説明

金属錯体ならびにそれを用いたα−オレフィン重合体の製造方法およびα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法

【課題】新規な高活性触媒成分およびそれを用いた分岐が少なく結晶性を有するα−オレフィン重合体またはα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(A)で表される金属錯体、及びそれの使用。


[式中、Mは10族等の遷移金属を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基等を表す。Lは、Mに配位したリガンドを表す。Eはリン、砒素又はアンチモンを表す。Xは、酸素又は硫黄を表す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基等を表す。R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基又はトリアルキルシリル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−オレフィンの重合体、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体の製造に有用な反応生成物及び金属錯体ならびにそれを用いたα−オレフィン重合体の製造方法およびα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンと極性基含有ビニルモノマーである酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸エステルとを高温高圧のラジカル重合で共重合する方法はよく知られている。しかしながら、この方法では、多数の分岐生成により結晶性の低い共重合体となるため、得られた共重合体の強度が低いという欠点がある。
また、Brookhartらは、α−ジイミン配位子を用いたパラジウム錯体を触媒として、エチレンとアクリル酸エステルの共重合体が製造できることを報告している。
しかしながら、得られた共重合体は、分岐構造に富むものであり、分岐は、メチル基、エチル基をはじめ、種々の炭素数であって、かつ、分岐の数も非常に多く、結果として、得られた共重合体は、結晶性の低いものであった(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
さらに、Pughら(例えば、非特許文献2参照。)、野崎ら(例えば、非特許文献3参照。)、Goodallら(例えば、特許文献1参照。)は、ホスフィノスルホン酸配位子を有するパラジウム錯体を触媒として用いることにより、エチレンとアクリル酸メチルの共重合体が得られることを報告している。
しかしながら、これらの公知文献で用いられている触媒は、希少な資源であり、かつ、高価なパラジウムを用いているため、工業的な応用には問題が大きい。
【0004】
また、リンと酸素を配位原子として有するリガンドを用いたニッケル触媒で、いわゆるSHOP系触媒と呼ばれる触媒を用いると、極性溶媒中でエチレン重合が可能であり、分岐の少ない直鎖状重合体が得られることが知られている。最近、エチレンと極性モノマーとの共重合において、分子量が高く、活性も比較的高いSHOP系触媒が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、未だ共重合活性的には充分とは言えず、改良の余地が非常に多くある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0049712号明細書
【特許文献2】国際特許公開番号2010/50256号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Mecking et al.、「J.Am.Chem.Soc.」、1998、120、888.
【非特許文献2】E.Drent et al.、「Chem.Commun.」、2002、744.
【非特許文献3】T.Kochi et al.、「Dalton Trans.」、2006、25.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の問題点に鑑み、分岐が少なく結晶性を有するα−オレフィン重合体またはα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、特に分子量の比較的高い重合体の製造用の新規な高活性触媒成分およびそれを用いたα−オレフィン重合体またはα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、アリール基を母核とするリガンドであって、アリール基に結合した酸素または硫黄(本発明ではXと記載)のo位(一般式(A)ではR)とp位(一般式(A)ではR)に置換基(ハロゲン化炭化水素基、トリアルキルシリル基)を有するリガンドを用いた遷移金属錯体を触媒成分に用いることにより、α−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合において、分子量の高い重合体を高活性で得ることができることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記一般式(A)で表される金属錯体が提供される。
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Mは、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜20のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。Lは、Mに配位したリガンドを表す。また、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。Eは、リン、砒素またはアンチモンを表す。Xは、酸素または硫黄を表す。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表し、互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2−y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3−x(R、OSi(OR3−x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基を表す(ここで、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基の電子吸引基を表す。]
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、一般式(A)中、Mは、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト又はロジウムであることを特徴とする金属錯体が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、一般式(A)中、Rは、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロフェニル基であることを特徴とする金属錯体が提供される。
【0013】
一方、本発明の第4の発明によれば、下記一般式(B)又は(C)で表される化合物と、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属錯体(D)とを接触させることにより得られることを特徴とする第1〜3のいずれかの発明に係る金属錯体の製造方法が提供される。
【0014】
【化2】

【0015】
[式(B)又は(C)中、Zは、水素原子または脱離基を表し、mは、Zの価数を表す。X、E、R、R、R、R、R及びRは、第1の発明に前記した通りである。]
【0016】
本発明の第5の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係る金属錯体の存在下、α−オレフィンを重合することを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、ルイス塩基の存在下で重合を行うことを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第7の発明によれば、第5又は6の発明において、有機アルミニウム化合物の非存在下で重合を行うことを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第8の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係る金属錯体の存在下、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合することを特徴とするα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、ルイス塩基の存在下で重合を行うことを特徴とするα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第8又は9の発明において、有機アルミニウム化合物の非存在下で重合を行うことを特徴とするα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属錯体を重合用触媒として用いることにより、工業的に容易に、(メタ)アクリル酸エステルとα−オレフィンとの共重合体が製造可能となり、かつ、得られた共重合体の分子量も高い。共重合体だけでなく、α−オレフィン重合体においても、高い分子量の重合体が得られる。一般にポリマーの物性において分子量は支配的要因の一つであり、分子量を上げることによって、ポリマー鎖間の相互作用が強まるため、本発明で得られた重合体や共重合体は、機械的・熱的物性に優れ、有用な成形体として応用可能である。さらに、本発明においては、希少かつ高価なパラジウムの代わりに、ニッケルを金属中心とした触媒を使用することができる。このように、本発明は、かかるα−オレフィン重合体やα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の新規な製造法を提供するものであり、工業的な観点から、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、一般式(B)又は(C)で表される化合物と、ニッケル、パラジウム、コバルト、銅またはロジウム等の周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属錯体(D)とを接触させることにより得られる反応生成物、すなわち、一般式(A)で表される金属錯体(以下、金属錯体(A)と称することもある。)、並びにそれを触媒成分とし、その触媒成分の存在下に行うα−オレフィンの重合体の製造方法およびα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合するα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法である。
以下、重合体の構成モノマー、触媒成分、製造方法等について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「重合」という用語は、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、特に両者を区別する必要がない場合には、総称して単に「重合」と記載する。
【0020】
1.重合体の構成モノマー
(a)α−オレフィン
本発明における成分(a)は、一般式:CH=CHR10で表されるα−オレフィンである。ここで、R10は、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R10の炭素数が20より大きいと、十分な重合活性が発現しない傾向がある。このため、なかでも、好ましい(a)成分としては、R10が水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であるα−オレフィンが挙げられる。
さらに好ましい(a)成分としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキセン、スチレンが挙げられる。なお、単独の(a)成分を使用してもよいし、複数の(a)成分を併用してもよい。
【0021】
(b)(メタ)アクリル酸エステル
本発明における成分(b)は、一般式:CH=C(R11)CO(R12)で表される(メタ)アクリル酸エステルである。ここで、R11は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R12は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。さらに、R12内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
11の炭素数が11以上であると、十分な重合活性が発現しない傾向がある。したがって、R11は、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であるが、好ましい(b)成分としては、R11が水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。より好ましい(b)成分としては、R11がメチル基であるメタクリル酸エステルまたはR11が水素原子であるアクリル酸エステルが挙げられる。同様に、R12の炭素数が30を超えると、重合活性が低下する傾向がある。よって、R12の炭素数は1〜30であるが、R12は、好ましくは炭素数1〜12であり、さらに好ましくは炭素数1〜8である。
また、R12内に含まれていても良いヘテロ原子としては、酸素、硫黄、セレン、リン、窒素、ケイ素、フッ素、ホウ素等が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、ケイ素、フッ素が好ましく、酸素が更に好ましい。また、R12は、ヘテロ原子を含まないものも好ましい。
【0022】
さらに好ましい(b)成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等が挙げられる。なお、単独の(b)成分を使用してもよいし、複数の(b)成分を併用してもよい。
【0023】
2.金属錯体
本発明の反応生成物、すなわち金属錯体は、下記一般式(A)で表される。
【0024】
【化3】

【0025】
[式中、Mは、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜20のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。Lは、Mに配位したリガンドを表す。また、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。Eは、リン、砒素またはアンチモンを表す。Xは、酸素または硫黄を表す。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表し、互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2−y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3−x(R、OSi(OR3−x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基を表す(ここで、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基の電子吸引基を表す。]
【0026】
本発明において、Mは、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属であるが、好ましくは、10族のニッケル、パラジウム、白金および9族のコバルト、ロジウムおよび11族の銅であり、さらに好ましくは、10族のニッケル、パラジウム、白金であり、最も好ましくは10族のニッケルまたはパラジウムである。
Mの価数については2価が好ましい。ここでMの価数とは、有機金属化学で用いられる形式酸化数(formal oxidation number)を意味する。すなわち、ある元素が関与する結合中の電子対を電気陰性度の大きい元素に割り当てたとき、その元素の原子上に残る電荷の数を指す。例えば、本発明の一般式(A)において、Eがリン、Xが酸素、Mがニッケル、Rがフェニル基、Lがピリジンであり、ニッケルがリン、酸素、フェニル基の炭素、ピリジンの窒素と結合を形成している場合、ニッケルの形式酸化数、すなわちニッケルの価数は2価となる。なぜならば、上述の定義に基づき、これらの結合において、電子対は、ニッケルよりも電気陰性度の大きいリン、酸素、炭素、窒素に割り当てられ、電荷は、リンが0、酸素が−1、フェニル基が−1、ピリジンが0で、錯体は、全体として電気的に中性であるため、ニッケル上に残る電荷は+2となるからである。
2価の遷移金属としては、例えば、ニッケル(II)、パラジウム(II)、白金(II)、コバルト(II)が好ましく、2価以外では、銅(I)またはロジウム(III)も好ましい。
【0027】
本発明においてRは、水素原子または炭素数1〜20のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。本発明における重合または共重合反応は、MとRの結合に本発明における(a)成分または(b)成分が挿入することによって、開始されると考えられる。したがって、Rの炭素数が過度に多いと、この開始反応が阻害される傾向にある。このため、好ましいRとしては、炭素数1〜16、さらに好ましくは炭素数1〜10である。
の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p−メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
【0028】
本発明において、Lは、Mに配位したリガンドを表す。本発明におけるリガンドLは、配位結合可能な原子として、酸素、窒素、硫黄を有する炭素数1〜20の炭化水素化合物である。また、Lとして、遷移金属に配位可能な炭素−炭素不飽和結合を有する炭化水素化合物(ヘテロ原子を含有していてもよい)も使用することができる。好ましくは、Lの炭素数は、1〜16であり、さらに好ましくは1〜10である。また一般式(A)中のMと配位結合するLとしては、電荷を持たない化合物が好ましい。
は、Mと配位結合を形成するが、本発明においては、(a)成分の重合や(a)成分と(b)成分の共重合を進行させるために、LをMから取り除く化合物(スカベンジャー)を使用する必要がない。
【0029】
なお、いわゆるSHOP系金属錯体においては、本発明におけるLの代わりに、フォスフィン、たとえば、トリメチルフォスフィンやトリフェニルフォスフィンを用いても、本発明と類似の錯体を合成することができる。しかしながら、こうしたリガンドを用いた場合には、該リガンドをMから取り除くスカベンジャーを併用することが、オレフィンの重合能発現のために必須であることが知られている(例えば、U.Klabunde et al.、「J.Polym.Sci.:Part A:Polym.Chem.」、1987、25、1989.参照。)。このような目的のために用いられるスカベンジャーとしては、Ni(COD)(COD:シクロオクタジエン)、B(C、アルミノキサン類、ロジウム錯体などが知られている。
【0030】
本発明における好ましいLとしては、ピリジン類、ピペリジン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。さらに好ましいLとしては、ピリジン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、環状オレフィン類が挙げられ、特に好ましいLとして、ピリジン、ルチジン(ジメチルピリジン)、ピコリン(メチルピリジン)、RCO(RおよびRの定義は、前記の通り)を挙げることができる。
なお、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、シクロオクタ−1−エニル基を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
本発明において、Xは、酸素または硫黄を表す。これらのうち、酸素が好ましい。また、本発明において、Eは、リン、砒素またはアンチモンを表す。これらのうち、リンが好ましい。
【0031】
本発明において、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表し、互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、金属Mの近傍にあって、立体的および/または電子的にMに相互作用を及ぼす。こうした効果を及ぼすためには、R及びRは、かさ高い方が好ましい。R及びRの好ましい炭素数は3〜30、さらに好ましくは6〜30である。
及びRにおいて、ヘテロ原子含有基中に含まれるヘテロ原子としては、酸素、窒素、リン、硫黄、セレン、ケイ素、フッ素、ホウ素が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素、ケイ素、フッ素が好ましい。また、これらのヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基としては、酸素含有基として、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、カルボキシレート基が挙げられ、窒素含有基としては、アミノ基、アミド基が挙げられ、硫黄含有基としては、チオアルコキシ基やチオアリーロキシが挙げられ、リン含有置換基としては、フォスフィノ基が挙げられ、セレン含有基としては、セレニル基が挙げられ、ケイ素含有基としては、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基が挙げられ、フッ素含有基としては、フルオロアルキル基、フルオロアリール基が挙げられ、ホウ素含有基としては、アルキルホウ素基、アリールホウ素基が挙げられる。これらのヘテロ原子含有基のうち、もっとも好ましいのは、アルコキシ基またはアリーロキシ基である。
【0032】
前記したヘテロ原子含有基に含まれるヘテロ原子としては、遷移金属に配位可能なものが好ましい。こうした遷移金属可能なヘテロ原子を含むヘテロ原子含有基の具体的な例としては、以下のようなものが挙げられる。
すなわち、酸素含有基として、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基などのアリーロキシ基、アセチル基、ベンゾイル基などのアシル基、アセトキシ基、エチルカルボキシレート基、t−ブチルカルボキシレート基、フェニルカルボキシレート基などのカルボキシレート基などを挙げることができる。窒素含有基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基などのジアルキルアミノ基などを挙げることができる。硫黄含有基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオ−n−プロポキシ基、チオイソプロポキシ基、チオ−n−ブトキシ基、チオ−t−ブトキシ基、チオフェノキシ基などのチオアルコキシ基、p−メチルチオフェノキシ基、p−メトキシチオフェノキシ基などのチオアリーロキシ基などを挙げることができる。リン含有置換基としては、ジメチルフォスフィノ基、ジエチルフォスフィノ基、ジ−n−プロピルフォスフィノ基、シクロヘキシルフォスフィノ基などのジアルキルフォスフィノ基などを挙げることができる。セレン含有基としては、メチルセレニル基、エチルセレニル基、n−プロピルセレニル基、n−ブチルセレニル基、t−ブチルセレニル基、フェニルセレニル基などのセレニル基を挙げることができる。
【0033】
本発明において、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基であるが、より具体的には、水素またはヘテロ原子を含有していてもよい直鎖状炭化水素基、ヘテロ原子を含有していてもよい分岐鎖状炭化水素基、ヘテロ原子を含有していてもよい脂肪環式炭化水素基、ヘテロ原子を含有していてもよいアリール基が挙げられる。前記したように、R及びRは、かさ高い方が好ましい。したがって、これらのうち、ヘテロ原子を含有していてもよい脂環式炭化水素基、または、ヘテロ原子を含有していてもよいアリール基が好ましく、ヘテロ原子を含有していてもよいアリール基がもっとも好ましい。こうしたアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスラセニル基などを挙げることができる。
【0034】
本発明のR及びRにおいて、これらアリール基の芳香族骨格に前記したヘテロ原子含有基が結合する場合、結合様式としては、ヘテロ原子含有基が芳香族骨格に直接結合してもよいし、メチレン基のようなスペーサーを介して芳香族骨格に結合してもよい。なお、メチレン基を介してヘテロ原子含有基が芳香族骨格に結合する場合、メチレン基の数は1個が好ましい。また、置換位置としては、R及びR中の芳香族骨格のうち、Eに結合した炭素に対してオルト位が好ましい。このようにすることによって、R及びR中のヘテロ原子がMと相互作用を持つように空間的配置をとることができる。
【0035】
好ましいR及びRの具体的な例示として、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジメトキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジメトキシフェニル基、1,3−ジメトキシ−2−ナフチル基、2,6−ジエトキシフェニル基、2,4,6−トリエトキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジエトキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジエトキシフェニル基、1,3−ジエトキシ−2−ナフチル基、2,6−ジフェノキシフェニル基、2,4,6−トリフェノキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジフェノキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジフェノキシフェニル基、1,3−ジフェノキシ−2−ナフチル基、2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、2,4,6−トリ(メトキシメチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、1,3−ジ(メトキシメチル)−2−ナフチル基、2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基、2,4,6−トリ(フェノキシメチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基、1,3−ジ(フェノキシメチル)−2−ナフチル基、2,6−ジ(2−メトキシエチル)フェニル基、2,4,6−トリ(2−メトキシエチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(2−メトキシエチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(2−メトキシエチル)フェニル基、1,3−ジ(2−メトキシエチル)−2−ナフチル基、2,6−ジ(2−フェノキシエチル)フェニル基、2,4,6−トリ(2−フェノキシエチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(2−フェノキシエチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(2−フェノキシエチル)フェニル基、1,3−ジ(2−フェノキシエチル)−2−ナフチル基などを挙げることができる。
【0036】
これらのうち、好ましいものとしては、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジメトキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジメトキシフェニル基、2,6−ジエトキシフェニル基、2,4,6−トリエトキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジエトキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジエトキシフェニル基、2,6−ジフェノキシフェニル基、2,4,6−トリフェノキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジフェノキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジフェノキシフェニル基、2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、2,4,6−トリ(メトキシメチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(メトキシメチル)フェニル基、2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基、2,4,6−トリ(フェノキシメチル)フェニル基、4−メチル−2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジ(フェノキシメチル)フェニル基が挙げられ、特に好ましいものとしては、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジメトキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジメトキシフェニル基、2,6−ジフェノキシフェニル基、2,4,6−トリフェノキシフェニル基、4−メチル−2,6−ジフェノキシフェニル基、4−t−ブチル−2,6−ジフェノキシフェニル基が挙げられる。
【0037】
また、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2−y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3−x(R、OSi(OR3−x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基を表す(ここで、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。
これらのうち、好ましいものとしては、水素原子、フッ素原子、クロロ原子、ブロモ原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、トリメチルシリル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシロキシ基、トリメトキシシロキシ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどが挙げられ、特に好ましいものとしては、水素原子、フッ素原子、メチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、トリメチルシリル基、メトキシ基、フェノキシ基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシロキシ基、トリメトキシシロキシ基、スルフォン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0038】
さらに、R及びRは、それぞれ独立に、ヘテロ原子含有炭化水素基の中で、炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基の電子吸引基が好ましい。
炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、ヨードメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,1,1−テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタクロロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、トリフルオロビニル基、1,1−ジフルオロベンジル基、1,1,2,2−テトラフルオロフェニルエチル基、2−、3−、4−フルオロフェニル基、2−、3−、4−クロロフェニル基、2−、3−、4−ブロモフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジクロロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ペンタクロロフェニル基、4−フルオロナフチル基、4−クロロナフチル基、2,4−ジフルオロナフチル基、ヘプタフルオロ−1−ナフチル基、ヘプタクロロ−1−ナフチル基、2−、3−、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−、3−、4−トリクロロメチルフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリクロロメチル)フェニル基、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、4−トリフルオロメチルナフチル基、4−トリクロロメチルナフチル基、2,4−ビス(トリフルオロメチル)ナフチル基などが挙げられる。
なお、本明細書中において、例示した置換基等を、一部省略して記載する。例えば、上記の「2−、3−、4−フルオロフェニル基」は、「2−フルオロフェニル基」、「3−フルオロフェニル基」、「4−フルオロフェニル基」の3つの化合物を挙げたことを意味する。
トリアルキルシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基が挙げられる。
【0039】
これらのち、好ましいものとしては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,1,1−テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、トリフルオロビニル基、1,1−ジフルオロベンジル基、1,1,2,2−テトラフルオロフェニルエチル基、2−、3−、4−フルオロフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4−フルオロナフチル基、2,4−ジフルオロナフチル基、ヘプタフルオロ−1−ナフチル基、2−、3−、4−トリフルオロメチルフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基、4−トリフルオロメチルナフチル基、2,4−ビス(トリフルオロメチル)ナフチル基などのフルオロ化合物や、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリル基が挙げられる。
【0040】
これらのうち、更に好ましいものとしては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、トリフルオロビニル基、2−、3−、4−フルオロフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−、3−、4−トリフルオロメチルフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基のフルオロ化合物が、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などのトリアルキルシリル基が挙げられ、その中で特に好ましいものとして、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基のフルオロ化合物や、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が挙げられる。
【0041】
本発明の金属錯体では、アリール基を母核とするリガンドであって、アリール基に結合した酸素または硫黄(本発明ではXと記載)のo位とp位、すなわちRとRに、特定の置換基(ハロゲン化炭化水素基、トリアルキルシリル基)を有するリガンドとすることに、特徴がある。
これらのうち、Rについては、かさ高い電子吸引性基が、重合活性が高く、さらに高分子量の重合体を与える傾向にあり、好ましい。Rの炭素数は1〜30であるが、炭素数3〜30であることが好ましい。
の例を具体的に挙げると、ハロゲン化炭化水素基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、2−、3−、4−フルオロフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−、3−、4−トリフルオロメチルフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基や、トリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−n−プロピルシリル基が挙げられる。
これらのうち、好ましいRとして、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基や、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−n−プロピルシリル基などが挙げられる。
【0042】
また、これらのうち、Rについては、電子吸引性基が、重合活性が高く、さらに高分子量の重合体を与える傾向にあり、好ましい。Rの炭素数は1〜30であるが、ハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基であることが好ましい。
の例を具体的に挙げると、ハロゲン化炭化水素基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、2−、3−、4−フルオロフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ジフルオロフェニル基、2,4,6−トリフルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、2−、3−、4−トリフルオロメチルフェニル基、2,4−、3,5−、2,6−、2,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)フェニル基や、トリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基が挙げられる。
これらのうち好ましいものとして、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基などが挙げられる。
【0043】
以下、本発明の一般式(A)で表される金属錯体のうち、以上説明した本発明の金属錯体としては、以下の一般式(I)で表される、Eがリン原子、Xが酸素原子である金属錯体が好ましい。
【0044】
【化4】

【0045】
一般式(I)中、L、R、R、R、R、R、R、Rは、一般式(A)と同義であり、Mは、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属であるが、10族が好ましく、さらにニッケルまたはパラジウムが好ましい。
【0046】
本発明における上記一般式(I)のMがニッケルの具体例としては、以下の表1〜5に示し、表中の(1)〜(156)が挙げられる。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
金属錯体の構造の理解のため、表1の(1)に記載のニッケル錯体の構造式と名称を下記に示す。この構造式の化合物は、(2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェノラート)((1,4,5−η)−4−シクロオクテン−1−イル)ニッケルと称する。
【0053】
【化5】

【0054】
上記例示において、RとLが結合して、上記錯体構造[(1,4,5−η)−4−シクロオクテン−1−イル構造]の場合、RおよびLのカラムを一つにして、1,4,5η−COEと示す。また、ニッケルに対して、下記のようにσ結合のみを有する場合は、RにCOEと示す。Meはメチル基を、Etはエチル基を、Phはフェニル基(C5−zであり、置換基(R)の数により適切な水素を有する基で、zは整数で0〜5を示す。)を、tBuはターシャリーブチル基を、Pyはピリジン配位子を、2,6−Lutは2,6−ルチジン配位子を、それぞれ示す。
【0055】
【化6】

【0056】
また、上に例示した(1)〜(156)式の化合物の中心金属Mがニッケルの代わりに、パラジウムに代わった化合物も例示される。
【0057】
3.金属錯体の製造方法
本発明の金属錯体は、下記一般式(B)又は(C)で表される化合物と、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属錯体(D)とを接触させることにより得ることができる。
【0058】
【化7】

【0059】
[式(B)又は(C)中、Zは、水素原子または脱離基を表し、mは、Zの価数を表す。X、E、R、R、R、R、R及びRは、前記した通りである。]
【0060】
一般式(B)および(C)において、Zは、水素原子、または脱離基であるが、具体的には、水素原子、RSO基(ここでRは、前記したとおりである)、CFSO基などを挙げることができる。
【0061】
一般式(C)は、アニオンの形で表されているが、そのカウンターカチオンは、本発明に係る遷移金属錯体(D)との反応を阻害しない限りにおいて、任意のものを用いることができる。カウンターカチオンとしては、具体的には、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウム、周期律表1族〜14族の金属イオンを挙げることができる。これらのうち好ましくは、NH、R+(ここでRは、前記したとおりであり、4つのRは、同じでも異なっていてもよい)、R+(ここでRは、前記したとおりであり、4つのRは、同じでも異なっていてもよい)、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Al3+であり、さらに好ましくは、R(ここでRは、前記したとおりであり、4つのRは、同じでも異なっていてもよい)、Li、Na、Kである。
【0062】
一般式(B)、(C)で示される物質については、公知の合成法に基づいて合成することができる。一般式(A)で表される金属錯体は、前記一般式(B)または(C)で表される化合物と、本発明に係る金属Mを含む遷移金属錯体成分(D)との反応生成物に含まれる。
【0063】
本発明で用いられる遷移金属錯体成分(D)については、一般式(B)または(C)で示される化合物と反応して、重合能を有する錯体を形成可能なものが使用される。これらは、プリカーサー(前駆体)とも呼ばれることがある。
例えば、ニッケルを含む遷移金属錯体(D)としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、一般式:(CHCR13CHNiで表される錯体[ここでR13は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2−y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3−x(R、OSi(OR3−x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基を表す(ここで、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。]、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、一般式:Ni(CHSiR13で表される錯体(ここでR13、Lは、本明細書に記載した通りである。)、一般式:NiR13で表される錯体(ここでR13、Lは、本明細書に記載した通りである。)等を使用することができる。
また、9族、10族または11族の遷移金属を含む遷移金属錯体(D)については、一般式:MR13(ここで、Mは、9族、10族または11族の遷移金属であり、R13およびLは、本明細書に記載した通りであり、pおよびqは、Mの価数を満たす0以上の整数である。)を使用することができる。
【0064】
これらの遷移金属のうち、好ましく用いられるものは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、一般式:(CHCR13CHNiで表される錯体(ここでR13は、本明細書に記載した通りである。)、一般式:Ni(CHSiR13で表される錯体(ここでR13、Lは、本明細書に記載した通りである。)、一般式:NiR13で表される錯体(ここでR13、Lは、本明細書に記載した通りである。)、Pd(dba)、Pd(dba)、Pd(dba)(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH、(1,5−シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
特に好ましくは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(CHCHCHNi、(CHCMeCHNi、Ni(CHSiMe(Py)(以下Pyは、ピリジンを表す。)、Ni(CHSiMe(Lut)(以下Lutは、2,6−ルチジンを表す。)、NiPh(Py)、Ni(Ph)(Lut)2,Pd(dba)、Pd(dba)、Pd(dba)(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH、(1,5−シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
【0065】
本発明の反応生成物は、前述の一般式(B)または(C)で表される化合物と前述の遷移金属錯体(D)とを、例えば(B)+(C):(D)=1:99〜99:1(モル比)を、0〜100℃のトルエンやベンゼン等の有機溶媒中で、減圧〜加圧下で1〜86400秒間接触させることにより、得ることができる。(D)として、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(COD))のトルエンやベンゼン溶液を用いる場合には、溶液の色が黄色から、例えば赤色に変化することにより、反応生成物の生成が確認できる。
【0066】
本反応後、(D)を構成している成分であって、(D)の遷移金属以外の成分は、(B)成分のZを除いた部分や(C)成分によって置換されて、本発明の一般式(A)で表される金属錯体が生成する。この置換反応は、定量的に進行するほうが好ましいが、場合によっては完全に進行しなくてもよい。反応終了後、一般式(A)で表される錯体以外に、(B)、(C)、(D)由来の他の成分が共存するが、本発明の重合反応または共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。一般的には、これらの他の成分は、除去した方が、高活性が得られるので好ましい。
なお、反応を行う際に、本発明に係るLを共存させてもよい。本発明に係るMとして、ニッケルやパラジウムを用いた場合には、ルイス塩基性のLを系内に共存させることによって、精製した錯体(A)の安定性が増す場合があり、このような場合には、Lが本発明の重合反応または共重合反応を阻害しない限りにおいて、Lを共存させることが好ましい。
【0067】
本発明において、反応をα−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器とは別の容器で、予め行ったうえで、得られた錯体(A)をα−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に供してもよいし、反応をこれらのモノマーの存在下に行ってもよい。また、反応を、α−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器の中で行ってもよい。この際に、これらのモノマーは存在していてもよいし、存在していなくてもよい。また、一般式(B)〜(C)で示される成分については、それぞれ単独の成分を用いてもよいし、それぞれ複数種の成分を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の併用が有用である。
【0068】
以下、本発明で使用可能な(B)を表6、7に例示するが、下記例示に限定されるものではない。
【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
化合物の構造の理解のため、上記表6の(1)に記載の化合物の構造式と名称を示す。この構造式の化合物は、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェノールと称する。
【0072】
【化8】

【0073】
なお、上記例示において、Meはメチル基を、Etはエチル基を、Phはフェニル基(C5−zであり、置換基の数により適切な水素を有する基で、zは整数で0〜5を示す。)を、tBuはターシャリーブチル基を、それぞれ示す。
【0074】
4.重合反応
本発明において、一般式(A)で表される金属錯体を、重合または共重合の触媒成分として使用することができる。前記したように、一般式(A)で表される金属錯体は、一般式(B)または(C)と遷移金属錯体成分(D)との反応によって、形成させることができる。一般式(A)で表される金属錯体を触媒成分に用いる場合、単離したものを用いてもよいし、担体に担持したものを用いてもよい。こうした担持α−オレフィンの重合やα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0075】
使用可能な担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等またはこれらの混合物が挙げられ、SiO−Al、SiO−V、SiO−TiO、SiO−MgO、SiO−Cr等の混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0076】
無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土等が使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0077】
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸等による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、LiSO、MgSO、ZnSO、Ti(SO、Zr(SO、Al(SO等の塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また粉砕や造粒等の形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0078】
本発明における重合反応は、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒や液化α−オレフィン等の液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のような極性溶媒の存在下あるいは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。さらに、イオン液体も溶媒として使用可能である。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒やイオン液体がより好ましい。
【0079】
本発明では、公知の添加剤の存在下または非存在下で重合反応を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合を禁止する重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。また、添加剤として、無機およびまたは有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行っても良い。さらに、本発明に係るLやイオン液体を添加剤として用いてもよい。
【0080】
本発明における好ましい添加剤として、ルイス塩基が挙げられる。適切なルイス塩基を選択することにより、活性、分子量、アクリル酸エステルの共重合性を改良することができる。ルイス塩基の量としては、重合系内に存在する触媒成分中の遷移金属Mに対して、0.0001当量〜1000当量、好ましくは0.1当量〜100当量、さらに好ましくは、0.3当量〜30当量である。ルイス塩基を重合系に添加する方法については、特に制限はなく、任意の手法を用いることができる。例えば、本発明の触媒成分と混合して添加してもよいし、モノマーと混合して添加してもよいし、触媒成分やモノマーとは独立に重合系に添加してもよい。また、複数のルイス塩基を併用してもよい。また、本発明に係るLと同じルイス塩基を用いてもよいし、異なっていてもよい。
【0081】
ルイス塩基としては、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル類、アリールニトリル類、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、フォスフェート類、フォスファイト類、チオフェン類、チアンスレン類、チアゾール類、オキサゾール類、モルフォリン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいルイス塩基は、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類であり、なかでも好ましいルイス塩基は、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピペリジン誘導体、イミダゾール誘導体、アニリン誘導体、ピペリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピロール誘導体、フラン誘導体である。
【0082】
具体的なルイス塩基化合物としては、ピリジン、ペンタフルオロピリジン、2,6−ルチジン、2,4−ルチジン、3,5−ルチジン、ピリミジン、N、N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール、2,2′−ビピリジン、アニリン、ピペリジン、1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(トリフルオロメチル)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ピリジル)−s−トリアジン、キノリン、8−メチルキノリン、フェナジン、1,10−フェナンスロリン、N−メチルピロール、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ−[2,2,2]−オクタン、トリエチルアミン、ベンゾニトリル、ピコリン、トリフェニルアミン、N−メチル−2−ピロリドン、4−メチルモルフォリン、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、フラン、2,5−ジメチルフラン、ジベンゾフラン、キサンテン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、ジベンゾチオフェン、チアンスレン、トリフェニルフォスフォニウムシクロペンタジエニド、トリフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスフェート、トリピロリジノフォスフィン、トリス(ピロリジノ)ボランなどを挙げることができる。
【0083】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、または、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。さらに、いわゆるchain transfer agent(CSA)を併用し、chain shuttlingや、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
【0084】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマーおよび媒体との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
重合温度、重合圧力および重合時間に、特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常−20℃〜290℃、好ましくは0℃〜250℃、共重合圧力は、0.1MPa〜300MPa、好ましくは、0.3MPa〜250MPa、重合時間は、0.1分〜10時間、好ましくは、0.5分〜7時間、さらに好ましくは1分〜6時間の範囲から選ぶことができる。
【0085】
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。たとえばバッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0086】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。
また、(b)成分自身が一種の連鎖移動剤となる場合には、(b)成分の(a)成分に対する比率や、(b)成分の濃度を制御することによっても、分子量調節が可能である。遷移金属錯体中のリガンド構造を制御して、分子量調節を行う場合には、前記したR、R中のヘテロ原子含有基の種類、数、配置を制御したり、金属Mのまわりに嵩高い置換基を配置したり、前記したR中にヘテロ原子を導入したりすることによって、一般に分子量が向上する傾向を利用することができる。なお、金属Mに対して、アリール基やヘテロ原子含有置換基などの電子供与性基が相互作用可能となるように電子供与性基を配置することが好ましい。こうした電子供与性基が金属Mと相互作用可能であるかどうかは、一般に、分子模型や分子軌道計算で電子供与性基と金属Mとの距離を測定することによって判断できる。
【0087】
本発明の共重合体は、共重合体の極性基にもとづく効果により、良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、他樹脂との相溶化能などが発現する。こうした性質を利用して、本発明の共重合体は、さまざまな用途に使用することができる。例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、ワックスなどとして使用可能である。
【実施例】
【0088】
以下の実施例および比較例において、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
以下の合成例で、とくに断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
【0089】
1.評価法
(1)Tm、Tc:
以下のDSC測定により求めた。
Perkin Elmer社製Diamond DSC示差走査熱量測定装置を使用して、試料(約5mg)を210°
Cで5分間融解後、10°
C/分の速度で−10°
Cまで降温し、−10°
Cで5分保持した後に、10°
C/分の速度で210°
Cまで昇温することにより融解曲線を得た。降温段階における主発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度Tcとした。また、融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとした。
【0090】
(2)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mn:
以下のGPC測定により求めた。
はじめに、試料(約20mg)をポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PL−SP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo−ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1wt%になるように調整した。ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL−SP 260VS中で135°
Cに加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。
なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。
次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH−HT(30cm、4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ社製GPCV2000を使用して、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:約520μL、カラム温度:135°
C、溶媒:o−ジクロロベンゼン、流量:1.0mL/分を採用した。分子量の算出は、以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびエチレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。
なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E−4、α=0.70を使用し、エチレン系重合体に対しては、K=4.77E−4、α=0.70を使用した。
【0091】
(3)IR分析:
SHIMADZU社製FTIR−8700を用いて、熱プレスによってシートにしたサンプルをIR測定することにより、コモノマー含量を求めた。その際、EtBAの場合は、1,740cm−1/730−720cm−1の面積比を、以下の式を用いて換算した値である。
[RA]=1.3503(面積比)−0.2208
【0092】
2.配位子の合成
[配位子の合成例]
(1)2−t−ブチルフェニルメトキシメチルエーテル(1)の合成:
2−t−ブチルフェニルメトキシメチルエーテル(1)は、J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,2000,3277などを参考にして合成した。
【0093】
(2)フェニルメトキシメチルエーテル(2)の合成:
フェノール(50g,0.53mol)、炭酸カリウム(138g,1.0mol)、メトキシメチルクロリド(50g,0.62mol)、アセトン(500mL)の混合物を、攪拌しながら昼夜攪拌をした。室温まで冷却し、沈殿物を濾過で除去し、濃縮をした。
得られた残渣をシリカゲルカラムで精製したところ、フェニルメトキシメチルエーテル(2)がオイルとして得られた(20g,0.14mol)。
【0094】
(3)4−トリフルオロメチルフェニルメトキシメチルエーテル(3)の合成:
4−トリフルオロメチルフェノール(90g,0.555mol)の脱水THF(100mL)溶液を、水素化ナトリウム(48g(60wt%),1.2mol)の脱水THF(400mL)スラリーに0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で1時間攪拌した。その混合液を再び0℃まで冷やした後、同温度でメトキシメチルクロリド(57.8g,0.718mol)を添加し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下でTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテルを展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、4−トリフルオロメチルフェニルメトキシメチルエーテル(3)を得た(102g,0.495mol,89%収率)。
【0095】
(4)4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(4)の合成:
4−ブロモフェノール(100g,0.58mol)の脱水THF(200mL)溶液を、水素化ナトリウム(25.5g(60%wt),0.64mol)の脱水THF(400mL)スラリーに0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で1時間攪拌した。その混合液を再び0℃まで冷やした後、同温度でメトキシメチルクロリド(55.7g,0.70mol)を添加し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下でTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。
硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮し、4−ブロモフェニルメトキシメチルエーテルを得た(91g,0.42mol,72%収率)。
【0096】
4−ブロモフェニルメトキシメチルエーテル(83g,0.38mol)の脱水THF(500mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(160mL,0.40mol)を−78℃で滴下し、同温度で1時間攪拌し、そこにトリメチルシリルクロリド(54mL,0.40mol)を同温度で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、減圧蒸留(78−80℃/0.2mmHg)することで精製し、4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(4)を得た(58g,0.28mol,72%収率)。
【0097】
[合成例1]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−t−ブチルフェノール配位子(B−14)の合成
(1)2,6−ジメトキシヨードベンゼン(B−14−2)の合成:
脱水THF(500mL)に2,6−ジメトキシベンゼン(B−14−1,50g,0.36mol)を溶解させた。ここに、窒素雰囲気下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(166mL,0.42mol)を0℃で徐々に加えた。ここで得られた溶液に、脱水THF(200mL)に溶解させたヨウ素(96.5g,0.38mol)の溶液を0℃で40分間かけて滴下した。得られた溶液を室温で終夜攪拌した。終了後、メタノール(80mL)を滴下し、得られた混合物を減圧下に濃縮し、水(200mL)を加えた後、酢酸エチル(3×250mL)で抽出した。有機層を集め、Naおよび食塩水で該有機層を洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。
乾燥後、無機塩を濾別し、減圧下に濃縮を行い、残渣をメタノール(50mL)で4回洗浄して乾燥させたところ、2,6−ジメトキシヨードベンゼン(B−14−2)が黄色の固体として得られた(63g,0.24mol,66%収率)。
【0098】
(2)ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィンクロリド(B−14−4)の合成:
上記で得られた化合物(B−14−2,5g,18.9mmol)を脱水THFに溶解させ、イソプロピルマグネシムクロライドのTHF溶液(9.5mL,2.0M,19.0mmol)を−50℃で徐々に添加し、得られた混合物を室温で1時間攪拌した。次に、該混合物を−78℃に冷却し、三塩化リン(1.3g,9.5mmol)をゆっくり添加した。
その後、室温で終夜攪拌し、得られたビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィンクロリド(B−14−4)を含む反応中間体は、精製することなく次の反応に使用した。
【0099】
(3)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−t−ブチルフェニルメトキシメチルエーテル(B−14−8)の合成:
2−t−ブチルフェニルメトキシメチルエーテル(1,1.84g,9.5mmol)を脱水THF(20mL)に溶解させ、窒素雰囲気下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(4.2mL,10.5mmol)を0℃で徐々に加えた。同温度で30分間攪拌した後、徐々に昇温し、室温で1.5時間攪拌した。
次いで、該溶液に、上記で得られた化合物(B−14−4)のTHF溶液を−78℃で滴下し、得られた反応混合物を室温で終夜攪拌した。終了後、反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出を行い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。無機塩を濾別して有機層を減圧下に濃縮した。
得られた残渣をシリカゲルカラムで精製したところ、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−t−ブチルフェニルメトキシメチルエーテル(B−14−8,2.5g,5.0mmol,53%収率)が得られた。この合成をスケールアップして同様の反応を行い、化合物(B−14−8)を12g得た。
【0100】
(4)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−t−ブチルフェノール配位子(B−14)の合成:
上記で合成した化合物(B−14−8,12g,24mmol)をジエチルエーテル(50mL)に溶解させ、塩化水素で飽和させたジエチルエーテル(100mL)溶液を−40℃で添加した。同温度で1時間攪拌した後、室温まで徐々に昇温させ、室温でさらに1時間攪拌した。反応混合物を減圧下に濃縮し、B−14塩酸塩を灰色がかった白色固体として得た。
ここで得られた塩酸塩をジクロロメタン(100mL)に溶解させ、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(250mL)をゆっくり加えた。室温で30分間攪拌した後、ジクロロメタン(3×150mL)で抽出を行った。有機層を集めて硫酸ナトリウムで乾燥した。
乾燥後、無機塩を濾別し、減圧下に濃縮し、残渣を石油エーテル(50mL)で2回洗浄し、目的とする配位子(B−14)を灰色がかった白色固体として得た(6.0g,13.2mmol,55%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.30(dt,J=9.1,1.5Hz,1H),7.22(t,J=8.1Hz,2H),7.15(dd,J=7.8,1.5Hz,1H),7.07(d,J=5.6Hz,1H),6.65(t,J=7.0Hz,1H),6.50(dd,J=8.3,3.0Hz,4H),3.51(s,12H),1.36(s,9H);31PNMR(CDCl,δ,ppm)−61.6(s).
【0101】
[合成例2]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−56DM)の合成
(1)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−56DM−6)の合成:
フェニルメトキシメチルエーテル(2,3.16g,22.9mmol)を脱水THF(50mL)に溶解させ、0℃に冷却した。0℃でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(9.1mL,22.8mmol)を滴下し、0℃で30分攪拌した。攪拌しながら室温まで昇温し、室温でさらに2時間攪拌した。0℃に冷却し、トリメチルシリルクロライド(2.90mL,22.8mmol)を加えた後、室温で1時間攪拌した。再び0℃に冷却し、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(9.1mL,22.8mmol)を0℃で滴下した。攪拌しながら室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。再度0℃に冷却し、合成例1(1)と同様に合成した化合物(B−14−4)のTHF溶液(22.8mmol,150mL)を0℃で加え、得られた反応混合物を室温で終夜攪拌した。10%水酸化ナトリウム水溶液で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(10/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−56DM−6)の白色固体を得た(3.6g,7.0mmol,31%収率)。同様な操作を繰返し、化合物(B−56DM−6)を7.4g得た。
【0102】
(2)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェノールの塩酸塩(B−56DMHCl)の合成:
塩化水素の酢酸エチル溶液(2M,100mL)に、化合物(B−56DM−6,7.4g,14.4mmol)を0℃で添加した。得られた混合物を徐々に室温まで昇温し、室温で1.5時間攪拌した。
減圧下に酢酸エチルを除去し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェノールの塩酸塩(B−56DMHCl)の白色固体を得た。
【0103】
(3)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−56DM)の合成:
塩酸塩(B−56DMHCl,7.2g,14.2mmol)、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(200mL)、および酢酸エチル(150mL)の混合物をアルゴン雰囲気下で2時間攪拌した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を除去して濃縮した。
得られた粗生成物を、さらに減圧下、3時間乾燥させ、目的とする2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−56DM)を得た(6.3g,13.4mmol,94%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.54(m,1H),7.26(dd,J=7.1,1.5Hz,1H),7.19(t,J=8.3Hz,2H),6.96(s(br),1H),6.75(t,J=6.8Hz,1H),6.46(dd,J=8.3,3.0Hz,4H),3.52(s,12H),0.24(s,9H);31PNMR(CDCl,δ,ppm):−60.4(s).
【0104】
[合成例3]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4,6−ビス(トリメチルシリル)フェノール配位子(B−84)の合成
(1)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4,6−ビス(トリメチルシリル)フェニルメトキシメチルエーテル(B−84−8)の合成:
4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(4,17.3g,82.2mmol)の脱水THF(200mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(33.0mL,82.5mmol)を0℃で滴下し、攪拌しながら室温まで昇温し、室温でさらに2時間攪拌した。0℃に冷却し、その混合物にトリメチルシリルクロリド(10.5mL,82.7mmol)を同温度で添加し、攪拌しながら室温まで昇温し、室温でさらに2時間攪拌した。再び0℃に冷却し、その混合物に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(33.0mL,82.5mmol)を同温度で添加し、攪拌しながら室温まで昇温し、室温でさらに2時間攪拌した。得られた混合物を再び0℃まで冷却した後、合成例1(1)と同様に得られた化合物(B−14−4,68.5mmol)の脱水THF(250mL)溶液を滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。
硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(25/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4,6−ビス(トリメチルシリル)フェニルメトキシメチルエーテル(B−84−8)を得た(11.0g,18.7mmol,27%収率)。
【0105】
(2)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4,6−ビス(トリメチルシリル)フェノール配位子(B−84)の合成:
上記で合成した化合物(B−84−8,11.0g,18.7mmol)の酢酸エチル(100mL)溶液に、塩化水素の酢酸エチル溶液(4M,70mL)に0℃で滴下し、反応混合物を同温度で30分間攪拌した。徐々に室温まで昇温し、室温で1時間攪拌した後、反応混合物を濃縮した。残渣に酢酸エチル(150mL)と炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液(200mL)を加え、30分間攪拌した。酢酸エチルで抽出操作(3×200mL)を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水させた後、硫酸ナトリウムを濾別し、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(30/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4,6−ビス(トリメチルシリル)フェノール配位子(B−84)が得られた(4.7g(94%純度),8.1mmol,43%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.82(dd,J=12.6,1.2Hz,1H),7.41(s,1H),7.23(s,1H),7.19(t,J=8.4Hz,2H),6.47(dd,J=8.4,2.8Hz,4H),3.53(s,12H),0.255(s,9H),0.196(s,9H);31PNMR(CDCl,δ,ppm):−60.8(s).
【0106】
[合成例4]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−86)の合成
(1)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−86−6)の合成:
化合物(3,12.4g,60mmol)の脱水THF(70mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(24mL,60mmol)を0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。その混合物を再び0℃まで冷却した後、同温度でトリメチルシリルクロリド(6.4g,59mmol)を添加し、徐々に室温まで昇温し、室温で1時間攪拌した。得られた混合溶液を−30℃まで冷却した後、合成例1(1)と同様に得られた化合物(B−14−4,60mmol)の脱水THF(250mL)溶液を滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(10/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−86−6)を得た(8.5g,15mmol,24%収率)。
【0107】
(2)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−86)の合成:
化合物(B−86−6,8.4g,14mmol)を、塩化水素の酢酸エチル溶液(1M,125mL)に入れた。徐々に室温まで昇温し、室温で1.5時間攪拌した。酢酸エチルの一部除去した混合物を炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液で中和をした。酢酸エチルで抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。
硫酸ナトリウムで脱水させた後、硫酸ナトリウムを濾別し、減圧下に溶媒を留去して濃縮することで、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−トリメチルシリルフェノール配位子(B−86)が白色固体として得られた(5.4g,10mmol,71%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.81(dd,J=10.4,1.8Hz,1H),7.46(d,J=1.8Hz,1H),7.38(d,J=3.8Hz,1H),7.23(t,J=8.4Hz,2H),6.49(dd,J=8.4,3.0Hz,4H),3.54(s,12H),0.27(s,9H);31PNMR(CDCl,δ,ppm):−61.5(s).
【0108】
[合成例5]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−79)の合成
(1)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−79−7)の合成:
4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(4,23.9g,114mmol)の脱水THF(250mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(45.6mL,114mmol)を0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。得られた混合溶液を0℃まで冷却した後、合成例1(1)と同様に得られた化合物(B−14−4,114mmol)の脱水THF(500mL)溶液を滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(10/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリルフェニルメトキシメチルエーテル(B−79−7)を得た(34.0g,66.1mmol,58%収率)。
【0109】
(2)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリル−6−ペンタフルオロフェニルフェニルメトキシメチルエーテル(B−79−8)の合成:
化合物(B−79−7,32.0g,62.2mmol)の脱水THF(350mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(21.0mL,52.0mmol)を室温で滴下し、同温度で2時間攪拌した。その混合物を再び−78℃まで冷却した後、同温度でヘキサフルオロベンゼン(48.0g,258mmol)を添加し、徐々に室温まで昇温し、室温で14時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(12/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリル−6−ペンタフルオロフェニルフェニルメトキシメチルエーテル(B−79−8)を得た(14.5g,21.3mmol,41%収率)。
【0110】
(3)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−79)の合成:
上記で合成した化合物(B−79−8,14.5g,21.3mmol)の脱水THF溶液(200mL)に、塩化水素の酢酸エチル溶液(4M,60mL)に0℃で添加した。同温度で30分間攪拌した後、徐々に室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した後、反応混合物を濃縮した。残渣を酢酸エチル(150mL)に溶解させ、それに炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液を加えた混合物を30分間攪拌した。酢酸エチルで抽出操作(3×200mL)を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。
硫酸ナトリウムで脱水させた後、硫酸ナトリウムを濾別し、減圧下に溶媒を留去して濃縮した残渣を、石油エーテル/酢酸エチル溶媒で再結晶することで、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリメチルシリル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−79)が白色固体として得られた(9.8g,15.4mmol,74%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.95(dd,J=13.4,1.5Hz,1H),7.49(br(s),1H),7.23(t,J=10.6Hz,3H),6.48(dd,J=8.4,2.8Hz,4H),3.55(s,12H),0.23(s,9H);31PNMR(CDCl,δ,ppm):−59.5(s).
【0111】
[合成例6]:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−80)の合成
(1)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチルフェニルメトキシメチルエーテル(B−80−5)の合成:
4−トリフルオロメチルフェニルメトキシメチルエーテル(3,15.2g,60.0mmol)の脱水THF(100mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(30.0mL,75.0mmol)を0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。得られた混合溶液を−30℃まで冷却した後、合成例1(1)と同様に得られた化合物(B−14−4,75.0mmol)の脱水THF(300mL)溶液を滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で16時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(10/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチルフェニルメトキシメチルエーテル(B−80−5)を得た(18.0g,35.3mmol,48%収率)。
【0112】
(2)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェニルメトキシメチルエーテル(B−80−6)の合成:
化合物(B−80−5,18.0g,35.3mmol)の脱水THF(250mL)溶液に、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(14.6mL,36.5mmol)を0℃で滴下し、徐々に室温まで昇温し、室温で2時間攪拌した。その混合物を再び−78℃まで冷却した後、同温度でヘキサフルオロベンゼン(33.5g,186mmol)を添加し、徐々に室温まで昇温し、室温で14時間攪拌した。水で反応をクエンチし、減圧下にTHFを除去した。酢酸エチルを用いて抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水し、硫酸ナトリウムを濾別した後、減圧下に溶媒を留去して濃縮した。
粗生成物を、石油エーテル/酢酸エチル(10/1,v/v)を展開液としてシリカゲルカラムにて精製し、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェニルメトキシメチルエーテル(B−80−6)を得た(14.0g,20.7mmol,59%収率)。
【0113】
(3)2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−80)の合成:
上記で合成した化合物(B−80−6,14.0g,73.5mmol)を、塩化水素の酢酸エチル溶液(1M,150mL)に0℃で添加した。徐々に室温まで昇温し、室温で1.5時間攪拌した。酢酸エチルの除去した後、残渣を炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液(200mL)で中和をした。酢酸エチルで抽出操作を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄した。
硫酸ナトリウムで脱水させた後、硫酸ナトリウムを濾別し、減圧下に溶媒を留去して濃縮することで、2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファニル−4−トリフルオロメチル−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−80)が白色固体として得られた(7.0g,11.1mmol,54%収率)。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.97(d,J=11.4Hz,1H),7.74(br(s),1H),7.38(s,1H),7.26(t,J=8.4Hz,2H),6.50(dd,J=8.4,3.0Hz,4H),3.56(s,12H);31PNMR(CDCl,δ,ppm):−59.0(s).
【0114】
3.錯体の合成
[錯体の合成例]
ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)をNi(COD)と称する。錯体(触媒)の調製法は、WO2010/50256を参考にした。31PNMRの値から、得られた錯体の構造は、WO2010/50256で決定された構造と、ほぼ同様と考えられる。
【0115】
[比較例1]
(1)B−14Ni触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)(52.8mg,192μmol)をベンゼン(15mL)に溶解させ、その溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−14(68.2mg,150μmol)に添加した後、30℃で1.5時間攪拌(湯浴使用)することで、B−14Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):0.0(s).
【0116】
[比較例2]
(2)B−56DMNi触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)のベンゼン溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−56DM(70.6mg,150μmol)に添加した後、50℃で1.5時間攪拌することで、B−56DMNi触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):−2.8(s).
【0117】
[実施例1]
(3)B−84Ni触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)のベンゼン溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−84(81.4mg,150μmol)に添加した後、40℃で2時間攪拌することで、B−84Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):0.0(s).
【0118】
[実施例2]
(4)B−86Ni触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)のベンゼン溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−86(80.8mg,150μmol)に添加した後、室温で2.5時間攪拌することで、B−86Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):−2.8(s).
【0119】
[実施例3]
(5)B−79Ni触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)のベンゼン溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−79(95.5mg,150μmol)に添加した後、室温で2.5時間攪拌することで、B−79Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):−4.1(s).
【0120】
[実施例4]
(6)B−80Ni触媒ベンゼン溶液の調整:
Ni(COD)のベンゼン溶液(16μmol/mL,9.4mL,150μmol)をB−80(94.9mg,150μmol)に添加した後、室温で1時間攪拌することで、B−80Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL)を調製した。
31PNMR(C,δ,ppm):−4.3(s).
【0121】
4.重合
[エチレン/アクリル酸エステルの共重合例]
内容積2Lの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン(1,000mL)、アクリル酸t−ブチル(tBA)(6.0mL,41mmol)、上記B−14Ni触媒ベンゼン溶液(16μmol/mL,5.0mL,80μmol)を導入し、70℃まで昇温し、同温度で3.0MPaに保つようにエチレンを追加しながら1時間攪拌を継続した。その後、未反応エチレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放して、濾過及び洗浄後、2.37gの共重合体が得られた。
他の共重合は、導入する触媒ベンゼン溶液の種類が異なるだけで、全て同じ操作を実施した。その結果を表8に示す。
【0122】
【表8】

【0123】
表8により、本発明の一般式(A)で表される金属錯体は、一般式(A)におけるRとRに、特定の置換基(ハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基)を有することにより、分子量の高い重合体が得られていることがわかる。例えば、Rがトリメチルシリル基である実施例1、2と比較例2との対比から、Rが水素原子の比較例2に比べて、Rに、トリフルオロメチル基またはトリメチルシリル基を有することにより、Mwが高い重合体が得られていることがわかる。また、Rがペンタフルオロフェニル基である実施例3、4は、Rがトリメチルシリル基である実施例1、2に比べて、それぞれ、さらに、Mwが高い重合体が得られていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明により、工業的に容易に、(メタ)アクリル酸エステルとα−オレフィンとの共重合体が製造可能となり、かつ、得られた共重合体の分子量も高い。共重合体だけでなく、α−オレフィン重合体においても高い分子量が得られる。一般にポリマーの物性において分子量は支配的要因の一つであり、分子量を上げることによって、ポリマー鎖間の相互作用が強まるため、本発明で得られた重合体や共重合体は、機械的・熱的物性に優れ、有用な成形体として応用可能である。さらに、本発明においては、希少かつ高価なパラジウムの代わりに、ニッケルを金属中心とした触媒を使用することができる。このように、本発明は、かかるα−オレフィン重合体やα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の新規な製造法を提供するものであり、工業的にきわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される金属錯体。
【化1】

[式中、Mは、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜20のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表す。Lは、Mに配位したリガンドを表す。また、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。Eは、リン、砒素またはアンチモンを表す。Xは、酸素または硫黄を表す。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基を表し、互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30のヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2−y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3−x(R、OSi(OR3−x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基を表す(ここで、Rは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはフォスフォニウムを表し、xは0〜3の整数を表し、yは0〜2の整数を表す。)。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30のハロゲン化炭化水素基またはトリアルキルシリル基の電子吸引基を表す。]
【請求項2】
一般式(A)中、Mは、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト又はロジウムであることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
一般式(A)中、Rは、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロフェニル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属錯体。
【請求項4】
下記一般式(B)又は(C)で表される化合物と、周期律表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属錯体(D)とを接触させることにより得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
【化2】

[式(B)又は(C)中、Zは、水素原子または脱離基を表し、mは、Zの価数を表す。X、E、R、R、R、R、R及びRは、請求項1に前記した通りである。]
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属錯体の存在下、α−オレフィンを重合することを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法。
【請求項6】
ルイス塩基の存在下で重合を行うことを特徴とする請求項5に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
【請求項7】
有機アルミニウム化合物の非存在下で重合を行うことを特徴とする請求項5又は6に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属錯体の存在下、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとを共重合することを特徴とするα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【請求項9】
ルイス塩基の存在下で重合を行うことを特徴とする請求項8に記載のα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。
【請求項10】
有機アルミニウム化合物の非存在下で重合を行うことを特徴とする請求項8又は9に記載のα−オレフィン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−201657(P2012−201657A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69766(P2011−69766)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】