説明

鉄シリサイド層の製造方法並びに半導体基板及び光半導体装置

【課題】鉄シリサイド層の製造方法並びに半導体基板及び光半導体装置において、β−FeSiの平坦で良質な連続膜を形成すること及び高キャリア移動度を得ること。
【解決手段】結晶面(001)を表面に有するSi基板1上にβ−FeSiの鉄シリサイド層4bを成膜する方法であって、前記Si基板上に設けられたSiGe層上に、直接又は歪みSi層を介して前記鉄シリサイド層をエピタキシャル成長する鉄シリサイド層形成工程を有し、該鉄シリサイド層形成工程は、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して前記鉄シリサイド層の少なくとも一部を成膜する高温成膜工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子材料等に用いられる鉄シリサイド層の製造方法並びに半導体基板及び光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
β−FeSiの鉄シリサイドは、正方晶構造の金属であるα−FeSiの鉄シリサイドと異なり、斜方晶構造をもち、禁制帯幅が約0.85eVの半導体である。β−FeSiは、吸収係数が結晶質シリコンより非常に大きく(波長1.1μmで吸収係数10cm−1)、光電変換の効率が高いことから、Si基板上に薄膜形成することで高効率な太陽電池等の赤外受光材料となることが期待されている。また、β−FeSiは、GaAs等の化合物半導体と異なり、環境的に扱いが難しいAs等を用いないで済むため、環境負荷の小さな半導体材料としても注目されている。
【0003】
受光材料として高いキャリア移動度を得るためには、良質な連続膜にする必要があるが、Si基板上に良質なβ−FeSiの連続膜を形成することは難しく、種々の研究が行われている。従来、例えばSi基板の(001)結晶面上にFe(鉄)とSi(シリコン)とを交互に蒸着して100nm程度の膜厚とし、さらに200nmのSiO層をその上に成膜して800℃で3時間アニールすることによりβ−FeSi膜を形成し、移動度の向上及びβ−FeSiの凝集防止を図る技術が提案されている。
【非特許文献1】第47回応用物理学会学術講演会、講演予稿集29a-YG-2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、以下のような課題が残されている。
すなわち、上記従来の技術では、1時間以上で500℃以上の高温アニールを行わないと移動度が向上しないと共に、SiO層を成膜せずに上記高温アニールを行った場合、β−FeSiは島状に凝集してしまい、移動度の向上は得られなかった。なお、この従来の成膜方法では、キャリア移動度は、常温で500cm/Vsの値にとどまり、まだデバイス応用には十分な特性が得られていない。
Si基板上でβ−FeSiを成膜する場合、低温で成膜すると膜自体の連続性が良く表面ラフネスも小さいが結晶性が悪く移動度が低い。高温で成膜すると結晶性は良いが島状結晶となり、膜の連続性が悪く表面ラフネスも大きいためデバイス作製が困難である。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、β−FeSiの平坦で良質な連続膜を形成することができると共に高キャリア移動度を得ることができる鉄シリサイド層の製造方法並びに半導体基板及び光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、結晶面(001)を表面に有するSi基板上にβ−FeSiの鉄シリサイド層を成膜する方法であって、前記Si基板上に設けられたSiGe層上に、直接又は歪みSi層を介して前記鉄シリサイド層をエピタキシャル成長する鉄シリサイド層形成工程を有し、該鉄シリサイド層形成工程は、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して前記鉄シリサイド層の少なくとも一部を成膜する高温成膜工程を有することを特徴とする。
【0007】
この鉄シリサイド層の製造方法では、Si基板上に設けられたSiGe層上に、直接又は歪みSi層を介して鉄シリサイド層をエピタキシャル成長するので、SiGe層又は歪みSi層の面内方向の格子定数とβ−鉄シリサイドの格子定数の違いが非常に小さくなり、Si基板上でβ−鉄シリサイドを高温で成膜する際に島状結晶を形成する原因となる基板とβ−鉄シリサイド層の間の応力を小さくすることができる。β−鉄シリサイドの結晶性が良くなる高温成膜工程を採用しても、β−鉄シリサイド層は島状結晶とはならず、連続性が良く表面ラフネスの小さい膜となり、デバイス作製に適する。
この鉄シリサイド層の製造方法では、鉄シリサイド層形成工程において、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して鉄シリサイド層の少なくとも一部を成膜する高温成膜工程を有するので、反応に十分な高温状態でFeとSiとが同時供給されて結晶粒径が大きく欠陥の少ないβ−FeSi2の連続膜が形成される。すなわち、従来のFeとSiとを交互に蒸着してアニールする方法よりも結晶粒径が大きく欠陥が少なくなるため、良質な膜が得られると共に、従来よりも高いキャリア移動度を得ることができる。
【0008】
なお、上記成膜温度の範囲を400℃以上としたのは、400℃未満であると結晶欠陥が多くしかも従来より大きな結晶粒径を得ることができないためであり、940℃以下としたのは、940℃を越えるとβ−FeSiではなく、α−FeSiとなってしまうためである。
【0009】
本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、先に記載の鉄シリサイド層の製造方法において、前記Si基板上に設けられたSiGe層上に歪みSi層を形成し、この歪みSi層上にβ−FeSiのテンプレート層を形成した後、β−FeSiの鉄シリサイド層をエピタキシャル成長させて形成することを特徴とするものでもよい。
また、本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、前記高温成膜工程を、前記SiGe層又は前記歪みSi層上に膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層を成膜した後に行ってもよい。
【0010】
この鉄シリサイド層の製造方法では、SiGe層又は歪みSi層上に膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層を成膜した後に高温成膜工程を行うので、その上に成膜する鉄シリサイド層の結晶方位がより揃い、さらにキャリア移動度が向上する。
【0011】
また、本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、前記高温成膜工程を、前記SiGe層又は前記歪みSi層上にFeを蒸着すると共に400℃以上かつ940℃以下の加熱処理を行いSiGe層又は歪みSi層のSiと反応させて膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層を形成した後に行ってもよい。なお、この場合、Feを蒸着した後に400℃以上かつ940℃以下の加熱処理を行って上記反応をさせる場合と、Si基板を400℃以上かつ940℃以下に加熱しながらFeを蒸着して上記反応をさせる場合を含む。
【0012】
また、本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、前記SiGe層形成工程において、前記SiGe層の少なくとも上部におけるGe組成比を0.2から0.55とすることが好ましい。
本発明の鉄シリサイド層の製造方法は、先のいずれかに記載の鉄シリサイド層の製造方法において、前記Si基板上に第1のSiGe層と第2のSiGe層を形成し、前記第1のSiGe層中のGe濃度を前記Si基板から前記第2のSiGe層側に漸次増加する傾斜組成層とし、前記第2のSiGe層のGe濃度を前記第1のSiGe層の最終的なGe組成比と同じGe組成比とすることを特徴とするものでもよい。
【0013】
この鉄シリサイド層の製造方法では、SiGe層の少なくとも上部におけるGe組成比を0.2から0.55とするので、β−FeSiの格子定数に非常に近いSiGe層となり、格子歪みが非常に小さくなるため、凝集して表面ラフネスが大きくなることがなく、より良質なβ−FeSi膜を成長させることができる。
【0014】
本発明の半導体基板は、結晶面(001)を表面に有するSi基板上にβ−FeSiの鉄シリサイド層が形成された半導体基板であって、前記鉄シリサイド層は、上記本発明の鉄シリサイド層の製造方法により成膜されていることを特徴とする。
すなわち、この半導体基板では、鉄シリサイド層が、上記本発明の鉄シリサイド層の製造方法により成膜されているので、良質連続膜かつ高キャリア移動度のβ−FeSiにより、特に、太陽電池等の半導体受光素子や発光波長1.5μmの半導体発光素子等の光半導体装置用の基板として好適である。
【0015】
本発明の光半導体装置は、Si基板上に受光又は発光を行う活性層が形成された光半導体装置であって、前記活性層は、上記本発明の半導体基板の前記鉄シリサイド層であることを特徴とする。
この光半導体装置では、活性層が上記本発明の半導体基板の前記鉄シリサイド層であるので、良質で高キャリア移動度を有する鉄シリサイド連続膜により、高特性な受光素子や発光素子等の光半導体装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
本発明の鉄シリサイド層の製造方法によれば、Si基板上に設けられたSiGe層上に、直接又は歪みSi層を介して鉄シリサイド層をエピタキシャル成長するので、島状結晶を形成する原因となる基板とβ−鉄シリサイド層の間の応力を小さくすることができ、β−鉄シリサイドの結晶性が良くなる高温成膜工程を採用しても、β−鉄シリサイド層は島状結晶とはならず、連続性が良く表面ラフネスの小さい膜とすることができる。
また、鉄シリサイド層形成工程において、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して鉄シリサイド層の少なくとも一部を成膜する高温成膜工程を有するので、結晶粒径の大きな欠陥の少ないβ−FeSiの良質連続膜が形成され、高いキャリア移動度を得ることができる。したがって、この鉄シリサイド層を備えた半導体基板は、受光素子等の光半導体装置用の基板として優れた特性を備えることができる。
更に、Si基板上に設けられたSiGe層上に、歪みSi層を介してβ−FeSiのテンプレート層を形成した後、β−FeSiの鉄シリサイド層をエピタキシャル成長させて形成することにより、島状結晶を形成する原因となるSi基板とβ−FeSiの鉄シリサイド層の間の応力を小さくすることができ、β−FeSiの鉄シリサイド層の結晶性が良くなる高温成膜工程を採用しても、β−FeSiの鉄シリサイド層は島状結晶とはならず、連続性が良く表面ラフネスの小さい膜とすることができ、しかも、β−FeSiのテンプレート層上に結晶方位のより揃ったβ−FeSiの鉄シリサイド層をエピタキシャル成長させることができる。
更にまた、第1のSiGe層と第2のSiGe層を形成し、第1のSiGe層中のGe濃度を傾斜組成層とし、第2のSiGe層のGe濃度を第1のSiGe層の最終的なGe組成比と同じGe組成比とすることにより、Si基板とβ−FeSiの鉄シリサイド層との格子歪を極力小さくできる効果がある。
【0017】
また、本発明の光半導体装置によれば、活性層が上記本発明の半導体基板の鉄シリサイド層であるので、良質で高キャリア移動度を有する鉄シリサイド連続膜により、高特性な受光素子や発光素子等の光半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る一実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0019】
図1は、本発明の半導体基板W及びこれを用いた太陽電池(光半導体装置)の断面構造を示すものであり、この半導体基板Wは、結晶面(001)を表面に有するSi基板1上にSiGe層(SiGeバッファ層)2をエピタキシャル成長するSiGe層形成工程と、SiGe層2上に歪みSi層3を介してβ−FeSiの鉄シリサイド層であるテンプレート層4a及び主層4bを成膜する鉄シリサイド層形成工程とにより作製される。
【0020】
この半導体基板W及びこれを用いた太陽電池の構造をその製造プロセスと合わせて説明すると、まず、SiGe層形成工程として、CZ法等で引上成長して作製された結晶面(001)を表面に有するSi基板1上に、第1のSiGe層2aをエピタキシャル成長し、さらに該第1のSiGe層2a上に第2のSiGe層2bをエピタキシャル成長する。
【0021】
この第1のSiGe層2aは、図2に示すように、例えばGe組成比を漸次増加させた傾斜組成層とし、最終的なGe組成比が、0.2から0.55(例えば、0.40)に設定される。
また、第2のSiGe層2bは、第1のSiGe層2aの最終的なGe組成比と同じGe組成比、すなわちGe組成比0.2から0.55(例えば、0.40)の一定組成層とする。なお、第1のSiGe層2aは、例えば2μmの厚さとされ、また第2のSiGe層2bは、0.75μmの厚さとされる。
また、Si基板1、第1のSiGe層2a及び第2のSiGe層2bは、いずれも例えばn型不純物が高濃度に添加されている。
【0022】
さらに、第2のSiGe層2b上にn型の歪みSi層3をエピタキシャル成長する。なお、歪みSi層3は、例えば20nmの膜厚とされる。
上記エピタキシャル成長は、例えば減圧CVD法により行われ、キャリアガスとしてHを用い、ソースガスとしてSiGe層2ではSiH及びGeH等を用い、歪みSi層3ではSiH等を用いる。
【0023】
次に、減圧CVD法によりSiGe層2及び歪みSi層3が形成された上記基板をSC−1洗浄し、鉄シリサイド層形成工程として、まず、歪みSi層3上にFeをMBE装置を利用して蒸着した後に400℃以上の加熱処理を行うか、又はこの基板を400℃以上かつ940℃以下(例えば、650℃)に加熱しながらFeを蒸着し、下地の歪みSi層3中のSiと反応させて膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層4aを形成する。なお、Feの蒸着は、真空蒸着装置により行っても構わない。
【0024】
上記のように成膜されたテンプレート層4aは、主層4bの結晶方位をより揃え易くするための下地として機能する。
次に、このテンプレート層4a上に、MBE法により電子銃を用いて400℃以上940℃以下の成膜温度(例えば、750℃(基板温度))でFe原料とSi原料とを同時に供給してエピタキシャル成長を行う。この際、FeとSiとの供給量が1:2になるようにMBE装置を制御し、所定の膜厚(例えば、膜厚200nm)の成膜を行う。
【0025】
この鉄シリサイドの主層4bは、n型のn-β−FeSi層4cとp型のp-β−FeSi層4dとをこの順に積層することにより構成される。なお、n-β−FeSi層4cは、過剰な鉄原子がドナー準位を有しアンドープでもn型となると共に、n型不純物としてCo(コバルト)、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)等やP(リン)等のV族元素のいずれかを添付しても構わない。p-β−FeSi層4dは、鉄欠損がアクセプタ準位を有しアンドープでもp型となると共に、p型不純物としてMn(マンガン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、Ti(チタン)等やAl(アルミニウム)等のIII族元素のいずれかを添加しても構わない。なお、テンプレート層は、n型のβ−FeSi層である。
【0026】
また、この主層4bは、界面における結晶面がSi(001)に対してβ−FeSi(100)となり、結晶方位の関係がSi基板1のSi<110>に対してβ−FeSi<010>又は<001>となる。
また、上記Si基板1の格子定数は、0.543nmであり、上記主層4bは、格子定数の差がSi基板1に対し、1.4〜2.0%であるが、両者の間に介在するGe組成比0.2から0.55の第2のSiGe層2bは、Si基板1との格子定数の差がほぼ0.8〜2.2%であるため、鉄シリサイドの主層4bとの間の格子歪みが極力小さくなる。
【0027】
このように本実施形態では、Si基板1上に設けられたSiGe層2上に、歪みSi層3を介して鉄シリサイド層をエピタキシャル成長するので、SiGe層2又は歪みSi層3の面内方向の格子定数とβ−鉄シリサイドの格子定数の違いが非常に小さくなり、Si基板1上でβ−鉄シリサイドを高温で成膜する際に島状結晶を形成する原因となる基板とβ−鉄シリサイド層の間の応力を小さくすることができる。β−鉄シリサイドの結晶性が良くなる高温成膜工程を採用しても、β−鉄シリサイド層は島状結晶とはならず、連続性が良く表面ラフネスの小さい膜となり、デバイス作製に適する。
【0028】
また、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して鉄シリサイド層の主層4bをエピタキシャル成長する(高温成膜工程)ので、反応に十分な高温状態でFeとSiとが同時供給されて結晶粒径の大きな欠陥の少ないβ−FeSiの連続膜が形成される。すなわち、従来のFeとSiとを交互に蒸着してアニールする方法よりも結晶粒径が大きく欠陥が少なくなるため、良質なβ−FeSi膜が得られると共に、従来よりも高いキャリア移動度を得ることができる。
【0029】
また、歪みSi3層上にFeを蒸着すると共に400℃以上かつ940℃以下の加熱処理を行い、歪みSi層3のSiと反応させて膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層4aを形成した後に主層4bの成膜を行うので、主層4bの結晶方位がより揃い易くなり、さらにキャリア移動度が向上する。
【0030】
次に、上記半導体基板Wの上面(p-β−FeSi層4d上)にAl薄膜の櫛形電極5をp-β−FeSi層4dの一部が露出するように形成すると共に、半導体基板Wの下面(Si基板1下)にAuSb(金−アンチモン)合金膜からなる裏面電極6を形成することにより、太陽電池が作製される。
【0031】
本実施形態の太陽電池は、受光層(活性層)に上記半導体基板Wの鉄シリサイドの主層4bが用いられているので、良質で結晶粒径の大きい鉄シリサイド連続膜により、高キャリア移動度を有する高特性太陽電池を得ることができる。
【0032】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、歪みSi層3上にテンプレート層4a及び主層4bを成膜したが、歪みSi層を設けずに直接SiGe層2上に鉄シリサイド層を形成しても構わない。この場合、テンプレート層の形成は、蒸着されるFeとSiGe層中のSiとが反応して形成される。
また、上記実施形態では、SiGe層上に歪みSi層を形成することにより、蒸着するFeと歪みSi層のSiとを反応させてテンプレート層を形成したが、歪みSi層上又はSiGe層上に直接SiとFeを同時供給して成膜しても良い。
【0034】
また、上記実施形態では、SiGe層を傾斜組成層の第1のSiGe層と一定組成層の第2のSiGe層との2層構造としたが、他の組成構成のSiGe層としてもよい。また、SiGe層以外の層を含み表面がSiGe層である層としてもよい。なお、上述したように、SiGeの傾斜組成層を設けることにより転位を低減することができると共に、最終的なGe組成比を0.2から0.55にすることにより、格子歪みを大幅に低減することができる。
【0035】
また、テンプレート層成膜後及び主層成膜後の少なくとも一方に、成膜温度よりも高い温度でアニール処理を施しても構わない。
また、歪みSi層又は第2のSiGe層2bを成膜した後に、その表面をCMP等で研磨し、高平坦度化された該表面にテンプレート層又は主層を成膜しても構わない。この場合、より高品質な鉄シリサイド層が得られ、より高いキャリア移動度を得ることができる。
【0036】
また、上記実施形態では、光半導体装置として太陽電池に適用したが、他の光半導体装置に採用しても構わない。例えば、波長1.5μm帯の光を発光させる活性層として鉄シリサイド層を用いた光通信用半導体発光素子等に適用してもよい。さらに、他の光半導体装置として、暗視カメラ用や医療用等に用いる光センサ、光通信用フォトダイオード等に適用しても構わない。特に、赤外線受光素子としての適用が好適である。
【0037】
なお、上記実施形態の鉄シリサイドのテンプレート層及び主層には、下地のSiGe層のGeが拡散してドーピングされた場合も含まれ、この場合、β−FeSi2−xGeとなるが、例えばx=0.08で表面層のp型のβ−FeSiよりも若干バンドギャップの小さいEg=0.83eVとなるだけであり、さらにGe濃度が高くなった場合も受光素子構造として問題はない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る一実施形態の半導体基板及びこれを用いた太陽電池を示す断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態の半導体基板における成膜厚さ方向に対するGe組成比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1…Si基板、2…SiGe層、2a…第1のSiGe層、2b…第2のSiGe層、3…歪みSi層、4a…テンプレート層、4b…主層、4c…n-β−FeSi層、4d…p-β−FeSi層、W…半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面(001)を表面に有するSi基板上にβ−FeSiの鉄シリサイド層を成膜する方法であって、
前記Si基板上に設けられたSiGe層上に、直接又は歪みSi層を介して前記鉄シリサイド層をエピタキシャル成長する鉄シリサイド層形成工程を有し、
該鉄シリサイド層形成工程は、400℃以上940℃以下の成膜温度でFe原料とSi原料とを同時に供給して前記鉄シリサイド層の少なくとも一部を成膜する高温成膜工程を有することを特徴とする鉄シリサイド層の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄シリサイド層の製造方法において、
前記高温成膜工程は、前記SiGe層又は前記歪みSi層上に膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層を成膜した後に行うことを特徴とする鉄シリサイド層の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鉄シリサイド層の製造方法において、
前記高温成膜工程は、前記SiGe層又は前記歪みSi層上にFeを蒸着すると共に400℃以上かつ940℃以下の加熱処理を行いSiGe層又は歪みSi層のSiと反応させて膜厚50nm以下のβ−FeSiのテンプレート層を形成した後に行うことを特徴とする鉄シリサイド層の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の鉄シリサイド層の製造方法において、
前記SiGe層形成工程は、前記SiGe層の少なくとも上部におけるGe組成比を0.2から0.55とすることを特徴とする鉄シリサイド層の製造方法。
【請求項5】
結晶面(001)を表面に有するSi基板上にβ−FeSiの鉄シリサイド層が形成された半導体基板であって、
前記鉄シリサイド層は、請求項1から4のいずれかに記載の鉄シリサイド層の製造方法により成膜されていることを特徴とする半導体基板。
【請求項6】
Si基板上に受光又は発光を行う活性層が形成された光半導体装置であって、
前記活性層は、請求項5に記載の半導体基板の前記鉄シリサイド層であることを特徴とする光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−134743(P2007−134743A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32575(P2007−32575)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【分割の表示】特願2002−35539(P2002−35539)の分割
【原出願日】平成14年2月13日(2002.2.13)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】