説明

鋼帯の通電加熱方法

【課題】溶接点の前後で通電カットを行う場合であっても鋼帯の最終到達板温を確保する ことができる鋼帯の通電加熱方法を提供する。
【解決手段】連続送給される鋼帯を、該鋼帯の入り側に配置された通電ロールに接触させるとともに、該鋼帯の出側に配置された金属浴に接触させ、前記通電ロールと金属浴を電極とし電極間の鋼帯に通電して加熱する鋼帯の通電加熱方法であって、前記鋼帯の溶接点が通電ロールを通過する際に電流を停止する通電カットにより前記鋼帯の最終到達板温に見合う電流に対して不足する電流を、前記通電カットの前後に通常の設定電流に加えて供給することにより、前記鋼帯の最終到達板温を確保することを特徴とする通電加熱方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続送給される鋼帯を、該鋼帯の入側に配置された通電ロールに接触させるとともに、該鋼帯の出側に配置された金属浴に接触させ、前記通電ロールと金属浴を電極とし電極間の鋼帯に通電して加熱する鋼帯の通電加熱方法に関する。
具体的には、大量生産される鋼帯を連続的に高速送給しつつ、通電ロールを用いて電流を流して加熱する方法であって、例えば鋼帯を焼入れ、焼なまし、メッキ用予熱などの各種熱処理のために加熱する際に用いられる鋼帯の通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯を焼入れ、焼なまし、メッキ用予熱などの各種熱処理のために加熱する際に用いられる鋼帯の通電加熱方法に関しては、従来から種々の提案がなされている。
例えば、実公平6−30844号公報には、連続式溶融亜鉛メッキ設備において、鋼帯が走行する空間を形成したリングトランスの入側に設けた通電ロールと溶融亜鉛浴とを導電部材で接続することにより2次閉回路を構成し、リングトランスによって2次閉回路に誘起する電圧で鋼帯に電流を流し加熱する設備において、鋼帯の抵抗と通電部材の抵抗を特定範囲にするとともに、コンパクトで安価な雰囲気加熱装置を採用した連続式溶融亜鉛メッキ設備が提案されている。
しかし、通電ロールを用いた従来の通電加熱方法においては、鋼帯を接続する溶接点での繋ぎ目が通電ロールを通過する際にスパークによる鋼帯およびロールへの疵発生防止のため通電電流をカットする場合があり、通電電流をカットするとその間は通電ロールと溶融亜鉛浴との間にある鋼帯には電流が流れないため、溶融亜鉛浴に浸入する最終到達板温が低下するという問題があった。
【特許文献1】実公平6−30844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、溶接点を有する鋼帯を通電ロール電極と浴電極を用いて通電し加熱する鋼 帯の通電加熱方法における前述のような従来技術の問題点を解決し、溶接点の前後で通 電カットを行う場合であっても鋼帯の最終到達板温を確保することができる鋼帯の通電 加熱方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果なされたものであり、溶接点が通電ロールを通過する際に行う通電カットにより最終到達板温が低下する量だけ、通電カット前後の電流を多めに供給することにより、鋼帯の最終到達板温を確保することができる鋼帯の通電加熱方法を提供するものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)連続送給される鋼帯を、該鋼帯の入側に配置された通電ロールに接触させるとともに、該鋼帯の出側に配置された金属浴に接触させ、前記通電ロールと金属浴を電極とし電極間の鋼帯に通電して加熱する鋼帯の通電加熱方法であって、前記鋼帯の溶接点が通電ロールを通過する際に電流を停止する通電カットにより前記鋼帯の最終到達板温に見合う電流に対して不足する電流を、前記通電カットの前後に通常の設定電流に加えて供給することにより、前記鋼帯の最終到達板温を確保することを特徴とする通電加熱方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、溶接点が通電ロールを通過する際に行う通電カットにより最終到達板温が低下する量だけ、通電カット前後の電流を多めに供給することにより、通電ロール付近で通電電流をカットしても、鋼帯の最終到達板温を確保することによりメッキ品位を確保することができ、鋼帯の歩留り向上を図ることができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を適用した通電加熱方法の実施形態を図1を参照して説明する。なお、この実施形態は、鋼帯を溶融メッキするために予熱する装置である。
図1Aは、本発明における鋼帯の通電加熱方法の実施形態を例示する図である。
リングトランス20によって鋼帯Wに誘起される電圧は通電ロール3および金属浴30を介して導電部材14を帰線として流れ、鋼帯Wが加熱される。通電ロール3の中心から浴32への浸漬点までの鋼帯Wの長さが加熱長L1となる。
金属浴30は、浴漕31に溶融金属32を満たして構成され、導電部材14の端部が溶融金属32内に浸されている。通電加熱されて送られる鋼帯Wは、方向転換ロールR5によって方向を変えられ、溶融金属32内に浸され、方向転換ロールR6によって方向を転換されて排出される。また、導電部材14は、通電ロール3の直後で上側部分14a、下側部分14bに分かれ、方向転換ロールR5の直前で1つにまとめられ、方向転換ロールR5の直後で再び上側部分14c、下側部分14dに分かれて、上側部分14c、下側部分14dがそれぞれ溶融金属32内に浸される。溶融金属としては、例えば溶融亜鉛、溶融亜鉛系合金が採用できる。
【0007】
図1Bは、図1Aにおける通電ロール周りの詳細図である。
図1において、1は前材、2は後材、3は通電ロール(CDR)、L2は通電ロール中心から溶接点までの距離を示す。
図1に示すように、本発明が加熱対象とする鋼帯は、前材1と後材2が溶接点で接合されており、通電ロール(CDR)3の中心から加熱長L1の距離まで電流が供給されて、常温から例えば450℃程度の最終到達温度まで加熱される。
加熱された鋼帯は、メッキ浴に浸漬されてメッキが施されるが、鋼帯温度が目標とする最終到達温度から外れると不メッキや不均一なメッキが発生してしまう。
一方、溶接点が通電ロール(CDR)3を通過する際には、溶接点の凹凸によってスパークが発生して通電ロール3や鋼帯に疵が発生する場合があるためスパーク防止のため通電を停止する電流カットを行うが、この際の板温低下が問題となっていた。
【0008】
そこで本発明の通電加熱は、溶接点を有する鋼帯を通電ロール(CDR)3と金属浴30を電極として用いて通電し加熱する鋼帯の通電加熱方法であって、前記溶接点が通電ロール3を通過する際に電流を停止する通電カットにより前記鋼帯の最終到達板温に見合う電流に対して不足する電流を、前記通電カットの前後に通常の設定電流に加えて供給することにより、鋼帯の最終到達板温を確保することを特徴とする。
本発明者等は、前材1および後材2を接合する溶接点が通電ロール(CDR)3を通過する際に電流を停止する電流カットによる不足電流の補償量および補償距離について鋭意検討を行った結果、溶接点が通電ロールを通過する際に電流を停止させる通電カットにより最終到達板温が低下する量だけ、通電カットト前後の電流を多めに供給することにより鋼帯の最終到達板温を確保することができ、メッキ品位を確保することができることを見出した。
【実施例】
【0009】
本発明の通電加熱方法を用いて図1Bに示す溶接点を有する鋼帯を図1Aに示す金属浴として溶融亜鉛浴を採用し、下記の条件で加熱した実施例を図2および図3に示す。
<実施条件>
・加熱長L1:18m
・通電カット長さ:1m
・最終到達温度:450℃
【0010】
図2に50℃から最終到達温度である450℃まで加熱したときの板温分布を1m刻みで示す(加熱長L1:18m)。
図2から分かるように、温度分布は2次曲線状になっており、最後の1m(17→18 m間)で30℃の温度上昇となっていることから、1mの通電カットで約30℃のメッキ浴 浸入板温の低下となることがわかった。
従って、目標温度(450℃)に対して不足する30℃の温度補償を行う必要があるため、これを必要な熱量比に換算することによって、
((450+30℃)/450℃)1/2=約1.04倍(対450℃加熱設定)の電流補償を実施すればよいことがわかった。
また、溶接点前後の電流補償を溶接点前後の必要距離だけ行うが、この距離は、加熱長、最終到達温度、通電カット長さの条件より、補償量の過不足が発生しないような長さとして求める。補償量30℃にて、シミュレーションを実施した結果、溶接点前後6m程度が最適となったため、これをベース条件とした。
【0011】
図3は、本発明の通電加熱方法における通電ロール付近での通電電流カットに伴う制御結果を示す図であり、横軸は加熱時間(秒)、縦軸はメッキ浴(ポット)浸入温度(℃)を示す。
板厚3.0mm、板巾1200mmの同サイス゛鋼板の溶接部繋ぎ目を約1秒間通電カットしたところ、図3の点線で示すように、最終到達板温が加熱長に相当する長さ分目標温度450℃より約30℃ほど低下した。
そこで通電カット前後それぞれ6mの電流を、最終到達板温の低下量30℃に相当する分だけ増加させた結果、溶接点前後の最終到達板温は通電「切・入」の瞬間は目標±15℃、残りの部分は目標温度-10℃以内となり、必要な板温精度内に収めることができた。
次に断面積が異なる鋼帯の溶接部繋ぎ目でも同様の制御を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】本発明における鋼帯の通電加熱方法の実施形態を例示する図である。
【図1B】本発明における鋼帯の通電加熱方法の実施形態を例示する図であって、図1Aにおける通電ロール周りの詳細図である。
【図2】本発明の対象とする鋼帯を50℃から最終到達温度である450℃まで加熱時したときの板温分布を示す図である。
【図3】本発明の通電加熱方法における通電ロール付近での通電電流カットに伴う制御結果を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
1 前材
2 後材
3 通電ロール
14 導電部材
20 リングトランス
30 金属浴
31 浴漕
32 溶融金属
R5、R6 方向転換ロール
W 鋼帯
L1 加熱長
L2 通電ロール中心から溶接点までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続送給される鋼帯を、該鋼帯の入側に配置された通電ロールに接触させるとともに、該鋼帯の出側に配置された金属浴に接触させ、前記通電ロールと金属浴を電極とし電極間の鋼帯に通電して加熱する鋼帯の通電加熱方法であって、前記鋼帯の溶接点が通電ロールを通過する際に電流を停止する通電カットにより前記鋼帯の最終到達板温に見合う電流に対して不足する電流を、前記通電カットの前後に通常の設定電流に加えて供給することにより、前記鋼帯の最終到達板温を確保することを特徴とする通電加熱方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−328502(P2006−328502A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155773(P2005−155773)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】