説明

鉛酸電池用の電極及びその製造方法

鉛電池用電極は鉛を含むペーストの活性層に覆われた電流コレクタ(2)を備える。前記電流コレクタ(2)はガラス状炭素基板(4)により形成され、前記ガラス状炭素基板の上には中間層(5)が堆積される。前記中間層は鉛又は鉛ベースの合金のコンパクトな層であり、前記ガラス状炭素基板中の孔の体積は、前記ガラス状炭素基板の見かけ上の体積の0%から10%の間である。前記ガラス状炭素基板(4)は好ましくは1mmから3mmの間の厚さを持ち、一方、前記中間層の厚さは有利には50μmから200μmの間である。ある特有の実施形態においては、前記ガラス状炭素基板(4)はくし形である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛酸電池(lead-acid battery)に関し、この鉛酸電池は、
− ガラス状炭素基板(glassy carbon substrate)と、
− このガラス状炭素基板の上に堆積された中間層と、
− この中間層を覆う、鉛を含むペーストの活性層と、
を備える。
【0002】
本発明は、このような電極の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
鉛酸電池は、少なくとも1つの正電流コレクタ(positive current collector)と、少なくとも1つの負電流コレクタ(negative current collector)と、電解液(electrolytic solution)とを含むものとして知られている。通常、負電流及び正電流コレクタは、鉛のグリッド又は様々な構成(平板、チューブ状板...)の鉛板であり、電極を形成するためにその上に活性材料ペーストが堆積されている。鉛酸電池中での電気エネルギーの蓄積及び放出は、ペースト中で起きる化学反応により可能となる。
【0004】
しかしながら、鉛酸特電池の主な欠点は、比エネルギー(specific energy)が低いことである。平板鉛酸電池は、約30−35Wh/kgの比エネルギーを有し、一方、チューブ状板鉛酸電池は、約20−25Wh/kgの比エネルギーを有する。このような低い比エネルギーは、重量が重い鉛の電流コレクタとの結合において活性材料の利用効率が低いことに起因するものである。
【0005】
これまでは、鉛酸電池の比エネルギーを増加させるために、低い密度と高い電気伝導率とを有する代替物質により鉛の電流コレクタを置き換えることが提案されていた。
【0006】
文献“A lead-film electrode on an aluminium substrate to serve as a lead-acid battery plate”(Journal of Power Sources,78(1999)84-87)において、 L.A.Yolshinaらは、アルミニウムとアルミニウム合金との表面の上にコンパクトな複数の鉛層を堆積し、鉛酸電池の負極としてアルミニウム板の上に形成された鉛のフィルム電極を用いることを提案している。しかしながら、アルミニウムとアルミニウム合金との表面の上の鉛層の堆積プロセスは、かなり高価で且つ複雑である。さらに、鉛層のクラック又は割れ目に起因して、保護されていないアルミニウム表面は、グリッドの侵食(corrosion)プロセスを加速させ、電池の故障を早く起こすこととなる。
【0007】
国際出願WO−A−2006/070405において、鉛酸電池中で用いるために耐侵食グリッド構造が提案されている。グリッド構造は、
− 銅又はニッケルの金属層で覆われたアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)で形成された基板材料と、
− この金属層の上に堆積された鉛/鉛ベースの合金層と、
− この鉛/鉛ベースの合金層を浸食から保護する電気伝導性且つ耐侵食性のポリアニリン層と、
を備える。
【0008】
ABSは絶縁体であることから、電流コレクタはかなり高い電気抵抗性を示しプラスチックの基板は、さらに、COSプロセスと呼ばれるキャスト・オン・ストラップ・プロセスに適したものではない。
【0009】
他の代替案は、米国特許5512390に記載されたグラファイトの電極板を用いることで構成されている。この特許においては、1つの板はカソードを形成し、且つ電解質と接触する鉛の表面層を有し、一方、他の板はアノードを形成し、且つ電解質と接触する二酸化マンガンの表面層を有する。さらに、B.Hariprakashらの文献“Lead-acid cells with lightweight, corrosion-protected, flexible-graphite grids”( Journal of Power Sources,173(2007)565-569)は、質量密度1.1gcm−3のフレキシブルなグラファイトシートから準備された軽量グリッドを用いることを提案している。次いで、グリッドは鉛層とそれに続く耐侵食性のポリアニリン層とに覆われている。侵食に対して保護されているグリッドは、次いで、活性材料により貼り付けられている。
【0010】
グラファイトの低い密度と高い伝導性とにもかかわらず、活性材料は、これらのグリッド又は板から簡単に落ちてしまう。実際、B.Hariprakashらの文献で用いられている電気めっきされたポリアニリン層は、正極板での高いポテンシャルのオペレーションの下では、簡単に悪化する。さらに、グラファイトは非常にやわらかい材料であり、その表面は、充電及び放電の間の機械的ストレスの変化に耐えることができず、且つ、鉛層の品質は悪く、剥離が早く生じてしまう。
【0011】
軽量電流コレクタを製造するための他の方法は、高多孔質炭素を用いることである。これらの材料の開放された多孔度(porosity)は見かけ上の体積の90−95%である。高多孔度の多孔質炭素は泡状炭素(carbon foam)であることができる。例えば、米国特許6979513は、ある程度の多孔度を有する炭素又は炭素ベースの材料を含むことができる泡状炭素材料から形成された電流コレクタが記載されている。次いで、正極及び負極板は、泡状炭素から形成された電流コレクタを含み、且つ、例えば鉛の酸化物又は塩を含むような化学活性な材料によって密閉又は覆われている。泡状炭素材料は、様々な有機材料に対して炭化するプロセス及び/又は黒鉛化するプロセスを行うことによって得ることができる。さらに詳細には、泡状炭素のマトリックスの少なくとも部分はグラファイトである。
【0012】
しかしながら、正極板のための電流コレクタとして泡状炭素を直接用いることは、酸素発生のポテンシャルドメインにおける材料のアノード劣化により、厳しく制限され、このアノード劣化は最初の数サイクル中で早いキャパシティロスを起こすものである。
【0013】
米国特許7060391中の記載によれば、高多孔度の多孔質炭素は、RVCと呼ばれる網状(reticulated)のガラス質炭素(vitreous carbon)であることもできる。さらに、鉛酸電池のパフォーマンスを改善するために、特に、サイクルパフォーマンスを改善するために、米国特許7060391は、鉛又は鉛−スズ合金により覆われた、軽量で、多孔質で、孔が開いており、比表面積が高い基板に基づく電流コレクタ構造を提案している。基板は網状のガラス質炭素であることができる。鉛又は鉛−スズ合金は電気めっきの方法で堆積することができる。鉛又は鉛−スズ合金は基板の表面を覆い、網状の基板の開口部をも占める。基板が覆われるとすぐに、鉛又は鉛合金から形成された対応するタブ及びフレームが形成され、電流コレクタは、電極を形成するために酸化鉛及び/又は硫化鉛ベースの様々なペーストを用いて貼り付けられる。このような電流コレクタには以下のような欠点を有する:
− RVC基板の表面が頑丈であった場合、形成されたタブとフレームとは電池の比エネルギーを実質的に減少することがある、
− 対応する電池の内部抵抗は、網状のガラス質炭素の低いオーミック抵抗により高くなることがある、
− 網状のガラス質炭素はもろく、電池のパフォーマンスは、振動及び他の種類の機械的ストレスの下でのオペレーションの間、期待通りにならないことがある、
− 鉛又は鉛−スズ合金に覆われたRVC基板の貼り付けオペレーションは、他の従来のグリッドの貼り付けオペレーションと比べて著しく難しい、
− 活性ブロックへの圧縮の印加はほとんど不可能であり、なぜなら、網状の構造は弾力性に乏しいからである。圧縮を行わないことにより、深い放電又は高いレートのサイクルにおいて、早くからの正極活性材料の軟化と支持グリッドからの正極活性材料の剥離とを導き、且つ、キャパシティの減少を導く。
【0014】
他には、特開平2−158057号公報の要約においては、SnO又はTiにより形成された伝導性且つ耐酸化性の膜により覆われたガラス状炭素板により構成された電流コレクタを用いることが提案されている。次いで、カソード活性材料は、対応する電極を形成するために膜表面の上に貼り付けられる。このような膜はガラス状炭素板の表面に強く結合され、且つ、長い使用の後でさえも板と分離することはない。しかしながら、通常、金属鉛支持体から形成されたPbO侵食層がなく、且つ、深い放電状態においては安定したものではなく、正極活性材料は、炭素支持体との間の機械的接続及び電気的接続を簡単に損失してしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、鉛電池用電極と、従来技術の欠点を改善したこのような電極の製造方法とを提供することである。
【0016】
さらに詳細には、本発明の目的の1つは、ガラス状炭素基板と、このガラス状炭素基板の上に堆積された中間層と、この中間層を覆う、鉛を含むペーストの活性層とを備える鉛酸電池用の電極を提供することであり、この鉛酸電池は、深い放電条件を印加された場合であっても、鉛を含むペーストと基板との間の機械的接続及び電気的接続と、基板と中間層との間の界面の安定性とを改善するものである。
【0017】
本発明によれば、この目的は以下の請求項により達成され、さらに詳細には、中間層が鉛又は鉛ベースの合金層のコンパクトな層であることにより、且つ、ガラス状炭素基板の孔の体積が、ガラス状炭素基板の見かけの体積の0%から10%であることにより、達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のよる電極の特有の実施形態の断面図である。
【図2】図2は、くし形状のガラス状炭素基板の模式的正面図である。
【図3】図3は、中間層に覆われた、図2のガラス状炭素基板がある電流コレクタの模式的正面図である。
【図4】図4は、中間層に覆われた、図2のガラス状炭素基板がある電流コレクタの図3中のA−A´に沿った模式的断面図である。
【図5】図5は、図3及び図4の電流コレクタの他の実施形態の模式的断面図である。
【図6】図6は、純鉛(pure lead)の中間層により覆われた棒状のガラス状炭素基板がある電極のサイクリックボルタモグラムを示し、この電極は40℃の硫酸溶液に浸漬されたものであり、それぞれ100ボルタンメトリーサイクル及び1700ボルタンメトリーの結果を示す。
【図7】図7は、40℃、16時間での侵食試験の後の純鉛でめっきされた棒状のガラス状炭素基板の光学顕微鏡写真である。
【図8】図8は、鉛−スズで電気めっきされた棒状のガラス状炭素基板とアセンブルされた、チューブ状板の電極の充電−放電電流及び電位の変化を示したものである。
【図9】図9は、棒状の鉛−2.8wt%アンチモンの鋳造物(cast)とアセンブルされた、チューブ状板の電極の充電−放電電流及び電位の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
他の利点及び特徴は、本発明の特定の実施形態についての下記の説明により、さらに明らかにされる。本発明の特定の実施形態は、単なる例示であって、本発明を限定するものではない。本発明の特定の実施形態は、添付の図面により示される。
【0020】
図1に示されるように、鉛電池の電極1は、鉛を含むペーストの活性層3で覆われた電流コレクタ2を備える。
【0021】
電流コレクタ2は、ガラス状炭素基板4により形成され、その上には中間層5が堆積される。ガラス状炭素基板4は好ましくは1mmから3mmの間の厚さを有し、一方、中間層5の厚さは有利には50μmから200μmの間である。
【0022】
ガラス状炭素材料は、網状炭素、ガラス状重合炭素、又は網状重合炭素とも呼ばれる。ガラス状炭素は、炭素の特別の形状である。それは、低い多孔度の多孔質炭素である。従って、ガラス状炭素基板4は孔を備え、しかし、その孔の体積は、基板の見かけ上の体積の0%から10%にすぎない。さらに詳細には、孔の体積と見かけ上の体積との間の割合は、1%から6%である。加えて、ガラス状炭素材料は、高い電気伝導性と、ガラスの有する特性(硬さ、表面洗浄性(capacity to polish the surface))と似た機械的特性とを示す。また、高い化学耐性を示し、分極電位の広いレンジにおいて電気化学的に安定である。ガラス状炭素基板を備える鉛酸電池のリサイクルは、従来からの鉛酸電池のリサイクルで用いられているすべての技術により行うことができる。ガラス状基板は、分離して、粉末形状で他のアプリケーションで用いることができ、又は、電池の残りのプラスチックコンポーネント(ボックス、セパレータ等)とともに焼却することもできる。
【0023】
背景技術で引用した特開平2−158057号公報は、ガラス状炭素板を備えるバイポーラ鉛蓄電池(lead-storage battery)のための電極を提案している。しかしながら、このガラス状炭素板の表面は、いくつかの主な欠点を示すような、SnOの層によって、又は、Tiの層によって覆われている。
【0024】
驚くべきことに、鉛又は鉛ベースの合金によって形成された中間層5により覆われたガラス状炭素基板4は、特開平2−158057号公報での欠点を改善できることが観察されている。加えて、中間層5は、例えば非多孔質層といったコンパクトな層となる。好ましい鉛ベース合金は、鉛とスズとを有する合金であり、より詳しくは、中間層に含まれる元素全体の重量に対して2.5重量パーセントの鉛を含む鉛−スズ合金である。
【0025】
このような中間層5は、電流コレクタ2の上の活性材料ペーストの接着性を改善する。電極は、深い放電条件が印加された場合、さらに安定している、加えて、中間層5がスズを含むことは有利であり、なぜなら、スズは、侵食層中のPbO及びPbOn(1<n<2)である高い抵抗層による電極の早期容量低下(PCL)効果を妨げるからである。実際、Sn(II)及びSn(IV)イオンは、PbO及びPbOn(1<n<2)の結晶格子中でドーピング剤として振る舞い、鉛酸電池が動作している間、正電流コレクタの表面に形成された侵食層の化合物に対応するこれらの酸化鉛のオーミック抵抗を実質的に減少させる。中間層5中のスズの量は、好ましくは2.5重量%までに限定され、なぜなら、鉛ベースの合金中のスズの量が2.5%より多い場合、そのアノード侵食レートは顕著に増加する。
【0026】
以下のステップでこのような電極は好ましく形成される:
− 熱硬化性樹脂のプラスチックモールディングによりガラス状炭素基板4を所定の形状に形成し、次いで、不活性雰囲気中で熱硬化性樹脂の炭化を行い、
− ガラス状炭素基板4の表面全体を鉛又は鉛ベースの合金により電気めっきをすることにより中間層5を形成し、及び、
− 鉛を含むペーストで中間層5を覆うことによって活性層5を形成する。
【0027】
熱硬化性樹脂はフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フルフラールアルコール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂又はこれらの混合物であることができる。熱硬化性樹脂の炭化は熱処理によって達成される。
【0028】
さらに詳細には、ガラス状炭素基板4の形成に続いて、ガラス状炭素基板4の表面の熱表面処理ステップを行う。熱表面処理ステップは以下を備える:
− 例えばサンドブラスト又はそれに似た処理といった、基板4の表面を粗面化するための機械的処理。実際には、中間層5の質は機械的処理によりある程度決定される。
【0029】
− ガラス状炭素表面の電気化学アノードエッチング。例えば、エッチング条件は以下のようである:1M NaOHのアルカリ性溶液を使用、10分のオペレーション時間、及び、アノード電流密度20mA/cm。このオペレーションの間、ガラス状炭素基板は洗浄され、加えてサブ−ミクロレベルにまで粗くされる。及び、
− アルカリ溶液を除去するためのウォーターリンス。
【0030】
加えて、ガラス状炭素基板4のタブは、接続要素として用いられ、有利には銅によって電気めっきされる。銅によるタブの電気めっきは、キャスト・オン・スラップ接続の質を確保する。実際、ガラス状炭素基板は液体金属により濡れることはなく、銅は鉛よりもかなり高い溶融温度を持ち、その中にほとんど溶けない。銅電気めっきオペレーションのための適切な条件は以下のようにすることができる:
− 250g・L−1のCuSO・5HOと70g・L−1のHSOとを備える電気めっき浴、
− 40mA/cmのカソード電流密度、
− 20℃から25℃の間の温度。
【0031】
さらに、パルス電流の印加は銅の層の質を改善する。最適なパルス電流期間は例えば6秒の間60mA/cmのカソード電流密度を印加し、次いで、1秒の間60mA/cmのアノード電流密度を印加することにより得られる。
【0032】
30分のオペレーション時間は、約25μmの厚さを持ったタブの上に堆積された銅の層を得ることを可能にする。銅により電気めっきされたタブは次いでウォーターリンスされる。
【0033】
中間層5は、次いで、鉛又は鉛ベース合金によりガラス状炭素基板4の表面の少なくとも全体を電気めっきすることにより形成される。このステップは、最も重要なオペレーションプロセスである。特に、ガラス状炭素基板4に対して中間層5の接着の高い強度を可能にするような電解質の選択と、中間層5について一定の膜厚を得ることとが必要である。2.5%Sn−Pd合金で形成された中間層5は、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸の鉛(II)塩(Pd(p−COHSO)と4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸のスズ(II)塩(Sn(p−COHSO)とp−フェノールスルホン酸(p−COHSOH)とを備える電解質を用いて形成することができる。スズの重量パーセントは、電解質中に含まれる金属全体の重量の約2.5%である。特有の実施形態においては、電解質は以下のものの混合により得ることができる:
− 140g・L−1のPd(p−COHSO
− 40g・L−1のp−COHSOH、
− 4g・L−1のSn(p−COHSO、及び
− 4g・L−1のゼラチン。
【0034】
電気めっきステップは以下のように行うことができる:
− 10mA/cmのカソード電流密度、
− 20から30℃の温度、及び、
− 85又は190分のオペレーション時間。
【0035】
さらに、加えて、電気めっきステップの間パルス電流を印加することは、層の均一性を改善する。パルス電流の特性は以下のようにすることができる:
− カソード電流の大きさ=20mA/cm
− ton=1s、及び、
− toff=1s。
【0036】
例えば、85分間の電気めっきステップを用いた場合、中間層5は約50μm(±2%)の厚さを持つ。この厚さは、負電極中で用いられる電流コレクタとしては十分である。正電極中で用いられる電流コレクタのためとしては、約100μmから200μmの間の厚さを持つ中間層5を堆積するために、オペレーション時間を2倍にすることができる。
【0037】
中間層5を形成した後すぐに、電流コレクタをウォーターリンスし、さらにエアーフローで乾燥させる。次いで、電極を形成するために、鉛を含むペーストを堆積することにより活性層3を中間層5の上に形成することができる。鉛を含むペーストは、HO(15%)及びHSO(10%)とともにPbO(75%)を混ぜることにより得ることができる。
【0038】
このようなプロセスは、鉛を含むペーストと基板との間の機械的接続及び電気的接続が改善された電極を提供することができるという利点を示す。基板と中間層との間の界面は、深い放電条件が印加された場合であっても安定している。
【0039】
さらに、鉛酸電池用の電極は公知の形状を持つことができる。例えば、平板又はチューブ状板の電極を得るために、ガラス状炭素基板はグリッド又はくし状の形状とすることができる。
【0040】
図2には、さらに詳細に、チューブ状板の電極を得るために用いられるように設計されたくし形状のガラス状炭素基板4を示す。ガラス状炭素基板4は、ベース4bで1つに結合された複数の平行なブランチ4aを備える。ベース4bは開口部7を備えるタブ6を備える。図3及び図4は、中間層5により覆われたガラス状炭素基板4が示されている。加えて、銅8は、中間層5が形成される前に、開口部7を占める。開口部7の典型的な直径は、約2から3mmである。
【0041】
さらに、ガラス状炭素基板4のブランチ4aは、図4に示される円形の断面を有する。これは、チューブ状板電極で用いられる電流コレクタの従来のデザインである。
【0042】
しかしながら、ブランチ4aの断面は他の形状にすることもできる。ブランチ4aは、図5に示される長方形の断面を有することができ、又は正方形の断面や楕円形の断面を有することができる。図5に示される電流コレクタの形状は、ストラップグリッドチューブ状板(SGTP)と呼ばれるものである。この形状は有利であり、なぜなら、実質的に対応する鉛酸電池のパフォーマンスが従来のデザイン(円形の断面)と比べて増加するからである:活性材料のロードファクタは非常に高く、且つ、内部抵抗は減少する。加えて、図5に示されるガラス状炭素基板からSGTP電流コレクタを製造することは、対応する図4に示されるガラス状炭素基板から従来の電流コレクタよりも非常に安価である。この大きな違いは、両方のタイプのブランチの厚さ特性における違いを生じる。図5(SGTPデザイン)においては、ブランチ4aの直径dは約1mm又は1.5mmであり、中間層5に覆われたブランチ4aの直径Dは、約3mm又は4mmである。図4(従来デザイン)においては、対応する大きさは2倍以上高く、dは約3mmであり、Dは約9mmである。SGTPデザインにおいて厚さを減らすことは炭化時間を大きく減らすことであり、それ故に製造コストを減らすこととなる。
【0043】
チューブ状板デザインにおいては、活性材料ペーストは、中間層5に覆われた各ブランチ4aの周りに、織物状(woven)の又は非織物状の繊維チューブにより封入される。このチューブは、活性材料上の圧力を一定に維持し、電流コレクタが軟化する又は密着しなくなることを妨げる。
【0044】
特有の実施形態においては、3mmの直径dを有するガラス状炭素ロッド(又はブランチ又は針)により、及び150μmの厚さを持つ純鉛の中間層により、形成された電流コレクタは、濃度1.28g/mlの40℃の硫酸(HSO)溶液に浸漬される。電流コレクタは、Ag/AgSOの電位に対して0.7Vから1.6Vの電位インターバルでテストされる。図6は、対応するサイクリックボルタモグラムを示し、曲線A及びBは100サイクル及び1700サイクルである。曲線A及びBは、背景技術で用いられる鉛鋳造電極の対応する曲線と異なるものではない。
【0045】
このテストの間、純鉛の中間層は、高い温度において、カソード溶解とアノード侵食攻撃の両方に晒される。16時間のテスト期間に対応する1700サイクルの後、電流コレクタは洗浄され、乾燥され、且つ、エポキシ樹脂の中にはめ込まれる。その断面は研磨され、図7で示されるような金属組織観察が行われる。侵食層10の厚さは、一様であり、クラック及びピックは存在しない。
【0046】
他の実施形態においては、厚さ50μmを持つ鉛−スズの中間層で覆われた、約3mmの直径Dのガラス状炭素ブランチは、約6mmの直径を持ち、活性材料のロードファクタ50%において約300mAhの理論的キャパシティを有するチューブ状板電極を形成するために用いられる。同じタイプの電極は、Pb2.8wt%−Sb合金の市販された管状グリッドから切り取られた針を用いてアセンブルされる。
【0047】
図8及び図9は、28回の充電/放電サイクルの間の電流及び正極板電位(Ag/AgSOの基準電極に対して測定された)の変化を示す。鉛−スズが電気めっきされたガラス状炭素管状電極の電気化学的パフォーマンスは、鉛−アンチモン鋳造針のものと同じであることが観察される。
【0048】
本発明は上記の実施例に限定されるものではない。さらに詳細には、電流コレクタは以下のような形状を持つことができる。
【0049】
− フラットな負極板電極又は正極板電極に適したグリッド。厚さ1mmを持ったガラス状炭素基板とともに用いると、ガラス状炭素基板の製造コストは小さい。電気めっきオペレーションの後、グリッドの厚さは例えば1mmまで増加する。このような厚さを持つ鉛酸電池板の製造は、電池パワー及び活性材料の利用を増加する。
【0050】
− バイポーラ鉛酸電池で用いられる板。例えば、厚さ1−1.5mmを持つガラス状炭素板は、厚さ50μmを持つ鉛−スズ層を完全に電気めっきすることができる。板は長さ2mmの複数のリブを備え、典型的なリブの内部のディメンジョンは10mmである。
【0051】
− 薄い板を持つスパイラルに巻かれた鉛酸電池で用いられるフレキシブルホイル。例えば、フレキシブルホイルは、60−180μmの厚さを持つことができ、中間層の光学的厚さは30μmである。さらに電気めっきされたガラス状炭素ホイルは、基本的な硫化鉛と水との混合物(すなわちペーストと呼ばれる)の200−250μmの層に貼り付けられた両側面(double side)である。
【0052】
加えて、本発明による電極の基板を形成するガラス状炭素材料は、米国特許7060391に開示された網状のガラス質炭素(RVC)と混同してはならない。実際、網状のガラス質炭素は、高い多孔度の多孔質炭素であり、その中で開放した多孔度は見かけ上の体積の約90%から95%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛酸電池用の電極(1)であって、
− ガラス状炭素基板(4)と、
− 前記ガラス状基板(4)の上に堆積された中間層(5)と、
− 前記中間層(5)を覆う鉛を含むペーストの活性増(3)と、
を備え、
前記中間層(5)は鉛又は鉛ベースの合金のコンパクトな層であり、前記ガラス状炭素基板(4)の孔の体積は、前記ガラス状炭素基板の見かけ上の体積の0%から10%の間である、ことを特徴とする電極。
【請求項2】
前記ガラス状炭素基板(4)の孔の体積は、前記ガラス状炭素基板の見かけ上の体積の1%から6%の間である、ことを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記ガラス状炭素基板(4)はくし形であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記ガラス状炭素基板(4)は複数のブランチ(4a)を備え、前記複数のブランチは、円形、長方形、正方形又は楕円形の断面を有する、ことを特徴とする請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記中間層(5)は鉛及びスズの合金から形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の電極。
【請求項6】
前記合金中のスズのパーセントは約2.5重量%である、ことを特徴とする請求項5に記載の電極。
【請求項7】
前記ガラス状炭素基板(4)は1mmから3mmの間の厚さを有する、ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の電極。
【請求項8】
前記中間層(5)は50μmから200μmの間の厚さを有する、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の電極。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の電極(1)を製造する方法であって、
少なくとも以下のステップである、
− 所定の形状の熱硬化性樹脂のプラスチックモールディングにより前記ガラス状炭素基板を形成し、次いで、不活性雰囲気中で前記熱硬化性樹脂の炭化を行うステップと、
− 鉛又は鉛ベースの合金で前記ガラス状炭素表面(4)の少なくとも一部に電気めっきすることにより、前記中間層(5)を形成するステップと、
− 前記鉛を含むペーストで前記中間層(5)を覆うことにより前記活性層(3)を形成するステップと、
を備える、ことを特徴とする電極を製造する方法。
【請求項10】
前記ガラス状炭素基板(4)の形成に続いて、前記ガラス状炭素基板(4)の表面処理ステップが行われ、前記表面処理ステップには、機械的処理と電気化学エッチングと水によるリンスとが含まれることを特徴とする請求項9に記載の電極を製造する方法。
【請求項11】
前記ガラス状炭素基板(4)はタブ(7)を備え、銅により電気めっきされた前記タブ(7)は、前記中間層(5)の形成の前に得られる、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の電極を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−524071(P2011−524071A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513060(P2011−513060)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【国際出願番号】PCT/IB2008/002468
【国際公開番号】WO2009/150485
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【Fターム(参考)】