説明

鋼構造物の亀裂調査方法および亀裂調査装置

【課題】速やかに、正確な検査データを得ることができ、現場での調査作業の効率および検査データの品質の向上を図り、検査データの把握、検討評価が容易な鋼構造物の亀裂調査方法および亀裂調査装置を提案する。
【解決手段】調査対象部を正対するカメラ(2)により撮像して、外観画像を記録し、調査対象部に対し、スリット光投光器(3)を、その光軸(3a)が、カメラ(2)の視野中心(2a)と所定の傾斜角(θ)となるように設置し、スリット光投光器(3)よりスリット光を投射してカメラ(2)により撮像し、調査対象部の断面形状画像を記録し、磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シート(1)を、調査対象部の表面に貼付した後、調査対象部を磁化させて、磁粉の配向を変化させ、磁気シート(1)表面に生ずる明暗の状態をカメラ(2)により撮像し、表面亀裂画像を記録するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型鋼構造物例えば橋梁の鋼床版などに発生する亀裂の調査を行う鋼構造物の亀裂調査方法および亀裂調査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図14の(a)およびそのA−A断面を示す図14の(b)は、河川などの両岸に差し渡された鋼床版46を、箱桁45を介して複数の橋脚47で支持して成る一般的な橋梁40の例を示したものである。車両が通行する鋼床版46は、図14(b)(c)に示すように、鋼板41を複数のU型リブ43で補強し、上面にアスファルト42を敷設し、その両側に壁高欄44を立設した構成である。この鋼板41とU型リブ43との溶接部41aには、長期使用中に車両重量などによる繰返し応力が作用して亀裂が発生することがあり、放置しておくと、亀裂が進展して最終的に鋼床版の破損事故につながる危険があり、定期的に調査して健全度を把握する必要がある。
【0003】
従来の鋼構造物の表面亀裂の調査方法を図15及び図16に示す。まず、検査対象である溶接部36周辺の鋼材35の上面を前処理(塗膜除去など)する。つぎに、前処理した面に、磁粉または磁粉入り液剤38を塗布したのち、磁化器39によって検査部を磁化させる。このとき、亀裂が存在すると、その部分に局部磁石が形成され、塗布された磁粉が吸着する。そうすると、亀裂部分がはっきり示されるので、この状態で亀裂の有無を観察し、(亀裂部分では)この磁粉の模様から亀裂35aの位置、大きさ等を検知し、必要に応じて写真撮影して記録するという磁粉探傷法が一般的である。
あるいは、鋼材上面の磁粉38aを拭き取って、亀裂内に残った磁粉38aを観察する方法もあり、この場合には、亀裂35a内に入り込んだ磁粉38aはそのまま亀裂内に残存して線状に明示されるので、亀裂が判定しやすい。
また、被検査対象の表面に磁気探傷シートを密着させて磁気による検査を行う磁気探傷方法が提案されているが、検査結果の記録手法やその検査データの表示手法については提案されていなかった(特許文献1参照方)。
【0004】
上記従来の磁粉探傷法では、鋼材35の表面に汚れや塗装層37が存在する場合には、微小な亀裂の見逃しや、塗装層37の傷内に残った磁粉38aを亀裂と誤認する懸念があり、また、図14(c)に示す橋梁40の鋼板41とU型リブ43との溶接部41aのように、検査面が下向きの場合には、点検作業が難しく多くの時間がかかり、報告書作成に当たっては、点検個所と調査結果をその都度、関連付けて整理する必要があり多くの手間がかかっていた。さらに、従来法は点検者の知識と経験に負うところが多く、それが充分でない場合には調査結果に個人差や誤差が生じ易く、補修工事に当たって適正な判断が出来ないなどの課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−333484公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述に鑑み、点検者の知識と経験に頼ることなく、速やかに、正確な検査データを得ることができ、調査場所での調査作業の効率および検査データの品質の向上を図る、また、検査データの把握、検討評価が容易な鋼構造物の亀裂調査方法および亀裂調査装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下(1)〜(9)の手段を提案する。
(1)第1の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法は、調査対象部を正対するカメラにより撮像し、外観画像を記録する工程と、調査対象部に対し、スリット光投光器を、その光軸が、上記カメラの視野中心と所定の傾斜角となるように設置し、スリット光投光器よりスリット光を投射してカメラにより撮像し、調査対象部の断面形状画像を記録する工程と、磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、調査対象部を磁化させて、磁粉の配向を変化させ、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像し、表面亀裂画像を記録する工程と、よりなることを特徴とするものである。
なお、上記各工程は、上記記載順序で行うのが好ましいが、逆順序またはその他の順序で行ってもよい。
(2)第2の手段は、第1の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法において、調査対象部の、上記外観画像、上記断面形状画像および上記表面亀裂画像の各検査データを、パソコンへ伝送し、画像処理して合成画像を作成し、この合成画像に、調査対象部情報を明記して記録することを特徴とするものである。
上記調査対象部情報は、調査対象部の断面形状寸法、調査場所符号、調査日時、点検員の判断結果などの情報である。
(3)第3の手段は、第2の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法において、上記合成画像データを点検者用視覚装置へ送って現状確認データに供すると共に、必要に応じてインターネットを介して関係機関へ伝送することを特徴とするものである。
(4)第4の手段は、第2の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法において、調査対象である鋼構造物の設計図面を、予めパソコンに保存しておき、この図面データを現場で呼び出し、上記各検査データを、図面データ上のマウスで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存することを特徴とするものである。
(5)第5の手段は、第2の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法において、調査対象部である鋼構造物の写真画面を、予めパソコンに保存しておき、この写真データを点検場所で呼び出し、上記各検査データを、写真データ上のマウスで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存することを特徴とするものである。
【0008】
(6)第6に手段に係る鋼構造物の亀裂調査装置は、本体フレームと、同本体フレームに取付けられている一対のアームと、同アームの先端にそれぞれ連結されている磁極機能を有すユニバーサルヨークと、同ユニバーサルヨーク相互を、電磁コイルで接続して成る磁化器と、上記本体フレームに設置されている、調査対象部を撮影するカメラ及び同調査対象部の断面形状を検出するためのスリット光を投射するスリット光投光器とを備えたことを特徴とするものである。
(7)第7の手段は、第6の手段に係る亀裂調査装置において、上記スリット光投光器は、その光軸が、上記カメラの視野中心と所定の傾斜角を付けて設置されていることを特徴とするものである。
【0009】
(8)第8の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法は、磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、同調査対象部を磁化させて、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像して表面亀裂画像を取得し、同表面亀裂画像の検査データを、予め調査対象である鋼構造物の写真画面を保存しているパソコンへ伝送し、画像処理して合成画像を作成し、この合成画像に、調査対象部情報を明記して記録することを特徴とするものである。
上記調査対象部情報は、調査対象部の断面形状寸法、調査場所符号、調査日時、点検員の判断結果などの情報である。なお、上記合成画像への調査情報の入力は、合成画像への直接入力または関連付けて貼付入力してもよい。
(9)第9の手段に係る鋼構造物の亀裂調査方法は、磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、同調査対象部を磁化させて、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像して表面亀裂画像を取得し、同表面亀裂画像の検査データを、パソコンに予め保存しておいた調査対象である鋼構造物の設計図面上又は写真画面上の該当位置に順次入力し、保存することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の手段よりなる請求項1に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、調査対象部の外観画像と、その断面形状画像、および表面亀裂画像を記録するものであり、それら各画像を記録しておくことで、欠陥の修理対応の緊急度や修理要否の判定を正確に検討でき、鋼構造物の安全性が確保できる。
第2の手段よりなる請求項2に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、前記請求項1の作用効果を奏すると共に、調査対象部の外観画像上に、表面亀裂画像および又は断面形状画像の検査データが合成画像として記録でき、また、調査対象部が明確に特定できるので、検査データの把握、検討評価が容易に行い得る。
第3の手段よりなる請求項3に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、前記請求項2の作用効果を奏すると共に、点検者の点検作業が容易に行い得る。また、調査結果および欠陥修理対応などを必要とする場合の、関係機関への連絡がリアルタイムに行い得る。
第4の手段よりなる請求項4に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、前記請求項2の作用効果を奏すると共に、調査対象である鋼構造物の設計図面の画面上に各検査データが入力されているので、欠陥箇所位置が迅速、正確に把握でき、更に、欠陥修理対応要否検討などが迅速に行い得る。
第5の手段よりなる請求項5に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、前記請求項2の作用効果を奏すると共に、調査対象部の写真画面上に各検査データが入力されているので、欠陥箇所位置が迅速、正確に把握でき、更に、欠陥修理対応要否検討などが迅速、容易に行い得る。
【0011】
第6の手段よりなる請求項6に記載の鋼構造物の亀裂調査装置は、調査対象部上にアームが跨るように設置し、カメラにより調査対象部を撮影すれば、調査対象部の外観画像および磁気シートに現れた表面亀裂状態を画像記録できると共に、スリット光投光器よりスリット光を投射した状態でカメラ撮像することで調査対象部の断面形状画像を記録でき、磁気シートによる磁気探傷検査を効率よく行い得る。また、本体フレームに一対のアーム、カメラ及びスリット光投光器が、アームにユニバーサルヨークが設置されているものであり、本装置は一体化しており、容易に可搬可能であり、点検場所での磁気探傷亀裂調査を効率よく行い得る。
第7の手段よりなる請求項7に記載の鋼構造物の亀裂調査装置は、前記請求項6の作用効果を奏すると共に、スリット光投光器がカメラの視野中心に対し、所定の傾斜角で設けられているので、複数の調査対象部の断面形状画像が、常に所定の傾斜角度条件で得ることができ、得られる複数の断面形状画像がムラのない均一品質のものとなり、結果として正確な磁気探傷検査が行い得る。
【0012】
第8の手段よりなる請求項8に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、磁気探傷検査で得られた表面亀裂画像の検査データが、調査対象である鋼構造物の写真画面との合成画像として記録されているので、多数の調査対象部を含めた鋼構造物全体の検査データが一見して把握でき、欠陥修理などの対応策および修理工法などの検討が迅速容易に行い得る。また、合成画像に調査対象部情報を入力しているので、検査データの取り違えが防止でき、確実、正確に、上記対応修理が行い得る。
第9の手段よりなる請求項9に記載の鋼構造物の亀裂調査方法は、調査対象である鋼構造物の設計図面上又は写真画面上に、磁気探傷検査で得られた表面亀裂画像の検査データが正確に、一見して把握できるように入力でき、欠陥修理などの対応検討が迅速容易に行い得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る鋼構造物の亀裂調査方法および亀裂調査装置を、図1ないし図13に基づき説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1に係る鋼構造物の亀裂調査方法の全体説明図、図2は図1の点検ユニット部分の説明図、図3の(a)は図2における磁気シート(MTシート)貼付状態を説明する側面図、(b)は(a)の正面図である。図4は図3の磁気シートの断面構成図、図5の(a)は本発明の実施例1に用いる磁気シートの水平磁場負荷時での作用説明図、(b)は同左の垂直磁場負荷時での作用説明図である。図6の(a)は本発明の実施例1に用いる磁気シートの使用方法を説明する正面図、(b)は(a)の平面図である。図7は本発明の実施例1に係る亀裂調査装置(点検ユニット)の正面図、図8は図7の側面図、図9の(a)は本発明の実施例1に係る調査対象部の断面形状検出方法を説明する斜視図、(b)は(a)で得られた断面形状画像である。図10は本発明の実施例1に係る調査データの作成手順を示す説明図である。
本発明は、調査場所である現場で、短時間で亀裂情報を正確に取得することができる鋼構造物の亀裂調査方法およびその装置を提供するものであり、以下、図面に基づき説明する。
図1は、橋梁40(図14(a)〜(c)参照下さい)の鋼床版46を対象とした本発明の亀裂調査方法による調査作業状況を示したもので、調査対象である鋼板41とU型リブ43との溶接部41aの鋼面には図2に示す磁気シート(以下、MTシートと称す)1が貼付されている。点検員は、足場14上から携帯式の点検ユニット10(図7、8参照方)を、溶接部41aを跨いで鋼面に貼り付け、磁化させて亀裂を検出、撮影し、その調査データはケーブル13aを通じて逐次、点検員が所持する携帯型のパソコン12へ伝送され、ここで画像処理されて画像データとして記録される。上記ケーブル13aは点検ユニット10への電源供給機能も有している。
また、画像データは、点検員が所持する視覚装置(例えばヘッドマウントディスプレーなど)11へ伝送され、点検員はその場で画像確認することができ、さらに画像データは、携帯型のパソコン12よりインターネットを通じて関係機関(関係者)へ配信できるようになっている。なお、点検員による画像確認は携帯型のパソコン12の画像を視認することでも行い得る。また、ケーブル13aを介さずに無線方式により、上記調査データを携帯型のパソコン12及び又は別置きしているパソコンに送信してもよい。
【0015】
図2および図3(a)、(b)は、調査対象の溶接部41aの詳細を示したもので、図示するように、溶接部41a周辺の鋼面にはMTシート1が貼付されており、このMTシート1を点検ユニット10に備えた磁化器7(図7参照方)で磁化し、亀裂を検知する。
MTシート1は、図4に示すように、柔軟な透明シート1aの表面に、磁粉を内蔵させたマイクロカプセル1bを配列して、黒色インキ1cを介して印刷加工したもので、このMTシート1に、図5(a)のように水平磁場iを与えると、カプセル1b内の磁粉が水平に配向する。また、図5(b)のように垂直磁場jを与えると、カプセル1b内の磁粉が垂直に配向する。このように、磁場により磁粉の配向が変化すると、MTシート1に明暗が生じる。
そこで、図6(a)、(b)に示すように、このMTシート1を調査対象部の鋼材20の表面に貼付け、磁化器21(図7の磁化器7と同じもの)で鋼材20を磁化させると、亀裂部には垂直磁場が残るので、亀裂20aがMTシート1上に線状に明示され、亀裂20aを検知観察することができる。MTシート1は、その黒色インキ1c側を鋼材20に貼り付けて、柔軟な透明シート1a側から観察、記録する。
【0016】
上記磁化器21の具体的装置構成を図7および図8に示しており、図示の点検ユニット10は、本体フレーム8と、本体フレーム8の両端に取付けられた一対のアーム4a、4bと、各アーム4a、4bの先端にそれぞれ連結されている、磁極機能を有すユニバーサルヨーク5a、5bと、電源コード6より成る磁化器7と、本体フレーム8に設置され、調査対象部を撮影するカメラ(例えばディジタルカメラなど)2と、調査対象部の断面形状を検出するスリット光投光器(レーザセンサ)3と、本体フレーム8に固定され、携帯するための取手9などで構成されている。
本体フレーム8は四辺形であり、その一辺の中央部にカメラ2が、その対向辺の中央部にスリット光投光器3が、その対向辺の両端部にそれぞれアーム4a、4bが、設けられている。また、カメラ2とスリット光投光器3とは本体フレーム8に、所定の傾斜角度θとなるように固定されている。アーム4a、4bは軸4cによりユニバーサルヨーク5a、5bに傾転可能に連結されている。
調査対象部である溶接部41aを跨ぐように点検ユニット10を設置すると、溶接部41aの正対位置(上向き姿勢の図8では直下位置、逆に下向き姿勢の場合には、直上位置)にカメラ2が位置し、また、溶接部41aの溶接線に正対してその傾斜方向位置にスリット光投光器3が位置する。
【0017】
磁化器7は、ユニバーサルヨーク(磁極)5aと5bとを、アーム4a、本体フレーム8およびアーム4bを経由して配線された電磁コイル(図示せず)で連結された構成で、ユニバーサルヨーク5a、5b先端(磁極)を対象鋼面に押付け、調査対象部を磁化することができる。この場合、各磁極は、ユニバーサルヨーク5a、5bと一体化されているので、いかなる鋼面の傾きにも対応できる。
カメラ2は、図8に示すように、ユニバーサルヨーク5a、5bの略幅方向中心を結ぶ線にカメラ視野を合わせて設置してあり、スリット光投光器3は、レーザスリット光の光軸3aを同様に、ユニバーサルヨーク5aの略幅方向中心に合わせると共に、この光軸3aが、カメラ2の視野中心2aと所定の傾斜角θとなるように設置している。
この配置を採ることにより、図9(a)、(b)に示すように、例えば、鋼板41の溶接部41aを調査する場合に、溶接部41aの断面形状画像を画像データとして検出することができる。
また、上記傾斜角θは、要するに、溶接部41aの溶接線方向に対して傾斜する角度であり、図8、図9(a)に示すように、溶接部41aの溶接線に対してスリット光幅を直交して、傾斜角θの角度方向から照射し、その状態でカメラ2により撮像すれば、溶接部41aの断面形状画像を得ることができる。
また、本点検ユニット10は、携帯可能に構成されており、点検員が、足場14上から取手9を使って磁化作業、画像撮影等の諸作業を行うことができる。
【0018】
以上のように、本亀裂調査装置(点検ユニット10)は、調査対象部上にアーム4a、4bが跨るように設置し、カメラ2により調査対象部を撮影すれば、調査対象部の外観画像およびMTシート1に現れた表面亀裂状態を画像記録できると共に、スリット光投光器3よりスリット光を投射した状態でカメラ2により撮像することで、調査対象部の断面形状画像を記録でき、MTシート1による磁気探傷検査を効率よく行うことができる。
また、本点検ユニット10は、スリット光投光器3がカメラ2の視野中心に対し、所定の傾斜角θで固定されているので、多数の調査対象部の断面形状画像が、常に所定の傾斜角度条件で得ることができ、得られる複数の断面形状画像がムラのない均一品質のものとなり、正確な磁気探傷検査を行うことができる。
なお、図8において、アーム4a、4bを本体フレーム8のカメラ2側の設置辺に設置してもよい。
【0019】
図10(a)〜(c)は、本亀裂調査装置によって検出し得る検査データ(画像データ)を示す。以下、この画像データに従って、橋梁の鋼板41の溶接部41a(図1〜図9参照方)に対する亀裂調査方法を次に説明する。
点検ユニット10を調査対象部である溶接部41aにセットしてカメラ2により、溶接部41aの調査前の現状を撮影して外観画像(a)を取得する。次に、スリット光投光器3のスリット光を、所定角度をつけて溶接部41aへ照射し、その状態でカメラ2により溶接部周辺(スリット光照射部)を撮影し、溶接部41aの断面形状画像(c)を取得する。
次に、上記溶接部41aの上面にMTシート1を貼付し、磁化器7に通電して調査対象である溶接部41a付近を磁化させる。すると、溶接部41aに存在する亀裂41bがMTシート1上に現出されるので、この亀裂41bをカメラ2により撮影して欠陥画像(b)を取得する。この各画像データの取得作業は、MTシート1の貼付位置をずらしながら、鋼床版46の全長に亘って順次行う。
こうして得られた外観画像(a)、欠陥画像(b)および断面形状画像(c)の各画像データは、ケーブル13aを介して、点検員が所持する携帯型のパソコン12へ逐次送られ、ここで記録、保存される。
これらの各画像データはまた、逐次、点検員が所持する視覚装置11へ伝送されており、点検員はその場で調査部の現状確認(亀裂の有無、形状、位置等の確認)を行うことができる。
上記の亀裂調査方法は、調査対象部の外観画像(a)と、その断面形状画像(c)、および表面亀裂画像である欠陥画像bを記録するものであり、それら各画像を記録しておくことで、欠陥の修理対応の緊急度や修理要否の判定を正確に検討でき、鋼構造物の安全性が確保できる。
【0020】
なお、この後、上述の各画像データを用いて合成画像が作成されて保存され、また、必要に応じてインターネットを利用して関係機関へ配信することができる。配信を行えば、調査結果および欠陥修理対応などを必要とする場合での、関係機関への連絡をリアルタイムに行うことができ、安全対策上も好ましい。
このように、本亀裂調査方法および亀裂調査装置によると、調査対象部にMTシート1を貼付し、調査対象部を磁化して溶接部41aに存在する亀裂41bをMTシート1上に現出させ、検出された亀裂41bの状況をカメラ2で撮影し、また、スリット光投光器3より溶接部41aへレーザスリット光を照射してその断面形状をカメラ2で撮影し、これらの撮影データおよび調査前に撮影した溶接部41aの外観画像データを、それぞれ携帯型のパソコン12へ送って記録し、また、点検者の所持する視覚装置11へ送って、点検者の現状把握に供することができる。
かくして、調査対象部に多少の汚れや塗装層があっても、従来方法のように、点検者の知識と経験に頼ることなく、現状のまま速やかに、正確な調査データを得ることができ、したがって、現場での調査作業の効率が向上し、取得データの品質が向上するなどの効果がある。
【実施例2】
【0021】
図11は本発明の実施例2に係る合成画像の作成手順を示す説明図であり、以下本図に基づき説明する。
本発明の実施例2は、実施例1で取得された画像データの処理方法および利用方法に関する。点検ユニット10を用いて取得された調査対象部(溶接部41a)の外観画像(a)、欠陥画像(b)および断面形状画像(c)の各画像データは、この後、パソコン12(図1参照方)へ送られ、パソコン12の画像処理ソフトによって画像処理され、各画像を重ね合わせて合成画像(d)が作成される。この合成画像(d)に、溶接部41aの形状寸法(幅w、高さh等)および調査位置を表す場所符号(例えばA−1、A−2等)や、調査日時や、場合によっては点検員の判断結果(問題なし○、補修要×、1年後再検要△)などの調査対象部情報を明示して合成記録画像(e)が作成され、記録される。
この亀裂調査方法によれば、調査対象部の外観画像(a)上に、欠陥画像(b)および断面形状画像(c)の画像データ(検査データ)が合成画像(d)として記録でき、また、合成記録画像(e)により調査対象部が明確に特定できるので、検査データの把握、検討評価を容易に行うことができる。
こうして作成、記録された合成記録画像(e)は、逐次、現場点検者の所持する視覚装置11へ送られ、点検者の調査対象部の現状把握、亀裂評価および原因推定のデータに供することができ、また、必要に応じてインターネット22を通じて遠隔地の関係機関23へ配信され、専門家による詳細な検討データに供することができる。そのようにすれば、調査結果および欠陥修理対応などを必要とする場合での、関係機関への連絡をリアルタイムで行うことができる。
このように、パソコン12に記録された合成記録画像(e)によって、調査部位置と調査部形状、亀裂状態などとを関連付けて、即座にかつ正確に現場点検者または遠隔地の専門家へ伝達されるようになり、補修工事等の今後の対応策を検討する際に、速やかに適正かつ有効な判断を下すことができるなどの効果がある。
【実施例3】
【0022】
本発明に係る実施例3を図12および図13に基づき説明する。図12は取得した画像データの記録方法の説明図、図13は画像データの他の記録方法の説明図である。
本発明の実施例3は、上記実施例1および実施例2で取得された画像データを、より利用し易くするための保存方法に関する。
図12は、調査対象(例えば橋梁40の鋼床版46)の設計図面を利用した保存方法を示す。まず、調査対象部の斜視図(a)または平面図(b)などを、スキャナー24などを用いて予め、パソコン12に保存しておく。そして、点検場所(現場)においてこの図面データを呼び出し、実施例1および実施例2に記載した方法により取得した外観画像(a)、欠陥画像(b)、断面形状画像(c)、合成画像(d)、合成記録画像(e)等の各画像データを、上記図面データ上のマウスmで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存するものである。
このように、各画像データ(a)〜(e)を、別途作成した図面データまたは写真データ上の位置と関連付けて入力して保存すれば、点検者または関係専門家は、図面データ上または写真データ上の位置をマウスmで指示するだけで、直ちに関連するすべての検査画像データを呼び出すことができる。
また、図13は調査対象の写真画像を利用した保存方法を示したものであり、調査対象部を現場撮影した写真画像(a)を、予め、パソコン12に保存しておく。そして、上記同様、点検場所(現場)において、写真画像(a)の写真データを呼び出し、点検場所(現場)で取得した各調査画像データ(a)〜(e)を、写真データ上のマウスmで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存するものである。また、これらの各保存データは、インターネットを通じて関係機関へ送ることができ、送信することにより、調査結果および欠陥修理対応などを必要とする場合での、関係機関への連絡をリアルタイムで行うことができる。
【0023】
なお、表面亀裂画像(図10や図11中の欠陥画像b)の検査データを、予め調査対象である鋼構造物の写真画面(図13中の写真画像a)を保存しているパソコンへ伝送し、画像処理して合成画像を作成し、この合成画像に、点検員が調査対象部情報(調査対象部の形状寸法および調査位置を表す場所符号や、調査日時や、点検員の判断結果など)を明記して記録してもよい。
この記録方法によれば、磁気探傷検査で得られた表面亀裂画像の検査データが、調査対象である鋼構造物の写真画面との合成画像として記録されているので、多数の調査対象部を含めた鋼構造物全体の検査データが一見して把握でき、欠陥修理などの対応策および修理工法などの検討が迅速容易に行い得る。また、合成画像に調査対象部情報を入力しているので、検査データの取り違えが防止でき、確実、正確に、上記対応修理を行うことができる。
更に、表面亀裂画像(図10や図11中の欠陥画像b)の検査データを、パソコンに予め保存しておいた調査対象である鋼構造物の設計図面(図12中の図面a、b)上又は写真画面(図13中の写真画像a)上の該当位置に、点検員が順次入力し、保存記録するようにしてもよい。
この記録方法によれば、調査対象である鋼構造物の設計図面上又は写真画面上に、磁気探傷検査で得られた表面亀裂画像の検査データが正確に、一見して把握できるように入力でき、欠陥修理などの対応検討を迅速容易に行うことができる。
かくして、正確かつ豊富な調査データによって直ちに詳細な対応策の検討が可能となり、適正かつ有効な判断を下すことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1に係る鋼構造物の亀裂調査方法の全体説明図である。
【図2】図2は図1の点検ユニット部分の説明図である。
【図3】(a)は図2における磁気シート(MTシート)貼付状態を説明する側面図、(b)は(a)の正面図である。
【図4】図3の磁気シートの断面構成図である。
【図5】(a)は本発明の実施例1に用いる磁気シートの水平磁場負荷時での作用説明図、(b)は同左の垂直磁場負荷時での作用説明図である。
【図6】(a)は本発明の実施例1に用いる磁気シートの使用方法を説明する正面図、(b)は(a)の平面図である。
【図7】本発明の実施例1に係る亀裂調査装置(点検ユニット)の正面図である。
【図8】図8は図7の側面図である。
【図9】図9の(a)は本発明の実施例1に係る調査対象部の断面形状検出方法を説明する斜視図、(b)は(a)で得られた断面形状画像である。
【図10】本発明の実施例1に係る調査データの作成手順を示す説明図である。
【図11】本発明の実施例2に係る合成画像の作成手順を示す説明図である。
【図12】本発明の実施例3に係る画像データの図面への記録方法を示す説明図である。
【図13】本発明の実施例3に係る画像データの写真への記録方法を示す説明図である。
【図14】(a)は河川などの両岸に差し渡された一般的な橋梁40の側面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図、(c)は(b)のB部の斜視図である。
【図15】従来の鋼構造物の表面亀裂の調査方法を説明する正面図である。
【図16】図15の表面亀裂部を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0025】
1 MTシート(磁気シート)
2 カメラ
2a 視野中心
3 スリット光投光器
3a 光軸
4a、4b アーム
5a、5b ユニバーサルヨーク
7 磁化器
8 本体フレーム
9 取手
10 点検ユニット(亀裂調査装置)
11 視覚装置
12 パソコン
θ 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調査対象部を正対するカメラにより撮像し、外観画像を記録する工程と、調査対象部に対し、スリット光投光器を、その光軸が、上記カメラの視野中心と所定の傾斜角となるように設置し、スリット光投光器よりスリット光を投射してカメラにより撮像し、調査対象部の断面形状画像を記録する工程と、磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、調査対象部を磁化させて、磁粉の配向を変化させ、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像し、表面亀裂画像を記録する工程と、よりなることを特徴とする鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項2】
調査対象部の、上記外観画像、上記断面形状画像および上記表面亀裂画像の各検査データを、パソコンへ伝送し、画像処理して合成画像を作成し、この合成画像に、調査対象部情報を明記して記録することを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項3】
上記合成画像データを点検者用視覚装置へ送って現状確認データに供すると共に、必要に応じてインターネットを介して関係機関へ伝送することを特徴とする請求項2に記載の鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項4】
調査対象である鋼構造物の設計図面を、予めパソコンに保存しておき、この図面データを現場で呼び出し、上記各検査データを、図面データ上のマウスで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存することを特徴とする請求項2に記載の鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項5】
調査対象部である鋼構造物の写真画面を、予めパソコンに保存しておき、この写真データを点検場所で呼び出し、上記各検査データを、写真データ上のマウスで指示した位置に関連付けて順次入力し、保存することを特徴とする請求項2に記載の鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項6】
本体フレームと、同本体フレームに取付けられている一対のアームと、同アームの先端にそれぞれ連結されている磁極機能を有すユニバーサルヨークと、同ユニバーサルヨーク相互を、電磁コイルで接続して成る磁化器と、上記本体フレームに設置されている、調査対象部を撮影するカメラ及び同調査対象部の断面形状を検出するためのスリット光を投射するスリット光投光器とを備えたことを特徴とする鋼構造物の亀裂調査装置。
【請求項7】
上記スリット光投光器は、その光軸が、上記カメラの視野中心と所定の傾斜角を付けて設置されていることを特徴とする請求項6に記載の鋼構造物の亀裂調査装置。
【請求項8】
磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、同調査対象部を磁化させて、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像して表面亀裂画像を取得し、同表面亀裂画像の検査データを、予め調査対象である鋼構造物の写真画面を保存しているパソコンへ伝送し、画像処理して合成画像を作成し、この合成画像に、調査対象部情報を明記して記録することを特徴とする鋼構造物の亀裂調査方法。
【請求項9】
磁粉を内在し、透明シートに覆われた磁気シートを、調査対象部の表面に貼付した後、同調査対象部を磁化させて、その際に磁気シート表面に生ずる明暗の状態をカメラにより撮像して表面亀裂画像を取得し、同表面亀裂画像の検査データを、パソコンに予め保存しておいた調査対象である鋼構造物の設計図面上又は写真画面上の該当位置に順次入力し、保存することを特徴とする鋼構造物の亀裂調査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−300709(P2006−300709A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122312(P2005−122312)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】