説明

銅合金導体およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線ならびに銅合金導体の製造方法

【課題】 強度を維持または向上しつつさらなる高導電率を達成した銅合金導体、およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線、ならびにその銅合金導体の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の一実施の形態に係る銅合金線17は、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含む銅合金導体であって、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有し、かつ前記錫の酸化物を当該銅合金導体の結晶組織中に80%以上の体積分散率で平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散してなる銅合金導体を加工してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば各種電子・電気機器用や産業用のケーブルや、電気鉄道車両にパンタグラフ等を介して給電を行うための架線(電車線)用のトロリー線等に用いられる銅合金導体、およびその銅合金導体を用いてなるケーブルならびにトロリー線、ならびにその銅合金導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電車線用銅合金導体(トロリー線)、あるいは各種機器のケーブルなどに用いられる機器用ケーブル用の導体としては、導電率が高い硬銅線や、耐摩耗性・耐熱性を有する銅合金材(銅合金線)等が使用されている。
銅合金材としては、銅母材にSnを0.25〜0.35質量%含有させたものが提案されており(特許文献1)、新幹線および在来線のトロリー線(電車用架線)や、機器用ケーブル等の導体として用いられている。
【0003】
近年、例えば新幹線における時速270km〜300kmあるいはそれ以上での営業運転最高速度の達成や、在来線での最高時速130kmでの営業運転など、電車のさらなる高速化が進められている。このような高速化に対応すべく、電車用トロリー線の架線張力をさらに高めることが要請されており、その架線張力は、1.5トンから2.0トン以上にまで高められる傾向にある。
また、近年、特に大都市部の鉄道では、輸送能力のさらなる増強を図るために、電車通過密度(単位長さ当たりの線路を走行する電車の本数)が益々高くなる傾向にある。一路線上を同時に複数本の電気鉄道車両が走行している場合、等価回路的には、給電線である一本のトロリー線(および帰電線としての軌道レール)に対してその車両の本数に比例した総個数の電動機が並列に接続されている状態と見做すことができるので、一路線上を走行している多数の鉄道車両に供給することが必要となる電力量(主に電流量)は、電車通過密度の増大につれて益々大きくなる傾向にある。このため、トロリー線のさらなる大電流容量化が要求されるようになってきている。
【0004】
また、各種電気・電子機器用ケーブルとして用いられる導体では、使用環境を考慮して、耐屈曲性・強度のさらなる向上が要請されている。また、各種電気・電子機器自体の軽量化・小型化・省電力化の要求を満たすために、それに用いられるケーブルにも、さらに高い導電性の達成が求められている。
さらには、産業用ケーブルについても、導電性の低下を極力抑制しつつ強度および耐熱性を向上させ、かつ使用環境を考慮して耐屈曲性等もさらに良好なものとした導体を用いることが益々強く求められるようになってきている。
【0005】
そこで、これらの要求を満たすために、高い強度および高い導電性を備えた銅合金導体の実現が益々強く要請されるようになってきた。
高強度の銅合金導体としては、主に固溶強化型合金と析出強化型合金との、2種類がある。固溶強化型合金としては、Cu‐Ag合金(高濃度銀)、Cu‐Sn合金、Cu‐Sn‐In合金、Cu‐Mg合金、Cu‐Sn‐Mg合金などが挙げられる。また、析出強化型合金としては、Cu‐Zr合金、Cu‐Cr合金、Cu‐Cr‐Zr合金などが挙げられる。
固溶強化型合金は、固溶強化元素の含有量を多くするほど強度向上を図ることができる。しかし、それに伴って極端に導電率が低下してしまう。このため、従来のCu‐Sn系合金では、高強度を有しかつ良好な導電性を有する銅合金導体を製造することは極めて困
難であった。
また、析出強化型合金は、強度は極めて高いものの、その分、連続鋳造圧延の際に圧延ロールに対して過大な負荷が掛かってしまうので、連続鋳造圧延による製造が実際上不可能であり、押出しなどによるバッチ式の加工法によってしか製造することができなかった。のみならず、中間工程にて析出強化物を析出させるための熱処理が必要であるため、連続鋳造圧延で製造することが可能な固溶強化型合金の場合と比較して、生産性が低く、またそれに起因して製造コストが高額なものとなる傾向にある。
【0006】
斯様な従来技術における不都合を解消または回避するために、酸素を0.001〜0.1質量%(10〜1000ppm)含む銅母材に、Snを0.15超〜0.70以下の質量%の割合で含有させた銅合金材で構成され、結晶組織を構成する結晶粒の平均粒径が100μm以下で、かつ結晶組織のマトリックスにSnの酸化物の80%以上が平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散させた構成の銅合金導体が提案されている(特許文献2)。
この発明によれば、Sn酸化物を分散してなる結晶組織の微細化によって、その銅合金導体自体の強度と導電率との両方を向上させることが可能となる。
すなわち、結晶組織中に微細な粒径のSn酸化物を分散させることで、熱(潜熱)による結晶や結晶粒界の移動が抑制されるという、いわゆるピン止め効果によって、その銅合金導体の強度と導電率との両方を向上させることができ、またそれと共に、熱間圧延時における各結晶粒の成長が抑制されて、結晶組織が微細に保たれる。
【0007】
【特許文献1】特公昭59−43332号公報
【特許文献2】特開2006−193807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年では、既述のように、ケーブルやトロリー線等に用いられる銅合金導体においては、強度を維持または向上しつつ、導電率のさらなる向上が強く要請されており、それに対応するために、上記のような銅合金導体の構成およびその製造方法についての技術をさらに改良することが急務の課題となってきている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するために成されたもので、その目的は、強度を維持または向上しつつさらなる高導電率を達成した銅合金導体、およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線、ならびにその銅合金導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の銅合金導体は、酸素を0.01質量%〜0.1質量%(100質量ppm〜1000質量ppm)含む銅合金導体であって、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有し、かつ前記錫の酸化物を当該銅合金導体の結晶組織中に80%以上の体積分散率で平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散してなること特徴としている。
また、本発明のケーブルは、上記の銅合金導体からなる製品の表面を絶縁被膜で被覆してなることを特徴としている。
また、本発明のトロリー線は、上記の銅合金導体を用いてなることを特徴としている。
また、本発明の銅合金導体の製造方法は、0.01質量%〜0.1質量%(100質量ppm〜1000質量ppm)の酸素を含んだ銅母材に、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有するように添加して、銅合金溶湯を作る工程と、前記銅合金溶湯を用いて連続鋳造を行って鋳造材を形成すると共に、前記銅合金溶湯を鋳造してなる鋳造材の温度を前記銅合金溶湯の融点よりも15℃以上低い温度にまで急速冷却する工程と、前記鋳造材を900℃以下とした後、当該鋳造材に対して最終圧延温
度が500℃以上〜600℃以下となるように温度を調節しながら熱間圧延加工を施す工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の銅合金導体によれば、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含む銅合金導体であって、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有し、かつ前記錫の酸化物を当該銅合金導体の結晶組織中に80%以上の体積分散率で平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散させるようにしたので、従来では明確ではなかった、酸素の含有率に対する相対的な錫の含有率の比率の適正値を明確に設定することができ、その結果、この銅合金導体自体の強度を維持または向上しつつ、そのさらなる高導電率化を達成することが可能となる。
また、本発明の銅合金導体の製造方法によれば、0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)の酸素を含んだ銅母材に、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有するように添加して、銅合金溶湯を作る工程と、前記銅合金溶湯を用いて連続鋳造を行うと共に、前記銅合金溶湯を鋳造してなる鋳造材の温度を前記銅合金溶湯の融点よりも15℃以上低い温度にまで急速冷却する工程と、前記鋳造材を900℃以下とした後、当該鋳造材に対して最終圧延温度が500℃以上〜600℃以下となるように温度を調節しながら熱間圧延加工を施すようにしたので、その製造工程で、上記のような酸素の含有率に対する相対的な錫の含有率の比率の適正値を明確に設定・調節することができ、その結果、この製造方法によって得られる銅合金導体自体の強度を維持または向上しつつ、そのさらなる高導電率化を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本実施の形態に係る銅合金導体およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線ならびに銅合金導体の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る銅合金導体の製造方法における主要な工程の流れを示す図である。
【0013】
本実施の形態に係る銅合金導体の製造方法は、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含有する銅母材11に、Sn(錫)12を、酸素量に対して質量比で2.5倍以上〜4.5倍以下の割合で添加して溶解し、銅合金溶湯13を作る溶解工程F1と、その銅合金溶湯13を鋳造して鋳造材14とする鋳造工程F2と、鋳造材14に複数段(多段)の熱間圧延加工を施して、圧延材15とする熱間圧延工程F3と、その圧延材15を洗浄し、巻き取って、荒引線16とする洗浄・巻取工程F4と、その巻き取った荒引線16を送り出しながら冷間伸線加工を施して、銅合金線17とする冷間伸線加工F5とを、その主要な工程として含んでいる。そして、この製造方法によって製造された銅合金線17は、その後さらに、例えば線材、撚線、条材、板材などのような所望の形状に加工される。
上記の溶解工程F1から洗浄・巻取工程F4までは、既存の一般的な連続圧延設備(SCR連続鋳造設備)等を用いて行うことができる。但し、その設備を用いて行われる各工程でのプロセス条件等は一般的なものではなく、下記にさらに詳述するような設定および方法とするものであることは勿論である。
【0014】
すなわち、本実施の形態に係る銅合金導体である銅合金線17の製造方法は、さらに詳細には、まず溶解工程F1では、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含む銅母材11に、その銅母材11の酸素量に対して質量比で2.5倍以上〜4.5倍以下の割合でSn12を添加して溶解を行うことで、銅合金溶湯13を得る。このとき、Sn12は酸化されてSn酸化物(SnO2)として生成・分散される。そのSn
酸化物の80%以上は、平均粒径が1μm以下の微小酸化物となる。なお、銅母材11は、不可避的酸化物を含んでいても構わない。
【0015】
ここで、Snの含有量(実質的な添加量)が酸素含有量の2.5倍未満であると、その銅合金導体における結晶組織中に粗大なCuの酸化物が多数存在することとなり、その結晶組織全体の平均粒径も粗大なものとなる。その結果、強度を維持または向上させつつ導電率のさらなる向上を達成することができなくなる虞が極めて高くなる。また逆に、Snの含有量が酸素含有量の4.5倍超になると、導電率が明らかに低下し始める。このため
、上記のように銅母材11の酸素量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比でSn12を添加することが望ましいのである。
【0016】
続いて、鋳造工程F2では、前工程の溶解工程F1で得られた銅合金溶湯13にSCR方式の連続鋳造圧延を施して、鋳造材14を形成する。この連続鋳造圧延のプロセス条件としては、一般的な連続鋳造の場合の鋳造温度(1120℃〜1200℃)よりも低い鋳造温度(1100℃〜1150℃)に設定すると共に、鋳型を強制冷却する。このようにすることにより、この鋳造工程F2で鋳造される鋳造材14は、銅合金溶湯13の凝固温度よりも少なくとも15℃以上低い温度まで急速冷却される。
【0017】
このような鋳造プロセスおよび冷却処理の設定により、鋳造材14中に晶出(または析出)するSn酸化物のサイズまたは鋳造材14の結晶粒のサイズを、冷却を行わない従来の一般的な鋳造温度とした場合や、冷却は行ってもそれによる温度低下を銅合金溶湯13の凝固温度よりも15℃以上にはしなかった場合よりも、確実に微小化することができる。
【0018】
続いて、熱間圧延工程F3では、鋳造材14の温度を、連続鋳造圧延における一般的な熱間圧延温度よりも50℃〜100℃低い温度である900℃以下、さらに望ましくは750℃〜900℃に調節した状態で、その鋳造材14に多段の熱間圧延を施す。その多段圧延における最終圧延では、圧延温度を500℃〜600℃に調節した状態で熱間圧延を行う。このような熱間圧延を経て、圧延材15が形成される。
【0019】
このとき、最終圧延温度が500℃未満であると、その圧延加工に起因した表面傷が多発して、圧延材15や最終製品としての銅合金線17の表面品質の低下を招く虞が高くなる。また、最終圧延温度が600℃超であると、形成される圧延材15の結晶組織は、1μmを超えあるいはさらに大きな粒径を有する粗大な組織となってしまう虞が高くなる。しかし、本実施の形態に係る製造方法によれば、プロセス条件を上記のような設定とすることにより、圧延加工に起因した表面傷を生じることなく、形成される圧延材15の結晶組織を1μm以下のような微小な平均粒径とすることができる。
【0020】
続いて、洗浄・巻取工程F4では、圧延材15を洗浄し、巻き取りを行って、荒引線16とする。
そして最後に、冷間伸線加工F5では、巻き取った荒引線16を送り出しながら、その荒引線16に、例えば液体窒素を用いるなどして−193℃〜100℃の温度に保ちつつ、冷間伸線加工を施して、その荒引線16を銅合金線17とする。
このようにして、本実施の形態に係る銅合金導体を伸線加工して線材状に形成してなる銅合金線17が製造される。
【0021】
あるいはさらに、上記のようにして連続鋳造圧延され、伸線加工されて、線材状に形成された銅合金線17を、複数本撚り合わせて、いわゆる撚線(図示省略)とすることも可能である。
または、上記の線材状に形成された銅合金線17や撚線の表面上に、絶縁性材料からなる被膜を設けて、その銅合金線17や撚線の表面全体をほぼ完全に絶縁被覆することで、各種電子・電気機器用や産業用のケーブルを形成することも可能である。
もしくは、上記の線材状に形成された銅合金線17や撚線の表面に、Sn(錫)、Ni(ニッケル)、Ag(銀)などのめっき膜を各種めっき法等により被着させるようにしてもよい。
【0022】
このような製造方法によって製造される、本実施の形態に係る銅合金導体は、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含む銅合金導体であって、Snを酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有し、かつSn酸化物を、この銅合金導体全体の結晶組織中に80%以上の体積分散率で、平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散してなるものである。
【0023】
本実施の形態に係る銅合金導体およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線ならびに銅合金導体の製造方法では、銅母材11中に、酸素を0.01〜0.1質量%(100〜1000質量ppm)含有させ、かつその酸素量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で適量のSnを含有させることにより、粗大なCu(銅)の酸化物の発生を抑制して、この銅合金線17の銅合金導体全体の結晶組織における結晶粒径を1μm以下のように微細化すると共に、導電率のさらなる向上を達成することができる。
これは、Snの含有量が酸素含有量の2.5倍未満であると、結晶組織中に粗大なCuの酸化物が多数発生し、その存在に起因して、結晶組織全体の結晶粒径が1μm超のように粗大化してしまうが、2.5倍以上とすることにより、粗大なCuの酸化物の発生を抑制して、結晶粒径を1μm以下のような微細なものとすることができるからである。また、Sn含有量が酸素含有量の4.5倍を超えると、そのような過剰なSnの添加に起因して酸素不足となり、酸化物を形成できなくなった余剰のSnが発生し、それが銅母材11中に固溶して、導電率の低下を引き起こす要因となるが、Sn含有量を酸素含有量の4.5倍以下にすることにより、余剰のSnの発生およびそれに起因したSnの固溶の発生を回避して、導電率の低下の解消ないしは導電率のさらなる向上を達成することができるからである。
【0024】
ここで、結晶組織全体におけるSn酸化物の体積分散率は、Sn含有量が酸素含有量の2.5倍未満で最も小さく、それよりもSn含有量が増大するにつれて、例えば80%以上のように大きくなる傾向にある。また、Sn含有量が酸素含有量の4.5倍を超えると、Sn酸化物の体積分散率に変化はほとんど見られないが、上記のように銅母材11の結晶組織中にSnが固溶することに起因すると推測される導電率の低下が生じる。このようなSn酸化物の体積分散率の観点からも、Sn含有量を酸素含有量の2.5倍以上〜4.5倍以下とすることにより、上記のような結晶粒径の微細化の作用と相まって、1μm以下の微細なSn酸化物の体積分散率を80%以上のような高いものとすることができ、延いてはこの銅合金導体からなる銅合金線17の強度の維持またはさらなる向上ならびに導電率のさらなる向上を達成することができる。
【0025】
このように本発明の一実施の形態に係る銅合金導体およびそれを用いたケーブルならびにトロリー線ならびに銅合金導体の製造方法によれば、銅合金導体(本実施の形態では一例として銅合金線17)の機械的強度および耐屈曲特性を維持ないしは向上させつつ、導電率のさらなる向上を達成することができる。
【実施例】
【0026】
上記の実施の形態で説明したような銅合金導体を、銅母材11へのSn添加量および熱間圧延加工の最終圧延温度等の設定を異ならせた複数種類の荒引線を多数作製し、それらに冷間伸線加工を施して、銅合金線17とした。そして、それらの銅合金線17を実施例1、2および比較例1、2の各試料として用いて、それら個々の試料についての引張強さ(MPa)および導電率(%IACS)をそれぞれ調べた。
図2は、実施例1、2および比較例1、2に係る銅合金導体の酸素含有量・Sn含有量
・Sn酸化物含有量比・Sn酸化物のサイズを纏めて示す図、図3は、実施例1、2および比較例1、2に係る銅合金線の引張強さおよび導電率をグラフとして示す図である。
【0027】
実施例1、2では、銅母材11として、0.035質量%の酸素を含有させたものを用いた。そしてその銅母材11に対して、実施例1の試料では、Sn12を0.1質量%含有させることで、Sn酸化物含有量比を2.8とした銅合金溶湯13を作った。また実施例2の試料では、Sn12を0.15質量%含有させることで、Sn酸化物含有量比を4.3とした銅合金溶湯13を作った(F1)。
【0028】
そして、一般的なSCR連続鋳造の温度である1120℃〜1200℃よりも低い1100℃〜1150℃でSCR連続鋳造を行い、銅鋳型を強制水冷することで、このとき得られる鋳造材14を銅合金溶湯13の凝固温度よりも100℃低い温度にまで急速冷却した(F2)。
【0029】
続いて、連続鋳造圧延における一般的な熱間圧延温度よりも50℃〜100℃低い温度である500℃〜600℃に調節した状態で、鋳造材14に多段の熱間圧延を施して、圧延材15とした(F3)。
【0030】
続いて、その圧延材15を洗浄し、巻取りを行って、荒引線16を形成した。この巻取った荒引線16の線径は約8mmであった(F4)。
そして最後に、巻取った荒引線16を送り出して行き、約30℃の温度で冷間圧延加工を行って、所定の線径を有する銅合金線17を作製した(F5)。
【0031】
このようにして、図2に纏めて示したように、実施例1の試料としては、酸素を0.035質量%含有する銅母材11中に、Sn12を0.1質量%含有させた銅合金線17を得た。また、実施例2の試料としては、酸素を0.035質量%含有する銅母材11中に、Sn12を0.15質量%含有させた銅合金線17を得た。
また、比較例1の試料としては、上記の実施例1、2の製造方法とは異なった製造方法により、酸素を0.035質量%含有する銅母材11中にSn12を0.3質量%含有させた、Sn酸化物含有量比が8.1の銅合金線17を得た。また、比較例2の試料としては、上記の実施例1、2の製造方法とは異なった製造方法により、酸素を0.001質量%含有する銅母材11中にSn12を0.3質量%含有させた、Sn酸化物含有量比が300の銅合金線17を得た。
【0032】
すなわち、実施例1、2の試料は、Sn酸化物の酸素量に対する割合およびSn酸化物のサイズ(粒径)の両方共が、上記実施の形態で説明した数値範囲内にあるものとした。これと対照的に、比較例1の試料は、Sn酸化物のサイズについては上記実施の形態で説明した数値範囲内にあるが、Sn酸化物の酸素量に対する含有量比を、上記実施の形態で説明した数値範囲内から敢えて逸脱させたものとした。また比較例2の試料は、Sn酸化物のサイズおよびSn酸化物の酸素量に対する含有量比の両方を、上記実施の形態で説明した数値範囲内から敢えて逸脱させたものとした。
このような各試料の銅合金線17についてそれぞれ、引張特性と導電率とを評価した。
【0033】
その結果、図3に示したように、実施例1、2の銅合金線17はいずれも、引張強さ(強度)を200MPa〜500MPaに保ちつつ、導電率を約100%IACS付近にまで向上させることに成功しており、比較例1、2の銅合金線17よりもさらに高い導電率を有し、かつ高強度を維持していることが確認できた。
【0034】
このような試料を用いた実験から、本実施例に係る銅合金線17およびその製造方法によれば、銅合金導体(本実施例では銅合金線17)の機械的強度および耐屈曲特性を維持
ないしは向上させつつ、導電率のさらなる向上を達成できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施の形態に係る銅合金導体の製造方法における主要な工程の流れを示す図である。
【図2】実施例1、2および比較例1、2に係る銅合金導体の酸素含有量・Sn含有量・酸化物の割合・酸化物のサイズを纏めて示す図である。
【図3】実施例1、2および比較例1、2に係る銅合金線の引張強さおよび導電率をグラフとして示す図である。
【符号の説明】
【0036】
11 銅母材
12 Sn(錫)
13 銅合金溶湯
14 鋳造材
15 圧延材
16 荒引線
17 銅合金線
F1 溶解工程
F2 鋳造工程
F3 熱間圧延工程
F4 洗浄・巻取工程
F5 冷間伸線加工工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を0.01質量%〜0.1質量%含む銅合金導体であって、
錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有し、かつ前記錫の酸化物を当該銅合金導体の結晶組織中に80%以上の体積分散率で平均粒径1μm以下の微小酸化物として分散してなる
ことを特徴とする銅合金導体。
【請求項2】
請求項1記載の銅合金導体において、
当該銅合金導体を加工して線材とし、当該線材の表面に錫またはニッケルもしくは銀のめっき膜を設けてなる
ことを特徴とする銅合金導体。
【請求項3】
請求項2記載の銅合金導体において、
前記線材を複数本撚り合わせてなる
ことを特徴とする銅合金導体。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の銅合金導体からなる製品の表面を絶縁被膜で被覆してなる
ことを特徴とするケーブル。
【請求項5】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の銅合金導体を用いてなる
ことを特徴とするトロリー線。
【請求項6】
0.01質量%〜0.1質量%の酸素を含んだ銅母材に、錫を前記酸素の含有量に対して2.5倍以上〜4.5倍以下の質量比で含有するように添加して、銅合金溶湯を作る工程と、
前記銅合金溶湯を用いて連続鋳造を行って鋳造材を形成すると共に、前記銅合金溶湯を鋳造してなる鋳造材の温度を前記銅合金溶湯の融点よりも15℃以上低い温度にまで急速冷却する工程と、
前記鋳造材を900℃以下とした後、当該鋳造材に対して最終圧延温度が500℃以上〜600℃以下となるように温度を調節しながら熱間圧延加工を施す工程と
を含むことを特徴とする銅合金導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167461(P2009−167461A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6099(P2008−6099)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】