説明

針状ころ軸受

【課題】針状ころに対する保持性を損なうことなく、且つ限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる針状ころ軸受を提供する。
【解決手段】一対の環状部13と環状部13を連結する複数の柱部14とからなり、複数のポケット15が形成された保持器11と、ポケット15に転動自在に保持された複数の針状ころ12と、を備え、柱部14の中間に、周方向に向けて幅狭となる幅狭部17を設けた針状ころ軸受10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車、自動2輪車、航空機、鉄道、電気・情報、鉄鋼等の産業用の分野における遊星歯車機構等において遊星歯車の支持に用いられる針状ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星歯車機構は、キャリアに支持されているピニオンシャフトに、針状ころ軸受を介して複数の遊星歯車が組み付けられており、遊星歯車が、リングギアの内歯と、太陽ギアの外歯と、に噛合されて構成されている。
【0003】
ここで、自動車用の自動変速機に使用される遊星歯車機構においては、遊星歯車が自転しながら、キャリアを伴って公転する複雑な構造のために、潤滑油が十分に行きわたらない嫌いがある。
【0004】
そして、近年、自動車における燃費の向上ため、小型化が要求されており、そのため遊星歯車の回転速度が高速になる等、遊星歯車機構全体の使用条件が厳しくなってきている。これに伴い、潤滑の改善が一層要求されている状況にあり、その潤滑の改善を図るため、供給油量を増加させるか、ピニオンシャフトの油孔の数を増やすか、或いは、ピニオンシャフトの油孔径を大きくするか、等がまず考えられる。しかし、このように潤滑油の供給量を単純に増加したとしても、実際に針状ころ軸受に到達する油量を、それに比例して増加させることは難しい。
【0005】
また、針状ころ軸受における転がり疲れ寿命(軸受の回転運動に伴って、転がり面に受ける繰り返し剪断応力により転動部品が疲労し、その表面の一部に剥離が生ずるまの総回転数)を長くするために、転動面へ潤滑油を十分に供給して油膜を保持することが要求されている。
【0006】
その対策として、図4に示すように、保持器71のポケット72のコーナー部73に、ぬすみ部74を設けた針状ころ軸受70が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この特許文献1に開示された針状ころ軸受70は、ぬすみ部74の深さを、針状ころ75の直径に対する所定の値とすることで、ぬすみ部74を潤滑油の流通路として、保持器71の内径側と外径側との間で、潤滑油をスムーズに行きわたらせようとしているものである。
【0008】
また、図5に示すように、針状ころ81を保持する保持器82の柱部83の中央部の肉厚を、他の部分よりも薄くした針状ころ軸受80が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
この特許文献2に開示された針状ころ軸受80は、柱部83の中央部である縮径部84の肉厚t1を、それ以外の部位である、案内面85の肉厚t2および環状部86のフランジ部の肉厚t3未満或いは以下にすることで軽量化を図ろうとしているものである。
【0010】
【特許文献1】特開平11−108065号公報
【特許文献2】特開2004−353809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に開示された従来の針状ころ軸受70においては、保持器71の柱部の幅が応力の集中しやすいポケット72のコーナー部73で細くなっているため、運転中に保持器71の破損等が起きてしまい、針状ころが脱落する等の不具合が生じてしまう虞がある。
【0012】
また、上記特許文献2に開示された従来の針状ころ軸受80においては、保持器82の柱部83の角部分と針状ころ81との接触において、針状ころ81の保持性が確実でない虞があるとともに、潤滑油の流通性を改善する余地がある。
【0013】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、針状ころに対する保持性を損なうことなく、且つ限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる針状ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した本発明の目的は、下記の構成により達成される。
【0015】
(1) 軸方向に互いに間隔をあけて配置された一対の環状部と、円周方向に亙って間欠的に配置されて前記一対の環状部を連結する複数の柱部と、を有して、前記環状部と前記柱部と間に複数のポケットが形成された保持器と、
前記ポケットに転動自在に保持された複数の針状ころと、
を備えた針状ころ軸受であって、
前記柱部の中間に、周方向に向けて幅狭となる幅狭部が設けられる
ことを特徴とする針状ころ軸受。
(2) ピニオンシャフトの両端をキャリアで支持した遊星歯車機構における遊星歯車の支持に用いられる
上記(1)に記載の針状ころ軸受。
【0016】
上記(1)に記載の構成によれば、柱部の中間位置において周方向に幅狭の幅狭部を通じて保持器の外径側および内径側からの潤滑油の流路が形成される。これにより、限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる。また、柱部の中間において容量が減少されることで、回転時の遠心力が負荷されたとしても、柱部は自重に伴う変形が抑制されて、針状ころに対する保持性を損なうことがない。
そして、上記(2)に記載の構成によれば、ピニオンシャフトの軸心を通過して油孔から流出してきた潤滑油は、針状ころとピニオンシャフトとの転動面を通過して遊星歯車の自転による遠心力で保持器の外径側に押し出される。その際、ピニオンシャフトと柱部とが最も接近する柱部の中間において幅が狭くなっている幅狭部を有しているので、柱部と針状ころとの間に隙間が確保され、その隙間を通じて潤滑油が保持器の外径側へ効率よく流動される。このため、複雑な機構で潤滑油が十分に行きわたらないとされる遊星歯車機構においても、限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる。さらに、幅狭部は、撓み量が最大となる柱部の中間部における容量を減少させるために、遊星歯車の公転および自転による遠心力が負荷されたとしても、柱部は自重に伴う変形が抑制されることで、コーナー部への応力集中が低減されて、針状ころに対する保持性を損なうことがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば針状ころに対する保持性を損なうことなく、且つ限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる針状ころ軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、図1〜3は本発明に係る針状ころ軸受の一実施形態を示すものあり、図1は本発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の外観斜視図であり、図2は図1の針状ころ軸受の一部破断側面図であり、図3は図1の針状ころ軸受を適用した遊星歯車機構の分解斜視図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態の針状ころ軸受10は、保持器11と、複数の針状ころ12と、を備えて構成される。
なお、本実施形態では後述する遊星歯車機構に用いられるため内輪相当部材及び外輪相当部材を直接備えた構成となっていないが、種々の外輪相当部材又は内輪相当部材の少なくとも1つを備えた針状ころ軸受に対しても本発明を適宜適用することができる。
【0020】
保持器11は、例えば機械構造用鋼材等の金属製板部材に対し打ち抜き加工及び曲げ加工などを施すことで、軸方向に互いに間隔をあけて配置された一対の環状部13と、円周方向に亙って間欠的に配置されて前記一対の環状部13を連結する複数の柱部14と、を有して成形されて、一対の環状部13と柱部14との間にポケット15がそれぞれ周方向に等間隔に形成される。
【0021】
柱部14は、軸方向の中間に配置された中央板部16が、断部形状で内周部に向けて縮径されることで、針状ころ12の抜け止めとして機能し、そしてこの中央板部16の中間位置に後述する幅狭部17が形成されている。
【0022】
針状ころ12は、丸棒形状に形成されており、また焼入れ後に、研削仕上げが施された後適切なクラウニング処理が施されるため、両端部での応力集中を緩和することができる。
【0023】
図2に示すように、保持器11において、ポケット15は長さ寸法L1の軸方向長さを有し、そして中央板部16が長さ寸法L2の軸方向長さを有するとともに幅狭部17が長さ寸法L3の軸方向長さを有しており、これら長さの関係は、L1>L2>L3とされる。
【0024】
ここで、中央板部16の周方向両端部に凹部が形成され、このため、中央板部16が周方向に幅寸法L4を有しているとき、幅狭部17は周方向にこの幅寸法L4よりも狭い幅寸法L5とされて形成される(即ち、L4>L5)。
したがって、幅狭部17により、中央板部16の中間部分で、保持器11と針状ころ12の転動面との間に隙間が形成されて、潤滑油の流路が形成されることとなる。
なお、針状ころ12との接触、及び潤滑油の流動性などを考慮して、幅狭部17の周方向縁部は面取り加工が施され、また幅狭部17の軸方向端部の周面を比較的滑らかな曲線を有する連続面とするのが好適である。
【0025】
そして、図3に示すように、このように構成された針状ころ軸受10は、遊星歯車機構30において、3個の遊星歯車31にそれぞれ組付けられる。
遊星歯車機構30は、内歯33を有するリングギア32と、外歯35を有する太陽ギア34と、リングギア32の内歯33および太陽ギア34の外歯35に噛合する遊星歯車31と、不図示の油孔を有するとともに、遊星歯車31をそれぞれ支持する3本のピニオンシャフト36と、ピニオンシャフト36の両端を支持していて遊星歯車31を回転自在に支持するとともに自らも回転可能なキャリア37と、を備える。針状ころ軸受10は、ピニオンシャフト36に外嵌され、遊星歯車31に保持器11が外径支持で取付けられて、軸受空間に所定の潤滑油が充填される。
【0026】
遊星歯車機構30は、例えば1速の場合、太陽ギア34をドライブ側とし、遊星歯車31とキャリア37とをドリブン側として、リングギア32を固定することで、大きな減速比が得られる。また、例えば2速の場合、太陽ギア34を固定し、遊星歯車31とキャリア37とをドリブン側とし、リングギア32をドライブ側とすることで、中程度の減速比が得られる。さらに、例えば3速の場合、太陽ギア34を固定し、遊星歯車31とキャリア37とをドライブ側とし、リングギア32をドリブン側とすることで、小さな減速比が得られる。
【0027】
そして、これらとは異なり、例えば後退の場合、太陽ギア34をドリブン側とし、遊星歯車31とキャリア37とを固定し、リングギア32をドライブ側とすることで、入力に対して出力を逆転させることができる。このように、遊星歯車機構30は、3速の変速と後退との減速を行うことができるが、これらの回転動作は、一例であって、必ずしもこれらの動作に限られることはない。
【0028】
このような回転動作において、ピニオンシャフト36が有する油孔から流出してきた潤滑油は、ピニオンシャフト36と針状ころ12との転動面を通過し、そして遊星歯車31の自転による遠心力で保持器11の外径側に押し出される。その際、ピニオンシャフト36と柱部14とが最も接近する柱部14の中間部において幅狭部17により形成された隙間(流路)を介して潤滑油が保持器11の外径側へ効率よく流動される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の針状ころ軸受10によれば、柱部14の中間において周方向に幅狭の幅狭部17を通じて保持器11の外径側および内径側からの潤滑油の流路が形成される。これにより、限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる。また、幅狭部17により、柱部14の中間において容量が減少されることで、回転時の遠心力が負荷されたとしても、柱部14は自重に伴う変形が抑制されて、針状ころ12に対する保持性を損なうことがない。
【0030】
また、本実施形態の針状ころ軸受10によれば、遊星歯車機構30に組付けた場合には、ピニオンシャフト36の油孔から流出してきた潤滑油は、ピニオンシャフト36と針状ころ12との転動面を通過し、そして遊星歯車31の自転による遠心力で保持器11の外径側に押し出される。その際、ピニオンシャフト36と柱部14とが最も接近する柱部14の中間部において幅狭部17の幅が狭くなっているために、柱部14と針状ころ12との間に隙間が確保され、その隙間を通じて潤滑油が保持器11の外径側へ効率よく流動される。このため、複雑な機構で潤滑油が十分に行きわたらないとされる遊星歯車機構30においても、限られた潤滑油量で転動面での潤滑油を効率的に保持することができる。
さらに、幅狭部17は、撓み量が最大となる柱部14の中間部における容量を減少させることで、遊星歯車31の公転および自転による遠心力が負荷されたとしても、柱部14は自重に伴う変形が抑制されることで、コーナー部への応力集中が低減されて、針状ころに対する保持性を損なうことがない。
【0031】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0032】
例えば、針状ころの数、外径、長さ等については、適用される遊星歯車におけるトルク容量等を考慮して適宜設定されるために、何ら限定されるものではない。勿論、針状ころの総数、外径、長さに応じて保持器の外径、柱部の数、ポケットの数、等も要求される仕様に基づき適宜設定される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る針状ころ軸受の外観斜視図である。
【図2】図1の針状ころ軸受の一部破断側面図である。
【図3】図1の針状ころ軸受を適用した遊星歯車機構の分解斜視図である。
【図4】従来の針状ころ軸受の部分断面図である。
【図5】図4とは異なる従来の針状ころ軸受の部分断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 針状ころ軸受
11 保持器
12 針状ころ
13 環状部
14 柱部
15 ポケット
17 幅狭部
30 遊星歯車機構
31 遊星歯車
36 ピニオンシャフト
37 キャリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に互いに間隔をあけて配置された一対の環状部と、円周方向に亙って間欠的に配置されて前記一対の環状部を連結する複数の柱部と、を有して、前記環状部と前記柱部と間に複数のポケットが形成された保持器と、
前記ポケットに転動自在に保持された複数の針状ころと、
を備えた針状ころ軸受であって、
前記柱部の中間に、周方向に向けて幅狭となる幅狭部が設けられる
ことを特徴とする針状ころ軸受。
【請求項2】
ピニオンシャフトの両端をキャリアで支持した遊星歯車機構における遊星歯車の支持に用いられる
請求項1に記載の針状ころ軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−115300(P2009−115300A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292329(P2007−292329)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】