説明

銀粒子分散体組成物、これを用いた導電性回路および導電性回路の形成方法

【課題】 低温焼結性、基板との密着性、極性溶媒の分散性を併せ持つ銀粒子分散体組成物を提供する。
【解決手段】
【化1】


粒子表面にアミノ基を有する有機物が存在している平均一次粒子径1〜100nmの銀ナノ粒子と、下記一般式(1)で示される化合物と、分散溶媒とを含む銀粒子分散体組成物である。ただし、式(1)のRは少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基を示し、式(1)のAOは炭素数が1ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す1以上20未満の値であり、式(1)のXはO原子、S原子、−NR−(RはH原子又はC原子、H原子、O原子のいずれかから構成される基)のいずれかから構成される連結基であり、式(1)のYはC、H、O原子のいずれかから構成される連結基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粒子分散体組成物、これを用いた導電性回路および導電性回路の形成方法に関する。なお、本明細書において「ナノ粒子」とは平均一次粒子径が1〜100nmの粒子を意味し、「微粉」とはナノ粒子で構成される粉体を意味する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今では技術の進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に行われるようになってきた。
【0003】
特許文献1には、酸化銀を出発材料として、アミン化合物を用いて銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。また、特許文献2にはアミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストの作製について記載されている。特許文献3には液中での分散性が極めて良好な銀ナノ粒子を製造する技術が開示されている。特許文献4には有機保護剤をヘキシルアミンに置換することで、デカリンなどの非極性溶媒中で安定に分散し、従来よりも低い温度で焼結反応が起こる銀ナノ粒子ペーストを作成する技術が開示されている。特許文献5には、極性溶媒へ分散させた銀ペーストに関して、アミン類と炭素数4以上のカルボン酸を保護剤とする手法が開示されている。
【0004】
銀ペースト銀粒子の表面は一般的に有機保護剤により被覆されているのが通常である。この保護剤は粒子同士が凝集したり、自然焼結することを抑制する役割を果たしている。したがって、ある程度分子量の大きいものを選択することが有利である。分子量が小さいと粒子間距離が狭くなり、湿式の合成反応では反応中に凝集が進んでしまう場合がある。そのような場合、粒子が粗大化し微粉の製造が困難になる。
【0005】
一方、有機保護剤で保護された銀粒子を用いて基板上に微細配線を形成する際には、配線を描画した後、銀微粒子同士を焼結させることが必要である。焼結の際には、粒子間に存在する有機保護剤が揮発等により除去されることが望ましい。
【0006】
ところが、分子量の大きい有機保護剤は一般的には加熱しても揮発除去されにくいので、例えば銀微粉の場合250℃以上といった高温に曝さなければ導電性の高い焼結体(配線)を構築することが難しい。このため、適用可能な基板の種類は、例えばポリイミド、ガラス、アラミドなど、耐熱温度の高い一部の素材に限られる。
【0007】
本出願人らは、特許文献4に示した手法や、その後に開発した手法を用いて、オレイルアミンなどの不飽和結合を有する一級アミンの存在下で銀塩を還元することにより、極めて分散性の良い銀ナノ粒子を合成することに成功した。このような手法で合成された銀ナノ粒子は還元反応時に存在させた一級アミンからなる有機保護剤に被覆されている。さらに有機保護剤をヘキシルアミンなどの低鎖アミンに置換することで、大気中120℃で焼成したときに比抵抗値が25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた銀ナノ粒子含有ペーストを合成することに成功した。
【0008】
一級アミンを有機保護剤に使用した銀ナノ粒子は、テトラデカン、デカリンなどの非極性溶媒に対しては優れた分散性を示すが、一般的に銀ペーストで使用されるターピネオールなどのアルコール系溶媒、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート(登録商標)、以下BCAと記載することがある)などのグリコールエーテルの酢酸エステル系溶媒のような、極性溶媒に対する分散性は低い。しかし、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷などの印刷法を用いて銀ペーストを塗布し電気配線などを形成する場合、スクリーン印刷で用いられるスキージやオフセット印刷で用いられるブランケットゴムの材質に悪影響を与えないことから、分散媒としては極性溶媒を選択する方が好ましいことが知られている。よって、低温焼結性に優れ、極性溶剤に分散されたナノ銀ペーストが求められている。
【0009】
特許文献5には、極性溶媒へ分散させた銀ペーストに関して、アミン類と炭素数4以上のカルボン酸とを保護剤とする手法が開示されており、その実施例には、120℃、2時間熱処理した後の銀膜の体積抵抗率が50×10−6Ω・cmと記載されている。しかし、120℃で処理できたとしても、2時間程度の加熱がなければ、その程度の導電性を発揮しないとすれば、生産性が高いとは言い難い。また、実用性の観点からすれば、膜の基板に対する密着性に関しても検討が必要であると考えられるが、当該文献には検討したとの記載はない。ともすれば、用途が限定される可能性がある。このように、150℃以下の熱処理条件で、さらに体積抵抗率を低下させ、高い密着性を有する銀ペーストが求められている。
【0010】
また、銀ナノ粒子を用いたペーストにおいて、非極性溶剤を用いたペーストでは、加熱後の膜と基板の密着性を高めるために用いられるエポキシ、ウレタン、アクリル樹脂などのバインダーを混合することができないため、基材と焼成後の十分な密着性を得ることが困難である。また、極性溶剤を用いたペーストの場合でも、バインダー樹脂を混合することで密着性が向上するが、銀ナノ粒子の焼結が妨げられ、低温焼結性が大きく低下する問題がある。
【0011】
よって、低温焼結性、基板との密着性、極性溶剤への分散性のそれぞれの特性を満たす銀粒子分散ペーストが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【特許文献3】特開2007−39718号公報
【特許文献4】特開2009−161808号公報
【特許文献5】特開2009−97074号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】中許昌美ほか、「金属ナノ粒子および合金ナノ粒子ペーストによるプラスチック基材への回路形成」、MES2005、(第15回マイクロエレクトロニクスシンポジウム)2005年10月、P241−244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、低温焼結性、基板との密着性、極性溶媒の分散性を併せ持つ銀粒子分散体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の銀粒子分散体組成物は、粒子表面にアミノ基を有する有機物が存在している平均一次粒子径1〜100nmの銀ナノ粒子と、下記一般式(1)で示される化合物と、分散溶媒とを含む銀粒子分散体組成物である。
【0016】
【化1】

【0017】
ただし、一般式(1)のRは少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基を示し、一般式(1)のAOは炭素数が1ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す1以上20未満の値であり、一般式(1)のXはO原子、S原子、−NR−(RはH原子又はC原子、H原子、O原子のいずれかから構成される基)のいずれかから構成される連結基であり、一般式(1)のYはC、H、O原子のいずれかから構成される連結基である。
ここで、式(1)のRは、下記一般式(2)で示されるスチレン化フェニル基であることが好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
ただし、一般式(2)のkは平均値であり、1ないし5の範囲の数値である。
また、一般式(1)のYは、炭素数が1ないし15のアルキレン基または下記一般式(3)で示される官能基であることが好ましい。
【0020】
【化3】

【0021】
ただし、一般式(3)のZは、炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
【0022】
前記アミノ基を有する有機物は、分子量50〜400の脂肪族第一アミンおよび/または脂肪族不飽和アミンであり、該アミノ基を有する有機物は、前記銀ナノ粒子の有機保護層として含有されることが好ましい。また、前記分散溶媒は極性を有し、その比誘電率が3〜50であることが好ましい。前記分散溶媒は、グリコールエーテル及び/またはグリコールエーテルの酢酸エステルであることが好ましい。
【0023】
本発明の導電性回路は、上記いずれかに記載された銀粒子分散体組成物を用いて基板上に形成されたことを特徴とする。
【0024】
本発明における電子機器は、上記の導電性回路が組み込まれたことを特徴とする。
【0025】
本発明の導電性回路の形成方法は、上記のいずれかに記載された銀粒子分散体組成物を基板上に印刷法により描画することを特徴とする。
【0026】
前記導電性回路を形成するにあたり、印刷法により前記銀粒子分散体組成物を用いて前記導電性回路のプレ配線を形成し、該プレ配線を熱処理により金属化して導電性回路を形成することが好ましい。
【0027】
上記において、前記プレ配線の金属化を行う熱処理温度は80〜200℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の銀分散体組成物においては、分散溶媒、特に極性溶媒中に銀ナノ粒子が良好に分散されるので、150℃以下の加熱条件でも良好な膜抵抗率を示す導電性回路を作製することができる。また、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂基板への密着性の高い導電性回路を作製することができる。また、この銀分散体組成物を用いた導電性回路の形成方法によれば、低い加熱条件で良好な膜抵抗率を示す金属膜を作製することができるので、低い軟化点を有する樹脂フィルム基材への適用が可能になり、更には省エネルギーの観点からも優れた導電性回路の形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の銀粒子分散体組成物における銀ナノ粒子は、粒子表面にアミノ基を有する有機物が存在しているものであり、その平均一次粒子径は1〜100nmである。一次粒子径が1nm未満であると粒子の凝集が進み易くなり、凝集粒子を取り除く必要が出てくるため粒子作製時の生産性が悪くなるので好ましくない。100nmを越えると導電性回路のプレ配線を金属とする際に高温の加熱が必要となるため好ましくない。
【0030】
アミノ基を有する有機物(アミン化合物)としては、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、2−ペンタンアミン、t−ペンチルアミン、1,2−ジメチルプロピルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、オクチルアミン、2−オクタンアミン、ノニルアミン、シクロヘキシルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、イコシルアミン、ヘンイコシルアミン、ドコシルアミン、ヘプタコシルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、α−メチルベンジルアミン、メスカリン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、3−エトキシプロピルアミン、3−プロポキシプロピルアミン、3−イソプロポキシプロピルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、3−オソブトキシプロピルアミン、2−エチルヘキシロキシプロピルアミン、3−デシロコシプロピルアミン、ヤシアルキルアミン、牛脂アルキルアミン、大豆アルキルアミン、ビニルアミン、アリルアミン、クロチルアミン、2−メチル−2−ブテニルアミン、シンナミルアミン、オレイルアミンといったものを挙げることが出来る。このなかでも特に、銀粒子への吸着性と銀粒子の自然焼結を防止する効果に優れているという理由で、分子量50〜400の脂肪族第一アミンおよび/または脂肪族不飽和アミンが特に好ましい。分子量が50未満であると室温で銀粒子の凝集や焼結が起こり、分子量が400を越えると粒子の安定性は増すが、導電性回路のプレ配線を形成した後の熱処理による焼結性が劣るようになる。これら脂肪族第一アミンは単独または2種以上を混合して適宜使用することができる。
【0031】
低温焼結性に着目する場合には、上記の中でもその構造中の総炭素数が8以下、好ましくは6以下である有機物を選択することが好ましい。特に、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミンといった低分子量の脂肪族第一アミンを主として好適に選択される。
【0032】
<銀ナノ粒子の製造>
本発明に従う銀ナノ粒子として、第一の界面活性剤により被覆された銀ナノ粒子を製造した後に、第二の界面活性剤を表面吸着させる例を示す。場合によっては、総炭素数が少ない第一の界面活性剤を被覆させた状態で使用することもあり得るし、より低温で焼結させるあるいは他の性質を発現させるため、第一の界面活性剤よりも炭素鎖の短い第二の界面活性剤により、当初吸着していた第一の界面活性剤を置換する手法をとることもできる。本明細書ではいずれの場合にも対応すべく、第一の界面活性剤で被覆された銀ナノ粒子を製造する工程、そして第一の界面活性剤を置換により、より炭素数の小さい第二の界面活性剤に置換する例について示す。
【0033】
[第一の界面活性剤で被覆された銀ナノ粒子の製造]
本発明に用いる銀ナノ粒子の製造例について以下に説明する。なお、ここで説明する銀ナノ粒子の製造例は、銀以外の金属粒子にも応用することが可能と考えられる。
【0034】
第一の界面活性剤により被覆された銀ナノ粒子を得る方法としては、第一の界面活性剤の存在状態下、溶媒に溶解する性質を持つ銀塩を還元性を有する溶媒に溶解し、該溶液を環流しながら溶媒の還元作用を用いて、第一の界面活性剤により粒子表面が被覆された銀粒子を形成させる。
【0035】
より具体的には、銀ナノ粒子を与える物質としては銀塩として硝酸銀、還元性を有する溶媒としてはアルコールもしくはポリオール(以降、アルコール類という)、なかでも沸点が85〜150℃のアルコール、いっそう具体的にはイソブタノール、ブタノールのいずれかから選択して用いるとよい。表面を被覆する第一の界面活性剤としては、分子量が50〜400の第一アミン類、特に不飽和結合を有するオレイルアミンを選択するとよい。
【0036】
上述したアルコール類中に硝酸銀を添加して溶解させる。そこに分子量が50〜400の第一アミン類をさらに添加し、これを用いた溶媒の沸点近傍、具体的には85〜150℃の範囲内で加熱する。沸点近傍とすることでこうしたアルコール類が有する還元効果を効果的に享受することができ、ナノサイズの銀粒子を効率よく合成することができる。ただし、沸点近傍での操作であることから、反応器は還流装置を備える構成とし、蒸発したアルコール類が反応槽中に戻り、反応液がおおよそ一定になるように調整する必要がある。環流状態に維持しつつ1〜10時間の反応を行うことで、第一の界面活性剤により被覆された銀ナノ粒子を形成させることができる。
【0037】
なお、還元反応を促進するための添加剤を添加して還元効率を向上させてもよい。具体的にはジエタノールアミン、あるいはトリエタノールアミンが選択できる。
【0038】
こうして得られる銀ナノ粒子は、反応液に対して沈降する傾向がある。この性質を利用して、反応液を静置して銀ナノ粒子を沈降させ、デカンテーション法により沈降した銀ナノ粒子塊と反応液とを分離する。そこに反応液よりも低炭素数のアルコール(具体的にはメタノールまたはエタノール)を添加し、攪拌もしくは超音波分散機を用いて分散させ、銀ナノ粒子塊に残存した有機物を除去(洗浄ともいう)する操作を行う。洗浄行為の効率化のため、遠心分離等の手法を用いて、銀ナノ粒子塊を強制的に沈降させ、洗浄液と分離しても構わない。なお、こうした洗浄は余分な有機物の残存を排除するため数度にわたり行うのがよい。
【0039】
こうして得られる第一の界面活性剤で被覆された銀ナノ粒子は、イソオクタン、n−デカン、テトラデカンといった炭化水素系の非極性溶媒に分散しやすい。こうした溶媒に上述の銀ナノ粒子塊を添加して超音波分散器等を用いて分散させ、銀ナノ粒子分散液とする。
【0040】
[第二の界面活性剤により被覆された銀ナノ粒子の製造]
上述の第一の界面活性剤により被覆された銀ナノ粒子の分散液に対して、第一の界面活性剤よりも炭素鎖の短い第二の界面活性剤を添加することで、銀粒子表面を被覆している第一の界面活性剤から第二の界面活性剤に置換する。ここで、第二の界面活性剤としては総炭素数8以下の第一アミン類とすることが好ましい。この程度の炭素長のアミンを使用することで、低温の熱処理でも金属銀とすることが出来るようになる。
【0041】
上述のように、第一の界面活性剤は分子量50〜400の第一アミン類とすることが出来るが、その中でも不飽和結合を有するオレイルアミンを選択することにより、第二の界面活性剤との置換が容易に進むようになるので好ましい。その理由は明確ではないところが多いが、不飽和結合を有しているアミンを用いれば、より銀表面に吸着しやすい不飽和結合を持たず、かつ第一の界面活性剤の炭素数よりも短いアミンとの交換反応が進みやすくなっているのではないかと推定している。
【0042】
置換そのものは低温であっても進行するが、常温(25℃)以上、このましくは30℃以上、一層好ましくは50℃以上の温度環境下で置換反応は行うことが好ましい。これもまたその根拠は不明確であるが、周囲の温度を上昇させることで第一の界面活性剤と銀粒子の吸着が不安定になり、より吸着性の強い短鎖のアミンが吸着しやすくなることがあるのではないかと推定している。ただし、あまりにも高温の環境下で反応を進めると、溶媒の揮散が著しくなるとともに、第一の界面活性剤の脱離が生じ、第二の界面活性剤が吸着するよりも前に粒子間焼結が生じる危険があるので好ましくない。発明者らの以前の検討によれば、置換時には80℃以下、好ましくは70℃以下で行うことが必要とされた。
【0043】
置換反応が進行すると、もともと吸着していた第一の界面活性剤は分子量が比較的大きくかつ体積が大きいため、比較的大きい浮力を有していた銀ナノ粒子は、炭素鎖が短く体積が小さい第二の界面活性剤に置換されたことでその高い浮力を失い沈降するようになる。したがって、反応液中において沈降している粒子のみになった時点で反応が完結したと見なすことが出来る。この時には適度に振とうもしくは攪拌することで、反応槽の底面に存在して置換しなかった粒子を生じさせないようにする必要はある。また、置換をより進めるために、第一の界面活性剤が易溶解性を示すアルコールなどを反応液中に添加して、銀表面からの第一の界面活性剤の剥離を促しても良い。例えば、第一の界面活性剤としてオレイルアミンを使用するときには、イソプロピルアルコールが好適に用いられる。
【0044】
この際の第二の界面活性剤添加量は、銀のモル数に対して2〜100倍のモル数の量とすれば、未置換の粒子が少なくなるので好ましい。上述の置換工程を経て得られる、第二の界面活性剤で被覆された銀ナノ粒子はその浮力の小ささから沈降するようになるので、遠心分離のような操作を経なくとも、容易にデカンテーション法で固液分離することが出来る。さらに分離された銀ナノ粒子塊に対しては、数回アルコールを用いて洗浄することで、余分な有機分を除去することが好ましい。ここでも、第一の界面活性剤を溶解するようなアルコールを用いて洗浄すれば、より好適に不純物の除去が行えるようになる。
【0045】
(本発明で使用する一般式(1)の化合物)
本発明の銀粒子分散体組成物は、一般式(1)に記載する化合物を含んでおり、少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基(R)とオキシアルキレン基(AO)が連結基Xで連結された分散媒親和性部位と、末端基としてカルボキシル基からなる分散質親和性部位からなり、分散媒親和性部と分散質親和性部は連結基Yで連結される。具体的な性状としては下記の通りである。
【0046】
<1.少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基(R)>
少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基(R)としては、具体的には、前述の一般式(2)で表されるスチレン化フェニル基の他、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、クミルフェニル基、o−フェニル−フェニル基、p−フェニル−フェニル基などを含有する官能基を挙げることができる。さらに、ナフタレン、アントラセン、ベンゾピレン、クリセン、コロネン、コランヌレン、ナフタセン、ピレン、トリフェニレンなどの多環芳香族炭化水素を含有する官能基も挙げることができる。なお、本出願では例えばナフタレン基について2個の芳香環が含まれ、アントラセンについては3個の芳香環が含まれているものとみなす。本発明の分散剤では、芳香環が分散性の向上に大きく寄与しているものと考えられる。特に、これらの官能基のうち、式(2)で表されるスチレン化フェニル基含有化合物は、本発明の目的を達成する為に好適に使用することができる。
【0047】
<2.連結基(X)>
連結基(X)は、O原子、S原子、−NR−のいずれかから構成される連結基であり、RはH原子又はC原子、H原子、O原子のいずれかから構成される官能基である。Rとしては、分散媒親和性部位の極性を調節するという観点から、例えば、n−ヘキシル、n−オクチル基などの炭素数1〜18の飽和直鎖アルキル基、2−エチルヘキシル、イソデシル基などの炭素数1〜18の飽和分岐アルキル基、リノール基、リノレン基、オレイル基、ヤシアルキル基、牛脂アルキル基、硬化牛脂アルキル基などの不飽和長鎖アルキル基等を挙げることができる。
【0048】
<3.オキシアルキレン基(AO)n>
一般式(1)においてAOは炭素数1ないし4のオキシアルキレン基を示す。具体的には炭素数1のアルキレンオキシドはホルムアルデヒドである。炭素数2のアルキレンオキシドはエチレンオキシドである。炭素数3のアルキレンオキシドはプロピレンオキシドである。炭素数4のアルキレンオキシドは、テトラヒドロフラン或いはブチレンオキシドであるが、なかでも、1,2−ブチレンオキシドまたは2,3−ブチレンオキシドであるとよい。一般式(1)においてオキシアルキレン鎖(−(AO)n−)は分散剤の分散媒親和性を調整する目的でアルキレンオキシドは単独重合鎖であっても、2種以上のアルキレンオキサイドのランダム重合鎖でもブロック重合鎖でも分岐重合鎖でもよく、また、その組み合わせであってもよい。一般式(1)のアルキレンオキシドの平均付加モル数を示すnは、分散媒親和性部位の極性を調節するという観点から、1以上20未満の値であるが、3ないし15の範囲にあることが好ましい。
【0049】
<4.連結基(Y)>
連結基(Y)は炭素原子、水素原子、酸素原子からなる公知の構造から選択可能であるが、分散質への親和効果を弱めないという観点から、好ましくは飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、エーテル基、カルボニル基、エステル基からなり、脂環構造、芳香環構造を有していてもよく、また、繰り返し単位を有していてもよい。連結基Yに窒素原子及び/又は硫黄原子及び/又はリン原子などを含む場合は、カルボキシル基の分散質への親和効果を弱める作用があるために本発明の分散剤の構造因子としては適さない。
【0050】
また、一般式(1)のYは、分散媒親和性部位と分散質親和性部位のバランスを調節するという観点から、炭素数が1ないし15のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が1ないし8のアルキレン基であることがより好ましい。
また、一般式(1)のYは前述の一般式(3)で示される物質であることが好ましい。
【0051】
ただし、一般式(3)において、Zは、分散媒親和性部位の極性を調節するという観点から、炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
【0052】
<5.本発明で得られる銀粒子分散体組成物>
[1.分散溶媒]
本発明で使用できる分散溶媒としては、極性を有しており、その比誘電率が3〜50のものである。比誘電率が3未満であると溶媒の非極性が強くなり銀粒子分散体の分散安定性が経時的に不安定になり、50を越えると分散剤の粒子への吸着が劣るようになり、粒子の分散安定性が不安定となる。具体的には、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、アルキルエーテル系溶媒、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、アミド系溶媒といったものが例示できる。また、分散溶媒として反応性基を有する(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルなどのビニル系単量体、ビニルエーテル誘導体類、ポリアリル誘導体などのエチレン系不飽和単量体類も使用することができる。
【0053】
具体的名称を挙げると、エーテル系溶媒としてジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ターピニルメチルエーテル、ジヒドロターピニルメチルエーテル、環状エーテル系溶媒として、例えば、テトラヒドロフラン、アニソールが挙げられる。
【0054】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキセニル)シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0055】
エステル系溶媒としては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−sec−ヘキシル、酢酸−2−エチルブチル、酢酸−2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、シクロヘキサオールアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、トリアセチン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0056】
グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエ−テル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのモノエーテル化合物、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのジエーテル化合物が挙げられる。
【0057】
更に、酢酸エステル系溶媒として、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート(登録商標))、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(カルビトールアセテート(登録商標))、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート(登録商標))、ジプロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテートが挙げられる。
【0058】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ヘプタノール、n−アミルアルコール、sec−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、アリルアルコール、オクチルドデカノール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、t−アミルアルコール、sec−イソアミルアルコール、ネオアミルアルコール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、ターピネオールC、L−α−ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2−ターピニルオキシエタノール、2−ジヒドロターピニルオキシエタノールテル、イソボニルシクロヘキサノール、イソテトラデカノール、イソヘキサデカノール、イソエイコサノール、イソヘキサコノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、オクタンジオール等が挙げられる。
【0059】
グリコール系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、等が挙げられる。
【0060】
アミド系溶媒としては、N,N−メチルアセとアミド、N,N−ホルムアミドなどが挙げられる。
【0061】
上記のうち、グリコールエーテル系溶媒及びグリコールエーテルの酢酸エステル系溶媒が好適である。これらは沸点が比較的高く従って蒸気圧が低いため、印刷時の作業性に優れ、スクリーン印刷機のスキージゴム、グラビア・オフセット印刷機のブラケットゴムを溶解・膨潤させないため、微細配線の描画再現性に優位である。更には、銀ナノ粒子をインク・ペーストに配合する場合に種々の薬剤樹脂との相溶性に優れることから、好適に用いられる。なお、前記分散溶媒は単独または2種以上を混合して適宜使用することができる。
【0062】
なお、本発明に用いることが好適な分散剤は非水性環境下でアミン基を有する保護剤で被覆された銀ナノ粒子分散体を提供するために用いることを目的としているが、上記分散溶媒に対して意図的或いは偶発的を問わず、微粒子分散体の製造工程中で、或いは目的用途の都合で、或いは最終製品設計において、水の混入、混合を否定するものではない。
【0063】
上記溶媒に分散させた銀分散体と被膜にした際の膜の柔軟性を付与し、また、各種塗布方法に適用した際における材料のレオロジー特性を最適化するため、必要に応じて樹脂を添加してもよい。樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、スチレン/無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル樹脂、ウレタン/エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂等が挙げられる。
【0064】
これら樹脂の添加量は0.5〜15質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。添加する場合には0.5質量%未満であるとその添加効果が認められず、15質量%を超えると焼成時に銀粒子の接触が少なくなるため、電気抵抗値が上昇してしまうことになり、低温焼結性が発揮されにくくなる。
【0065】
さらに、溶媒に分散させた銀分散体に適宜、カップリング剤、例えばシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、亜鉛系カップリング剤、或いはキレート剤を添加しても良い。
【0066】
[2.銀粒子分散体組成物の製造および特徴]
本発明の銀粒子分散体組成物は公知の方法で製造することができ、上記の範囲で疎水基の種類、アルキレンオキシド種とその付加形態、付加モル量、連結基などを特に限定して組成を最適選定することにより、公知の分散体組成物よりも多量の銀ナノ粒子を安定に分散させたものとなり、産業上の利用価値は大きい。
【0067】
また、本発明の銀粒子分散体組成物は公知の精製法により含有するイオン種、特にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオン、ハロゲンイオンの各イオンの含有量を低減して用いることが好ましい。分散剤中のイオン種は分散体の分散安定性、耐触性、耐酸化性、分散塗膜の電気特性(導電特性、絶縁特性)、経時安定性、耐熱性、耐湿性、耐候性に大きく影響するためである。上記イオンの含有量は適宜決定することができるが、分散剤中で10ppm未満であることが望ましい。
【0068】
本発明で好適に採用される銀ナノ粒子の含有量は、前記分散溶媒中で均一に分散することができれば特に限定されるものではなく、用途などによって異なるものであるが、銀粒子分散体組成物の全体を100質量%として、10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。また、式(1)で示される化合物の含有量は、銀粒子の質量を100質量%として、0.1〜20質量%の範囲内が好適である。なお、銀粒子の重量については、熱重量測定により、アミン吸着銀粒子の加熱による重量減少挙動から算出することができる。そして、残部は溶媒、あるいは適宜追加される樹脂などの添加物である。
【0069】
また、本発明の分散体組成物は公知の撹拌手段、均一化手段、分散化手段を用いて調製することができる。採用することができる分散機の一例としては、2本ロール、3本ロールなどのロールミル、ボールミル、振動ボールミルなどのボールミル、ペイントシェーカー、連続ディスク型ビーズミル、連続アニュラー型ビーズミルなどのビーズミル、サンドミル、ジェットミルなどが挙げられる。また、超音波発生浴中において分散処理を行うことも出来る。
【0070】
また、本発明の銀粒子分散体組成物は、分散溶媒中での銀ナノ粒子の分散安定化に関して、公知技術に比べて優れた分散安定化効果を発揮するのみならず、銀ナノ粒子を媒体中から安定に取り出し、他の媒体へ移すための保護剤として使用することができる。銀ナノ粒子を媒体中から安定に取り出し、他の媒体へ移す際の保護剤の機能としては、生成粒子の凝集抑制、容器壁面への吸着抑制及び汚染防止、易再分散性付与、銀粒子の酸化防止、粒子表面の表面改質、機能性表面の劣化防止、溶媒の置換や極性変更時のショック緩和、粉末の流動性改良、粉末の固化防止などが挙げられる。本発明の銀粒子分散体組成物は公知の保護剤よりも前記機能に優れ、アルキレンオキシドの付加形態とその付加モル量、疎水基の種類や連結基などを最適選定することにより、公知の保護剤よりも一層広範な分散溶媒に所望の分散質を分散安定化できる。
【0071】
本発明の銀粒子分散体組成物を用いて導電性回路を形成する際には、本発明にて示す銀ナノ粒子の低温焼結性を利用して、公知のガラスやセラミック基板のみならず、軟化点が300℃以下の高分子、樹脂からなる基板を使用することができる。
【0072】
特に、樹脂からなる基板の例として、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、トチアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタアクリル酸共重合体、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、フッ素、アラミド、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下に本発明の実施例および比較例について説明する。なお、以下において、配合量を示す「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。言うまでもないが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更や修正が可能である。
【0074】
<ヘキシルアミン吸着銀粒子の作成>
上述の製造方法に従って、ヘキシルアミン吸着銀粒子を作製した。具体的な作製方法は、以下のとおりである。
【0075】
[銀粒子の合成]
反応媒体兼還元剤としてイソブチルアルコール(和光純薬工業株式会社製特級試薬)32.1g、オレイルアミン(和光純薬工業株式会社製、分子量=267)55.3g、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)6.89gを用意し、これらを混合してモーターに接続された攪拌羽根にて攪拌し、硝酸銀を溶解させた。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを500mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をモーターに接続された攪拌羽根により攪拌しながら110℃まで昇温した。110℃の温度で5時間の還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンのジエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製、分子量=106)を4.30g添加した。その状態で1時間保持した後、反応を終了した。
【0076】
反応終了後のスラリーの上澄みを除去できるデカント槽に移液して、一昼夜放置する。その後上澄みを除き、500mLビーカーに移液した後、メタノールを200mL添加して、マグネチックスターラーにて1時間攪拌した。
【0077】
その後、2時間静置して、オレイルアミンで被覆された銀ナノ粒子の凝集塊を沈降させ、再度デカンテーションにより洗浄液と銀ナノ粒子の凝集塊を分離した。こうした洗浄作業を2回繰り返して、洗浄操作を完結させた。
【0078】
こうして得られたオレイルアミンで被覆された銀ナノ粒子凝集塊をテトラデカン5mLに加えて、オレイルアミンに分散された銀ナノ粒子のテトラデカン分散ペーストを作成した。この時、得られたペーストはプラズモンによる吸収(青色)を示していた。
【0079】
[ヘキシルアミン置換粒子の生成]
上記のような過程で作成された銀ナノ粒子のペースト2.5g(以降置換前原料インクという)を300mLビーカー中に添加した。一方で、ヘキシルアミン(C13−NH、和光純薬工業株式会社製の特級試薬)5.0gをイソプロピルアルコール10mLに添加して混合溶媒を用意した(以降置換材料溶液という)。これらの溶液をそれぞれウォーターバス内にて60℃にまで加熱する。
【0080】
溶液の温度を確認し60℃に達した時点で、置換前原料インクをマグネチックスターラーにて攪拌させながら、置換材料溶液を一挙に添加して、5時間攪拌状態を維持し、銀ナノ粒子表面に存在するオレイルアミンをヘキシルアミンに置換した。
【0081】
メタノール100mLを更に添加し、1時間攪拌を継続することで置換前に銀ナノ粒子に吸着し、銀粒子表面ならびに反応液中に存在していたオレイルアミンを溶解させた。
【0082】
[固液分離および洗浄]
上記の操作を経て得られたヘキシルアミン吸着銀ナノ粒子のメタノール浸漬物を3000rpmで30分間遠心分離器(日立工機株式会社製:himacCF7D2)にかけることで上澄みとヘキシルアミン吸着銀ナノ粒子塊を分離させた。それをデカンテーションにて固液分離した後、さらに100mLのメタノールを添加し、再度マグネチックスターラーを用いて攪拌し、残存するオレイルアミンを除去する洗浄操作を再度行った。その後、上記と同様の遠心分離を施し、銀ナノ粒子塊と主成分がメタノールである上澄みを分離させ、洗浄操作を終了させた。
【0083】
上記操作で得られたヘキシルアミン吸着銀ナノ粒子のメタノール浸漬物から主成分がメタノールである上澄みをデカンテーション法により除去することで、ヘキシルアミン吸着銀ナノ粒子の凝集ケーキを得た。この時のケーキもオレイルアミンで作成したときと同様にプラズモン光沢を示していた。
【0084】
<一般式(1)の化合物の合成>
[製造例1(スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物の合成)]
オートクレーブに、スチレン化フェノール(k=3)415g(1モル)、水酸化カリウム1g(0.018モル)を仕込み、均一に混合した。その後、反応系の温度が130℃の条件で、エチレンオキシド352g(8モル)を反応系に滴下した。エチレンオキシドの滴下終了後、この温度で圧力0.1MPaに維持し1時間熟成させて、スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物を得た。
【0085】
[製造例2(スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド14モル付加物の合成)]
製造例1においてエチレンオキサイドの添加量を616g(14モル)とした以外は製造例1と同様の方法で行い、スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド14モル付加物を得た。
【0086】
[製造例3(化合物Aの合成)]
トルエン溶媒中に、製造例1で得られたスチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物767g(1モル)およびモノクロロ酢酸ナトリウム152g(1.3モル)を反応器にとり、均一になるよう撹拌した。その後、反応系の温度が60℃の条件で、水酸化ナトリウム52gを添加した後、反応系の温度を80℃に昇温させ、3時間熟成させた。熟成後、50℃まで冷却し、50℃の条件で98%硫酸117g(1.2モル)を滴下することにより、白色懸濁溶液を得た。次いで、この白色懸濁溶液を蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、化合物A(R:スチレン化フェニル基(k=3)、AO:エチレンオキシド、n:8、X:O、Y:CH)を得た。
【0087】
[製造例4(化合物Bの合成)]
製造例3において、スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物に代えて、スチレン化フェノールエチレンオキシド(k=3)14モル付加物1020g(1モル)とした以外は製造例1と同様の方法で行い、化合物B(R:スチレン化フェニル基、AO:エチレンオキシド、n:14、X:O、Y:CH)を得た。
【0088】
[製造例5(化合物Cの合成)]
製造例1で得られたスチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物767g(1モル)およびコハク酸無水物100g(1モル)を120℃で2時間反応させることで化合物C(R:スチレン化フェニル基(k=3)、AO:エチレンオキシド、n:8、X:O、Y:COCHCH)を得た。
【0089】
[製造例6(化合物Dの合成)]
原料のEO付加物として、スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物に代えて、スチレン化フェノール(k=2)エチレンオキシド8モル付加物654g(モル)を使用した以外は製造例3と同様の方法で行い、化合物D(R:スチレン化フェニル基(k=2)、AO:エチレンオキシド、n:8、X:O、Y:CH)を得た。
【0090】
[製造例7(化合物Eの合成)]
原料のEO付加物として、スチレン化フェノール(k=3)エチレンオキシド8モル付加物に代えて、ラウリルアルコールエチレンオキシド10モル付加物626g(1モル)を使用した以外は製造例3と同様の方法で行い、化合物E(R:ラウリル、AO:エチレンオキシド、n:10、X:O、Y:CH)を得た。
【0091】
なお上記で示した各材料およびそれ以外の実施例、比較例で使用した材料はすべて市販の材料を用いた。
【0092】
以上の工程で製造した分散剤の構造等を表1にあわせて示す。
【0093】
【表1】

【0094】
なお、得られる分散体の物性評価は下記のようにして行った。
【0095】
《銀粒子分散体の分散性評価(UV−VIS)》
上述の「分散剤の合成」で記述した分散剤を、所定量(銀に対して10質量%)になるようBCAに溶解し、「ヘキシルアミン吸着銀粒子の作成」で記述した工程で作製したヘキシルアミン吸着銀粒子塊を加えた。その液について、超音波洗浄機(BRASONIC社製 超音波洗浄機 1510J−MT)にて40℃以下で30分間処理した。その液を上述の遠心分離器を用いて3000rpm30分間で遠心分離器(日立工機株式会社製:himacCF7D2)にかけることでヘキシルアミン吸着銀粒子が分散された上澄み液を得た。
【0096】
上澄みをデカンテーションにより分離して、BCAで5000倍に希釈した。そして、該溶液につき島津製作所製のUV−VIS測定機(UV SPECTROPHOTOMETER UV−1800型)を用いて、紫外吸収スペクトルを測定することで、粒子の分散状況を確認した。ナノ銀粒子の分散が見られる場合には、その粒子径にもよるが390〜420nmの範囲内に最大吸収が確認される。実施例3で作成した分散体であれば403nm、実施例6で作成した分散体であれば401nmで確認されたが、比較例4では全て沈降してしまうため、吸収は確認されなかった。
【0097】
《塗膜の形成》
基板として、シリカガラス(コーニング社製 EAGLE XG)、PETフィルム(東レ社製 ルミラーS10)を用いた。スクリーン印刷装置(マイクロテック製 MT−320)を用いて、分散性の良好であった前記銀塗料をスクリーン印刷法により、上記シリカガラス基板、PETフィルムの上にそれぞれコーティングすることにより塗膜を形成させた。
【0098】
《焼成膜の形成》
塗膜を形成した基板を、150℃に設定した送風乾燥機(YAMATO社製 DK43)中に入れ、1時間保持することにより焼成膜を得た。
【0099】
《焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定》
表面抵抗測定装置(三菱化学アナリティック社製:Loresta GP)により測定した表面抵抗と、表面粗度計(株式会社東京精密社製:サーフコム1500DX)で測定した焼成膜の膜厚から、計算により体積抵抗値を求め、これを焼成膜の比抵抗として採用した。
【0100】
《溶剤の比誘電率測定》
比誘電率は必要に応じて、ZAHNER社製 IM−6型インピーダンスアナライザーを用いて周波数1kHzで測定した。
【0101】
《密着性試験》
JISK5600−5−6の手法に従い(使用するテープは、ニチバン製セロハンテープCT405AP−15とした)、以下に示す評価基準で基板に対する焼成膜の密着性試験を実施した。その結果を表2に示す。
○:剥離操作時に剥離が確認されなかった時
△:剥離操作時にその剥離された面積が全体の20%未満であるとき
×:剥離操作時にその剥離された面積が全体の20%以上であるとき
【0102】
(実施例1)
[銀粒子分散体の調製]
上述の「ヘキシルアミン吸着銀粒子の作成」で記述した工程で作製したヘキシルアミン吸着銀粒子塊100質量部と、前記製造例1で得られた化合物A(表2に添加量をそれぞれ示した)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトールアセテート(BCA)東京化成工業株式会社製:比誘電率4.6)25質量部とを加え、予め手攪拌にてそれぞれの成分をなじませた。
【0103】
その後、真空攪拌脱泡機 Vmini300(EME社製)を用い、回転速度:自転700rpm、公転1400rpmの条件で真空攪拌処理を行うことで、BCA中でもプラズモン光沢(青色)を示す、銀ナノ粒子分散体を得た。得られた物質の密着性および導電性について、表2に示した。
【0104】
(実施例2〜7、比較例1〜4)
実施例1と同様に、実施例2〜7、比較例1〜3は表2中に記載した割合でペーストを調整し、比較例4には一般式(1)の化合物を添加しなかった。得られた物質の密着性および導電性について、表2に示した。
【0105】
【表2】

【0106】
表2から明らかなように、分散媒親和部位に芳香環とオキシアルキレン基を含み、分散質親和部位である末端基がカルボン酸である一般式(1)の化合物を用いた実施例1〜7は、ブチルカルビトールアセテートのような極性溶媒への高い分散性、低温焼結性、基板への高い密着性を有していることが分かる。また、分散媒親和部位に芳香環を含まない比較例1の場合、実施例1と同じ分散剤添加量では分散性が悪く、評価できなかった。また、分散媒親和部位に分岐鎖を含む炭水素基およびオキシアルキレン基の20モル付加体を含む比較例2の場合、分散性は得られたが低温焼結性、基板への密着性が実施例1〜4より劣る結果となった。オキシアルキレン基が長すぎると、加熱後の銀膜において、銀粒子の焼結を大きく阻害していることが推測される。さらに、分散媒親和部位に芳香環を含み、末端基がアルコールである比較例3の場合、溶媒への分散性が大きく劣る結果となった。このことから末端基のカルボン酸が分散性に重要な役割を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の銀粒子分散体は、高濃度で銀ナノ粒子を含むことができるため、例えば、金属膜(焼結膜)を形成するためのペーストとして有用である。印刷性に優れ、特に、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷のような印刷法によっても、微細なパターン(回路又は配線パターンなど)を効率よく形成できる。また、低温焼結可能であるため、PET基板のような耐熱性が高くない樹脂状へのパターン形成が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面にアミノ基を有する有機物が存在している平均一次粒子径1〜100nmの銀ナノ粒子と、下記一般式(1)で示される化合物と、分散溶媒とを含むことを特徴とする銀粒子分散体組成物。
【化1】

ただし、一般式(1)のRは少なくとも1個以上の芳香環を含有する炭化水素基を示し、
一般式(1)のAOは炭素数が1ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す1以上20未満の値であり、
一般式(1)のXはO原子、S原子、−NR−(RはH原子又はC原子、H原子、O原子のいずれかから構成される基)のいずれかから構成される連結基であり、
一般式(1)のYはC、H、O原子のいずれかから構成される連結基である。
【請求項2】
一般式(1)のRは、下記一般式(2)で示されるスチレン化フェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の銀粒子分散体組成物。
【化2】

ただし、一般式(2)のkは平均値であり、1ないし5の範囲の数値である。
【請求項3】
一般式(1)のYは、炭素数が1ないし15のアルキレン基または下記一般式(3)で示される官能基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀粒子分散体組成物。
【化3】

ただし、一般式(3)のZは、炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
【請求項4】
前記アミノ基を有する有機物は、分子量50〜400の脂肪族第一アミンおよび/または脂肪族不飽和アミンであり、該アミノ基を有する有機物は、前記銀ナノ粒子の有機保護層として含有される請求項1ないし3のいずれか一項に記載の銀粒子分散体組成物。
【請求項5】
前記分散溶媒は極性を有し、その比誘電率が3〜50である請求項1ないし4のいずれか一項に記載の銀粒子分散体組成物。
【請求項6】
前記分散溶媒は、グリコールエーテル及び/またはグリコールエーテルの酢酸エステルである請求項5に記載の銀粒子分散体組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載された銀粒子分散体組成物を用いて基板上に形成された導電性回路。
【請求項8】
請求項7に記載された導電性回路が組み込まれた電子機器。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載された銀粒子分散体組成物を基板上に印刷法により描画することを特徴とする導電性回路の形成方法。
【請求項10】
前記導電性回路を形成するにあたり、印刷法により前記銀粒子分散体組成物を用いて前記導電性回路のプレ配線を形成し、該プレ配線を熱処理により金属化して導電性回路を形成する請求項9に記載の導電性回路の形成方法。
【請求項11】
前記プレ配線の金属化を行う熱処理温度は80〜200℃である請求項10に記載の導電性回路の形成方法。

【公開番号】特開2013−36057(P2013−36057A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170335(P2011−170335)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】