅方向9点測定する。
【0057】
測定装置:蛍光X線分析装置 理学製 ZSX PrimusII
測定電圧:30kV
X線管 :縦型Rh管
サンプル径:30mmφ
測定回数:各測定箇所につき3回。
【0058】
各測定個所におけるn=3のデータを平均し、得られる値をその測定個所における厚み値とした。
【0059】
また、この平均した厚み値のうち最大のものをM層の最大厚み、最小のものをM層の最小厚み、平均したものをM層の平均厚み、とした。
【0060】
(2)蒸着厚みムラ
下記式にて蒸着厚みムラを算出した。
【0061】
蒸着厚みムラ(%)=((M層の最大厚み−M層の最小厚み)/M層の平均厚み)×100
(厚みの単位はいずれもnm)
(3)全光線透過率
JIS−K7105(1981)に準拠し、下記測定装置を用いて測定する。幅方向の中央、および中央から両端へ向けて100mmおきに測定する。例えば、1m幅のサンプルであれば幅方向9点測定する。なお、両面に蒸着したサンプルは、測定しない面の蒸着膜をフッ酸、あるいは塩酸で拭き取り除去し、全光線透過率を測定する。
【0062】
測定装置 :ヘーズメーター HZ−2 スガ試験機社製
測定回数 :5回
測定環境 :温度23℃、湿度65%RH
サンプル径:30mmφ
各測定個所におけるn=5のデータを平均し、得られる値をその測定個所における全光線透過率とした。また、幅方向の各測定箇所における全光線透過率を平均したものをM層の全光線透過率、とした。
【0063】
(4)光学濃度
(1)と(2)の方法にて求められる蒸着膜厚と全光線透過率から(式1)を用いて、各M層の光学濃度を別々に算出する。
【0064】
光学濃度OD[1/μm]=
−(1/蒸着厚み[μm])log(全光線透過率[%]/100) ・・・(1)
(5)三次元表面粗さ SRa
小坂研究所の三次元微細形状測定器(型式ET−350K)および三次元表面粗さ解析システム(型式TDA−22)を用いて三次元表面粗さSRa(中心面平均粗さ)を測定した。条件は下記の通りであり、3回の測定の平均値をもって値とした。
【0065】
・触針径 :2μm
・触針の荷重 :0.04mN
・縦倍率 :5万倍
・カットオフ :0.08mm
・送りピッチ :5μm
・測定長 :0.5mm
・測定面積 :0.2mm
・測定速度 :0.1mm/秒
(6)ヤング率
JIS−K7161(1994)に準拠して測定する。なお、インストロンタイプの引張試験機を用い、条件は下記のとおりとする。5回の測定結果の平均値を本発明におけるヤング率とする。
【0066】
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:200mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH
測定回数:5回測定し、平均値から算出する。
【0067】
(7)粒子の平均粒径
蒸着前のポリエステルフィルムからポリマーをプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させた。処理条件は、ポリマーは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択した。その粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、粒子画像をイメージアナライザで処理した。SEMの倍率は20,000倍で、観察箇所をかえて粒子数100個以上で粒径とその体積分率から、次式で体積平均径dを得た。粒径の異なる2種類以上の粒子を含有している場合には、それぞれの粒子について同様の測定を行い、粒径を求めた。
【0068】
d=Σ(di・Nvi)
ここで、diは粒径、Nviはその体積分率である。粒子がプラズマ低温灰化処理法で大幅にダメージを受ける場合には、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で、20,000倍で観察した。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所をかえて粒子数100個以上測定し、上記式から体積平均径dを求めた。
【0069】
(8)粒子の体積形状係数
走査型電子顕微鏡で、粒子の写真を20,000倍で10視野撮影した。さらに画像解析処理装置を用いて、投影面最大径および粒子の平均体積を算出し、下記式により体積形状係数を得た。
【0070】
f = V / Dm
ここで、Vは粒子の平均体積(μm)、Dmは投影面の最大径(μm)である。
【0071】
(9)フィルム積層厚み
フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、20,000倍で観察した。TEMの切片厚さは約100nmとし、含有粒子径および粒子濃度をもとに界面の観察結果から各層の厚みを評価した。また、上記による観察が困難な場合、SIMS(二次イオン質量分析装置)を用いて評価することもできる。表面からエッチングしながら、粒子もしくは耐熱性熱可塑性樹脂に起因する元素濃度のデプスプロファイルを測定し、各層の厚みを評価する。
【0072】
(10)クラックの評価
得られたフィルムロールを張力80N、面圧500Nで1m幅で10,000m巻き取った。巻き取り後、フィルムロール表面でクラックの有無を目視で確認した。10,000mの表層でクラックがあった場合、内層を確認した。
【0073】
◎ ; 10,000mでクラック無し
○ ; 5,000m以上10,000m未満でクラック有り
× ; 5,000m未満でクラック有り
(11)シワの評価
得られたフィルムロールを張力80N、面圧500Nで1m幅で10,000m巻き取った。巻き取り中、及び巻き上がった後、シワの発生状況を目視で確認した。
【0074】
◎ ; 10,000mでシワ無し
○ ; 5,000m以上10,000m未満でシワ有り
× ; 5,000m未満でシワ有り
次の実施例に基づき、本発明の実施形態を説明する。
【0075】
(実施例1)
平均粒径0.10μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを作り、球状シリカ粒子の含有量が0.2質量%となるよう2種のペレットを混合することにより熱可塑性樹脂Aを調製した。また、平均粒径0.3μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレートと、平均粒径0.8μm、体積形状係数f=0.52のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子を含有するポリエチレンテレフタレート、および実質上粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートのペレットを、0.3μmの粒子含有量が0.26質量%、0.8μmの粒子含有量が0.01質量%となるよう混合した熱可塑性樹脂Bを調製した。
【0076】
これらの熱可塑性樹脂をそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥した後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して高精度濾過した後、矩形の2層用合流ブロックで合流積層し、2層積層とした。
【0077】
その後、295℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸積層フィルムを得た。
【0078】
この未延伸積層フィルムをリニアモーター式の同時二軸延伸機により95℃で長手及び幅方向にそれぞれ3.5倍、トータルで12.3倍延伸しその後、再度190℃で長手方向に1.2倍、幅方向に1.4倍延伸し、定長下、205℃で3秒間熱処理し、その後幅方向に2%の弛緩処理を施し、全厚み4.5μm、層(B)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0079】
長手方向のヤング率は5GPa、幅方向のヤング率は7GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が11nmであった。得られたポリエステルフィルムロールは、23℃×10%RHで保管した。
【0080】
次に、図1に示す真空蒸着装置11で、減圧度を1.0×10-2Pa、冷却ドラム表面温度を−20℃、搬送張力100N、フィルムのA面側に膜厚100nm、光学濃度ODが2.2になるよう蒸着した。アルミニウムは電子ビームで加熱蒸発させた。端部における電子ビームの滞在時間を中央と比較して長くすることで端部の金属蒸気蒸発量を増加させ、さらに酸素を導入する際、幅方向5点で独立に制御し、端部の導入酸素量を中央と比較して多くすることでフィルム幅方向の蒸着膜厚が均一になるよう調整した。次にフィルムのB面側の上に同様に膜厚100nm、光学濃度OD3.5である蒸着膜を設けた。
【0081】
このフィルム原反を繊維強化プラスチック(FRP)コアに幅1mで10,000m巻き上げた。巻き取り条件は、巻取張力80N/m、巻取接圧500N/m、巻取速度100m/分とした。特性は表1の通りであり、得られた金属蒸着フィルムロールにクラック及びシワはなかった。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7GPa、幅方向のヤング率は9GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が10nmであった。
【0082】
(実施例2)
蒸着工程で蒸着膜厚を50nm、A面及びB面の光学濃度が4.4および6.9となるよう調整する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は6GPa、幅方向のヤング率は8GPa、表面粗さSRaは層(A)側が6nm、層(B)側が10nmであった。他の特性は表1の通りであり、クラック及びシワはなかった。
【0083】
(実施例3)
蒸着工程で蒸着膜厚を130nm、A面およびB面の光学濃度を共に1.0、またポリエステルフィルムの厚みを変更する以外は、実施例1と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が6nm、層(B)側が12nmであった。他の特性は表1の通りであり、シワはなかったが、8,000mでクラックが発生した。
【0084】
(比較例1)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せずに蒸着する以外は、実施例1と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7GPa、幅方向のヤング率は9GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が10nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に3,000mでクラックが発生し、8,000mでシワが発生した。
【0085】
(比較例2)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せず、A面およびB面の光学濃度を0.5および8.4にして蒸着する以外は、実施例3と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が6nm、層(B)側が12nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に3,000mでクラック及びシワが発生した。
【0086】
(実施例4)
実施例1のポリエステルフィルムを以下のように調製した以外は、同条件で蒸着膜を設けるとともに、巻き取って金属蒸着フィルムロールを得た。
【0087】
芳香族酸成分の73モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、残り27モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分となるよう、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、およびエチレングリコールの混合物を調製した。これをチタンテトラブトキシドをエステル化触媒としてエステル化およびエステル交換反応とを進行させたのち、重縮合反応を行ってナフタレン骨格ポリエステルN2を得た。
【0088】
このナフタレン骨格ポリエステルN2に平均粒径0.20μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有させたペレット、実質上粒子を含有しないナフタレン骨格ポリエステルN2のペレットを作り、球状シリカ粒子の含有量が0.15質量%となるよう2種のペレットを混合することにより熱可塑性樹脂A2を調製した。
【0089】
また、平均粒径0.50μm、体積形状係数f=0.52の球状架橋シリコーン粒子を含有する固有粘度0.62dl/gのポリエチレンナフタレレート(PEN)、平均粒径0.20μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有するPEN、および実質上粒子を含有しないPENのペレットを、球状架橋シリコーン粒子と球状シリカ粒子の含有量がそれぞれ0.02質量%と0.15質量%となるよう混合した熱可塑性樹脂B2を調製した。
【0090】
これらの熱可塑性樹脂をそれぞれ180℃で5時間減圧乾燥した後、別々の押出機に供給し、295℃で溶融押出して高精度濾過した後、矩形の2層用合流ブロックで合流積層し、2層積層とした。
【0091】
その後、295℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化し、未延伸積層フィルムを得た。
【0092】
この未延伸積層フィルムを、回転速度が異なるロール間で135℃で長手方向に5.3倍延伸したのち、両端を把持してオーブン内に導き、145℃で幅方向に6.0倍延伸、トータルで31.8倍延伸した。その後、定長下、190℃で5秒間熱処理し、その後幅方向に2%の弛緩処理を施し、全厚み4.5μm、層(B2)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0093】
長手方向のヤング率は5.5GPa、幅方向のヤング率は7.0GPa、表面粗さSRaは層(A2)側が4nm、層(B2)側が8nmであった。得られたポリエステルフィルムロールは、23℃×10%RHで保管した。
【0094】
実施例1と同様に蒸着膜を設けたのち、フィルム原反を巻き上げて、金属蒸着フィルムロールを得た。得られた金属蒸着フィルムロールにクラック及びシワはなかった。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.0GPa、表面粗さSRaは層(A)側が4nm、層(B)側が8nmであった。
【0095】
(実施例5)
実施例4において、芳香族酸成分の82モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、残り18モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分となるよう変更して、ナフタレン骨格ポリエステルN3を得た。
【0096】
このナフタレン骨格ポリエステルN3に平均粒径0.20μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有させたペレット、実質上粒子を含有しないナフタレン骨格ポリエステルN3のペレットを作り、球状シリカ粒子の含有量が0.10質量%となるよう2種のペレットを混合することにより熱可塑性樹脂A3を調製した。
【0097】
また、平均粒径0.60μm、体積形状係数f=0.51の球状シリカ粒子を含有するPEN、および実質上粒子を含有しないPENのペレットを、シリカ粒子含有量が0.10質量%となるよう混合した熱可塑性樹脂B3を調製した。
【0098】
これらの熱可塑性樹脂を実施例4と同様の条件で製膜し、全厚み4.5μm、層(B3)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。長手方向のヤング率は5.5GPa、幅方向のヤング率は7.0GPa、表面粗さSRaは層(A3)側が5nm、層(B3)側が14nmであった。
【0099】
実施例1と同様に蒸着膜を設けたのち、フィルム原反を巻き上げて、金属蒸着フィルムロールを得た。得られた金属蒸着フィルムロールにクラック及びシワはなかった。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.0GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が13nmであった。
【0100】
(実施例6)
実施例5のナフタレン骨格ポリエステルN3を固有粘度0.62dl/gのPENに変更してA・B側ともにPEN系の層とし、実施例5の条件で乾燥・溶融の後、長手方向に5.0倍、幅方向に6.4倍、トータルで32.0倍延伸を行う以外は実施例5と同様にして、全厚み4.5μm、層(B3)の厚み0.5μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。長手方向のヤング率は5.3GPa、幅方向のヤング率は9.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B3)側が8nmであった。
【0101】
実施例1と同様に蒸着膜を設けたのち、フィルム原反を巻き上げて、金属蒸着フィルムロールを得た。得られた金属蒸着フィルムロールにクラック及びシワはなかった。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.0GPa、幅方向のヤング率は11.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が8nmであった。
【0102】
(比較例3)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せずに蒸着する以外は、実施例4と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.0GPa、表面粗さSRaは層(A)側が4nm、層(B)側が8nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に2,500mでクラックが発生し、4,000mでシワが発生した。
【0103】
(比較例4)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せず、蒸着工程でA面およびB面の光学濃度を0.5および8.4に変更する以外は、実施例4と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は8.0GPa、幅方向のヤング率は9.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が4nm、層(B)側が8nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に2,000mでクラックが発生し、3,000mでシワが発生した。
【0104】
(比較例5)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せずに蒸着する以外は、実施例5と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は9.0GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が14nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に3,000mでクラックが発生し、8,000mでシワが発生した。
【0105】
(比較例6)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せず、蒸着工程でA面およびB面の光学濃度を0.5および8.4に変更する以外は、実施例5と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は8.0GPa、幅方向のヤング率は9.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が13nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に3,000mでクラックが発生し、6,000mでシワが発生した。
【0106】
(比較例7)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せずに蒸着する以外は、実施例6と同様にして金属蒸着ポリエステルフィルムを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は7.5GPa、幅方向のヤング率は11.5GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が8nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に4,000mでクラックおよびシワが発生した。
【0107】
(比較例8)
幅方向の金属蒸気の蒸発量及び酸素流量を調整せず、蒸着工程でA面およびB面の光学濃度を0.5および8.4に変更する以外は、実施例6と同様の方法にて金属蒸着ポリエステルフィルムロールを得た。得られた金属蒸着ポリエステルフィルムの長手方向のヤング率は8.0GPa、幅方向のヤング率は12.0GPa、表面粗さSRaは層(A)側が5nm、層(B)側が7nmであった。他の特性は表1の通りであり、巻取中に3,000mでクラックが発生し、4,000mでシワが発生した。
【0108】
【表1】

【符号の説明】
【0109】
11:真空蒸着装置
12:真空チャンバ
13:巻出しロール部
14:ポリエステルフィルム
15:ガイドロール
16:冷却ドラム
17:蒸着チャンバ
18:巻取りロール部
19:金属材料
20:酸素ガスボンベ
21:るつぼ
22:酸素供給ノズル
23:マスク
24:ガス流量制御装置
25;電子ビーム加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルム層(F層)の少なくとも片面に金属酸化物を含む層(M層)を設けた金属蒸着ポリエステルフィルムであって、M層の光学濃度ODが0.7〜8.0であり、幅方向の蒸着厚みムラが20%以下である金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項2】
M層の厚みが20〜200nmである、請求項1に記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項3】
F層の厚みが3〜6μmである、請求項1または2に記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項4】
長手方向および幅方向のヤング率がいずれも4〜13GPaであり、かつ長手方向と幅方向のヤング率の比(長手方向/幅方向)が0.4〜1.0である、請求項1〜3のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項5】
M層がAl元素を含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項6】
F層の両面にM層を設けてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。
【請求項7】
磁気記録媒体用支持体として用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の金属蒸着ポリエステルフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2010−221698(P2010−221698A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18297(P2010−18297)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】