説明

金属表面改質方法

【課題】応力腐食割れを低減させることが可能であり、腐食および応力腐食割れの抑制効果が持続でき、金属材料の表面において残留応力や微小亀裂が発生している場合にはその補修もできる金属表面改質方法を提供する。
【解決手段】金属基材1表面に耐食性材料4を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材1表面に耐食性材料4から成る肉盛層3を形成することにより、金属基材1表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属表面改質方法に係り、特に溶接部近傍の応力腐食割れが発生する可能性のある部位について、低温プロセスである摩擦攪拌接合技術を用いて応力腐食割れを低減させることが可能な金属表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料で構成した構築物を過酷な環境条件下で長期間継続して使用すると、環境疲労により表面の硬化や微小亀裂等の表面劣化が生じ易い。このような表面劣化を抑制または抑止するために、従来から侵炭や窒化処理、めっき、塗装、酸化膜生成等、種々の表面処理が構築物表面や素材表面(作用面)に施工されている。またチタニアの塗布により生じる光触媒効果による材料表面の耐食性向上や撥水効果を利用することも広く実施されている。このような表面処理を実用化する場合の要点は、これらの効果の永続性および耐久性である。
【0003】
また水環境に浸漬された状態で使用されるステンレス鋼構造物では、応力腐食割れがしばしば問題となる。この応力腐食割れは、構造物内の残留応力と結晶粒界における耐食性の低下とが相乗して生じる欠陥である。その対策として結晶粒内および粒界における機械強度特性を均質化すること、残留応力を均質化し、可及的に緩和すること、耐食性の均質化を計ることが従来から挙げられている。その具体的な対策手法として残留応力除去熱処理やピーニング処理が広く採用されている。しかしながら、これらの手法は微小亀裂が発生した後では効果が小さい。そこで微小亀裂が発生する前の段階においても、また発生した後においても欠陥を解消できる有効な表面処理法が望ましいが、そのような手法で実効性が高い手法は得られていない。
【0004】
具体的には、一般に原子力プラントにおける原子炉内構造物や配管等は、ステンレス鋼製の溶接構造物で構成されていることから、溶接部近傍が溶接時の熱影響により耐食性が低下する。この耐食性の低下に起因して、原子炉運転中の高温高圧水環境下において溶接部近傍での応力腐食割れによる損傷事例が報告されている。そこで、炉内構造物等のステンレス鋼製機器において応力腐食割れ発生の可能性を低減するために、溶接部を減らしたり、あるいは溶接入熱を低減したりするなどの改善が実施されてきた。
【0005】
上記のような応力腐食割れを低減させるためには、構造物表面の耐食性を向上させる技術が必要である。各種の耐食性向上技術の中でも低入熱プロセスとして、近年実用化が進んでいる英国TWI(The Welding Institute)社が開発した摩擦攪拌接合技術を利用した表面改質技術は有効な技術の一つと考えられる。
【0006】
また、配管接続部の補修方法として、上流側配管と下流側配管とが600合金を用いたアーク溶接法により形成される接続部で接続されている流体配管に対して、この接続部が被覆されるように690合金製のスリーブを配管内面に配置し、このスリーブの高温高圧流体の搬送方向両端部とこれに対向する流体配管の内面とを、摩擦攪拌接合法を用いて接合することにより、配管接続部における応力腐食割れの発生を防止すると共に、この配管接続部と高温高圧流体とを遮断するために設けられる690合金と配管との接続部における応力腐食割れの発生を防止する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−314782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の原子炉内構造物や配管においては、ステンレス鋼製の溶接構造物であるため、原子炉運転中の高温高圧水環境下において溶接部近傍で応力腐食割れが発生し易く、炉内構造物の耐久性および寿命が低下し易いという解決すべき課題があった。
【0008】
また、溶接時に熱影響が生じにくいステンレス鋼に構成材を変更した場合においても、上記応力腐食割れの発生が報告されており、耐食性を効果的に改善できる簡易な処理方法の実現が期待されている。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、溶接部近傍の応力腐食割れが発生する可能性のある部位について、低温プロセスである摩擦攪拌接合技術を用いた応力腐食割れを低減させることが可能であり、腐食および応力腐食割れの抑制効果が持続でき、金属材料の表面において残留応力や微小亀裂が発生している場合にはその補修もできる金属表面改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属表面改質方法は、金属基材表面に耐食性材料を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材表面に耐食性材料から成る肉盛層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする。
【0011】
上記金属基材としては、特に限定されるものではなく、鉄合金、ニッケル基合金、ステンレス鋼、チタン合金等あらゆる金属基材が改質処理の対象となる。上記摩擦攪拌により金属基材表面に肉盛層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することができる。
【0012】
また、上記金属表面改質方法において、前記肉盛層を構成する耐食性材料としてニッケル基合金、チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金を用いることが好ましい。これらのニッケル基合金等は、特に耐食性に優れているために金属基材の耐食性向上に有効である。
【0013】
さらに、本発明に係る金属表面改質方法は、金属基材表面に耐食性材料を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材表面に耐食性材料を拡散させた拡散層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする。
【0014】
上記摩擦攪拌により金属基材表面に耐食性材料の拡散層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することができる。
【0015】
また、上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料としての薄板、箔、粉末の少なくとも1種を金属基材表面に配置した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることが好ましい。上記摩擦攪拌により金属基材表面に、耐食性材料から成る拡散層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することが可能になる。
【0016】
さらに、上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料がチタン(Ti)、チタニア(TiO)、ジルコニウム(Zr),ジルコニア(ZrO)であることが好ましい。
【0017】
特に、上記チタンやジルコニウムがステンレス鋼(基材)表面に埋没されることにより、これらの耐食性材料が金属基材内部に均一に分散し、摩擦熱による基材表面近傍におけるスカベンジ効果により、金属基材の結晶粒内で不純物が捕獲され、粒界付近における不純物が低減できるため、耐食性の向上が達成できる。一方、チタニアやジルコニアが金属基材の組織内に均一に埋没されると、金属基材の機械的強度や硬度も均一になり、基材組織の粒界破壊が効果的に抑制できる。
【0018】
また、上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を含有する液体を塗布乾燥することにより耐食性材料層を形成した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることにより金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することが好ましい。上記耐食性材料を含有する液体を塗布乾燥することにより耐食性材料層を形成しているために、基材表面に配置する耐食性材料の配置量を高精度に制御できる。
【0019】
さらに、上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を溶射によって形成した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることにより金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することが好ましい。上記溶射処理によれば金属基材表面に耐食性材料を容易に形成できる。
【0020】
また、上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を先端に一体的に保持した回転治具を用い、接触面の相対運動が回転運動である摩擦攪拌を実施することが好ましい。上記回転治具を回転させることにより、金属基材表面に対する摩擦攪拌操作を均一に実施できる。
【0021】
なお、上記回転治具は処理面に対して直角な回転軸に対して回転自在に構成される一方、回転軸が金属基材表面に沿って移動できるように構成される。この回転治具の回転数および移動速度は、金属基材および耐食性材料の仕様によっても異なるが、概ね回転数は800−1200rpm程度であり、移動速度は10〜120mm/sec程度である。
【0022】
さらに上記金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を含有した焼結体またはバインダ固化体から成る回転治具を用い、この回転治具を金属基材表面に押圧し、接触面の相対運動が回転運動である摩擦攪拌を実施することが好ましい。上記回転治具によれば、焼結体またはバインダ固化体から成る回転治具自体に耐食性材料が含有されているために、耐食性材料の含有量を高精度に調整できる。
【0023】
また上記金属表面改質方法を、金属基材が原子力プラントの原子炉内構造物または配管内面に適用したときに、特に応力腐食割れを未然に防止する効果が得られると共に、金属基材表面に発生した応力腐食割れを補修することも可能になる。
【0024】
さらに上記金属表面改質方法は水中で実施することも可能であり、金属基材表面に発生した応力腐食割れを効果的に補修することが可能になる。
【0025】
すなわち、本発明では、被表面改質材(金属基材)に回転治具(圧接棒)を接触させた状態で回転または小刻みに摺動させながら押圧し、接触面で生じる摩擦を利用し、耐食性材料から成る回転治具自体の摩耗により生じた耐食性材料または回転治具に含有されたり付着されたりした耐食性材料を金属基材表面に擦り込むことにより、金属基材の表面組成の均質化と、残留応力の均質化(緩和)と、耐食性材料を摩耗させて亀裂箇所を埋め合わせることによる微小亀裂の修復とを同時に達成するものである。本発明に係る金属表面改質方法では、局所的に発生させる摩擦のみを利用する処理法であるため、施工環境を問わず、大気中でも水中でも実施可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る金属表面改質方法によれば、金属基材表面に耐食性材料を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材表面に耐食性材料から成る肉盛層や金属基材表面に耐食性材料を拡散させた拡散層を形成しているために、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを効果的に防止することができる。
【0027】
特に摩擦攪拌操作は、低温プロセスであるために、溶接部近傍などの応力腐食割れが発生し易い部位に対して、熱影響を及ぼす恐れが少なく金属基材の脆化や劣化を生じることがなく応力腐食割れを効果的に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る表面改質方法の実施例について、添付図面を参照して具体的に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明に係る表面改質方法を実施している状態を示す斜視図である。本実施例1で使用する機材は、原子炉内構造物や配管を構成する金属基材1と、耐食性材料4としてのニッケル基合金で全体を形成した回転治具2とから構成されている。
【0030】
そして、金属基材1表面に耐食性材料4から成る回転治具2を接触させて矢印方向に回転させると共に、金属基材1方向に加圧しながら接触面の相対運動を矢印方向に起こす摩擦攪拌を実施することにより、金属基材1表面に耐食性材料4から成る肉盛層(摩擦肉盛層)3が形成される。形成された摩擦肉盛層3は、金属基材1に比較して耐食性が良好であるため、金属基材1表面の耐食性を向上させ、原子炉運転中の高温高圧水環境下における金属基材1の応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0031】
また、本実施例1において使用した回転治具2の構成材としてニッケル基合金を採用することにより、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中での高温高圧水環境下における応力腐食割れの発生を効果的に防止することができる。
【0032】
また、本実施例1で使用した回転治具2を構成する耐食性材料4としてチタンあるいはチタン合金を採用することにより、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中での高温高圧水環境下における応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0033】
また、本実施例1で使用した回転治具2を構成する耐食性材料4としてジルコニウムあるいはジルコニウム合金を採用することにより、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中での高温高圧水環境下における応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0034】
また、本実施例1に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位に適用した場合には、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れが低減されると共に、発生した割れに耐食性材料が埋め込まれるために、割れを補修することも可能になる。
【0035】
また、本実施例1に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位で水中に浸漬した部位に適用した場合においても、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減させると共に、割れを補修することが可能になる。
【0036】
本実施例1に係る表面改質方法によれば、耐食性材料4を摩擦攪拌することにより金属基材1表面に摩擦肉盛層3を形成しているため、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中での高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減することができる。
【実施例2】
【0037】
次に、本発明に係る表面改質方法の実施例2について図2を参照して説明する。図2は本発明に係る表面改質方法の実施例2を実施している状態を示す斜視図である。本実施例2で使用する機材は、原子炉内構造物や配管を構成する金属基材1と、金属基材1表面に配置された板状または箔状の耐食性材料11と、高硬度の超硬合金を構成材として円柱状に形成された非消耗型の回転治具12とから構成されている。また、回転治具の先端部12aは球面状に形成されている。
【0038】
そして、上記金属基材1表面に接触させる耐食性材料としての薄板または箔を金属基材1表面に配置した後に、非消耗型の回転治具12の先端部12aを接触させて回転させると共に、金属基材1方向に加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施することにより、金属基材1と耐食性材料11とが接合されると共に、金属基材1表面に耐食性材料4から成る摩擦攪拌層13が形成される。この摩擦攪拌層13には、耐食性材料4が金属基材1方向に拡散して形成される拡散層14を含んでいる。
【0039】
形成された摩擦攪拌層13は、耐食性材料11と同一材料から成るため、金属基材1と比較して耐食性が良好であり、金属基材1表面の耐食性を向上させて原子炉運転中の高温高圧水環境下における応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0040】
また、本実施例2で使用した薄板状または箔状の耐食性材料11に替えて、粉末状の耐食性材料または耐食性材料を含有する液体を塗布・乾燥した耐食性材料層を形成した場合においても、非消耗型の高硬度を有する回転治具12を摩擦攪拌することにより金属基材1と耐食性材料とが接合される。形成された摩擦攪拌層13は、耐食性材料と同一材料であるため、金属基材1と比較して耐食性が良好であり、原子炉運転中の高温高圧水環境下における金属基材1の応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0041】
また、本実施例2において使用した耐食性材料11に替えて溶射により金属基材1表面に耐食性材料層を形成した場合においても、非消耗型の高硬度を有する回転治具12を摩擦攪拌することにより金属基材1と耐食性材料とが接合される。形成された摩擦攪拌層13は、耐食性材料11と同一材料で形成されているために、金属基材1に比較して耐食性が良好であり、原子炉運転中の高温高圧水環境下における金属基材1の応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0042】
また、本実施例2に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位に適用した場合には、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減させる補修が可能になる。
【0043】
また、本実施例2に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位に対して原子炉内水中で実施した場合には、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減させる補修も可能になる。
【0044】
本実施例2に係る表面改質方法によれば、金属基材1に耐食性材料11を接触させ、非消耗型の高硬度を有する回転治具を用いて摩擦攪拌して両部材を接合させることにより、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中での高温高圧水環境下における応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【実施例3】
【0045】
次に、本発明の実施例3について図3を参照して説明する。図3は本発明に係る表面改質方法の実施例3を実施している状態を示す斜視図である。本実施例3で使用する機材は、原子炉内構造物や配管を構成する金属基材1と、高硬度の超硬合金を構成材として円柱状に形成された非消耗型の回転治具22と、回転治具22の表面に付着された粉末状の耐食性材料21とから構成されている。
【0046】
そして、金属基材1に対し耐食性材料21が表面に付着している高硬度を有する非消耗型の回転治具22を金属基材1表面に接触させて矢印方向に回転させると共に、金属基材1方向に加圧しながら接触面の相対運動を矢印方向に起こす摩擦攪拌を実施することにより、金属基材1表面に耐食性材料21から成る摩擦攪拌層23が形成される。この摩擦攪拌層23には、耐食性材料21が金属基材1方向に拡散して形成される拡散層14を含んでいる。
【0047】
本実施例3に係る表面改質方法によれば、摩擦攪拌を実施することにより、耐食性材料21が金属基材1表面に拡散するため、金属基材1表面の耐食性が増加し、原子炉運転中の高温高圧水環境下における金属基材1の応力腐食割れを効果的に低減することができる。
【0048】
また、本実施例3に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位に適用した場合には、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減させる補修も可能となる。
【0049】
また、本実施例3に係る表面改質方法を、運転中の原子力プラントにおいて耐応力腐食割れ性が要求される部位に原子炉内水中で実施することも可能であり、この場合、当該部位の高温高圧水環境下における応力腐食割れを低減させる補修も実施できる。
【0050】
本実施例3に係る表面改質方法によれば、耐食性材料が表面に付着している非消耗型の高硬度を有する回転治具を金属基材1に押圧させた状態で摩擦攪拌を実施しているために、ステンレス鋼製の原子炉内構造物や配管の原子炉運転中の高温高圧水環境下における応力腐食割れの発生を低減できる。
【実施例4】
【0051】
次に、本発明の他の実施例について図4〜図7を参照して、より詳細に説明する。図4は本発明に係る表面改質方法の実施例4において、摩擦攪拌を実施する前の状態を示す斜視図であり、図5は摩擦攪拌を実施した後の状態を示す斜視図である。また、図6は図4に示す状態の側断面図であり、図7は図5に示す状態の側断面図である。
【0052】
本実施例4に係る表面改質方法を適用する金属基材1は、例えば原子力プラントにおける原子炉内構造物や配管を構成する金属基材であり、鉄合金、ニッケル基合金、ステンレス鋼、チタン合金等あらゆる金属が対象となる。本実施例4ではステンレス鋼製の金属基材1に適用した場合を説明する。
【0053】
圧接棒として作用する回転治具32は、回転運動や往復運動が可能なものであれば形状に制限はないが、攪拌作用を均一に行うために丸棒が好適である。回転治具32の材質は、基本的には、金属基材1と同一材料のとも材であるステンレス鋼が採用されるが、チタン、ジルコニウムやその酸化物であるチタニアやジルコニア等の耐食性材料31を含有した材料で形成しても良い。この耐食性材料31を含有させる方法としては、耐食性材料31を回転治具32の構成材に固溶させてもよいし、耐食性材料31と回転治具32の構成材とを、粉末冶金法やメカニカルアロイング法で複合化する方法でも良い。本実施例4においては、図4および図6に示すように、耐食性材料31としてチタニア(TiO)粉末を処理対象となる金属基材1表面に予め分散配置した。
【0054】
上記回転治具32は、金属基材1表面に加圧接触された状態で回転される。そして接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌が実行される。このとき、接触面の摩擦により、金属基材(被改質材)1と回転治具(圧接棒)32との間で新生面が出現し、図5および図7に示すように、耐食性材料31の固相拡散が生じて拡散層14が形成されると共に、金属基材1と耐食性材料31とが摩擦によって攪拌され、摩擦攪拌層33が形成される。
【0055】
上記実施例4に係る表面改質方法によれば、金属基材1表面に耐食性材料31と基材成分とから成る摩擦攪拌槽33および拡散層14が形成されているために、金属基材1表面の耐食性が向上し金属基材1の応力腐食割れが効果的に防止される。
【0056】
なお、チタンやチタニアが回転治具32に含有されたり付着されたりしている場合には、金属基材1の表面近傍で上記チタンやチタニアが包含された状態になる。チタニアやジルコニア3等の耐食性材料31は、図4に示すように金属基材1表面に、塗布、蒸着、溶射、イオン注入等により予め配置しておいてもよい。この耐食性材料31の一部は摩擦攪拌時に金属基材1表面内に巻き込まれ、基材表面近傍に包含される。
【0057】
図6および図7は、それぞれ図4および図5に示す状態を側面から観察した断面図であり、図6は表面改質施工前で摩擦攪拌の準備段階を示し、図7は表面改質施工後で摩擦攪拌の完了段階を示す。図7に示すように、回転治具(圧接棒)32が通過すると金属基材1表面にあったチタニア粉末3が金属基材1の表面近傍に包含され、摩擦攪拌槽33および拡散層14が形成される。チタニア3の包含量を増やすためには、塗布の密度を高くするか、チタニアを含有した回転治具32を併用する。また回転治具32の回転速度、形状、移動速度を変更して攪拌強度を調整することも可能である。いずれにしても、回転治具32は、摺動摩耗により経時的に損耗していくので、適当な時期に交換する必要がある。
【0058】
なお、本実施例4で使用した金属基材1のように、ステンレス鋼で構成された構造物では、通常は部材表面にクロム酸化膜が存在することにより耐食性を維持している。しかしながら、構造物としての過酷な使用条件や加工方法によっては、本来、均一であるべきクロム濃度にばらつきが生じ、耐食性が劣化する。同様な理由で、金属基材組織に局部的に強度や硬さのばらつきが発生することに起因する内部ひずみが相乗して、割れが生ずる場合がある。そのような場合に、摩擦攪拌を実施することにより、それまでのクロム酸化膜は破壊されるが、新生面が形成される際に摩擦熱で組成の均一化が進行し、良好なクロム酸化膜が再生され、金属基材の耐食性が改善される。また、元の表面が破壊され接合部が新生表面に更新される一方、入熱領域が狭い範囲に限定されるため、加工ひずみは回転治具の回転と摩擦熱とにより減少する効果が得られる。
【0059】
さらに、摩擦攪拌によってチタンやジルコニウムがステンレス鋼(基材)表面に埋没されることにより、これらの耐食性材料が金属基材内部に均一に分散し、摩擦熱による基材表面近傍におけるスカベンジ効果により、金属基材の結晶粒内で不純物が捕獲され、粒界付近における不純物が低減できるため、耐食性の向上が達成できる。一方、チタニアやジルコニアが金属基材の組織内に均一に埋没されると、金属基材の機械的強度や硬度も均一になり、基材組織の粒界破壊が効果的に抑制できる効果も得られる。
【0060】
また金属基材(被表面改質材)に微小亀裂が発生している場合、圧接棒としての回転治具がとも材で構成されていれば、摩擦圧接の原理により亀裂を埋め合わせることができる。摩擦圧接は異種金属を効果的に接合できる優れた手法であり、接合する部材を高速で擦り合わせ、その摺動時に生じる摩擦熱と圧力とによって、通常の溶接では接合されにくい部材同士を結合する手法である。一般的には、対象部材同士を固定して押し付け合わせ、少なくとも一方の部材を回転させる必要があるが、金属基材(被表面改質材)が構造部材であれば、圧接棒としての回転治具のみを回転させることにより同様の効果を得ることができる。
【0061】
本実施例のような金属表面改質方法は、素材段階のみならず、既にプラントに組み込まれて稼動している部材についても、圧接棒としての回転治具のアクセスさえ確保できれば施工が可能である。その場合、必要な箇所、例えばステンレス鋼構造物であれば溶接熱影響部およびその周辺、あるいは屈曲部だけに施工しても良い。
【0062】
本実施例に係る金属表面改質方法によれば、金属材料の表面において、腐食や応力腐食割れの抑制効果を長期間持続させることができ、残留応力や微小亀裂が存在する場合にはその補修処理も兼ねる表面改質手法が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る表面改質方法の第1実施例を実施している状態を示す斜視図。
【図2】本発明に係る表面改質方法の第2実施例を実施している状態を示す斜視図。
【図3】本発明に係る表面改質方法の第3実施例を実施している状態を示す斜視図。
【図4】本発明に係る表面改質方法の第4実施例を実施している状態を示す斜視図。
【図5】本発明に係る表面改質方法の第5実施例を実施している状態を示す斜視図。
【図6】図4に示す状態の側断面図。
【図7】図5に示す状態の側断面図。
【符号の説明】
【0064】
1 金属基材(被改質処理材)
2 耐食性材料で構成された回転治具
3 摩擦肉盛層
4 耐食性材料
11、21、31 耐食性材料(チタニア粉末)
12、22、32 高硬度を有する回転治具
12a 回転工具の先端部
13、23、33 摩擦攪拌層
14 拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材表面に耐食性材料を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材表面に耐食性材料から成る肉盛層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属表面改質方法において、前記肉盛層を構成する耐食性材料としてニッケル基合金を用いることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項3】
請求項1記載の金属表面改質方法において、前記肉盛層を構成する耐食性材料としてチタンあるいはチタン合金を用いることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項4】
請求項1記載の金属表面改質方法において、前記肉盛層を構成する耐食性材料としてジルコニウムあるいはジルコニウム合金を用いることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項5】
金属基材表面に耐食性材料を接触させて加圧しながら接触面の相対運動を起こす摩擦攪拌を実施し、金属基材表面に耐食性材料を拡散させた拡散層を形成することにより、金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項6】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料としての薄板、箔、粉末の少なくとも1種を金属基材表面に配置した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることにより金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項7】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料がチタンあるいはチタニアであることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項8】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料がジルコニウムあるいはジルコニアであることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項9】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を含有する液体を塗布乾燥することによって耐食性材料層を形成した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることにより金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項10】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を溶射によって形成した後に、摩擦攪拌を実施し耐食性材料を金属基材表面に拡散させることにより金属基材表面の耐食性を向上させ応力腐食割れを防止することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項11】
請求項1または5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を先端に一体的に保持した回転治具を用い、接触面の相対運動が回転運動である摩擦攪拌を実施することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項12】
請求項5記載の金属表面改質方法において、前記金属基材表面に接触させる耐食性材料を含有した焼結体またはバインダ固化体から成る回転治具を用い、この回転治具を金属基材表面に押圧し、接触面の相対運動が回転運動である摩擦攪拌を実施することを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の金属表面改質方法において、前記金属基材が原子力プラントの原子炉内構造物または配管であることを特徴とする金属表面改質方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の金属表面改質方法において、前記金属基材に対する金属表面改質方法を水中で実施し、金属基材表面に発生した応力腐食割れを補修することを特徴とする金属表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−229721(P2007−229721A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50830(P2006−50830)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】