説明

金属酸化物膜の成膜方法

【課題】表面が平坦であり、かつ結晶化の高い緻密な金属酸化物膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】トリガ電極と蒸着用金属材料で少なくとも先端部が構成されたカソード電極とが、絶縁碍子を挟んで同軸状に隣接して固定されており、カソード電極の周りに同軸状に円筒状のアノード電極が離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を用いて、酸化性雰囲気中でカソード電極を構成する金属材料を成膜装置内に載置した基板上に蒸着せしめて、金属酸化物微粒子を形成し、次いで前記カソード電極と同じ金属材料又はその金属の酸化物で構成されたスパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて、金属酸化物微粒子の上に金属酸化物膜を形成した後、蒸着膜の形成された基板を加熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜の成膜方法、特に同軸型真空アーク蒸着源及びスパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて金属酸化物膜を形成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の方法でアルミニウム酸化物(アルミナ)膜を形成しているが、例えば、スパッタリング法により、酸素雰囲気中で形成されたアルミナ膜は、焼成前後でもその表面には凹凸が存在し、また、焼成後のアルミナ膜の断面をSEM写真で観察しても、あまり結晶化が観察されず、緻密な膜が得られていないという問題がある。
【0003】
本発明者らは、スパッタリング法により、サファイア基板上にアルミナ膜を形成したが、後述する比較例から明らかなように、このアルミナ膜を焼成した後も、膜表面には凹凸が存在すると共に、緻密な膜となっていないことを確認した。そのため、このようなアルミナ膜はガスセンサ用の絶縁膜や排ガス触媒担持用の膜等としては有用ではない。
【0004】
また、陰極アーク式蒸発源とスパッタ蒸発源とを備えた薄膜形成装置を用いて、まず、陰極アーク式蒸発源を用いて基材前処理を行い、次いでスパッタ蒸発源等を用いてセラミックス膜や非晶質炭素膜等の薄膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このような装置を用いても表面に凹凸が存在せず、かつ緻密なアルミナ膜を形成することは困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開2002−30413号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、表面が平坦であり、かつ結晶化の高い緻密な金属酸化物膜(例えば、アルミナ膜等)を形成する成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属酸化物膜の成膜方法は、円筒状のトリガ電極と蒸着用金属材料で少なくとも先端部が構成された円柱状又は円筒状のカソード電極とが、円筒状の絶縁碍子を挟んで同軸状に隣接して固定されており、前記カソード電極の周りに同軸状に円筒状のアノード電極が離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を用いて、酸化性雰囲気中でカソード電極を構成する金属材料を成膜装置内に載置した基板上に蒸着せしめて、金属酸化物微粒子を形成し、次いで前記カソード電極と同じ金属材料又はその金属の酸化物で構成されたスパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて、該金属酸化物微粒子の上に金属酸化物膜を形成した後、蒸着膜の形成された基板を加熱することを特徴とする。
【0007】
前記蒸着膜を形成する際に、スパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて成膜する雰囲気を酸化性雰囲気とすることを特徴とする。
【0008】
前記同軸型真空アーク蒸着源及び前記スパッタリングターゲットを備えた蒸着源が同じ真空チャンバに設けられている成膜装置を用いて、蒸着膜を形成し、次いで酸化性雰囲気の加熱炉中で加熱することを特徴とする。
【0009】
前記カソード電極としてアルミニウムで構成された電極を用いて、アルミニウム酸化物微粒子を形成した後、真空チャンバ内の雰囲気を維持しながら、スパッタリングターゲットとしてアルミニウム酸化物で構成されたターゲットを用いて、アルミニウム酸化物微粒子上にアルミニウム酸化物膜を形成することを特徴とする。
【0010】
前記基板が、サファイア基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源を用いて金属酸化物微粒子を基板上に形成した後、その上にスパッタリング法により成膜された金属酸化物膜が、焼成中に、微粒子を核成長の起点にして結晶成長することにより、所定の結晶軸に配向して成長し、平坦で、かつ緻密な金属酸化物膜を成膜できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の成膜方法に係る実施の形態によれば、円筒状のトリガ電極と蒸着用金属材料で少なくとも先端部が構成された円柱状又は円筒状のカソード電極とが、円筒状の絶縁碍子を挟んで同軸状に隣接して固定されており、前記カソード電極の周りに同軸状に円筒状のアノード電極が離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源と、前記カソード電極と同じ金属材料又はその金属の酸化物材料で構成されたスパッタリングターゲットを備えた蒸着源とが、同じ真空チャンバに設けられている成膜装置を用いて、まず、同軸型真空アーク蒸着源を駆動せしめて、酸化性雰囲気中で、成膜装置内に載置した基板上に、カソード電極を構成する金属材料を蒸着せしめて、雰囲気中の酸素原子との反応により金属酸化物微粒子を形成し、次いでスパッタリングターゲットを備えた蒸着源を駆動せしめて、真空チャンバ内の酸化性雰囲気を維持しながら、金属酸化物微粒子の上に金属酸化物膜を成膜した後、この蒸着膜の形成された基板を、酸化性雰囲気の加熱炉中で加熱することにより、平坦で、かつ緻密な金属酸化物膜を形成することができる。
【0013】
本発明によれば、同軸型真空アーク蒸着源にて基板上に金属酸化物微粒子を形成することにより、その後、スパッタリング法で基板上に形成された金属酸化物膜が、加熱炉内での焼成中に、先の金属酸化物微粒子を核成長の起点にして結晶成長して、所定の結晶軸に配向して成長し、平坦で、かつ緻密な膜が得られる。
【0014】
以下、本発明の一実施の形態として、前記カソード電極としてアルミニウムで構成された電極を用いて、アルミナ微粒子を形成した後、真空チャンバ内の雰囲気を維持しながら、スパッタリングターゲットとしてアルミナで構成されたターゲットを用いて、アルミナ微粒子上にアルミナ膜を形成する点を中心にして説明する。
【0015】
本発明者らは、上記した従来技術の問題点に鑑み、簡便な方法で、緻密な金属酸化物膜を効率よく作製すべく、鋭意研究を重ね、同軸型真空アーク蒸着源とスパッタリング蒸着源とを併用し、好ましくは同じ真空チャンバに備えた成膜装置として、例えば図1に示す構成を有するものを開発し、この成膜装置1を用いて有用な蒸着膜を成膜した。
【0016】
この成膜装置1の真空チャンバ11内の下方には、基板Sが載置される基板ステージ12が水平に配置されている。真空チャンバ11には、基板ステージ12を水平面内で回転させることができるように、基板ステージ裏面の中心部にモーター等の回転駆動手段13を有する回転機構が設けられている。
【0017】
また、基板ステージ12を加熱できるようにヒータ等の加熱手段14を基板ステージの基板載置側と反対側の面に設け、所望により、基板Sを所定の温度に加熱できるようにすることが好ましい。
【0018】
真空チャンバ11の上方には、後述する同軸型真空アーク蒸着源15とスパッタリング蒸着源16とが、それぞれ、基板ステージ12に対して斜め方向であって、異なる位置に配置されている。
【0019】
この同軸型真空アーク蒸着源15は、カソード電極15aの先端部を基板ステージ12側に向けて、基板ステージ12上に載置される基板Sの主面に対して所定の角度で配置されている。カソード電極15aから発生する金属微粒子が、基板Sの主面上に降りそそいで均一に斜入射できるように、この角度は変更できるように構成されている。かくして、金属微粒子は、真空チャンバ11上方から下方に向かって飛翔し、基板S上に蒸着できる。この斜入射の角度は、金属微粒子が基板上に均一に照射できれば特に制限はない。
【0020】
真空チャンバ11の壁面には、酸化性ガス導入系17、不活性ガス導入系18及び真空排気系19が接続されている。この酸化性ガス導入系17は、真空チャンバ11内を酸化性雰囲気とするための酸素ガスの導入系であり、また、不活性ガス導入系18は、Arなどの不活性ガスの導入系である。それぞれのガス導入系では、バルブ17a及び18a、マスフローコントローラ17b及び18b、バルブ17c及び18c、並びにガスボンベ17d及び18dがこの順に金属製配管で接続されている。また、真空排気系19は、コンダクタンスバルブ19a、ターボ分子ポンプ19b、バルブ19c及びロータリーポンプ19dがこの順に金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ11内を好ましくは1.3×10−4Pa以下に真空排気できるように構成されている。
【0021】
図1に示すように、成膜装置1に設けられた同軸型真空アーク蒸着源15は、一端が閉じ、基板ステージ12に対向する他端が開口しており、金属微粒子作製用金属材料で構成されている円柱状又は円筒状のカソード電極15aと、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極15bと、ステンレス等から構成されている円筒状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)15cと、カソード電極15a及びトリガ電極15cの間に両者を離間させるために設けられた円板状又は円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子とも称す)15dとから構成されており、これらは同軸状に取り付けられている。カソード電極15aは、基板ステージ12に対して斜め方向で対向して設けられている。カソード電極15aと絶縁碍子15dとトリガ電極15cとの3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて同軸状に取り付けられている。また、アノード電極15bは、図示していないが、支柱で真空フランジに基板ステージ12に対する角度が変更可能なように取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ11の上面に取り付けられている。カソード電極15aは、アノード電極15bの内部に同軸状にアノード電極15bの壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極15aは、その少なくとも先端部(アノード電極15bの開口部側の端部に相当する)が、金属材料から構成されていていればよい。
【0022】
トリガ電極15cは、ターゲット材料ないしはカソード電極15aとの間にアルミナ等から構成された絶縁碍子15dを挟んで取り付けられている。絶縁碍子15dはカソード電極15aとトリガ電極15cとを絶縁するように取り付けられ、また、トリガ電極15cは絶縁体を介してカソード電極15aに取り付けられていてもよい。これらのアノード電極15bとカソード電極15aとトリガ電極15cとは、絶縁碍子15d及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子15dと絶縁体とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0023】
カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にはパルストランスからなるトリガ電源15eが接続されており、また、カソード電極15aとアノード電極15bとの間にはアーク電源15fが接続されている。アーク電源15fは直流電圧源15gとコンデンサユニット15hとからなり、このコンデンサユニット15hの両端は、それぞれ、カソード電極15aとアノード電極15bとに接続され、コンデンサユニット15hと直流電圧源15gとは並列接続されている。
【0024】
コンデンサユニット15hは、1つ又は複数個のコンデンサ(図1では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源15gにより随時充電できるようになっている。トリガ電源15cは、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。アーク電源15fは、100V、数Aの容量の直流電圧源15gを有し、この直流電圧源からコンデンサユニット15h(例えば、4個のコンデンサユニットの場合、8800μF)に充電している。この充電時間は約1秒かかるので、本システムにおいて8800μFで放電を繰り返す場合の周期は、1Hzで行われる。トリガ電源15eのプラス出力端子は、トリガ電極15cに接続され、マイナス端子は、アーク電源15fの直流電圧源15gのマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極15aに接続されている。アーク電源15fの直流電圧源15gのプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード電極15bに接続されている。コンデンサユニット15hの両端子は、直流電圧源15gのプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0025】
図1中の20はコントローラであり、このコントローラはトリガ電源15eに接続されており、コントローラのスイッチをONにしてこのコントローラに接続されたトリガ電源15eに信号を入力すると、このトリガ電源から高電圧が出力されるように構成されている。また、コントローラ20は、CPU(図示せず)に接続され、このCPUからの信号(外部信号)により、コントローラを動作させることができるように構成することが好ましい。
【0026】
次に、図1に示す成膜装置1に設けた、スパッタリングターゲットを備えた蒸着源16について説明する。
【0027】
図1に示す蒸着源16では、スパッタリング用のカソード電極16aにスパッタリング用電源16bがケーブル16cを介して接続されている。このカソード電極16aは、前記同軸型真空アーク蒸着源15のカソード電極15aと同じ金属材料又はその金属の酸化物材料で構成されており、スパッタリングターゲットとして機能する。また、電源16bは、高周波電源であり、この電源16bの出力がカソード電極に印加されると、真空チャンバ11内のカソード電極16a表面の近傍にプラズマが発生し、通常のスパッタリングを実施できるように構成されている。
【0028】
次に、図1に示す同軸型真空アーク蒸着源15とスパッタリング蒸着源16とを備えた成膜装置1を用いて、真空チャンバ11内の基板ステージ12上に載置する基板Sの主面上に金属酸化物微粒子を作製した後、この微粒子の上に金属酸化物膜を成膜する方法について説明する。この場合、説明の便宜上、カソード電極15aとしてアルミニウムで構成されたカソード電極を用い、カソード電極16aとしてアルミナで構成されたカソード電極を用い、基板としてサファイア基板を用いて成膜方法を実施する。
【0029】
まず、ヒータ等の加熱手段により基板を所定の温度(例えば、300〜400℃)に加熱し、次いでバルブ17a及び17cを開放し、マスフローコントローラ17bを介して、所定流量の酸化性ガスを真空チャンバ11内へ導入し、コンダクタンスバルブ19aを調整して、真空チャンバ内の圧力を5×10−2Paに調整する。
【0030】
直流電圧源15gによりコンデンサユニット15hに100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット15hの容量を8800μFに設定し、次いで、トリガ電源15eからトリガ電極15cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にハット型碍子15dを介して印加することで、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にトリガ放電(ハット型碍子表面での沿面放電)を発生させる。このトリガ放電によって、カソード電極15aの側面とアノード電極15bの内面との間で、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷が真空アーク放電され、カソード電極15aに多量のアーク電流が流入し、このアーク放電によりカソード電極15aの構成金属材料であるアルミニウムが蒸発し、この構成金属材料を含むプラズマが形成され、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷の放出により放電は停止する。このトリガ放電を所定の回数繰り返し、そのトリガ放電毎にアーク放電を誘起させる。このトリガ放電の回数、ひいてはアーク放電の回数は、コントローラ20に、所望の放電発数を入力して行うことができる。
【0031】
上記したアーク放電の間、構成金属材料の融解により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)が形成される。この微粒子をアノード電極15bの開口部(放出口)から真空チャンバ11内に放出させ、開口部の斜め下方向に設置されている基板Sに対して、上記のようにして形成された微粒子を供給し、基板S表面上で酸素ガス等の酸化性ガスとの反応により金属酸化物微粒子であるアルミナ微粒子を付着させる。
【0032】
上記した金属微粒子の放出は次のようにして行われる。カソード電極15aに多量の電流が流れるので、カソード電極15aに磁場が形成され、この時発生したプラズマ中の電子(この電子はカソード電極15aからアノード電極15bの円筒内面に飛行する)が自己形成した磁場によってローレンツ力を受け、前方に飛行する。一方、プラズマ中のカソード電極材料の金属イオンは、電子が前記したように飛行し分極することでクーロン力により前方の電子に引きつけられるようにして前方に飛行し、基板S上に微粒子が供給されることになる。
【0033】
本実施の形態においては、アーク電源15fから同軸型真空アーク蒸着源15までの配線であるケーブルの長さを1m程度として行う。また、上記カソード電極15aは、その全体が金属材料で構成されていても、その先端部であるアノード電極の開口側方向の端部が上記金属材料で構成されていてもよい。
【0034】
次いで、上記のようにして形成した金属酸化物微粒子の上に、スパッタリング法により金属酸化物膜を成膜する。カソード電極用のスパッタリングターゲットとして、アルミナで構成したものを用いる。
【0035】
基板ステージ12を室温に保持し、酸化性ガス導入系17のバルブ17a及び17cを開放し、マスフローコントローラ17bを介して供給する酸素ガスと、不活性ガス導入系のバルブ18a及び18cを開放し、マスフローコントローラ18bを介して供給するAr等の不活性ガスとの混合ガスを真空チャンバ11内へ導入し、コンダクタンスバルブ19aを調整して、真空チャンバ11内の圧力を所定の圧力(例えば、0.1〜0.5Pa、好ましくは0.1Pa)に調整する。高周波電源16bから、スパッタリングカソード電極16aに高周波(13.56MHz)を印加する。これにより、カソード電極16aの近傍にプラズマが生成してイオンが発生し、そのイオンがアルミナからなるターゲットをスパッタして、アルミナ粒子が基板上に付着する。このスパッタリングプロセスを所定の時間継続すると、基板上に所定の膜厚(例えば、300nm)を有するアルミナ膜が形成される。
【0036】
次いで、上記のようにして得られた蒸着膜を有する基板を真空チャンバ内11から取り出して加熱炉内に載置し、空気等の酸素原子含有ガスの雰囲気中、所定の圧力(例えば、1気圧)、所定の温度(例えば、600〜1000℃、好ましくは900℃)で、所定の時間(例えば、2〜6時間、好ましくは5時間)焼成し、目的とする所望の金属酸化物膜を得る。
【0037】
本発明で使用できる基板としては、例えばサファイア、シリコン、SiC、ステンレス等からなる基板を挙げることができる。
【0038】
金属酸化物微粒子形成用金属材料しては、例えばアルミニウム、チタン、シリコンを挙げることができる。また、スパッタリングターゲット用材料としては、例えばそれら金属材料の酸化物を挙げることができる。
【0039】
本発明におけるスパッタリング法としては、特に制限はなく、例えばロングスロースパッタリング法であっても良い。ロングスロースパッタリング法とは、ターゲット−基板間の距離を拡げ、低い圧力雰囲気でスパッタリングを行う方法であり、指向性の高い成膜が可能である。この方法で基板上にアルミニウム酸化物膜を形成する場合には、成膜装置内にアルミナターゲットを設置し、例えば0.05〜0.1Paの圧力下で、Arガス等と酸素ガス等とを所定の流量及び流量比で用いて基板上に膜を形成する。
【0040】
以下、本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
【0041】
図1に示す同軸型真空アーク蒸着源15とスパッタリング蒸着源16とを備えた成膜装置1を用いて、真空チャンバ11内の基板ステージ12上に載置した基板Sの主面上にアルミナ微粒子を作製した後、この微粒子の上にアルミナ膜を成膜した。この場合、カソード電極15aとして、アルミニウムで構成されたカソード電極を用い、カソード電極16aとしてアルミナで構成されたターゲットを用い、基板としてサファイア基板を用いた。
【0042】
まず、洗浄及び熱処理により表面を清浄化したサファイア基板をヒータ14により350℃に加熱し、次いでバルブ17a及び17cを開放し、マスフローコントローラ17bを介して、所定流量の酸素ガスを真空チャンバ11内へ導入し、コンダクタンスバルブ18aを調整して、真空チャンバ内の圧力を5×10−2Paに調整した。
【0043】
直流電圧源15gによりコンデンサユニット15hに100Vで電荷を充電し、コンデンサユニット15hの容量を8800μFに設定し、次いで、トリガ電源15eからトリガ電極15cにパルス電圧を出力し(出力:3.4kV)、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にハット型碍子15dを介して印加することで、カソード電極15aとトリガ電極15cとの間にトリガ放電(ハット型碍子表面での沿面放電)を発生させた。このトリガ放電によって、カソード電極15aの側面とアノード電極15bの内面との間で、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷が真空アーク放電され、カソード電極15aに多量のアーク電流が流入し、このアーク放電により、カソード電極15aの構成金属材料であるアルミニウムが蒸発し、このアルミニウムを含むプラズマが形成され、コンデンサユニット15hに蓄電された電荷の放出により放電は停止した。このトリガ放電を0発、10発、100発、1000発繰り返した。このトリガ放電の回数、ひいてはアーク放電の回数は、コントローラ20に、所定の放電発数を入力して行った。
【0044】
上記したアーク放電の間、アルミニウムの蒸発により発生した微粒子(プラズマ化している原子状イオンやクラスタや電子等)をアノード電極15bの開口部(放出口)から真空チャンバ11内に放出させ、開口部の斜め下方向に設置されている基板Sに対して、上記のようにして形成された微粒子を入射させ、基板S表面上で酸素ガスとの反応によりアルミナ微粒子を作製した。アーク電源15fから同軸型真空アーク蒸着源15までの配線であるケーブルの長さを1m程度として行った。
【0045】
次いで、カソード電極用のスパッタリングターゲットとして、アルミナで構成したものを用い、上記のようにして形成したアルミナ微粒子の上に、スパッタリング法によりアルミナ膜を成膜した。
【0046】
基板ステージ14を室温に保持し、酸化性ガス導入系のバルブ17a及び17cを開放し、マスフローコントローラ17bを介して供給する酸素ガスと、不活性ガス導入系18のバルブ18a及び18cを開放し、マスフローコントローラ18bを介して供給するアルゴンガスとの混合ガスを真空チャンバ11内へ導入し、コンダクタンスバルブ19aを調整して、真空チャンバ11内の圧力を0.1Paに調整した。高周波電源16bから、スパッタリングカソード電極16aに高周波(13.56MHz)を印加することにより、カソード電極16aの近傍にプラズマを生成してイオンを発生せしめ、そのイオンでアルミナのターゲットをスパッタして、アルミナ粒子を基板上に付着せしめた。このスパッタリングプロセスを成膜速度1nm/minで5時間行い、基板上に膜厚300nmのアルミナ膜を成膜せしめた。
【0047】
次いで、上記のようにして得られたアルミナ膜を有する基板を真空チャンバ内11から取り出し、加熱炉内に載置して、空気雰囲気中、1気圧、900℃で5時間焼成し、目的とするアルミナ膜を得た。加熱炉内での焼成により、アルミナ膜が、アルミナ微粒子を核成長の起点にして結晶成長して、平坦で、かつ緻密な膜として得られた。なお、酸素ガスを導入しないで前記スパッタリングプロセスを行った場合には、この焼成過程でアルミナ膜に割れが発生することも知見した。
【0048】
かくして得られたアルミナ膜について、トリガ放電の発数による影響を調べるために、上記各発数における、焼成前の膜表面及び基板断面のSEM写真を、それぞれ図2(a)及び(b)に、また、焼成後の膜表面及基板断面のSEM写真を図3(a)及び(b)に示す。また、各発数により得られた膜について、XRD分析を行い、その結果を図4に示す。
【0049】
図2(a)及び(b)から明らかなように、焼成前は0発(同軸型真空アーク蒸着源を駆動しない場合)、すなわちアルミナ微粒子が基板上に形成されていないものと、同軸型真空アーク蒸着源を駆動してアルミナ微粒子を形成したものとの差異はほとんど見られないが、それらを焼成すると、図3(a)及び(b)から明らかなように、0発のものとは結晶成長の仕方が異なっており、10発のものでも平坦で、緻密になっていることが分かる。また、図4から明らかなように、X線回折(XRD)のスペクトルで57.5°付近に強いスペクトルが観察できる。これは、エピタキシャル成長により配向性の高い薄膜が形成されたことを示唆している。すなわち、アルミナ微粒子を基板上に形成した場合は、平坦で、かつ緻密な膜という膜質であるとともに、結晶学的には、配向性の高い膜が得られたことを意味している。
(比較例1)
【0050】
図5に示すスパッタリング蒸着装置を用いて、真空チャンバ内の基板ステージ上に載置したサファイア基板の主面上にアルミナ膜を作製した。
【0051】
図5に示す蒸着装置の真空チャンバ61内の下方には、基板Sが載置される基板ステージ62が水平に配置されている。真空チャンバ61には、基板ステージ62を水平面内で回転させることができるように、基板ステージ裏面の中心部にモーター等の回転駆動手段63を有する回転機構が設けられている。
【0052】
また、基板ステージ62を加熱できるようにヒータ等の加熱手段64を基板ステージの基板載置側と反対側の面に設け、所望により、基板Sを所定の温度に加熱できるようにしても良い。
【0053】
スパッタリング用カソード電極65には、スパッタリング用電源66がケーブル66aを介して接続されている。このカソード電極65は、アルミナで構成されており、スパッタリングターゲットとして機能する。また、電源66は、高周波電源であり、この電源の出力がカソード電極65に印加されると、真空チャンバ61内のカソード電極65表面の近傍にプラズマが発生し、通常のスパッタリングを実施できるように構成されている。
【0054】
真空チャンバ61の壁面には、酸素ガス導入系67、アルゴンガス導入系68及び真空排気系69が接続されている。それぞれのガス導入系では、バルブ67a及び68a、マスフローコントローラ67b及び68b、バルブ67c及び68c、並びにガスボンベ67d及び68dがこの順に金属製配管で接続されている。これらガス導入系67、68により、真空チャンバ61内にガスを導入し、プラズマを発生させる。また、真空排気系69は、コンダクタンスバルブ69a、ターボ分子ポンプ69b、バルブ69c及びロータリーポンプ69dがこの順に金属製真空配管で接続されており、コンダクタンスバルブ69aを調整して、真空チャンバ61内の圧力を5×10−2Paに調整できるように構成されている。
【0055】
図5のスパッタリング蒸着装置を用いて、以下のプロセスに従って、サファイア基板上にアルミナ膜を形成した。
【0056】
まず、洗浄及び熱処理により表面を清浄化したサファイア基板Sを、基板ステージ上に載置した。基板ステージ62を室温に保持し、酸素ガス導入系67のバルブ67a及び67cを開放し、マスフローコントローラ67bを介して供給する酸素ガスと、アルゴンガス導入系68のバルブ68a及び68cを開放し、マスフローコントローラ68bを介して供給するアルゴンガスとの混合ガスを真空チャンバ61内へ導入し、コンダクタンスバルブ69aを調整して、真空チャンバ61内の圧力を0.1Paに調整した。高周波電源66から、スパッタリング用カソード電極65に高周波(13.56MHz)を印加することにより、カソード電極65の近傍にプラズマを生成してイオンを発生させ、そのイオンでアルミナのターゲットをスパッタして、アルミナ粒子を基板S上に付着せしめた。このスパッタリングプロセスを5時間継続し、基板上に膜厚300nmのアルミナ膜を成膜させた。
【0057】
次いで、上記のようにして得られたアルミナ膜を有する基板を真空チャンバ内61から取り出して加熱炉内に載置し、空気雰囲気中、1気圧、900℃で5時間焼成してアルミナ膜を得た。
【0058】
かくして得られたアルミナ膜に対する、焼成前の膜表面及び基板断面のSEM写真観察によれば、それぞれ、図2(a)及び(b)における0発と同様な結果を示し、また、焼成後の膜表面及基板断面のSEM写真観察によれば、それぞれ、図3(a)及び(b)における0発と同様な結果を示した。すなわち、得られたアルミナ膜は、焼成前も焼成後も表面に凹凸があり、また、断面写真からみて、焼成後でもあまり結晶化されておらず、緻密な膜ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、表面が平坦で、かつ緻密な金属酸化物膜を形成できるので、ガスセンサ用の絶縁膜や排ガス触媒担持用の膜としては有用であり、センサ技術分野や触媒技術分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の成膜方法で用いた成膜装置の一構成例を模式的に示す構成例。
【図2】実施例1で得られた焼成前のアルミナ膜について、(a)は基板断面SEM写真、(b)は膜表面SEM写真。
【図3】実施例1で得られた焼成後のアルミナ膜について、(a)は基板断面SEM写真、(b)は膜表面SEM写真。
【図4】実施例1で得られた焼成後のアルミナ膜のXRDスペクトル。
【図5】比較例1で用いたスパッタリング蒸着装置。
【符号の説明】
【0061】
1 成膜装置 11 真空チャンバ
11 真空チャンバ内 12 基板ステージ
13 回転駆動手段 14 加熱手段
15 同軸型真空アーク蒸着源 15a カソード電極
15b アノード電極 15c トリガ電極
15d 絶縁碍子 15e トリガ電源
15f アーク電源 15g 直流電圧源
15h コンデンサユニット 16 スパッタリング蒸着源
16a スパッタリングカソード電極 16b スパッタリング用電源
16c ケーブル 17 酸化性ガス導入系
17a、17c バルブ 17b マスフローコントローラ
17d ガスボンベ 18 不活性ガス導入系
18a、18c バルブ 18b マスフローコントローラ
18d ガスボンベ 19 真空排気系
19a コンダクタンスバルブ 19b ターボ分子ポンプ
19c バルブ 19d ロータリーポンプ
20 コントローラ 61 真空チャンバ
62 基板ステージ 63 回転駆動手段
64 加熱手段 65 スパッタリング用カソード電極
66 スパッタリング用電源 66a ケーブル
67 酸素ガス導入系 67a、67c バルブ
67b マスフローコントローラ 67d ガスボンベ
68 アルゴンガス導入系 68a、68c バルブ
68b マスフローコントローラ 68d ガスボンベ
69 真空排気系 69a コンダクタンスバルブ
69b ターボ分子ポンプ 69c バルブ
69d ロータリーポンプ S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のトリガ電極と蒸着用金属材料で少なくとも先端部が構成された円柱状又は円筒状のカソード電極とが、円筒状の絶縁碍子を挟んで同軸状に隣接して固定されており、前記カソード電極の周りに同軸状に円筒状のアノード電極が離間して配置されている同軸型真空アーク蒸着源を用いて、酸化性雰囲気中でカソード電極を構成する金属材料を成膜装置内に載置した基板上に蒸着せしめて金属酸化物微粒子を形成し、次いで前記カソード電極と同じ金属材料又はその金属の酸化物で構成されたスパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて該金属酸化物微粒子の上に金属酸化物膜を形成した後、蒸着膜の形成された基板を加熱することを特徴とする金属酸化物膜の成膜方法。
【請求項2】
前記蒸着膜を形成する際に、スパッタリングターゲットを備えた蒸着源を用いて成膜する雰囲気を酸化性雰囲気とすることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物膜の成膜方法。
【請求項3】
前記同軸型真空アーク蒸着源及び前記スパッタリングターゲットを備えた蒸着源が同じ真空チャンバに設けられている成膜装置を用いて、蒸着膜を形成し、次いで酸化性雰囲気の加熱炉中で加熱することを特徴とする請求項1又は2記載の金属酸化物膜の成膜方法。
【請求項4】
前記カソード電極としてアルミニウムで構成された電極を用いて、アルミニウム酸化物微粒子を形成した後、真空チャンバ内の雰囲気を維持しながら、スパッタリングターゲットとしてアルミニウム酸化物で構成されたターゲットを用いて、アルミニウム酸化物微粒子上にアルミニウム酸化物膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属酸化物膜の成膜方法。
【請求項5】
前記基板が、サファイア基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化物膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−280578(P2008−280578A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125521(P2007−125521)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】