説明

金属融体の介在物除去方法、及び金属融体の介在物除去装置

【課題】溶鋼などの金属融体中における介在物を簡易に除去することが可能な、新規な方法及び装置を提供する。
【解決手段】円筒形の容器11の外周面において回転運動発生コイル12を設けるとともに、容器11の外周面において軸方向運動発生コイル13を設ける。回転運動発生コイル12から生じたローレンツ力によって、容器11内に容れられた金属融体Sに対して回転運動を生ぜしめ、軸方向運動発生コイル13から生じたローレンツ力13によって、金属融体Sに対して軸方向運動が生ぜしめ、金属融体S内に含まれる介在物を凝集及び肥大化させ、その後、除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属融体の介在物除去方法、及び金属融体の介在物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の高純度化・薄肉化・細線化傾向の製品ニーズは年と共に強まっており、材料を高清浄化するために溶融金属中に存在する介在物を効果的に除去することが、材料製造プロセスで大きな課題となってきている。
【0003】
製鋼分野においては次のような介在物の問題が存在している。線材では軸受け鋼あるいはばね鋼の耐久性向上が目標であり、そのためには介在物起因の応力集中が原因の割れによる寿命低下を防ぐ必要がある。また巨大な介在物が存在すると伸線中に断線を引き起こし操業トラブルとなる。薄板ではDI(Drawm and Ironed)缶、リードフレーム材、シャドーマスク材などの板厚の薄肉化が進んでおり、深絞り時の破断が問題となっている。自動車用外板では表面処理工程で問題となるヘゲ、スリバーなど表面庇を低減することが必要となっている。厚板では溶接部の介在物起因の溶接割れの起点となる介在物の除去が求められている(非特許文献1)。
【0004】
特に巨大化した介在物は最終製品に残留すると重大な製品欠陥を引き起こすため、大型の介在物を除去することが重要となっている。例えば最も製品品質が要求される超清浄鋼である、シャドーマスク材では5μm以下、軸受け鋼では15μm以下が目標レベルである。
【0005】
製鋼プロセスにおける介在物挙動は次の過程に分けられる。すなわち1)鋼中溶存酸素除去のために投入されるAl、Tiなどの脱酸剤の溶解、混合及び化学反応、2)脱酸生成物の核生成、3)介在物粒子の同士の近接・衝突、4)介在物粒子の凝集合体、融合及び成長、5)槽外への浮上分離、6)フラックス・耐火物等への捕捉、7)凝周過程での生成、凝固シェルヘの捕捉に分けられる。
【0006】
脱酸剤を溶鋼中に添加すると核生成理論に伴い多数の微細な介在物が生成する。過去の実験結果によれば(非特許文献2及び3)、初期に生成する酸化物介在物核の形状は各種成分の濃度によって異なるが、主に3μm以下の微細な球形あるいは角状の粒子、放射状・デンドライド状の10μm程度の大きさである。このような微小介在物の粒子の単独での除去は困難であるが、凝集して巨大化した介在物は溶鋼中において小さい介在物と比べて速い浮上速度を持つため、容易に浮上分離が可能である。そのため精錬プロセスでは攪拌による凝集促進が行われている。しかし、凝集して巨大化した介在物が浮上分離せずに鋳片まで達すると欠陥が生じ問題となる。
【0007】
また、介在物の問題は上述した溶鋼中だけでなく、種々の溶融金属中においても問題となる。
【0008】
このような溶融金属の攪拌法として、機械攪拌や電磁攪拌が挙げられる。機械攪拌は激しい攪拌が得られるので強攪拌が必要な合金に対しては有利だが、回転翼による溶融金属への汚染が問題となる。また、1500℃を超える溶鋼などの高温溶融金属の攪拌を行う場合、機械攪拌では回転翼の耐熱性も問題となる。これに対し、電磁攪拌は溶融金属に対して非接触で強力な攪拌と溶融金属の保温ができる。さらに、この特徴のために機械攪拌よりも消耗品が少なく、耐久性が高い。また溶融金属中の介在物の凝集・分離に非常に適しており、期待が高まっている。
【0009】
電磁攪拌には固定交流磁場、回転磁場及び移動磁場を利用する方法等が用いられている。
これらはそれぞれ変動磁場、回転磁場及び移動磁場中に置かれた溶融金属に誘起される誘導電流と印加した磁場自身により生じる電磁力を利用している。しかし、固定交流磁場による攪拌では電力消費が大きすぎたり、回転磁場では溶融金属が剛体回転に近い流れとなり混合が不十分になったり、移動磁場では液面が大きく変形してしまったりと様々な問題が生じている。
【0010】
【非特許文献1】堀内秀雄、高清浄鋼製造技術の最近の進歩、第126.127回西山記念技術講座(1988)
【非特許文献2】国定ら、CAMP-ISIJ, 4(1991), p1234
【非特許文献3】秋吉ら、CAMP-ISIJ, 5(1992), p1312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、溶鋼などの金属融体中における介在物を簡易に除去することが可能な、新規な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、
所定の容器内に所定の金属融体を容れる工程と、
前記容器の外周面に沿って設けられた回転運動発生コイルによって、前記金属融体内に回転運動を生ぜしめる工程と、
前記容器の前記外周面に沿って設けられた軸方向運動発生コイルによって、前記金属融体内に軸方向運動を生ぜしめる工程と、
前記金属融体内の介在物を除去する工程とを具え、
前記金属融体内の前記介在物は、前記金属融体内に生ぜしめられた前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化され、この凝集及び肥大化された状態で除去するようにしたことを特徴とする、金属融体内の介在物除去方法に関する。
【0013】
また、本発明は、
所定の容器内に所定の金属融体を容れるための容器と、
前記金属融体内に回転運動を生ぜしめるための、前記容器の外周面に沿って設けられた回転運動発生コイルと、
前記金属融体内に軸方向運動を生ぜしめるための、前記容器の前記外周面に沿って設けられた軸方向運動発生コイルとを具え、
前記金属融体内の介在物を、前記金属融体内に生ぜしめられた前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化し、この凝集及び肥大化された状態で除去するようにしたことを特徴とする、金属融体内の介在物除去装置に関する。
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、金属融体を容れるべき容器の外周面に沿って、回転運動発生コイルを設けるとともに、前記容器の外周面において、前記容器の同じく外周面に沿って軸方向運動発生コイルを設けるようにし、好ましくはこれらコイルを独立に制御することにより、前記容器内の前記金属融体に対して、回転運動と軸方向運動とを生ぜしめるようにしている。この結果、前記金属融体内に存在している介在物の衝突が頻繁に発生するようになり、前記介在物の凝集肥大化が促進されるようになる。この結果、前記金属融体内の介在物を除去するに際しては、前述のような凝集肥大化された介在物を除去すれば良いので、前記介在物の除去を容易に行うことができるようになる。
【0015】
本発明の一態様においては、前記回転運動発生コイルは、前記容器の前記外周面を周回するように配置し、前記容器の断面を横切るような磁場を生成するようにする。これによって、前記磁場と生成した誘導電流とに基づくローレンツ力により、前記容器内の金属融体内に簡易に回転運動を生ぜしめることができるようになる。
【0016】
また、本発明の他の態様においては、前記軸方向運動発生コイルは、前記容器の外周面を周回するように配置し、隣接するコイル線同士が互いに対をなすとともに、互いに隣接するコイル線対間に逆向きの電流を流し、前記容器の前記金属融体内に互いに逆向きの磁場を生成するようにする。これによって、前記磁場と生成した誘導電流とに基づくローレンツ力により、前記容器内の前記金属融体内に簡易に軸方向運動を生ぜしめることができるようになる。
【0017】
また、本発明の好ましい態様においては、前記回転運動発生コイルによる前記回転運動と、前記軸方向運動発生コイルによる前記軸方向運動とを制御し、前記容器の壁面近傍において前記金属融体に生ぜしめた下降流に起因した上昇流を前記容器の略中央部において生ぜしめ、前記金属融体の液面を平坦に保持するようにする。上記回転運動を生ぜしめることにより、前記金属融体の液面は前記略中央部では窪み、外周部では盛り上がるようになる。しかしながら、上述した上昇流を前記容器の前記略中央部で生ぜしめるようにすることにより、前記金属融体の前記略中央部での窪みを相殺し、前記外周部での盛り上がりを抑制して、前記金属融体の液面をほぼ平坦に保持できるようになる。この結果、前記金属融体のオーバーフローやスラグの巻き込み、さらには前記金属融体の再酸化などを抑制することができるようになる。
【0018】
なお、上述した前記金属融体の前記下降流は、前記軸方向運動発生コイルに対し、前記容器の壁面近傍における表皮効果を生ぜしめるような高周波の電流を流すことによって簡易に形成することができる。
【0019】
また、本発明の他の好ましい態様においては、前記金属融体内の前記介在物を、前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化した後、前記軸方向運動発生コイルを停止させて前記軸方向運動を停止するとともに、前記回転運動発生コイルのみを駆動させて前記回転運動のみを生ぜしめるようにする。この場合、前記介在物に対して、中心方向へ向けた向心力が作用するようになり、凝集及び肥大化した前記介在物を前記金属融体の略中心部に介在せしめることができるようになる。この結果、前記介在物を前記金属融体の略中心部から除去すれば、前記金属融体からの介在物除去を実行できることになり、前記介在物のその後の除去操作をより簡易化することができるようになる。
【0020】
また、既にある程度凝集して肥大化した介在物同士をさらに衝突させて凝集及び肥大化させることができるようになるので、このようなさらに凝集及び肥大化した介在物を除去することにより、前記金属融体からの前記介在物の除去をより効率的及び効果的に実行できるようになる。
【0021】
さらに、本発明のその他の好ましい態様においては、前記回転運動発生コイル及び前記軸方向運動発生コイルを独立に制御する。これによって、前記金属融体に対して回転運動及び軸方向運動を独立に制御して印加することができ、前記金属融体の撹拌の程度を自由に設定することができる。したがって、前記回転運動及び前記軸方向運動の自在な制御を通じて、上述した前記金属融体の液面平坦化及び介在物の略中心部への介在などを簡易に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、溶鋼などの金属融体中における介在物を簡易に除去することが可能な、新規な方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明の介在物除去方法の一例を示す概略図である。図1に示す介在物除去装置10は、円筒形の容器11と、この容器11の外周面に沿って(外周面を覆うようにして)設けられた回転運動発生コイル12と、容器11の外周面において、同じく外周面に沿って(外周面を覆うようにして)設けられた軸方向運動発生コイル13とを具えている。容器11内には、介在物除去に供すべき金属融体Sが容れられている。なお、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13は、図示しない冷却用オイルを満たした環状容器内に設置し、通電による過熱を防止するように構成されている。
【0025】
回転運動発生コイル12には所定の電源から電圧調整器を経て所定の周波数の電流を流し、軸方向運動発生コイル13には周波数可変のインバータを経て任意周波数の電流を流して、それぞれのコイルに起因した回転運動及び軸方向運動を生ぜしめるような磁場を生成する。回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13に印加すべき電流は互いに独立に制御することができ、これによって金属融体Sに対する前記回転運動及び前記軸方向運動を独立に制御して印加することができ、前記金属融体の撹拌の程度を自由に設定することができる。したがって、前記回転運動及び前記軸方向運動の自在な制御を可能とすることができ、以下に詳述するような種々の有利な効果を有するようになる。
【0026】
図2は、回転運動発生コイル12によって回転運動が生ぜしめられる態様を概略的に示す図であり、図3は、軸方向運動発生コイル13によって軸方向運動が生ぜしめられる態様を概略的に示す図である。なお、図2は、図1に示す装置10における容器11を上方から見た場合の状態を示しており、図3は、図1に示す装置10における容器11を横方向断面に沿って見た場合の状態を示している。
【0027】
図2に示すように、本例の装置10においては、回転運動発生コイル12によって容器11内の金属融体Sを横切るような磁場Bを発生させる。このとき、容器11内の金属融体Sには、図1に示すコイルの配置に起因して容器11の金属融体S内に図示したような上下方向の誘導電流jzが生じるようになる。したがって、磁場Bと誘導電流jzとの相互作用により、金属融体S内には図示したようなローレンツ力Fxyが発生し、金属融体Sに回転運動を生ぜしめるようになる。(なお、今の場合は反時計方向の回転運動を生ぜしめるようにしている。)
【0028】
なお、上述した磁場Bは、例えば容器11の壁面近傍に表皮効果を生じないような低周波数の電流を流すことによって生成することができる。具体的には、装置の規模などに依存するものの2〜50Hzの周波数の電流を流すことによって上述した磁場Bを簡易に生成することができるようになる。
【0029】
一方、図3に示すように、本例の装置10においては、軸方向運動発生コイル13の、隣接するコイル線同士が互いに対をなすとともに、互いに隣接するコイル線対間に逆向きの電流を流し、前記容器の前記金属融体内に互いに逆向きの磁場を生成するようにしている。具体的に、図3では、上側のコイル線対間と下側のコイル線対間とでそれぞれ逆向きの電流を流し、上側のコイル線対では図示したような右向きの磁場Brを生ぜしめ、下側のコイル線対では図示したような左向きの磁場Brを生ぜしめる。したがって、この磁場Brと誘導電流jxyとの相互作用によって、金属融体S内には図示したようなローレンツ力Fzが発生し、金属融体S内に下降流、すなわち下向きの軸方向運動を生ぜしめることができるようになる。
【0030】
なお、上述した下降流は、容器11の壁面近傍でのみ生ぜしめるようにすることが好ましい。この場合、以下に詳述するように、容器11の略中央部において、金属融体Sに対して前記下降流に起因した上昇流を生ぜしめることができ、金属融体Sの液面を平坦に維持することができるようになる。
【0031】
上述した容器11の壁面近傍での下降流は、上述したローレンツ力Fzを容器11の壁面近傍でのみ生成させることによって形成することができる。このようなローレンツ力Fzは、例えば軸方向運動発生コイル13に対して表皮効果を生ぜしめるような高周波の電流を流すことによって生成することができる。具体的には、装置の規模などに依存するものの10〜1500Hzの周波数の電流を流すことによって上述したローレンツ力Fz、すなわち下降流を簡易に生成することができるようになる。
【0032】
上述したようにして、容器11内の金属融体Sに対して回転運動と軸方向運動を生ぜしめることにより、金属融体S内に含まれる介在物が頻繁に衝突するようになり、前記介在物の凝集肥大化が促進されるようになる。この結果、金属融体S内の前記介在物を除去するに際しては、前述のような凝集肥大化された介在物を除去すれば良いので、前記介在物の除去を容易に行うことができるようになる。
【0033】
なお、図1に示す装置10においては、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13の数はそれぞれ6個に設定しているが、実際の装置においては、コイル線の太さや発生させる磁場(ローレンツ力)の大きさなどに起因して、任意の数とすることができる。
【0034】
また、金属融体S内に生ぜしめた回転運動及び軸方向運動を保持する時間は、金属融体S内に含まれる介在物が十分に凝集して肥大化するまで実施する必要がある。なお、この時間は、金属融体Sの種類や粘性、及びそれに含まれる介在物の種類や大きさなどに依存するが、通常は数分から数時間である。
【0035】
さらに、金属融体S内に生ぜしめる前記回転運動の大きさ及び前記軸方向運動の大きさについても、金属融体S内に含まれる介在物が十分に凝集して肥大化するような大きさに設定する必要がある。したがって、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13内に流す電流の大きさや周波数を適宜に制御して、これらのコイルから発生する磁場や誘導電流の大きさ、すなわちローレンツ力の大きさなどを適宜に制御する必要がある。上述したように、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13に印加すべき電流は互いに独立に制御することにより、このような制御を簡易に行うことができるようになる。
【0036】
また、本例においては、図3に示すように、容器11の壁面近傍に金属融体Sに対して下降流を生ぜしめているので、金属融体Sに生ぜしめる回転運動を適宜に制御することによって、金属融体Sの液面を平坦に維持することができる。図4〜図6は、金属融体Sの液面が平坦に維持される際の様子を模式的に示す図である。
【0037】
図4に示すように、金属融体Sに対して回転運動のみが生成している場合、その液面は容器11の略中央部において窪み、外周部において盛り上がるようになる。一方、図5に示すように、金属融体Sに対して容器11の壁面近傍で下降流のみが生じている場合、容器11の略中央部では前記下降流に起因した上昇流が生じるようになり、金属融体Sの、容器11の略中央部において盛り上がるようになる。したがって、図6に示すように、金属融体S内に前記回転運動及び前記上昇流が生じている場合は、容器11の略中央部における、前記回転運動に起因した窪みが前記上昇流に起因した盛り上がりによって相殺されるとともに、容器11の外周部における盛り上がりを抑制して、金属融体Sの液面を平坦に維持することができるようになる。
【0038】
なお、上述したように、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13に印加すべき電流は互いに独立に制御することにより、前記回転運動及び前記下降流(上昇流)を自在に制御することができるので、上述した金属融体Sの液面をより簡易に平坦に維持することができるようになる。これによって、金属融体Sのオーバーフローやスラグの巻き込み、さらには金属融体Sの再酸化などを抑制することができるようになる。
【0039】
さらに、本例においては、上述のように金属融体S内に回転運動及び軸方向運動を生ぜしめて、金属融体S内に含まれる介在物を凝集及び肥大化させた後に、前記軸方向運動を停止して、回転運動のみを生ぜしめるようにすることができる。この場合、前記凝集及び肥大化した介在物を、前記回転運動に起因した向心力によって容器11の略中央部に介在させるようにすることができる。この場合、前記介在物を金属融体Sの略中心部から除去すれば、金属融体Sからの介在物除去を実行できることになり、前記介在物のその後の除去操作をより簡易化することができるようになる。
【0040】
また、既にある程度凝集して肥大化した介在物同士をさらに衝突させて凝集及び肥大化させることができるようになるので、このようなさらに凝集及び肥大化した介在物を除去することにより、金属融体Sからの前記介在物の除去をより効率的及び効果的に実行できるようになる。
【0041】
上述した回転運動の停止は、軸方向運動発生コイル12から生じる磁場Brの発生、すなわち軸方向運動発生コイル12に流す電流を停止させることによって実行することができる。したがって、この場合においても、回転運動発生コイル12及び軸方向運動発生コイル13に印加すべき電流は互いに独立に制御することにより、回転運動発生コイル12を駆動させたまま、軸方向運動発生コイル13の駆動を簡易に停止することができるようになる。
【0042】
また、前記凝集及び肥大化した介在物は、上述した回転運動に伴う向心力で容器11の略中心部に介在させることの他に、あるいはこのような操作に加えて、前記金属融体の液面フラックスに吸収させるようにすることもできる。この場合、前記液面フラックスへの吸収によって、前記介在物の除去を他の操作を用いることなく、簡易に行うことができる。
【0043】
なお、液面フラックスによる吸収を用いない場合は、例えば前記介在物を金属融体Sの略中心部に介在させ、その後、金属融体Sを凝固させた後に、得られた凝固体の、前記介在物が介在している略中心部を研磨あるいは切削除去することによって、前記介在物を最終的に除去することができるようになる。一般に、前記介在物は、前記凝固体の表面部分に介在する場合が多いので、前記凝固体の表層部分のみを除去すれば、前記介在物の除去を行うことができる。
【0044】
図7は、本発明の介在物除去装置の変形例を概略的に示す構成図である。図7においては、容器11の下部に排出口11Aを設け、容器11の流入口11Bから金属融体Sを連続的に注入するとともに、上述した操作を施すことにより、金属融体S内の介在物を凝集及び肥大化させ、金属融体Sの液面フラックスに前記介在物を吸収させて分離し、前記介在物が分離された金属融体Sを排出口11Aから連続的に排出して外部に取り出すようにしている。図7に示す構成の装置によれば、介在物が除去された金属融体Sを簡易かつ効率的に取り出すことができるようになる。
【0045】
図8は、本発明の介在物除去装置及び方法を汎用のビレット鋳造機に組み込んだ状態を示す構成図である。このような構成によれば、金属融体S内の介在物を液面フラックスで効率的に吸収除去しながら、前記ビレット鋳造機による鋳造を行うことができるようになる。
【0046】
なお、本例における金属融体Sは、溶鋼の他、あらゆる金属融体から構成することができる。
【実施例】
【0047】
本実施例においては、図1に示すような構成の装置を用いて介在物の凝集及び肥大化の確認を行った。
【0048】
最初に、容器11内においてAl融体を準備し、これにSiC微粒子を25体積%含有させ、超音波振動を印加することにより、前記SiC微粒子を前記Al融体中に均一に分散させた。
【0049】
次いで、回転運動発生コイル12に対して50Hz、7.5Aの電流を流して、前記Al融体に対して回転運動を生ぜしめるとともに、軸方向運動発生コイル13に対して1550Hz、13Aの電流を流して、前記Al融体に対して軸方向運動を生ぜしめた。
【0050】
図9は、前記Al融体に対し、前記回転運動及び前記軸方向運動を生ぜしめた後に凝固させ、鏡面研磨後にその表面を顕微鏡で観察した様子を示す写真である。図9から明らかなように、Al融体に対する回転運動及び軸方向運動の印加時間が長くなるにつれて、介在物の凝集が進行していることが分かる。したがって、本発明の方法及び装置により、金属融体内の介在物を凝集肥大化させることができ、前記介在物の除去を簡易に行うことができることが分かる。
【0051】
以上、発明の実施の形態に則して本発明を説明してきたが、本発明の内容は上記に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【0052】
例えば、図1に示す装置構成はあくまで例示であり、その他の装置構成をも採用することができる。この場合、回転運動を生ぜしめるために生成すべき磁場も、図2に示す方法とは異なる方法で生成するようにすることができる。同じく、軸方向運動を生ぜしめるための磁場も、図3に示す方法とは異なる方法で生成するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の介在物除去装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1に示す装置の、回転運動発生コイルによって回転運動が生ぜしめられる態様を概略的に示す図である。
【図3】図1に示す装置の、軸方向運動発生コイルによって軸方向運動が生ぜしめられる態様を概略的に示す図である。
【図4】金属融体に対して回転運動のみが生成している場合の、前記金属融体の液面状態を示す図である。
【図5】金属融体に対して下降流(軸方向運動)のみが生成している場合の、前記金属融体の液面状態を示す図である。
【図6】金属融体に対して、回転運動及び下降流に起因した上昇流が作用し、前記金属融体の液面が平坦に維持される様子を示す図である。
【図7】本発明の介在物除去装置の変形例を概略的に示す構成図である。
【図8】本発明の介在物除去装置及び方法を汎用のビレット鋳造機に組み込んだ状態を示す構成図である。
【図9】Al融体に対し、本発明に従って回転運動及び軸方向運動を生ぜしめた後に凝固させた際に、得られた凝固体の表面を顕微鏡で観察した様子を示す写真である。
【符号の説明】
【0054】
10 介在物除去装置
11 容器
12 回転運動発生コイル
13 軸方向運動発生コイル
S 金属融体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の容器内に所定の金属融体を容れる工程と、
前記容器の外周面に沿って設けられた回転運動発生コイルによって、前記金属融体内に回転運動を生ぜしめる工程と、
前記容器の前記外周面に沿って設けられた軸方向運動発生コイルによって、前記金属融体内に軸方向運動を生ぜしめる工程と、
前記金属融体内の介在物を除去する工程とを具え、
前記金属融体内の前記介在物は、前記金属融体内に生ぜしめられた前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化され、この凝集及び肥大化された状態で除去するようにしたことを特徴とする、金属融体内の介在物除去方法。
【請求項2】
前記回転運動発生コイルは、前記容器の前記外周面を周回するように配置し、前記容器の断面を横切る磁場を生成することを特徴とする、請求項1に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項3】
前記回転運動発生コイルに対し、前記容器の壁面近傍における表皮効果を生じないような低周波数の電流を流すことを特徴とする、請求項2に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項4】
前記電流の周波数が2〜50Hzであることを特徴とする、請求項3に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項5】
前記軸方向運動発生コイルは、前記容器の外周面を周回するように配置し、隣接するコイル線同士が互いに対をなすとともに、互いに隣接するコイル線対間に逆向きの電流を流し、前記容器の前記金属融体内に互いに逆向きの磁場を生成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項6】
前記軸方向運動発生コイルに対し、前記容器の壁面近傍における表皮効果を生ぜしめるような高周波の電流を流すことを特徴とする、請求項5に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項7】
前記電流の周波数が10〜1500Hzであることを特徴とする、請求項6に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項8】
前記前記回転磁界発生コイルと前記軸方向移動磁界発生コイルとは、それぞれ独立に制御することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項9】
前記回転運動発生コイルにより、前記容器内において前記金属融体に反時計回りの回転運動を生ぜしめることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項10】
前記軸方向運動発生コイルにより、前記容器内の壁面近傍において前記金属融体に下降流を生ぜしめることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項11】
前記回転運動発生コイルによる前記回転運動と、前記軸方向運動発生コイルによる前記軸方向運動とを制御し、前記容器の前記壁面近傍において前記金属融体に生ぜしめた前記下降流に起因した上昇流を前記容器の略中央部において生ぜしめ、前記金属融体の液面を平坦に保持するようにしたことを特徴とする、請求項10に記載の金属融体の介在物除去方法。
【請求項12】
前記金属融体内の前記介在物を、前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化した後、前記軸方向運動発生コイルを停止させて前記軸方向運動を停止するとともに、前記回転運動発生コイルのみを駆動させて前記回転運動のみを生ぜしめ、凝集及び肥大化した前記介在物を前記金属融体の略中心部に介在せしめた後に除去するようにしたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去方法。
【請求項13】
前記金属融体は溶鋼であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去方法。
【請求項14】
前記凝集及び肥大化した介在物は、前記金属融体の液面フラックスに吸収させて、前記金属融体より分離することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去方法。
【請求項15】
前記容器の下部に排出口を設け、前記凝集及び肥大化した介在物が除去された前記金属融体を前記排出口から連続的に流出させて外部に取り出すことを特徴とする、請求項14に記載の金属融体の介在物除去方法。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去方法を含むことを特徴とする、ビレット連続鋳造法。
【請求項17】
所定の容器内に所定の金属融体を容れるための容器と、
前記金属融体内に回転運動を生ぜしめるための、前記容器の外周面に沿って設けられた回転運動発生コイルと、
前記金属融体内に軸方向運動を生ぜしめるための、前記容器の前記外周面に沿って設けられた軸方向運動発生コイルとを具え、
前記金属融体内の介在物を、前記金属融体内に生ぜしめられた前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化し、この凝集及び肥大化された状態で除去するようにしたことを特徴とする、金属融体内の介在物除去装置。
【請求項18】
前記回転運動発生コイルは、前記容器の前記外周面を周回するように配置し、前記容器の断面を横切るような磁場を生成するように構成したことを特徴とする、請求項17に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項19】
前記回転運動発生コイルに対し、前記容器の壁面近傍における表皮効果を生じないような低周波数の電流を流すようにしたことを特徴とする、請求項18に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項20】
前記電流の周波数が2〜50Hzであることを特徴とする、請求項19に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項21】
前記軸方向運動発生コイルは、前記容器の外周面を周回するように配置し、隣接するコイル線同士が互いに対をなすとともに、互いに隣接するコイル線対間に逆向きの電流を流し、前記容器の前記金属融体内に互いに逆向きの磁場を生成するように構成したことを特徴とする、請求項17〜20のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項22】
前記軸方向運動発生コイルに対し、前記容器の壁面近傍における表皮効果を生ぜしめるような高周波の電流を流すようにしたことを特徴とする、請求項21に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項23】
前記電流の周波数が10〜1500Hzであることを特徴とする、請求項19に記載の金属融体内の介在物除去方法。
【請求項24】
前記前記回転磁界発生コイルと前記軸方向移動磁界発生コイルとは、それぞれ独立に制御するようにしたことを特徴とする、請求項17〜23のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項25】
前記回転運動発生コイルにより、前記容器内において前記金属融体に反時計回りの回転運動を生ぜしめるようにしたことを特徴とする、請求項17〜24のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項26】
前記軸方向運動発生コイルにより、前記容器内の壁面近傍において前記金属融体に下降流を生ぜしめるようにしたことを特徴とする、請求項17〜25のいずれか一に記載の金属融体内の介在物除去装置。
【請求項27】
前記回転運動発生コイルによる前記回転運動と、前記軸方向運動発生コイルによる前記軸方向運動とを制御し、前記容器の前記壁面近傍において前記金属融体に生ぜしめた前記下降流に起因した上昇流を前記容器の略中央部において生ぜしめ、前記金属融体の液面を平坦に保持するようにしたことを特徴とする、請求項26に記載の金属融体の介在物除去装置。
【請求項28】
前記金属融体内の前記介在物を、前記回転運動及び前記軸方向運動によって凝集及び肥大化した後、前記軸方向運動発生コイルを停止させて前記軸方向運動を停止するとともに、前記回転運動発生コイルのみを駆動させて前記回転運動のみを生ぜしめ、凝集及び肥大化した前記介在物を前記金属融体の略中心部に介在せしめた後に除去するようにしたことを特徴とする、請求項17〜27のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去装置。
【請求項29】
前記金属融体は溶鋼であることを特徴とする、請求項17〜28のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去装置。
【請求項30】
前記凝集及び肥大化した介在物は、前記金属融体の液面フラックスに吸収させて、前記金属融体より分離することを特徴とする、請求項17〜29のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去装置。
【請求項31】
前記容器の下部に排出口を設け、前記凝集及び肥大化した介在物が除去された前記金属融体を前記排出口から連続的に流出させて外部に取り出すようにしたことを特徴とする、請求項30に記載の金属融体の介在物除去装置。
【請求項32】
請求項17〜31のいずれか一に記載の金属融体の介在物除去装置を含むことを特徴とする、ビレット連続鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−144501(P2007−144501A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346108(P2005−346108)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】