説明

銀ペースト

【課題】電気回路や電極などの断線や短絡を生じない銀ペーストを提供する。
【解決手段】銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後の短時間に還元剤を添加することによって析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、およびタップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有し、粘度170000cp以上〜190000cp以下であることを特徴とする銀ペーストであり、例えば、アンモニア添加後から還元剤を添加するまでの時間(経過時間)を0.6秒以上〜1.2秒以内に調整して析出させた銀微粒子を含有する銀ペースト、該銀ペーストによって形成した電気回路または内部電極、これらを含有する電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の電極材料などに使用される銀ペーストに関し、より詳しくは、電極や電気回路などの断線や短絡を生じない銀ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の内部電極は、一般に、銀微粒子などを含有する導電ペーストを用いて電極回路を印刷し、これを積層し焼成して形成されている。例えば、特許文献1には、磁性体シートと誘電体シートに導電ペーストを用いて電極回路を印刷し、これを積層し焼成して内部電極を形成することが記載されている。また、特許文献2には、セラミックスシートに導電ペーストを用いて電極回路を印刷し、これを積層し焼成して内部電極を形成することが記載されている。さらに、特許文献3には、絶縁基板上の電極を形成する材料として銀の有機化合物を含む銀ペーストを用い、この銀ペーストを焼成することによって有機物は熱分解して銀が析出し、電極がほぼ銀で形成されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003―209017号公報
【特許文献2】特開2007−043092号公報
【特許文献3】特開2007−335430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セラミックス電子部品の内部電極などを形成する導電性ペーストとして、銀微粒子を含むペースト(銀ペーストと云う)が用いられており、従来、銀ペーストに含まれる銀微粒子は粒子径および密度の範囲が広いものが使用されている。また、銀ペーストの粘度も多様である。
【0005】
セラミックス電子部品などの内部電極は、セラミックスグリーンシートに銀ペーストを用いて電極回路を印刷し、これを積層し、焼成して形成することが一般的であるが、従来、内部電極の断線や短絡等の欠陥によって電気特性の不良率が高くなることが問題になっている。この電極の短絡は主に印刷時に生じ、電極の断線は主に焼成時に生じる。
【0006】
本発明者等は、銀ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒径が0.5μm以下であると過焼結が起こって断線が生じ易くなり、また銀微粒子の平均粒径が大き過ぎると焼結し難くなり十分な導電率が得られなくなる傾向があり、従って、銀ペーストに用いる銀微粒子には好ましい粒径範囲があることを見出した。
【0007】
さらに、銀ペーストの粘性が高過ぎると、印刷後の表面平坦性が劣化し、印刷した電極回路の凹部が5μm以下の部分が発生して断線が生じ易くなり、また、銀ペーストの粘性が低過ぎると、電極間のスペースが狭いのでペーストの滲みによって配線の短絡が生じ易いと云う問題がある。
【0008】
本発明は、上記知見に基づき、電極の断線や短絡の原因になる従来の上記問題を解決したものであり、電解回路や電極の断線や短絡などを生じない銀ペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成によって上記課題を解決した銀ペースト、該銀ペーストによって形成された電気回路または内部電極に関する。
〔1〕銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加して析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、およびタップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有し、粘度170000cp以上〜190000cp以下であることを特徴とする銀ペースト。
〔2〕アンモニア添加後から還元剤を添加するまでの時間(経過時間)を、0.6秒以上〜1.2秒以内に調整して析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、タップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有する上記[1]に記載する銀ペースト。
〔3〕電子部品の電気回路または内部電極の形成に用いる上記[1]〜上記[2]の何れかに記載する銀ペースト。
〔4〕電子部品の電気回路または内部電極であって、上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する銀ベーストによって形成されたことを電気回路または内部電極。
〔5〕上記[4]の電気回路または内部電極を有する電子部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の銀ペーストは、ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒径とタップ密度、およびペーストの粘度が電気回路や電極の形成に適する範囲に限定されているので、断線や短絡を生じない電気回路や電極を形成することができる。
【0011】
具体的には、銀ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒径が1.0μm以下であるので焼結しやすく、また、銀微粒子の平均粒径が0.8μmより大きいので過焼結が生じ難い。さらに、銀微粒子のタップ密度が4g/cm3以上であるので焼成収縮が小さく、断線を生じ難い。また、銀ペーストの粘度が190000cp以下であるので、印刷後の表面の平坦性が良好であり、印刷面の凹凸が少ないので断線が生じ難く、また銀ペーストの粘性が170000cpより高いのでペーストの滲みによる短絡が生じ難い。
【0012】
本発明の銀ペーストに用いる銀微粒子は、銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加して析出させたものであり、好適な平均粒径とタップ密度を有し、かつ分散性が良いので、銀ペースト用の銀微粒子に適する。この銀微粒子を含有する銀ペーストは断線や短絡を生じない電気回路や電極を形成することができるので、セラミックス電子部品などの各種電子部品の電気回路や内部電極の形成材料として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】銀微粒子のタップ密度と断線発生率の関係を示すグラフ。
【図2】銀微粒子の平均粒径と断線発生率の関係を示すグラフ。
【図3】銀微粒子の平均粒径と電気抵抗率の関係を示すグラフ。
【図4】銀ペーストの粘度と滲みが発生する印刷回数の関係を示すグラフ。
【図5】銀ペーストの粘度と断線発生率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の銀ペーストは、銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加して析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、およびタップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有し、粘度170000cp以上〜190000cp以下であることを特徴とする銀ペーストである。
【0015】
本発明の銀ペーストに含まれる銀微粒子は、平均粒径が0.8μmより大きいので過焼結が生じ難く、また平均粒径が1.0μm以下であるので焼結しやすい。従って、過焼結による断線や焼結不足による導電性不良などの問題を生じない。さらに、銀微粒子のタップ密度が4g/cm3以上であるので焼成収縮が小さく断線を生じ難い。
【0016】
ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒径が0.8μm未満であると焼結時に過焼結を生じて断線しやすくなるので好ましくない。また、銀微粒子の平均粒径が1.0μmを上回ると焼結し難くなる。さらに、銀微粒子のタップ密度が4g/cm3未満であると、単位体積当たりの銀微粒子の量が少なくなるので、焼結時の収縮によって断線を生じやすくなる。
【0017】
本発明の銀ペーストは、ペーストの粘度が190000cp以下であるので、ペーストが均一に印刷され、表面が平坦であり、印刷面の凹凸が少ない。従って、凹部による断線が生じ難い。また、銀ペーストの粘性が170000cpより高いのでペーストの滲みが少なく、従って短絡が生じ難い。なお、ペーストの粘度はペーストに含まれる銀粉・樹脂・分散剤・溶剤の種類および含有量を調整して定めればよい。
【0018】
銀ペーストの粘度が190000cpを上回ると、印刷後の表面の平坦性が低下して印刷面に凹凸を生じる場合があるので断線が生じ易く、また銀ペーストの粘性が170000cpより低いとペーストの滲みが大きくなり短絡が生じやすくなる。
【0019】
本発明の銀ペーストに用いる銀微粒子は、銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加することによって析出させたものであり、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、およびタップ密度4g/cm3以上のものである。
【0020】
銀イオン溶液としては硝酸銀溶液などを用いることができる。硝酸銀溶液にアンモニアを添加すると銀アンミン錯体が形成され、これを還元することによって銀が析出する。アンモニアの添加量は液中にアンミン錯体を形成しない銀イオンが残留しない量が適当であり、その量は銀1モルに対してアンモニアが2〜3モルになる量が好ましい。
【0021】
還元剤としてはヒドロキノン液〔OH(C6H4)OH、以下H2Qと略記する場合がある〕などを用いると良い。還元剤の添加量は液中に未反応の銀アンミン錯体が残留しない量が好ましく、例えば、還元剤にヒドロキノンを用いた場合、還元剤の添加量は銀1モルに対してヒドロキノンが0.3〜1.0モルになる量が好ましい。
【0022】
銀イオン溶液にアンモニアを添加した後に短時間に還元剤を添加することによって、銀アンミン錯体が形成される前に一時的に生成する水酸化銀(AgOH)もしくは酸化銀(Ag2O)を核にして銀の結晶性一次粒子が形成され、この一次粒子どうしが凝集して銀微粒子が形成される。
【0023】
アンモニア添加後の短時間に還元剤を添加すると、アンミン錯体を形成していない水酸化銀または酸化銀が多く残留しており、これが核となるため、銀イオンの還元による銀クラスター核の生成の場合よりも初期核の数を多くすることができ、銀の一次粒子の凝集中心点数も多くすることができるので、例えば、平均粒径2.5μm以下の微細な銀微粒子になる。
【0024】
アンモニア添加後の経過時間を調整することによって、銀ペーストに適する平均粒径およびタップ密度の銀微粒子を得ることができる。具体的には、アンモニア添加後の経過時間を0.6秒以上〜1.2秒以内に調整して平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、タップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を析出させることができる。
【0025】
アンモニア添加後の経過時間が長いと、初期に生成する水酸化銀および酸化銀は銀アンミン錯体となり、水酸化銀および酸化銀の初期核とした結晶性一次粒子を形成しえない。銀イオンの還元による銀クラスター核の初期核の生成数は少数になり、一次粒子の凝集中心点数も少数になるので、微細な銀微粒子を得るのが難しい。
【0026】
上記製造方法は、銀イオン溶液にアンモニアを添加した後に短時間(20秒以内)に還元剤を添加する方法であるので、銀イオン溶液にあらかじめアンモニアを添加して銀アンミン錯体を形成したものや、銀イオン溶液に先に還元剤を添加したものは用いられない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。
粒径の測定はレーザー散乱/回折法により個数基準で演算して求めた。タップ密度は規格(JIS-Z2512)で定められた方法によって測定した。ペーストの粘度は規格(JIS--K7117-1)で定められた方法に従い、ブルックフィールド粘度計(HBDV−II+Pro Cp)によって測定した。
【0028】
〔実施例1〕
表1に示す硝酸銀溶(AgNO3液)とアンモニア水(NH3水)を用い、還元剤としてヒドロキノン液(OH(C6H4)OH液)を用い、硝酸銀溶液にアンモニア水を混合重量比8.0〜8.2に保ちながら添加後20秒以内に還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させた。還元液を添加するまでの経過時間を表2に示すように調整し、析出した銀微粒子の平均粒径をレーザー/回折散乱法によって測定した。この結果を表2に示した。
【0029】
表2に示すように、アンモニア添加後の経過時間が(イ)0.3秒〜0.5秒未満のときには平均粒径0.5μm以下の銀微粒子が析出する。(ロ)上記経過時間が0.5秒以上〜2秒未満のときには平均粒径0.5μm以上〜1.5μm未満の銀微粒子が析出する。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
〔実施例2〕
銀微粒子(平均粒径、タップ密度を図1〜図2に示す)を85質量%含有する銀ペースト(粘度180000cp)を用い、チタン酸バリウム系のセラミックスグリーンシート表面に膜厚7μmの電極を印刷し、このシートを積層し、830℃で3時間、焼成して内部電極を形成し、この断線発生率を調べた。電極はライン・アンド・スペース30μmのコイルとし両端を外部に露出し、この両端の導通を調べることによって断線発生率を調べた。この結果を図1、図2に示した。また、平均粒径0.5μm〜2.0μmの銀微粒子を用い、上記と同様の条件で電極を印刷して電気抵抗率を調べた。この結果を図3に示した。
【0033】
図1に示すように、ペーストに含まれる銀微粒子のタップ密度が4.0g/cm3未満になると断線の発生率が増加し、例えば、タップ密度が3.0g/cm3以下では断線発生率が概ね10%以上になる。一方、銀微粒子のタップ密度が4.0g/cm3より高いと、断線発生率が概ね5%以下である。
【0034】
図2に示すように、ペーストに含まれる銀微粒子の平均粒径が0.8μmでは断線発生率が概ね5%以下であるが、平均粒径が0.5μm以下では断線発生率が10%以上に増加する。また、図3に示すように、銀微粒子の平均粒径が1.0μmを上回ると電気抵抗率が急激に増加し、焼結し難くなることを示している。この結果から、銀微粒子の平均粒径は0.8μm〜1.0μmが好ましい。
【0035】
〔実施例3〕
銀微粒子を含有する銀ペースト(銀微粒子の平均粒径1.0μm、タップ密度4.5/cm3、銀含有量85質量%、ペーストの粘度は図4、図5に示すとおり)を用い、実施例2と同様の条件で電極を印刷し、830℃で3時間、焼成し、断線の発生状態を調べた。この結果を図4および図5に示した。
【0036】
図4に示すように、ペースト粘度が170000cp未満であると、印刷時の滲み発生までの印刷回数が20回未満であり、具体的には、ペースト粘度が130000cp〜150000cpの範囲では滲み発生の印刷回数が10回程度、ペースト粘度が90000cp〜110000cpの範囲では滲み発生の印刷回数が数回〜10回未満である。従って、ペースト粘度が170000cp未満であると印刷時の滲みのために電極の短絡を生じやすい。
【0037】
ペースト粘度が170000cp〜190000cpの範囲では、滲みが発生する印刷回数が20回以上であり、印刷時の滲みが発生し難いので、電極の短絡を防止することができる。一方、図5に示すように、ペースト粘度が200000cp以上では断線発生率が急激に増加する。この結果から、銀ペーストの粘度は170000cp以上〜190000cp以下が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン溶液にアンモニアと還元剤を添加して銀微粒子を還元析出させる方法において、アンモニア添加後20秒以内に還元剤を添加して析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、およびタップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有し、粘度170000cp以上〜190000cp以下であることを特徴とする銀ペースト。
【請求項2】
アンモニア添加後から還元剤を添加するまでの時間(経過時間)を、0.6秒以上〜1.2秒以内に調整して析出させた、平均粒径0.8μm以上〜1.0μm以下、タップ密度4g/cm3以上の銀微粒子を含有する請求項1に記載する銀ペースト。
【請求項3】
電子部品の電気回路または内部電極の形成に用いる請求項1〜請求項2の何れかに記載する銀ペースト。
【請求項4】
電子部品の電気回路または内部電極であって、請求項1〜請求項3の何れかに記載する銀ベーストによって形成されたことを電気回路または内部電極。
【請求項5】
請求項4の電気回路または内部電極を有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−225576(P2010−225576A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242556(P2009−242556)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】