説明

銅前駆体組成物およびそれを用いた銅膜の製造方法。

【課題】エレクトロニクス用配線の形成などに有用な、低温で熱分解する銅前駆体組成物と、該銅前駆体組成物を用いた銅膜の製造方法を提供することである。
【解決手段】式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物は低温で熱分解し、これを用いれば、低温で銅膜を作製することが可能である。
【化1】


(式中Xは
【化2】


であり、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、R3は炭素数4〜10の2価基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス用配線の形成などに有用な、低温で熱分解する銅前駆体組成物と、該銅前駆体組成物を用いた銅膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅はエレクトロニクス用配線形成材料として最も広く用いられている素材である。回路基板、アンテナ、電磁波遮蔽材等、基板へ銅配線を作製する方法としては、銅箔を貼付け、印刷やフォトリソグラフィーによりエッチングマスクを設けたのちにエッチングする方法が最も一般的に行われている。この方法には、銅箔を用いるため配線を薄膜化することが困難であること、工程が煩雑であること、エッチングにより溶解させるため、廃液の中の銅の処理が必要になる。これに対し銅箔のエッチングを用いない方法がいくつか提案されている。一例として、基板上にメッキレジストを印刷し、無電解メッキを行う方法が挙げられる。また、基板上に触媒を印刷し、無電解メッキを行う方法も知られている。これらの方法は、所望の部分のみに銅膜を析出できるため、効率がよく、薄膜化も容易であるが、大量のメッキ廃液の処理が必要になるという難点がある。
【0003】
これに対し、銅前駆体組成物を基板上に印刷し、印刷した銅前駆体を熱分解して胴膜・銅配線を作製する方法が提案されている(特許文献1,2)。銅前駆体組成物としては、ギ酸銅とアミン化合物を配合した組成物などが用いられる。この方法は、工程が極めて単純で、かつ廃液処理も最小限ですむという優れた特長を有する。
【0004】
銅前駆体の熱分解を用いる方法は、上述のような特長があるものの、課題も残っている。一つは銅前駆体の分解温度であり、概して銅前駆体は分解温度が高い。たとえば特許文献3では、熱分解を180℃で行う事例が紹介されている。しかしながら、分解温度が高いと利用できる基板はガラス、セラミック、ポリイミドなど、一部の材料に限られ、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの耐熱性の低い基板に適用することが困難である。また、高温での熱分解、具体的には150℃を上回る温度での熱分解を大気中で行うと、析出した銅が大気中の酸素により酸化しやすくなるため、多くの場合窒素、アルゴンなどの非酸化性雰囲気下で熱分解を行っている。低温での熱分解が可能になれば、大気中での熱分解も容易になる。このような観点から、大気中での銅前駆体の熱分解温度は低温であることが好ましく、具体的には150℃以下の温度であることが好ましい。
【0005】
また、レーザー照射に伴う発熱による銅前駆体の分解を利用する方法が特許文献4に開示されている。ここでは、銅前駆体としてのギ酸銅と還元剤としてのアミン化合物との混合組成物が用いられているが、これらを混合することによる銅前駆体の熱分解温度に対する影響については示されていない。
【0006】
もう一つの課題として、銅前駆体の多くが溶媒に難溶であることが挙げられる。銅前駆体の溶解度が低い場合、銅前駆体を溶媒に完全に溶解した低濃度の溶液を印刷に用いようとすると、細線の印刷や、厚い銅膜の作製が困難になる。また、前駆体を溶解させずに液体に分散させて印刷する場合は、細線の印刷や薄い銅膜の作製が困難になり、いずれにせよプロセスの自由度が制限されてしまう。したがって、銅前駆体は、溶媒との溶解度が高く高濃度の溶液が得やすいことが好ましく、さらに銅前駆体自体が液状で溶媒と任意の比率で混合可能であれば、任意の濃度の銅前駆体溶液が調製可能なばかりではなく、銅前駆体自体を印刷することすら可能であり最も好ましい。
【0007】
このように、銅前駆体の熱分解による銅膜・銅配線の作製には、熱分解温度の低温化、銅前駆体の液状化という二つの課題があり、その達成が強く望まれている。熱分解温度の低い銅前駆体の提案としては、特許文献2や特許文献5に熱重量分析では約150℃以下の温度から熱分解がみられる銅前駆体が開示されているが、これらは固体であり、溶媒への溶解度は高くない。
【特許文献1】特表2005−537386号公報
【特許文献2】特開2005−35984号公報
【特許文献3】特開2005−2471号公報
【特許文献4】特開2004−277868号公報
【特許文献5】特開2008−13466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低温で熱分解可能で、かつ高濃度の溶液が調製可能な銅前駆体組成物およびこれを用いた銅膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物が有効であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中Xは
【0013】
【化2】

【0014】
であり、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、Rは炭素数4〜10の2価基を示す。)。
【0015】
また、本発明は該銅前駆体組成物を塗布し、加熱処理することによる銅膜の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は前記式1で示される化合物とギ酸銅とを混合して得られる錯体に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の銅前駆体組成物の主成分は液状で溶媒と混和するため、高濃度の組成物を調製することが可能である。また、本発明の銅前駆体組成物は150℃以下の低温で熱分解し、銅が析出するので、使用可能な基板の制限が少なく、例えばポリエチレンテレフタレートなどの汎用のプラスチック基板上に銅膜を作製することが可能となる。さらに、このような低温で焼成を行うと、析出した銅が大気中の酸素によって酸化されにくくなるため、大気中での銅膜の作製も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書中でいう銅前駆体組成物とは、熱分解により金属銅を生成する化合物である銅前駆体を含有する組成物のことを指し、本発明の銅前駆体組成物は、以下の式1で示される化合物とギ酸銅を配合することにより得られる。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中Xは
【0021】
【化4】

【0022】
であり、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、Rは炭素数4〜10の2価基を示す。)。
【0023】
式1中のR,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。ここで、アルキル基は直鎖であっても分岐したものでもよく、炭素数は置換基の炭素数も含む。好ましい置換基としては、水酸基、アルコキシ基を挙げることができる。炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基の具体例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、2−メトキシエチル基などを挙げることができる。
【0024】
式1中のRは、炭素数4〜10の2価基を示す。炭素数4〜10の2価基としては直鎖または分岐のアルキレン基、アルキレン基の一部のメチレンが酸素で置換された2価基、あるいはこれらの基の水素が、水酸基やアルコキシ基で置換された2価基が挙げられ、具体例として、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、1−メチルテトラメチレン基、1−メチルペンタメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルペンタメチレン基、2−ヒドロキシペンタメチレン基、3−ヒドロキシペンタメチレン基、3−メトキシペンタメチレン基、オキシジ(エチレン)基を例示することができる。式1で示される化合物の具体例を以下に示すが、本発明においてはこれらに限定されない。
【0025】
【化5】

【0026】
本発明における銅前駆体組成物に配合される前記式1で示される化合物は特に限定されないが、好ましくは式1中のXが、
【0027】
【化6】

【0028】
であり、R,Rがそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基で示される化合物であり、より好ましくはR,Rがそれぞれ独立にメチル基またはエチル基で示される化合物、更に好ましくは前記式2または4で示される化合物である。
【0029】
式1で示される化合物は公知の方法で合成することが可能である。典型的な合成法としては、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ、52巻、1528頁(1930年)に記載されている2級アミン化合物をグリシドールに付加させる方法を示すことができる。また、式1で示される化合物は市販の試薬として入手可能である。
【0030】
式1で示される化合物とギ酸銅とを配合し、本発明の銅前駆体組成物を得るにあたって、ギ酸銅としては無水ギ酸銅(II)、ギ酸銅(II)・二水和物、ギ酸銅(II)・四水和物などを用いることができる。また、ギ酸銅はそのまま混合してもよく、水溶液、有機溶媒溶液、有機溶媒懸濁液として混合してもよい。
【0031】
式1で示される化合物とギ酸銅を配合して本発明の銅前駆体組成物を製造する場合、式1で示される化合物を、ギ酸銅1等量に対して2〜4等量程度加えることが好ましい。また、式1で示される化合物をそのまま混合してもよく、また、溶媒中で混合してもよい。式1で示される化合物とギ酸銅の配合は、0〜100℃程度の温度の下で適切な攪拌機や混合機を用いて混合すればよい。
【0032】
式1で示される化合物とギ酸銅とを配合して得られた本発明の銅前駆体組成物中には、主成分として式1で示される化合物とギ酸アニオンを配位子として有する銅錯体が生成する。式1で示される化合物とギ酸アニオンを配位子として有する銅錯体の代表的な例としては[Cu(HCOO)(XCHCH(OH)CHOH)](ここで、Xは前記定義に同じ。)が挙げられる。
【0033】
式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物中には、その条件に応じて前述の銅錯体の他に溶媒や未反応の式1の化合物が含まれうるが、式1の化合物とギ酸銅を無溶媒で2:1の等量比で混合した場合は、ほぼ前述の銅錯体からなる銅前駆体組成物が得られる。
【0034】
前記方法によって得られる本発明の銅前駆体組成物は150℃以下の低温で熱分解して金属銅を生成することを特徴としており、昇温速度10℃/min.で280℃まで昇温する条件下での銅前駆体組成物の熱重量分析(TGA)測定において、150℃で40%以上の重量減少が見られ、且つ200℃までに重量減少が完了した場合に、前記特徴を有していると判断することができる。なお、アミン化合物とギ酸アニオンを配位子として有する銅錯体を含む銅前駆体組成物は数多く知られているが、液状の銅前駆体組成物で、このような性質を兼ね備えるものは知られていなかった。
【0035】
本発明の銅前駆体組成物は、液状であり、適切な溶媒を選ぶことで、式1で示される化合物およびギ酸銅以外の成分を任意の比率で混合することができ、そのような混合物についても本発明の銅前駆体組成物に含まれる。
【0036】
本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第1は溶媒である。溶媒は、式1で示される化合物およびギ酸銅を配合した段階で溶媒が含まれていてもよく、その後に追加して加えても良い。溶媒は銅前駆体組成物の濃度、粘度等を調整するために有用である。
【0037】
溶媒には公知のあらゆる溶媒が使用可能で、複数種混合して用いてもよい。好ましい溶媒の具体例を挙げると、水、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール、テルピネオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、プロピレンカーボネート、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリンなどを挙げることができる。組成物中の溶媒の好ましい含有量は0〜95重量%である。
【0038】
本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第2はポリマー成分である。ポリマー成分は、基板との接着性向上、銅膜の堅牢性向上に有効である。ポリマー成分は、組成物中に溶解させてもよく、微粒子として分散させてもよいが、組成物を熱分解する温度では分解しないものである必要がある。好ましいポリマーとしては、アクリル系ポリマー(すなわち(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルなどのアクリル系モノマーの重合体またはそれらの共重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタンなど公知のポリマーが使用可能である。ポリマー成分の好ましい含有量は、組成物中の不揮発分、すなわち組成物から溶媒を除いた成分、に対し0〜50重量%である。
【0039】
本発明の銅前駆体組成物に好ましく含まれうるその他の成分の第3は導電性粒子である。導電性粒子としては、金属や炭素の粒子があげられ、金属粒子としては、金、銀、銅、ニッケルなどの粒子があげられる。熱分解により生じた銅と一体化できるという点で銅粒子が最も好ましい。銅粒子のような導電性粒子は、熱分解の前後で体積変化をもたらさないので、これを適宜配合することは銅膜の内部応力を低減させるために有用である。銅粒子としては球状、棒状、板状、樹状などのあらゆる形状のものを利用することができる。大きさとしては平均短径が10nm〜10μmのものが好ましく。大きさや形状の異なる銅粒子を混合して用いてもよい。好ましい銅粒子の形状は球状のものであり、好ましい大きさとしては平均粒径10〜100nmである。銅粒子の好ましい配合量は、銅前駆体組成物中の不揮発分に対し、0〜90重量%である。
【0040】
なお、前記第1〜3のその他の成分以外で本発明の銅前駆体組成物に含まれうるその他の成分としては、レベリング剤、消泡剤、揺変剤など、塗布・印刷に用いる液状組成物に通常含まれる成分が挙げられるが、それらには限定されない。
【0041】
また本発明は、前記銅前駆体組成物を基板上に塗布し、加熱処理することによる銅膜の製造方法に関する。
【0042】
ここで塗布とは、前記銅前駆体組成物を基板のほぼ全面に付着させること(全面塗布)も、基板の特定の部分にのみ付着させること(印刷)も含み、塗布の方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができる。全面塗布する好ましい方法としては、アプリケーター、バーコーター、グラビアロールコーター、スリットダイコーター、ナイフコーター、リップコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、スプレーコーター、ディップコーター、スピンコーターなどの装置を用いる方法を挙げることができる。印刷する好ましい方法としては、孔版印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法(グラビア印刷法など)、平版印刷法、インクジェット法などを挙げることができる。なお、本発明の銅前駆体組成物が溶媒のような揮発分を含む場合は、塗布後にこれを揮発させる工程を設けてもよい。
【0043】
本発明の銅膜の製造方法では、前記銅前駆体組成物を基板に塗布した後、加熱処理を行って、銅膜を形成する。加熱処理の温度は特に制限されず、好ましくは70〜350℃の範囲から選択されるが、本発明の銅前駆体組成物は低温でも銅膜を析出させることが可能であり、その特長を生かすためには、70〜200℃で加熱処理することがより好ましく、70〜150℃で加熱処理することがさらに好ましい。加熱処理の時間は特に制限はないが、好ましくは30秒から1時間の範囲で選択される。
【0044】
加熱処理の手段としては、熱風オーブン、ホットプレート、赤外線ヒーター、マイクロ波ヒーターなどを用いることができる。また、加熱処理は大気中で行っても非酸化性雰囲気中で行ってもよい。
【0045】
また加熱処理にレーザーを用いることもできる。レーザーを用いると局所的な加熱が可能になるため、本発明の銅前駆体組成物を全面に塗布した場合でも、レーザーを照射した箇所だけ銅膜を作製することができる。
【0046】
本発明の銅前駆体組成物を塗布する基板としては、例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート)、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどのプラスチックからなるフィルム、ガラス繊維強化エポキシ樹脂、ガラス繊維強化シアネート樹脂、紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、ガラス、アルミナセラミックスなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0048】
銅前駆体組成物の合成
[実施例1]
ギ酸銅(II)・四水和物(1.13g;三津和化学製)をメタノール(100mL)に懸濁し、3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオール(1.19g;東京化成製、式2の化合物)を加えた。室温で終夜撹拌後、微量の不溶物を濾去した。減圧濃縮により、2.3gの液状組成物を得た。組成物のメタノール溶液の吸収スペクトルを測定したところ、705、261nmに極大吸収が観測された。図1に熱重量分析(TGA、装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TG/DTA7200)測定の結果を示す。TGA測定では、昇温速度10℃/min.で280℃まで昇温したところ、150℃で53%の重量減少が見られ、重量減少は170℃で終了した。測定終了後の熱分解生成物の粉末X線回折(装置:株式会社Rigaku製Ultima+2200)を測定したところ、銅の回折ピーク(2θ=43.3,50.4,74.1°)が観測された。
【0049】
[実施例2]
実施例1の3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオールを3−ジエチルアミノ−1,2−プロパンジオール(1.47g;東京化成、品番:D1721、式4の化合物)に変えた以外は実施例1と同様に行い、2.5gの液状組成物を得た。組成物のメタノール溶液の吸収スペクトルを測定したところ、686、266nmに極大吸収が観測された。実施例1と同様の熱重量分析(TGA)測定の結果、図2に見られる通り熱分解による重量減少が見られ、150℃で41%の重量減少がみられ、重量減少は175℃で終了した。また、熱分解生成物が銅であることを実施例1と同様に確認した。
【0050】
[実施例3]
実施例1のギ酸銅(II)・四水和物を無水ギ酸銅(1.47g;比較例4参照)に変えた以外は同様に行い、2.5gの液状組成物を得た。組成物のメタノール溶液の吸収スペクトルを測定したところ、698、262nmに極大吸収が観測された。実施例1と同様の熱重量分析(TGA)測定の結果、図3に見られるような熱分解による重量減少が見られ、150℃で53%の重量減少が確認され、重量減少は170℃で終了した。また、熱分解生成物が銅であることを実施例1と同様に確認した。
【0051】
[比較例1]
実施例1の3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオールを3−アミノ−1,2−プロパンジオール(式22、0.91g;東京化成製)に変えた以外は実施例1と同様に行い、1.88gの液状組成物を得た。実施例1と同様の熱重量分析(TGA)測定の結果、図4に見られる通り熱分解は比較的低温から開始したが、分解は速やかではなく、150℃での重量減少率は21%に留まり、280℃に至っても重量減少は終了しなかった。なお、熱分解生成物が銅であることを実施例1と同様に確認した。
【0052】
【化7】

【0053】
[比較例2]
実施例1の3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオールを3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール(式23、1.05g;東京化成製)に変えた以外は実施例1と同様に行い、2.0gの液状組成物を得た。実施例1と同様の熱重量分析(TGA)測定の結果、図5に見られるとおり熱分解は比較的低温から開始したが、分解は速やかではなく、150℃での重量減少率は26%に留まり、重量減少は260で終了した。なお、熱分解生成物が銅であることを実施例1と同様に確認した。
【0054】
【化8】

【0055】
[比較例3]
実施例1の3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオールを2−メトキシエチルアミン(式24、0.75g;東京化成製)に変えた以外は同様に行い、1.5gの組成物を得たが、組成物は次第に結晶化した。
【0056】
【化9】

【0057】
[比較例4]
ギ酸銅(II)・四水和物を100℃のオーブンで2時間真空乾燥して無水ギ酸銅(II)を得た。無水ギ酸銅(II)の実施例1と同様の熱重量分析(TGA)測定の結果、図6に見られるとおり、200℃以上の高温でようやく熱分解が起こった。なお、熱分解生成物が銅であることを実施例1と同様に確認した。
【0058】
銅膜の作製
[実施例4]
実施例1で得た銅前駆体組成物をカプトンフィルム(東レ・デュポン株式会社製、カプトン500V)上に塗布した。カプトンフィルムへの塗布は、アプリケーターにて塗布幅3cm、膜厚が約20μmになるように行った。大気中、銅前駆体組成物を塗布したカプトンフィルムを150℃に加熱したホットプレート上にのせ、2分加熱処理した。処理後の膜が銅膜であることをX線回折にて確認した。テスターを用い、得られた銅膜が導電性を有することを確認した。
【0059】
[実施例5]
実施例2で得た銅前駆体組成物を実施例4のカプトンフィルム上に実施例4と同様に塗布した。大気中、150℃で3分加熱処理した。処理後の膜が銅膜であることをX線回折にて確認した。テスターを用い、得られた銅膜が導電性を有することを確認した。
【0060】
[実施例6]
実施例1で得た銅前駆体組成物をポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーS10)上に実施例4と同様に塗布した。大気中、150℃で2分加熱処理した。処理後の膜が銅膜であることをX線回折にて確認した。テスターを用い、得られた銅膜が導電性を有することを確認した。
【0061】
[実施例7]
実施例2で得た銅前駆体組成物を実施例6のポリエチレンテレフタレートフフィルム上に実施例4と同様に塗布した。大気中、150℃で5分加熱処理した。処理後の膜が銅膜であることをX線回折にて確認した。テスターを用い、得られた銅膜が導電性を有することを確認した。
【0062】
[比較例5]
比較例1で得た組成物を実施例4のカプトンフィルム上に実施例4と同様に塗布した。大気中、150℃で30分焼成したが銅膜は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の銅膜の製造方法は、回路基板の配線、多層基板のビア配線、フレキシブルコネクタの配線、ICタグのアンテナ、平面コイル、太陽電池や平面ディスプレイの集電電極、印刷トランジスタの内部配線、電磁波遮蔽材の導体パターンなどの製造に用いることができる。また、銅膜の光沢や色調を利用してプラスチックや陶磁器の加飾にも用いることができる。また、本発明の銅前駆体組成物は、銅膜以外の形態の銅、例えば銅粒子の製造のための前駆体として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で得た銅前駆体組成物の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。
【図2】実施例2で得た銅前駆体組成物の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。
【図3】実施例3で得た銅前駆体組成物の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。
【図4】比較例1で得た組成物の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。
【図5】比較例2で得た組成物の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。
【図6】比較例4で得た無水ギ酸銅(II)の熱重量分析結果を示す図である。横軸は温度、縦軸は重量減少率(%)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式1で示される化合物およびギ酸銅を配合してなる銅前駆体組成物。
【化1】

(式中Xは、
【化2】

であり、R,Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の置換基を有してもよいアルキル基を示す。また、Rは炭素数4〜10の2価基を示す。)
【請求項2】
前記式1で示される化合物のXが、
【化3】

であり、R,Rがそれぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基である請求項1に記載の銅前駆体組成物。
【請求項3】
さらに溶媒を含む請求項1または2に記載の銅前駆体組成物。
【請求項4】
さらにポリマー成分を含む請求項1〜3のいずれかに記載の銅前駆体組成物。
【請求項5】
さらに銅粒子を含む請求項1〜3のいずれかに記載の銅前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の銅前駆体組成物を基板上に塗布し、加熱処理することによる銅膜の製造方法。
【請求項7】
前記式1で示される化合物とギ酸銅とを混合して得られる銅錯体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−256218(P2009−256218A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104650(P2008−104650)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】