説明

鋼板連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置と冷却制御方法

【課題】軟質鋼板から高強度鋼板(超ハイテン材)までの多種類の薄鋼板製品を製造するために必要な熱処理を、生産性を損なわずに行なうことができる連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置およびその冷却制御方法を提供する。
【解決手段】鋼板連続焼鈍設備の均熱後の1次冷却帯で、その表面にノズルから気体を吹き付けて冷却するガスジェット冷却装置を、通板方向に設けた複数段冷却ユニット7a〜7dの冷却能力を独立して制御可能に、前段側の冷却ユニット7a、7bを緩冷可能に、後段側の冷却ユニット7c、7dを急冷可能になるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多種類の薄鋼板の熱処理を行う鋼板連続焼鈍設備の冷却装置に係り、具体的には、鋼板連続焼鈍設備の急冷帯に配設されるガスジェット冷却装置とその冷却制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延後の薄鋼板は、加工性を向上させるために、加熱・均熱帯、1次および2次冷却帯、再加熱・過時効帯、最終冷却帯を連続して設けた連続焼鈍設備で熱処理が施される。この熱処理では、通常、前記鋼板はその材質に応じて、700〜900℃の温度域に加熱・均熱され、前段側の1次冷却帯および後段側の2次冷却帯で、所要の冷却速度で冷却された後、400℃程度の温度で過時効処理されて、ハンドリング可能な温度域まで最終冷却される。
【0003】
ところで、例えば、軟質の薄鋼板とは異なり、自動車の軽量化などのために使用される高強度鋼板、例えば、強度が600MPaクラスのハイテン材になると、加熱・均熱後に、冷却速度が一定以上の急速調整冷却を必要とする。このような急速調整冷却を可能とする、前段側の1次冷却帯の冷却装置としては、鋼板表面の非酸化および均一冷却が可能で、設備費も比較的安価という利点を有するガスジェット冷却方法を用いた冷却装置が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、後段側の2次冷却帯の冷却装置としては、内部冷却された多段ロールに鋼板を押し付けながら通過させて冷却するロール冷却装置や水などの冷却媒体を用いた高冷却能の浸漬冷却装置などが知られている。
【特許文献1】特開平4−160120号公報(第2頁〜第4頁)
【特許文献2】特開2002−3956号公報([0006]〜[0018])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高強度鋼板に要求される強度、伸びなどの機械的特性は年々高度なものとなり、それに伴って製造方法も複雑化してきている。特に、強度が1000MPaクラス以上の高強度鋼板(超ハイテン材)では、加熱・均熱後の急冷開始温度と急冷終了温度およびその間の冷却速度をより厳密に管理する必要がある。2次冷却にロール冷却装置を用いる場合のハイテン材、超ハイテン材の冷却条件の一例を表1に示す。なお、表1の冷却終了温度は、2次冷却のロール冷却終了温度を示す。
【0005】
【表1】

【0006】
表1から、組織がオーステナイトとベイナイトからなる高強度鋼板を製造するためには、フェライト組織を出現させないために、約800〜500℃の温度範囲のフェライト変態域を急冷し、かつ、マルテンサイト組織を出現させないために、急冷後、約400℃の過時効温度までを徐冷する必要がある。前記特許文献1、2に開示されたガスジェット冷却装置では、同じ冷却ユニットが直列に配置されているだけであるため、また、一般に高強度鋼板の均熱終了温度は、組織の均一化および焼入れ性確保のため850〜900℃程度に設定され、この均熱終了温度から800〜500℃の温度域をフェライト組織が出現しないために必要な冷却速度で急冷しようとすると、冷却終了温度が低くなり過ぎる虞があり、また、冷却初期の900〜800℃の急冷を要しない温度域までも急冷することになって、冷却装置が必要以上に大掛かりなものとなり、冷却効率が低下する。
【0007】
一方、均熱終了後の鋼板を、1次冷却帯では殆んど冷却せずに2次冷却帯のロール冷却装置で急冷する場合には、冷却能力は高いものの、高温からのロール冷却では鋼板の熱収縮が大きいため、反りや波形状が発生し、冷却ロールとの幅方向の均一接触が得られにくく均一冷却が困難となる。また、均熱終了後、2次冷却帯の浸漬冷却装置で水焼入れすることにより高強度鋼板を製造する場合には、急冷開始温度、即ち、均熱終了温度を高くする方が好ましいが、水焼入れ時の鋼板の温度降下が速いため、鋼板幅方向形状が歪み、平坦な高強度鋼板を得ることが困難となる。さらに、均熱終了後の鋼板を、ガスジェット冷却装置で、従来の水焼き入れ開始温度よりも低い、400℃以下の温度域まで急冷した後に水焼入れしようとする場合には、従来のガスジェット冷却装置では冷却能力が不足して急冷条件を満たせず、所望の高強度鋼板を製造することは困難である。仮に、この水焼入れによる方法で所望の高強度鋼板が製造可能となっても、前記ガスジェット冷却装置の冷却能力不足を解消して水焼入れ開始温度を従来よりも低くするためには、ガスジェット冷却装置を最大冷却能力状態にして、ライン速度、即ち、鋼板通過速度を遅くして冷却時間を長く確保する必要があり、生産性が低下するようになる。このように、従来の冷却装置を用いた連続焼鈍設備で熱処理により、均熱後の冷却速度がとくに指定されない軟質鋼板から、変態温度域での厳密な冷却速度の管理が要求される高強度鋼板(超ハイテン材)までの多種類の薄鋼板製品を製造することは非常に困難となっている。
【0008】
この発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、その課題は、軟質鋼板から高強度鋼板(超ハイテン材)までの多種類の薄鋼板製品を製造するために必要な熱処理を、生産性を損なわずに行なうことができる連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置およびその冷却制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0010】
即ち、請求項1に係る連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置は、鋼板を均熱後の1次冷却帯で、その表面にノズルから気体を吹き付けて冷却する連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置であって、前記冷却装置が鋼板の通板方向に設けた独立して冷却能力を制御できる複数段の冷却ユニットからなり、前段側に少なくとも1段の緩冷可能な冷却ユニットを配置し、後段側に少なくとも1段の急冷可能な冷却ユニットを配置したことを特徴とする。
【0011】
ここで、前段側とは冷却装置の中程から上流側を言い、後段側とは同中程から下流側を言う。また、緩冷とは、所要の冷却速度を得るために、冷却装置の各冷却ユニットを、例えば、冷媒ガス流量を等しくするなど、等しい冷却能力にして冷却する場合よりも小さな冷却能力にして冷却することを意味し、急冷とはこの逆で、大きな冷却能力で冷却することを意味する。
【0012】
このようにすれば、前述の、鋼板組織がオーステナイトとベイナイトからなる高強度鋼板(ハイテン材、超ハイテン材)を製造する場合、上記1次冷却帯のガスジェット冷却装置の前段側の冷却ユニットで、通常900℃程度の均熱温度から約800℃までを緩冷却し、後段側の冷却ユニットで約800〜500℃まで温度範囲で急速冷却することが可能となり、上記鋼板組織を実現するために必要な冷却速度で1次冷却を行うことができる。なお、1次冷却終了後、500℃から400℃程度の過時効温度までの温度域は、2次冷却帯に通常設置される内部水冷したロール冷却装置で冷却することができる。このようにして必要とする鋼板組織が得られ、また、1次冷却終了温度を約500℃の低温にできるため、2次冷却帯でのロール冷却による鋼板の変形も生じ難く、鋼板組織と安定した鋼板形状を同時に満足する熱処理を施すことができる。
【0013】
また、前記ロール冷却装置とともに、2次冷却帯に通常並設される、冷却媒体として水などを使用する浸漬冷却装置を用いて高強度鋼板を製造する場合、前記後段側の急冷可能な冷却ユニットにより、1次冷却帯で約500℃の低温域まで冷却できるため低温域から浸漬冷却を行うことができ、鋼板の変形が抑制される。従って、2次冷却として浸漬冷却を行なうことによっても所望の高強度鋼板(超ハイテン材)を製造することが可能となる。さらに、冷却装置自体も、特に前段側で過剰な冷却能力を具備する必要がないため、全体として冷却装置が必要以上に大型化せずに済む。
【0014】
請求項2に係る連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置は、前記後段側の急冷可能な冷却ユニットが、前記前段側の緩冷可能な冷却ユニットの冷却能力に対して、少なくとも2倍の冷却能力を有することを特徴とする。
【0015】
ここで、2倍の冷却能力とは、厳密には、熱処理対象とする範囲の同一厚さの鋼板に対して、800〜500℃の温度域における抜熱流束が2倍であること、即ち、各冷却ユニットの冷却媒体ガスの温度が同じ場合には、各冷却ユニットの最大出力ガス流量時に得られる800〜500℃の温度域における最大平均噴流熱伝達率の比が2倍であることを意味する。
【0016】
このようにすれば、連続焼鈍処理の対象上限厚の鋼板に対しても、高強度鋼板の組織形成に必要な約800〜500℃まで温度範囲での所要の冷却を満たし、かつ、2次冷却として浸漬冷却を行う場合でも、通板速度をその上限値からあまり低下させず冷却開始温度をさらに下げることができるため、鋼板の冷却変形が抑制されて安定した形状の高強度鋼板(超ハイテン材)の製造が可能となる。
【0017】
請求項3に係る連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置は、前記冷却装置の入側および出側、ならびに入側冷却ユニットと出側冷却ユニット間の中間位置にそれぞれ鋼板の表面温度計を設けたことを特徴とする。
【0018】
このように、冷却装置の入出側のみならず、中間位置にも表面温度計を設置することにより、高強度鋼板の組織形成に必要な冷却速度をより精度よく制御することが可能となる。
【0019】
請求項4に係る鋼板連続焼鈍設備は、少なくとも加熱帯と、均熱帯と、1次冷却帯と、2次冷却帯と、過時効帯を備え、前記1次冷却帯にガスジェット冷却装置が配設され、前記2次冷却帯に浸漬冷却装置もしくはロール冷却装置またはこれらの2つの冷却装置が並設され、前記加熱帯で加熱し、前記均熱帯で均熱した後の鋼板を、前記1次および2次冷却帯で所要の冷却速度で冷却した後、前記過時効帯で過時効処理を施す鋼板の連続焼鈍設備であって、前記1次冷却帯のガスジェット冷却装置が請求項1から3のいずれかに記載されたガスジェット冷却装置であることを特徴とする。
【0020】
このように、鋼板連続焼鈍設備の1次冷却帯に、上記のガスジェット冷却装置を配設することにより、軟質鋼板から高強度鋼板(超ハイテン材)までの多種類の薄鋼板製品を製造するために必要な熱処理を、生産性を損なわずに行なうことができる。
【0021】
請求項5に係る連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置の冷却制御方法は、鋼板を均熱した後にその表面にノズルから気体を吹き付けて冷却する連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置における冷却制御方法であって、前記冷却装置が鋼板の通板方向に設けた独立して冷却能力を制御できる複数段の冷却ユニットからなり、前記冷却装置の入側の鋼板温度と、前記冷却装置出側の目標温度またはこの出側目標温度に加えて入側冷却ユニットと出側冷却ユニットの中間位置での目標鋼板温度と、鋼板寸法と、通板速度とに基づいて前記複数段の冷却ユニットの冷却能力を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
この発明では、連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置で、前段側に緩冷可能な冷却ユニットを配置し、後段側に急冷可能な冷却ユニットを配置するようにしたので、高強度鋼板の組織を実現するために必要な冷却速度に適合した効率のよい冷却が可能となる。また、後段側の急冷可能な冷却ユニットにより、処理対象の最大厚さの鋼板に対しても、1次冷却終了温度を低温にできるため、2次冷却帯でのロール冷却や浸漬冷却時に、鋼板の変形が抑制され、鋼板組織と安定した鋼板形状を同時に満足する熱処理を施すことができる。それにより、軟質鋼板から高強度鋼板(超ハイテン材)までの多種類の薄鋼板製品を製造するために必要な連続焼鈍処理を、生産性を損なわずに行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、この発明の実施形態を添付の図1から図4に基づいて説明する。
【0024】
図1は、薄鋼板の連続焼鈍炉1の要部を示したもので、入側設備から表面清浄処理などの前処理が施された鋼板は、加熱帯2aで再結晶温度以上の温度域、例えば、高強度鋼板の場合には、850〜900℃の温度域に加熱された後、均熱帯2bで組織の均一化および焼入れ性確保等のために均熱され、急冷帯3の前段側の1次冷却帯3aおよび2次冷却帯3bで所要の冷却速度で急冷される。そして、2次冷却帯3bで、液体浸漬冷却装置により常温まで急冷された場合の鋼板は、再加熱帯4で過時効温度にまで再加熱された後、過時効帯5でこの温度に保持された後、最終冷却帯6でハンドリング可能な温度にまで冷却される。
【0025】
図2に示すように、炉殻F内に収容された前記1次冷却帯3aには、4段の冷却ユニット7a、7b、7c、7dが通板方向に沿って配設され、前段側の冷却ユニット7a、7bおよび後段側の冷却ユニット7c、7dには、ガス噴射用のノズルが、鋼板の全幅にわたって均一冷却が可能なように、同じノズル密度(ノズル個数/鋼板冷却面積)で、例えば、格子状または千鳥状に、鋼板の両面から冷却できるように多数配置されている。各冷却ユニット7a〜7dの各ノズルから、例えば、前記焼鈍炉の一般的な非酸化性雰囲気ガスであるHNXガス(組成:H2ガス5〜10%、N2ガス95〜90%)を冷却媒体として、この冷媒ガスが均等に噴射されるように、各ノズルはヘッダーを介してファン8a〜8dに接続されている。前記冷却媒体の非酸化性ガスは循環使用されるため、鋼板に吹き付けられた戻りのガスは、ガス冷却装置9により所定の冷却媒体温度にまで冷却された後に、各ファン8a〜8dから各冷却ユニット7a〜7dにそれぞれ供給される。各ファン8a〜8dの冷却媒体ガスの吐出側には、流量調整器(図示省略)がそれぞれ設けられている。冷却ユニット7aの入側、冷却ユニット7bの出側および冷却ユニット7dの出側には鋼板表面温度計10a、10b、10cがそれぞれ設置されている。前記1次冷却帯3aに引き続いて設けられた2次冷却帯3bには、水冷等により内部が冷却されたロール11aを多段に配置したロール冷却装置11および水などを冷却媒体とした液体浸漬装置12が並設され、高強度鋼板の要求特性に応じて使い分けられる。
【0026】
前段側の冷却ユニット7a、7bは緩冷可能なように形成され、後段側の冷却ユニット7c、7dは急冷可能なように形成されている。即ち、冷却ユニット7a、7bの最大冷却能力は、とくに高強度鋼板(超ハイテン材)を製造するために冷却速度のコントロールが必要な(900〜500℃の)温度域を、所定の冷却時間で各冷却ユニット7a〜7dを等しい冷却能力(平均冷却能力)にして冷却する場合よりも小さな冷却能力となるように設計されている。この逆に、冷却ユニット7c、7dの最大冷却能力は、前記平均冷却能力よりも大きくなるように設計されている。具体的には、各冷却ユニット7a〜7dのノズル構成は同一にして、冷却ユニット7a、7bのファン8a、8bの容量(最大出力ガス流量)に対して、冷却ユニット7c、7dのファン8c、8dの容量(最大出力ガス流量)を大きくすることにより、前段側での緩冷および後段側での急冷が可能となる。さらに、後段側で、循環使用される冷媒ガスのガス冷却装置9、9による冷却後の温度、即ち冷却ユニット7c、7dへ吐出する冷媒ガス温度がより低くなるように、前記ガス冷却装置9、9の熱交換能力を大きくする装置構成にすれば、後段側の冷却ユニット7c、7dでより効果的な急冷を実現することができる。
【0027】
前記冷却ユニット7aの入側、冷却ユニット7bの出側および冷却ユニット7dの出側にそれぞれ設置された鋼板表面温度計10a、10b、10cからの測温データは、鋼板寸法(板厚)および通板速度とともに演算器に取り込まれ、冷却ユニット7bの出側(前段側冷却ユニット出側)、および冷却ユニット7dの出側(後段側冷却ユニットの出側)のそれぞれの目標温度と比較され、その偏差に基づいて、各冷却ユニット7a〜7dのファン8a〜8dの冷媒ガスの吐出流量が、目標出側温度との偏差が解消するように制御され、冷却能力が調整される。なお、前記温度偏差と制御すべき冷媒ガスの吐出流量は、予め、鋼板寸法(板厚)および通板速度に対応させて算出しておくことができる。
【0028】
図3(a)および(b)は、上述のように、1次冷却帯のガスジェット冷却装置の前段側を緩冷却とし、後段側を急冷却の場合の鋼板冷却パターンを、2次冷却帯にロール冷却装置を用いる場合と、液体浸漬冷却装置を用いる場合について模式的に示したものである。また、図4(a)および(b)は、前記ガスジェット冷却の冷却ユニット全段を、緩急を付けずに等しい冷却能力で冷却した場合の鋼板冷却パターンを模式的に示したものである。これらの模式図から、2次冷却帯がロール冷却装置または液体浸漬装置のいずれの場合も、前段側で緩冷却、後段側で急冷却の2段冷却を行う方が、高強度鋼板(ハイテン材、超ハイテン材)で厳密な冷却速度のコントロール、即ち、急冷が必要な温度域(800〜500℃または800〜400℃)での冷却速度を大きくすることができ、均熱後の鋼板を効率的に冷却できることがわかる。この緩急2段冷却は、とくに前記温度域で、30℃/sとより急冷が必要な超ハイテン材に対して効果的である。
【実施例】
【0029】
図1に要部を示した連続焼鈍設備の急冷帯1の1次冷却帯に、図2に示した、冷却域の長さがいずれも同じである、前段側冷却ユニット7a、7b、後段側冷却ユニット7c、7dの4段のガスジェット冷却装置を配設し、処理対象の最大板厚寸法2.6mmで、冷却パスRQ用および冷却パスWQ用にそれぞれ成分設計した2種類の高強度鋼板(超ハイテン材)用被処理材を、いずれも冷却開始温度を900℃としてガスジェット冷却した後、2次冷却帯でロール冷却(冷却パスRQ)と水への浸漬冷却(冷却パスWQ)をそれぞれ施して、高強度鋼板(超ハイテン材)を製造した。その際のガスジェット冷却の詳細を表1に示す。冷却開始温度、即ち、冷却ユニット7aの入側の鋼板温度は、冷却パスRQ、WQともに900℃であり、最大通板速度はいずれの冷却パスの場合も60m/minであり、前段側冷却ユニット7a、7bと後段側の冷却ユニット7c、7dとの冷却能力比を、冷却パスRQでは1:1.5、冷却パスWQでは1:2とした。
【0030】
【表2】

【0031】
表2から、後段側の冷却ユニット7c、7dでの急冷により、冷却パスRQの場合は800〜500℃の温度域を、冷却パスWQの場合は800〜400℃の温度域を、いずれも超ハイテン材の製造に必要な冷却速度30℃/sが実現されているのがわかる。冷却パスRQの場合は、前段側の冷却ユニット7a、7bでは、冷却開始温度900℃からの緩冷却により、冷却ユニット7b出側温度である中間温度、即ち後段側での冷却開始温度を、通板速度を最大通板速度から低下させずに、800℃に調整することが可能となっている。一方、冷却パスWQの場合には、水への浸漬冷却による鋼板の変形を抑制するために、ガスジェット冷却終了温度を400℃と、冷却パスRQの場合よりも低くする必要があるため、実施例のガスジェット冷却装置の設備能力上の制約から、通板速度を最大通板速度から25%程度低下させている。この場合も、前段側冷却ユニット7a、7bと後段側冷却ユニット7c、7dの冷却能力比を1:2とした、前段側で冷却開始温度900℃からの緩冷却により、後段側での急冷開始温度を800℃に調整することが可能となっている。即ち、前段側の冷却ユニット7a、7bの冷却能力に対して、後段側の冷却ユニット7c、7dの冷却能力を2倍にまで高めることによって、前述の超ハイテン材に必要な冷却速度が実現可能となっている。なお、前記冷却能力比を1:2に保って、ガスジェット冷却能力の設備能力を実施例の場合の設備能力よりも上昇させることにより、冷却パスWQの場合にも、通板速度を最大通板速度から低下させずに、超ハイテン材の製造に必要な前述の冷却速度を実現することが可能である。
【0032】
これに対し、前段側緩冷却、後段側急冷却の2段冷却を行わず、冷却ユニット7a〜7dで一様に冷却した場合、即ち、前段側と後段側の冷却能力比を1:1とした場合、冷却パスRQでは、900〜500℃のガスジェット冷却温度域で冷却速度が約20℃/sとなり、所要の冷却速度30℃/sが得られない。また、冷却パスWQでは、900〜400℃の同冷却温度域で冷却速度が約15℃/sとなり、2次冷却として浸漬冷却を行う場合の所要の冷却速度30℃/sに到達しない。また、各冷却ユニットの冷却能力を一様に高めて所要の冷却速度を実現しようとすれば、ガスジェット冷却終了温度が低くなり過ぎ、超ハイテン材には有害な急冷組織が発生する虞か極めて高くなり、超ハイテン材に必要な組織が得られない。
【0033】
なお、緩冷却を行う前段側の冷却ユニット7a、7b、および急冷却を行う後段側の冷却ユニット7c、7dは、必ずしもそれぞれ2つの冷却ユニットで同じ冷却能力に設定する必要はなく、前段側、後段側ともに、冷却ユニットの冷却能力を個別に調節して、所要の冷却速度を実現することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明は、高強度鋼板、中でも強度がおよそ1000MPaクラスの超ハイテン材の製造を可能とする薄鋼板の連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】鋼板連続焼鈍炉の要部を示す説明図である。
【図2】この発明の実施形態のガスジェット冷却装置の説明図である。
【図3】図2のガスジェット冷却装置による鋼板の冷却パターンの説明図である。
【図4】従来技術のガスジェット冷却装置による鋼板の冷却パターンの説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・連続焼鈍炉
2a・・・加熱帯
2b・・・均熱帯
3・・・急冷帯
3a・・・1次冷却帯
3b・・・2次冷却帯
4・・・再加熱帯
5・・・過時効帯
6・・・最終冷却帯
7a〜7d・・・冷却ユニット
8a〜8d・・・ファン
9・・・ガス冷却装置
10a〜10c・・・鋼板表面温度計
11・・・ロール冷却装置
11a・・・ロール
12・・・液体浸漬装置
D・・・ダクト
F・・・炉殻
GA、GB・・・ガスジェット冷却装置
P・・・鋼板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を均熱後の1次冷却帯で、その表面にノズルから気体を吹き付けて冷却する連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置であって、前記冷却装置が鋼板の通板方向に設けた独立して冷却能力を制御できる複数段の冷却ユニットからなり、前段側に少なくとも1段の緩冷可能な冷却ユニットを配置し、後段側に少なくとも1段の急冷可能な冷却ユニットを配置したことを特徴とする連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置。
【請求項2】
前記後段側の急冷可能な冷却ユニットが、前記前段側の緩冷可能な冷却ユニットの冷却能力に対して、少なくとも2倍の冷却能力を有することを特徴とする請求項1に記載の連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置。
【請求項3】
前記冷却装置の入側および出側、ならびに入側冷却ユニットと出側冷却ユニット間の中間位置にそれぞれ鋼板の表面温度計を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置。
【請求項4】
少なくとも加熱帯と、均熱帯と、1次冷却帯と、2次冷却帯と、過時効帯を備え、前記1次冷却帯にガスジェット冷却装置が配設され、前記2次冷却帯に浸漬冷却装置もしくはロール冷却装置またはこれらの2つの冷却装置が並設され、前記加熱帯で加熱し、前記均熱帯で均熱した後の鋼板を、前記1次および2次冷却帯で所要の冷却速度で冷却した後、前記過時効帯で過時効処理を施す鋼板の連続焼鈍設備であって、前記1次冷却帯のガスジェット冷却装置が請求項1から3のいずれかに記載されたガスジェット冷却装置であることを特徴とする鋼板連続焼鈍設備。
【請求項5】
鋼板を均熱した後にその表面にノズルから気体を吹き付けて冷却する連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置における冷却制御方法であって、前記冷却装置が鋼板の通板方向に設けた独立して冷却能力を制御できる複数段の冷却ユニットからなり、前記冷却装置の入側の鋼板温度と、前記冷却装置出側の目標温度またはこの出側目標温度に加えて入側冷却ユニットと出側冷却ユニットの中間位置での目標鋼板温度と、鋼板寸法と、通板速度とに基づいて前記複数段の冷却ユニットの冷却能力を制御することを特徴とする連続焼鈍設備のガスジェット冷却装置における冷却制御方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−124817(P2006−124817A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318311(P2004−318311)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】